ロッポンドーヒルズの騒動の次の日。ショウ達はルナの家に集まっていた。
「本題に入る前に、みんな……特にショウとスバルくんに伝えなきゃいけないことがあります」
ナツヒはショウ達にそう告げると、一呼吸おいて告げた。
「私が持っていたバトルカードが全部、あのハイドという変態に盗られたままです」
その言葉にスバルと同じくバトルカードを盗られたままのルナは首を傾げ、ショウはその意味を理解してか表情を引き攣らせていた。
「なあ、ナツヒ。まさかとは思うが……」
「お察しの通りよ。私が作ったバトルカードも盗られちゃったのよ。それも全部」
「マジか……」
ナツヒのその言葉で、ショウは頭痛を覚えたように頭を抱えた。
ナツヒは自力でバトルカードを作成できるほど、高い技術力を持っている。申請や審査などの諸々の理由から売り物にできるかどうかは不明だが、強いバトルカードであることには違いがないのだ。
「……ナツヒさんはバトルカードを作れるんですか?」
「うん。趣味で作っているんだけどね」
ルナの質問にナツヒはそう返すと、エア・ディスプレイ画面を表示する。その画面にはナツヒがこれまで作ったバトルカードのデータが表示されていた。
「【リフレクトシールド】に【イアイフォーム】……初めて見る名称ばかりですね」
「【ヴァリアントソード】に【サンクチュアリ】まで盗られているのかよ……」
初めて見るバトルカードにスバルは覗き込むように見つめ、ショウは厄介なバトルカードも取られたと知って再度うんざりする。
「失礼を承知で言いますけど、本当に使えるのですか?性能が尖っているというか……」
「普通に使えば、非常に使いづらいのには間違いないね」
ルナの質問にナツヒは意味深な言葉で返す。その意味をショウは正しく理解していた。
「オレやスバルのように電波変換できる奴が使うと、大化けするってことか」
電波人間がバトルカードを使うと、攻撃だけでなく迎撃や牽制にも使うことができるし、タイミングも自由なのだ。
例えば【サンクチュアリ】は、電波ダメージを軽減するエリアを作り出すバトルカード【ホーリパネル】の完全上位版だ。軽減効果は同じだが、その範囲が【ホーリパネル】より格段に広いのだ。
当然、電波ウイルス自身もその恩恵を受けられるので、ウイルス退治も難しくなってしまう。しかし、電波人間がバトルカードや自前の攻撃で軽減エリアから追い出すのが容易な為、【オーラ】等のバトルカードと併用すれば更に恩恵が大きくなるのである。
「正解。
「……そのバトルカードの効果は?」
「一言で言い表すなら毒ね。それも周囲にガスを噴出させるタイプ」
「パネルの影響を受けなくする《フロート》は……」
「たぶん、無意味じゃないかな?」
タハハと苦笑いしながらナツヒが答えると、効果を確認したショウは頭を抱え、《フロート》は無意味と知ったスバルは引き攣った笑みを浮かべた。
何せ毒は触れるだけでダメージを与えるのだ。それは電波ウイルス相手でも代わらない。
そんなスバルとショウに、ナツヒはある事を提案した。
「そういうわけだから、この中から気になるバトルカードを言ってね。作成して二人にあげるから」
「え?いいんですか?」
「もちろん!とは言っても、データを書き込む為の【ブランクカード】の関係から、あまり多くは作れないけどね」
「なら、オリガたちが選ぶのが妥当だな」
ショウがそう言った瞬間、オリガがスターキャリアーから出てきて手元のエア・ディスプレイ画面を引ったくった。
「おいオリガ!いきなり引ったくるなよな!」
「別によかろう!ワレが選んでいる間に、貴様らは話を続けていろ!!」
オリガはショウにそう返すと、エア・ディスプレイ画面とにらめっこしていく。ウォーロックの方もいつの間にかオリガ同様にエア・ディスプレイ画面とにらめっこしている。タダで強力なバトルカードが手に入るから、当然かもしれないが。
「ねえ……今、画面が勝手に動いたわよね……?」
「?もしかして、ルナちゃんは知らないの?」
勝手に動いたエア・ディスプレイにルナが若干震える中、その反応を見たナツヒがスバルに問いかける。ショウもスバルに顔を向けると、スバルは困ったように笑みを浮かべていた。
「えーと……実は詳しくは……」
「なるほどね。マリアライズ、ゴーグル」
スバルの言い淀む様子から、ナツヒはある程度察してマテリアルウェーブのゴーグル《見え太郎》を展開する。
「ルナちゃん。これかけて、さっき動いたエア・ディスプレイを見てちょうだい」
「?」
