異世界は前世の記憶とともに   作:ハッタリピエロ

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あけましておめでとうございます!
一話書くのにこんなに時間をかけてしまうとは……前まではけっこう、スラスラ書けてたのに……やはりブランクってのは大きいですね……感覚を取り戻さなくては……


異世界での日常、そして修業

 

ジリリリリリッッッ!!

 

空がすっかり昇りきった朝日によって青色に染まった頃、その光が閉め切った障子から差し込んでいたある一室。物音一つしなかったその部屋に突如として鳴り響いたけたたましい音。その酷さといったら部屋にいるであろう人間の耳と精神を壊しにきてるんじゃないかって思うほどで……うん……お陰で目が覚めましたよ……

 

「う、ん……っ……朝か……」

 

何度も思ったがやかましいな……

頭ん中でそう愚痴りながらも以前よりマシになったとはいえ未だに寝起きに弱い俺にとっては毎朝とても助かっている音であり、実際にさっきまでうとうとしていた状態から脱することができた。

布団に入ったまま腕を伸ばして枕元よりも上にある音の発生源の時計(の魔道具)に手を置き、そのまま魔力を流して音を止める。

 

「ふわぁぁぁ…………あー…………眠いな……」

 

一度大きく腕を伸ばしたら、残っている眠気を振り払うようにすぐさま布団から脱出する。

起きた後は布団を丁寧に畳んで、畳み終わったそれを枕と一緒に部屋の隅に置いておく。

時折、欠伸をしてしまいながらも手を止めることなく寝巻き姿から普段着に着替え、すぐさま広間に向かう。

襖を開けて中に入ると父と母が既に来ており、入ってきた俺に気づき二人の視線がこちらに向けられる。

 

「「おはよう、鏡夜。」」

 

「父上、母上、おはようございます。」

 

父と母からの挨拶を返して、朝食が並べられた膳の手前に敷かれている座布団に腰を下ろす。

我が家はそれなりに身分があるらしい家なので、適当な言葉遣いをするわけにはいかずそれなりの礼儀作法を心掛けなければならないのだが、未だに慣れないんだよなあ……

膳に載せられた朝食の方に視線を下ろす。今日の献立は柴漬けのような漬け物と大根と豆腐の味噌汁に赤帯魚というこちらの世界での鯛らしき魚をまるまる一匹使った塩焼きだった。

白飯の方は全体が漆で塗られた大きな茶碗に大盛りで盛られている。

 

「いただきます」

 

手を合わせながら料理人と食材への感謝を口にして、箸を手に取る。

いただきますはちゃんとしなさいって前世でも母さんによく言われてたしな。

まず最初に焼き魚の骨と身を箸で分けて、摘んだ身をそのまま口に運ぶ。

うん、美味い!塩加減が絶妙だな!

相変わらず美味しい料理に俺の箸は止まることなく進んでいき、あっという間に茶碗に盛られていた白飯が無くなってしまう。

 

「お願いします」

 

「はいはい、相変わらずよく食うわね」

 

笑みを浮かべている母はそう言いながら渡した茶碗に白飯を盛ってくれる。

前世でもよく言われてたのだが食事は好きだし、()()()()()()()()()()()()()身体作りの資本である食事を疎かにするわけにはいかない。

 

「ご馳走様でした」

 

食後は洗面所で歯磨きや髪の手入れなど身だしなみを整える。

ちなみにこの世界でも歯ブラシは普通にあった。魔獣の毛を洗浄し、加工したものを木につけて歯ブラシにしているらしい。歯磨き粉は見たことないんだけどな。

 

「行ってきます」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

午後八時、父と母からの挨拶を背に受けて、家を出る。

 

 

♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢

 

 

転生したのを自覚してから早7年、俺は10歳になった。

家から山道へと繋がっている長い石階段を降りきると、高く生い茂る竹に挟まれた坂道の緩やかな傾斜をそのまま下っていく。

そのまま進んでいくと見えてきたのは、俺と同じ場所に向かっている大勢の子供たちだった。

道を歩いている子供たちの身なりを見れば、綺麗な形に整えられている艶がある髪に、乱れなく着付けられた綺麗な着物を着た者と、最低限に整えられていた髪に、見るからに身丈が合っていなかったり所々に継ぎ接ぎが見えたりするような古着の服装が多い者の二つに大きく分かれていた。

