なかなかスムーズに書けず1年近くかかってしまった……
ゲームとかでも、昔はすごい上手かったのに久しぶりにやってみたら全然出来なくなってるとかありませんか……?
自分はWiiのマリオカートで痛感したことがありますがやっぱりブランクって結構大きいですね……
まあ、作者の諸事情は置いといて。どうぞ!長らくお待たせしました!
魔力操作での身体強化を会得してから二週間が経った。ふと、外の様子が気になって開かれた障子の隙間から縁側の奥の立派な松の木が目立つ庭を見てみると、空一面が黒い雲に覆われててパラパラと小雨が降っていた。
時折、外に意識が向きつつも文机の上に広げている魔導書に目を通してページをパラパラと捲っていく。
今日、寺子屋は休校日で他に予定もなく外も見ての通り雨なので自室でゆっくりすることにしたが、あまりにも暇だったので魔導書を読んで時間をつぶしている。
この世界の魔法は、こういった魔導書や魔法が書かれたスクロールを読んで覚えるか、他者から教わることで習得するものだと言われていて今読んでるページにも魔法名とそれを発動するために必要な呪文が書かれていた。
家の蔵からひたすらかき集めた魔術に関する資料を読んで独学でだが俺はそれなりの数の魔法を習得している。
しかし魔法を習得する時にもふと思ったことなんだが、これらの魔法の大元は一体何処からなんだろう?
魔法は魔導書やスクロールで学ぶか、もしくは魔法を使うことのできる人から教えてもらって、会得するものと言われている。ここで疑問に思ったのが、『魔導書やスクロールに載っていた魔法は何処から生まれた?』ということだ。
この国イーシェンでは適正の無い人間が多いということもあって魔法についての知識や情報はあまり広まっておらず、地方の漁村や農村の方では魔法というものをそもそも知らない人間がいるというもの珍しくないらしい。
しかしイーシェンの上にある大陸では出版されたものを重版したものや新しく出版されたものなど数多くの魔導書やスクロールなども出回っていたりもする。
何が言いたいのかというと、魔法を覚えるために必要な魔導書はファンタジー系の創作物の設定でありそうな遺跡からしか出てこない希少物でも貴族とかの特権階級でないと手に入れられない代物なんてものではなく、探せば街の本屋でも簡単に見つけられるぐらいのものであり、事実魔導書の出版社のような商会も幾つかあるらしい。
つまり、誰でもというわけではないが多くの人間が読んだ魔導書やスクロールを真似して出来の良し悪しや評価はともかく、魔導書を作ることはできる。
そこで気になったのが、大多数は流石に言いすぎだがが作れる人間がそれなりにいるであろう魔導書を最初にこの世に生み出した人物は『どうやって魔法を知ったか』ということだ。
例えばの話をするが、ある一人の人物が魔法を習得したいと思ったので魔法を習得できる方法の一つ、魔法を使うことができる他者から指導を受けて無事に魔法を習得することが出来た。
ここで一つ問題。この人物に魔法を教えた人物はどうやって魔法を習得したでしょうか?
すぐに思いつきそうなのはその人物もまた魔法を使うことのできる他者から教えてもらい魔法を習得したという答えだろう。
ではまた問題。その人物に教えた者はどうやって魔法を使えるようになったのだろうか?
その答えも、その人物もまた人から教わったという結論で終わらせられるだろう。
ではまたまた問題。先程の人物に魔法を教えたものは?
それもまた、人から教わって、人から教わって、人から教わって……そうやって辿っていけばキリがないだろうな。いや、何回か辿っていけば魔導書やスクロールから魔法を習得したという人物に辿り着く場合もあるだろう。
だとするとまた疑問が生まれる。その人物が読んだ魔導書、もしくはスクロールは誰が作ったもの?
その魔導書もまた誰から教わったことで魔法が使える人物が世に残したもので、……ってこれ以上口にすると面倒くさくなりそうだ。
要するに何が言いたいのかと言うと、今や数多く存在する魔導書やスクロールなどに載っている魔法は『どこから生み出されたのか?』ということだ。
魔法が存在すらしなかったほどの大昔に、何も無い空間から魔法が載った魔導書やスクロールが飛び出てきてから人々は魔法が使えるようになった、なんてのは流石にないだろう……いや?もしかしたらあり得るのか……?
だが、そうでないのなら、魔導書やスクロールなんてものはおろか魔法すら存在しなかった過去の時代に何者かが魔法を生み出したのではないか?という説を考えたのだが、もしこの説が合っていたとするならある一つの可能性が出てくる。
ーー自分だけの新しい魔法を生み出せるのではないか?
誰も使ったことすらない魔法を生み出せるかもしれないと思うとなんかワクワクしてしまう。
まあ、仮に魔法を創るとしてもまだまだ魔法を含む魔術について学ぶ必要があるし、この説が本当かどうか確かめる術なんて今はないんだけどな。
思わず長考してしまって止まってた手を再び動かしてページを捲るのを再開する。
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
ーー約1時間後
一通り読み終えると、机の上の湯呑みを取って温くなったお茶を口に運ぶ。
……美味しいんだが、やっぱり冷たい方がいいな……
そう思った俺は湯呑みへ手を翳して魔力を集中させ呪文を唱える。
「氷よ来たれ、青の飛礫、アイスキューブ」
掌に浮かんだ魔法陣から生み出された小さな氷のキューブは湯呑みの中へと落ちる。
今使ったのは、水属性に属する魔法、氷魔法の中でも初級も初級の魔法。魔導書を読み始めた頃に習得した魔法だ。
氷が入った湯呑みを再び手に取り、カランカランと音を鳴らしながら湯呑みを回し、お茶の中の氷を混ぜる。
ある程度湯呑みを回したらお茶を飲む。うん、冷たくなってる。
やっぱ氷魔法は便利だよなー……冷蔵庫代わりになるし
「はー……暇だなー……」
魔導書を読み始めてから1時間半ほどすると流石に飽きてしまったので机に上体を預け、組んだ腕に頭を置く。
こうやってボーっとするのは嫌いじゃないんだが、この世界は前世では当たり前のようにあったスマホや漫画、ライトノベルなどはおろか、娯楽の類が少なく、前世でやってたようなちょっとした時間での暇つぶしが難しい。
……休みの日にベッドで寝っ転がってネット小説やアニメ見たり、DSで『ポケモン』や『ドラクエ』とかするのは最高だったなー
そんなもんだからなにか面白いことでも起こらないかなーっと平穏が好きな俺からすれはガラにもないことを思ってしまう。
突っ伏してから感覚的に30分ほど経過した辺りで、その状態のまま頭を動かし目の前の壁に掛けてある魔道具の時計を見てみると、時計は12時前を示していた。
……そろそろ昼食の時間か。
眠気がまだ少し残ってた俺は欠伸をしながら大きく腕を伸ばし机の上を片付けてから部屋を出る。
俺の部屋があるこの屋敷は家族とその付き人のみが住んでいる居住宅であり、父が運営している店舗の屋敷とは間にある梅園の中の広い渡り廊下で繋がっている。
そして我が家は朝と夜の食事はこの屋敷の広間でとるのだが、昼は店舗がある屋敷の広間でとることになっているのでそっちの方へと向かっている。
まだ止むことのない雨は規則正しい間隔で静かな心地よい音を奏でていて、花を咲かせた梅の木々は雨と風に晒されても尚散ることなく綺麗な彩りを飾っていた。
満開の梅を静かに揺らしてる風が、渡り廊下を歩く俺の身体を冷やしてくる。
「ううっ、冷たっ」
昨日で2月に入ったけどまだまだ寒いな……
渡り廊下を過ぎてしばらく歩くと耳にバチバチと打ち合うような音が聞こえてきた。その音は広間の方に足を進めるにつれ大きくなっていく。
もしかしたらと思い、常時展開している
ああ、やっぱ
発生源と思われる右手の部屋ー道場の前で止まると、襖の引き戸に手を掛けて開ける。
「やあああっ!」
襖を開けてまず目に飛び込んできたのは、部屋の中央で俺より歳が上であろう青年の振り上げた木剣が、その青年より更に歳上であろう男が振り下ろしていた木剣を掬い上げるように高く打ち飛ばした光景だった。
