キャストリアに転生したが原作を壊してしまった 作:霧ケ峰リョク
――――ぞぶり、と音が鳴る。
未来からの記憶を受け取ったのは、綱吉は一人の女の心臓に刃を突き立てていた時だった。
恐ろしいまでに美しい女だった。
女という概念を凝縮した上で煮詰めて抽出したかのような人で、同時にこの女に対し救いを求める人が居てもおかしくないと思ってしまう程、人を惹きつける何かがあった。
事実、この女は一宗教の御本尊であり彼女を信仰する信者も大勢居た。
世が世であるなら救世主にすらなれただろう。
その素質を自分一人の為にしか使わないこの女の息の根を止める事を綱吉は躊躇わなかった。
最初は殺さなくても良い方法があるのではないか、そう考えていた。
「あら、ふふふ…………」
しかし、この女を見た瞬間、超直感が、本能が、あるいは沢田綱吉が培って来た常識の全てが殺さなければいけないと判断した。
結果、戦って戦って戦い続けて、彼女を守ろうとする信者にすら手を掛けて女の心臓を貫いた。
その瞬間、未来からの記憶を受け取り理解する。
何故、これ程までにこの女の存在を許容出来ないのかを。
「まさか、同じ獣に討たれるとは…………」
「…………」
失われていくだけの命となった女は綱吉に語り掛ける。
この女の言葉はただの毒でしかない。聞くべきではないと超直感が告げている。
だが、同時にこうも告げていた。この女が言う事は全て事実だと。
「獣同士ならお互いに相容れなくて当然、ですわね…………妖精の彼女一人なら…………どうとでも出来たでしょうに」
「お前の危険性は分かってた。だからオレ一人で来たんだ」
そう言って綱吉は自分専用の礼装である廻時剣の残骸を指でなぞる。
自身の能力を拡張するこの礼装は、相手の攻撃に対し時間経過で耐性を獲得する事が出来る。この能力があったからこそ、この女に対し優位に立てた――――否、仮に無くても勝つ事は出来ただろう。
「それで、どうするおつもりですか? 同類の人」
「…………オレは、お前と同じじゃない」
その言葉を最後に綱吉は女の身体を消し飛ばした。
アルトリアから貰った、試作品の剣は綱吉の力に耐え切れず砕け散る。
「オレは、お前と同じじゃない」
女の言葉を否定するように綱吉はもう一度呟く。
しかし、未来の記憶を受け取った瞬間からそれは違うということを突き付けられていた。
自分の未来は、あんなどうしようもない結末だ。
救いなんてものは殆ど無く、信念や誇りは捻じ曲げるしかなく、守るべき人達に終わり無い苦痛を強いるだけの未来。
それを見て、沢田綱吉の心はポッキリと音を立てて折れてしまった。
自覚は無い。けれども以前は考えなかった事を後ろ向きな事を考えるようになった。
自分が王様になったからあんな酷い未来になったのではないか?
自分は聖剣の担い手として不適格だったのではないか?
そもそも自分のような人間はアルトリアと出会うべきではなかったのではないか?
そんな時だった。
「オレはリボーン。てめぇをボンゴレファミリーの10代目にする為にやって来た家庭教師だ」
晴のアルコバレーノがやって来たのは。
それからというものの波乱万丈な毎日だった。
死ぬ気弾のせいで迷っていた事を強制的に決意させられ、この年代ではしなかったであろう命をかけた戦いに繰り出される。
本当に大変だったし辛かった。だが、それ以上に嬉しかったのはアルトリア以外の友達が出来た事だ。
最初はアルトリアとの繋がりだけを守ろうとしていたが、知らず知らずのうちに仲間達は綱吉の中で大きなものになっていた。
あるいはそれこそがリボーンの目的だったのかもしれない。
「どうすれば、良いんだろう」
綱吉は悩む。どうすれば世界を救えるのか?
