sideイブ
「イブ、早くしなさい。遅れるわよ」
ノエルの言葉に時計を確認すると本当に時間が無い。
今日はこれからお仕事が入っている。
日本ではアメリカ、フランスと比べて仕事数は少ないけれどそれでもお母さんやお父さんの名前もあって仕事がなくなることはない。
私もノエルも、前は親の七光りみたいで嫌だったけど、最近はそれでもいいと思っている。
初めは親の名前からでも私たちに注目してくれたことは変わらない。
その機会を無駄にしないで私たちの魅力をアピールしさえすればいい。
朝のニュース番組への生出演。
そこで明日から上映される映画の番宣を担当する。
アメリカで上映された私とノエル、お母さんが主演の作品。
私たちは本番は英語で演技をしていたけど、日本での上映が決まった時に自分たちで日本語に吹き替えをした。
お母さんの病気を治すために私とノエルが医者になる話で、見どころはお母さんが演じたジェシカの過去回想のシーン。
あそこは演じていた私達でさえ引き込まれるようなシーン。
いつかあんな演技ができるようになりたいな。
テレビ局について、登場のタイミングや台本の確認などを済ませ、その後は問題なく番宣をこなした。
ノエルがMCの方に気に入られてテンポのいい会話が続く。
レギュラーの方々はもちろん、私達も生放送での時間管理には慣れているので最後まできっちり締めることが出来た。
やっぱりこういうのは私よりノエルの方がうまいな。
時間の管理はノエルの方が正確にできる。
それを羨ましいと思いながらも自分に出来る精一杯を続けている。
午後は授業があるので教室に入った。
昨日のようなレッスンは、クラスの中で半分ずつ別の部屋で行われるので、まだ顔と名前が一致していない人が多い。
昨日仲良くなったいちごちゃんとあおいちゃんに、午前の授業内容を書き留めたノートを見せてもらっていると、不意に教室の後ろに見知った顔を見つけた。
「ノエル、あれ蘭だよね?」
「蘭…だわ。声をかけに行きましょうか」
そう言って立ち上がったノエルの後ろに私もついて行く。
歩いていく前にいちごちゃん達には断りを入れておいた。
蘭というのは私たちが子供の頃、日本でお仕事した時に仲良くなった女の子。
将来モデルになりたいと言って、練習のために私たちを振り回したりしていた可愛い子。
すぐに蘭の前にたどり着き、声をかける。
「蘭、久しぶりね。8年ぶりかしら?」
「ノエル、イブも久しぶり。覚えてたのか」
「覚えてるよ!友達でしょ!」
「友達…そうだな」
蘭は、友達という言葉にひっかかりを覚えたようだった。
人付き合いが上手いとは言えないから何かあったのだろうか?
まあ、深く踏み込んでいいことではない。
「そうだ。蘭、放課後は仕事かしら?」
「いや、空いてるよ。何かあるのか?」
「いえ、今日テレビ局でカレンさんにお会いしたの。その時美味しい茶葉を頂いたから一緒に飲まないかと思ってね」
ノエルは蘭と話せるのが嬉しいようでニコニコしているし雰囲気もほわほわしている。
かくいう私も蘭が覚えていてくれたのは嬉しいし、もっと話したい。
「どう?フィナンシェもあるよ!」
「甘いものはあんまり食べないんだが…まあ、今日ぐらいはいいか。じゃあ、頂こうかな」
授業も終わり、蘭と3人で寮に向かう。
その途中でオーディション情報が載っている掲示板の近くを通りかかった。
「あっ!蘭ちょっと待って、掲示板見てきていい?」
「いいけど…何か受けたいオーディションでもあるのか?」
「特定のものは無いのだけど…日本ではドラマと歌の仕事しかして来なかったの。
だから、ファッションショーも出来るってことをアピールしようってイブが言い出したのよ」
苦笑いしている蘭だけど、私たちが子供の頃に一緒にモデルの歩き方を練習したのは蘭で、お互いに実力は知っている。
だからこそ、傲慢だとかそう言う感想はないらしい。
「蘭も一緒に出る?」
「いいのか?」
「もちろん!」
私の提案に何も言わないノエルを見ると、反論はないようだし…
何より私が一緒に出たい。
私はともかく、あの頃から蘭とノエルのウォーキングは目を惹き付けられるものがあった。
ノエルのウォーキングはずっと傍で見てきたけど、蘭だってレベルアップしてる。
見ていないのに自信がある。
「これなんていいんじゃないかしら?3人1組で全員が別のタイプのドレスを来て出るんですって」
多方面に展開していることをアピールしたい、そんなことが伝わってくる募集要項だけど確かにいいと思った。
有名なブランドの副社長だった人が立ち上げた服屋。
そんなお店の服のイメージモデルになれたら嬉しいな。
「いいね!」
「いいと思う」
「じゃあ決定ね」
その場でエントリーを済ませ、部屋に行き、オーディションに向けた相談を始めた。
side蘭
イブとノエルの部屋に行き、紅茶を飲みながらオーディションに着いて話し合う。
「さっそく衣装決めちゃおっか!」
子供の頃から変わらないイブのテンションに引っ張られて、ノエルも私もやる気になっていた。
「まず、よく着るタイプは?私はセクシーだけど」
「全部!」
「なんでも着るわ」
思った通りだった。
こいつらの親はタイプのない…というより要望に合わせてどんなタイプの衣装でも作るブランドのデザイナーだ。
必然的に2人も子供の頃からかっこよかったり、可愛かったり、明るかったりと色んな服を着ていた。
それが今でも続いているようだ。
「…じゃあ、今回のステージでブランド物を着る気はあるか?」
「まだ…着れない」
「『Symbol Of Pleiades』のドレスは、私たちが自分たちに納得した時に着る。こんな中途半端な実力で腕を通していいドレスじゃないわ」
この2人は長い芸歴と高い実力がある。
