ウマ娘ちゃんと入れ替わってる!?   作:一般通過トレーナー

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第二話 本当に入れ替わった朝

多分、私は夢を見たんだと思う。

あまり言葉に出来ないけど、ふわふわして優しくて懐かしくて、けれどどこか寂しい夢。

 

経験してないはずなのに、確かにそこにいたような気がする。

知らないけど知ってる人、知らないけど知ってる景色、知らないけど知ってる気持ち。

 

これは私じゃない。

だったら何?

 

次々に移り変わっていく景色は、ただ走りに夢中になっていた。

他の何にも振り向かず、光速で流れ行く景色に魅入られたこの記憶は。

 

これは、アグネスタキオン――――

 

 

「――――ぐっ、痛!」

 

痛い、頭が割れるようだ。

こんなの今まで経験したことがない。

金槌で何度も叩きつけられるような強烈な衝撃。

 

頭の中心から弾け飛んでしまいそうだ。

何かに頭を叩きつけて痛みをごまかさないとどうしようもない。

 

鷲掴みにした頭を振り上げると、何かに包まれる感触がした。

 

「デジタル君、しっかりするんだ。問題ない、すぐに治まる」

「誰、誰だれダレ――――!?」

 

押さえつけられて、満足に身動きが取れない。

いくら体をよじっても逃してくれないようだ。

それでも、痛みを何とかして和らげようと体が勝手に動いてしまう。

 

結局私の意識はただ痛みに耐えるしか無かった。

幸いなことに、しばらくすると段々と頭が回るようになり徐々に和らいでいった。

 

「あぁ、はぁ……なに、もう……」

 

独り言を漏らしながら、何とか深呼吸して心を落ち着かせる。

三徹の体にエナジードリンクを無理やり何本も注ぎ込んだときもこんなことにはならなかった。

 

体の感覚も大分戻ってきた。

もちろんというか、とんでもない量の寝汗でびしょびしょになってる感じがする。

後でお風呂に入らないと大変だ。

 

ずっと強く目を瞑っていたが、そろそろ大丈夫なくらいには落ち着いてきた。

とんでもない目覚めになってしまったなぁ……

 

「どうだい気分は」

「…………だ、誰ぇ……?」

 

誰だかわからない人が目の前にいた。

多少驚いたが、かなり体力を消耗したのか体は動かなかった。

それに距離が近すぎる、というか抱きしめられてる?

 

「……私の顔はこんな表情もできたんだねぇ」

 

この人は何を言っているんだろうか。

落ち着いて見てみると、どこかで見たことがあるような気がする。

 

癖っ毛なピンク髪、幼さが抜けきってない童顔。

もしやこれは……私?

 

「おぉ、お……?」

 

頭の回転数が段々と上がっていく。

鏡を見ているわけではないことはわかりきっている。かといって夢ではないことも残った痛みからしても明らか。

 

そして戻ってきた昨日の記憶。

 

「……本当に入れ替わってる」

 

首元に垂れ下がった髪の毛を手で引っ張ってよく見ると、艶やかな栗毛色になっている。

つまるところ、タキオンさんの実験は成功したということだ。

 

「疑っていたのかい? ……まあ、私も確実とは思っていなかったがね」

 

そう呟くと、私の姿をしたタキオンさんは私から離れて共用机の椅子に腰掛けた。

……さっきまで私は何をされていたのだろうか? 抱きしめられていたような。

 

「ふぅ……すまないね、誤算だったよ。恐らく意識の定着に激しい痛みを伴うようだ。私も脳が爆発するかと思った」

「その割には何事も無かったみたいなお姿ですね……」

「もうシャワーは済ませた。それに、元の体の記憶がわかるようなので、服も着替えさせてもらったよ」

 

シャワー? 記憶がわかる?

ということは……デジたんの全部、見たしわかってるし――――

 

「――――――――」

「ほら、固まってないで君もシャワーで汗を流してきたまえ。私の体を汗くさいままにしないでくれ」

「――――!!?!?!?!!!!??!!!」

 

まずい、これは本当にやばすぎることになった。

私のあれこれ全部わかってて、私のあられのない体を洗って、他所様に決して知られてはいけない妄想のあれやこれやがすべて筒抜けになっているということで。

それにこれでシャワーを浴びるということは、一生見ることのないはずのタキオンさんのお体を触るということで。

 

「……今になってわかることだが、君は相当変態的な思考をしているようだな。別にシャワーぐらいなら構わないから早くしておくれ」

「……はい、行ってきます……」

 

終わった。デジたんの学園生活が。幾度となく夢見た花園での生活が。

やはり私なんかが関わるべきじゃなっかったんだ。大人しく一般ウマ娘としてライブを見に行くぐらいに留めておけということなのかもしれない。

気が付けば滝のように流れる涙が頬を伝い体を濡らしていた。

これ以上迷惑をかけないように、さっさと済ませてこよう……

 

