お弁当…また食べたいから   作:5の名のつくもの

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一緒に行こう

アヤナミ・レイを失ってからシンジは死んだように毎日を過ごしていた。大切な人を失い悲しみを追いすぎてしまった彼には、彼女の最期を最も残酷な方式で見届けることは重すぎる。ただ、彼は幾度も辛い経験を経たことで受け入れる強さを手に入れている。死んだように過ごすと言っても、散歩ついでにいつもの湖に通って、ペンギンたちと悲しみを分かち合うことで、最低限として廃人になることを避けることに成功していた。その間アスカは別の用事があって彼に寄りそうことが少なくなっていたが、逆に彼を自立させることに繋がった。よって、結果的には彼が更に一歩前へ進むことになり、碇シンジはここに来た時から見違えるほど成長したのである。彼の虚弱なメンタルは悲しくて辛いことも受け入れる強さを得たことで、全くと言っていいほど別物に変わっている。もはや、あのシンジはいないのだ。

 

さて、第三村は静寂で平和な日常とはかけ離れた、極めて忙しい状況にあった。自給自足の生活で古き良き生活を送っているのに、一体何がここまで忙しくしたのであろうか。その答えは、第三村を運営&支援するクレイディトの親玉であるWilleの総旗艦ヴンダーが最終帰港することが伝えられたからである。第三村で育てた作物や作った物を補給し、ヴンダーから退艦を希望する者を降ろすために寄る。インフラが脆弱な第三村ではある程度マシンがあれど、マンパワーもフルで活用しなければならない。相田ケンスケもWille側から密命で託された仕事をこなしつつ、居候の2名にヴンダー寄港を告げていた。

 

「最後の戦いが始まるわけね。これで、全部終わる」

 

「俺にはよくわからないが、とにかくだ。生きて帰ってこい。なに、2人の保証人ぐらいにはなってやるから」

 

ケンスケは意味ありげに語った。ヴンダーには、エヴァ新弐号機パイロットである、式波・アスカ・ラングレー特務少佐が乗り込まないといけない。当たり前の当たり前であるから、これに疑問を挟む余地はゼロ・ゼロ・ゼロだ。しかし、問題はもう1名は誰かということだろう。いやいや、これは愚問に尽きる。その2人はたとえ世界が滅ぼうとも、絶対にはなれることはないと誓っていた。命尽きようとも、肉体朽ち果てようとも、魂が消えようとも。誰が2人を引き離すことができようか?いいや、誰も引き離すことはできない。その両者の理解者であったのが、相田ケンスケだった。アスカにとってもシンジにとっても恩人である。彼はよき理解者であり、良き後見人だった。誰よりも彼と彼女の帰還を望んで、祝福したいと思っている。

 

「今まで世話になったわ。そうね、帰って来れたら、その時は頼むかな」

 

「あぁ。俺の名前は、シンジとアスカのためならいくらでも貸すよ」

 

「ありがとう。ケンスケ」

 

明日にはヴンダーが帰ってくる。そして、長いこと過ごしてきた第三村に分かれを告げることになる。無論生きて帰ってくることが目標だが、なんせこの世界に生きている。何が起こるか分からない。最悪の事態として、もしかしたら世界が滅ぶかもしれない。世界が滅んでしまったら、到底第三村に帰還を果たすことは叶わない。それは皆が重々承知していることだが、だからこそ皆が口にしないのである。心の中にしまっている。縁起が悪いと言うか、言霊があると言うか、口にするべきではないことは確かだ。

 

「ま、今日はあれだ。明日からのためにゆっくり休んでくれ。仕事の手伝いは気にしないでくれ」

 

明日から彼らは戦場へ、死地へ向かうのである。ケンスケは体と気持ちを気遣って一秒も労働をすることを許さない。せめて、2人が最高の状態で行けるよう、ただただ休ませるだけ。少しでもいいから、極僅かでも構わない。生きて帰って来れるよう、自分ができる気遣いをする。彼の気遣いに感謝しつつ、お言葉に甘えてゆっくりと過ごしたシンジとアスカだった。

 

~翌日~

 

