HUNTER幻想曲   作:akiko

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戯れと執着

コムギの軍儀の才は、本当に天井知らずだ。

財力も、美貌も、視力さえ持たずに生まれてきたというのに…

「才能」だけで命を永らえている。

 

 

今まで、王の「與儀」の相手として、何匹の有力な人間がここに連れてこられてきた?

 

そして生き残れた人間の数は?

 

雌雄問わず、0だ。

王との勝負、敗北者には「死」。

だいたいの者がその日のうちに命を落としていた。

王は、「こんなものでは、退屈しのぎにもならぬ」と、非常につまらなさそうだった。

長く生きれたもので、3日。

が、3日目には、王は相手の力の程度や戦法など全て読みとってしまい、勝負はあっけなく、ついてしまう。

この世のどんな生命体より、一番に強く、聡明な王には、ちっぽけな人間の稚拙な戦略など通じるはずないのだ。

 

 

なのに…コムギは生き永らえている。

この、王を前にして。

 

「コムギをここに」

「承知致しました」

 

王の声に、深々と平伏して、わたしはすぐさま、コムギの部屋に向かった。

 

 

信じられないことに、コムギの部屋はこの、王の居城の中にある。

師団長達の住まいだって、この城の中ではなく、程近くの別棟なのに、たかが人間が、王と同じ屋根の下に暮らすことになるなど、誰もが予想していなかったことだろう。

コムギは、一介の人間でありながら、破格の特別扱いだ。

 

最近では、「選別」についても簡易的な指示を護衛軍に下すだけ。

それに従って、わたしたちは動いている。

王は、軍儀においても、素晴らしい手腕を発揮していらっしゃるが、未だにコムギに一勝もできていない。

それは、私たち、蟻にとって不測の事態で、戸惑いと焦燥が護衛軍の間に広がっていた。

 

 

昨夜も…「ー無い。詰みだ!」

碁盤を睨みながら、王は苛立ちを隠せぬお声で、敗北を認めていた。

その様子を間近で見ていたプフは、剣呑な目でコムギを見ていた。

早々に、コムギをさがらせ、自身も王の部屋から退出したプフだったが、コムギに対して苛立って仕方ないようだった。

だけど、王は城の中にコムギの部屋を用意している。

その事実が王にとってのコムギの立ち位置というものを物語っているのだ。

その事実の意味を、痛感して、プフは苦悩に顔を歪める。

 

「…全く」

 

昨夜、コムギを部屋へ送ったあと、プフは俯いたまま、それだけ呟いていた。

その一言には、焦燥の色が濃く滲んでいた。

私はなんともいえない気持ちで、そんなプフの背中を眺めていた。

 

「また、王が軍儀を…とご所望ですよ」

扉の前に立つコムギに声をかける。

 

たかが、人間とはいえ、今やコムギは王の「客人」みたいなものなので、適当な扱いはできない。

コムギに敬語で話しかけるのって、慣れないけど、仕方ない。

「はいなっ!」

コムギは、相変わらず、鼻声で…だけど、やたら大きな声で返事をした。

 

で、コムギに肩を貸して王の部屋までお連れする。

 

「…失礼致します。連れてまいりました。」

「…入れ」

 

王の入室の許可を得てから、わたしたちは部屋に入った。

 

 

コムギを碁盤の前まで連れていく。

コムギは、小さな円座の上にいそいそと腰をおろすと、「…総帥様、本日もお呼び頂いてありがとうございます」と、たどたどしい口調で述べながら、額を低く低くしていった。

 

 

「…では、わたくしはこれにて失礼致します」

 

わたしは、二人の対局の邪魔にならないように、部屋を退室することにした。

私も額を床につけ、平伏の姿勢を保ったまま、膝を使ってずりずりといざるようにして、後ろにさがっていく。これが一番、失礼のない姿勢なのだ。

 

でも、その途中で。

「待て」

と王からお声がかかった。

 

「はっ」

私は頭を低くしたまま、王の次のお言葉を待った。

「勝負には、いかなる場合も不正があってはならぬ。余とコムギの対局を第三者であるお前がしかと見届けよ」

「はっ。仰せのままに」

王のお言葉に、応えつつも、胸に一つ疑問が浮かぶ。

 

(王もコムギも不正をはたらくタイプには思えないけど…)

 

生物としての力の差はあきらかだ。

コムギなど、王の足元にも及ばない非力な存在なのに。

けれども、二人共軍儀に臨む姿勢は、どこまでもまっすぐで真摯で真剣。

 

ちっぽけなコムギを嫌いになりきれないのは、人間の頃からの付き合いがあるからっていうのもあるけど、この馬鹿みたいに真面目な軍儀への情熱に、ある意味、呆れというか、感心というかそういう感情を抱いてしまっているのかもしれない。才能一つ…。

それだけで

王に目をかけて頂けるのは、本当に羨ましくはあるんだけど…

 

 

その日の対局は、いつも以上に白熱していた。

王の勝利に対する気迫。

それはもう、尋常ならざるもので、場の空気を支配していた。

執念ともいってもいい。

かつてない程の見事な駒の運びで、コムギを追いつめていく。

 

 

「5ー5ー1

中将」

王の打ち出した手に私は思わず、

息をのんだ。

その手、見たことある。

 

 

コムギの盲いた瞳に、一瞬だけ、迷いと戸惑いの色が滲む。

 

「9ー2ー1中将新」

 

コムギの駒の運びには一切の迷いはなかった。

 

恐ろしい程の静寂が場を支配する。

が、それも一瞬で…

「詰みだ」

王の厳かなお声が響きわたったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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