「はぁ…やっちゃった」
部屋の中で少女が体育座りをして、顔を埋めていた。その表情を外から窺い知ることは出来ないが、少女の肩が普段よりもずっと下がっていることを鑑みるに、かなり落ち込んでいることが予想される。この少女がこれだけ落ち込んでいることは極めて稀な出来事である。
「なんで、殴っちゃたんだろ。悪手でしかなかった。バカね…本当にアタシは」
脳裏でフラッシュバックする少年の表情。自分が壁越しに殴ってしまった時、彼は恐ろしく動揺していた。そして、その奥底には哀しみが見えた。それもそうだろう。14年ぶりに再会したのに、まさか相手から殴られるとは思いもしない。なぜ自分が殴られないといけないのか。その理由が分かるはずがないのに、自分は殴ってしまった。感情に身を任せて動くことは、必ず避けるべきことだろうに。
まだせめて、後付けでも理由を伝えた方が圧倒的に良かった。
何も伝えないで、ただ殴った。
更に厳しい言葉を投げかけてしまった。
私は最悪の最低のことをしてしまった。
「まったく。こんな姿を見せるなんてね。アタシもシンジと同列ってことか」
顔を上げて真っ直ぐ正面を見る。その先には壁があり、壁にはコルクボードが下げられていた。更にそのコルクボードには、昔撮影した写真が飾られている。チルドレン皆で海洋生態系保存研究機構に行った時に撮影した写真である。まだ、あまり仲はよろしくなかった頃だが、彼女にとっては良い思い出でしかない。当初は快く思っていなかった第三の少年をより知って、彼のお手製のお弁当を食した。あの時食べてから、彼のお弁当が大好きになった。
そして、いつの間にか、彼が好きになった。
「シンジのお弁当…また食べたいな」
彼女は記憶の海に潜りこむ。潜った記憶は14年も前だと言うのに、彼と共に過ごした日々がつい昨日のように感じてしまう。相当強く、何よりも鮮明に残っていた記憶。それは、少年が笑顔で自分に風呂敷に包まれたお弁当を渡そうしてくる光景だった。生きてきて、一番美味しいお弁当だった。あのお弁当が恋しい。でも、食べられることは…もう無い。だって、彼は行ってしまったから。
私のせいで。
いや、行ってしまっても。まだチャンスはある。NERVから彼を取り戻して、きちんと自分の気持ちを伝えるんだ。そうすれば、彼は笑顔になって、またお弁当を作ってくれるはずだ。誰よりも優しくて、私を受け入れてくれる…シンジ。
また会いたいな…シンジ
また食べたいな…シンジのお弁当
私はシンジのことが好きなんだ。
私はシンジを愛しているんだ。
だから…戦う。
「そう…シンジは私が助ける。だから、待っていなさいよ」
続く