高く打ち上げられた木剣は回転しながら宙を舞っていたが、天井付近まで達すると重力に従って落ちて行き、と音を鳴らして地面に落ちた。
「そこまで!勇夜殿の勝利!」
木剣が地面に落ちた直後、二人から少し離れた場所にいた審判が勝者の名前を呼び、その者の方へ腕を高く掲げる。
「「ありがとうございましたっ!」」
審判の宣言が終わると向き合っていた両者は一礼し、互いの健闘を讃える。
それが終わるとすぐに、離れた場所で見届けていた者たちも立ち上がり道場にいた全員が部屋にある神棚の前に集まる。
「ではこれで午前の稽古を終了する。神前に礼!」
『ありがとうございましたっ!!!』
審判を務めていた人の号令に従い、集まった者たちが大きな声を張り上げて綺麗な礼を行う。
頭を下げてから数秒の間が過ぎ、下げていた頭を上げると部屋にいた全員が出入り口である襖、俺の方へと歩いてきた。
「あー……!つっかれたなぁー!」
「まあまあ、疲れてこその特訓でござろう?」
「そうでござるな。己をより高みへと成長させるためにも根をあげてはおれぬからして」
「でも拙者、改善すべき点が多いんでござってなあ……」
「あー……それ俺もわかるわ。初撃から次に繋げるのが拙いから容易く対処されるんだよなあ……」
このまま立ち往生していたら邪魔になりそうだし、用事は後にするか。
「ん、鏡夜?」
そう思って進もうとしたら声をかけられたので足を止めて声の方へ視線を向けると、俺が探していた人物が集団の最後尾にいてこちらに視線を向けていた。
俺と同じ黒髪と黒目、しかし背丈は俺よりも高く肩幅は広くがっしりとしていて力強さが感じられる体格だった。
身に付けている白い道着は所々乱れていてその隙間からは身体中に付着した汗が光っていた。
凛々しい顔つきは光を反射している汗すら爽やかな印象を感じさせるほどであった。
とにかくこちらも返事をしないとな。
「お久しぶりでございます。兄上」
そう。この人は、俺の二人いる兄の二番目の兄、暁勇夜だ。歳は俺の6つ上でたしか16歳になったばかりだ。
前世で一人っ子だった俺は転生した当初は
この人には学問や鍛練など含めたいろいろな面で世話になってて、俺にとっては頼れる自慢の兄貴だ。
……実際、父と母はほとんど家にいなかったので多分それを見兼ねてくれて親代わりとして接してくれたんだろうな。
「ああ本当に久しぶりだな!しばらく顔を出せてなかったが、鏡夜が元気そうで安心したよ。ああ、今日と明日は非番の日なんでゆっくりしていけるよ」
そうか!そりゃいいな!兄さんは2年前に領主である武田家に仕官が決まると居住用の屋敷が与えられてそっちに住むようになってからこっちにはあんまり帰ってこないんだよな。久しぶりに稽古に付き合ってもらおうか。
「それに今は公的な場ではないから畏まる必要もないし普通に兄さんでいいよ」
「そうで…わかった。お疲れ様兄さん、仕事の方はどう?」
兄さんは俺が畏まった言葉を使うのが苦手だと理解してくれているのでこう言ってくれるのは本当にありがたい。
「……正直に言うといろいろ大変かな?大勢の人に自分の剣を教えるなんて初めてだし、他にもやらなきゃいけないこと、覚えなきゃいけないことが山ほどあるからな」
俺の問いに苦笑しながら答えてくれた勇夜兄さんの顔には少しだけ疲れの色が見えていた。
勇夜兄さんは多くの人間が天才と評するほどの腕前の剣士で、その強さはこの歳にして武田軍剣術師範に抜擢され武田四天王の一人の直属の部下として武田真玄の護衛にも選ばれるほどである。
俺も一度だけ兄さんの剣技を武田家主催の剣術大会で見たことあるがあの人の剣は大会会場にいた多くの人間を惹きつけるほどのものだった。
風の如く速く振るわれ、林に生える竹の如くしなやかに相手の刀を受け流し、燃え盛る炎の如く激しく振るわれ、高く聳え立つ山の如く硬く崩れない剣技。
そんな剛柔兼ね備えた兄さんの剣技は多くの者に素晴らしいと絶賛されて特に武田家当主真玄さんは兄さんの剣をえらく気に入っていた。自分が戦で信条とする『風林火山』を表すような剣技と。
あの大会で兄さんの方に武田家から仕官の声がかかったんだったな。
ちなみにその大会はほとんどの試合で相手を圧倒し無双とも言える活躍で全勝した兄さんが優勝した。
将来の安泰が約束された身分なのだろうが、立場に責任や重荷を感じたり仕事の多さから自分の時間が制限されていろいろと大変で不自由なんじゃないかと俺は思ってしまう。
まあそう思うのは俺だからで、兄さんからしたらありがたかったのかな。勇夜兄さんは次男であるため家業は継がないだろうし。
「まあ大変なのは確かだけどさ、皆優しく接してくれるからそれほど重荷は感じないし、真玄様…お館様も俺に期待してくれてるからやり甲斐もあるよ」
「……まあ兄さんが元気そうならよかった。けど無理しすぎないでよ?」
勇夜兄さんは責任感が強い人だから自分の身を顧みずに無理をしすぎないか心配なんだよな。偶には自分を顧みてくれれば俺も安心できる。
「心配してくれてありがとうな。けどまあ、武士には自分の全てを振り絞ってでも主君のためにやらねばならん時もあるかもしれないしな。鏡夜の気持ちは嬉しいけど確約は無理だ。まあ、そんな時が来ないのが一番いいんだけどな」
首にかけたタオルで顔の汗を拭いながらそう返してきた兄さんの言葉にどう返せばいいかわからず言葉が詰まってしまう。
……こういう時咄嗟に言葉を返せないのは前世から全然変われてないな……
そんな俺の様子を見た兄さんは少し困った表情になる。
「……あんまり気にしすぎても仕方ないぞ」
「……ごめん」
「でも鏡夜にそう思ってもらえて嬉しいよ。そうだ。お館様から褒美で戴いた茶器を夜の宴会で父上たちに見せることになってるんだが、後で俺の部屋に見にくるか?」
こういうふうに気をつかってくれるところが兄さんの優しいところなんだよな。
誘ってくれたのは嬉しいんだが……
「……悪い、午後から約束があるから」
今日は午後からは予定が入ってて、兄さんには悪いが約束を無碍にするわけにはいかない。
「そっか……じゃあ俺はまだ用事があるから先にご飯を食べてきなよ」
「お疲れ様、兄さん。」
俺が来た道を歩いていく兄さんに労いの言葉をかけて再び歩き出す。
道中で何人かの使用人の人たちとすれ違いながら足を進めていき1分ほどで広間に着いた。
金色で彩られた牡丹の襖を開けて中に入ると、何列にも並べられた長机には30人ほどの人間が座布団の上に腰掛けて各々食事を取っていた。
まあこの時間なら少ないほうだな。多い時はもっと多いし。
部屋の奥に用意されている自分の席まで向かうと、座布団に腰掛ける。
今じゃ正座もすっかり慣れたもんだ。
蓋がされている漆の茶碗に漬物の小鉢ときんぴらごぼうと蓮根の中鉢、皿からはみ出るほどの大きな海老や茄子や南瓜といった野菜を含めた幾つもの天麩羅が盛られた縁が花紋様の一際大きい皿、茶碗と同じ様に蓋がされている味噌汁の入った汁碗に湯気が立っている湯呑みなどが綺麗な位置取りでお膳に載せられていた。
「いただきます!」
両手を合わせ食材と料理人への感謝を口にしてから箸を手にする。
まずは野菜のきんぴらごぼうと蓮根から。箸で摘んだ蓮根を口に運ぶ。美味い!辛すぎず薄すぎない味付けでご飯も進む!
俺は昔からなんでもご飯のおかずにいける口だったからなー。そのせいで、前世でも俺はとにかく大量の白飯を必要とし、一度の食事で三杯は余裕でいっていた。運動部の人間でもなかったのに人一倍食べていたと思う。
次は味噌汁〜♪
蓋を上げるとムワっとした湯気が立ち上り、ホカホカと熱を感じさせた。
汁碗を片手に中の味噌汁いただく。うん、美味いな!
次は天麩羅♪天麩羅♪まずは茄子からいただきますか〜♪
天麩羅が載せられた大皿には小鉢に入れられているつゆと塩が添えられていたが最初はなにもつけずに茄子の天麩羅を口にする。
サクッとした食感と衣の味を感じたのも間もなく、口に広がる濃厚な茄子の旨味……!おまけに茄子の柔らかさが衣のサクッとした食感と噛み合ってさらなる美味さを引き出している……!
