ヒーローになっていろんな人を捕まえたい!   作:CRAZY Choco

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ヒーロー基礎学 戦闘訓練!

 

個性テストの翌日

 

 さすが雄英と言うべきか、入学式の次の日から通常授業がフルに始まった。

 

 正直、昨日の気疲れがまだ身体に残ってるし、ダルいなァ、と俺は欠伸を噛み殺した。

今はセメントス先生の担当、現国の時間だ。俺の他にも、昨日目があった金髪の上鳴やエロガキ峯田がうぇぇ...と言う顔をしていた。この子らが評論文が苦手なの、なんかわかる気がするな。と頬杖をつきながらポカポカとした陽気の中視界の端に思った。

 

 

とは言え、

 

授業自体は一般高校でも習うであろうごく普通の授業だ。

授業を教えるのがプロヒーローな点は変わっているが、先生達も雄英(ここ)の卒業生なだけあって高難易度な授業を教えるのが上手かった。まして、生徒も生徒で雄英に受かってるような超超超優等生なのだから授業はスムーズに進んだ。

 

『「「「ありがとうございましたー」」」』

 

なお、初日がアレだった分拍子抜け感が拭えず、英語のプレゼントマイク先生は普通すぎて逆に引かれてた。

あらら、カワイソウに。

 

 

 

 

 午前の退屈な……それでも新鮮な授業が終わり昼食になる。俺は尾白と障子に誘われて食堂へ向かった。

 

雄英は、プロヒーローに教えられる売りに違わず、校内の至る所にヒーローが務めている。

その中で食堂に務めるのはクックヒーロー『ランチラッシュ』

 

 彼はその名の通りめちゃくちゃ美味い料理を安価で提供してくれる。多分この人目当てで雄英にきた人もいると、弟が言っていた。なるほど。この混み具合からしてあながち間違っているわけでもないかと感嘆の息を吐き、そして呆れる。その為だけにここに来るとしたら、どんだけ食い意地張ってンだよ。

 

 しかしそう思えたのも食事をする前までだった。

ランチラッシュの料理を食べてからは納得する気持ちの方が強くなっていく。だって食事楽しい。

 

俺が食べたのはたっぷりとチーズの乗ったグラタン。マカロニのくたりとした感じや、玉ねぎのまだシャキシャキしている感覚。熱々のパリッと表面を覆うチーズの食感も面白くて、ああ、コリャこんな大混雑になるわなァ、と納得せざるを得なかった。

尾白や障子も一口食べてからはもりもり食べ始めて見てて気持ちいい食べっぷりで完食した。俺は特に、障子の触手が口の形をして食べてる姿が、小動物に餌付けしてるみたいで可愛いなァ、と思った。あと行儀がいい。

 

「障子、悪い。トマト食べて欲しい」

「.....苦手なのか?」

 

俺の皿に残ったままのトマトを見て、障子が首を傾げた。

それを聞いて尾白も横から首をヒョイと覗かせて「へー」と呟いた。

 

「意外。影操って好き嫌いなさそうに見えたんだけど」

「まだ会って2日だぜ?お前に俺の何がわかるんだー」

「トマト苦手ってことはわかった」

「バレたかァ...。だから障子貰って、ハイ。キャッチして〜」

「ん!? .....いきなり投げてよこさないで貰ってもいいか」

「お、ナイスキャッチナイスキャッチ」

「影操.....結構むちゃくちゃだね..」

 

 トマトを障子の触手の先についた口に投げると、障子はそれを今日に空中でぱくりと口に入れた。「えぇ.....」と引いた目で俺を見ていた尾白だが、障子のその小さな口がまだモゴモゴしているのに気づくとそれをジーッと見だした。障子はキョトンとした顔で、

 

「楽しいのか?」

 

と不思議そうにしていた。

 

「結構楽しい」

「楽しくて揺れる尾白の尻尾を見るのが楽しい」

 

ほぼ同時に答えたあと、「言ってよ!」と尾白が未だ揺れる尻尾を抑えていた。うん、尾白は猫っぽいよなァ。

 

 

 

 

 

 

昼食が終われば次は、皆が待ち望んでいたヒーロー基礎学の時間だ。

 

 

『オールマイト』

 

────平和の象徴。

 

 ヒーローに憧れたもの、そうでないもの、この日本にいる限り名前を知らずにはいられない。そんなオールマイトが授業を見てくれる。こんなにも嬉しいことがあるだろうか。教室では、皆が身体から溢れる興奮を押さえつけながらソワソワと待っていた。

 

「わーたーしーがー!」

 

 

「ドアから普通に来た!!!」

 

弾けるように横に滑るドアから独特の体制でオールマイトは姿を現した。

その口上バリエーションあったんだなァ。

 

「オールマイトだ!」

「ホントに教師なんだなぁ!!」

 

