キャストリアに転生したが原作を壊してしまった 作:霧ケ峰リョク
この作品の主人公はキャストリアです。
当然の話ではあるがイタリアにある建物がマフィアのアジトだからといって、その建物の周囲を歩く一般人が居る。
そしてその全員が今回起こった出来事の当事者となった。
パフィオペディラム上層階を起点として広がったそれは僅か10秒でイタリア全土を飲み込み、そして何も無かったかのように元に戻った侵食する世界を。
たった10秒とはいえ世界が書き換わるという現実ではありえない光景を目撃した一般人達は困惑し、発生現場間近に居た人達は中心点であるパフィオペディラムの上層に目を向ける。
彼等の視線の先には空間に出来た亀裂としか言いようのないものと、文字通り削り取られた建物があった。
+++
「――――たった10秒しか維持できないか」
永久機関と化した魂から抽出し、ボンゴレリングを通して溢れた無尽蔵の死ぬ気の炎。未来から受け取った知識に今まで研究し続けてきた結界術、そしてオルタからダウンロードした感覚。
その全てを以ってして展開された侵食固有結界は10秒しか発動出来なかった。
再展開は不可能、通常の固有結界も暫くは展開出来ない。通常の運用は可能だが固有結界を展開しようとしたら間違いなく身体が爆発する。
それだけ無理で無茶な事をしたという自覚はあった。
もっと研究を積み重ねてからするべきもので、不完全な代物だった。
「それでもこの程度はやれるのか」
綱吉の視界には今居る階より上が無くなったビルと地に倒れ伏したミルフィオーレファミリーの戦闘員が居た。
とはいえその数は大きく減っており、死んだ者は人としての原型を保てず液状化して瓦礫塗れの床に散らばっており、人としての原型を保っている者は息絶え絶えとなっている。
現在生きている者から向けられている視線には憎悪は無く、代わりにあったものは恐怖と畏れだった。
「怪物扱いされるのは困るんだけど…………」
まあそれも仕方がないか、と綱吉は受け入れる。
侵食固有結界と化した事で細胞単位での時間操作が可能になった。それにより弱い敵は肉体を維持できず自己崩壊し、死ぬ気の炎で抵抗出来る者でも大ダメージを与える綱吉が許可した生命以外の存在を認めない世界となった。
そんな世界を作れる存在は怪物扱いされても仕方ないが、そんな目で見られると申し訳なくなってくる。
『
我を忘れる程の怒りが静まったからか、悲痛そうな顔をしたⅠ世が姿を現す。
「…………貴方が言いたい事は分かってる」
自分でも随分とらしくない事をしたと綱吉は自己嫌悪に包まれる。
もっとスマートなやり方があった筈だ。この場で戦わずに一度引く事も出来た筈だ。
「それでも止まることが出来なかった」
ボンゴレリングから歴代ボンゴレの声は聞こえていた。
止まるようにいう者、それを諌めて落ち着くように言う者、綱吉の怒りを肯定しつつも一度引けという者。
その全ての声が聞こえていたにも関わらず、身体は怒りのままに暴れた。
止まる事すら出来ない程の怒りで我を忘れていた。
「アルトリアの言う通りだったよ。今のやつとは違うけど、復讐は楽しいものだって事は」
以前教えられた復讐の理由。
あの時は全く理解出来なかったが今なら少しだけ分かる。
「楽しくはなかったけど、心はスッキリしたよ。それはそれで自己嫌悪が凄いけど」
『もういいのではないか? 今生きている者に止めを刺す必要はもう無いだろう。お前はそういうのを楽しむ趣味は持たない』
「…………そう、ですね」
これ以上は虐殺、殺戮になるなんてものではもうすまなくなっている。
戦意を失った者をこれ以上痛め付けるつもりも無いし興味も無い。
「白蘭を殺してから帰りますね」
――――ただ一人、
『――――分かった』
Ⅰ世もその言葉を最後にボンゴレリングの中に戻った。
歴代ボンゴレも白蘭を倒す事に関してだけは意見が一致していた。
「じゃあ、殺すぞ」