もう一つあった茄子に今度はつゆを少しつけてからいただく。つけすぎるとつゆの味だけになって天麩羅本来の味が消えてしまうからな。前世では何回も失敗したんだよなー……
つゆにつけた茄子を口に運ぶとめんつゆ風味の濃厚な味と茄子の柔らかさがこれまた最高だった。
茄子を食べ終えるとすぐさま南瓜に箸を伸ばして口にすれば、衣のサクサク感と南瓜の甘味がまた美味だった。
さていよいよ、大海老の天麩羅をいただくとするか。つゆを少しつけてから、口まで持っていって豪快にかぶりつく。
ッ……!!ウッマーッッッ!!!!語彙力がない感想だと自分でも思うがマジでその通りなんだよ!!
海老のプリプリとした柔らかながらも肉厚な食感!たまらねぇ……!!!
その後も俺の箸は止まることなく食卓の上に伸ばし続けて20分ほど経ってようやく箸を置く。
あー……美味かった……!
湯呑みの茶を静かに啜りながら食後の余韻に浸る。さて、そろそろ約束の時間になるし行くか。
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
食事の後片付けを済ませてから大広間を出ると、来た道をそのまま戻って行き、俺の部屋を通り過ぎてから少しだけ先にある部屋の前で足を止めた。
目の前にある夜空を表した黒の壁紙に三日月と雲海が描かれた襖絵は、素人目でも相当な価値があると分かるほどの代物だっだが芸術に疎い俺には『綺麗だな』というありきたり過ぎる感想しか出てこない。
まあ、それは今どうでもいいな。
「入っていいかー?」
襖の向こう側まで聞こえるように声をかけると直ぐに
「……
襖越しに聞こえた返事に従って中に入ると、駆け寄って来た少女に抱きつかれ痛くはない程度に頭をグリグリと押し付けられる。
「ん………お兄ちゃん……」
しばらくの間俺はされるがままになっていたが、満足したのか俺の胸元に顔を埋めていた少女が頭を上げてその顔が露わになる。
艶のある月明かりのような美しい金色の髪、
身に纏う白を基調とした牡丹模様の振袖はその美しさをより引き立てていた。
暁麗夜、俺の妹だ。歳は俺の4つ下で6歳。俺は愛称でレイと呼んでいる。
俺が転生したのを自覚した日のちょうど1年後に生まれた。
前世を含めて初めての妹だったので最初はどう接したらいいか全然わからなかったけど、前世で読んでた漫画や小説を御伽話として聞かせたり一緒に遊んだりしてたらすっかり懐いてくれた。
そりゃあもう、俺にとって自慢の妹だ。素直で賢くて、なにより……
いやホントに可愛すぎるんだよ……!!容姿は勿論、素直で人懐っこくて甘えんぼな性格もほんとうに愛くるしいし、お兄ちゃんお兄ちゃんって言ってちっちゃな手をこっちに伸ばしながら甘えてきた時は何度悶え死にかけそうになったことか……!
「お兄ちゃん……」
「ッ……!!」
胸元からこちらを見上げてきたレイにドキッとして心臓が跳ね上がる。
ああ……やっぱ俺の妹超可愛いわ……
こうやって上目遣いで『もっとして?』と言わんばかりに物欲しそうな目を向けてくる姿なんて愛くるしすぎてもはや凶器だ。
可愛すぎる我が自慢の妹の要望に応えるべく、左腕を背中の方に回して右手は頭に乗せる。
レイの綺麗な髪を傷つけないようにゆっくりとした手つきで頭を撫でて、腰に密着させて左腕でギュッと抱きしめて左手で背中を優しく摩る。
初めてやった
「んっ……気持ちいい……」
レイが気持ちよさそうに目を細め、ふにゃりとした笑みを浮かべて胸元に擦り寄ってくる。
ああ〜〜〜!!!俺の妹がマジで可愛すぎるぅぅぅっ!!!
後から振り返ってみると我ながらキモいな……
「んうっ……」
「ふぁっ!?」
ゆっくりと動かしていた右手に、レイが頬擦りし始めたので思わず変な声が出てしまった。
右手から伝わる柔らかな感触に心臓の鼓動が激しくなってしまう。
口から漏れるレイの声に色っぽさが入ってるというのも俺の精神を揺さぶらせてくるというのに
「ん……」
「んんんっ!!?」
追い討ちのようにレイは自身の身体を俺にギュッと押しつけてきた。
むにゅりと擬音がするような柔らかさとずっしりとした重量の張りある弾力という甘美かつ凶器的な感触に俺の理性が更にゴリゴリと削られてしまう。
まだ6歳のレイだが身体の発育が凄まじく、同年代の女の子たちよりも遥かに高い身長に加えあまり口にするべきではないのだが、その……女性特有のある部分がかなり大きく、この歳で既にメリハリのある身体つきをしていた。
レイは普段は胸元にサラシを巻いているので、同年代の子供はおろか、俺以外の家族も多分そのことを知らないだろう。せいぜい身長が他の子よりも高いだけとしか認識していないと思う。
……じゃあなんで俺は知ってるのかって?…………あの時はいろんな意味でヤバかったんだよなあ……
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
—2週間ほど前
『あー……!最高……!』
水面から湯気がモクモクと立ち上る熱さのお湯に浸かっている俺は、全身に感じる心地良さに癒されながら一人の時間を満喫していた。
一人で入るには広すぎるであろう我が家の浴室には俺以外誰もいなかった。
そのおかげで、静かな空間の中気兼ねなくのんびりと寛げる。
この世界での風呂事情はどうなっているかというと、前世の現代日本のように各家庭に必ず風呂があるとは限らず、むしろ風呂がある家庭はかなり少ないらしいのだ。
裕福な商人の家や貴族などの経済的に余裕がある者ならともかく、多くの者は簡素な水浴びで済ませてしまうらしい。
旅館などの大浴場と比べても見劣りしないほど広い浴室の中央にある立派なヒノキの浴槽に身を預けて上を見上げれば、黒く澄んだ美しい夜空を天井などに遮られることなく見ることができる。
部屋の上が無防備に見えるだろうが、
ーー魔法結界、魔力の文字で術式を描くことで決められた効果を物質や周囲に付与する刻印魔法の一種。
特徴は知識を基に定義と理論を積み重ねながら術式に改良を重ねていくことでより高い効果を付与することができることと属性魔法とは違い魔法使いの才能とも言える適正を必要としないため、理論上は誰にでも習得ができる魔法ってことだ。……まあ、ほぼ才能とも言える無属性魔法の中には、簡単に結界を張れる魔法があるのを知っていると、才能ってのはつくづく不平等だなと思うよ。
例えば刻印魔法によって結界を造る場合だと、この部屋の広さの結界を張るだけでも大抵の者は1週間近くかかるらしいし熟練者でも3日は必要らしい。
時間がかかる主な理由としては刻印魔法は全ての術式を魔力の文字で一から刻まなければならないことと術式の文字全てには魔力を込めなければならず膨大な魔力が必要となるため、ほとんどの者が回復のための時間を挟みがらでないと魔力が持たないからだ。
だが、無属性魔法は魔法名を口にするだけで術式を展開することが出来るので刻印魔法と違って一から術式を刻む必要が無いため魔力を消費して文字を描く必要が無い上魔法を発動させる際にしか魔力を消費しないため必要な時間や魔力量も刻印魔法より圧倒的に少なく済んでしまう。
同じ規模の結界でも刻印魔法であれば5日程はかかる広さの結界も無属性魔法なら約3時間程度で張れると聞けばその差が判るだろう。勿論術者の練度による差はあるだろうが。
まあ無属性魔法は才能に左右されるから結界魔法を扱う者のほとんどが刻印魔法を使っていると聞くが。
……話が脱線したな。まあ浴室の上に張り巡らせている魔法結界によって外から浴室の中を視認することは出来ず、賊が侵入しようとしても不可視の結界が障壁となるため、防犯は見かけ以上にしっかりしているのだ。
部屋の四方を囲む立派な大理石の壁にも青い紋様が刻まれており、刻印魔法による付与がされている。そのため見た目以上に頑丈で経年劣化もほとんどしないらしい。
蒼い光によって描かれている結界の紋様は芸術品と呼べるほど美しく、その上に浮かぶ美しい星の海と重なって幻想的な景色を作り出していた。
綺麗な景色を眺めながら風呂を堪能するのはやはり最高……
——ガラガラガラ……
………んん??