 ざわめき立つ教室。生で見るオールマイトは誰かが言ったように画風が違う。その筋肉とか、努力って感じでカッケェし尊敬するなァ。シルバーエイジ時代とか言ってたけどコスチュームに時代ってあンのか。皆の憧れと羨望の混じる眼を中でオールマイトは授業を進める。動じてない姿はやっぱ慣れてンだろな、と思わさせられた。さすがNO.1ヒーロー。

 

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!!!」

 

 ドキドキワクワク、そんなクラスの雰囲気の中、彼はそう言って、『Battle』書かれたカードを掲げた。それを見てさっきとは別の意味でざわめくクラス。やはり教師も生徒も雄英のヒーロー科と言うべきか、皆が皆一斉に生き生きとし始めた。...そういう俺だって、心臓がバクバク鳴ってる。

戦闘はユイと俺ならどっちかっつーと────俺の得意分野だ。

 

「そしてそいつに伴って……こちら!」

 

 そう言ってオールマイトが手のリモコンを操作した。

 

ガコン、

 

壁から、音と共にケースが迫り出される。

 

壁からせり出す。

 

か べ か ら せ り だ す ?

 

ハハ...と真顔で乾いた笑いが漏れそうだった。漏れたな(確信)

ヤ、だって.....雄英って投影機と言いこれといい、随所に金をかけすぎじゃねェの?いやカッコイイけど。ロマンあるけども。……もしかして雄英の建築家の趣味か? コレ。オールマイトはニッカリと笑ってそれの紹介を始めた。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……戦闘服コスチューム!!」

『「「「おぉぉぉお!!!」」」』

 

 個々で用意した戦闘服。ヒーロースーツの高い能力はヒーローを目指す誰もが知っていた。俺だって、テレビの中のヒーローがそれを来ているのを見る度に心臓が止まりそうだった。耐久性、耐火性、防刃性など様々な面でヒーローをサポートしている。まさにヒーローの為の服───それを、俺は着れる。

 

あーヤバいなァと、思う。

予想していなかった。コレ、嬉しい。

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!」

『「「「はーい!!」」」』

 

俺は口元を抑えて教室をでた。皆でわちゃわちゃと廊下に広がって更衣室に向かう。

 

「こういうの、子供の時憧れたよね。ワクワクっていうか、」

「や、ホントに『アコガレ』だよなァ」

 

肩を叩いてニヤッと笑い話しかけてきた尾白と、何も言わずとも少し満足気に微笑む障子。感慨深くなってそう呟くと「何遠い目してるの」と尾白は笑った。

 

 

 

 更衣室に着いた。スルッとネクタイを解き、制服を脱ぐ。

 

持ってみると意外にずっしりとした重みを感じるケースの中には、まずいくつかの補助武器が納められていた。

次は、耐火性、耐水性、防刃性、近接戦闘で個性を使われても極力防げるような職人の工夫のされたシャツと、少しダボッとした体格の隠れるパーカー。

武器が滑らないように加工されたレザーの手袋には、メリケンサックの代わりとなるような硬い突起が拳の頂点についていた。あ、凄い助かる。拳をグッパーグッパーして握り心地を確かめる。...よくここまでフィットしたな...サイズ書いてなかったと思うンだが。

靴はハイカットスニーカーでくるぶしまでを覆っているものだった。スパイクが深くて斜面でも使いやすそうだ。

 

 

 それらを一通り確認して着ていた、首まであるノースリーブの上から重ねる。ア、そろそろピッチリしてきたな、また買い直さねェとなァと。買い物メモにノースリーブ、と追加しておいた。

 

 

着替え終わった俺の姿をロッカーに付いた鏡で確認した。首元から覗く黒いノースリーブと白のシャツはよく映えていた。なんせそれ以外黒いので。アー、完全不審者。相澤先生のこと言えねェなァと白目をむく。いっそ俺もアングラ系で行くか。お、いいな、それがいいだろ。

 

そう思いつつ肌に触れるシャツの様子を見る。シャツは意外と薄く、動きやすいよう配慮されたものであるようだ。ただ繊維の織り方が普通の綿、ナイロンとはどこか違った気がする。

こんなところからも俺はサポート会社の本気を見た。

 

 腰のベルトにいくつかのポーチや補助武器のナイフを取り付ける。俺のメイン武器別にあるがケースに入らなかったらしい、家に武器と共に書類が送られてきた。あァさすがに思ったよ、正直すまんかった、って。

家に届いたのは全長2m程度ある。注文を受けた業者はさぞ困ったことだろう。金は雄英が出すってもんで遠慮なく目を付けてたのを買ったのに、影に入れられなかったら不便だっただろーなァ、と今更ながら反省する。

 

 

「おいおいおい、影操ソレ!」

 

 ほぼ全ての装備を身につけた時だ、急に峯田は俺を指さし叫んだ。

 

口に輪ゴムを咥えて、男にしては長い、肩を越した猫っ毛を一纏めに縛っている時だった。ピンっとさした場所は俺の顔近く.....少しズレてるかァ?