ナツヒの指示にルナは首を傾げながらも、《見え太郎》をかけて件のエア・ディスプレイを見やる。その瞬間、ルナは驚いたように飛び跳ねた。
「な、ななな、何よこいつら!?珍獣!?オバケ!?」
「珍獣じゃねぇ!!」
「誰がオバケだ!!」
《見え太郎》によって電波体―――ウォーロックとオリガを初めてみたルナがそう叫ぶと、珍獣とオバケ扱いされた二体は噛み付くように声を上げる。ウォーロックとオリガの怒声に思わずビクッとする中、ナツヒが率先してルナに説明した。
「この子たちが、ショウとスバルくんに力を貸してくれている、電波体っていう生命体なのよ。そっちの青い子がスバルくんと一緒にいるウォーロックくんで、こっちの金の鎧がショウのところで居候しているオリガね。彼らのおかげで、二人はロックマンやオリガ・ジェネラルに変身できるのよ」
「は、はぁ……で、スバルくん?何でこの事を黙っていたのかしら?」
ナツヒの簡単な説明にルナは一先ず納得すると、隠し事同然でウォーロックのことを黙っていたスバルに鋭い視線を向ける。その視線を向けられたスバルは恐れを覚えたように背筋を正すと、一心不乱で謝り始めた。
「ご、ごめん委員長!ロックは普通の人には見えないし、声も聞こえないから……!」
完全に低姿勢でペコペコと謝るスバルの姿に毒気を抜かれたのか、ルナは怒気を収めて溜め息を吐いた。
「……まあ、いいわ。今回の件は特別に許してあげる」
「あ、ありがとうございます……」
「はは……」
敬語で感謝の言葉を伝えるスバルの姿に、ショウは思わず苦笑してしまう。
そうしてオリガとウォーロックがエア・ディスプレイとにらめっこする中、ショウ達は本題であった三人の捜索について話し始めた。
「三人のブラザーバンドが健在だから、生きてるのは間違いないんだけど……」
「連絡が一切ないんだよね……」
行方不明の三人―――ミソラ、ゴン太、キザマロとブラザーバンドを結んでいるルナとスバルの言葉に、ショウとナツヒは難しげな表情となる。
「ブラザーバンドでは正確な居場所が分からないのが痛いところだね……分かるのは精々、相手がいる方向だけだし」
ナツヒの溜め息混じりの言葉に、スバルとルナがガックリと肩を落とす。
ショウとナツヒは知らないが、スバルは以前、宇宙で遭難してしまったことがあったのだ。その時はブラザーバンドを利用して地球の方角を掴むことが出来たのだが、それは方角のみで距離も地点も不明のままだったのだ。
その経験があったからこそ、二人はひょっとしたらと思っただけに落胆してしまったのである。
「完全に手掛かりなしか……」
見事な手詰まりにショウ達は揃って頭を捻ってしまう。探そうにもその足掛かりすらない始末なのだ。そんなショウ達に、エア・ディスプレイ画面を凝視していたウォーロックが声を上げた。
「手掛かりならあるだろうが。あのソロとかって野郎を見つけて、締め上げりゃいいんだって!」
「……そのソロをどうやって見つけるの?」
「そもそもソイツも知らないと思うぞ」
「知ってたら、あの変態が私とルナちゃんのように人質として連れ出している筈だし」
「あなたもスバルくん同様、ヘッポコね」
ウォーロックが告げた自信満々の意見は、スバルとショウ、ナツヒによって秒で否定された。ルナに至ってはヘッポコの烙印を押される始末である。
今までの彼らのやり取りからして、ソロとハイドはオリヒメという人物を通じて繋がっている可能性が十分にある。なので三人の所在を知っていれば、あの自称脚本家がそれを利用しない筈がないのだ。
「…………」
「所詮は珍獣の浅知恵か」
「珍獣言うな、ポンコツジジィ!!」
「今すぐソコに直れ、珍獣!!」
「上等だ!!」
まさに売り言葉に買い言葉。互いの逆鱗に触れた電波体二名は、エア・ディスプレイ画面を放り投げて取っ組み合いの喧嘩を始めていく。
「お、落ち着いてロック!」
「止めんなスバル!今日という今日はもう我慢ならねぇ!!」
「オリガもここで喧嘩するな!」
「五月蝿い!この珍獣の若造に……!」
スバルとショウの静止を聞かずに暴れようとしたウォーロックとオリガであったが、悪寒を感じる程の怒気を感じて動きを止めてしまう。電波体二名は恐る恐るといった感じで怒気が発せられている方へと顔を向けると、怒りのオーラを発しているルナが仁王立ちするように睨んでいた。
「……あなた達。私の部屋で喧嘩とはいい度胸じゃない?」
「「…………」」
あまりの迫力を前に、ウォーロックとオリガは取っ組み合ったまま固まってしまう。心なしか《見え太郎》もビビって震えているように見える。
