ヒーローになっていろんな人を捕まえたい!   作:CRAZY Choco

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USJ事件!

マスコミが雄英バリアを破って数日、学校全体のピリピリした雰囲気は薄れていき今では先生といくらかの繊細な生徒が気にする程度になっていた。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

 

 3人体制で見ることに『なった』、ということは急遽予定の変更でもあったのだろうか? それとも雄英バリアを破壊されたことを危惧しているのだろうか……。

 

いや、どちらにせよ俺たちは授業を受けるだけだと、話の内容に意識を向けた。

 

「ハイ!なにするんですか!?」

瀬呂の質問に気だるそうな表情のままカードをとり出した。

「災害水難何でもござれ、人命救助レスキュー訓練だ!」

 

そのカードには『RESCUE』と書かれていて、教室がざわめく。声かっこいいな先生

 

「レスキュー! 今回も大変そうだな」

「ねー!」

「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ! 腕が!!」

「水難なら私の独壇場、ケロケロ」

 

 そう興奮して意気揚々と話し出す皆の姿が微笑ましい。俺が可愛いなァと頬杖ついて思っていると前の席の麗日さんも張り切って声をかけてきた。元気でいいね。

 

「いやぁ、これこそヒーローって感じやな! 頑張らへんと」

「麗日さんは色々活躍できるよな」

「影操くんも色々できるやん!」

「もち。個性だけは極めようと思ってるンでね」

「おい、まだ途中」

 

 相澤先生の声に俺だけでなく教室全員が静まり返った。調教されてんなァ、俺たち。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 コントローラーで壁のコスチュームを迫り出し、先生は話を切り上げた。

 

 

 

 

 席順に列びバスに乗り込んだ俺たちは、残念ながらバスの座席が思ってたのと違ったため無駄になったが予定通り出発できていた。委員長としてフルスロットルしていた飯田はやる気が空回りしたことを残念そうにしていたが、失敗は失敗でいいと思う、平和で。面白いし。

 

「すまない、こういうタイプだったか……!」

「意味なかったな〜」

 

 そんな俺のゲスな考えは、クラスメイトの会話に掻き消された。

 

「私、思ったことをなんでもない言っちゃうの。緑谷ちゃん、」

「ァひゃい! 蛙水さん……」

「梅雨ちゃんと呼んで?」

「アッつ、つゅちゃん……」

 

 吃りすぎだろ緑谷。多分今皆、爆豪が君をナードと呼ぶ理由が理解出来たぜ。

俺はたこ焼きを食べながら思った。男子といる時は普通orヒーロー分析ブツブツだけなのに女子といると緑谷はミョーに力んでる。男子として分かるっちゃーわかるが、見てて気恥ずかしい。

「障子たこ焼き食べる?」

「いいのか?」

「もち」

「ありがとう」

 本当、全く関係ないが俺の最近の趣味は障子の複製腕にできた口に餌付けすることだ。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

「ヒェッそそそ、そうかな!?!? いやでも、そのぉ…僕は……」

 

 俺がまったりしている間、緑谷はそのまま蛙水さんに質問をされていた。

 なんだかその図星をつかれたような反応は。誤魔化したいのに全く誤魔化せていない緑谷の態度に、笑うより先に戦闘訓練の日が思い起こされた。

 

 

 戦闘訓練の放課後、緑谷は爆豪に「僕の個性は……人から授かったものなんだ……!」と言っていた。学校の出入り口の前で!

 俺はそれをたまたま聞いてしまって友人(だと俺は思ってる)の秘密に悩みに悩んで、弟に「その話が本当であれ嘘であれ、兄さんは聞かなかったフリか嘘だと思ってる、ってことにしとけば?」と言われるまでほとほと困り果てていた。

 

 ……正直、秘密って小さいものなら楽しいけど、大きくなればなるほど聞きたくないものだ。そんな秘密を軽い関係で教えられても困るから。

 

 俺が勝手に聞いて勝手に悩んだと言われればそうだが、緑谷が注意していれば俺は聞いていないはずだ。

 聞いていたのが悪い人なら誘拐される可能性だってある。不用心に話してはいけない。

 

 そういうところを考えると人のいるところで話したり、今誤魔化せていなかったり、詰めが甘いよな、と緑谷のことが心配になった。

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねえぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 これはフォローした方がいいのかァ? 秘密を(勝手に)聞いた者として……