音一つなかった静寂の中、俺の耳に届いたのは風呂場の扉が開く音だった。
だがおかしい。ここは屋敷の使用人や商会の人間が入るための大浴場ではなく暁家の人間とその付き人に当たる人物だけしか利用することのない露天風呂だ。
父と母は隣の領地オエドまで商談に行っているため暫く帰ってこないし勇夜兄さんは今は家にいなくて、もう一人の兄も仕事があるからこの時間には入らないはずだ。
そのため、誰も来るはずないと思っていたのだが
「お兄ちゃん……」
「ッッッ……!!?」
俺の耳に届いたその綺麗な声に心臓が跳ね上がる。
おそるおそる声の方に振り向いた直後、俺は息を呑んだ。
あまりにも整いすぎている顔立ちは神秘的で目が眩むほど美しかった。サラサラと靡く長い金色の髪は月明かりよりも綺麗に輝いていた。透き通るような白い肌は瑞々しくシミ一つない。長く細い四肢はスラリとしながらも柔らかな肉つきもあるという理想的すぎる造形だった。そして、一番目を惹くであろう胸元の二つの果実はこの一年で急成長を遂げて、バスタオル越しでもその形が分かるほどあまりにも大きく、これでもかと存在を主張していた。
そこにいたのはあまりにも美しすぎる実の妹だった。
胸元から太ももまでを白いバスタオルで巻いて隠しているが、あまりにも扇情的なその姿を直視できない。
『レレレ、レイ!?な、なにやって……!?』
『お兄ちゃんと入る……』
『は、はあっ!!?』
何言ってらっしゃるんですかねこの子は!?
『今直ぐ出ろ!』
『……嫌』
思わず怒鳴ってしまったのだが、レイは頑なに聞こうとしなかった。
『お兄ちゃん……』
『……!!』
寂しそうな目をしたレイを見て心臓が締めつけられるような感覚を感じ、言葉が詰まってしまう。
『一人は怖いの……お願い……』
『…………』
今にも泣き出しそうな目でレイに頼まれてしまうと、もうダメだった。
『………わかった。一緒に入ろっか』
『……お兄ちゃんっ!!』
泣き出しそうだった顔から一転、ぱあっと花が綻ぶように笑うレイ。か、かわいすぎる……
あー……やっぱ、レイには甘くなっちゃうなー俺。我ながらちょろすぎるんじゃないかって呆れるほどに。
まあ、レイは基本いい子だから変なことを言われるって心配は全然してないけどな。
我が愛しき妹のお願い。これぐらい引き受けなきゃ兄が廃るってもんだ。
『お兄ちゃん』
『ん?』
『背中流して?』
『うえっ!?』
……前言撤回。俺、耐えられるかな……
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
あー……あの時は理性を総動員して必死に煩悩を退散させていたんだよなー……って……!!レイのやつ、もしかしてサラシ巻いてないのか!?
「レイ、お前な……」
「んっ……気づいた?」
こちらを揶揄うようなニヤニヤした笑みを向けてくるレイはこれまた可愛らしかったのだが、どうも弄ばれてる感が拭えない。
ちょっと前までは天然でやっているようだったが、ここ最近は意図してやっているように見える。
……絶対確信犯だなこいつ……まあ、それですら愛嬌のある可愛い悪戯だと思ってしまうんだよなー……
「……お兄ちゃんは、私の身体好き?」
「ぶほっ……!?」
いきなり何おっしゃるんですかねこの子は!!?
「な、なな、何言ってんだお前!?」
「……知ってる。お兄ちゃんがおっぱい好きなこと」
「なっ、なあっ!!?」
ヤバいヤバいヤバいヤバい………!!!めちゃくちゃ動揺しちゃてるじゃねえか……!こんな反応したら肯定してるようなもんじゃねえか……!!
レイは目をニヤニヤさせたまま面白そうに笑っている。
「……この前、宴会に呼ばれてた椿さんの胸にさりげなく視線を向けてた」
「ッッッ!!?」
「……私がさっき身体を押しつけた時も、すごい反応してた」
「ッッッッ!!?」
「……ほら、今もすごく心臓バクバクさせてる」
「ッッッッッ!!?」
俺の背中に回していた左手をスッと俺の胸元に移動させるとともに、自分の胸をさらに強く押しつけてくるレイに、俺は口をパクパクさせるしかできなかった。
「……お兄ちゃん?白状して?」
勝ち誇ったような笑みを俺に向けてくるレイ。
ダメだ、こりゃ言い逃れできねえな……はぁ、まさか妹に性癖で弄られるなんてなー……
「……まあ、好きか嫌いかでいえば……好きです」
「んっ!正直でよろしい……!」
レイは満足そうな笑みを浮かべるとさらに強く抱きついてくる。……ほんと可愛いよ、俺の妹は。
数分程、そのまま抱きつかれていたのだが
「お兄ちゃん、今日はどうする?」
レイが顔を上げて俺の方を見ると、そう尋ねてきた。
「んー……そうだなあ。今日は雨だし部屋で遊ぶか?」
「んっ……そうしよ」
小さく頷いたレイは俺から離れると、部屋の右側に置かれてある白い長ソファに行儀良く腰掛けると、その隣を俺に勧めてくれたのでそこに座る。
イーシェンの文化にはソファと呼べる物がなかったから父が大陸の方から取り寄せたんだったよな、これ。何度か座らせてもらっているがやっぱりすごくふっかふかだなあ。
かなり希少な素材で造られた高級品の上、大陸の西方にある国、父の故郷のベルファスト王国から取り寄せたからかとんでもない値段がしたらしい。
それを誕生日プレゼントで買うってんだからまあ、すごいよなあ。
娘の誕生日にも仕事で帰ってこないのはどうかと思うんだが、こうやってちゃんと誕生日プレゼントを用意してくれるから父もレイのこと嫌ってるわけじゃないと思うんだよなー……
……でもレイは、自分よりも仕事の方にほとんどの時間を費やして会話はおろか顔を合わせることすら滅多にしてくれない父と母は嫌い……ってほどじゃないけど、あんま良い感情向けてないんだよなあ……
まあ、レイの事情を知ってる俺からすれば、当然だと思ってしまう。
俺は前世も含めて精神年齢がとっくに大人だったので、今世の両親に対して会えなくて寂しいってのは、全然なかった。
なにより俺にとっては、前世の両親ーー母さんと父さんこそが、大切な家族なんだ。
人付き合いが上手く出来なかったせいで外の世界では孤独だった俺が明るく健やかに育つことができたのは、母さんと父さんがいたからだ。
父さんは仕事で忙しい身だったらしくあまり家に帰ってこれなかったが、それでも僅かな休みの日は一緒に遊んでくれたり悩み事や勉強などでの相談を聞いてくれていた。
忙しい中でも、俺や母さんの誕生日には必ず休みを取ってくれて毎回プレゼントを用意して盛大に祝ってくれた。
母さんは本当に優しい人で、ずっと側で温かく見守ってくれた。
学校の勉強や行事などで悪い結果を出してしまった時でも、大丈夫、次は出来る、と怒鳴ったりせず優しく励ましてくれてその時の問題点や改善方法なども一緒に考えてくれたりしてくれた。
テストなどで良い結果を出せた時は俺を喜ばせようと晩飯でご馳走を振る舞ってくれたり、ご褒美として欲しかった物を買ってくれたり、時には旅行に連れてってくれたりもしてくれた。
あの二人がいてくれたから俺は独りじゃなかった。今の俺がいるんだ。
前世で心残りだったのは、母さんと父さんにもう会えないこと、受けた恩を返せないことだった。
……願わくばもう一度だけでも、母さんと父さんに会いたかったな……
でも、レイと勇夜兄さんがいたから、父さんと母さんがいない世界でも俺は独りになることはなかった。
今世の両親に対しては、別に嫌ってるわけじゃないし不自由ない環境の中で養ってくれていることには勿論感謝しているが、俺もレイと同じくほとんど顔を合わせたことがなかった。
だから一番上の兄と同じく、ただ血の繋がりがあるだけの人達としか思えないんだよな。
…………それに
「お兄ちゃん…………」
今もこうやって、ギュッと俺の腕にしがみついて上目遣いで俺を見るレイの目を見るとやはり今の両親に快い感情を向けられそうにない。
物心が着いたばかりの頃、レイはいつも寂しそうだった。
それはそうだろう。両親が自分に構ってくれないのは子どもからすればとても悲しいだろう。
そう考えると、前世の俺は本当に両親に恵まれていたと思う。
俺は親の立場になったことなんてないし、その苦労や大変さが分かるなんて言うつもりはない。父と母が悪い人間とは思っていないし、仕事で忙しいのは仕方ないことなんだろう。
でも、幼い歳の子にそれを受け入れて理解しろというのは酷な話だ。だから俺は、せめて自分がレイの側にいようと思ったんだ。
そうやって一緒に過ごしている内、レイは徐々に俺に心を開いてくれて笑顔を見せるようになった。
でも……レイは一時期、笑えなくなっていた。……そんな時に、俺は力になることが出来なかった。
そんな俺でもレイはお兄ちゃんと呼んでくれた。でも……時々考えてしまう。
—俺は本当にレイの兄と、胸を張って言っていいのだろうか?