決して頭の出来が良くない綱吉は必死に一人で考える。
死ぬ気で考えて、超死ぬ気で考えて、考えて考えて考えて、その答えを導き出してしまった。
「――――この星から旅立つ」
この星がもうダメだと言うのなら宙へと飛び立てば良い。
言うだけなら簡単で、現代の技術力では実現不可能な無理難題。
今の人間には生きたまま太陽系の外へと行く方法も無ければ、居住し生活を可能とする環境を整える事は出来ない。そして、人間が暮らす事が出来る環境の良い惑星はこの太陽系には地球以外存在しない。結局のところ、前提として人間というハードのままではこの星の海の航海に耐えられないのだ。
だが、その二つの条件をクリアする事が出来るのなら――――。
「第三魔法は人を高次元の存在へと進化する。肉体が必要じゃなくなるなら宇宙への旅立ちだって耐えられる」
そもそも、第三魔法はその為の魔法だとアルトリアが言っていた。
この星から巣立つ為には今の人類の規格では不可能で、それを可能にするのが第三魔法なのだから。
「問題は、星間を航行する為の神の方舟だ」
全人類に第三魔法を行使したところで、宇宙に逃げ出さなければORTに喰われるだけ。
仮に今の人類の叡智を結集した宇宙船を作ったところで全員は逃げられない。
そこまで考えて、綱吉は昔アルトリアから聞いたとある世界に産まれた憐憫の獣の話を思い出す。
「第五魔法によるより良い前提の書き換え…………それを使ってオレ自身が神の方舟に、新たな星になれば…………」
瞬間、綱吉の頭の中で全てのピースがハマった音が鳴り響く。
アルトリアを犠牲にせず、皆も死なせずに全てを解決出来る方法を思いついてしまった。
「出来る」
頭の中でシミュレートした結果を超直感が可能だと告げる。
全ての人間を第三魔法で進化させ、神の方舟と言う名の星になった綱吉自身に移住させる。
昔の人が考えた地動説を参考にすれば、地球に居るのと変わらないように過ごす事が出来るだろう。その二つを実現させる為に莫大なエネルギーが必要という欠点はあるものの、実現自体は不可能では無い。
「時間はギリギリになるだろうけど、やるしかない」
軽く計算しても実行するのに20年も必要で、第三魔法を会得しなかればならないが希望が見えた。
その事に綱吉は嬉しく思いながら、自身の身体に術式を打ち込む。
逆光運河・生命転身。アルビオンの悪竜現象を促進させるこの術式の効果による苦痛に苛まれる。
その苦痛が逆に綱吉の頭を冴えさせ、ある言葉が脳裏に過ぎる。
――――本当に出来るのか?
それは誰かの言葉ではない、自分の胸の内から溢れた言葉。
――――分かっているのか? お前がやろうとしている事を。
自身の善性、あるいは悪性、もしくは本音が今の綱吉の考えを考え直すよう諭してくる。
これから綱吉がやろうとしている事は誰にも許される事はなく、何の報酬も貰えない仕事だ。
人類に第三魔法をかけて新たな星に乗せる際、一度全人類を、全生命を殺さなければならない。
取り返しがつくとはいえその苦痛は決して無視できるものではないし、そもそも移住の際に新たな霊長として生まれ変わる為、実質的には死んだも同じだ。
そして、それだけの罪禍を犯した償いのように、新たな星となった綱吉の自我は消失する。いずれアーキタイプとして自我を獲得するかもしれないが、それは最早沢田綱吉では無い。
――――お前がやりたくない事を、絶対にやりたくない事をしてまでそんな事をする必要があるのか?
自分が消えればもう二度とアルトリアや仲間達と一緒に生きれない。
――――世界中の人を救う必要なんてない。
自分をダメツナと嘲笑った奴等を助ける義理なんて無い。
――――お前は正義の味方なんかじゃない。
沢田綱吉は正義の味方なんかにはなれない。
結局のところ、沢田綱吉は普通で平凡な人間だ。
世界中の人々を助けたいだとか人並み外れてるような尊い願いも、他者を踏み付けてでも欲しいものなんか無い。
綱吉が望むのは争いなんか無い、いつものように繰り返される平凡な日常。
あの時から何一つ変わっていない何処にでも居るような普通と言うにはダメ過ぎる中学生で――――本来ならそれが非凡である事にすら気付く事は無かった聖剣の担い手として選ばれた特別だった。
「それでもやる」
内から出て来る小言に対し綱吉はきっぱりと断言する。
人は変わるものだ。前までの自分なら強くなっても喧嘩が強くなっただけで、それを武器にして生きていこうだとは思わなかった。
何時迄もこの日常が続いてほしいと思っている。
でも、そうではないのだ。永遠に続くものはなくいつかは終わりが来る。大切な人達もいつかは死ぬし、この力を武器にして生きていかないといけない世界だと知っている。
嫌な事であっても、望まない事であってもやらなければいけない時がやって来た。
