キャストリアに転生したが原作を壊してしまった 作:霧ケ峰リョク
流石に夜勤+残業は頭が働かぬぇ…………。
そんなわけでお待たせしました本編どうぞ。
――――違和感。
六道骸は標的である沢田綱吉と剣戟を交わしながら今自分が立たされている状況に焦りを見せる。
最初の内はそんなものを感じていなかった。
人間道による強化に加えて呪われたリングと名高いヘルリングを介して発生した死ぬ気の炎。
身に宿る力は今までにない程に強力で、全能感を感じてしまっていた程だ。
沢田綱吉も新たな力や武器、そして自分と同じようにリングを持っていたがそれだけだ。
一週間前の自分とは比べ物にならない程に強くなった今の自分ならば十分に勝ち目がある。
そう、思っていた。
――――何故だ?
それが間違いだと理解したのは戦闘が始まってある程度の時間が経過してからだ。
最初の方は強化された自身の能力もあって優位に戦う事が出来ていた。いや、それも正確ではないかもしれない。
全能感に支配されていたさっきまでの自分が一方的に攻撃していた、の方が正しいだろう。
だが時間が経つにつれて、沢田綱吉が優勢になっていった。強化された幻覚もブラッド・オブ・ボンゴレに宿る超直感とやらのせいで見破られ、純粋な体術も上回られている。
加えて、あのリングから飛び出した刀身が橙色の剣だ。
「はぁッ!!」
骸は自分のヘルリングが持つ固有能力、金属質の鉤爪を放つ。
鉤爪と言うよりは最早砲撃と言っても過言ではないその一撃は凄まじい速さで沢田綱吉に向かっていく。
当たれば今の沢田綱吉でも無事では済まない一撃を前に、彼は持っていた剣から手を離した。
「行け。シャスティフォル」
手から離れた剣が沢田綱吉の言葉に従い、自分で鉤爪に向かっていく。
オレンジ色の炎を帯びた剣と藍色の炎を帯びた巨大な鉤爪が衝突し、建物を揺らす程の轟音を響かせる。
鉤爪がバラバラになって床に崩れ落ちるのに対し、剣は宙を舞って沢田綱吉の下に戻る。
誰かの手を借りているわけではない、ひとりでに戻ったのだ。
「っく…………」
一連の動作を見て骸はあの剣の特性を理解する。
使い手の意志で勝手に行動し、必要としない時にはリングに戻す事も出来る。
必要になったら手に持って使う事も可能。沢田綱吉にあった弱点、リーチの短さを補っている。恐らく、まだ能力を隠している。
かといってその剣に集中すれば本体が高速移動で接近して来る。
まるで二体の敵と戦っているみたいだ。
「本当に厄介な武器だ」
「アルトリアが作ってくれたものだ。凄くないわけがない」
「…………成程、クフフ…………貴方は随分と愛されているわけだ」
「そう、だね」
あの謎多き少女が齎した武器が無ければ自分が優位だっただろう。
負け惜しみになってしまうが、今の自分の能力は眼前の沢田綱吉にも負けていないと自負している。
にも関わらずここまで劣勢に追い込まれているのはあの剣、否、リングの仕業だ。
沢田綱吉が付けているあのリングは何故か清浄さや清らかな力を感じる。自分が持っているヘルリングとは対極にあたる代物だ。
そんな代物を作ったと、沢田綱吉は言った。
「あの少女、アルトリアと言いましたか。彼女は何者ですか?」
気になった骸は綱吉に問いを投げる。
その問いを受けて綱吉は少しだけ逡巡した後、呟く。
「ただの、何処にでも居る普通の女の子だよ」
「…………クハハハ!! あれを普通と言うとは!!」
骸は心底おかしそうに笑う。
ふざけた答えだ。だが言っている本人が心底真面目そうな顔をして言っているのだから性質が悪い。恐らく、彼は彼女の事情を全てではないにしろ把握している。した上で普通と言っている。
でなければそんな顔をするわけがない。
「あの少女を後回しにすべきではなかったか」
明確なまでの不確定要素。今まで様々な人間を見て、憑依してきた骸でさえ初めて見るタイプの人間だった。
にも関わらず自身の目的を達成する為に後回しにした。