 

「ピアスじゃねぇか! 雄英ピアスいいのかよォ! てか気づかなかったけどコイツイケメンだッ!」

 

 峯田が指さしていたのは俺の耳だった。

 

 別に隠しちゃいねェが俺の左耳には色違いのシンプルなピアスがいくつも付いている。今までも耳たぶから耳のてっぺんまで付けていたンだが.....髪に隠れて見えなかったか。そう納得して自分の片耳を触った。ピアスのザラザラとした感覚が指先から伝わってくる。

 峯田の声はだんだん勢いづいて、最後に至っては憎悪すら感じる声だった。「敵だぞコイツゥ!!」という声に、どうしてコイツはこんなに残念なんだろうなァ。と白目を向き思う。友達としては良い奴だからこそ苦笑いを禁じ得ない。

 

「な!? 影操君! 神聖な学び舎でピアスというのはいささか不適切ではないだろうか! あとピアスをしすぎだと思う。個人の自由ではあるが自分の身体を大切にしよう!」

「校則に違反していないならば影操の自由じゃないか?」

「うぇ!? 影操ピアスしてんの!?……俺もしてみよっかな〜どうどう?似合うと思う?」

「チャラい」

「ひどっ!?」

 

 峯田の言葉を皮切りに周りの男共が声を張り上げた。

 

初めに飯田がなんてことだ!とショックを受け、障子が俺を庇ってくれた。「あァ校則は違反してないよ」確認したものと、飯田に返すと「そうか! それは済まなかった、体調には気をつけた方がいいぞ!」とアドバイスをくれた。ほんとマジメだよな。

その横で上鳴が調子に乗って瀬呂にチャラいと指を向けられている。仲良いな。そして視界の端で峯田がギリギリと歯を食いしばってる。

 

うわ酷い

 

何がヒドイってもう皆ヒーロースーツを着終わっているところが。圧がすごいしむさ苦しくてたまらない。つか、

 

「そんなこっち見ンなよ、峯田」

 

お前なァ、と自分よりずっと低い位置に目を向けるが彼はケッと唾を吐くふりをした。こんにゃろ.....更衣室で唾を吐かない程度の良識はあるのになんでこんな絡んでンだよォ、オマエ。少しの間拮抗状態、それも俺のふとした思いつきで崩れた。

 

「な〜あァ峯田、」

 

髪を縛るために首筋を晒しあげ、流し目でわざと色っぽく峯田に囁いた。

 

「そんなに見つめられちゃ.....照れちまうぜ...♡♡♡」

「オイラがセクハラすんのは女子だけだァ!! イケメン滅べっっっ!!!!!」

 

さっきより殺意が増した。でも更衣室の男子共はケラケラと指を指して笑った。

 

 

 

 峯田の殺意をどうにか収集し手袋をピチッと弾く。演習場には既にほとんどのクラスメイトが集まっていて俺達が最後だった。

こうして見てみると顔の出ていない人からピチッとしたスーツなど幅が広い。うさ耳のやつなんかはあざといな。自分の左側を氷で覆っている彼や、1歩間違えば公共わいせつになりかねない布面積の彼女はどういう意図なんだろなァ。個性か? 個性なのか???

 ……まぁ人の服だからなんでもいいか。とりあえず女子の服を舐め回すように見てヒーロー科最高! などとのたまうチビに一言言っておこう。

 

「ンだからモテねェんだよ」

「口に気をつけろ……!」

 

拝啓、弟へ。兄は今日、殺されるかもしれません。

 

 

 

 

「始めようか、有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!」

 

ありがとうオールマイト先生、あなたに救われた生徒がここにいる。

オールマイトの声によって俺たちの不毛な戦いに終止符がうたれた。助かった。授業最高。

 

「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!!」

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 皆がオールマイト(憧れの人)に褒められ満更でもなさそうな中、甲冑のような装備の飯田が質問を投げかけた。正直、更衣室で見ていなかったら飯田だと分からなかっただろう。ヒーローインゲニウムのに似てンな、意外とファンとか関係者なのかもしれない。とぼんやり迷子を導くヒーローの姿が浮かんだ。かっこいいんだ、あの人も。

 

「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

オールマイトは飯田の質問に、ビシッと答える。

 

「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。真に賢しい敵は屋内やみにひそむ!!」

 

 実際、屋外で見られるヴィランは突発的、衝動的なことが多い。そう、午前にやった内容が思い起こされた。計画が無い故に対処もしやすい。そういった犯罪に巻き込まれた人間は意外に多い。

もっと残虐非道、人心を持ち合わせない鬼畜は違う。彼らは一般社会のすぐ近くで、しかし誰にも気づかれることなく小賢しく行う。じっくりと、綿で首を絞めるように、ギラギラした目をひた隠して社会に混じり獲物を追い詰めるんだ。

 

それを思い出すとオールマイト先生の話には説得力を感じられた。

 

「君らにはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!」

「基礎訓練もなしに?」

「その基礎を知る為の実践さ! ただし、今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」

 