身分の違いを感じさせる光景だったが、ボロボロの服を着ている彼らのほとんどが暗い顔ではなく、目に熱意が篭った顔をしていた。

何故なら、子供たちが貧富の差に関係なく学問を受けられるようにと領主である武田真玄が実施した政策によって校舎の建築費用や改装費用に講師の給金などの学び舎を運営するための費用全てを武田家が負担し学費が無償化されているため武田家領内では家の経済事情に左右されず誰にでも学ぶ機会があり、学校で教育を受けて成功を収めた者の中には貧しい家出身の者もいたため、子供たちは自分達も頑張って夢を叶えようと日々勉学に励んでいた。

そう、俺が今向かっているのは寺子屋と名称された学び舎。すなわち学校である。

学校といっても義務教育ではないらしいのだが、前述した例えもあってかほぼ全ての子供たちが積極的に寺子屋の授業を受けている様でやる気に満ち溢れていた。

 

「おはよー!」

 

「おはよう!」

 

「次の土曜日に乗馬の特訓に付き合っていただけぬか?」

 

「構わぬでござるよ」

 

「今度の休みに鷹狩りに行かない!?」

 

「いいよー!」

 

「今日の授業終わったら山菜採りに行こーよ!」

 

「ごめん、今日は家の手伝いあるんだ……」

 

こうして朝早くにも関わらず、聞こえてくる声が元気一杯なぐらいには。

こういうのを蚊帳の外から見てると話し相手が両親以外に居なかった前世を思い出してしまうな……

はぁ……

 

「なに暗い顔をしているんですか?」

 

「そりゃあ……って!?椿さん!いつの間に!?」

 

不意打ちでかけられた声に本気で驚いてしまったが()()の声だったので反射的に臨戦体勢に入るなんてことはなかった。

驚きながら振り向いた先に居た俺より高い身長の少女は綺麗な顔に浮かべたジト目を俺に向けていた。

 

服装は()()で使うものではなく普段着のようで、紺色を基調とした生地に藤の花が描かれてある着物は控えめで見る者に落ち着きのある印象を与えるだろう。艶のある長い黒髪はポニーテールに結ってあり、前髪は眉の上で綺麗に切り揃えられている。左耳の少し上の方には彼女の名前と同じ花の簪が挿してあり、それが落ち着いた髪色に明るい雰囲気を加えていた。

 

彼女の名前は椿さん、歳は俺の四つ上だ。

椿さんとは特別な出来事で出会ったとかいうものではなく、俺と彼女の実家同士が付き合いがあったらしく1年前に父に連れられた宴会で彼女と知り合った。

腰に手を当てて、変わらずジトっとした目を向けてくる。

 

「いま来たばかりですよ。……ちょっと驚きすぎじゃないですか……?」

 

いや、ボーっとしてて周囲の把握に集中出来てなかったとはいえ、近づいてくるのに気づけなかったんですけど!?流石、()()の気配隠蔽能力……!

 

「それでどうしたんです?何か悩み事でも?」

 

「あ、いや〜……昨日、修行の方に時間使いすぎてちゃって……課題の方は終わらせたけど、今日の予習やってなかったなー……って」

 

前世のことで悩んでたなんて口に出来ないので適当に誤魔化す。

 

「そうですか……まあ、今日の範囲はそんなに難しくないと思うので大丈夫だと思いますが」

 

「あ、ありがとうございます。予習も出来てるのは流石というか……忙しい中でよく時間作れますね?」

 

椿さんはまだ本格的に家業に加わっているわけではないらしいのだが、訓練の方は随分前から既に行なっているとのことだが、椿さんの親戚曰く相当キツイものだという。

彼女は問題なくこなせているとのことだが、学問の方も並行しているというのだから時間にはかなり追われている生活のはずだ。

 