綱吉はゆっくりと瓦礫に埋れている白蘭の所に歩みを進める。
荒く呼吸をして瀕死の重傷を負っている。意識はあるのかもしれないが、こうなっては何も出来ないだろう。
そう思いながら剣で止めを刺そうとして、リングの中に戻ったのを見て舌打ちする。
「流石に使えないか…………」
むしろよく持った方だろう。
オルタに軽々といなされてしまったとはいえ冠位の一撃を受け止め、更には続け様にミルフィオーレファミリーとの戦闘だ。
少しは休ませないとエデンリングもオーバーヒートしてしまう。
それに、ここまで弱っているのなら剣はもう必要無いだろう。
「これで終わりだな」
綱吉はイクスグローブに死ぬ気の炎を灯して手を振り上げる。
「――――ボンバ・アンモニーテ!!」
「――――
その瞬間、綱吉の右斜め後方から雨の炎を纏った巨大な貝が、左斜め後方からマグマを思わせる嵐の炎の砲撃が放たれた。
攻撃された事に気付いた綱吉は視線を後ろに向ける、と同時に瓦礫に埋もれていた白蘭が雲の炎を灯した恐竜の頭部に咥えられ連れて行かれた。
「逃がすと思うか?」
敵の意図を察した綱吉はすぐさま白蘭を追おうと前を向く。
そして鬼のような仮面を被り霧の炎で作られた蛾の羽を生やした男と晴れの炎が灯ったトカゲの特徴を持った男が殴り掛かってくるのを見た。
「哀れな者よ…………!」
「白蘭様は殺させないぞ! ボンゴレ10代目!」
が、自分も人の事は言えないと思いながら四方から襲い掛かる敵の攻撃を前方の二人ごと停止させる。
「白蘭の守護者ってところか」
一定の距離を取りつつ白蘭を救出したであろう最後の一人を見て、この五人が白蘭の守護者であると綱吉は確信する。
金髪オールバックの男が五人の姿を見て「どういう事だ…………?」と呟いているのを見るに、仲間にも秘密にしていたらしい。あるいは白蘭の直属の部下なのかもしれないが。
そう考えながら綱吉は両手のイクスグローブの紋章が変化。
右手側はボンゴレリング、左手側はエデンリングにそれぞれ変化し炎の出力と純度が上昇する。
「時間を掛けてられないからな…………とっとと終わらせるぞ」
左手を前方に向け刃状となった死ぬ気の炎を放出し攻撃、同時に傷口を停止させ治らなくする。
浸食固有結界の細胞単位の時間操作を受けているのに身体に傷一つ無い事から、恐らくこの姿になるとダメージが回復するらしい。特に晴属性の男は炎の性質を考えるに異常な程の再生力を持っている筈だ。
そう考えて傷の停止も行ったが正解だったらしく、非常に驚いた顔をしている。
「どうやら当たりだったみたいだな」
綱吉は歩みを進めて前方の二人を追い越し、同時に停止していた時間が動き出す。
止まっていた後方の攻撃が動き出し未だ停止している晴れのトカゲ男と霧の虫男に直撃し、吹っ飛んでいく。
「…………思ったより強いな」
今の攻撃を受けて吹っ飛びながらも意識は失ってない。
匣アニマルの性質を宿しているから肉体が異常な程強靭だ。
「まあ、それがどうしたって話だけど」
自身の時間を
「修羅開匣したトリカブトの幻覚は超直感すら通じないのですが…………」
「確かに凄い幻覚だった。超直感も解き方が分からなかったし、だからかかる前に巻き戻させてもらった」
以前は廻時剣が無ければ時間の巻き戻しは使う事が出来なかったが、第三魔法を体得した事でその必要は無くなった。
時間経過による適応はまだ不可能だが、それもそう遠くない内に使えるようになるだろう。
何せ死ぬ気の炎が無限に使えるのだから。
「…………怪物め」
「怪物、ね。本物を知らないからそんな事が言えるんだよ」
「例え貴様がどれだけ怪物だろうと関係無い! 白蘭様の為に死ね!!」
雲属性の男が叫ぶとスピノサウルスの頭部が地面から生え襲い掛かって来る。
「
自身に向かって来る決死の攻撃に対し綱吉は時間を停止して対処し、雲属性の男の頭上に移動する。
「解除」
「なっ…………!?」
