NERV近郊ではWilleの巨大戦艦が1隻浮いていて、時を待っていた。地上で2機のエヴァも時を待っている。作戦の都合上、いきなり殴り込みをかけることが不可能だからだ。難しいとかじゃなくて、不可能である。なぜかと言うと、NERV側に蓋を開けてもらう必要があるから。NERVの目標である物があるセントラルドグマまでには、ひときわ大きい蓋がある。中に入る為には、これを開けないといけない。よって、Willeは蓋を開けてもらったところに便乗し、自分たちもセントラルドグマへ突入する手筈となっていた。もちろ本望を言えば、蓋を開けるよりも早期にNERVを潰したかった。しかし、こちらの戦力を向こうと比べたら、本当に微々たるものでしかない。辛うじて付け入る隙があるのは、このセントラルドグマ突入しかなかったのだ。
そんな状況でパイロット2名は、既に決めていた覚悟を維持し、胸に秘めたる思いを強くしていた。
その時、プラグ内に警報音が鳴り響く。
「セントラルドグマ方向から高エネルギー反応か。案の定、リリスの結界を新型エヴァで強引に突破したと」
「さ~て、いっちょ。いきますかぁ!」
2機(2名)は待機状態を破って、一気にセントラルドグマへと続くシャフトに降下を開始した。降下と言っても、パラシュートやワイヤー等の道具は一切無い。重力に身を任せる自然落下だ。となれば、降下じゃなくて落下と表現した方が適当かもしれない。自然落下の強みは何と言っても、恐ろしく速いという点だろう。10分もかからず、セントラルドグマ内部への突入を果たすことが出来る。落下中に何もしないのは危険なので、体勢を取り直して武器を構えておく。着地して戦闘へ即時移行することが容易に予想できたので、迅速に動けるようにしなければならない。
「エヴァの反応が2機。新型とアダムスの器か…マリ、所定の位置で援護よろしく」
「はいは~い」
相棒のエヴァは行動を変える。備え付けていた噴射装置で逆噴射を行い、セントラルドグマ内部でも上の方の潜伏地点に向かった。基本的にアスカの弐号機はガチガチの近接戦闘仕様で、本人も近接の格闘戦を得意としている。マリの八号機は、ありとあらゆる局面で戦えるよう汎用性に長けていた。それを活かして、多種多様な兵装を使用しての援護役を務めることが多い。例に漏れず、今回も援護をする役を務めていた。
真下を注視する。表示される情報ではエヴァが2機であるから、どちらか一方が新型エヴァだ。そして、2人にとっての最重要目標である碇シンジが乗っている。新型じゃないアダムスの器は相棒に任せて、アスカは新型から少年を救出することに専念しよう。
「いた!」
猛スピードで落下しながらも、恐ろしく鋭い目はエヴァを捉えた。あれが、NERVの新型エヴァであると。事前の準備砲撃で内部に爆炎が生じる。この程度で敵機にダメージを与えることはないだろうが、爆炎と衝撃、轟音を隠れ蓑にして接近するのだ。副次的な効果で敵機はよろけている。アスカにとっては大チャンスが訪れており、この機を逃すわけにはいかない。勢いに身を任せ、勢いに物を言わせ、エヴァへの特攻を試みた。
しかし。
「っち!ATフィールドか!」
ここでエヴァンゲリオンが誇る最強の盾、ATフィールドが繰り出されてきた。ATフィールドは絶対無敵の防御手段で、これを中和する以外に突破する方法はない。方法があるだけまだマシだと思えるが、極めて困難なことであることは言うまでもない。一応で、アンチATフィールドの技術が確立されている。それでも、贅沢に使用できない。しかも、相手には最愛の少年が乗っているのだ。手荒な真似はしたくない。よって、向こう側の自発的な降伏を画策する。
「シンジっ!聞こえているでしょ。こっちに来て、話を!」
所属が違うため、エヴァ同士の通信は当然ながら繋がらない。ハッキングなんて高等手段を使う暇はない。したがって、外部のスピーカーを使っての交信を行うしかなかった。エヴァほどの機械になれば、大きな音を出せる。
「…(無反応)」
まったく、うんともすんとも言わなかった。
「聞こえてないのっ!ったく、強引!」