「私もそこまで余裕はないんですが……まあなんとかやれてますね」

 

苦笑を浮かべて言葉を返してくれる椿さんを見てみると、やはりかなりキツキツのスケジュールらしい。それでも問題なくこなせてるのは才能もあるだろうが、彼女が努力家であるからだろう。

 

「相変わらず家の方は忙しそうですね。身体の方は大丈夫ですか?」

 

「ええ、お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。修行の方も問題ないです」

 

「ていうか、さっき思ったんですけど前よりも気配隠蔽能力上がったんじゃいないですか?全然気付きませんでしたよ?」

 

いや、ほんとマジで。全然気配を感じなかったんだけど。普段の日常で油断してたってのもあったが、さっきのでもう少し気を引き締めようかなと思ったし。

 

「そ、そうですか……!そ、そう言っていただけると……ちょっと自信ついちゃいます///」

 

「ッ……!///」

 

頬を赤らめながら口元を綻ばせ微笑む椿さんの笑顔に思わず心臓がドクンッと跳ね上がった。

普段のクールな雰囲気とのギャップがすごい愛らしさを感じさせる笑顔だった。か、可愛すぎるって……!や、やばっ……!顔が緩んできているのが自分でも分かってしまう!と、とりあえず誤魔化そう!

 

「え、えーと……し、修行の方は順調なんですよね!?」

 

「え、ええ!!問題なくこなせています!きょ、鏡夜の方は大丈夫ですか!?」

 

「あ、はい!絶好調です!っても、探知能力に関してはまだまだ隙があるってわかっちゃったんだけどね……」

 

「あ…ご、ごめんなさい……」

 

つい口に出しちゃった言葉にしょぼんとなってしまった椿さん。

やばい、何故か罪悪感がすごいのしかかってくる……

 

「いやいや!俺がまだまだ修業不足ってだけのことですから謝らないでください!そ、それに、椿さんの気配隠蔽の技術もやはり流石と思いましたし」

 

「ま、まあこれでも忍びの一族ですので」

 

椿さんが口にした通り、彼女の一族は忍びとして主君に仕えることを生業としていて、基本的には諜報活動や情報操作に要人警護などといったものが主な仕事内容らしいのだが、その他にも領地や領民に被害を及ぼす野生動物の駆除や副業としている職種で領内の人手不足を埋めたりなどその役割は多岐に渡るらしい。詳しくは教えてくれないのだが、稀に表には出せないような案件もあるらしいとか。

趣味で漫画やライトノベルを読んでた俺の勝手なイメージでしかないのだがこういった表に出さないものーーいわゆる極秘任務ってのは多分こういうものなんじゃないかな?

 

・敵対している、あるいは非友好的な関係の他国への牽制で他領地にある邪魔な施設の破壊工作

・他領民の大名への不満を上げるためや敵陣営の人間を引き入れる調略のための情報操作

・戦争捕虜への手段を問わない尋問

・他国の主要人物や領内で反乱を企てている者、領内に侵入してきた他国の忍などの邪魔な人間の暗殺任務

 

こういった倫理的や人道的に問題があったり、外聞や領民からの支持への影響が大きい内容故に極秘扱いされ、依頼主と実行人などの関係者内だけで徹底的に情報規制しているんじゃないかと思う。

椿さんからもあまり踏み込まない方がいいと念を押されたことがある。

まあ、前述した通り俺の勝手なイメージでしかないのだが。

おっと、話をしているうちに学校まで来てたわ。

 

「そろそろ着きますので、話はまた今度にしましょうか」

 

「はい、そうですね」

 

学校に着いたので椿さんとは教室別に別れる——ことはなく、同じ教室に入って、そのまま隣同士で座る。

寺子屋では年齢別で教室が分かれるわけではなく、それぞれ自分が学びたい科目の授業を自主的に受ける形式になっている。

書道、語学、数学、地理、歴史などの主流なものから柔道、剣道、馬術、狩猟、水泳、茶道といったものまである実に多様な科目となっており、時間は俺がよく選ぶ科目の一つである歴史だ。