そんなウォーロックとオリガにルナは畏縮するほどの威圧感を放ちながら、彼らに向かって一歩踏み出した。
「「スミマセンデシタ」」
その瞬間、ウォーロックとオリガは綺麗に土下座した。それはもう見事なまでに。
「この小娘は一体何者なのだ?ワレでさえ屈する程の覇気を放つとは……」
「一言で言えば、誰も逆らえねぇ迫力があるってだけだ」
「何コソコソ話しているのかしら?」
「「いえ、何も」」
完全にルナに屈している電波体二名の姿に、ショウとスバルは互いに何とも言えない表情で見合わせている。
「……彼女、絶対に怒らせてはいけないタイプだな」
「うん。怒った委員長は誰も逆らえないんだよ」
すっかり打ち解けあっているショウとスバルだが、この状況をどうすれば打破できるのか頭を悩ませる。そんな状況を打ち破ったのは、同じ女性のナツヒであった。
「あ、そうだ。テレビのニュース番組で調べてみる?いきなり人が現れたなら、話題性がありそうだし」
「!その手があったわ!ナイスよナツヒさん!そうと決まれば善は急げよ!」
ルナはナツヒの提案に賛成すると、テレビがある居間の方へと駆け足で向かい始めていく。ショウたちも追いかけるように追従し、全員でテレビがある居間へと向かっていく。
「やってるかしら、ニュース番組……」
ルナはテレビのリモコンを操作してテレビの電源を入れる。映し出されたテレビ画面には、探検家のような服装をした男性が写っていた。
『……ペラペラペ~ラ、ペラペ~ラペラペラ』
「あら、これ外国の番組ね」
「え!?外国の番組が映るの!?」
「外にパラボラアンテナがあったからね。あれ、かなり高価だから一般家庭じゃお目に掛かれないのよ」
「屋上にあったあの大きなアンテナか。大体どれくらいなんだ?」
「安くて五万くらいかな?でも、あれかなり高性能だから、三十万は下らないかも」
「そ、そうなのか……」
パラボラアンテナのかなりの値段に対し、ショウは思わず顔を引き攣らせてしまう。その間にルナは、外国の番組に興奮するスバルに気を利かせてかテレビの自動翻訳機能をONにした。
『……あなたを神秘の世界へと誘う!『ミステリーワールド』!!世界中で起こった怪奇現象を一早く究明!今週は……ついに姿を見せた!【ドンブラー湖】の古代竜。その名もドッシー!!』
「……あ~」
自動翻訳機能によって番組名が分かった瞬間、ナツヒが白けた声を出した。こういったドキュメンタリー番組は興奮する筈のナツヒのその反応に、ショウは疑問を感じて話し掛けた。
「ナツヒ?なんでそんなに白けているんだ?こういうのはお前の大好物だろ?」
「……前に一度、この番組の映像を調べたことがあったのよ。そうしたら、映像に細工した箇所が幾つもあって……」
「なるほど。そりゃ確かに白けるな」
どうやってこの番組の映像を手に入れたのかという疑問が残るが、番組のインチキを見つけたからこそ、今回のもインチキの可能性が高いから興味がないということである。
「にしてもドッシーか……またUMAの一種が出てきたな」
「もしかしたら、ドッシーも電波体だったりして」
「……否定できないのが悲しいな」
ナツヒのその推測にショウはガックリと肩を落とす。何せオバケに雪男、ツノウサギの正体が電波体だったのだ。なのでドッシーも彼らと同じ電波体の可能性が否定できなくなっているのである。
「おい、ジジィ。このドッシーとやらのような姿をした電波体は本当にいるのか?」
ウォーロックがテレビに写っているドッシーの予想図を指でトントンと叩いて確認すると、ドッシーの予想図を一瞥したオリガは顔を背けて黙りを決め込んでいた。
「……この反応、いるな」
「いるね」
「いますね」
「いるわね」
ドッシー電波体説が図らずも濃厚となり、ショウ達は何とも言えない気持ちとなる。そんな中、テレビからまさかの声が発せられた。
『ボクは見たんです!湖を悠然と泳ぐ巨大な影を……!』
テレビからその声が発せられた途端、ショウ達は驚いてテレビ画面へと一斉に視線を向ける。そのテレビ画面には……行方不明であったキザマロの姿が写っていた。
「キザマロ……!?」
「これ、キザマロくんだよね!?」
「うん、間違いない!キザマロだよ!!」
「無事だったんだな……!」
テレビ番組のインタビューに堂々と応じているキザマロの元気な姿に、ショウ達は一斉に安堵の表情を浮かべる。友達の一人が無事であったことに和やかな雰囲気になりかけるも……
「でも、何で連絡しなかったんだろ?どう見てもピンピンしてるよね?」
