「NERVは新型エヴァを投入して、無理やりリリスの結界を突破するつもり?」
「そうらしいにゃよ。サードインパクトを起こした第二の使徒リリスが、爆心地であるセントラルドグマに誰も入れないために作ったリリスの結界は、そこらの生半可なエヴァや魂では破れない。純粋な魂が2つと強力なエヴァが無ければ無理」
近づいているNERV本部奇襲作戦の中で、最重要となることがセントラルドグマへの突入である。しかし、セントラルドグマは完全に蓋がされていて侵入はおろか、ちょっとだけ覗くことすらも叶わない状況にあった。その蓋こそがリリスの結界だ。サードインパクトの元凶となった第二の使徒リリスは、その爆心地セントラルドグマを封印するために結界を張り、これが極めて面倒に尽きた。如何なる手段を以てしても食い破ることができない。エヴァで強引に破ろうにも、特殊な爆薬を使ってもだ。しかし、何事も通じることに無敵は存在しないことがある。
唯一、結界を破る方法があって、それをNERVが実行しようとしている。
「フォース発動を阻止するためには、NERVの新型エヴァを潰すしかない。しかも…パイロット保護を大前提となる」
「そうね~。なんせ、姫が独断で追加しちゃったもんねぇ」
NERVのフォース発動に対して、Willeは前述のNERV本部奇襲作戦を立案した。根幹には、エヴァ2機によるセントラルドグマ突入を画策する。最重要目標は、NERVが建造中の最新型エヴァンゲリオンとなっていて、これを叩けば発動を阻止できるはずだ。アダムスの器のような、お飾りのようなエヴァではインパクト発動は不可能で、正真正銘のエヴァじゃなければ発動できないのだ。そのエヴァを完全に破壊するか、使用不可能なぐらいに叩きのめす。仮に失敗に終わったとしても、非常識な手を使ってでも、フォースの完全な発動を阻止しなければならない。サードやニアサーのような世界レベルの大災厄に至らないぐらいに抑え込むことが、本作戦におけるせめての妥協点と言えよう。
とまぁ、これが元々の作戦の大枠だった。その中にワンポイントを加えたのがアスカだった。彼女は上の了承を得ずに、勝手にワンポイントを入れていた。当然ながら、上の了承を得ていないため、結果的に事後報告になってしまうだろう。それでも、実働するのは自分達なのだ。外野からどれだけ文句を言われようと、やってしまったもん勝ちである。後で厳しく叱責されて罰されようと、「じゃあ私はエヴァに乗らないから。好きにすれば」と言ってしまえばよい。Willeにとって対NERVの切り札の一枚が消えることは、もう最悪でしかない。ご機嫌を取ってくるか、ふんぞり返って放っておくか。どちらにせよ、彼女にとっては「どうぞご自由に」である。少年を手に入れてしまえば、最低限の願いが果たされるのだから。
「新型エヴァは間違いなくダブルエントリーシステムを採用しているけど、1人は絶対にシンジ。もう片方はどうでもいいけど、必ずシンジは保護する。ま、その後で白い目で見られるかもしれないけど」
「白い目で見られたとしても、それもそれでいいんじゃない?どうせ私たちは、エヴァパイロットだから、全然信用されていないんだし」
「それもそうね」
アスカは鼻で笑ってから答えた。
Willeは人類の希望たる組織かもしれないが、内部は決して褒められたものではない。軟禁状態にしていた碇シンジを、自分たちの説明不足や彼のメンタルケアを怠ったことで、一番渡しちゃいけないNERVに奪われる失態を演じている。また、一番の戦力であるエヴァパイロット2名を邪険に扱っている。2名の居住区は艦内で隔離され、部屋は透明な強化版で構築されている。よって、プライベートは一切無い。しかも、最悪に備えて自爆用の爆薬をたっぷりと備え付けさせているではないか。彼女たちがいなければ碌に戦えないのに、何と言う処遇だろうか。あまりにも、酷すぎる。
ただ、これにもわけがあった。Willeの職員の多くは、エヴァとそのパイロットによって家族を失い、生活を奪われた過去があるのだ。つまり、同じ中でも信じられないし、殺してしまいたいぐらいの存在であった。
なるほど、2名は諸刃の剣だ。その刃は恐ろしく切れるが、一歩間違うと、己の身体を切り裂かれてしまう。そんな刀は軽い気持ちで保管しないだろう。平時は厳重にしまっておくのが好ましい。したがって、Willeはそんな刀を端から信用していなかった。仲間でも何でもない。ただの道具としか見ていなかった。これについては、本人たちも十分に理解しているから、表立って何かを言うことはしない。ただ、現状を受けいれているかのように見せていて、実際には軽微な反逆の狼煙を上げようとしている。
「母艦から離れてしまえばこっちのもん。私も付き合うから、アスカ姫の思うが儘に。思いっきり存分にやりなさいな」
「ごめんなさいね。私のエゴに付き合わせてしまって」
「何言ってんの。彼のことは、このマリさんも助けたいからさ」
アスカの相棒を務めているマリは、シンジ救出について賛同してくれていた。賛同するだけでなく、全面的な協力を申し出てくれている。エヴァ仲間が1人増えただけだが、これ以上に力強く感じることはない。思うところがあろうとも、恐ろしく(自分たちを含め)彼に冷たい上層や職員と比べれば、相棒マリの方が圧倒的に有り難い。ただ、もちろんで、無償の対価無しとまではいかなかった。さすがにそれは虫が良すぎたから当然だろう。
「その代わり。私にも彼を噛ませてちょ。姫だけの独り占めはダメ~よ」
「ハイハイ。約束ね約束。心配せずとも、ちゃんと覚えているわ」
対価は少年を救出した暁には、2人で良い意味で共有することだった。つまり、マリはアスカに渡さないで、自分も少年と少女の輪に入ると言うことだ。アスカとしては、「マリは協力してくれるし、少年の良き理解者たる人物」と考えているので、むしろ歓迎している。断る筋も何もなかった。
「あとは…時間か」
来る作戦開始に備えて…
続く