前世の記憶がある俺もこの世界の歴史など無知も同然なのでこの授業を受ける回数はかなり多い。

今も板書に書かれていることを頭に叩き込みながらもペンを持つ右手を止めずに進めていく。

ちなみに前世の世界でいえば江戸時代の日本であるイーシェンだが筆だけしかないということはなく、チョークや羽ペンとかも普通にあるらしい。

江戸時代の日本に似ているといっても、イーシェンは鎖国しているというわけでもなく、軽く小さい物なので大陸からも流通してるのだとか。

 

「我が国を治めておられる御方が帝であり、帝による統治は2000年以上前から今も続いておられ、帝を補佐するのが各地方の領主に……」

 

こうして授業を聞いていると、やはり前世の世界とはまるで違うんだなと思わされる。

日本で2000年も続いた政権などないし、西暦で数えれば余裕で平成まで辿り着くし。

 

「我が国イーシェンは世界全体で見れば極東に位置する島国で大陸とは海で隔てられており、我が国の左上にあるのが世界の大部分を占めている大きな大陸である。これが昨日教えた範囲で、今日は我が国の周辺に位置する他国について教えようと思う。まず天帝と呼ばれる者が治める国ユーロンは近年、周辺諸国への侵攻を積極的に行い始め、我が国も警戒する必要があるだろう。事実、ユーロンは過去イーシェンに何度も攻め入っており……」

 

歴史の次は地理だ。この授業では地形についてや自然についての必要な知識だけではなく、周辺の国との関係や情勢についても学べる科目であった。

授業で知ったのだが、この世界は海より陸地の割合の方がかなり多く、世界にたった一つだけの大きな大陸がその大部分を占めている。その大陸の周りを少ない割合の海が囲んでいて、何箇所から大陸の中に入り込むように河となって伸びているようだ。

こんな世界だが海運が廃れているわけでもないらしく、西方の方では船による貨物の運搬は普通にあるらしい。

というか、この世界の気候がかなりデタラメな様で暑さや寒さなども地域ごとにバラバラで、四季がある国もあれば一年中同じような環境の国もあるらしい。それも北だから寒いとか南だから暑いとかいった気候の法則性なんかもないような感じで前世の世界とはまるで違うものだと考えた方がいい気がする。まあ異世界だしな……イーシェンは日本と同じく四季があるらしいんだけど。

この世界は地球のように球体じゃないらしく平面世界らしいんだけど、下の方どうなってんの?世界の端からその先は?……今は考えないでおこう……面倒くさくなりそうだし……

そうこうしてるうちに教室上部に取り付けられている時計の針が正午に差し掛かって

 

ゴーン……!!

 

「よし…今日の授業はこれまで!号令!」

 

「起立!気をつけっ!礼っ!」

 

『ありがとうございましたっ!!』

 

講師が終了の合図を出すと今日の号令担当が出した指示に従って講師への一礼を行う。

寺子屋の授業時間は短く、午前で終わる。

 

午後0時、本日の授業終了

 

授業が終わり、周りにいた者の多くがわらわらと教室から出て行くのを横目で見ながら巾着袋から取り出した母が持たせてくれた弁当箱を広げる。

 

「おおー……」

 

中を見てみると筑前煮、ひじきの煮物、一口サイズの焼き鮭の切り身、ほうれん草の胡麻和えといった健康に良さそうなおかずが詰められていた。

上段の箱をずらして下段を覗いてみると、舞茸やエリンギに似た茸が入っている茸ご飯が美味しそうだった。

持ち上げたままの上段の箱をご飯の横に置いてから箸を取り出すと

 

「いただきます!」

 

手を合わせて食事の際の一言を口にする。

まずはほうれん草からいただこっかな。

うん、美味い。薄味すぎず濃い味すぎず、絶妙なところに収まってる。

次は筑前煮っと。

ッ……!あー!やっぱ美味い!この鶏肉も柔らかくて味が染み込んでるし、厚揚げなんかマジで最高……!

