-Double Archive-   作:幸田市

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アビドス対策委員会編
第五話 Sに願いを/本格営業開始


 手がアツい、どうしてだろう。

 

「…!」

 

男の人が逃げている、追いかけっこでもしているのだろうか。

 

 

「…!」

 

逃げるのがとても上手だ、あっという間にワタシから逃げてしまった。

 

 

「…」

 

 

…むぅ、なんでだろう。早く捕まえたい。

 

よくわからないけど、きっとワタシの為に必要だから。

 

 

「…!」

 

あぁ、やっと見つけた。

 

 

「…いやだぁ!」

 

ふと、そんな事を言った。

 

 

…そうだ、何をやっているんだ私は。

 

やめろ

 

 

「…!」

 

だが、この悪夢は終わらなかった。

 

「…」

 

手がさらにアツくなった

 

 

…やめろ

 

 

 

「…」

 

 

ヤメロォォォォ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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巨大な学園都市、キヴォトス。ここでは、普通の人間がアッと驚くような事件が山ほど転がりこんでくる

 

 

そんな事件を解決するため、僕たちは「シャーレ探偵事務所」を設立した。

 

どのような事件を解決したのかと言うと、伝統的な喫茶店からの依頼をはじめ、ミレニアムの「ゲーム開発部」からの依頼、キヴォトス北端の学校での依頼など様々だ。

 

 

その全てを、僕は解決した。そのおかげで「シャーレ探偵事務所」の噂は瞬く間に広がり、「どんな問題も解決してくれる場所」という事で有名になったのだ。

 

 

『オイ、ソコは()()()という方が適切だろ。』

 

『分かってるよ、訂正する。』

 

 こいつはハイド、僕の中に住んでいるやつと思ってもらっていい。「大人のカード」を使用したと同時に現れた奴だ、なぜだかわからないけど師匠のところにいた頃の僕を知っている。「ずっと見てたからな」なんて意味の分からない事を言っているけど、正直気持ち悪い。あと、ハイドって名付けた理由は、単に悪そうな口調をしているからだ。こんなでも一応頭は回るので、重宝はしている。

 

 

 『気持ち悪いは無いだろ気持ち悪いって』

 

 

 『うっさいなぁ、あんな事言われたら誰だってああなるわ!』

 

 

 「…何やっているんですか、先生たちは。」

 

 シッテムの箱と言われるパッドの中にいるAI「アロナ」はそう僕たちに言った。彼女は、僕の中の「ハイド」を知っている側のAIだ。というより、僕たちが教えたという形が正解だろう。

 

 

 どうやら、僕たちが口論をしている時。はたから見ると一人で取っ組み合っているというギャグのような状態になるという。それを見た彼女は、僕の頭がおかしくなったと勘違いしたらしく、この都市の病院的な立ち位置である救護騎士団に電話しかけたのを止めた後、成り行きで事情を説明することになってしまったのだ。

 

 

 「すまない、アロナ。

なめ腐ったもう一人の僕にお灸を据えてた。」

 

 

『誰がだ!』

 

 

 そんな風に会話を続けていると、アロナがこんな事を言い出した。

 

 

 「はぁ…先生。メールで依頼が届きましたよ。」

 

 

「何」

『だと』

 

 

僕とコイツは、久しぶりに息があった。何を隠そうこの事務所、僕が勝手に改装したという事で借金を持っている。それはあんまりだと連邦生徒会に抗議をしたものの「申し訳ございません。これはもう決まった事ですので…」と生徒会の中でも比較的話す子である岩櫃(イワビツ) アユムに門前払いされるという悲惨な末路を辿ったのだ。

 

 

 だがしかし、生徒の模範である僕が借金で潰されるわけにはいかない。それを解決すべく馬車馬のごとく働いた。それはもう鬼神のように。

 

 

その結果、借金は何とか返済の目途はついた。とは言っても、まだまだ不安要素は多い。

 

その理由の一つなのだが…

 

 

『これなら【なんでもんど】も買える!』

 

『買わねぇよ』

 

そう、ハイドはアニメオタクになってしまった。やはりどんなに頭脳担当でも人の子だ、趣味の一つや二つはあるだろう。しかしこいつの場合は重症だ。欲しいものは即買い精神なせいか、最初は余計な借金がかさんでしまう事もあった。

 

 

 そんな問題児を抱えたまま、これから借金を返すことは難しい。

 

 

なので、一刻も早く依頼を解決させ連邦生徒会から報酬(クレジット)を巻き上げなければならんのだ。

 

 

 

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「なるほど…アビドス高等学校か…」

 

『こりゃ少しホネが折れそうだな』

 

依頼はアビドス地区の学校から、依頼人は奥空(オクソラ) アヤという少女だ。

 

彼女曰く、地域の暴力組織に自分たちの学校が狙われているそうだ。対抗しようにもかなり複雑な事情があるらしく、弾薬などの補給が出来ず対策のしようがない状態だという。

 

 

そこで、多くの事件を解決、そして連邦生徒会に認可されているウチを頼る事にしたという事らしい。

 

 

「…昔はとても大きな地区だったそうです。ですが、気候の変動によって生活がかなり厳しい街になっているそうです。」

 

アロナがそう言いながら、アビドスのマップデータを僕のスタッグフォンに送信した。

 

 

「え…デカッ!」

 

マップに記されていたのは、およそ八割が砂漠で覆われている街だった。そこは、僕が昔住んでいた「風都」という町の何倍も大きい。だが、まともに住めそうな所は、その中の2割ちょっとしかなさそうだった。

 

 

『…迷子になっちまうだろ…』

 

 

「そうだな…これは普通に迷う。」

 

 

「自身満々に言うセリフじゃないですよ…」

 

アロナは自身満々な僕を冷めた目で見ていた。その後、こんな事を言いだした。

 

「依頼を受けますか?