だから、これはそれだけの話でしかない。
「皆には生きていてほしい、幸せになってほしい。本当の事を言うと、そこにオレが居るのが良いしそもそもこんな事をしなくても良いのが最善なんだけどさ」
ずっと平穏な日常のままで居られたならば、皆と一緒に笑い合える未来があったならばどれだけ良かった事か。
だがそんなものは存在しない、ありもしない仮定を考える事ほど無意味な事は無い。
「仕方ないかなって」
その一言で綱吉は色々な物を切り捨てた。
未練も、慚愧も、憐憫も、忘却も、愛欲も、快楽も、幸福も、停滞も、全てを放棄した。
この星の最後の王としていずれ自分の民となる世界中の人々を
――――それが彼が人類悪へと成り果てた理由
以上の経緯を持ってして彼のクラスは決定された。
ボンゴレ10代目なぞ偽りの名、其は人類を強制的に巣立たせる大災害。
――――その名をビーストX。
自身の犠牲を持って世界を滅ぼし、救う『犠牲』の理を持つ獣である。
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「――――白蘭のせいでプランは大分狂ったが、これがオレの理由だ」
何時の間にか解除されていた固有結界。
その世界から投げ出された私達に向かってツナはもう見せる物は無いと言わんばかりに言葉を続けた。
「分かってくれとは言わない。だけどこれだけは嘘じゃない。オレは、皆の事が大切だ。だからやるんだ」
ツナの言葉に嘘は何一つ無い。
その事を妖精眼を持たない皆も理解していた。
「10、代目…………」
「ツナ…………」
ツナの親友である獄寺と山本はかける言葉を失った。
道を間違えたわけじゃない。熟考し一人悩んで答えを出した今のツナの戦う理由を聞いて、二人は何も言えなくなった。
雲雀さんと笹川先輩は状況を把握出来ていなかった。
それでも雲雀さんはツナが悪いと判断しているみたいだけど、手を出せないのは何か思うところがあるからなのか。
クロームは何も言わずに、ランボは今にも泣き出しそうな顔でツナを見ていた。
私とリボーンは、何も言う事が出来なかった。
だって、彼がビーストになったのは私達を守る為であり、私達が居たから出した結論だったのだから。彼が必死になって悩み抜いて出した結論は、例え他の誰かと一緒に考えたとしても同じものになっていただろう。
「沢田さん…………貴方の考えは分かりました。けど、黙って受け入れるわけにはいきません」
そんな中でもユニは真っ直ぐツナを見ていた。
「貴方は言いました。白蘭のせいでプランは狂ったと…………なら貴方の目的は絶対に達成出来ない」
「だから、色々と予定は変えるつもりだ。足りないエネルギーは世界中の人々から直接奪って確保すれば問題は――――」
『
ユニの言葉に反論するツナを説得しようと、今まで見ていた初代が前に出る。
『自分のやっている事が間違っている事も、こんな事をしても何も解決しない事も』
「…………そんなの言われなくても分かってる」
『なら――――』
「じゃあ代案を出せよ!! 何でも良いから、何とかする為の方法を…………っ!!」
優しく語り掛ける初代にツナは初めて声を荒げた。
いや、違う。ツナは、心の内ではとっくのとうに限界だった。
皆の平和な日常を愛するツナが、その平和はどう足掻いても壊れるという事実に耐えきれるわけがなかったんだ。だから、必死になって考えたんだ。人類悪になって報われない最後を迎える事になると決意しても。
私は、今のツナにかける言葉を見つけられなかった。
「はぁ…………はぁ…………もういい、これ以上の話し合いは必要無い」
『Ⅹ世――――!!』
「オレは、貴方達とは違う。オレがやらなくちゃ、ダメなんだ…………!」
会話を打ち切り、ツナは天上に向けて人差し指を向ける。
次の瞬間、夥しい数の死ぬ気の炎の塊が発生した。
「メテオシャワーアクセル…………これなら対粛清防御も関係無い!!」
「っ、ツナ…………!」
加減をやめて、本気で仕留めにかかろうとするツナ。
死ぬ気の炎は覚悟の力だ。ツナの真意を聞いた今、覚悟が揺らいでしまった皆では防ぐ事は出来ない。いや、そもそもあの炎の一つ一つが私達を殺せるだけの力が込められている。
対粛清防御も連続波状攻撃を前には太刀打ち出来ない。
万事休すか――――そう考えた時だった。
ツナの攻撃、メテオシャワーアクセルの死ぬ気の炎が一つ残らず消失したのは。
「っ、何!?」
「悪いが黙って見ているわけにはいかなくなったのでね」
突然の事態に困惑するツナに語り掛けるよう、全く聞き覚えの無い声がした。
「きみの語るプランは、私にはとても受け入れられないのでね」
その声がした方向には鉄帽子の男、チェッカーフェイスが立っていた。