 そう思い様子を伺っていた俺だが切島が自然に誤魔化してくれたおかげでホッと一息ついて椅子にもたれかかった。緑谷の個性もよくいる増強系なのが幸いして不自然には思われていないようだ。さすが切島お前がNO.1。それによって会話の方向も流れていく。

 

 

……に、しても。

 

 緑谷の個性が本当に貰ったもんなら、それはオールマイトの個性なのだろうか? それとも誰かの個性に似てると言われることで個性を譲れるのをバレるのを防ぐ為かな。

 

「しかし増強型のシンプルな個性はいいな!派手で出来ることが多い!俺の“硬化”は対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなー」

「僕は凄くかっこいいと思うよ、プロにも十分通用する個性だよ」

「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてえなとこあるぜ!?」

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」

 

 騒がしいバス内を俺は障子とほんわか、黙って見守った。

 

「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪だな」

「ケッ」

 

 話は移り変わりクラスの強固性の話になる。男子ってそういうの好きだよな、ヒーローの強さとか、足の速さとか。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!!」

「ホラ」

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!!!」

 

 蛙水さんに率直な感想を言われて張り合う爆豪な、絶妙に毒舌な上鳴が思ったことをそのまま口に出す。もはや爆豪キレ芸なんじゃないかな。

あと上鳴大好き。語彙のチョイスが最高。そして爆豪を前に煽り散らせるその胆力、全人類賞賛もんすぎてホント好き。いや〜もぅマジで……

「ウケる」

「何真顔で『ウケる』だ。テキトーに会話合わせてるJKじゃねェんだぞ虚無顔野郎!」

 

 思わず溢れた言葉に爆豪が噛み付いてきた。語彙……。

 

 えてか俺、虚無顔だと思われてンの? 動かない自負はあるがあまりに心外なニックネーム。泣いちゃいそうだぜコイツの家特定して爆豪の微笑ましい写真送っとこ

 それはそれとして俺は一応誤解されると悲しいので言い返した。

 

「戦闘訓練見てなかったのか爆豪テメェ。圧倒的に笑ってたろ全身全霊で」

「アァ゙ン?」

「や、確かに影操笑ってたけど……」

「笑顔つっても『楽しい♡』じゃなくて、『コロス』って感じだったよな!?」

「実際そうだけども」

「え゙?」

「マジ?」

「お前らもう着くぞ、いい加減にしとけよ」

 

切島、上鳴、対戦相手だった尾白のドン引き声は面白かった。けれど友達に引かれるのは普通につらかった。

 

 

 

 

 そんなこんなにありながら着いたドーム型の建造物。あまりの大きさに俺の頬が引きつった。

「デカすぎねェ?」

「すっげー! USJかよ!?」

 

 皆この大きさには圧倒されて、ますます興奮状態となった。雄英はどこをとってもデカいが初めに来る気がする。皆が騒ぎ出す中、そこには新たなヒーローが待っていた。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……ウソの災害や事故ルームUSJ!」

『(((USJだった!!)))』

 

これ引っかかんない!? 著作権的に!

生徒が謎の心配を見せる中、宇宙服のようなコスチュームの先生……13号先生は丁寧にお辞儀をした。

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

「わーーー! 私好きなの13号!」

「緑谷便利」

 

知らないヒーローがいる時コイツの隣だと勝手に情報溢れてくンだよな。俺がそんな思惑で緑谷の近くに陣取ると尾白が小さく「わかる」と言って肯定してくれた。やっぱお前大好き。

 

「仕方ない、始めるか」

 

 俺はてっきり生徒がだべっている間にオールマイト先生が来るものかと思っていたが、このまま初めてしまうらしい。始める前に先生たちで話していたから何か用事で来れなくなったのかもしれない。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ………三つ………四つ…五つ、六つ……」

『(((増える……)))』

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 憧れのヒーローに会えた緑谷はヒーローオタクとして、尊敬してます! という顔をしていた。麗日さんも13号先生のファンだと言っていただけあってブンブンと頭を振っている。俗に言うヘドバンだ……首がとれそうでちょっと怖いな、俺。

 

「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 興奮した様子の緑谷や麗日さん、いや、全員が静まり返り、先生の話を真剣に受け止める。浮かれていた気持ちが冷めていった。──ヒーローは……

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる“行き過ぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい。

 相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」

 