無視を決め込まれているのか、それとも単純に聞こえているのかは不明だ。しかし、向こうは武力行使で答えて来た。敵機の周囲には特徴的な兵装がブンブン飛んでいて、それらが本体と分離した遠隔攻撃を行う。流石はNERVで、技術力でも向こうが数段上を行っているようである。
だからなんだ。不屈の闘志で、愛で戦ってやる。
「アダムスの器っ!?援護!」
「まかせろってのぉ!」
今度はなんだと思えば、急に飛び出してきたアダムスの器(エヴァMK-9)だった。あいつには相棒を召喚して対応する。死神が持つような大鎌が振るわれる前に、狙撃が直撃してアダムスの器はドクロ絨毯に叩きつけられた。その後も無慈悲の弾丸が撃ち込まれて、アスカのやり直しの邪魔を許さない。相棒の心遣いには後で感謝しなければならないだろう。その援護のおかげで敵機とタイマンができていて、じりじりと距離を詰める。飛んでくるブンブン虫も、一体一体を着実に各個撃破する。「このまま行けば!」のタイミングで、声が聞こえる。
しかし、それは彼女が望む人物ではなかった。
「すまないけど、こっちはこっちで緊急事態だから相互に話すことはできない。だから、要点だけを抽出して且つ一方的に伝えさせてもらうよ」
相手も外部スピーカーを使って話している。その声は愛する少年のものではなかったが、どうやら向こうも向こうで切羽詰まった状況にあるようだ。アスカは軽率に考えて行動することを、シンジを苦しめてしまった経験から控えるようにしていた。その反省が生き、ここはグッと堪える。
「僕たちはリリンの結界を突破するまでは、有人運用としてこのエヴァを動かしていた。だけど、侵入を果たした瞬間に操作系統を全部断絶されてしまったんだ。そこからは、予め仕組まれた自律制御システムによって、僕たちの本意ではない動きをさせられている。完璧に罠に嵌ったよ。そして、君が一番気になるだろうこと」
放たれる言葉を耳に入れつつ、アスカは鬼神の戦いを見せている。強力なブンブン虫に怯むことなく、むしろ次々と撃破していく。無人を前提とした戦闘プログラム、芸がない動きしかできないブンブン虫は彼女の敵ではなかった。
「碇シンジは無事だよ。それは僕が保障する。ただ、心に関しては完全に閉ざしてしまっている。元々ここに来た時からかなり弱まっていた。そこに最後の止めを刺されてしまってね。そのまま、碇ゲンドウの策略によって、彼は奴の言いなり人形となる。何とかして彼を取り戻そうとしたけど、関係が浅い僕には無理だった。彼をエヴァに乗せてしまったのは、それはもう僕の責任でしかない。極僅かな希望を信じて、しかも希望を彼に信じ込ませてしまった。ありえない希望をね。いくら碇ゲンドウの策略でも、僕は彼をエヴァに乗せてしまった。これに関しては、全責任を僕が取る。だから、彼を責めないで欲しい」
「責める気は更々なかったけど、とりあえず事情は分かった。身体は元気だけど、心が、メンタルがやられている。いいわ、私が何とかする。だから、簡単にやられなさい!」
「それが出来れば苦労しないんだけどね」
その通りだった。ブンブン虫を撃破することに成功したが、遅延戦術によって敵機との距離を大きく離されてしまっている。近づこうにも、如何せん距離がある。敵機は既にリリスの骸に着いていて、槍と眼前の位置にいる。このままで槍まで行かれてしまう。何とか追い付かなければ。
「間に合わない。だから、せめてものさ。僕なりの悪足掻きと責任取りをさせてもらう。フォース阻止の半分はやるから、その後は頼みたい。君たちには…シンジ君を頼むよ」
「ここでっ!?」
先を見透かしたかのような発言にムッとするも、それは現実となった。走り出そうとした弐号機はガクンと項垂れてしまう。内部電源が尽きてしまったのだ。最低限の機能維持の非常電源しか残っておらず、動くことは不可能。スペアの補給を受けようにも、長い時間がかかってしまう。
つまり…間に合わないのだ。
「シンジっ!」
アスカの叫びは虚しく響くだけ。新型エヴァはリリスの骸の登頂を果たし、2本の槍を手にしてしまった。
そして…始まりを迎える。
フォースインパクト