sideイブ
お母さんが突然帰ってきた日の夜から、私たち家族は缶詰めのようにレッスン室に引きこもってライブの準備をしている。
私達も寮に帰ってすらいない。
「「はぁっ、はあっ…っ」」
私とノエルは2人よりも先にへばってしまう。
体力の差が顕著に現れていた。
「2人とも休んでろ。蛍、新曲合わせるぞ」
お父さんがそう言って新曲の音源を流し始める。
その歌詞はお父さんとお母さんが出会ってから、共に笑い、共に泣き、共に支え合ってきたことが分かる。
この2人のステージに泥を塗るわけにはいかない。
「イブ、私達もあれやろう。」
「OK!」
感化された私たちは、新曲の練習を再開する。
そうした日々を過ごし、いよいよライブの当日になった。
「「「「みんな、今日は来てくれてありがとう!」」」」
事前に決めてあったその言葉で始まった、私たちのステージ。
ミルキーウェイスタジアムを埋め尽くすファンからの声援にお母さんたちも興奮している。
1曲目から観客のボルテージは8割を超え、その数値は例え休憩中であっても始終7割を切らなかった。
今歌っているのはお母さんたちで、私とノエルは舞台裏で次の曲の準備をしながら聞いている。
舞台の裏側にいるので、音は多少籠って聞こえるが、そんなこと関係なく鳥肌が立つ。
2人が結婚して初めて作ったというこの曲を歌うふたりの声は、想いが籠っている。
曲が終わり、横にいるスタッフさんが登場の合図を出す。
「5.4.3.2.1…GO!」
ステージの上に降り立った瞬間、お母さんたちの歌を聴いていた時と違う思いに晒され、自然と口角が上がる。
チラリとノエルの方をむくと、彼女もファンからの声援に笑みを浮かべている。
「「新曲、行くよ!『カレイドスコープ』!」」
新曲を歌いきり、改めてこの曲に思いを馳せる。
カレイドスコープ…つまり万華鏡は一つとして同じものは無いし、同じ形は作れない。
偶然に作られたその形に出会えてよかったと思う。
そんな様子を私達が出会ったこれまでの全ての人に重ねた。
そこからまた何曲かをうたい、アンコールもいよいよ最後の曲となった。
「実は、イブとノエルには内緒にしてたんだけど……ここでスペジャルゲスト!」
スペシャルゲスト!?
本当に聞いていなかった私とノエルは目を丸くした。
「スペシャルゲストはこいつらだ!」
その声と共にステージ中央のポップアップから3人のアイドルが飛び出した。
「こんばんは、香澄夜空です。」
「香澄朝陽です!会いたかったよ〜!」
「香澄真昼です、みんなよろしく。」
登場したのはお母さんやお父さんと仲のいい香澄兄弟。
「真昼さん!お久しぶりです」
昔から真昼になついているイブは久しぶりに会えた嬉しさで彼女に抱きついた。
「半年ぶりね、イブちゃん、ノエルちゃん。今更だけど、中学入学おめでとう。」
そう言って真昼はイブの頭をぽんぽんと撫でた。
「「ありがとうございます!」」
2人の笑顔を楽しげに見守っていたお母さんは観客の方を向き直った。
「最後の曲歌いましょうか、聞いてください、『アイカツステップ!』」