 

 生徒の疑問の声にオールマイトは明るく答えた。人相手だから個性をブッパできない、個性を制御できない人はどうにか利用法を考えけりゃなれねェ、つーことかァ?ヴィランを殺害できないヒーローとして理にかなっている、気がしなくもない。考えてる間にもオールマイトは説明を続ける。

 

 

 オールマイトの設定は、要約すれば、核兵器を持っているヴィランとそれを処理したいヒーローの2ー2。

制限時間の15分核を守りぬくかヒーローを2人とも捕まえればヴィランの勝利、

逆に、制限時間内に核兵器に触れるもしくはヴィランを捕まえればヒーローの勝利。

 

馬鹿でもわかりやすいが……なんともアメリカンな設定だなァ。ンなの現実にねーよ。彼がアメリカに留学していた名残だろうか? 

 

 

「コンビおよび対戦相手はクジだ! 余った1人は全部終わってまだできそうなチームとやろう」

 

 そう言ってオールマイトはどこからともなくクジを出てきた。

 21人だからどうするのかと思ったが1人でやる、ねェ。まぁもし1人でもできることを全力でやれば、さして評価は下がらないだろう。

 

 

──そう高を括ったのが悪かったのか、くじを引いて俺の手に収まったのはあっぱれ見事な星マーク! あァクソ、全くもって運が悪い!

 

……いや。いや大丈夫、肯定的に行こう。爆豪や峯田じゃなくて良かった。俺は1人でも戦えるはずだ俺ならできるできるできる。

 

額に手を当て天を仰ぐ俺に察した尾白や障子の同情的な視線が目にしみた。

 

「オールマイト先生、あまりです」

「おっけー! じゃあみんな終わったあとだね」

 

 

 そうして戦闘訓練が始まる。

 1回戦はヒーロー側が緑谷と麗日、ヴィラン側が飯田と爆豪だった。

 

「それにしても、緑谷と麗日さん気の毒だな」

「緑谷と爆豪、なんか因縁があるっぽいよね」

 

モニターに映る、手が震えている緑谷にそんな感想が出てきた。普段の態度といい個性把握テストといい、いちいち緑谷に突っかかっていった爆豪だ。今回も一波乱ありそうだと、不穏な空気が流れている。

 

「尾白は作戦会議しねェの?」

「あっ、ごめん行ってくる! 影操も1人だけど頑張って」

「おっと言わないで欲しいなァ」

 

 苦虫を噛み潰したような声の俺に気の毒そうな視線を向けて尾白はペアの葉隠さんの所へ行った。どうでもいいけど葉隠さん透明なのによくわかったな。

 

 

 他の皆が作戦会議をしている間、俺は何もすることが無い為必然的にモニターを凝視することになった。試合STARTから数分、試合展開は酷いものだ。どうしようも無いほど悪化の一途を辿っていた。

 個性把握テストを見た限り緑谷は代償はデカいが威力もヤバい増強型。調整ができないなら人に向けられるものでは無い。

 

協力もなしに緑谷を追いかけ回す爆豪

個性が人に使えない分不利な緑谷

 

「当たんなきゃ死なねェよォッ!!」

 

 そう言って、当たれば相手を死なせかねない爆発を起こす爆豪も、それに正常に恐怖しているはずなのに立ち向かう緑谷も、常軌を逸していた。

それは誰かが言った「授業だぞ、コレ」という言葉に収縮されていたように思う。

 

 互いへの異常なまでの執着に、こっちまで充てられて気分が悪くなる。緑谷を追い詰めているのに、自分が追い詰められたような焦った顔の爆豪。虎視眈々と輝く緑谷の眼。

 

 

あァ、怖ぇな。

 

頭のどこか片隅の、妙に冷静なところが囁いた。

どれだけやられても諦めず光り続ける緑谷の眼。その心の折れなさが、俺には怖い。諦めてしまえばいいのに、一方的なのに、それでも打開策を考えている彼が、怖い。

 

 爆豪の拳が、緑谷の拳が、互いに最大威力まで跳ね上がる。──正面からぶつかる……? 緑谷の口が動いたのが、やけにスローモーションに見えた。

 

「──ッ────!」

 

「…いま、みどりや……なんて…ッ!?」

 

俺がカメラに呑まれて一歩前へ踏み出した瞬間、

 

ゴウン……爆音と共にビル全体が振動した。

 

「は、」

 

天井が、ぶっ飛んだ

 

窓が。建物に亀裂が走った。モニタールームも揺れる。

 

 爆豪の拳と交わらんとしていた緑谷の握りしめられた拳が、上へと放たれたのだ。その威力、最上階まで突き抜ける程。

 それによって飯田と麗日さんの間に巨大な穴が空き、予期しない揺れに飯田に隙が生まれた。もちろん麗日さんがその隙を見逃すはずもなく、核兵器に触れて第1回戦はGAME SETとなった。

 

──緑谷の腕1本の犠牲によって。

 

 

 運ばれていく緑谷を見てゾッとした。

 何をしてでも勝つという執念を、たかだか戦闘訓練で燃やす彼の精神構造が、理解できない。

 

 彼にはこの戦闘訓練で何か大切なものがあったのかもしれないが、俺にはそんなの知ったこっちゃない。

 自分で怪我も治せねェのに簡単に怪我をする意味が分からない。大切じゃないのか? 自分のことが。痛いのは嫌にならねェか? それはそんな怪我を負ってでも護らねばならない矜恃だったか? 