 皆にとって耳の痛い話だった。中学まではほんの少ししか個性を使えず不満を持っていた人が大多数だ。ヒーロー科に来るほどの強固性なら、尚更。そう出ない人だってそれこそ個性を伸ばす為に使いたがった。そして雄英に入ってから俺たちは学校でも自由に使えるようになり、ヒーローになれるのだと浮かれていた。

 これはヒーローなら至極当然で、言うまでもなく決まりきったこと。

 

意識が低かった。忘れていた。分かっていたはずなのに、どこかで虚ろにした。ヒーローにならなければならないのに。家族に、個性に、誓ったはずなのに。

 

言わせてしまった。

 

「この授業では心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷付けるためにあるのではない、救けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。以上!ご清聴ありがとうございました!」

「素敵!」

「ブラボー!!ブラーボ―!」

 

 俺は罪悪感に濡れながらそれでもぱちぱちと拍手をした。多分、皆それぞれ思うところはあっただろう。強力な個性故に。それでも前を向いて肯定的に、自分の糧にしていく。

 だって俺たちは倍率300倍に受かった雄英ヒーロー科、1-Aなのだから。

 

「よぉし、そんじゃあまずは……」

 

バチバチっ!

突然、そんな音と共に照明がどんどんと消えていった。先生方も混乱している……? なら先生の指示じゃない、誰かが消した? 何故、どうやって……

 

─────ッ!?

 

背筋がゾッと震えた。昔感じていたような、まとわりつく悪寒。何か、なにが変だ。噴水の水が奇妙に波打った。そこから紫の、渦が広がって。

 

 相澤先生が後ろを振り向く、あァあれは。

 

「ひとかたまりになって動くな!! 13号、生徒を護れ!」

 

あの、悪意は。

 

「ヴィランだ!」

 

 

 

 

 

「13号に…イレイザーヘッドですか……。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが……」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…。オールマイト、平和の象徴…いないなんて……子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 先生の言葉が悪くなる、それをカッコいいと思えないほどの威圧感。この前のマスコミ騒ぎはヴィランによるものだったのかよチクショウ、マスゴミも地獄見せてやる! 生きてこの前の写真晒しあげるぜ絶対なァ!

 そんな決意を胸に自分の影からペンと紙を取り出した。

 

「ヴィランンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

「先生、侵入者用センサーは!」

「もちろんありますが……!」

「現れたのはここだけか、学校全体か……。何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういう事出来る“個性”がいるってことだな。校舎と離れた隔離空間、そこにクラスが入る時間割……バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 

 相澤先生の目線を隠すゴーグルは戦闘服は下げられ、状況を掴めていなかった面々も理解しだす。普通の人間ならパニックに陥ってもおかしくないが、そこはヒーロー科と言うべきか皆がどう動くべきなのか思案していた。

 

「13号、避難開始!学校に連絡試せ!センサーの対策も頭にあるヴィランだ、電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴お前も個性で連絡試せ!」

「っス!」

 

 俺も、できることを。

 

「先生ッ連絡なら俺の個性通じて弟に、ブラドキング先生に通じるかもしれません」

「そうか、弟と個性を共有してるんだったな。なら試せ! 人数は50以上、電気系個性により連絡経路を遮断されてる可能性あり!」

 

時間が惜しい、焦りで走り書きになった紙をしゃがんで自分の影にいれた。いくら元が同じ個性と言っても俺は俺、弟は弟。まして、遠くの個性を操るなんて試したことすらない。

 

「はーっ」

1つ深呼吸をする。

 

───でも、やるしかない。だってこれが最短だから、一分一秒で生死が決まる。そんな時に『できない』、なんて弱音を吐くヒーローなんかにゃなりたくねェ!

 

頭が痛い。

 

──たった1切れ、こんな薄っぺらい紙だ。前に弟ととのワープを試した時は今よりずっと近距離だけれど、確かにできた。なら今できない通りはねェ。限界を越えろ、Plus ultra!!

 

頭がいてェ

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

アタマ、われっ

 

先生がヴィランの元へ駆けた瞬間、影から影にワープする感覚がした。

 

「──せいこう! 連絡と、」

 

どき……ぁ?