「……レイ」
「ふふっ、なーに?」
胸の中のレイが可笑しそうに笑う。その姿もまた愛おしい。
……俺の勝手な劣等感をレイに聞かせるわけにはいかねえな。
「……なんでもない。呼んでみただけだ」
……ダメだな。悪いことばかり考えて気にし過ぎるのは前世から全然変われてねえ……
「……ふーん」
あ、あれ……?レイの目がなんか笑ってないように見える……
「……お兄ちゃんは気づいてないみたいだけど、ウソを言ってる時口元がビクッてなってる」
「えっ!?」
その発言に驚いて反射的に口に手を当ててしまった。
「……ウソ」
「あ…………」
……しまった。まんまと乗せられたな……
不機嫌そうなムッとした表情で見上げてくるレイ。でも怒った表情も可愛いな……
「……ちゃんと話して」
「……はい」
……しゃあないか。
「……俺はちゃんと、お前のお兄ちゃんとしてやれているか?」
俺がそう聞くと
「……なんでそんなこと思ったの?」
レイは心底不思議そうな目をして聞き返してくる。
「いや、そのな……俺は……お前に、何もやれていないじゃないかって……」
「………………」
レイは何も言わずに俯いている。
「……何言ってるのお兄ちゃん」
「れ、レイ……?」
レイの声色からすごく不機嫌さを感じる。ちょっと、いやかなり怖い……
恐る恐るレイの次の言葉を待っていると
「……お兄ちゃんがいなかったら私は今も独りだった」
レイの口から小さな、そして重みがある言葉が出る。
「お兄ちゃんが私に温もりを与えてくれた」「お兄ちゃんが私に喜びを教えてくれた」「お兄ちゃんは私を、大切な妹と言ってくれた」「お兄ちゃんは私を……
次々とレイの口から出る言葉を俺は口を挟まずに聞き続ける。
「お兄ちゃんが私をずっと、ずっと見てくれたから……今の私があるの。だから、お兄ちゃんが私のお兄ちゃんじゃないなんて……絶対に有り得ない」
顔を上げてレイは真っ直ぐな目を俺に向け迷いなくそう言い切った。
……やっぱり俺はバカだな。
「……悪かった。ごめん」
「ん……許す」
レイはくすりと笑みを浮かべてあっさりと許してくれた。と思った次の瞬間
「……心配性なお兄ちゃんには罰を与える」
「え……?」
レイがずいっと身を寄せてきて耳元に口を近づける。ち、近い……
「……大好き♡♡♡」
「…………!!!」
蕩けてしまいそうなほどの熱と甘ったるさが伴う囁きは誰もが虜になってしまいそうなほど心地よくて……互いの顔が見える位置に戻ってとびっきりの笑顔で笑うレイはとても……とても可憐だった。
ああ……やっぱりこいつには絶対敵わないな……
愛おしい自慢の妹を再び撫で始める。
幸せそうな笑みを浮かべながらレイはしばらく撫で撫でされていたが、段々眠たくなってきたのか目がトロンしてきたので、俺はレイに肩を貸して頭を乗せさせる。
それから1分も経たないうちにレイは夢の世界に行ってしまったので、押し入れから出した布団を敷いてそこに寝かせた。
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
——私の世界にはいつも、あなたがいてくれた。
——苦しみに囚われていた時も、あなたは支えてくれた。
——あなたがいてくれたから私はこの世界で独りじゃなかった。
——あなたがいたから私は……
——これは夢だ
私がそう認識するのに時間はかからなかった。何故なら、意識はあるのに身体は動かず、時折お兄ちゃんに見せてもらっているアニメ?とかいうもののようにいろいろな光景が目の前を過っていくからだ。
目の前を流れるその光景は……私のこれまでの半生だった。
……私は暁麗夜。
実家はイーシェンでも有数の大商家で、三人の兄がいる兄弟の末っ子にして唯一の娘として6年前に生まれた。
幾つもの事業を展開しているほどの大商家の令嬢として生まれた私。裕福な家庭で何不自由なく育てられ、傍から見れば恵まれた幸せな人生を送っているように見えるだろう。
実際、貧しさ故に日々食べるものにも苦労する人、病気などで生活に不自由を強いられている人、実の親や周りの人間から暴力や暴言に晒されている人、そういった人達と比べれば私は恵まれているんだと思う。
でも、私は……両親から愛情を貰ったことがなかった……
父と母は私が物心つく前から仕事などで忙しい身で家に帰ってくることは少なく、家にいる時ですら多忙でまともに話をしたことはおろか顔を合わせたことなど本当に数えられる程しかない。
……両親から愛情を貰ったことはないといったが、別に嫌われているとは思ってない。ただ私に構う余裕がないだけなんだろう。でも、でも……少しぐらいは私に構って欲しかった……
上の兄達が小さい頃はそこまで多忙ではなかったらしいんだけど……私が生まれてから商業の規模が拡大したと聞いたから多分それのせいだろう。
兄がいるといっても、一番上の兄は会ったことないばかりか顔や名前すら知らず、二番目の兄ーー勇夜兄さんには何回か会ったことあるし遊んでもらったこともあったけど、多忙な身だったらしく普段はほとんど顔を合わせることがなかった。
唯一、一番歳が近い鏡夜兄さんーーお兄ちゃんは、私が物心つく前からよく面倒を見てくれて、私が知らない珍しい童話を聞かせてくれたり一緒に遊んでくれたりした。
お兄ちゃんは、私のことをよく気にかけてくれた。
私が転んで泣き喚いてしまった時も、慣れていなそうな手つきで拙いけど必死に怪我の手当てをして優しく慰めてくれた。
風邪を患ってしまい高熱を出して苦しんでいた時も、私に負担をかけないよう気を遣ってくれながら看病してくれた。
ゴロゴロと鳴り響く雷が怖くて寝れなかった夜の日も、私の不安を和らげようと優しく頭を撫でてくれて私が寝るまで側にいて寄り添ってくれた。
そんな優しいお兄ちゃんが私は…好きだ。大好きだ。……お兄ちゃんがいなかったら私は、本当に一人だったと思う。
家の外では私は、他の子どもと上手く馴染めずいつも独りぼっちだった。
……人見知りで口数が少なかった私は上手く集団の輪の中に入ることが出来なかった。
それでも虐められることはなかった。あの日までは……
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
——目の前の光景が変わる。……あの日の光景だ。
映るのは、初めて向けられる敵意に怯えている私。場面が変わって次に映るのは、容赦なく浴びせられる罵倒に傷ついて独りで泣きじゃくっている私。最後に映るのは、不安と恐怖に晒されて笑うことも出来なくなっていた私だった。
私が4歳の時、無意識に発動してしまった
私の力を知った彼らは、関わりたくないとばかりに私から距離をとったり、化け物退治と口にしながら石を投げてきたり、コソコソと私が陰で何かしてるんじゃないかとアリもしないことを囁いたりしてきた。
虐めてこない子もいたけど、その子たちも私を庇うことはせず関わりたくないとばかりに私から距離をとっていた。
あの時は偶然発動できただけで、それ以降は使おうとしても全く使えなかった。だから使うことがそもそも出来ないし、周りの人間が言うような悪いこと、やましいことなんて私は何もしてない。
私が、悪いことなんて何もしていないと何度も訴えても……誰も聞いてくれなかった……
苦しかった……何もしていないのに……恐れられて……忌み嫌われて……蔑まれて……
幼いながらも外にはもう、自分の居場所が何処にもないのだと悟るには充分だった。
幸いと言っていいのかしばらくしたら、虐めてきた奴らは私に興味を失くしたのかそれ以上関わってこなかった。
……まあ、厄介者を避けるように私から距離をとっていたのは変わらなかったけど。
私は家族を含めたこの家の人たちだけには何としてもバレないように力を隠すことを決めた。
皮肉にも、ほとんど顔を合わせる機会がなかった両親にこの力がバレることはなかった。
私の秘密を知ってるアイツらが捏造した話などを吹聴するなどで騒ぎ立てたりするんじゃないかが不安だったが、本当に私への興味を失くしていたようで特に何もしてこなかった。……まあ、こんな悪どい発想普通の子どもが思いつくはずないのだけれど……はぁ、サラッとこんな考えが出てくる辺り私も大分お兄ちゃんに毒されちゃったなあ。
お兄ちゃんすごく優しいけど思いつくことや考えることがかなりえげつないし。……誰にも言ってないし言うつもりもないけど、私を虐めていた子たちには徹底的に報復したらしい。お兄ちゃんが報復したことは誰にもバレてないから私しか知ってないし、聞かされた報復内容は私でも同情はしないが憐れに感じた。
残るは兄達だが一番上の兄はそもそも会ったこともなかったし、勇夜兄さんも更に多忙な身になったことで、会う機会がかなり減ってバレることはなかった。
そして……お兄ちゃんにだけはどうしてもバレたくなかったから、茶道や華道などの稽古を積極的に受けて淑女教育を熱心に取り組んでるように見せることで、お兄ちゃんと自由な時間を徹底的に減らした。
すごく嫌だったけど……仕方ないのだと何度も自分に言い聞かせた。
それからは何事もなく一年の月日が流れて五歳になった日に私はふと思ってしまった。
——このままずっと……秘密を抱えながら生きていかなきゃいけないの……?