 

愕然とかっぴらいた自分の眼を閉じることができなかった。

 

人の命がかかってる訳でもないのに、本当の意味で死に物狂いな彼が、理解できない。

 

「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら……」

「勝負に負けて試合に勝ったというところか」

「訓練だけど」

 

モニタールームの中、クラスメイトの唖然とした声が響いた。周囲のざわめきが戻ったことによって少し頭が冷静になる。氷を飲んだような凍える寒さから一転、体温にボッと火がついた。

 

 よく良く考えれば普段の緑谷は一般的な性格をしている。この自己を省みない行動も今回だけかもしれない。

 

そうでなくとも、少なくとも戦闘時に性格を変える俺が何か言うことはできない。言う理由もない。

俺なんかが言うよりも先に教師が苦言を呈するだろうし……強いて言うなら彼を真正面から受ける爆豪は気の毒だと思うがそれだけだ。ウン。それらを総合的に考えると……

 

「俺にゃ関係ねぇなァ」

「影操ソレ何の話? 君がずっと百面相と関係ある?真顔なのに雰囲気が変わるから驚いた」

「いや、俺の精神衛生を良く保つための話」

「なんで今!?」

 

必要だったからかな。

 

 

 

「まぁつっても……今戦のベストは飯田少年だけどな!」

「な……なん!?」

「勝ったお茶子ちゃんや緑谷ちゃんじゃないの?」

 

 しばらくしてから3人が地下に戻り、講評が始まった。オールマイトの言葉に沈んでいた飯田くんが驚きの声を上げる。こういう時にいの一番で声を荒らげそうな爆豪は、意外にも皆の後ろで呆然と突っ立っていた。...彼が静かだと不発弾のようないつ爆発するか分からない怖さがあるな。あれだ、適度にキレてて欲しい。

 

「何故だろうなぁ~~~~? 分かる人!」

「ハイ、オールマイト先生」

 

オールマイト先生の言葉に八百万さんがピシャリと声を上げた。

 

「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたから。爆豪さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断専行、屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。

 麗日さんは中盤の気の緩み、そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを核として扱っていたら、あんな危険な行為出来ませんわ。

 相手への対策をこなし、かつ『核の争奪』をきちんと想定していたからこそ飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは『訓練』だという甘えから生じた反則のようなものですわ」

 

一刀両断。そのあまりの辛辣さに皆がシーンと黙り込んだ。言われた麗日さんは落ち込んだように俯き、飯田はすごく、すごく嬉しそうだった。飼い主に褒められた犬みたいな、なんかほっこりした。良かったね飯田。クソ真面目だもんね飯田。

 

「ま、まぁ飯田少年もまだ固すぎる節はあったりするわけだが……まぁ……正解だよ、くう……!」

 

 八百万さんが予想よりも多く正確な評価を述べたせいか、何も言うことが残っていなかったオールマイト先生はプルプル震えて悔しそうにサムズアップしていた。そういや新米教師だったなオールマイト先生、と思い出す。あーぁ、クセの強い面々だけれど頑張って欲しい。

 

わたくしはオールマイトせんせいの成長と健やかな教師ライフをおーえんしてます(はーと)

 

 

 

 

 破壊の限りを尽くされたビルはもう使えなかったため、次の試合は別のビルにて行われた。Bチーム轟・障子対Iチーム尾白・葉隠さんの試合。障子も尾白も頑張って欲しいと思った矢先のことだ。

 

──寒い。

 

さっきまで暖かかった部屋が一気に凍った。いや、部屋だけじゃない、ビル全体が氷に覆われていた。

 

「なんだァ!?」

「えなになに、急に寒くなっちゃった!」

「私……寒いのダメなの……冬眠しちゃうわ……」

「梅雨ちゃん!? 」

 

 赤髪男子切島の驚き声から始まり、ピンク色の芦戸さん、冬眠しかけてるのは……個性がカエルの蛙水さんだ。

ヘタ、と力が抜けて瞼を重そうにしている。あ、ヤバいやつかァ?と駆け寄るが、瞬時に麗日さん筆頭に女子全員で周りに固まったので、見守る。おしくらまんじゅうの要領でなんとか落ち着いたみたいだ。

蛙水さんはポカポカと眠そうでも意識はあるようで「ありがとう、助かるわ」と微笑んだ。良かったなァ。うちの女子達固まってて可愛いなァ。

 