 

視界が紫に染まる。

 

「は、」

 

──なんだこれ。この違和感、何が、どうして、知ってる。いや知らない知るわけないでも、でも何か何かが。

 

瞬き、初めに感じたのは炎の舐めるような熱さ。

 

「影操、無事!?」

「っ尾白、あァいや、無事だぜ。ここは……」

「火災ゾーン、かな」

「悪い、何があったんだ」

「転移系の個性持ちが相澤先生を出し抜いてコッチに来たんだ。散らして嬲り殺すって……多分、この付近にはもうヴィランが配置されてるんだと思う」

 

 集中していたせいで気づけなかった。周辺の確認もできないで、あァクソッ!

 

「はーっ」

 

 自分の無力を嘆くのは後にしよう。今はここにいるヴィランを倒すことが、生きて帰ることが先決だ。

 

「尾白、背中は任せた。……一度言ってみたかったんだこのセリフ」

「ハハ……そっちこそ頼んだよ、相棒!」

 

 そうして炎の中ヴィランと打ち合う。割合的には異形型の方が多く、近接戦になるのはハッキリわかった。一撃一撃が重い。脚を大きく開き踏ん張らねェと吹っ飛ばされる。ァ……尾白、猿みたいな移動方法してる。スゲェ。

 

 きっと、こいつらの手が、俺の首を絞めたら、一瞬で小枝を折るみたいにポッキリ殺される。俺は異形型の彼らの手を避けながら、そう思った。

……怖ぇなァ。打つたびに手に伝わる振動、痛えし。サイアクな気分だぜ。ニィィと口を吊り上げる。

 

「ギャハ。つらいなァ。チンピラの集まりで、強くなれたと思った??? 自分もヒーローを倒せると思った??? 可哀想に!ヒーローの卵にすら負けちまってさァ!」

 

虚勢はらないと怯える自分が、最っ高に情けねェ。

 

「ンだとテメェぇぇええええ!!!!」

「ほら。ひっかかった」

 

……差別されて、捨て駒にされて、本当、

 

「心底同情するぜ」

 

鋭い薙刀の刃がヴィランを行動不能にした。

 

 

 一体一体はやはり雑魚の寄せ集め。確実に処理をしていけば最後の一人まで時間こそかかれど怪我なく倒すことができた。幾人か斬った薙刀に着いた血をブゥンと振ることでそぎ落とす。威嚇のような笑顔と獰猛な目を携えて、されど冷静に、次のヴィランの元へ向かう。

 

次で、最後。

 

「オッ……ラァ゙!! ガキに負けてさァ、悔しくねェのか?」

「ガッ…ァ、テメェ、みたいなガキに何がわかる! 差別されたこともねぇ、恵まれた個性の癖によォ!!」

 

 あァわかンねェよ。異形型の苦悩だとか、痛みとか、

 倒し終わった尾白が近くで待機してくれている。痛いのも、怖いのももうすぐ終わる。最後まで、最後こそ笑っていないと。

 

「ンなの、分かるわけねェだろッ!! ただこれだけは言えるぜ? 差別されたって頑張ってるやつがいる、お前らのやってることが、」

 

 わかんねェから、わかんないなりに友達理解しようとしてンだよ。

 

「そいつの邪魔になる、ってことだけはなァッ!!!」

 

 薙刀の遠心力で相手を後ろに飛ばす。ここは常に影が揺らめいていてイイ。相手に個性を把握されにくいから。まァこいつらに俺の個性はわかんねェかもしれねぇが!

 

「足の太めの血管逝ったからあんま動かねェことをオススメするぜ」

 

鋭利な影が相手の足から抜けた。悲鳴があがる。アタマ、痛いな。

 

──まっ、動けねェだろうけど。

 

ごめんなァ、今個性上手く使えねェんだわ。楽に捕まえてあげられなくて、ごめん。

 

 それでも俺は牙を剥き出しにして笑った。

 

 

「お疲れ尾白。怪我は?」

「ないよ。そっちこそない?……その顔怖いからやめて」

「ギャハ。悪ぃ悪ぃ。無いさどこにも」

 

 最後の一人が気絶したところで尾白の方へ駆け寄った。そこらには俺たちが来る前から着いていた火が燃え広がっていたり、倒したヴィラン放っぽかれていたりと割と地獄絵図だった。

 

「……皆の所に急ごう」

「うん。……広場にいた時、守ってくれてありがとう」

 

尾白は「なんだ、気づいてたの?」そう言って照れたように笑った。当たり前だろ、だって近くに居たから同じ場所に転移させられたんだろう?