ずっと見ないようにしていた事実が私に重くのしかかった。
多分、あの頃の私は相当精神が摩耗していたと思う。
大好きな食事ですらあまり喉を通らなくなって、何度も悪夢に魘された。
このまま死ぬまで秘密を抱え続けて周りの視線や反応にビクビクしながら生きていかなきゃいけないんだと思っていた。
…………あの日までは
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
その日はポツポツとした静かな雨が降っていて、暗い雲が空一面を覆っていた日だったのを覚えてる。
あの時は確か、茶道のお稽古を終えて屋敷の離れにある茶室から自分の部屋に戻ろうとしていた。
だんだんと鮮明になる光景には、物置としてしか使われなくなった倉の前を通ろうとした私が見えた。
『ひっ……!!?』
少しだけ開いていた倉の入り口の扉から、数匹の鼠が飛び出してきたのに思わず身がすくんでしまう。そして、それらが自分の方へと走ってくるのを見て、私は反射的に
『ステルスッ……!!』
初めて使った時以来、いくら試しても発動できなかった
しかも、それだけでなく
『うそ……どうして……!』
発動してしまった魔法は自分の意思で解除することが出来なかった。
当時は何故発動してしまったのかわからなかったけど、後にお兄ちゃんに聞いてみたら
ーーおそらくだが、苦手意識を持つ相手から逃れたいという感情が無意識に魔法を発動させたんじゃないか?レイが抱いた感情を叶えられる魔法と、驚いた拍子で乱れた魔力の流れが発動のための術式と噛み合ってしまった偶然が重なって魔法が発動したんだと思う。
……確かに私は苦手なものの一つは鼠だった。鼠を見た時、こっちに来ないでと思ったのも間違いない。お兄ちゃんの考察には私も納得がいった。
私の無属性魔法、【ステルス】。お兄ちゃんが言うには使用者の姿を透明にする魔法…なんて単純なものではなく、音や匂いに魔力どころか触れた際に感じる身体の感触すらも他者に感知出来なくする認識阻害の魔法らしい。
初めて使ったのは、私が4歳になって直ぐの頃。その日はたまたまお兄ちゃんの都合が悪かったので一人で外を散歩していたら、突然頭に浮かんだこの魔法の名前を口にしたら、意図せず魔法は発動した。
その時私は気づけなかったんだけど、運悪く魔法が発動したところーー私の姿が一瞬にして消える瞬間ーーを同年代の子に見られてしまったらしい。
この魔法の詳細を知らなかったその時の私は、魔法を発動させた後も特に違和感を感じなかったのでしばらくは特に気にしていなかったんだけど、周りの人間が私の存在を気づいていない様を見ていたら自分の状態をだんだんと理解することができた。
この魔法を使っている者は姿が見えず、声や発した音も魔法障壁に遮断され他者に聞こえなくなり、その他の匂いや魔力なども遮断して誰にも認識されなくなるとのこと。
お兄ちゃんに説明されて私にもこの魔法の恐ろしさは充分に理解できた。
この魔法を使えば誰にも気づかれることなく他所に侵入出来たり、盗みを行えたり、誰かを暗殺出来たりと……幾らでも悪事に利用できてしまうことは、幼い子どもでも解るぐらい簡単なことだった。
誰にも認識されない状態になってしまった私が、どうしたらいいのかわからずその場でおろおろしていると、前から使用人の人がこちらの方へ歩いてきているのが見えたので思わず声をかけようとしたが、声を出す直前に気づいてしまう。
そもそも今の自分では幾ら声をかけても誰も気づいてくれない。それに、もし声を届けることが出来たとしてもその場合、今まで隠していた秘密を知られてしまう。
信頼する人たちからも拒絶されるかもしれないという最悪を想像してしまうと……私は声を発することが出来なかった。
咄嗟に鼠が出てきた倉の中へと入り、逃げるように奥へと向かう。
——あいつ、全く表情変わんなくて気味悪いよな……
——ずっとダンマリで感じ悪いよねえ……
——あんなことが出来んなら悪いことし放題じゃねえかよ……
——いつも一人だし……やっぱり、こそこそと悪どい事でもやってるんじゃねえか……?
——どっか行けよ盗人!
謂れのない言葉を容赦なく浴びせられていた頃の、思い出したくなかった記憶が脳裏によぎってしまう。
やぁ……!怖い……!
どうしたらいいのかわからず不安だけがどんどん膨れ上がり震えながら縮こまっていた時
『ん……?もしかしてレイか……?』
『え……?』
蹲ってた私に声をかけてくれたのは、開いた扉から中を覗き込んでいるお兄ちゃんだった。
『おにい、ちゃん……?な、んで……?』
『なんでって……俺は修行でここ使ってるんだよ。今日もそれで』
『……そう、じゃなくて。なんで、私がここにいるって。それに』
『んん?ああ、確かに今、なんでかこの辺りの魔力を感じとりにくいんだけど、そこからレイの魔力と気配を感じとれたからな』
……お兄ちゃんそんなこと出来たんだ。もしかして椿さんにそういう技を教えてもらったの?
『ん?もしかしてレイ、なにか魔法を発動してるのか?』
『…………うん…………』
『あー……無属性魔法を無意識に発動しちゃたのか……まあ、とりあえずそっち行くぞ』
倉の中に入ってきたお兄ちゃんは、迷うことなく私の元まで来ると腰を下ろして隣に座る。
『お兄ちゃん……ひ、久しぶり、だね……』
『……そうだな。久しぶりだな、レイ』
隣に座ったお兄ちゃんの方に顔を上げて視線を向けると、お兄ちゃんも私の方を向いて視線を落とした。
『あ……え、えっと……』
ここしばらくの間、お兄ちゃんと話すことがなかったから何を話せばいいかわからなかった。
『え、えと……!その……!』
『レイ』
『ひゃうっ!?』
上手く言葉が出てこずオドオドしてしまっていた中で不意打ち気味に名前を呼ばれて思わず変な声が出てしまった。
『どうしても言いたくないのなら別に言わなくていいぞ』
『え……?』
『他人に話したくないこと、言葉にするのが苦しいことなら誰にだってあるだろうしな』
『お兄ちゃん……』
お兄ちゃんは怒ったりせず優しくそう言ってくれた。
『だけどな。レイが苦しでいるのを見るのは俺も辛い。俺はなんでも出来るわけじゃないが、レイが望んでくれるならレイの力になりたいんだ』
穏やかな笑みを浮かべて真っ直ぐに私を見つめるお兄ちゃんの言葉がすごく嬉しくて……それと同じぐらいに罪悪感もこみ上げてくる。
『あ、あのね……じ、実は—』
私は覚悟してこれまで隠していたことを全て話した。
『そうか……』
話を聞き終えたお兄ちゃんはそう呟いた。
お兄ちゃんは私をどう思うかな……もし、もしお兄ちゃんにも拒絶されたら私は……本当に独りになっちゃうな……それは、嫌だ……考えたくない……
『……ごめんな、レイ。お前が苦しんでいたのを気づけなくて』
『え……?』
すごく辛そうな顔をしたお兄ちゃんに謝られた。その顔には私を恐れているわけでも蔑んでいるわけでもなく、ただ後悔だけが見えた。
なんで……?なんでお兄ちゃんが謝るの……?それに……
『お兄ちゃんは、私が、怖くないの……?』
『ん?なんでだ?』
私の問いをお兄ちゃんは心底不思議そうな顔をした。
『え……だ、だって……わ、私の力って、ひゃうっ!?』
戸惑っているとお兄ちゃんが私の頭にポン、と手を置いて思わず変な声を出してしまう。
『お、お兄ちゃんっ!?』
『……少し落ち着け』
『んんっ……』
混乱していた私だったがお兄ちゃんは気にせずに優しい手つきで撫でてくれる。それだけで胸の中が幸せな気持ちで満たされていくのが自分でもわかる。
『……レイ』
お兄ちゃんに撫でられながら名前を呼ばれて胸がポワポワして心地よくなっていく。
『んうっ……お兄ちゃんの手、気持ちいいっ……』
『……そうか?』
ビックリしたけど……嫌じゃない。もっと、もっとしてほしい……
お兄ちゃんにぎゅっとしがみついて身体を押し付けると全身に熱を感じてあったかい気持ちで満たされちゃう。
んんっ……もっとぎゅうっと……
『…………レイ?』
…………はっ!?
