キャストリアに転生したが原作を壊してしまった 作:霧ケ峰リョク
「一酸化炭素。大気中に存在する気体の一つで、酸素以上に人体に吸収されやすい。正確には違うだろうし、詳細な情報を知らないから上手くは説明出来ない。でも、火事があった時に口元を布で覆って隠して吸わないようにしなくてはならないくらいには危険な毒だ」
身動きが取れなくなったチェッカーフェイスに、ツナは何が起こったかを解説する。
その解説を聞いてチェッカーフェイスは自身の身に起きた症状を理解する。
一酸化炭素中毒。自覚症状に気付きにくいこの気体に気付く頃には重症化している事もある、酷く厄介な代物だ。無味無臭なの気付くのを遅れさせる要因の一つなのが厄介さを更に際立たせている。
故に、この毒を採用した。
「不思議に思ってるな。やり方は簡単だ。大空の炎の特性で大気中の全ての空気を一酸化炭素に変えただけだ。死ぬ気の炎を使えば身体に有害な気体を吸い込まないように出来るけど、その気体以外存在しないのなら防ぐ事なんか出来ずに吸い込むしかない」
「まさか、無駄に炎を放出していたのは全て…………」
「この為だよ。結界を張ってくれたおかげで酸素を消費するのも早く出来たし、本当にオレの思い通りのままに動いてくれた」
死ぬ気の炎は通常の炎とは異なるが、それでも炎に似た性質を持っており酸素を消費するという特性がある。
酸素が無い場所でも死ぬ気の炎を使用する事は可能だ。が、こうした密閉空間においては酸欠の危険性が存在する。
10年後のボンゴレファミリーの雲の守護者、雲雀恭弥が有する奥の手の一つである裏・球針態がこの状況に最も近い。唯一の違いはそこに毒ガスの有無だ。
「霧属性なら幻覚で酸素を作る事だって出来なくはない。けど、それは普段通りの状態だった場合の話だ。一酸化炭素中毒に加えて酸素が無い今のお前にそんな高度な幻覚を作る事は不可能だ。まあ、死に瀕している今のお前に反撃の為の死ぬ気の炎を出す事は」
「だ、だがそれはきみも同じ条件の筈…………」
「そうだな。不死になっても身体は生命体のままだ。毒の影響だって当然ある。でも、もう慣れた」
綱吉がそう呟いた瞬間、額に灯っていた炎が激しく燃え上がる。
「体外の空気を一酸化炭素に、体内に入った瞬間に酸素に変えれば影響を受ける事は無い。今までは同時に調和を行使しなければいけなかったから操作に苦戦してた。けど、もう問題無い」
「全く別々の操作を同時に、だと?」
「慣れたらそんなに難しい事じゃない。それに
そう、似たような事は既にやっている。
+の境地と-の境地という相反するものの同時操作をする事が出来るのなら出来ない道理は無い。むしろそれと比べれば死ぬ気の炎の特性を別々に行う事は非常に簡単なものだった。
「尤も死ぬ気の炎を特性に割いている分、死ぬ気の炎の攻撃力は皆無に等しいけど…………」
綱吉は手に持っていた刃をチェッカーフェイスに向かって振るう。
身に迫る刃にチェッカーフェイスはまともに動かない身体から死ぬ気の炎を放出して身を守ろうとする。
最後の抵抗としては弱々しいものだが、それでも今のツナの死ぬ気の炎よりは出力が上だった。
だが――――リング争奪戦で固有結界が暴走した際、綱吉は身体の中に死ぬ気の炎を流す回路を生成している。
その回路が出来た事による恩恵として死ぬ気の炎の燃費と強化率が向上し、三倍の量の死ぬ気の炎を有する相手と同等のパフォーマンスが発揮できるようになった。
故に、僅かに上回ってるだけのチェッカーフェイスの防御が貫かれるのは自明の理だった。
「がっ――――」
鮮血が飛び散る。
身体を袈裟斬りにされたチェッカーフェイスがその場に崩れ落ち、身に付けていた鉄帽子と顔が剥がれ落ちる。否、最初からチェッカーフェイスとしての顔は素顔では無かったのだろう。
不気味な鉄帽子の男の顔はそこには無く、眼鏡を掛けた何処にでも居そうな普通の男の顔だった。
その事実に綱吉は興味を見せず、剣を下ろす。
「あんたの敗因は、オレがあんたを倒せる手段が浸食固有結界だけだと思った事だ」
剣に着いた血が滴り落ちる中、綱吉は呟く。
「もし、オレが脅威になると判断したならこんな風にタイマンで戦うんじゃなく、徹底的にリソースを削るように動くべきだったんだ。復讐者や白蘭と手を組んだのなら尚更そうすべきだ。復讐者は分からないけど、ミルフィオーレファミリーなら大量破壊兵器だって持ってる筈だし、お前が提案したORT対策のような手法をオレにも取るべきだった」
地に倒れ伏したチェッカーフェイスを相手に思ったことを吐き捨てる。
それが敗因であると告げるように。
「沢山の犠牲が出る事を嫌ったのか、それともその方法を使ったらこの星にもダメージが行くと考えたから出来なかったのか――――いや、違うか。最初からそんなことを考えてなかっただけか」