「どれだけ増殖しようとも、根元から刈り取れば終わりだ」
右手に貯めていた死ぬ気の炎を真下に居た雲属性の男に向けて放つ。
「っ、やっぱりこっちは制御が難しいな…………」
放出した炎の反動で上空へと吹っ飛んだ綱吉は眼下の光景を見降ろしながら右手を見つめる。
ヴァリアーとの戦いでボンゴレリングを手に入れた際、獲得したイクスグローブにリングの力を宿すという能力。
自分専用に調整されたエデンリングの場合は通常の上位互換であるのに対し、ボンゴレリングは出力が急激に上がるという非常にピーキーな仕様だ。
左手側の炎で吹っ飛ばないように調整していたが、それでも吹っ飛ぶ辺り本当に使い辛い炎だ。とはいえ、単純な出力は高いから色々と悪さは出来そうだが。
「まあ、それはこれからの課題だな」
空を飛び此方に攻撃を仕掛けようとしている五人に綱吉は手を真下に向ける。
五人の内三人は戦闘続行が難しい程のダメージを受けたにも関わらず、まだ勝負を諦めていなかった。
だが――――、
「その忠義は認めるよ」
惜しむらくはその忠義を向けられるだけの相手じゃ無かった事だろう。
「
+++
決着――――蹂躙は終わった。
完全に凍結した四人と唯一凍結を免れた一人が地面に落ちたのを見届けると、綱吉はゆっくりと床に着地し白蘭を殺す為に歩み始める。
白蘭の守護者、マーレリングを預けられた
「ま、待って…………待って…………!」
自身の周囲を死ぬ気の炎のバリアで守っていた事で唯一凍結を免れた雨の守護者の少女、ブルーベルは綱吉の足に縋り付く。
普段浮かべている勝ち気な笑みは無く、恐怖一色に染まっている。
それでも白蘭を守る為に動いていた。修羅開匣は強制的に解除され死ぬ気の炎も使えない。一糸纏わぬ姿となって抗う術も持たない非力な少女と化しながらも、自分の大切な人を守る為瓦礫で傷だらけになり整った顔面を血や鼻水で汚しながら綱吉に懇願した。
「び、白蘭を殺さないで…………何でもするから…………っ!!」
「この剣で良いか」
しかし、綱吉はブルーベルの懇願を無視して幻騎士の剣を拝借していた。
無視、眼中にすら無い。その事実にブルーベルの心はへし折られそうになる。それでも手だけは離そうとしなかったが関係無いと言わんばかりに歩かれた事で手を離してしまう。
「あ、ぁあ……………」
ブルーベルが絶望の嗚咽を上がるもそれを気に留める者は誰も居ない。
そして、幻騎士から拝借した剣を持って白蘭を殺そうとした時、綱吉の前に一人の少女が立ちはだかる。
「白蘭様を殺すのなら、私を殺してからにしなさい」
「…………自我の無い人形か」
恐らく白蘭の仕業なのだろう、意思の無い黒い服を着た左頬に花の痣がある少女を前に困惑する。
倒れている男の一人が「姫っ!」と叫んでいる事から、この少女こそがミルフィオーレファミリーのもう一人のボス、ユニなのだろう。
敵、というにはこの少女は弱過ぎる。自我が無いのだから憐れみこそあれ憎悪も無い。
とはいえ、白蘭を殺そうとすれば間違いなく盾になるのだけは分かる。
「凍らせて動きを封じておくか」
「――――その必要は無いよ。ユニちゃん、下がって」
零地点突破で片付けようとした瞬間、白蘭が呟く。
その言葉と共にユニは白蘭の前から去った。
「どういうつもりだ?」
「どうもこうも無いよ…………完敗さ。僕の負けだよ」
白蘭は起き上がりながら喋り続ける。
その身体に力は入ってなく、限界なのは誰が見ても明らかだ。
「凄いねここの綱吉君。って、話じゃないよ。ゲームで例えるなら負けイベントだよ」
「遺言か?」
「そうだね。最後に少しだけ話そうと思ってさ。ああ、もう抵抗はしないよ」
その言葉に嘘は無い、もう白蘭にはこの状況をひっくり返すものは無い。
「なら一つ聞きたい…………何故、こんな真似をした?」
「きみは未来のきみと同期してるんだったね。正ちゃんから色々と聞いてるとは思うけどさ…………まあ、うん。一言で纏めると気持ち悪かったんだ」