その後も俺の箸が止まることはなく、20分もかからずに弁当箱の中は空になった。

ちなみに、俺のように授業が終わった後、教室で持ってきた弁当やおにぎりなどを食べ、寺子屋で昼食を済ませる者はそれなりにいるが、今日はどうやら教室に残っていたのは俺だけのようだ。

そのため寺子屋の規則にある最後に教室に出る者の役割として黒板のすぐ横の壁に掛けてあった鍵で教室の鍵を閉めると、講師たちがいる部屋(いわゆる職員室)まで向かい、寺子屋の鍵全てを管理する講師に鍵を返しに行く。

何の問題もなく終えることができ、俺はようやく下校した。

 

♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢

 

寺子屋を出てから30分程歩いて向かったのは山間部の開けた場所にある俺の授業場所。

元々この場所は鉱山であるこの山で使われていた採石場だった。しかし数年前、領地内にまた別の鉱山が発見され、しかもその鉱山を発見したと同時に見つけた坑道となるであろう洞窟がこの鉱山の鉱床とも中継できる位置にあったため、新しい採石場が開かれると同時にこの鉱石場は閉鎖されてしまったのだった。

採石場は封鎖されている訳ではないのだが坑道への立ち入りは禁止されていて誰も来ないため、修行にはうってつけだったので修行場所として使わせてもらっている。

 

え?なぜ修行なんかしてるかだって?

転生してある程度してから知ったのだがこの世界、街や村からちょっと出ただけでも魔獣や魔物に遭遇したり、街に続く街道の途中で盗賊や山賊に襲われることもあったり、何なら街中も関わらずちょっとした喧嘩で剣や斧などの武器を抜いたりするような奴もいるらしく、割と物騒そうなので早いうちから鍛えておいたほうがいいと思った。

それに、後悔せず生きていくって決めたしな。やれることはどんどんやっていくべきだろ。

 

「さーてと、まずは基礎トレ基礎トレっと」

 

準備運動を済ませるとまずは身体を鍛え上げるための基礎トレ、その内容は

 

「ふっ!ふっ!ふっ!」

 

腕立て伏せ500回

 

「んっ!んっ!んっ!」

 

上体起こし500回

 

「ふっ……ふっ……ふっ……」

 

片手逆立ち300回

 

「ふっ!ふっ!ふっ!」

 

走り込み2時間と諸々含めて3時間ほどフィジカルトレーニングに消化した。

 

「ングッングッ……っ、あー!水が美味い!」

 

水筒にある水を全部飲み尽くすかの勢いで喉に流し込んでいく。

温まったいた身体の熱が少し収まってきたので水筒の蓋を閉めて荷物を置いてある大石の上に戻す。

 

「よし、じゃあ次は魔力操作の練習っと」

 

もしこの発言を聞いている者に何を言っているんだろうと思われるだろうような内容だが、実はこの世界には魔法が存在する。

俺も最初知った時はビックリしたが、元の世界にはなかった魔法には期待と興奮が止まらなかった。

だって魔法だぞ!?年頃の男なら憧れてもしょうがないだろう!?……元の世界では20を超えた大人だろ?とかは言わないでほしい。大人でも子供心があっていいと俺は思うし……

俺は魔法の存在を知ってからは、父が故郷から持ってきていた魔法についての書物や研究資料を読み漁った。

事細かな魔法が載っている魔導書やこの世界のさまざまな概念や物に宿りそれらを司っていると言われる精霊なる存在に呼びかけるための言語、(未解読の)精霊言語が綴られた辞典、自然界の魔素についての研究資料、魔道具開発基礎学教本、Etc......など魔法に関する資料をとにかく読み漁った。

それらの資料はとても膨大な数あり、全て読み切るのに5年以上の時間を費やし、つい半年前に読み終わったところだった。

いやー……ほんと多かった……ものすっっっごく面倒くさかった……

まあそのお陰で魔法についていろいろ知ることは出来たけどな!