 

 

 

 

 

 できるだけ飛ばして戻った俺たちが、広場で見たのは血だらけの相澤先生を押さえる、脳が露出している奇妙なヴィランと、蛙水さんに攻撃を加えようとした手をつけたヴィランを殴る、

 

──オールマイトの姿だった。

 

 

 

「「先生!」」

「影操!尾白ぉ! 良かった、無事だったんだなぁぁ!」

「ケロォ……」

「オール、マイト!」

 

 オールマイト先生は続けて相澤先生を押さえていたヴィランを殴り飛ばす。ヴィランが遠方に飛ばされたのを確認した俺たちはすぐさま相澤先生に駆け寄った。

 

 瞬間、俺は咄嗟に先生の傷ついていない部分に付着した血を舐めた。

 

「影操!? 特殊性癖すぎるって! こんなとこで出すッグヘェ」

「峯田ちゃん、無いわ」

「え? え?……影操?」

 

きっと俺は冷静ではなくて、顔が強ばって。コスチュームのポケットの注射器を使う事すら頭になかった。こういう時の為にあったはずなのに。冷静だったら峯田をぶちのめしていたのに。

 

「だいじょーぶ! 俺治癒とかもできるンだぜ? 血が必要だったんだ!ほら、一旦避難」

 

 強ばった顔を誰にも見せたくなくて、ニッとすぐさま明るい、今の状況では異常なほど元気な笑顔の仮面を被った。でも、きっと、言ってしまえばこの場にいる全員が混乱していた。

 混乱している時に指示されると人間ってそのまま従ってしまう。尾白も峯田も緑谷も蛙水さんも、疑問を持つことなくスムーズに広場の端の方まで寄せた。

 

「さすがに先生を担いであの階段は……登れないわ。ケロ」

「すっげぇぇー! オールマイト! 殴り飛ばしちまったぜあのヴィラン!」

「……相澤先生、どう? 影操」

「大丈夫だぜ! 命に問題はねェだろうよ。……ただ、最後、ヴィランに顔面叩き付けられたンがダルい!」

「……オール、マイト……!」

 

 尾白の問に、俺は努めて明るい声色で言った。俺の持つ回復の個性では弟ほど回復できない。まして、影を通してSOSを出したばかりだ、個性の使いすぎによる頭痛がずっと止まない。それでも、

 

──この人は死なない、死なせない。

 

「だぁれも殺させやしない」

 

 それだけを考えて、個性を使い続けた。頭が痛いのも、緊迫状態でだんだん上がっていく息も、無理やり笑顔を作って口に出せばどこかへ消えてくれる気がした。

 

「緑谷、どこ行くんだよぉぉ!」

「緑谷ちゃん!?」

 

バッと隣から誰か走る音がした。反射的に向いた頭痛で霞む視界の端には緑谷が駆け出す姿が映っていて。

──だから苦手なんだ。飛び出して、怪我して、飛び出した先の人は助けを求めて無かったりするのに、それでも動いて、動いて、笑って、死ぬ。

 

「緑谷ッ!」

 

──笑えよ、俺。

 

 あァ、嫌だ。友達が相澤先生を血まみれにした相手に向かっていくのが、最っ高にサイアクだ。でも、これは君に失礼だろ。分かってるんだ、ごめん、ごめん。ごめんなさい。

 頭の中が謝罪でいっぱいになって、それでも相澤先生に個性を使い続けた。それがさらに頭痛を加速させて、視野が狭まる。

ア、ぁオールマイト、脇腹、爪ヴィランの、刺さって…?

 

 俺なんかが、緑谷の、君の尊い思想にどうこう思って、君は、とても尊くて、でもまだ幼くて、ごめんなさい。

 

 ぐちゃぐちゃの思考を必死に回して、なんて言うか考えた。でも、元々俺の願いなんてひとつしかなくて

 

「───死なないでよ」

「うん!!」

 

 覚悟の決まった顔を止められなかった。近くにいなきゃ助けられないのに。俺、そんな遠くまで手を伸ばせないのに。

 

 

 

……この場にいたのが弟なら、相澤先生も、オールマイト先生も、全員助けられたのに。

 

…………

 

「相澤先生、頭、治した。眼も、だいぶ。大丈夫!」

「もう治ったのかよ!?」

「命に関わりそうなところは。上に行こう、ヒーローがもう到着している」

「影操? 君、大丈夫?」

「あァ!めちゃくちゃ元気だぜ? 俺は!」

 