もしあの時に少女の方を優先していれば、まだ結果は違ったかもしれない。
「…………骸。大人しく武器を捨てて負けを認めろ。これ以上の戦いに意味は無い」
「それは僕が勝てないという意味でしょうか?」
「そうだ」
「…………クフフ、断言しますか。これだからマフィアは傲慢だ」
沢田綱吉の断言に骸は反吐を吐き捨てるように呟く。
そして右手にはめているヘルリングが自身の右眼と重なるように手で顔を翳す。
「ヘルリングが何故呪われているのか、その理由を知っていますか?」
「温厚だった奴が凶悪な独裁者になった裏にはそのリングが関わっているという曰くがあるからだ」
「その通り。流石は博識ですねアルコバレーノ。事実、このヘルリングにはその曰くに相応しい特性が存在する」
ヘルリングに灯っていた炎が大きくなり、よりどす黒い藍色に変化する。
「ヘルリングに所有者の精神を喰わせる事で強大な力を齎す。ヘルリングが真の力を発揮するには精神を喰わせなければいけない、地獄との契約が必要不可欠という方が正しいですね。この契約をしたせいで人格が豹変する者も多かったと聞く」
「…………骸、まさかお前」
「ええ。そのまさかです――――
瞬間、ヘルリングから溢れていた炎が骸の身体を包み込む。
頭の中に直接響く悍ましい怨念。地獄との契約と言われているのも頷ける。
精神が弱ければリングに宿った怨念に精神を食い尽くされ人格が変わる。と、いうよりは隠していたどす黒い本性を露わにするといった方が正しいだろう。
文字通り人間の醜い本性をを露わにする地獄の指輪。
だが――――六つの世界を見てきた、そして地獄を味わった自分にはぬる過ぎる。
「お、ぉおおおおおおああああああっ!!」
人間道の闘気を死ぬ気の炎に変えた時以上の力が全身に満ち、変質した身体が露わになる。
全身に鉤爪のような物が生え、額に縦に割れた第三の目が出来た悍ましい姿だった。
「くふ、クハハハっ!!」
骸が哄笑すると額に開眼した第三の目が変化する。
瞳のヘルリングと同じ眼だった物が骸の持つ右目と似た物に変化し、瞳孔を取り囲むように一から六までの漢数字が刻まれた。
これが瞳のヘルリングに精神を喰わせた姿――――否、ヘルリングを逆に喰らい尽くした姿。
「素晴らしい力だ。これがヘルリングの真の力か!」
身に感じる力の強大さに骸は思わず歓喜する。
身体にかかる負担を考えるに長時間の変身は不可能だが、今までとは比べる事すら烏滸がましい程の力だ。
「…………見てくれが変わっただけじゃ、オレには勝てないぞ」
「その減らず口が何時まで続くか、試してみましょうか?」
剣を片手に構えて挑発する沢田綱吉に対し、骸は自身の三叉槍を力強く振るう。
切っ先から放たれた炎の斬撃が形を形成し、無数の鋭い鉤爪となって沢田綱吉に襲い掛かる。
「形ある幻覚である有幻覚。その弱点である実在の物以上の性能を発揮出来ないという点もこの姿ならば補える」
「成る程、確かに変わったのは見てくれだけじゃなさそうだな」
襲い来る鉤爪を剣で払いながら骸に接近し刃を振るう。
迫る攻撃を骸は槍で受け止め、力任せに払い除ける。
「今の僕は六つの能力を同時に扱う事が出来る。そして纏う炎の質も、量もさっきとは比較にならない!」
「っ!」
肉体のリミッターが外れているにも関わらず、力負けした事に驚愕する綱吉に追撃を仕掛ける。
擦り傷でも勝敗が決まる槍の攻撃だけは防ぎ回避しつつも、襲い掛かる鉤爪を防ぐ事は出来ず少しずつ、けれども確かなダメージが綱吉に刻まれていた。
「確かに…………さっきとは比べ物にならないな」
にも関わらず綱吉は真っ直ぐ見つめていた。
力で負け、炎の強さでも負け、着実にダメージが刻まれていながらもその瞳に不安や恐怖は微塵も感じない。
――――何故、いや違う。
まだ沢田綱吉には切っていない手札がある。
この状態になる前、使おうとしていた何かをまだ出していない。