 

「まずは……」

 

魔力についての資料をいろいろと読み漁った結果、魔法を行使する上で重要なのは体内の魔力操作と、周囲の魔素の掌握だ。

この世界の魔法は()()()()()術者の適正、大気中にある魔素、発動する魔法に定められた詠唱を唱えることで行使される技術だという。

ここで重要なのが術者の適正だと言う。

まず初めに魔法の属性は火、水、風、土、光、闇、無の7種類に分類されている。

ざっくりとだが、それぞれの属性についてまとめると

 

火……術者の魔力で火を生み出し操る魔法。魔法で生み出した炎は術者を燃やすことはないという。火属性魔法のほとんどは攻撃魔法らしい。

 

水……術者の魔力で水を生み出して操る魔法。氷魔法もこの属性に分類している。

 

風……術者の魔力で風を生み出して操る魔法。雷魔法もこの属性に分類している。

 

土……術者の魔力で土を生み出して操る魔法。周囲の地面を操作したり、岩石を生み出したりできる。また、建造物の経年劣化を防ぐための保護魔法もこの属性に分類している。

 

光……神聖魔法とも呼ばれる魔法。ほとんどの回復魔法がこの属性に分類していてまた、アンデッドやスペクターなどの死せる者や実体のない魔物を浄化する魔法もこの属性に属している。光属性の適正者は少ないという。

 

闇……一般的には召喚魔法として知られている。異なる世界から召喚した魔獣や魔物と儀式で契約し、術者の魔力を媒介にこの世界に顕現させる魔法。光属性と同じぐらい闇属性の適正者は少ないという。

 

無……詠唱を唱えることなく魔法名だけで発動することができる魔法。他の属性魔法には分類しない魔法がこの属性に当てはまり、個人魔法とも呼ばれているこの属性の魔法で他者と同じ魔法を使える者はそういないと言われているので、自分だけの唯一無二とも言える魔法である。但し、無属性魔法は一人一つしか保有していない者が多く、複数の無属性魔法を使える者もいるらしいが極めて稀だという。

自分だけの唯一無二とも言える魔法の名前についてはふとある時、頭に思い浮かぶらしいと言う。

 

この七つの内、魔法を発動させられる属性が術者の適正となり、逆に適正の無い属性の魔法は一切使うことができないと言われている。

適正の有無に血筋は関係ないらしく、例えば兄が火属性の適正を持っているからといってその弟が必ず火属性の適正を持っているというわけではなかったり、親子でも全く別々の適正を持ってたりすることもあるという。

そして全ての人間が必ず魔法の適正を持っているというわけでもなく、適正が無い人間は全然珍しくないらしい。逆に魔法の適正を複数持っている人間はそれなりに珍しいみたいだ。

これらのことを調べている時ふと疑問が浮かんだ。

ー適正の有無が血筋によるものではないなら何が関係しているのか?

資料を見た限りでは血縁者内での適正持ちの有無、複数属性持ちの組み合わせ、個人個人バラバラで法則性が見当たらない。

適正が血筋や種族によって左右されるなら説明は簡単につくだろうがそうではなく、ならば何によって適正が決められているのか。本当にデタラメだとしたらそうだと納得できるだろうが、考察してみる余地はあるかもしれない。

 

もう一つ気になったのが、適正の無い人間も魔力を持ってるということだ。

 前述した通り適正が無ければ魔法を発動することができない。にも関わらずなぜ魔力を保有しているのか?

意味もない力がただ身体に流れているだけとも思えず、魔力操作の練習をしてふと思った。

 

ーー魔力で身体機能を向上させることが出来るんじゃね?、と。

 

魔法ファンタジー物の漫画や小説ではよく見る"魔力による身体強化"だがやってみる価値はあると思い、ここ数週間は体内の魔力を制御する特訓を行なっている。

イメージとしてはそうだな……身体に流れている血液をより濃く腕や足に流してその箇所に留めておく感じで試してる。

感覚としてはもうちょっとで出来そうなんだよな……

 

ー試行錯誤を繰り返しながら魔力を操作すること30分

 

「ははっ……!よっしゃ!出来た!」

 

遂に形にすることができた。

魔法名を口にすることなく魔力操作だけで身体強化を施すことができた。

上昇率は……3〜5倍ぐらいか?

