ヒーローになっていろんな人を捕まえたい! 作:CRAZY Choco
──ああ、これは夢だ。
きょと、とコチラを見返す妹のマスタードのような眼を見て理解した。
俺の世界が灰色のコンクリートで構築されていた時の、遠い日の思い出。
『
夢の中の彼女の眼は無邪気で、無垢で、まるで他人事。
俺は〈家族〉の中でも泥沼の中で憎たらしい笑み浮かべるあの子の顔がそこまで嫌いじゃなくて───だから、泣きそうだった。
嘘を言わなければならなかったんだ、俺は。
『ヒーローなんていないんだ』
『現実にいないやつに希望なんて持つな』
って。
そっちの方が良かった。知らない方が良かった!
叶わない希望なんて、辛いだけだとわかっていた癖に、俺は黙っちゃったんだ。
ああ、息が苦しい。
───ズルいと、思った。
俺はヒーローがいると知っていて、助けてくれないと泣いて、さけんで、まるで奈落の底に落ちたような寒気と絶望感が身を削った。辛くて、苦しくて、自分が悪いのかと自問自答を繰り返して──そして……諦めた。当然の結果だった。
なのに、なのに───コイツは知らないんだ、辛くないんだ。あの痛みを、胸の張り裂ける思いをしてないんだ。
ギリィと歯を食いしばった。嘘をつく為に1度開いた口がギュッと結ばれたのが分かる。あぁそうさ、ただの嫉妬だった。……それを思い出す度に今の俺は俺の顔を殴りたくなる。あの時の俺は嘘を突き通すべきだったんだ。
後悔が心臓をツキリと刺した。喉が詰まる。酸素の巡らない脳が段々と冷やされていく感覚は……しかし俺を断罪すらしてくれない。
テレビの中で他人を救うヒーローを見て、「ハハ、ハハハ!かっこいいな!」と眼をキラキラ輝かせてはしゃいでいたあの子が、ヒーローをフィクションだと、助けてくれることはないのだと認識していたことを知った。
『そっか』
黙り込んだ俺に聞こえたのは、あの子のやけに穏やかな声だった。
『じゃあ、わたしたちのことは助けてくれないね』
──ざァんねん
悟ったように困ったように、憎たらしく笑うあの子の眼は曇天の空のように濁っていた。
******
【国立雄英高等学校】
一般的に雄英と呼ばれるそこは、この『個性社会』において他のヒーロー科のある学校とは少し違う意味合いを持つ。
偉大なヒーローになる為の登竜門
有望なヒーローの排出ならば紛れもないトップ校
ヒーロー科と言えば興味の無い人間でも雄英が (もしくは士傑) 真っ先に思い浮かぶ個性社会とヒーロー社会の象徴的高校。
目の前に来るとその迫力がわかるというが……テレビで予想していたよりもずっと大きい校門に、セツは少し気圧されて1歩足が下がった。同じように足を動かしたユイと顔を見合わせて呆れたようにふはっと笑う。
「テレビで見るよりクソデカ校門だ〜! マジウケる」
「お黙り受験生。不興を買うこと言うな媚びとけ」
「えなに? こんなとこから監視されてるの? 怖……」
ケラケラ笑う弟に「雄英は最高峰だからな。そういうこった」なんてめちゃくちゃテキトーな事を言って、こんなにデカい門いるかァ?異形型への配慮にしてもデカすぎね? そうぼんやりと考えながら門を潜る。
毎日のように見る夢。
今朝の夢は随分昔のことを思い出させてくれた。ヒーロー、
そこまで考えて切は、自分の思考が夢にだいぶ引っ張られているのに気がついた。はァァァ……とため息を吐く。ンなこと考えるとかダッッセ……メンヘラかよ。
「なァ、ユイ」
「ん?」
「受かんぞー」
「もちコース!」
「英語でoff courseでてミスっちまえ」
「ひっっっど……」
──受かればいいのだ。家族のこと言って言い訳なんて情けねェ。
正面玄関前には受験時間より早めに来たためか、会場に入らず試験範囲の見直しをしている人がチラホラといた。緊張でカチコチに固まっているのもチョロっと。そして一定数のやる気に満ちた眼と不敵な笑みを浮かべる彼らの姿は、テレビの中のヒーローと重なって、きっとヒーロー科の受験生だろうな、セツはほぼ直感でそう思った。
彼らがヒーローになったらどれだけの人を助けられるだろうなァ。ぼんやりと感じた。だからこれは現実逃避ではない。ないったらないのだ。
ユイ、スマホを構えるな。
エフェクト増し増し美白加工して校舎を撮るな。
は?ついでにツーショ〜? 他人巻き込むな!!そしてアンタもノるな!!!
…………王子みたいなポーズ取ってんじゃねェよ!!!