「はっ?」
白蘭の動機を聞き、綱吉は思わずあんぐりと口を開ける。
「これだけ言っても分からないとは思うけどね。僕は、ずっと昔からこの世界が気持ち悪かったんだ。誤解して欲しくないけど、別に嫌いとかそういうのじゃないよ。人と関われば嬉しくなることや、感動して胸の奥がジーンとなる事もあった。でも、それでもこの世界がしっくりと来なかったんだ」
「…………そうか。だから、全てを壊したかったと?」
「全て壊したかったわけでもないんだけどね。ただ何もかもが風景に見えちゃうとか、現実感の無さというのかな? そういうものが僕の中で満ちていたんだ。ここ、気持ち悪いって…………綱吉君、きみはどうなんだ――――」
己の動機の全てをぶちまけた白蘭は同意を求めるように綱吉を見る。
しかし、綱吉の方は激しい怒りに満ちた形相になっていた。
「お前が、お前がいう気持ち悪いものを…………オレがどれだけ大事に思ってるのか知らないで…………守る為にどれほど頑張っているのかを知らないで…………! お前みたいな奴が居るから…………っ!!」
剣を握る力が強まり、綱吉は刀身に莫大な量の炎を纏わせて高く振り上げる。
それを見て白蘭は笑う。心底おかしそうに、嘲る様に笑う。
「これは驚いたよ。そこまで強いのに僕の部下を一方的に殺しておいてよくもまぁそんな綺麗ごとを言えるね。寄せ集めの偽善より個人の欲望や執着の方が強いこの世界で、人の作る利己的な社会に生きる子どもの答えとしては五重ペケも良いところさ」
白蘭は心底見下しているかのような声音で吐き捨てる。
実際、白蘭は本当にそんなもので怒っていたのかとすら思えておかしくなっていた。
「――――お前のように間違える奴ばかりだから世界は滅びるんだよ」
何故綱吉が怒るのか、その動機を聞くまでは。
「は、へ? 滅ぶ…………?」
「これから死ぬお前には関係無い話だ。あの世で黙って見ているんだな…………お前のいう人の作る利己的な社会が何の価値も無く、意味も無く滅びるところをな!!」
言っている事の意味が理解出来ていない白蘭に綱吉は刃を振り下ろそうとする。
その瞬間、轟音と共に黒い炎が唐突に出現した。
「…………さっきから邪魔ばかりはいるな」
七つの属性から外れた黒い死ぬ気の炎、そしてその炎から出現し向かって来る鎖を見て綱吉は苛立つ。
「それで、何の用だ
攻撃として放たれた鎖を停止させ、下手人である黒い炎と共に現れた三人の復讐者を睨み付ける。
当然ながら攻撃してきた以上、敵以外ありえないだろう。
「沢田綱吉…………ソレ以上ノ狼藉ハ認メナイ」
「オ前ヲ連行スル」
「…………本当に鬱陶しい」
復讐者達の言葉を聞き綱吉は心底煩わしそうに吐き捨てる。
「良いだろう。かかって来い死にぞこないの死人ども…………今すぐあの世に」
送ってやる――――そう言おうとした瞬間、真ん中に立っていた復讐者の半身が空から落ちてきた何かによって削り取られた。
「…………はっ?」
突然仲間が半分になって地面に倒れるのを見て両隣に居た二人の復讐者は呆気に取られたと言わんばかりに空から落ちてきたものを見る。
それは人の姿をしており、黄金に輝く剣を持っている。
だがそれ以上に目を惹くのはこの場に居る沢田綱吉と全く同じ顔をしている事だった。
「げぇっ!!」
「さっきぶり。束の間のストレス発散は楽しめたか?」
この場で唯一乱入者の正体を知る綱吉はそれが現れた事に苦虫を噛み潰したかのように顔を顰め、乱入者のオルタはそんな綱吉を見て何の感情も感じさせない顔で見つめていた。
勝ち気なメスガキが分からせられるのは最高ですよね。
それはそれとしてちょっとした問題。
Q.楽園の妖精の使命やこの世界の未来を全部知ってる沢田綱吉君が黙ってそれを受け入れると思いますか?
次回、この質問の答えを出します。
ネタバレにはなりますが次回のタイトルは「キャストリアに転生したが原作を壊してしまった」となります。