零地点突破・改でGHOSTを処理しつつ、雷のマーレリングを拾いながら綱吉はある考えを口にする。
「お前達の種族は強大な力を持っていたけど人数は少なかったし殺し合ったりとかはしてない。その時点で種族として、生物として負けてたんだよ。今の人類以上に同族他種族関係無く殺し続けてきた存在は居ないんだから」
それが美徳であるとか誇りであるとかそんな事はない。むしろ恥でしかない。
古代人達は自分以外の他者を尊んだのは素晴らしい事だし、彼等の理念は理解出来る。だが彼等が望んだのはこの奇跡の星を守るという
それに対し現行人類は真逆だ。この星を食い潰しかねない程に増え、同族相手でも関係無く殺し合う。ただ殺すだけではない。どうすれば楽に殺せるか、苦しませて殺せるか、多くを殺せるか、効率良く殺せるか、自分で手を下さずに殺せるかを考えて発展し続けてきた。
ボンゴレファミリーの業が鼻で笑い飛ばせる程に今の人類の業は悍ましい。だがそれ故にこの星で最も栄えた種族となった。
最初から強い存在が、争う敵が居ない存在が殺し方に工夫を持たせようとするわけがないのだ。
皮肉な話だが妙に納得できる。
結局のところ、チェッカーフェイスは優しかったのだ。
当然と言えば当然の話だ。アルコバレーノのおしゃぶりを作ったのも苦肉の策でしかないのだから。
恐らく、他に方法があったらそっちを選んでいた事だろう。
だがそうはならなかった。それだけの話だ。
「さて、と…………後はお前を取り込むだけだが、先に外の皆の方を対処するか。一思いに終わらせてやる」
「…………マーレの子が貼った結界は、私の貼った結界と同じく、きみの侵食固有結界の発動と同時に巻き込んで自壊する仕組みだ」
「そんな事は見れば分かる」
ミルフィオーレファミリーが張った結界もチェッカーフェイスの結界同様、浸食固有結界を自壊させる効果がある。
完全に完成した浸食固有結界なら話しにならない対策だが、僅かな時間しか展開出来ない現状では有効な策だ。
尤も、それは上手く機能すればの話だが。
「本当、念には念を入れといて良かった」
ピシリ、と音を立ててミルフィオーレファミリーが張った結界全体に亀裂が入る。
「っ、何…………が?」
「古代人のお前には分からないかもしれないけど、裏切りだって人間の業の一つだよ。まあ、こんな状況になるとは思ってなかったけど」
「――――っ」
その一言でチェッカーフェイスは綱吉が何を仕掛けたのかを理解する。
だが気付いた時にはすでに遅く、最早挽回は不可能だった。
「終わりだ、チェッカーフェイス――――
砕けた結界の中から、綱吉は戦いを終わらせるべく侵食固有結界を発動する。
砕けた結界では侵食固有結界を打ち消す事は不可能だった。
+++
「やあ、ユニちゃんにアルトリアちゃん」
綱吉とチェッカーフェイスが二重の結界の中に取り込まれてから数秒も経たない内にミルフィオーレファミリーの頭目である白蘭が降り立った。
背中から生えている火の粉が散ってる白い羽、右手に付けた大空のマーレリング、左頬に波のような痣と白髪に軽薄な顔。
この時代を滅茶苦茶にした張本人の登場に、皆が警戒する。
「ああ、安心は出来ないだろうけどさ。僕はもう君達と争う意思は無いよ」
「てめぇ…………! そんな言葉、信じられるわけねぇだろうが!!」
「…………多分本当の事ですよ。警戒はしておいた方が良いですが」
少なくとも妖精眼は白蘭が嘘を言っていないと告げている。
だからこそ気になるのは彼が何の為にこっちに来たのか、だ。
「私達に何か用でもあるんですか?」
「いやー、綱吉クンの事でちょっと謝ろうかと思ってね」
「…………手遅れですよ」
そう、何もかもが遅過ぎる。
リングの発見や
世界征服をした覇者として君臨するのもまだ許容出来た。
だけど、全時空を支配する神になろうとして、並行世界一つ潰すような暴挙に出たのは最悪だった。
並行世界とは可能性だ。だけど無差別に存在する事は出来ないし未来の無い世界を剪定する事で削除される。だけど白蘭は世界のルールを壊そうとして潰した。
その結果、世界に負担が掛かってしまいORTの襲来が早まってしまった。
結論は同じでも、ツナは出来る限り穏当な手段を取ろうとした。
誰にも気付かれないように時間を掛けて実行し、気付いた時には既に手遅れという達の悪さを感じたけど、それでもまだ穏当な方法だった。
だから、ツナが乱暴な手段を取らなければいけなくなった
「まあ、でも自分の事を少しでも悪いって思っているのなら、ツナを止める為に手を貸して下さい」
「っ、こいつがオレ達の味方になるわけねぇだろっ!!」
「そうかもしれませんね、でも今の私達には彼等の助力が無ければ勝てません」
