「私の使徒の力をぉ!」
エヴァンゲリオン第壱拾三号機無効化のため強制停止プログラムを仕込んだ装置を突き刺したい。しかし、弐号機は強力なATフィールドに阻まれた。第壱拾三号機の自衛と弐号機が恐れた故に阻まれたのである。よって、己をかなぐり捨てて終わらせる覚悟を改めたアスカは秘めた使徒の力を解放しようと試みた。制御のため埋め込まれた封印柱を引き抜こうとする。
その時だった。
「そんなこと、しなくていいんだよ」
「え…うそ、どうして」
理解が追いつかない彼女の横にはシンジが浮遊した。立体的な通信と誤認仕掛けるも実際の碇シンジに違いなく驚きを隠せない。触れ合うことが出来るのだから疑いを挟む余地は皆無だと言わんばかり。少年は朗らかな笑みを溢し彼女の目を優しく撫でた。
「アスカが苦しむことはないんだ。苦しむのは僕だけでいいから。それに、元はと言えば僕が始めたことなんだ。最期ぐらい責任を持って父さんと戦うよ」
「そんな、せめて私も…」
「ダメだよ。君は働き過ぎたんだ…せめて僕を忘れて幸せに暮らしてね」
「ちょっと!」
「さようなら…アスカ」
シンジが数枚上手と見える。驚く彼女へ唇を合わせ愛しき者への別れとし同時に苦しみの元凶たる存在を取り除いた。既に人を捨てて限りなく神に近い存在となった碇シンジである。彼女の目は正常な光を取り戻して身体も血色が良くなった。
彼は一体何を行ったのだろうか。
そして、彼女は深い眠りについたが呼吸はしており単純に睡眠と思われる。気にすることはなかろうて。
(アスカの使徒は僕が吸収した。とっくの昔に人を捨てた僕が使徒を封じる箱になる。そして、僕の犠牲と共に終わらせるんだ)
「少しは大人になったな。シンジ」
「よいしょっと、来てくれたんだね。父さん」
第壱拾三号機の上には実の父にして全てを招いた碇ゲンドウが立っている。どうやら、事態が遅々として進まないことに業を煮やして自ら出撃したようだ。ネブカドネザルの鍵を使用する別手段で人を捨てた男は息子以上の異様さである。
弐号機から外に出た碇シンジ君は拒絶反応を欠片も示さなかった。度重なる苦しみに愛する人を失った悲しみが彼を叩き上げている。教育ではとても得られない真の強さを得た。実戦の場で繰り返し叩きのめされては起き上がった七転八倒が彼を強くしている。
「第壱拾三号機にシキナミ・シリーズを使用できないのは残念だ。しかし、むしろ都合が良い。お前を最後の道具としてアディショナル・インパクトを起こすとしよう。エヴァもないお前が私に勝てるわけがないがな」
「本当にそう? カヲル君には悪いけど僕のエヴァは初号機だから」
すると、突如として一体のエヴァンゲリオンが舞い降りた。頭上に天使の輪を浮かべ四肢を失えど輝かしい仮の両手両足を生やし浮遊する。紫を基調としたカラーリングは第壱拾三号機と共通した。知らぬ者はプロトタイプか試験機と勘違いしてもやむを得ないが、このエヴァンゲリオンは最初期型の花形と言うべき原始の機体である。
言い換えれば始祖のエヴァンゲリオンだ。
「初号機…葛城ミサトの仕業か」
「ミサトさんも苦しんでいたけど最後にはお互いに理解し合えた。理解することって大事じゃないの?」
「理解は無意味だ。私は拒絶することが強さだと学び理解は何も生まない」
「そう…最期ぐらい理解し合おうよ」
「断りたいが最後ぐらい付き合おう。私も無粋ではないぞ」
碇ゲンドウは第壱拾三号機に吸い込まれると速やかに起動させた。十字状の台へロンギヌスの槍及びカシウスの槍に磔にされているため、四本腕を器用に使い2本の絶望と希望を引き抜く。対する初号機もシンジをプラグから搭乗させてシンクロを開始した。正統派の起動方法は懐かしさを覚えるが今から始まるのは盛大な親子喧嘩に収束する。