1年生の中で1番の実力があると言っていい。
それでも満足していないなんてこの2人の目指すところは…納得する最低限はどこなんだろうか。
「じゃあ、ノーマルドレスだな。それならグッドコーデ狙いか…」
「そうだね!」
3人して自分のアイカツフォンをスワイプしていく。
「私は決まったよ。2人は?」
「私も決まった!」
「私も決まったわ」
ということで1人づつ体のラインに合わせながら発表することになった。
初めは私から。
「私のはこれ。上から、ブラックストライプジャケット、ベルト付きレーザースカート、イエロー編み上げブーツ。クール、セクシー、キュート」
「うん、決めすぎなくていい!」
「さすが、蘭ね」
次はノエルのばん。
「上から、マシュマロハートニット、ブラックキルティングスカート、アンクルストラップパンプスよ。タイプはキュート、クール、セクシー」
「似合ってるよ!」
「ああ、綺麗に決まってる」
そして、最後にイブのばん。
「ボトムスはビジューブラックシフォンで、スカートはミニフラワーデニムショーパンで、シューズはベルト付きパンクブーサン!上からセクシー、キュート、クールだよ!」
ここでふと思った。
確かに全員がボトムスだけ、スカートだけ、シューズだけ見ると別のタイプを使っている。
しかし大まかな括りで見ればキュート、クール、セクシーで構成されたコーデ。
これでオーディションに出られるのか私たちでは判断できない。
「ジョニー先生に聞きに行こう!」
「そうね、このオーディションはグッドコーデを想定していないようだし…それがいちばん確実ね」
「じゃあ、時間もないし早く行こう!」
私を先頭に3人で校内を駆ける。
しばらくして学園長室の中からジョニー先生と学園長の談笑している声が聞こえた。
私がどうするか迷っていると、横にいたイブがドアを叩いた。
「あっ、おい!」
「学園長、ジョニー先生に確認したいことがあるのですが大丈夫でしょうか?」
しばらく待っていると中からどうぞという声が聞こえてくる。
失礼しますと言って入っていったイブに続いて私とノエルも入っていく。
「で、俺に聞きたいことってのは何だいハニー達?」
私が代表して質問を口にする。
「今度のオーディションのコーデのことで…」
私は3人のコーデのタイプまで細かく伝えた。
しかし、ジョニー先生はおろか学園長まで判断がつかなかったので、先方に確認を取ってくれた。
「大丈夫だそうよ。…ところであなた達のグッドコーデを見てみたいのだけれど」
「確かにハニー達はセンスもいいから、気になるぜ!」
私たちは特に問題ないと判断して学園長達にコーデを見せた。
「あら、イブとノエルのコーデは明確にはグッドコーデでは無いわね」
「どういうことですか?」
聞いたところによると、2人のコーデはグッドコーデを超える、スペシャルグッドコーデというものらしい。
しかし、私のコーデはグッドコーデ。
これでは2人の足を引っ張ってしまう。
学園長が3人で考えなさいと言っていたのを聞き、プライドが邪魔をしながらも2人に助言を頼んだ。
それによって最終的なコーデはこうなった。
「上から、インディゴダンガリーシャツ、セットアップツイードショーパン、ミントカラームートンブームで…クール、セクシー、ボップです」
「これならスペシャルグッドコーデね」
私たちに判断できなかったスペシャルグッドコーデかの判断は学園長がしてくれた。
これで、スペシャルグッドコーデアピールをできる。
そして、私たちのオーディションは3日後に迫っていた。
sideノエル
オーディションまであと2日という所で、ウォーキング練習が始まった。
「まずは、自分なりの練習法でいつものようにやりましょう」
私がそういったのを聞いてイブが2Lペットボトルに水を入れ始めた。
「何やってるんだ?」
「んー?私たちいつもこれで練習してるから!」
「蘭、平均台使う?」
「使う!」
全員、アップをしながら着々と準備を進めていく。
まず、蘭がいつも通りにウォーキングをする。
高さ30cm、幅10cm、長さ5mの平均台の端に蘭が立つ。
そして前を向いて歩いていく。
そのスピードは普段歩いているスピードと同じで、体の軸もぶれていない、とても綺麗なウォーキング。
「次はノエルか?」
「ええ」
私はイブが準備しておいてくれたペットボトルを1本手に取り、平均台の端に登り、立つ。
そして頭の上にペットボトルを乗せて、歩き出す。
スピードは、先程の蘭のスピードと同じにした。
感覚でピッタリ5m歩いたところで体の軸を意識して素早くターンをする。そしてポージング。
これはお母さんのお友達の真昼さんから教えてもらった練習法。
子供の頃は500mLペットボトルですら重くて歩けなかったが、今では2Lペットボトルでもそうそう落とすことはないぐらいにはなった。
そんなこんなで私とイブがその練習法を蘭に教え、ウォーキング練習もそこそこに本番の日となった。
「実力が出れば怖いものは無い。信じてるぞ、イブ、ノエル」
「「私も信じてる(わ)。…魅せるステージを!」」
私たちはオーディションに合格した。
そのオーディションに雪と蛍のオーラを持つ人がいたことを私たちは知らなかった。
オーディションの合格によって、私、イブ、蘭で仕事をすることが増えた。
オーディションでのステージを見て3人にと仕事が依頼される日々。
それらの仕事が落ち着いてきた頃。
「来ちゃった。元気だった?」
お母さんが学園に顔を出した。
「フランスでのお仕事は?」
「私もすー君も海外の仕事の1ヶ月半オフを貰って日本に帰って来たの。…ということで、家族4人でステージをするから予定空けておいてね。」
........えっ!?