私達は…
「忠誠」という、唯一無二の魂のみに生かされてきた。
だから、主君の意志が我々の総意であるし、主の存在こそが総てなのだ。
「護衛軍」は、忠誠を主軸にして形成された、王のみの為に存在する、蟻の組織。
だから、王とそれに準じる存在。(いまや、寵妃ともいえる立場のコムギとお二人の御子様)を守護し、仕え続ける為に存在する。
王が、我々を「不快、不要」と判断すれば、私たちは一切の躊躇もなく、自害を選択する。
それほどに、王は私たち護衛軍にとって、重要なお方である。
そして、それ以外の存在についてはあくまで希薄なのであった。
なのに…どうして?
(殺されるのがボクでよかった)
もう、霞のような淡い意識。
それが、私に届いた時、どうしようもない絶望が広がって、哀しくて苦しくてたまらなくなった。
最初から、決めていたことじゃない。
ピトーも私も、王とコムギと御子様さえ、お護りできるなら、自分達の命など…って覚悟の上でのことよ。
なのに…喪ってしまったことが哀しい。
もう2度と半身に会えない。
おかしいよ?なんで?
ピトーが戦った相手はたかが、人間でしょ? 人間があの
ピトーに勝てるわけないのに。
駒の並びが狂っている。
対局は、私達「蟻」側の勝利で確定のはずなのに…
なんでよ?
こんなはずじゃない。
「黒子舞想」の影を感じる。
まさか…ピトーの全力でも、人間の敵を殺せなかった?
そんなこと…
黒子舞想には、命の影が感じられない。
ああ、ピトーは本当にもういないんだ。
ガラガラと築いてきた世界や、これから迎えるはずの未来の形も崩れる音がして、私はもう、何も考えられなくなっていた。
私はここで、消える。
御子様が胎から出るときには、細胞としての私も消えるのだから。
それはいいのよ。
ただ、ピトーは生き残れると思っていた。
だって、あんなに強いのに。
他の護衛軍は?
王は?
不安だけが募る中、突然、異変は起きた。
胎内の御子様が急激に、私の細胞を吸収し始めた。
(待って!?コムギまだ目覚めてない!)
おそらく、母体の回復を受けて御子様のエネルギーも大幅に増幅したのだろう。
私の細胞、すべてを吸収し、なんなら、胎を喰い破って外界へと…
それ程の勢いを感じる。
私が消えるのは、いいんだけど、コムギは駄目ーっ!
王がどれ程、悲しまれるか…
もう、考えただけで胸が張り裂けるような心地だ。
駄目駄目!でも、もうすごい勢いで細胞が吸収されていってて、私自身も消失間近だ。
でも、単なる細胞の私には、もう為すすべがない。
ピトーが命を賭して…その身を犠牲にして、忠誠を形にしたのに?
私はこのまま、なにもできないの?
そんなの…悲しいし、悔しすぎるよ。
護りたいのに…
もう、本当に総てが消える。その直前に感じたのは、プフの気配だった。
そして、今にも破られそうになっていた胎が柔かい光の壁に包まれて、補強されていた。
(…あれ?)
なんだろう。プフに近いんだけど、プフじゃない?
っていうか、知らない蟻?
ん?なんか、人間の気配もする?
何なの?誰よ?どういう存在?
ここに来て、完全に意味不明の存在に直面し、駒の運びはまた、予想外の動きを見せるのだった。
(誰?)
(パームよ)
パーム?そんな名前の蟻いたかな?
(安心して敵じゃないわ)
(ねぇ、人間、蟻?どっちなの?)
(蟻でもあるわね)
どこか、憂いのある疲れたような声。
でも、その言葉に悪意や敵意は全くなかった。
(どうして、私の存在がわかるの?)
もう、消失寸前の細胞で、目視では確認できないのに。
何故、私の存在を見つけたの?
(色々、ききたいことがあるみたいだけど…もう時間があまりないのよ。ただ、誤解しないでほしいの。私は、救いたくてここにいる。その為には、貴女の協力が必要なの)
まるで、私が視えているかのように、語りかけてくる。
(死を覚悟で…蟻に接触したわ。まさか、こんな姿で…こんな形で生き延びることになるなんて、予想していなかったのだけど…でも、だからこそ、わかったこともあるのよ)
どこまでも、疲れていて、何かに葛藤している様子が伝わってくる。
(…貴女方の王がどういう存在かも解るのよ。私も会ったもの。この決断が…本当に正しいのか、わからない。でも、貴女が許可をしてくれるなら、必ず救えるの、母も子も)
(コムギも御子様も?)
(ええ。只、こちら、すなわち人間の医療の力の介入をゆるして。それが必要不可欠なの)
(人間の!?)
(母体は人間だわ。必ず、救うから信じて)
人間に、キメラアントの血をひく
子供の出産を託せる!?
不安でしかないよ。
けれども、その時、また御子様が胎内で大きく動く気配があって…
私はもう時間がないと察した。
(…わかった。信じる。信じるから…パーム。本当にお願いね)
(まかせて。信じてね)
意識が途切れる。
ああ、どうか光溢れる世界に2人が護られますように。
それが、私の願いよ。
どうか、どうか!
あと2話くらいで完結するので、最後まで読んで頂けると嬉しいです