試験会場のますます高校と思えない造りに2人してワクワクと胸の高鳴らせ、実技試験の説明を待つ。
筆記試験は受付してしばらくして始まった。セツ達の3年間を全て濃縮して応用しないとできないようなクソ超高難易度だったが、何とか解き終わった。ああ、解き終わっただけだ、そうだぜ合ってるかわかんねぇつーか多分ダメだった。さすが偏差値79は伊達じゃないと言うべきか、ユイも解けてはいるだろうが問題は合格点に達しているかどうか。
そんな緊張感の中実技試験の説明はその場で行われると通達があった。キリキリとした胃の痛みを無視して予想よりも余裕のなかった筆記試験を思い心を落ち着かせる。あーぁ、いーよなァこういうとき、ユイは胃がイタくならなくて。純粋にそう思った。
『今日は俺のライヴにようこそー!! エヴィバディセイヘイ!!!』
机の上の資料にペラペラと目を通していると照明が壇上を照らす。急な爆音に、ビクッと2人して身体を揺らした。もう少し油断している時であれば声が出ていたかもしれない。口をきつく押さえる自分の手がそれを証明していた。
いつの間にか説明会場は人で埋まっていて、それでも気釣くのが遅れたのはお喋りに興じる者が居なかった為だろう。
壇上に現れたのはボイスヒーロー『プレゼントマイク』 雄英高校の教師であり、ラジオDJであり、ヒーロー。三足わらじの生活を保っているすごい人だった。その声を聞いた瞬間セツとユイはばっと顔を上げた。長年PresentMICのぷちゃへんざレディオを聞いていた2人が顔を輝かせるのは当然の帰結だった。
ぅわ、推しが目の前で動いてる。そういうことだった。
やべぇクールだめちゃくちゃ、なァユイ。
うん、ヤババイ。好きだぜ僕。もっと近い席がよがっだ……!
あきらめろん。
しね!
興奮状態の2人と裏腹に静まり返る講堂。
『こいつぁシヴィー!!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? YEEEEEEEAH!!!!』
ノッてこない受験生を気にすることなく説明を始めるプレゼントマイク。純粋にメンタル強ェなと思いながら『リスナー』という言葉にファン心を擽られソワソワする。またそーやってお前は俺たちを喜ばせる!!!!
ファンの性で集中しきれてない中、1人の生徒が手を挙げた。ぎこちない動きから緊張しているのかと思ったらそうでは無いらしく、話し始めるとスラスラと質問をぶつける。すらすらつーか勢いつよ……!むしろ怖い。
「質問よろしいでしょうか! プリントには四種の敵が記載されています! 誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!! 我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!
……ついでにそこの縮毛の君! 先程からボソボソと気が散る! 物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ!」
「ヒュっ、すみません……」
質問ついでに注意された緑髪の子は萎縮してしまったようにしおしおと謝った。ユイは小さく「……痴態……痴態か?」とつぶやき、切が「注意されたくないから黙れ」と返す。ユイはそっと肩を竦めた。
『オーケーオーケー受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな!』
「は? 今受験番号7111認知された? 僕もされたい兄貴何とかして」
「俺実は認知されたくない派なんだよね」
「はぁぁ……つかえねー」
「クソガキ」
目の据わった弟から若干距離をとりつつ資料を見返す。メンヘラかコイツ。ああなるほど双子だな。セツが心の中で納得しつつ資料を見て思う。心無しか1.2.3ポイントの仮装ヴィランロボットの影は数字が大きくなる事にゴツくなってる、かァ??……倒すのがダルそうな3ポイントか、楽そうな1ポイントか。判断力を試している? それともどれだけヴィランを効率的に倒せるか? 挑戦する心? 純粋なポイント制か?
『 4種目の敵は0P! そいつは言わばお邪魔虫! 各会場に一体! 逃げる事をオススメするぜ!』
試験会場……少なくともこの何百何千と入る講堂よりも大きいだろう。そこに一体……広大な試験会場を一体だけで邪魔できるということは、バチくそ速いロボットでも投入するのだろうか。「バカでかい可能性もあるよ。
「同中は違う会場みたいだからミスってもフォローできない。色んな可能性頭に入れとこ」
「試験時間は10分だけだ。体力調整はしなくてもいい分頭のリソースに余裕があンのがいいな」
『最後にリスナーへ我が校の【校訓】をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った! "真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者"と!
