お弁当…また食べたいから   作:5の名のつくもの

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怒りの矛先を向けられて

艦の外では激烈な戦闘が行われている。潜航状態に入ったヴンダーだったが、NERVが繰り出した迎撃のNHGの2番艦と3番艦と砲撃船をしていた。皮肉なことに、ヴンダーは元はNERVのNHG1番艦であり、盛大な兄弟姉妹喧嘩がされていると見れてしまう。2対1と余りにも力の差があるが、ヴンダーを指揮する葛城ミサトや操舵手の卓越した戦術と技術によって何とか互角で動けている。

 

さて、そんな状態では艦内の職員はまともに動くことはできない。重力下でとてつもない機動をする以上は物に捕まっていないと吹っ飛ばされるだろう。しかし、それは原則に過ぎなかった。何事にも例外という者は存在するのである。1人の禁忌の少年は甲板へ、外に出るために無限迷路に等しい廊下を歩いていた。彼は外様の人間であるため、艦についてのことは最小限よりも少なく知らされている。よって、外に出るルートなんて微塵も知らなかった。よって、彼は己の勘を信じて歩いている。勘は勘でも、覚悟を決めた漢の勘はどの機械よりも人工知能よりも鋭いのだ。

 

「碇さん!どこへ行くんですか!これ以上は行かせませんよ!」

 

しかし、誰も障害は無いとは一言も言っていないのも、また事実である。廊下を突き進む彼の目の前には、深い交流はなくとも、脱走前に世話になった関係で見知った女性が立っていた。また、その女性は第三村で再開した旧友の妹様であり、互いによく知っている。そんな彼女は禁忌の極めし少年を外に出してはならぬと仁王立ちで行く手を塞いでいた。

 

「サクラさん…通して下さい。通してくれなくても、押し通ります」

 

「普段なら少しは見過ごします。でも、今ばかりはダメなんや!」

 

迫力が違う。使命感に満ちていて、放たれる拒否の声は力が込められている。ただ心意気を見せるだけでは侮られてしまい、突破されてしまう危険性があった。そこで、彼女は実力行使が可能であることを嫌ほど見せつける。

 

具体的には、両手で自動拳銃を構えていた。彼に向けて。

 

「…」

 

「今は作戦行動中やけど…碇さんを止めるためなら。今の私には無制限発砲許可が出されているんです!」

 

碇シンジがヴンダーに戻ってきた際に艦長は緊急時において、彼への発砲を無制限で許可していた。彼には悪いが、仮に再び彼がNERVに連れ去られてしまうとインパクト発動に利用される可能性が極めて100%に近しい。人類が滅ぶかもしれないのだから、彼の命と人類の存亡を天秤にかけざるを得なかった。その結果は、残忍にも「彼一人の命を奪って人類を存続させる」である。まさに、彼は天秤にかけられようとしていたのだ。

 

「サクラさんだけじゃない。トウジやケンスケ、アスカ…本当に多くの人の人生を狂わせてしまった。それについて言い逃れをする気はありません。全て僕の責任です。でも、僕にはやらないといけないことがあります。南極に行って、僕のけじめをつけないといけません」

 

そう言ってシンジは再び歩み始めた。少しだけスピードを落として、目の前の女性を刺激し過ぎないように注意を払っている。一歩一歩着実に廊下を踏みしめるのだが、突きつけられている拳銃は未だにこちらを向いている。引き金が引かれた瞬間に必殺の弾丸が彼を襲うだろう。

 

「も、もう動かないで!撃ちたくありませんから!

 

「サクラさんの気が済むなら。いくらでも撃ってください。避けも逃げも隠れもしません」

 

「碇さんの阿保っ!」

 

ズドン!ズドン!

 

自動拳銃にしては重々し過ぎる発砲音が響いた。音から察するに拳銃自体が強力な物で且つ弾丸も高威力の特性品だったのだろう。それが外れれば良かったのだが、非情にも2発の弾丸は少年に直撃した。

 

「くっ…これがサクラさんの怒りですか」

 

「う、嘘…私が碇さんを」

 

「大丈夫です。僕は皆さんと違って、一度人を捨てています。今の僕は使徒モドキで人間を超えていますから、これぐらいで命に関わることはありません。それに、左腕は第十の使徒と戦った時に失っていたはずです。今まで猶予されていたのが、清算されただけに過ぎません。だから、気にしないでください」

 

そうは言っても、目の前で思い慕っていた人を混迷を極めし激情に駆られて撃ってしまい、左腕を吹っ飛ばしてしまう大失態を演じたのだ。立場上は無制限で発砲が許可されており、且つ彼を止めるためには手段を選ばなくてよい。Wille職員としての鈴原サクラは素晴らしい行動を採ったと言えた。でも、一個人の鈴原サクラとしては絶対にしてはならないことをしてしまった。酷い自己嫌悪に陥いり始める。

 

「サクラさん。悔やむなら…僕を通してください。お願いしますね」

 

「…」

 

サクラはもう何も言えなかった。両目から大粒の涙を流して、ひたすら彼へ謝罪を述べていた。シンジは彼女の下へ寄ると優しく抱きしめてあげた。少年の胸にうずまる彼女は泣き止むことは無かったが、彼から綴られる言葉はきちんと聞いていた。恐ろしいほどに冷静で声色が優しい彼の言葉。

 

「サクラさんが僕を撃ったことは、決して間違いではないんです。それはこの僕が保障するので、自分を責めないであげてください。全ては僕が招いてしまったこと。これはその報いなのでしょう。むしろ、サクラさんには感謝します。こうして僕に耐え難き痛みを教えてくれたので。この痛みが無ければ、僕は何をしようとしているのかを忘れてしまっていたかもしれません。だから、とにかく、サクラさんは自分を大事にして生きてください。どうか、お元気で。あと、トウジによろしくを伝えておいてください」

 

そう言い残してシンジは廊下の奥の方へ歩いていった。当然、サクラがこれ以上彼を止めることは叶わなかった。

 

残った小さな声でサクラは漏らした。

 

「ごめんなさい…碇さん」

 

続く

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