あまりの心地良すぎる温もりに夢中になっていた私だったがお兄ちゃんに声をかけられたことで我に返った。
『んんっ!』
わざとらしく喉を鳴らして誤魔化そうとしたけど、完全に焼け石に水だった。
先程までの自分の行為に恥ずかしすぎて顔に熱が上がってくる。多分、耳まで真っ赤になってると思う。
『あー……レイは自分の力が恐ろしいとか怖いとか思ってみるたいだけどさ。だから何だってんだ?』
『え……?』
お兄ちゃんの言葉にまたも戸惑ってしまう。
え……でも、だって……!
『あのさ、レイが持ってる力が凄いってのはともかく、そんな事でお前を怖がるわけねえだろ?』
『で、でも……!私の魔法って、幾らでも悪事に使えるものだって……!』
実際、私の魔法は悪人が嬉々として使いそうなものだ。
所有者である私ですらそう思うのだ。周りの人間からすればさぞ恐ろしく見えるだろう。
『バーカ』
『ひゃっ!?お、お兄ちゃん?』
お兄ちゃんは呆れたような顔になると、少しだけ強くした手つきで私の髪をわしゃわしゃとしてくる。
『どんな力を持っていたってさ、お前はお前だろ』
ふっ…と笑うとお兄ちゃんは
『そんなことで嫌ったりするわけないだろ。大切な妹を』
『……!!』
優しい目で私を見て、そう言ってくれた。
その言葉に、ずっと誰かに言って欲しかった言葉に、目尻が熱くなって思わず嗚咽が溢れてしまう。
『んっ……!ひぐっ……!』
『おい、泣くなよ…いや、違うか。……不安だったんだよなレイ。好きなだけ、抱えてたものを吐き出したらいい。俺でよかったら側にいるから』
そう優しく声をかけてくれたお兄ちゃんに胸にギュッと抱きついて私は思う存分……抱え続けていた感情を声にして吐き出しながら泣きじゃくった……
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
『大体なんだ?悪事に使えそうな魔法だから?あのな……そんなんで言ったら、攻撃魔法なんてほぼ全てが当て嵌まっちまうぞ?』
『ん……確かに……』
『それにだ、魔法に限らずとも悪事に使える……人を傷つけうる物なんて他に幾らでもあるだろ?刀、ノコギリ、包丁……と、まあザッと挙げてみたが、今出てきたこれらだって人を十分傷つけることが出来る代物だ。でも使っている人間は普通にいるだろ?包丁だったら料理人、ノコギリは大工、刀なんて武家の人間なら普通に帯刀してる。こういう凶器となりうる物を扱う人達が、周りの人間から過剰に非難されたり恐れられたりしてるか?』
『ん、されてない……』
倉の中に差し込んでいた陽の光が橙色に変わり始めた頃にはもう涙は収まっていたが、お兄ちゃんに絡めていた両腕は緩めずに私はお兄ちゃんに抱きついたままでいる。
その状態のままで私はお兄ちゃんの話を聞いていた。
『なんでだと思う?』
『それは……ちゃんと、正しい使い方をしてるから……』
『……そうだ。わかってるじゃないか。大事なのは力そのものじゃない。力を持つ人間がその力をどう扱うかってことだ。刀だって、悪戯に振るえば怒りや悲しみしか生み出せない凶器になるが、正しく扱えれば、例えそれが凶器であっても……誰かを守るための力にすることだってできる』
『お兄ちゃん……』
『レイがそれを分かってるなら大丈夫だ。だからまあ、他の人にはない力を持ってるからって、自分を卑下する必要なんてないんだ』
『ん……』
『お前が悪戯に人を傷つけたりしない優しい人間だということは俺が知ってる。何も知らない周りの人間からどう言われようと気にすんな!戯言なんて聞き流せばいい!』
『んっ、わかった……!』
うん……そうだね。お兄ちゃんの言う通り気にしないことにしよう。
そう思うと、今まで向けられていた侮蔑の視線や罵倒も不思議と怖くなくなってどうでもいいとすら思えてきちゃった。
碌に話したこともない人達からどう思われているかなんて心底どうでもいい。
だって、私にとって一番大切なのはお兄ちゃんだから……///
お兄ちゃんはちらりと外を見ると立ち上がって私の方へ手を差し出した。
『もう日が暮れちまうな。屋敷に戻ろうか』
『うん……!』
差し出されたその手を握り返して立ち上がりお兄ちゃんについていく。
その光景を最後に、意識がぼんやりとしてきた。
♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
「んん……」
瞼を開いて目を覚ますと、私がいたのはソファではなく布団の中だった。お兄ちゃんが敷いて、ここまで運んでくれたんだとすぐに想像できた。
身体を起こして部屋を見渡してみるとお兄ちゃんはソファで横になって寝ていた。
すぐさま私はお兄ちゃんの元まで駆け寄り、お兄ちゃんと同じように横になると
「お兄ちゃん……ん……」
再びお兄ちゃんに抱きついて身体を密着させるとお兄ちゃんの温もりが感じられる。
んん……
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
お兄ちゃんをぎゅっと抱きしめる。抱きしめるごとに幸せな気持ちが増していく。
すぐ目の前にはお兄ちゃんの寝顔……自分でも分かるほど心臓が激しく波打つ。
私は自分の顔をお兄ちゃんの元まで近づけると……
「んっ……」
溢れる気持ちを抑えられずに私はお兄ちゃんの口に自分の口を重ねる。
「ふうっ……んちゅ……」
何物にも代え難い甘美な味が口から脳まで伝わってくる。
はぁ……はぁ……お兄ちゃんの匂い……
「お兄ちゃんっ……お兄ちゃんっ……」
何度もお兄ちゃんと口を重ねる。顔が熱くなっていくのが自分でも分かるほど私は興奮している。
「はぁ……はぁ……」
私は自分の赴くままに何度もお兄ちゃんと——
……思わずそんな妄想をしてしまったが
「……ダメ、だね」
こんな形でお兄ちゃんとキスしても、お兄ちゃんも喜ばないだろうし後で後悔するだけだと思う。
でも……
「いつかしたいな……」
……いつか、いつかお兄ちゃんと……一緒に手を繋いで……一緒にいろんなところに出掛けて……綺麗な夜空の下で熱いキスを交わして……そして一緒の布団で……
……想像するだけで幸せな気持ちになってしまう。……そう。私はお兄ちゃんが、お兄ちゃんが異性として大好き……
お兄ちゃんと恋仲になりたい。お兄ちゃんと結婚したい。お兄ちゃんの子供を産みたい。
……お兄ちゃんへの好きって気持ちが日に日に強くなっていく。
でも、お兄ちゃんは私を大切な妹として愛してくれるけど、私を一人の女としても愛してくれるかな……
ん……なら、そう見てもらえるように頑張るだけ。勝手に不安になって諦める暇なんてない。お兄ちゃんに恋してもらえるように私は、私を磨くまで!