試しに身体強化を解除して近くにあったスイカほどの大きさの岩を両腕で持ち上げてみる。

普段から身体を鍛えてるので持つのは簡単だったがそれなりに重さは感じる。

一旦岩を下ろし、体内の魔力を制御してもう一度強化を施す。

その状態で先ほどの下ろした岩をもう一度持ち上げてみると、今度は軽々と持ち上げることが出来た。

岩を胸元から頭の上まで移動させるのも楽々と出来るともっと試したくなり岩を頭の上に掲げた状態のまま周囲を見ると、少し離れた場所に大岩があったのでそれに目掛けて持っていた岩をぶん投げた。すると投げた岩は勢いよく飛んでいき、大岩にぶつかると二つの岩は両方とも粉々になってその破片が周囲に飛び散った。

おおう……これ、普通の人にやったらあかんやつ……

お尋ね者や盗賊と言った悪党や魔獣相手しか使わんほうがいいな……

次は魔力強化を施したまま走り出す。

するといつも走る時よりも身体が軽く、足と腕をすさまじい速さで動かすことが出来た結果、恐ろしいほどの速度が出せた。

その後は木の枝への跳躍、手刀での岩石割り、連続殴打、と色々試してみた結果、身体能力の全てがいつもより数倍上昇していると分かった。

肉体強度も上がっていたため岩を割った時もほとんど痛みを感じなかった。

身体強化はある程度形に出来たので、そろそろ切り上げようかと思った時

 

「あれ?鏡夜じゃないですか」

 

「うおっ!?椿さん!?」

 

後ろから呼びかけられた声にものすごく驚いて振り向くと、走り込みをしてかいたのか顔の汗を肩のタオルで拭っていた椿さんがいた。

服装は寺子屋の時の普段着ではなくて家業で使う忍び装束だった。

って……!また背後をとられるなんて……!

そう悔しがってると、椿さんは何故かフフフと笑みを浮かべていた。

得意気に笑ってる椿さん可愛いな……

あれ……?もしかして……

 

「ふふっ、どうです?全く気配がしなかったでしょう?」

 

「朝とは違って故意で不意打ちしたんですか……ええ、全然気づきませんでしたよ……」

 

いや、ほんと……油断しすぎじゃないかな俺……気を引き締め直さないと……

しかし……改めて見てみると椿さんの忍び装束やっぱエロいな……

ノースリーブの襟の広いサイドスリットの黒いワンピースが身体のラインをはっきりとさせ彼女のスタイルの良さを示し、肩と胸元の部分を覆う黒いレースは色っぽさを引き立てていて、ワンピースの隙間からはスラっとした長い美脚が覗き出し、タイツが膝下までとかなり露出が激しい格好で、汗でより色っぽく見えてしまうため目のやり場に困る。

あまりジロジロ見て椿さんを不快な気持ちにさせるわけにはいかないので

 

「つ、椿さんも、修行ですきゃっ!?」

 

咄嗟にそう尋ねたのだが、思いっきり噛んでしまった……

恥ずい……!

 

「え、ええ……!そろそろ切り上げようかと思い……!プッ…プハッ!ご、ごめんなさい……!アハハッ……!」

 

最初の方は堪えていた椿さんだったが、途中で吹き出してしまった。

思いっきり笑われてしまったな……

 

「ご、ごめんなさい鏡夜。そう落ち込まないでください」

 

「いえ、俺が思いっきり噛んでしまったからですし……」

 

「そういう時もありますよ。でもなんでいきなり噛んでしまったんですか?」

 

「いやそれは……」

 

椿さんをエロい目で見ないためだなんて言えねえ……

どう言おうか悩んでいたら、椿さんが俺の額に手を当て顔を覗き込ませてきた。

 

「ひゃう!?」

 

「顔が赤かったから熱かなと思ったんですが……熱ではなさそうですね……」

 

っつうわわわわ……!!!

 

柔らかさと体温ががああ……!!!

 

柔らかいのがああああ……!!!