ナツヒの疑問によって一瞬で空気が凍った。厳密には、一番怒らせてはいけない人物を中心とした空気が。
「……確かにそうね。あの子、私たちには連絡の一つも寄越さず、ノウノウとこんな番組に出てるなんて……」
その人物―――ルナの妙に淡々とした声にスバルはもちろん、ショウとナツヒも一歩後退りしてしまう。電波体二名はもう言わずもがなである。
「なあ、スバル。これって爆発寸前?」
「た、たぶん……それも普段の癇癪よりマズイ方かと……」
ショウの質問にスバルは顔を若干青くしながら頷いていると、ルナは我慢の限界が来たのか、活火山のように怒りを爆発させた。
「き~~~~~!!ぜっっったいに、許せないわ!!!ソッチが帰ってくる気がないなら、コッチから迎えに行って無理にでも連れ帰ってやるんだから!!!」
怒りを露に叫ぶルナの姿に、ショウとスバルは心の中で合掌する。この先遭遇するであろうキザマロの生き地獄に。
「そうと決まればグズグズしてられないわね!さっそくドンブラー湖へ向かうわよ!!で、ドンブラー湖はどこにあるの!?」
「親の都合であちこちの外国に行ったことがあるから、ドンブラー湖はアメロッパにあるんだけど……」
ルナの質問にナツヒが困ったようにドンブラー湖がアメロッパにあることを伝えつつ、ショウの方へと顔を向けた。
「ショウは確か、パスポート持ってなかったよね?」
「……持ってないです」
ショウのその言葉にナツヒはそうだよね~、とタハハと笑みを浮かべる。
そう。外国に行くには身分証となるパスポートは必須。しかも申請しても様々な手続きによって発行まで一ヶ月はかかるのだ。しかも国際的な問題もあることから、キズナ力の恩恵の対象外に分類されている為、時間短縮も不可能なのである。
「な、何ですって!?はっ!?まさかスバルくんも……!?」
「……海外には一度も行ったことがないので、持ってないです……」
「き~~~!使えない男たちね!!」
ショウだけでなくスバルもパスポートがないという事実に、ルナが二人を睨み付けながら罵倒する。悲しいことに反論の余地がない為、男二名は揃って正座してお叱りを受ける始末である。
その事態に対し、聞き耳を立てていたオリガは首を傾げていた。
「そのパスポート?とやらがないと何故其処へ行けぬのだ?」
「住んでいる場所の関係かな?外から来る人物に対し、安全の為に身分を保証できないと関所を通さない的な?」
「なら、その関所とやらを無視して行けば良いのではないか?」
「おバカ!そんなことしたら、職員に見つかって一発でアウトよ!!」
オリガのその言葉に、ルナが真っ当な意見で否定する。そもそもセキュリティが万全な為、隠れようがコソコソしようがすぐに見つかるのがオチだからだ。
「なら、ソイツらに絶対に見つからないルートで外国に行ければいいんだよな?」
「……ウォーロックくん。本当はそういう問題じゃないんだよ?」
ウォーロックの妙に自信満々な言葉に、意図を察したナツヒが頭痛を堪えるような仕草をする。ショウは一瞬首を傾げたが、未だに流れているキザマロが写っているテレビを見てすぐに察した。
「まさか電波伝いで……」
「ああ。電波変換して、外にあるパラボラアンテナの電波を利用すれば、外国に行けんだろ?」
ウォーロックの言葉通り、電波変換してパラボラアンテナ経由で電波の道を進めば目的のドンブラー湖へ迎える可能性は高いだろう。不法入国に代わりないことを除けば、だが。
「背に腹は変えられない、か……」
「うん……委員長とナツヒさんだけを外国に行かせるわけにはいかないから……」
ナツヒたちの身の安全と天秤に掛け、ショウとスバルは電波経由の不法入国を決断するのであった。
――――――
その日の夜。
「……ふむ。このスター・アドバンスとやらは中々に興味深いな」
「どうやら三枚のバトルカードを組み合わせることで、ギガクラスに匹敵するカードへと変化するようです」
「この力、我々も利用させてもらうとしよう。幸い、お前が持ってきたデータがあるからな」
【イアイフォーム】:発動中は動きが止まり、カウンターが成功すると倍のダメージを与えられる。元ネタはエグゼ2、3の【イアイフォーム】。
【リフレクトシールド】:相手の攻撃を衝撃波として反射するシールドを展開する。元ネタはエグゼ6の【リフレクトメット】。
【ヴァリアントソード】:周波数を調整することで放たれる斬撃が変化する。元ネタはエグゼ2以降の【バリアブルソード】。
【ポイズンアヌビス】:アヌビス像を設置し、周囲一帯に電波の毒ガスを放つ。元ネタはエグゼの【ポイズンアヌビス】。