 

 

 

 

「本当に私の体なのか疑うほどに表情豊かだねぇ」

「ヒェ……す、すみません」

「別に謝ることじゃないだろう」

 

シャワーを浴びて話をしようと言われ、びくびくと縮こまる哀れなウマ娘が一人。

いつもなら考えられない私とタキオンさんの光景。中身が逆転しているため端から見たらお互い気が狂ってしまったのかと思われるかもしれない。

 

「あの……ドン引きですよね、すみません……」

「まぁこんなことだろうとは思ったよ。別に気にしていないし、学園に言いつけようとも思わないさ」

「ありがとうございます……」

 

生気を失った私とは正反対に、タキオンさんは何気ない顔で私にはできない慣れた様子で紅茶を楽しんでいる。

中身が違うだけでここまで人は変われるんだなぁ……

 

「記憶の方はどうだい? その様子からして確実に意識は問題ないと思うのだが」

「そう、ですね。思い出そうとすれば全部分かるぐらいには鮮明ですね……」

 

ただ、いつまでも落ち込んでいてはいけない。タキオンさんの実験に付き合わせていただいているのだから、問いかけぐらいにはちゃんと答えないと。

 

「てっきり、記憶までは体が入れ替わってもわかるわけがないだろうと思っていたんですけどね……服の場所もすぐにわかりましたし、いやぁほんと凄いです……」

「これに関しては私の調整ミスかもしれないねぇ。目的は意識のみの交換だったが……これはこれでありかもしれない。同じ記憶があるなら君もわかるだろう?」

 

こくり、と頷く。

今はとても不思議な感覚だ。無意識で、というわけではないが、昔の記憶を思い出すような感じでタキオンさんのものまでわかってしまう。

ただ、非常に恐ろしくもある。今は壁のようなものがあって私とタキオンさんが分かれているようだが、もしこれが混じるようなことがあれば。

 

「……これ、人格とかはどうなるんですか? 途中で混ざったりとかは」

「未知数、だ。人格とは過去の経験によって形成されるもの。今はまだ私自身とデジタル君の記憶が混ざっていないが、この状態が長くなれば、私とてどうなるか正確に予測することはできないね。このままか主人格が維持されるか、混ざり合ってほぼ同一の精神を宿した二重人格のような奇妙な存在が二つ生まれるか」

 

流石、めちゃくちゃ怖いことを平然とおっしゃる。

しかしタキオンさんでもある今の私ならこの考えがわかる。

ようするに、なるようになれということだ。むしろ、少し楽しんでいるようにも思える。

 

「ただ私もいつまでもこの状態を続けるわけにはいかない。もう一度調合して、数値を取ったらすぐに元に戻るとしよう。この休みの間、二日といったところかな。私の体を楽しんでくれたまえ。私も迷惑をかけないように最大限努力はしよう」

「大丈夫なんですかね……」

「無茶はしないと約束するよ。というわけで、私は早速動くとするよ。せっかく記憶があるわけだし、戻るまではデジタル君を演じきってみせよう。そっちは自由にしてくれ」

 

そう私に告げると、タキオンさんは部屋を出てしまった。

……正直、やりたいことなんて何も思いつかない。記憶を漁っていくのはあまりに失礼だし、かといって何か行動して迷惑をかけるわけにもいかないし。

いつも、この人になれたらあれやってこれやって、とか。やってみたいことは山のように溢れるくせに、いざ本当にこうなってしまっては尻込みしてしまう。

 

「せっかくだし、研究室行ってみようかな……」

 

好きに動く許可はもらってるし、大丈夫だよね。やったら駄目なことは記憶にあるし。

 

身だしなみを整えようと姿見の前に立つ。今はタキオンさんの体を借りているわけだから、いつも以上に丁寧に見ないと。

 

「……本当に入れ替わってるんだなぁ」

 

ひらひらと鏡の中でタキオンさんが動いている。自分の意思でこのお姿が自在に操れるのを落ち着いて考えてみると、とても感動的だ。

 

この状態でちょっと表情を変えたらどうなるんだろう……

 

「――――ブフォッ! た、たまらん……!」

 

いけない、発作が。それにしても眼福すぎる。こんな笑顔こんな至近距離で観察できるなんて。

私に向けてくれているみたいで、とんでもなく幸せになれる。

 

「ふ、ふふっ、じゅるりら……悪く、ないですねぇ」

 

ガチャ。

 

「……私のイメージは壊さないでくれたまえよ」

「ヒュッ――――ハイ、スミマセン……」

 

バタン。

 

不敬なことをしたから、早速天罰が下ったんだ。

とんでもない勢いで暴れ出した心臓を落ち着かせた頃には、タキオンさんの気配はどこにもなかった。

 

……外では極力、素を出さないようにしよう。

きちんと身だしなみを整えて、研究室に向かうことにした。

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