 

い、息が口にいいいっ……!!!

 

「か、顔がだんだん赤くなってますよ!?ほ、本当に大丈夫ですか!?」

 

俺の精神が訳の分からないほど荒れ狂っている中、その原因である椿さんもわたわたとしてしまいかなりカオスな状況となってしまった。

 

♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢

 

「す、すみません……」

 

「い、いいえ。私こそ……」

 

あの後、いきなり降り出した夕立ちに濡れないためにと近くにあった迫り出した岩の下へと逃げ込んだ。

駆け込んで椿さんの方へ視線を向けると、汗と雨で全身がビショビショになり服が透けてしまった状態の彼女をモロに見てしまい、椿さんも服が透けているのに気づくと顔を真っ赤にしてすぐに両腕で胸を隠した。

場が変な空気になってしまい気まずくなったので、先程噛んだ理由や顔が赤くなった理由も全部暴露したら互いに気恥ずかしくなってしまいこの状況に至る。

 

「そ、その……ほんとすみません。あまりジロジロと見るのは失礼だと……」

 

「い、いいえ。わ、私もその、自分の状態をちゃんと把握しておくべきでした……」

 

暴露した時は椿さんに軽蔑されないかと不安だったので、こう言ってもらえたのは本当に安心した。

 

「と、とにかく、私も不用心だったので。もう気にしてませんから」

 

「……ありがとうございます」

 

「……実は、不安だったんです。私」

 

「え……?」

 

椿さん……?

 

「来年からは私も、正式に家業に加わります。そんなことずっと前から分かっているはずなのに……いざ、その時が近づくにつれてどんどん不安になって……今まで積み重ね続けた修行の成果も本番で使えなくなってしまったらと、どんどん悪い方に考えてしまって……」

 

「……………椿さん」

 

来年には椿さんも正式に家業を任されることになる。いくら修行を重ねても、努力を続けても不安を払拭しきれないのは仕方ないだろう。

 

「でも……」

 

ん?

 

「……朝、鏡夜に上達したんじゃないですか?、って言われて……少し、自信がついたんです」

 

「…………」

 

「ふふっ、自分でも単純だなと思いましたよ?でも、そう言ってもらった時……心が少し晴れたんです」

 

ーそう言葉を綴っていく椿さんの笑みはとても綺麗で

 

「さっき、鏡夜の言葉に自信を持って試したら……出来ちゃいました///」

 

ー頬を赤らめながら笑う姿はとても可憐だった

 

「……あの時、私……すごい舞い上がってたんだと思います。自分の状態に目もくれないぐらい……だ、だから、鏡夜も、もう気にしないください」

 

「……はい」

 

「ふふっ……」

 

椿さんと顔を見合わせた時思わず、お互いに吹き出して笑ってしまう。

 

ふと差し込んできた光に気づき、視線をその方へ向けると

 

「あ……」

 

「……雨、止みましたね」

 

雲が晴れた空に鮮やかな虹が掛かっていた。

 

「……帰りましょっか」

 

「……ええ……」

 

ちょっとしたハプニングもあったが、今日もいつもと変わらない幸せで溢れてる俺の異世界生活だった。

 

 




キャラプロフィールと補足

【椿】……原作キャラ。原作での初登場はオエド編の敵である山本完助に乗っ取られた武田を奪還するためにカワゴエの砦で原作主人公、望月冬夜とオエド領主徳川家泰が会談していた最中に家泰に密書を渡すべく姿を現した。原作ではその後、冬夜が建国したブリュンヒルド公国に仕える忍びとして活躍する。
……ヒロインの一人、リーンに悪戯で胸を揉まれた人と言えばわかる人にはわかるだろう。着痩せしているが中々のプロポーションらしい。
本作では主人公、暁鏡夜の友人であり修行仲間でもある。鏡夜にとっては頼れる歳上のお姉さん。
原作で年齢は明かされなかったが本作では原作開始時点での年齢は22歳として扱う。現時点での年齢は14歳。


※この話に出た学校は現実の江戸時代にあった寺子屋を参考にしています!
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