 

 こちらの状況が落ち着いたところで改めてモニターを見る。

氷漬けにされたビルはそのまま、尾白と葉隠さんの足をも凍らせていた。外には障子。彼の個性は両腕の他に左右2本ずつの触手を持ち、その先に口や耳などの器官をコピーできる複製腕。……凍らせることはできない。ということは……。

 頭髪が紅白の彼を見る。どこか殺気立ったような、険しい顔をしている彼が1歩、1歩と歩く度に氷がパキパキと音を鳴らした。そしてゆうゆうと4階に到着する。

 

──推薦入学者4名のうち1人、轟 焦凍

 

 彼は足を動かせない尾白と葉隠の横を素通りし核兵器に触れた。

 

『ヒーローチーム、WINNER!!』

 

 その合図と共に、轟が何かしたようで氷が解かされ地下の温度も暖かく戻る。氷だけかと思ったが熱も操れる? 情報不足、個性の差……出来れば戦いたくねーなァ。尾白も大変なやつと当たっちまったなァ、落ち込んでないといいのだけれども。

帰ってきた尾白の、悔しそうに拳を握り締めた姿を見て、そんなわけないのだと悟った。

 

「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、なおかつ敵も弱体化」

「サイッキョーじゃねぇか!」

「さすが推薦入学者……」

 

 

 そう賞賛の声が上がる中、俺はふと、1人外れて呆然とモニターを見つめ続ける爆豪が気になった。

いつもキレ散らかして彼だけれども、それが無い今の彼の姿は、なんだかギリギリで保っていたものがバランスを崩したようで見ていられない。

 

「爆豪……?」

「っ!…ンでもねェよ…」

 

 ぽつりと呟いた程度の声で爆豪はハッとしたようにこちらを見た。

 そしてケッと吐き捨てるような覇気のない声で目を逸らした。

 

「.......そ」

 

俺に関わられたくなさそうにそっぽを向いたその態度は俺は何もできない示していて、結局俺はそれ以上何も言わず第3回戦の観戦に戻った。

 

 

アー、こっちはこっちでやだなァ...。

 

 

視線を向ける直前に見た爆豪の顔は、どこかホッとしているようだった。

 

 

 

 

 その後の試合は死合になることも、ビルが訓練で使えなくなるほど欠損することも無く行われた。やはりヒーロー科なだけあって強固性であったり、個性の使い方が勉強になったり、戦いたくない相手が大半だ。しかし無情にも俺の番は来るわけで……。

 

「よし、他の組は問題なく終わったから、後は影操少年だな! ヒーローとヴィランどっちがいい?」

「ヴィランがいいです」

「OK! 対戦相手は……」

 

──対戦相手

 

そう聞いた瞬間、2回戦での尾白の悔しそうな顔が脳裏に浮かんだ。

 

「───尾白と葉隠さんの……Iチームとやりたいです。.....ダメか?」

「影操……うん。俺もやりたいです」

「私も私も〜! すぐ終わって不完全燃焼気味だったんだもん!」

「う〜ん、いいぜ! それじゃあ始めようか!」

 

 言ってしまった後で、了承を取らずに勝手なことを……と気づいたが、それを跳ね飛ばす勢いで明るい声で了承してくれた尾白と葉隠さんにホッと息をついた。やる気に満ちた尾白と俺の視線が交わる。

 

「お互いガンバろうか」

「影操も手加減なしだよ」

「わ〜! 2人とも青春って感じだね!」

「「やめて葉隠さん」」

 

 

 

 所変わってビルの中、俺のいる4階の中央の部屋には核兵器が置かれていた。なるほど、定位置はここなのか。

 問題はこれを動かすか動かさないか。核兵器の前に立ち見上げるように目測を測る。180の俺より一回りも二回りも大きい。……正直これはハリボテだからか軽く、動かす事は全く問題ない。まして俺の場合、影に入れて移動してしまえばヒーローが核兵器を触れる、というヒーローの勝利条件を1つ減らすことになる。とはいえ……。

 

─── 状況設定に順応。ハリボテを核として扱っていたら

 

 第1試合の八百万の言葉が繰り返される。

 ああも言われちまったらこの手は使えねェ。俺の影は入れた物の重量だけ自分の体重が加算される。本物の核兵器となったらどれだけ重いか……想像もつかないね。核兵器を前に陳腐な考えを鼻で笑って窓際に移動する。

 

実践で使えねェ戦術を訓練だからと甘えるようなヒーローにはなりたくない。

 

「あァ、ねェんだ。配管」

 

 ガラッと開けた窓から頭を突き出してビルの外壁を見下ろした。結構高い。けど、あーぁ。尾白なら配管があれば登ってこれただろうに。相も変わらず運がねェなァ、カワイソウだぜ。俺にとっちゃ都合がいい!