「出来れば使いたくはなかったんだけど、流石にそうも言っていられないな」
そして、沢田綱吉はその手札を切ろうとしていた。
「大地の時間、巡る天空。我等は星の航海者」
剣から手を離し、沢田綱吉は言葉を紡ぎ始める。
さっきは最後まで紡ぐ事は無かったものを、今度は最後まで唱えようとしている。
「明らかに危険な手札、それを切らせると思いますか!?」
当然そんな事をさせるつもりは無い、そう考えた骸は攻撃を仕掛けようとする。
しかし、そうはさせないと言わんばかりに綱吉の手から離れた剣が骸の妨害に入る。
「っく、本当に鬱陶しいですねぇ!!」
自身の邪魔をする剣を払い除けようとするも不規則な軌道で宙を舞う剣に翻弄され、その間にも綱吉は詠唱を続ける。
綱吉を囲むように円状の炎が走り、やがてそれが広がっていく。
「この星を滅ぼしてでも、我等は宙へと至らん。それが――――人間の最低限度の責務であるがゆえに!!」
そして綱吉を取り囲んでいた炎が激しく燃え上がり室内全体を覆い尽くす。
不思議と熱さは感じなかった。死ぬ気の炎は実際の炎とは異なってこそいるもののその性質上熱がある。骸の炎でも一点に集中すれば鋼鉄を焼き切る事も可能だ。
にも関わらず沢田綱吉が放った炎からは熱を感じなかった。
――――ならばこの炎は一体何の為に使われたのか?
その答えは炎が晴れてすぐに明らかになった。
「なっ…………?」
「これは…………!?」
骸は自分の瞳に映る風景を見て言葉を失う。
いや、言葉を失っているのは沢田綱吉の家庭教師であるアルコバレーノもだ。
あの様子を見る限りアルコバレーノもこれは知らなかったらしい。だがそれも仕方がない話だろう。
――――何せ、さっきまで廃墟の中だったにも関わらず何時の間にか全く別の風景に変わってしまっていたのだから。
星々が煌めく黄昏時の空、それを写し取っているかのように水が張った塩湖のような地面が地平線の彼方まで広がっている。
上と下どころか平衡感覚すらも消失してしまいそうな、美しくも儚い世界だった。
「これは、幻覚か?」
アルコバレーノはこの世界を見て自身が抱いた疑問を口にする。
自身が経験してきたものや知識で、この現象に近いものを当てはめようとする。
「バカな…………ありえない!!」
だが術士である骸は気付いた。これが幻覚ではないことを、幻覚如きでは比べる事すら烏滸がましい神業である事に気付いてしまった。
「心象風景の具現化…………! 幻覚で心の世界を映し出すのではなく、直接世界に出力しているというのか!?」
「固有結界…………
自身の常識、知識の外にあるものを見せられ困惑する骸に対し、綱吉はこの不可思議な世界の名前を告げる。
「アルトリアに教えて貰って完成させた、人類史上初の異界常識だ」
「異界、常識だと…………?」
「その効果は固有結界によって様々だ。だけど、結界内部のあらゆるものをその結界のルールの影響下に置くことが出来る」
「ッ!?」
綱吉の説明を聞いてこの固有結界と言う名の世界の法則をある程度理解し、思わず身構える。
「と、言っても自由自在にルールを決められるわけじゃないし色々と制限がある。だから今ここでお前の身体の動きを強制的に止めるなんて真似は出来ない。それに近い事は出来るがな」
「そうですか――――ならこれで終わりにさせていただきましょう!!」
骸の全身から藍色の炎が吹き上がり、世界が真っ黒に染まり始める。
「固有結界というのが何かは分かりませんがこの世界が貴方の心象風景であるのならばそれを塗り潰し僕が掌握する事も可能!」
真っ黒に染まった世界に巨大化した骸の上半身が顕現し、綱吉に向かって槍を振り下ろす。
「永遠に覚めぬ眠りにつくが良い!!」
+++
「――――固有時制御という魔術があります」
アルトリアの家のリビングにて、綱吉は小さめのホワイトボードを持ったアルトリアから説明を受ける。
