キャストリアに転生したが原作を壊してしまった 作:霧ケ峰リョク
最近本当に忙しくて中々書けず、本当に申し訳ない。
ボンゴレ10代目。正確にはまだボンゴレ10代目候補を前に城島犬は苛立ちを隠せずにいた。
ただでさえムカつくマフィアだというのに、戦意を剥き出しにして此方を睨んでいるからだ。
自分達の目的を達成する為に必要な手駒とはいえ、とある理由から犬はマフィアが嫌いだ。否、嫌いという表現すら生温い。存在する事自体許せない。
故に自分に対し敵意を向ける綱吉に対し、叩き潰したいという欲が出た。
自分達の事を自分自身とまでいうリーダーの彼の為に、この男は五体満足で連れ帰なければならない。とはいえ、多少は痛い目に遭わせても良いだろう。
そうしなければ自分の気が済まないし、何より大人しくならない。
犬は自身と仲間達に心の中で言い訳しながらコングチャンネルによって獲得したゴリラの身体能力を使い、綱吉に攻撃を仕掛けようとする。
瞬間、背筋に極太の氷柱でも突き刺されたかのような、酷く恐ろしい寒気が犬を襲った。
それは獣の因子を宿し、その能力を行使出来る犬だからこそ察知する事が出来た脅威。
「…………これはあまり使いたいものじゃないんだけどね」
野生の勘から一歩後退り、警戒を露わにする犬に対し綱吉は淡々と呟く。
「今は時間も無いし、リボーンも居ないから特別に使ってやる」
怒り、焦り、様々な感情が入り混じりながらも綱吉は犬を見つめる。
何が起こるかは分からないがこのまま放っておいては不味い、脳がそう判断を下し犬は綱吉に攻撃を仕掛ける。
「
犬がゴリラを思わせるような巨拳を綱吉目掛けて振り下ろそうとする刹那、世界が暗転する。
そして、それが犬が意識を失う前に見た最後の光景だった。
+++
「――――っ、ぜぇ…………ぜぇ…………」
地に倒れ伏した犬を見下ろしながら、綱吉は肩で荒く呼吸をする。
上手く出来た、とは口が裂けても言えない。それに急いでいたと言い訳をして後先考えずに使って良い力でも無い。
今になって冷静では無かったと後悔するが時既に遅し。
たった一瞬、それも不完全なものだ。この敵を一瞬で倒すことは出来たが、これなら時間が掛かってでも普通に戦った方がマシだったかもしれない。
「いや、これで良い」
今戦った相手も決して弱くなんかない。獣の力を使う事が出来るし、何よりこれが全力だったとは思えない。
相手に何もさせずに一方的に倒すのが一番良い。
綱吉はそう自分に言い聞かせ、呼吸を整えて再び走り出す。
連発は出来ないだろうがまだ身体は動く。武器を持っているならまだ戦える。
アルトリアなら大丈夫だとは思うが、この世に絶対は無いのだから。
+++
「――――弾けて、シャスティフォル!」
「暴蛇烈覇!」
杖の先端から放たれた光弾と蛇のような溝が掘られた鋼球が衝突し、火花を散らしながら互いの攻撃が弾かれる。
「…………強いな」
「其方もですね」
自身の手元に戻った鋼玉を片手で地面に優しく下ろしながら呟く彼の言葉にそう返す。
世辞とかじゃなく本当に強い。今のツナでも正面から戦っても勝率は四割ぐらいしか無い。
私でも油断していれば負ける――――いや、状況によっては不利だし普通に負けるかもしれないくらいの実力の持ち主だ。
だからこそ、目の前の彼が明らかに手加減しているのは明白だった。
手を抜いている。と、いうよりは本意では無いと言った方が正しいだろう。不本意で本当にやりたくない事を自分の意思とは無関係に無理矢理やらされているという感じがヒシヒシと伝わってくる。
「…………解せないですね」
「何がだ?」
「戦いが嫌なのに何故こんな事を?」
「…………戦いが嫌いだと? 戦いこそがオレにとっての至福だ」
「嘘ですね」
淡々と私の質問に答えた六道骸と名乗った男に対し断言する。
「私の眼は特別性で、嘘を見破る事が出来るんですよ。尤も、見破るだけで相手が何を考えているかまでは分からないんですけどね。それでも嘘をついている事は分かるんですよ」
「…………何が言いたい?」
「言わなくても分かると思いますよ」
妖精眼を通して見る嘘はあまり気持ちの良い色とは言えない。それは強がりや痩せ我慢であったとしてもだ。
だけど、彼の嘘を見抜いた時は嫌悪感よりも怒りの方が強かった。
「私の瞳で見るまでもなく、辛い顔をしているんですから。戦う事が嫌いな自称六道骸さん」
「――――ッ!」
知識として知ってはいた。だが、こうして見せられると本当に酷い。
身体を操られて守りたいと思っていた大切な人達を殺させられ、挙句の果てに望んでもいない殺戮を繰り返させられている。自死する事も出来ずに尊厳を踏み躙られ続けている。