拳を握りしめて私は決意を固めた。
…………だけど、確かな根拠もないけど、一つだけ不安があった。それは……
…………お兄ちゃんの周りに
私はそれだけが、どうしても不安だった。
キャラプロフィール
【暁
年齢 6歳
誕生日 16月1日(『異世界はスマートフォンとともに。』の世界では1年は16ヶ月ある設定なので)
身長 140cm (B90(F)/W54/H82)
容姿 『一生働きたくない俺がクラスメイトの大人気アイドルに懐かれた。』の乙咲玲(モデルとなった原作の彼女を少し幼くしたイメージ)
人物
鏡夜の妹で暁家兄弟の末っ子で唯一の女子。口数が少なく表情の変化がほとんどないので、周囲の人間からは無口で感情に乏しい人間という印象を抱かれている。唯一、鏡夜の前ではありのままの感情を見せる。
勿論LIKEではなくLOVEの方。その愛情レベルはお兄ちゃんと結婚する、一番の恋人になると言い切るほど。
100人中100人が絶世の美少女と断言するほどの整った美貌に加え月明かりのように輝く長い金色の髪、シミ一つなくスベスベで透き通るような綺麗な白い肌、6歳には見えないほど年齢不相応な高い身長に豊満な胸、キュッとくびれている細い腰、スラリとした美しいラインで伸びる四肢と非の打ち所がない美しい容姿を持つ少女。
その美貌は大陸の外にまで噂が広がるほどで、多くの人間が彼女の両親へ縁談を申し込むほどだが本人は全くの無関心。
嘗ては後述する理由で虐められていたが、5歳から6歳になるまでの僅か1年で身体が劇的な急成長を遂げて、誰もが認めるほどの絶世の美少女になると周囲の者の多くが好意を寄せてきた。
その中には嘗て虐めてきた者もいて嘗てとは真逆の好意的な態度で近寄ってきたが、今更掌を返してチヤホヤしてくる者達の下心を気持ち悪いとしか感じておらず、他の者が向けてくる好意には全くの無関心。
……レイからすれば、大好きなお兄ちゃんと結ばれることが全てで、それ以外の連中は眼中にないからというのが最大の理由なのだが。
食べることが大好き、嫌いな食べ物はほぼ無くよほど不味くなければ喜んで食べる。
その中でも甘味系が特に好きで、鏡夜とのお茶会はレイにとって至福の時間。
鏡夜が作ってくれる料理はそれ以上に大好き。鏡夜が作ってくれる料理はイーシェンでは見たことないものばかりな上、どれも美味しいので昼ご飯やお菓子を鏡夜に作ってもらえると知ればワクワクしてその時を楽しみにしている。
それだけの量を食べるにも関わらず、完璧と言っても過言ではない体型を全く崩さないので屋敷の使用人等、レイの食事事情を知っている人間からは内心で羨望と恐れを抱かれている。
好きなもの(こと) お兄ちゃん(鏡夜)、『どら焼き、みたらし団子、バウムクーヘン、ホットケーキ(ホイップクリーム付き)、メロン(に似た果物)、柿(に似た果物)、牛肉のステーキ(好きな焼き加減はミディアムレア)、すき焼き、ビーフシチュー、ハンバーグ、南瓜(に似た野菜)のスープ(甘口)、玉子焼き、お好み焼き、月見うどん、ベーコンエッグサンドイッチ、オムライス、焼きそば、カルボナーラ』(食事自体が好きなため嫌いな食べ物はほぼなく、その中でも特に好きなもの一覧)、鏡夜が話してくれる御伽話(鏡夜の前世にあった漫画や小説等)、湯浴み、自分が安心できる場所(主に鏡夜の隣)でゆったりと昼寝
人間関係
・お兄ちゃん(鏡夜)……大好き、LOVE、愛しの人。
前述の通り、鏡夜に対してはありのままの自分を曝け出して甘えまくる。小さい子供特有のものではなく本気で鏡夜と結婚する気でいる。
もし、世間体的な問題などで鏡夜の奥さんになれなかったとしても恋人や愛人として共にいたいと思ってる。そのための努力を欠かさず、美容に関する知識やお金を稼ぐための手段なども含めて色々と勉強している。
鏡夜が話してくれる御伽話(鏡夜の前世の漫画や小説)が好きで、何度も繰り返して聞いたりするほど。鏡夜の前世で言うオタクの部類に充分入っている。
鏡夜が行っている修行にも興味を持っていて自分も教えてほしいと思ってる。理由は鏡夜と同じことが出来るようになりたいのと、もし出来るようになれば鏡夜の力になれると思っているから。
鏡夜への愛情は既に依存に近しいレベルになっている。
・椿さん……実家同士が付き合いがあるため宴会などで顔を合わせる機会がよくある。妹のように可愛がって優しくしてくれる彼女を実の姉のように思い、凛とした佇まいと何でもそつなくこなせる器用さがカッコいいと憧れている。
もしかしたら憧れている椿が自分の兄に好意を抱くのではと思っているが、この人なら大好きなお兄ちゃんと結ばれてもいいと思うほど信頼している。(鏡夜と結ばれたとしても自分も愛してもらえればいいと考えている)
・両親……顔を合わせたり言葉を交わす機会がほとんどない。血の繋がった家族としての情はあり、嫌っているわけでもないし不自由ない環境で育ててくれていることには感謝しているが、好感度は鏡夜の方が遥かに高い。
・暁勇夜……物心が着いてから何回か遊んでもらっていたが、ほとんど覚えておらず薄っすらとした記憶しかない。優しい人だなと思っているので好感度はそれなりにある。
・もう一人の兄……顔を合わせたことすらないので、そういえばもう一人兄がいるんだな、ぐらいの認識。
魔法属性……無、???
・無属性魔法
【ステルス】……自分の認識を他者から感知出来ないようにする魔法。単純に姿を見えなくする魔法なら光属性の【インビシブル】があるがこの魔法は視覚だけではなく、使用者が発する音や匂いに魔力といった認識となるであろう情報を全て遮断して他者に感知出来なくする。
但し、存在自体が消えるわけではないため他者とぶつかったりすれば感触は誤魔化せてもぶつかった時の衝撃は当然その人間に伝わってしまう。
数ある魔法の中でも極めて高い隠密性能を誇る魔法である。が、実は弱点も存在する。
この魔法の原理は、認識情報を遮断する魔力結界で対象を覆い隠した上で結界を構成する魔力は感知阻害で認識させなくするというもの。
そのため使用者を上回る魔力量を有し魔力感知に優れた者には認識阻害を無効化されて見破られる場合がある。
また、ずば抜けた魔力感知を有する特殊能力を持つ者には認識阻害を破られなくても魔力感知阻害を突破されて魔力を感知される場合もある。
この魔法を恐れた周囲の人間に虐められていたせいで苦しんでいたが、この魔法のことを知っても尚恐れたりせず変わらぬ態度で接してくれた鏡夜に救われた。
【???】……現在詳細不明の魔法
余談 レイは前述した『一生働きたくない俺がクラスメイトの大人気アイドルに懐かれた。』の乙咲玲と『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにした』のルーティ・ラグナソンをイメージモデルとしました。
どちらもとても魅力的なヒロインで作者も好きなキャラです。
公の場では自分を見せずにクールに振る舞うもプライベートでは心を許した相手に甘えん坊になるギャップと愛する人への想いに一途な姿勢が魅力的なキャラを意識して書いていました。
【暁
年齢 16歳
誕生日 1月31日
身長 163cm
容姿 『魔法科高校の劣等生』の司馬達也
人物
……鏡夜の兄で暁家の次男。温和で人当たりもいい人柄もあって多くの人間から好かれ慕われている。普段は柔らかな態度で周囲の人間と接する好青年だが、訓練や有事の際には鋭い気迫を纏った戦士の顔となる。
剣士としての実力は天才と評されるほどで、若くして武田四天王とやり合える腕前で未だ発展途上という潜在能力の高さ。現時点での強さは冒険者ランクで言えば赤ランク以上〜銀ランクの中ぐらい。
好きなもの 黄帯魚の煮付け、玉露入りの緑茶、鍛錬、穏やかな時間をのんびり過ごすこと
人間関係
・鏡夜……幼い頃から親代わりとして側で見ていたので両親が知らない鏡夜の人となりも知っている。そのため、話し下手で人付き合いでのやりとりが苦手なせいで周囲に誤解されやすい鏡夜のことを優しくて思いやりがある弟だと理解してくれている。
鏡夜が持つ自分より遥かに高い才能に対しても妬むことなく、弟のことを自分に出来る範囲で手を差し伸べて見守っていこうと気にかけている。
・麗夜……物心がつきはじめた頃には忙しい身となってしまったばかりにあまり接してやれずにいたことに申し訳なさを感じている。
そのため、自分の代わりに妹と共ににいてくれた鏡夜に感謝してる。
・両親……良好な関係。幼い頃によく面倒を見てもらった日々のことを温かな思い出として今も覚えている。自分のためにいろいろと手を尽くして育ててくれたことにはとても感謝してる。
しかし、弟と妹にもうちょっと時間を割いてやってほしいとも思っている。
・もう一人の兄……幼い頃は一緒にいることもあったが、ここ数年は顔を合わせていない。
魔法属性 無し