 

 尾白と葉隠さんはありがたいことに感知系の個性じゃない。下から虱潰しに探索しなければならない分、ここに来るまでまだ時間はあるだろう。けれど葉隠さんの個性、透明化が俺の選択を狭める。

 

「怖ぇ個性だなァ」

 

ホント、困っちまう!

 

 例え俺がこの場から離れて2人との戦闘を開始しても、戦闘から離脱され透明な葉隠さんはどこにいるのか見失っている間に1人でこの核兵器のある部屋まで行かれる可能性が高い。

 

───それなら守るもの(核兵器)の見えてるこの部屋で範囲を狭めて戦った方がまだマシだな。

 

そう決めて頭をこの部屋メインの戦術に切り替える。

俺はこの部屋から動けねェ。

 

「はァァァ...」

 

 ため息をついて核の前に陣取った。

 

1人になっちまったもんは仕方ねェ。気持ちも切り替え影の中の物を検める。補助武器のナイフを鞘ごと取り外せるよう付け変える。まだ慣れてない武器だ、刃を出したら深く傷つるよなァ。ポーチの中の注射器は今回は使わねェだろう。ポーチの口をキツめに閉じて、レザーの手袋をパチンと嵌め直すことでコスチュームの点検を終了とした。

 

 さて、ここから動けないなら何をするか。

 

 俺は強ばる頬を無意識に上げて歯を剥き出してニィと笑っていた。

 

「───迎撃だよなァ」

 

 

 

 

 

 

もう試合開始から数分、

 

そろそろ葉隠さんが来てもおかしくない。じわじわと警戒を高めていく中、ふいに空気が揺れる。

 

 

頭スレスレを横切る何かがギリギリ見えた。

 

「──ッ!あっぶねェなァァ」

 

なんとか身体の重心を揺らし間一髪でそれを避ける。そして俺は『ヒーロー』を真正面から見据えた。

 

「ギャハ。速ェじゃねェの、尾白ォ!」

「正直当たったと思ったんだけどな」

 

驚いた様子の尾白はそれでもすぐさま建て直し、攻撃にうつる。何度も俺の横スレスレを肉薄するソレ。

 

___それは尻尾だった。

 鍛え上げられた尻尾は何よりも重く素早い。やっぱ怖ェー当たってりゃァ1発KOだった!

 

俺は避けた反動で数歩後ずさり、攻撃してきた張本人、尾白の姿を捉える。葉隠さんが1度偵察、無線で合流からの襲撃ってとこかァ? 薄暗い部屋、頬に一筋の汗を垂らしながらこちらを真っ直ぐ見つめる尾白の眼は好戦的に輝いていた。

 

「こっちだって警戒してンだよ。2人だからって油断してンならァ足元ご注意。掬っちまうぜ?」

「いーや、」

 

 拳が向かってくる。身体能力を2倍にしているはずなのに戦いづらい、拳を避けた途端、尻尾や脚が隙を着いてくる……。あァ゙! ホンッットやりづれぇ相手だなァ!! もっと俺が俺の身体を上手く扱えたなら、ここまででもないだろうに。

 

「俺は本気、だよっ!」

「ぎゃは。いいさジョートーだよ、猿!」

 

 拳と鞘のぶつかり合い。蹴りを放とうとした瞬間尻尾が邪魔をする。歯を食いしばった尾白と俺の獰猛な眼がギラギラとますます好戦的に輝く。

 

「ほらほら、おーにさんコッチら! 手ェ、のなるッ方へ!」

 

ガッ...と尻尾と俺の補助武器の鞘が衝突する音が脳に響いた。どこか今までよりも直線的な軌道で落ちてきた尾。あれェ?イラついちゃった? いやいやまさか、そんなことないよなァ!だってオマエは気高いことを俺は知ってるぜ!

 

「この場合おに()は俺だけど♡」

 

ポタリと尾白の額から汗が流れ床に伝った。

それに全く気づかないくらい真っ直ぐ俺だけを見る尾白と違いって俺にはそれがよぉくわかる。

 

そうだよなァ、速さも、重さも段違いな俺の攻撃。だって2倍だもん、ウンウン集中しちゃうよなァ? まわり、見えなくなっちゃうな?

 

「……でもさァ、なんか忘れてないか?」

「え、」

 

 

 例えば、俺の個性は増強系だけじゃない。とか

 

 

 例えば、何故か4階だけ電気がついてなくて薄暗い。とか

 

 

 例えば、床に広がった蜘蛛の巣みたいな俺の影。とか

 

 

 

「───お足元ご注意、とかさァ!」

「ァっガ!?」

 

 尾白の足元の黒い、黒い影から勢いよく発射されたソレの石突が、尾白の顎を強く撃った。俺はそれを見届けて、パシッとキャッチし馴染ませるようにクルクル回す。人の身体ってのは顎を強く撃つとしばらく動けないように出来ている。ちょーっと邪魔しないで欲しいならこれでジューブン。尾白が衝撃で後ろ向きに倒れたところをテープを巻いて確保した。

 

 