「初号機とパイロットが覚醒しているか。だが、武器を持たぬお前に何ができる」
「武器は貰ったよ。希望でも絶望でもない。僕とアスカの信念を武器にするんだ」
シャットダウンした弐号機が握る強制停止装置を譲り受けた。本来は武器でないにもかかわらず皆の信念が込められて暖かな光の両手剣を為している。2本の槍と両手剣という中世の決闘を思わせるが実際は親子喧嘩というのは面白かった。
もっとも、傍からすれば迷惑極まりない。
「ここは狭すぎる。場所を変えるぞ」
「うん」
NERV本部では足場が悪い上に狭すぎるため不適応と判断する。両者合意の上で場所を移すこととした。人を超えたパイロットと汎用ヒト型決戦兵器を超えたエヴァが組み合わさる。超常的な力を以て南極に開かれる門をくぐり抜けた先は誰も感知できない未知の世界が広がった。
一部始終とまではいかないが事態を断片的に見ていた者達は何を思う。
その中の一人であるイスカリオテのマリアは素早く決断した。
「な~るほどねぇ。帰って来いって言われたのに聞かん坊で世話焼かせる。ゲンドウ君を止められるのは息子だけと言わんばかりに自己犠牲を選んだか。初号機とパイロットの覚醒を以て止める算段なのだろうけど、そうは問屋が卸したくないにゃあ」
負傷しながらも軽く伸びをしてコリをほぐす。
「そんじゃ先生の所へ行って用意してもらった物を貰ってきますかね」
他の者達は言わずもがなヴンダーだった。
葛城ミサト率いるWilleの総旗艦であり南極突入時に大決戦を繰り広げたが3隻のNHGに包囲される。辛うじてエヴァと碇シンジの発進に成功させたが満身創痍で一戦闘すら持ちそうになかった。しかし、司令官の温存した切り札は健在で最後の最後に解き放たれる。
「あなたにしては珍しい決断ね。このヴンダーから主機を務めた初号機を分離して彼に送るなんて」
「えぇ、確かに主機を失えば推進力と戦闘力を失う。旧式の補助機関で最低限を賄っているけど、私にできることはこれぐらいしかない。最後ぐらいは大人らしいことさせてほしいわよ」
「そう、別に否定しないから安心しなさい。誰もあなたを咎めはしないから」
「そうですぜ、良くも悪くもお手上げってところ。ワシだって長く生きていますが子供に託すってのは大人の仕事と思っています。もちろん、大人がやらないといけないことは精一杯にやり尽くして後の世代に残しちゃいけねぇ。ただ、事によっては子供たちに託すべきな事もあって難しいでさぁが」
「ふん…勝手にすれば」
「碇さん…お願い」
葛城ミサトは碇シンジを送り出すと直ちに主機関である初号機の分離作業を行わせた。主機関が丸々と分離されれば出力が大きく損なわれる。一応だが旧式の補助機関があり反重力など最低限の機能は維持でき、緊急脱出用のポッドも用意されており第三村への帰郷自体は可能だった。
今更になって何故に初号機を切り離すのか怪訝に思う者は誰一人としていない。セカンド・インパクト、ニアサード・インパクト、サード・インパクト、フォース・インパクトを全て又は途中から経験した乗組員は少年に託すことを理解した。喜怒哀楽の様々な感情をぶつけることは容易い。湧き出る感情を抑えて理性的に決断することは困難だった。
大人こそ可能な英断である。
もう、皆が碇シンジに託すしかないのだと理解した。
そんなヴンダーへニョキっとエヴァンゲリオン八号機が現れる。
頭上に天使の輪を浮かべて完全に再生した機体に驚愕する間もなかった。
「おまた!」
「マリ、分かっているわね?」
「もちろんの助。皆に代わってシンジ君を迎えに行くんでしょ?」
「よろしい。手段は問いません」
「そりゃうれしいねぇ。私だけじゃ上手くいかないからさ…連れて行くよ」
「頼んだわね」
そう言って八号機(?)は再びダイブする。
連れを回収してから迎えに向かった。
続く