「この魔術は端的に言ってしまえば時間操作の魔術で、固有結界の亜種でもあるんです」
「それって、オレの固有結界と同じって事?」
彼女の口から語られる説明を聞いて問いを投げる。
つい先日会得した自分の固有結界、それと同じものがあるのならば参考になる。
そう考えての発言だったがアルトリアは黙って首を横に振る。
「いいえ、貴方の時を巡る星天・死想顕現は固有時制御のウルトラ上位版です」
「う、ウルトラ…………?」
「そうとしか説明のしようがないんですよ。固有時制御では出来ない事も出来る上に負担も無いんですから…………いえ、使ったら寿命が減るという危険性はありますけど」
頭を抱えながら説明に困ったと言わんばかりの顔を浮かべる。
「貴方の時を巡る星天・死想顕現は――――」
+++
「――――オレの固有結界の能力は時間操作」
「単純に自身の時間を加速させたり、逆に自身の時間を停滞させる事で減速させる事も出来る」
「停止や巻き戻しは…………色々と条件があるからまだ上手く扱えない。今も練習してるけど中々難しい」
「まあ、それだけなら固有時制御ってやつでも出来るんだ。ただオレの固有結界はそのウルトラ上位版だ」
そう言って綱吉は地に倒れ伏した骸に自身の能力を開示する。
既にヘルリングによる強化も解け、元の人間らしい姿に戻っている骸は満身創痍の状態でありながらも綱吉を睨み付けている。
しかし、その視線には明らかな恐怖が宿っていた。
「「「「過去の自分自身を呼び出して一緒に戦う事も出来るんだよ」」」」
「この、化け物が…………!」
「…………悪いけど、その言葉はあまり聞きたくない」
負け惜しみの言葉を最後に骸は意識を失う。
綱吉が展開した固有結界が消えて行き、世界が元の廃墟に戻る。
超死ぬ気モードも解け、四人居た教え子が一人に戻ったのを見てリボーンはボルサリーノを深く被る。
勝負なんてものじゃない、蹂躙としか言いようのない戦いだった。
四人に増えた教え子が自身の眼でも追い切れない程のスピードで骸を数の暴力で叩きのめしたのだ。
しかも、骸の動きが異常な程遅くなったのを見るに相手の時間をスローにする事も出来る。
恐ろしいなんて次元じゃない。発動さえすれば誰であろうとも勝てる、文字通りの必殺技だ。
「もっと早くから使っていれば勝てたんじゃねぇか?」
「そうもいかないんだよ…………固有結界は維持するのにアホみたいに力使うし、最長で五分しか維持できないんだ。考えなしに使えば自分を追い詰める事になるし、それに…………」
「それに?」
「使ったら相手を殺しかねない、本当に危ない力だから。使わないで済むんなら使いたくはないんだよ」
「…………成程な」
これがさっき皆を殺すつもりで使おうとした技ならそれも納得だ。
そう思っていると綱吉が前のめりに倒れる。
どうやら超死ぬ気モードの反動が来たらしい。もしくは固有結界とやらを使ったからか、あるいはその両方か。
いずれにせよ色々と聞きたい、否、問い質したい事が山程出来た。
そう思いながらリボーンは視線をこの部屋の出入り口の方に向ける。
「ここに居るって事は、話す気はあるんだな?」
「ええ。まあ、はい」
コツコツと足音を立てて何者かが室内に入って来る。
それは教え子の彼女である謎多き少女、アルトリア・キャスターその人だった。
「流石にこれ以上隠し通せるとは思わないですから」
ついさっきまで激戦を繰り広げていた部屋に入って来た少女は酷く困ったように微笑んだ。
この作品における設定
・この世界の人間は産まれながらに魔力を持っていないし魔術回路も無い、そこに例外は無い。
・死ぬ気の炎で固有結界を発動するには大空の属性が必須である。
・術式に死ぬ気の炎を流す事で魔術の効果を発動する事が可能。
・楽園の妖精はその性質上死ぬ気の炎を使う事が出来ない。
多分本編で出す事の無い設定です。
ちなみにツナは主人公から固有結界を教わった際、死ぬ気の炎ではなく魔力で固有結界を発動してました。