お弁当…また食べたいから   作:5の名のつくもの

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苦悩

ほぼほぼ廃墟と化したNERV本部内を歩く少年が1人いた。少年の足取りはフラフラとしていて、酔っ払いの千鳥足よりもひどい。しかも顔は血色が悪すぎる。血の気が引けに引いていて、見た目からはとても生気が感じられない。目は虚ろ過ぎていて、周りどころか正面さえ見えているのか怪しい。ただ幸いにも、彼の周囲に柱と言った障害物は一切ないため、変に頭をぶつけてしまうことはないからまだ安心できる。

 

しかし、どう見ても危なっかしいことは覆せない。

 

よく見て見れば、その少年は極わずかにではあるが、パクパクと口を動かしていた。

 

「何が起こったんだ…この世界は。父さんは父さんで何も教えてくれない。ただ「エヴァに乗れって」言うだけだ。それに、助けたはずの綾波は僕のことを覚えていないし知らないって言う」

 

14年ぶりに目覚めた少年は、この世界に全くと言っていい程順応できていなかった。自分が知っている大地はとうの昔に消え去ってしまったようである。記憶を探れば、海は赤くても陸までもは赤くないはずだった。大地を見れば、陸が赤く染まっているではないか。それだけにおさらまらず、街の姿はどこにもなかった。自分が慣れ親しんだ第三新東京市は跡形もなく、もはや、この世界は自分が生きていたものじゃないのではないかと疑いたくなるぐらいだ。しかし、現実はいつも非情な存在。理解できない要素がそこら中に散りばめられていても、彼が理解できることも多い。それから、この世界は自分が生きて来たものだと判断せざるを得なかった。そのように判断したくなくても、否が応でも判断させられる。

 

「なんなんだよ…本当に」

 

フラフラしつつも、その足取りが崩れることはない。行先や目的地は何にも考えておらず、ただ歩くだけ。あてもなく歩くとはこの少年の状態を言うのだろう。彼の意識は完全に内なる思考に向けられていて、無意識とほぼ同等の状況でも、本能で足を踏み外さずに歩けている。

 

そうして歩いていたら、馴染みのある場所にたどり着いた。

 

「エヴァのケージ…初号機も零号機もいない。(現実に)いるのは弐号機だけか」

 

忘れることのないNERV本部のエヴァケージ。エヴァで出撃するときは、大体ここで搭乗していた。自分が乗っていた初号機はヴンダーの主機となっていて、零号機は物理的にいなくなっている。辛うじて生き残っているのは、ある少女の弐号機だけでだった。彼は実際に弐号機を目で見て、パイロットの少女とも会っている。

 

「アスカは…元気そうだったけど。どうして…僕は殴られたんだろう」

 

14年越しで少女と感動の再会を果たしたとは言えない。元気そうな姿を見れたかと思えば、強化板越しに思いっきり殴られてしまったからだ。いくら何でも殴ることは無いだろうに。せめて、殴る(殴られなければいけない)理由を教えて欲しいものだったが、その理由の欠片さえ教えてくれなかった。「自分で考えろ」と言わんばかりの塩対応をされてしまって、混乱に拍車がかかる。混乱と少女から拒絶された悲しみとで、少年は感情がぐっちゃぐちゃになってしまう。そして、彼はどん底に突き落とされることになった。

 

「いったい…僕が何をしたっていうんだよ」

 

少年の問いには誰も答えない。否、誰も答えてくれないのだ。

 

なぜか?

 

それは、本人しか分からないからに尽きる。

 

シンジを故意じゃなくても、結果的にはどん底に突き落とした張本人である少女は、少女なりに過去の振る舞いを振り返って苦悶していた。反省は終わることを知らず、ただでさえ碌に寝られないのに反省に反省を重ねてしまうことで目が覚めて仕方がない。ここまで来ると、寝ることを放棄してしまった方が良いかもしれない程だ。ただ、幸いなことに同じ屋根の下…同じ立体物の中に仲間がいた。

 

「ま~だ考えてんの」

 

「うっ、えぇ。そうよ」

 

いつもの癖でキツメの言葉を投げかけようとしたが、途中でピタッと止めて、まだマイルドな反応を返した。それを受けた仲間である少女は見るからに意外そうな顔をする。この少女から、いつものキツさが見られないなんて。

 

「まさかだけど…姫。やり直したいって思っているの?」

 

「うっ…」

 

恐ろしく歯切れが悪い。普段ならキッパリと否定してくるだろうが、今回ばかりは否定しない。それどころか否定の「ひ」の字すら窺うことが出来ないではないか。これは相当の重症だと見える。いつもはハキハキしている少女が真反対の状況になっているのは心配になるしかない。よって、仲間の少女は彼女に物理的にも精神的にも寄り添ってあげた。この少女は外面は鋼鉄で強いが、実際は貧弱だったのだ。

 

「いいじゃん。やり直したいなら、やり直せばいい。今考えたって、未来は変わらない。大事なのは行動することさ。思い切って動けばいいの。大丈夫。彼は受け入れてくれるさ。だって、姫が出会って来た人の中で、彼は誰よりも優しくて理解がある。それは姫が一番知っているはずだよ」

 

「…」

 

その通りであった。自分が出会って来た人の中でも、彼はトップレベルなどの軟な表現では言い表せないぐらいに、優しくて理解のある人物だ。出会ったときは単純にお人好しな、甘ちゃんなだけだと思っていたが、それは大きな間違いだと気づく。彼は違う意味で強い。自分が辛い思いをして来たからこそ、人には優しくする。だが、皮肉なことに彼は人から傷つけられて来た。そして、本意でないのに人を傷つけてしまって来た。この二重の痛みが彼を押しつぶして、ズタズタのボロボロにしている。再起不能の一歩手前に調整することで、僅かな希望を持たせる。そうすることで、彼はある男からいいように使われていた。

 

彼を見捨てない。

 

「姫が助けないなら、誰が助けるって言うの?彼に手を差し伸べてくれる人はいないよ」

 

「私が助けなきゃ…いけない。だから、クヨクヨしてらんない」

 

「でしょ?さ、元気出して。反省は済んだんだから、後は覚悟を決めるだけ。まぁ、とっくについていたか」

 

少女は全力でこそないが、かなり状態は良くなった。あの少女が戻っているのを確認して、仲間の少女は嬉しそうに笑う。

 

「ありがと。マリ」

 

「Don't worry」

 

続く

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