「――――!!」
怒りの形相を浮かべる獄寺に呟く。
「私は、ツナが大切です。そのツナが自分で自分を殺すような真似をしてるんです。それを止める為なら何でもします。じゃなきゃ、もう止められない」
今のツナは言葉では止まらない、止められない。
結局、ツナが言った通り倒して言うことを聞かせるしかない。
その意図を理解したからか、皆が私の顔を見て神妙な顔をした後、強い決意を宿した顔になる。
これなら多分、大丈夫だ。問題があるとしたら今の戦力で勝てるかどうか、だ。
「その心配はいらないんじゃないかな? 中でチェッカーフェイス君が戦ってるわけだし。いや、綱吉君も化け物みたいに強いから絶対とは言わないけどさ」
「それが分かってるならもう一つ肝に銘じておきなさい。こういった状況に置かれたツナは必ず踏破します。彼は、私が選んだ聖剣の担い手ですから」
私がそう告げると同時にミルフィオーレファミリーが張った結界に亀裂が走る。
「っ、嘘でしょ? 今の綱吉君でも半日は抑え込める筈なのに…………!」
驚愕に満ちた白蘭の声が響くと同時にミルフィオーレファミリーの張った結界が罅だらけになる。
あの結界が崩れさるのは時間の問題、いや、もう数秒も無いだろう。
だけど、一つだけ疑問がある。白蘭が言った通り、あの結界は閉じ込める為のもので、今のツナでも十分に足止めする事が出来る。
にも関わらず唐突に砕けたという事は何かしらの外的要因があったということ。
だけどその原因を突き止める暇は無く、パリンと音を立てて結界が完全に砕け散る。
中から現れたのはどす黒く濃い藍色の球体で、それもミルフィオーレの結界が破壊されてから1秒後に割れた。
そして、二つの結界が砕け散った事で中に閉じ込められていた二人の姿を目視で確認できるようになった。いや、二人という表現は正しくはない。既にチェッカーフェイスは居ない。残っているのは血に塗れた
傷口の断面を見るに何か巨大な牙を持つ生物に食いちぎられたかのようにも見える。
一方で、対峙していたツナも無傷とはいかなかったのか、ボロボロの姿を晒していた。
「…………流石、長生きしているだけはあるな。まさか浸食固有結界を展開する直前に、強引に結界を作って抑え込んだ上に自爆しようとするなんて…………」
全身炎の熱で焼け焦げていて、身体中に生物ではありえない亀裂が全身に広がっている。
その上、亀裂から零れ落ちる死ぬ気の炎はツナの身体が今にも爆発するのではないかと思わせる程の圧力を感じた。
まるでツナ自身にも制御が出来ていないみたいだ。
どうしてそうなっているのか、その理由はツナの口元にべったりとついている血を見れば想像がつく。
でも、これは絶好のチャンスだ。
「全員! 総力を挙げてツナを叩いてください! 今のツナは時間の操作も、固有結界も展開出来ない!!」
チェッカーフェイスはツナには勝てなかった。だけど何も残さなかったわけじゃない。
恐らく、これが最後のチャンスだ。
今の私達がツナを撃退出来る唯一の機会――――!
「アルトリアの言う通り、今のオレは時間の操作も固有結界も使えない。それどころかこの身体じゃまともに戦えない」
戦闘態勢に入りツナを攻撃しようとする私達にツナは淡々と告げる。
ただ言っている内容と違って、彼の瞳からは戦意は消えてない。
「だから、思いっきり身体を伸ばす事にするよ」
――――ゾクリ、と全身に悪寒が走る。
透明感に満ちた大空の死ぬ気の炎がツナの全身を包み込み、一気に膨れ上がる。
熱さは感じなかった。ただ只管に冷たく、恐ろしい。
私達は竜の逆鱗に触れたのかもしれないのだという事を思い知らされる。
――――それがどうした。
逆鱗に触れたからなんだ、こっちは最初から竜を倒すつもりで戦っているんだ。
今更後悔する事なんかあるものか!
「勝負です、ツナ」
そう宣言する私の前に現れたのは巨大なドラゴンだった。
赤い鱗に巨大な身体、そして六つの首を持つ西洋竜。それに加えて本来は七つ目の頭部があっただろう胴体の真ん中にある首部分から、ジェット機を連想させるような竜の上半身が、アルビオンの上半身が生えている。
名前を付けるなら境界終末龍サタン・アルビオンと言ったところだろうか?
この世界を終わらせる存在として天使、あるいは悪魔、その両方の要素を取り込んだんだろう。
ツナだったドラゴンが、ドラゴンになったツナの雄叫びが世界を揺らす。
「
私の周囲に聖剣が現れ、その切っ先が全てツナに向けられる。
勝負はシンプルなものだ。ツナが私達を全滅させる方が早いか、私のホープウィル・キャメロットを当てる事が出来るかの勝負なのだから。
本当に不利すぎて笑えて来る。幼体とはいえビーストを相手に対策無しで戦わないといけないんだから。