第三村にはめちゃくちゃ大きな影ができていた。雲にしては大きいし、全く微動だにしない。この影を作っているもの、空中には巨大戦艦が鎮座していたのだ。その艦からはひっきりなしに連絡船や輸送トラックが簡易的な補給地点とヴンダーとを往復していた。また、退艦希望者がぞろぞろと降りたり、逆に乗り込んだりたりと人口密度は一時的に高まっている。その乗り込む側の人間には、あの2人もいた。

 

少女はともかくとして、少年が一緒に「こんにちは」してくることはWille(ヴンダー)内部でひと悶着を引き起こした。大災厄の象徴にして、悪魔の少年が希望を司る艦に乗り込んでくることは、もうとてもだが受け入れられない。暴動が起こりそうなぐらいだったが、トップを務める艦長が直々に承諾を命令として出したことで誰も何も言えなくなった。さすがにトップに睨まれては堪らない。だが、トップに近しい幹部クラスの職員の一部は反発を示している。ただ、あくまでも一部であって、幹部クラスの大半は理解を示していた。そのおかげもあって、特に障害なしに中に入れた。

 

はずだった。

 

「なんでお前が乗れるのよ!あたしだけじゃない!ここにいる皆の家族を、人生まで全部を奪っておいて…どんな顔していられるの!」

 

2人で通路を歩いていると、ある人物が立ちふさがった。その人は少年に拳銃を向けている。いくら護身のためとは言え、戦場でも何でもない安全圏にいながら銃器を取り出して人に向けるなんて、非常識の度を遥かに超えている。それに、見るからに己の感情を制御できていないではないか。激情に駆られてしまって、自我を失っている。

 

「…」

 

「どうぞ、引き金を引いてください。それであなたが満足だと言うなら、僕は一切の抵抗をしませんし、動くことすらしません。さぁ…」

 

少年が口を開けば、それは相手を逆なですることになる。だが、それで良かった。確かに悪いのは自分であるから、一切の言い逃れは効かない。しかし、冷静に考えれば正義であるように見える愚かな結果論の究極で、まったく馬鹿らしいことこの上ない。それでも、少年は己の非を重視して、相手の愚かさを見逃した。

 

「ふざけるのも大概にしなさい。あんたが拳銃を抜くなら…」

 

少女は黙っていられなかった。ただ語るだけでは効果が無いと考えて、恐ろしい行動に打って出る。自分が持っている特製の拳銃を相手に向けるかと思えば、なんと少年の後頭部に当てた。しかもピッタリ脳天を狙っているから、仮に弾丸が発射されればもう即死でしかない。

 

「あんたがシンジを撃つって言うなら。あたしが代わりに撃ってあげる。そして、あたしは自分の心臓を撃ち抜いて、あたしも一緒について行くから。感謝しなさいよ。厄介な使徒もどきと神の少年が同時に消え去るんだから。ありがとうございますの一言ぐらい言ってちょうだい」

 

「ばっ、ばっかじゃないの!?」

 

予想外の行動に相手は動揺を隠せなかった。自分を狙ってくるのは常套だろうが、まさか同じ目標を狙うなんて。しかも、その後は自分もついていくとな。それを受けての動揺によって、銃口がわずかに狂った。この隙を突かれ、少年が原始的に足払いを見舞う。思いっきり体勢を崩したことで、手から凶器が離れ、間髪を入れず少年が奪い取った。

 

「このことはミサトに言っておくから。あんたねぇ…少しは物事をフラットにみなさいよ。自分勝手な考えを押し付けるんじゃない。あんたより、ずっとシンジの方が大人だわ」

 

門番のような障害を突破して、少年と少女は自分達の居住地へと向かう。その直後、騒ぎを監視カメラで知った職員が駆け付けて、例の人物は連れていかれた。この冷戦が熱戦にならなくてよかった。先の一種の修羅場を抜けた先にあるのは、近代社会にはそぐわな過ぎる、プライベートの欠片も無い空間であり居住する区画。事情があっての措置だからやむを得ないと言えば、まぁやむを得ないかもしれない。だからと言っても、ちょっとこれはいただけない。

 

そんな部屋に入るなり。

 

「ワンコく~ん!!」

 

「うぐっ!」

 

少年は極めて豊かなもの(者)に包み込まれた。幸せなものに。

 

「はぁ…やっぱこうなるか」

 

少女はため息を吐いた。

 

短時間で落差が大きすぎる。

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