分かっている。私には彼を救う術はおろか、どうにかする方法が無いということは。それでも助けたいって思ってしまう。
例えそれが偽善に過ぎない思いだったとしてもだ。
「安心してください。私は貴方に壊される事はありません。こう見えても、凄く強いですから」
「…………すまない!」
私の言葉に目の前の男は後悔と苦悶に顔を歪めてそう呟く。
瞬間、さっきまでそこに居た筈の優しい青年の気配から、邪悪の気配に切り替わる。
妖精眼には魂を見る機能は無い。だが目の前に居る人間の中身が変わった事ははっきりと理解出来る。
「…………貴方が彼を操っている人、ですか」
「クフフ…………憑依した瞬間から見破りますか」
男の右眼が漢数字の六という文字が刻まれた赤いものに変化する。
口調もさっきまでの寡黙ながら優し気な雰囲気を漂わせていた男のものから胡散臭さと悪意しか感じられないものに変わり、一目見ただけで別人だと判断出来る。
「貴方が本当の六道骸ですね」
「ええ。その通りですよ。アルトリア・キャスター」
私の質問に対し本当の六道骸は乗っ取った男の身体を介し、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら答える。
「直接顔を見たわけではありませんが、貴方のこと嫌いですね」
「これは手厳しい。嫌われてしまいましたか」
六道骸は「クフフ」と不敵に笑う。
別に嫌われてもどうでもいいとしか思ってないだろうに。実際、この男にとって私なんかどうでも良い存在でしかない。
「それで、どうして出て来たの?」
「これ以上ランチアを貴女と戦わせるのはあまり得策じゃありませんからね。彼の力はここで失うにはあまりにも惜しい」
「逃すと思う?」
杖を六道骸が憑依した男に向け、いつでも攻撃出来るように準備する。
多少は痛め付ける事になってしまうが、これ以上自分の身体を好きなようにされるよりはマシな筈だ。
多分、彼自身もそれを望んでいる。
「勿論、思ってませんとも」
そう言うと憑依された男の右目が六から一に変わる。
すると足下の地面がぼこりと音を立てて膨れ上がり、次の瞬間には火柱が上がった。
「っ、幻覚!?」
何て
事前に六道骸にはそういう力があると知っていても、思わず熱を感じてしまいそうになる。
あまりにも洗練された幻術だ。しかもこれで発展途上なのだから末恐ろしい。
「ほう、知っていますか。貴女が何者か気になるところではありますが――――」
幻覚で視覚を潰された以上、相手が何処から攻撃を仕掛けて来るのか私には分からない。対策方法としては周囲一帯を根刮ぎ攻撃するか、無差別に全方向を攻撃するしか無い。
そしてその二つの選択肢、どっちを選んでも同じ結果のそれを私は選ぶ事が出来ない。
今戦っている場所は住宅街であの男の攻撃で破壊されてしまった私の家の前だ。無差別に攻撃するような真似をしたら、周囲に危害が及びかねない。
その為、私は自身の身を守る事にのみ専念する。例え相手に私を攻撃するつもりが無かったとしても、考えが変わらないというわけではないのだから。
「さっきも言ったように彼と貴女では相性が悪い。なのでここは逃げに専念させていただきますよ」
声が聞こえると同時に憑依された男が姿を現す。
その姿は陽炎のように揺らめいていて、間違いなくそこには居ないという事が分かる。
態々幻覚で自分の姿を映し出すなんてなんのつもりだろうか?
そう考えていると幻覚の男は私の家で管理していた、ツナに上げるプレゼントを作る為に参考にしたリングをその手に持っていた。
「それは――――!?」
「尤も、ただ逃げるというのも癪なので、これは貰っていきますよ。それでは、また会いましょう」
骸は私の家から持ち出したリングを握り締め、この場から消え去った。
術者が居なくなった事で幻覚も消失し、残ったのは完全に倒壊してしまった私の家だけだった。
「…………厄介な事になっちゃったなぁ」
本当にどうしよう。まさかあのリングが六道骸の手に渡ってしまうなんて。
私という存在が居るから原作通りに進む事は無いと思っていた。だけどまさかこうなるとは思ってもみなかった。
ツナに少しでも助けになるようプレゼントを作ったけど、これじゃあプラマイゼロだ。いや、むしろマイナスだ。
「本当、余計な事ばかりして…………でも、進むしかない」
どう足掻いても私には戻る選択肢は用意されていない。
原作よりも難易度が上がったとしても、ツナならば乗り越えられる。
そう信じてツナの為に作ったプレゼントを握り締める事しか、私には出来なかった。
ツナが原作よりも強いからね。
だから難易度を上げさせていただきました。
まあ未来編終盤は難易度ルナティックだから是非も無いよネ。