 尾白の顎を撃ったソレの正体は薙刀だった。刃長40、柄は120の巴形薙刀。俺の家に届いた主要武器(メインウェポン)だ。

 

 

「俺、戦闘中とは言え人の忠告を聞き流すのはどうかと思うぜ」

 

 

 

ボソリと呟きギャハと笑う。しばらくクルクルと弄んでいたのを止め、核の方をゆっくり見やる。

 

 

 

「アンタにも言ってたんだけどなァ、オジョーサン」

 

 薄暗い部屋の中、 蜘蛛の巣(俺の影)の上で縛られその場に釘付けられている透明人間(葉隠さん)を俺は低く嗤った。

 

 

 

───ほら、足元掬われた。

 

 

 

 

 

 

『ヴィランチーム、WINNER!!!!』

 チームっつーか1人だけどな。

 

 

 

脳が揺れている尾白が回復するまで待って、3人がモニタールームに戻ったので講評に入る。

 

 俺の作戦は簡単、4階の電気を消して、普段半径1m程の自分の影を部屋の中に蜘蛛の巣のように伸ばしただけ。

 

影の中に入った物体は些細なホコリだろうと虫だろうと汗だろうと感知できる。その上、影からある程度の指向性を持って物を出し入れすることも、影を操り襲わせることで拘束することもできる。

 

 それらを使ってまず、俺の影を踏んだ尾白に上方向へ薙刀を出した。電気を消して気付かれにくくしたとは言え俺の影はそこらの影よりもずっと濃いから、俺を相手にしていなかった葉隠さんは気づいていただろう。でもチームメイトの尾白の、苦痛の声に影を避けそこねた。だって彼女もまた、ヒーローの卵なんだから。

 

ンで、俺は影が踏まれたのを感知しどこにいるかわかったからそのまま確保。ヒーローチームの2人確保によりGAME SETだ。

 

 

 モニターからは俺の影がくっきり見えていたはずだ。俺はそこをオールマイトに指摘され、2人は注意力散漫だったことを指摘されて授業が終わった。オールマイトは授業終わりを合図し終わる前にダッと走っていってしまった。俺たちの講評の時もやけに急いでいそうだったし、何か急ぎの用事でもあったンか? じゃ長引かせてもうしわけなかったなァ。

 

「うわっ!!」

「オールマイトすっげぇ!」

「なんであんなに急いで……?」

「カッケェ!!」

「【速報】オールマイト先生にスナイプ先生跳ね飛ばされ重症」

「嫌な想像! NO.1ヒーローが訴訟されんの嫌だよ俺!?」

 

 ギョッとしたように俺を見る上鳴が少し面白かった。

 

 

 

 

 全ての授業が終わり帰りの支度をしていると、皆が自主的に集まって今日の戦闘訓練の反省会を初めた。ほぼゼンイン参加しているあたり意識高ェな。

 

「影操! 影操も反省会参加しねー?」

「今日の訓練、正々堂々真っ向勝負で漢らしかったぜ!」

「おー……サンキュー、じゃあ知り合いが連絡くれるまで参加してくわ」

「そう来なくっちゃ!」

 

 支度を終えてぼーっとしてる間に距離を詰められ机の周りに集まって貰えたンで、お言葉に甘えてそのまま居座ることにした。近くにいた尾白の尻尾を触りながら皆の声の聞こえる位置に移動する。爆豪は帰ってしまったけれど皆反省するところが鋭くて、俺も勉強になることばかりだった。……ぁ、もうダメ? 尾白の照れたような顔にそっ……と尻尾を離した。わるいわるい。

 

 

 しばらくして緑谷が帰ってきた。個性把握テストと言い今日といい、怪我しまくったせいで完全回復は出来なかったが治療はして貰えたそうで表情はだいぶ柔らかい。戦闘訓練の苦痛に歪んだ顔よりずっと安心した。

 

「リカバリーガールがいるっつったって、治せるんにゃ限度があんだから程々にしとけよー」

「え、あっうん。ありがとう影操君!」

 

 ───お前なんか早死しそうだし。その言葉を隠し、荷物を持って教室を出る通りすがら話しかけた。にっこー!と笑う彼が眩しい。笑うな反省してくれ。

 

「お、影操帰んの?」

「ン、悪いな、連絡きた」

 

 手の中のスマホのLINE画面を突き出して手を振る。「そうか、じゃまた明日ー」という皆に挨拶をして帰る。途中やけに急いだ様子の緑谷に抜かされた。

 何急いでんだアイツ。怪我すんなっつったばっかだろうに。そんなことを思いながら下駄箱に着いて、外に出ようとした瞬間、誰かの震えた声が聞こえた。知っている声。

 

「僕の個性は……人から授かったものなんだ……!」

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

俺は無意識にスマホを開いた。

 

『【急募】多分知ってはいけない秘密をやむおえず聞いてしまった時の対処法』

『なにそれkwsk』

 

ありがとう弟。お前のLINEが俺の正気を保たせてくれる。

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