試験会場
試験説明後、各自動きやすい服装に着替えバスで案内されたのは巨大な市街地だった。着いた時には開いていた市街地への扉。もう入っていいのだろうか。スタートの位置は? まず試験官はどこにいるのか。
試験とはこんなに緊張するものなのか、とセツは自分でも驚いていた。
初めての試験、いつもよりずっとずっと気を張っているのがわかる。今の状態で不意を突かれれば調子を崩すのは必至。だから先手を打つのだ。
視線を走らせ試験官が見つかったのは高い高い外壁の上だった。何故そんなところに、そう思う間もなく口に当てられていたメガホンを使おうとするのが見えた。
瞬間、セツは今何をすべきなのかを明確に理解した。野生の勘に似た何かだったように思う。
『ハァイ! スタァートォ!!!』
ビリリと鼓膜を揺らす音声が鼓膜に伝わる。
他の受験生を置き去りにして走り出す。
自分の個性を生かすべくこれから"戦闘をする"のだと強く思い浮かべる。そうしてグンッと先程よりもずっとずっと上がった身体能力に、その万能感に、セツはただにやりと笑った。
「標的捕捉!! ブッ殺ス!」
「殺意高ぇなァおい」
接近してくる仮装ヴィランロボットにそう言いつつ、すれ違いざま影を伸ばして身体を拘束する。喉近くの配線を素早く破壊して、声に集まったロボット達を視界に入れた。セツの周り、半径1メートルにはどっぷりと沈んでしまいそうな影が指していた。
───見えるヤツはさァ……
「捕まえンのも、簡単なんだよなァァ!!!」
ギャハ。そう笑いながらロボットの影を操り拘束する。四肢に (?)に黒い影が巻き付きギギギ……と音を立てて拘束を破壊しようとするロボットを嗤う。そんな非力な抵抗じゃ俺の影から逃れらンねェよ。
1ポイントロボットは比較的壊しやすいが、3ポイントロボットは防御力が高くて破壊しづらい。それを素手で破壊可能にしているのは切が普段からかけている個性のおかげだった。
個性【契約】
自分や相手に対して特定のデメリットによって同等のメリットを得ることが出来る。
また契約を結ぶことで破ることのできない約束をすることや破ると事前に決めて置いた罰が下る約束ができる。
それによって切は普段の身体能力を2分の1にし、任意で身体能力を2倍にできるようにしていた。
普段2分の1にしている分戦闘時は4倍になったように感じる。少し扱いづらいが増強系のような動きのできるこの契約を切は気に入っていた。あ、い───オイオイオイオイ逃げんなよ……あァ? 不意打ちなんざ、してんじゃねェよォ!!!
「これで38ィ!!」
ロボットの脳天に足を叩き込んで点をプラスした。
他の受験者も10、20と稼ぎつつある中、この点はいささか不安だ。暑くなっていく身体とは対照的に冷静な頭がそう決断を下して、ポイントを獲る他人がいない所まで移動し、また稼ぐ。あーー、ぎっっつぅ……。身体鈍ってるぅ……。
40………43………45!
45ポイント目のロボットを倒した、その時だった。轟音が響き地面が衝撃で揺れる。
「なんだ!?」
「ヤベェ瓦礫が!」
他の受験生がそう言っている中、セツは音の発信地の方をジィっと観察していた。
───おい、おい。おい!こりゃあ……
「ユイの予想、大当たりってとこだなァ…」
砂煙の中から出てきたそれの馬鹿みたいにデカい頭部には"0"とその仮装ヴィランロボットのポイントが書かれていた。
受験生達は示し合わせたかのように逃げ始めた。セツもそれに習って敵から背を向けた。アイツが建物を少し小突くだけでコッチは簡単に埋もれて死んじまう。試験でここまでやるゥ……??? こっえーよアイツ……。そう呟きながら近くで瓦礫に挟まった人の瓦礫を影で砕き、脚を怪我したやつには影で作った犬擬きに乗せた。
試験だから問題ないかも知れないが、少しでも命の危険ならば助け合うべきだと思ったから。
ロボットが暴れても被害が出ない程度の場所まで下がった時、やはり高い高い外壁の上から
『しゅ〜りょ〜!!!』
試験の終わりを告げる声が、会場に響き渡った。
試験後、怪我をした人はリカバリーガールによって治してもらい、帰路についた。校門前でニヤリと笑う弟と合流する。
「どうだった? あ〜にきぃ」
「そこそこ。0ポイントがデカすぎて45で撤退したンだよなぁ……」
「いやホント、マジそれな。でも僕怪我とかすぐ治るからガンガン行けたのさ☆」
「俺だって治るわ、ただ怪我はしたくないやろジョーシキ的に考えて」
そんな会話をしながら戦闘から解放され身体能力が落ちた切はかったるそうに肩を竦めた。
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影操 切(えいそう せつ)
誕生日 3月29日
血液型 A型
性別 男
年齢 15
身長 181cm
個性
【契約】
自分や相手に対して特定のデメリットによって同等のメリットを得ることが出来る。
また契約を結ぶことで破ることのできない約束をすることや破ると事前に決めて置いた罰が下る約束ができる。
口頭で契約した場合イレイザーの抹消で消えるが紙で契約すると消えない。
【影操】
自分から半径2m内の影を自由自在に操る。影を伸ばして拘束したり鋭く突き刺すことも出来る。
自分の影ならば物を入れることもできるがその重量は本人にかかる。また自分の影の中に入り影を伸ばした先に出ることもできる。
影操 結(えいそう ゆい)
誕生日3月29日
血液型 A型
性別 男
年齢 15
身長 175cm
個性
【回復】
生きているものであれば触れることで結の最良だと思う状態に回復できる。ただし生きているものの一部を体内に取り込まなければ暴走してしまう。暴走すると片腕が無い人の腕を生やそうと思って2本生えてきたりする。最良であれば痛みはほぼないが暴走するとショック死する可能性すらあるほど痛い。
その為に人間であれば血液や唾液、精液などを飲み込んで使用することが多い。1度回復した人は触れれば誰かわかる。