アタマ、イテェ。

──笑え

 

痛い。

 

──笑えよ

 

イタイ。

 

──笑わないと

 

ヤバ、冷や汗。止まんね

 

──安心させて、あげないと。

 

 

 

緑谷が、気を引いて、その隙にオールマイト先生が脳丸出しヴィランを殴った。まるでスローモーションみたいで、

 

────あ、カッコよ。

 

「影操!」

 

 

 

暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な!? 影操君、相澤先生! 大丈夫なのかいこれは!」

……。

「影操が相澤先生は大丈夫って言ってたんだけど……その後倒れちゃって…!」

…………、

「皆よく耐えてくれたのさ! もう大丈夫。相澤くんと影操くんは責任もって病院に連れていこう」

 

………………ッ!

 

「…………、その必要、無い、です」

 

 頭がまだ痛い。ぼんやりと声が聞こえて、俺のことだとわかったから反射的に声を出した。俺、倒れたのか、あの場で。……なんつー足手まといだよ。

 

「影操! 大丈夫? ごめん、体調悪いのわかってたのに聞くだけしかしなかった。無理しないでくれ」

「尾白、うるさいよ…大丈夫、個性の使いすぎ」

 

 段々と意識がはっきりしてきた俺は辺りを見渡す。ここは最初にUSJに入ってきた時の場所、今は多くのプロヒーローたちが警備に当たっているのが見えた。あ。クラスメイトも、ほとんどが集まっていた。……良かった。

 

「本当に大丈夫なのかい? 無理してるなら休んだ方がいいのさ!」

「大丈夫です。ただ頭痛くなるだけのデメリットなので。……俺、どのくらい寝てた?」

 

頭を刺激しないよう、ゆっくりと起き上がり、根津校長の疑うような声に答えた。その後で隣で心底心配したって顔の尾白に質問する。

 

「すぐっ、広場の端から階段登ってここまで。ここに着いた途端目を覚ましたから」

「階段だって麗日に助けて貰ってそんな時間食ってねーぞ! 影操ぅ、よかったぁぁああ!」

「だからうるさいぜ」

「ケロケロ。良かったわ」

「ありがとね」

 

やらかしたなァ。心配、かけないつもりだったのに。あのくらい昔なら耐えられたのに。ごめんなァ、尾白、峯田。蛙水さんだって驚いたろなぁ。

 

 そうやって反省する心とは裏腹に、俺の顔はどんどん明るくなっていって、最後は皆でふはっと笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 その後、どうやら怪我を負ったのは多数のヴィランと戦闘した相澤先生とオールマイト、自分の個性で身体が壊れる緑谷だけだったようで、それ以外の生徒はバスによって一度雄英に戻された後、家へと帰された。

 先生たちからは、弟のクラス1-Bのブラドキングが連絡を受け取り早期に出発できた、と感謝を述べられたが、俺はあの場の全員が連絡できる個性ならしたはずだし、たまたまそれができる個性だったからだから、気にしないで欲しいと伝えた。

 

 バスの中の皆はそれぞれどこかビリビリしているような、反省しているような、まだ戦闘の高揚感が抜けきっていないようなざわめきがあった。でも、尾白は俺の倒れたショックが抜けきらないのかバスの中、隣に座って黙って生きているのを確かめるように俺の手を握っていた。

 

──弱くて、ごめん。

 

 

 

 

 俺が帰ってきたとき、弟はまだ家にいなかった。

 LINEを見てみると

《リカバリーガールに怪我人がでたから手を貸してほしいと言われからしばらく帰れない》

《先になんか食べてて》

 

と来ていた。今日の怪我人は相澤先生と緑谷と、オールマイト先生のはずだ。俺はただの応急処置しかできなかったからそれの治療だろうか。そんなことを考えながら冷蔵庫を見て、

 

《おk。夕飯は俺が作っとく》

そう返しておいた。

 

 シンッと静まり返るリビングに心臓がバクりと音を立てて虚しいと主張してきた。

 

 

あー……寂しがり屋とか、ダッッサ。

 

 

 

 

「兄さん、帰ったよ〜!」

「私が夜中に生徒の家に、来た……!」

 

「??????」

 

オールマイト????

 





今回かなり勢いで作ったのでおかしいところがありましたらご指摘ください。また、あとから編集する可能性があります。ここまで読んで頂いてありがとうございました。
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