先生。」

 

 

僕はアロナがいるパッドを見ながら、彼女に告げた。

 

 

「そりゃもちろん。借金を背負っている以上、仕事を選ぶ余裕なんてないし。それに」

 

「…?」

 

 

 

 

 

先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?

 

 

 

 

 

 

「困っている生徒は放っておけないしね。」

 

 

 

 

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「とは言ったものの…」

 

ここはどこだぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

自身満々の状態でアビドス地区にバイクで来て数日たったものの、慣れない土地でどうしても良くわからない場所に着いてしまう。それもマップなどを使ったうえである。さらに言えば、飲食店に加え、自動販売機の一つも存在すらない。

 

 

 正直、迷子である。

 

ガソリンスタンドさえないので、バイクの燃料もそろそろキツい。

 

このままでは借金を持ったまま野たれ死んでしまう。

 

なんとしてもそれだけは防ぎたいところだ。

 

『…これはまずいな、死ぬぞ。』

 

ハイドが正に僕と同じ事を考えていたのか、そんな事を言い出した。

 

更に言うなら、先ほどから腹も喉も補給をねだっている。ガラガラでグーグーなのだ。

 

何とか倒れそうになる身体をバイクと足で支え、目的地に辿りつこうと歩く…

 

 

すると…

 

 

「あ」

 

まずい、これは倒れるなぁ…なんて思いながら、意識が離れていこうとする。

 

 

しかし

 

 

「…」

 

そっと、そしてがっしりと僕の身体を誰かがキャッチしてくれた。どうやら、誰かが僕を助けてくれたようだ。

 

お礼を言おうと、顔を前に向けると…

 

「…」

 

そこには、白を基調としたYシャツの上に、紺色のブレザー、この季節ではまだまだ寒いミニスカ、水色のネクタイとマフラーも着用している。

 

「…?」

 

水色のきれいな瞳をしている、ケモミミ少女がいた。

 

「…あの…大丈夫?」

 

彼女は言った。

 

とても清涼感あるクールな声であった、これが世間でいうところの「クール系女子」というやつだろう。

 

 

さすがにこのままではまずい、何か言葉を発さなければ。そう思いながら、僕はこんな事を言った。

 

 

「…大丈夫さ、この程度なんてこともない。」

 

今この場にユウカたちがいた場合、絶対にばれるであろう虚勢を張ったが…まぁ出会ったばっかのこの子なら誤魔化せるはず。

 

 

「…でも…すごくやつれてる、あなたの顔。」

 

彼女は僕の嘘をもろともせず、ドストレートに言ってきた。

 

…あれぇ、僕ってそんな演技下手ですかねぇ…

 

「…もしかして、事故に遭ったとか?」

 

彼女は僕のバイクを見た後、バイク事故に遭遇したと勘違いしたのか、そんな事を言ってきた。まぁ、確かにこの状態を見ていれば、何か事故でもあったのかと考えるのはおかしくない。

 

 

僕は彼女の勘違いを訂正すべく、ここに来ることになった事情を説明した。そして、道がわからなくなり、途方に暮れていたこともだ。

 

 

事情を説明した後、彼女は首をうんうんと傾け…

 

「なるほど…ただの遭難者だったんだね。」

 

「うぐっ」

 

痛い所を突かれ、ついつい気持ち悪い声をあげてしまう。ハードボイルドなこの僕にあるまじき失態という事を、改めてこの少女にわからされた。

 

「…まぁ、ここはそういう所だから。食べ物がある店とか、とっくに無くなってるよ。」

 

いやぁ、まじか。

 

事前に情報収集すべきだった。こういう爪の甘い所があるから、依頼人を危険な目に合わせてしまう。

 

師匠に口酸っぱく言われたことだ、気を付けなければ。

 

 

「…こっちのほうを越えて郊外まで行けば市街地があるけど…」

 

「…そっか、ありがとう。

でもこの土地にまだ慣れてなくてね…」

 

「なるほど…この辺は初めてなんだね…ちょっと待って。」

 

そういうと、彼女は自身のバッグをあさりだした。

彼女のバッグは肩掛け式で、黒を基調としていて、部分的に水色のラインがある。ピンクハートのアクセサリーや十字架のようなストラップ、緑の…あれなんだろう。言葉にするのは難しいが、猫耳がついているウィンクをした緑…としか言えない。

 

 バッグ中心部には三角のロゴマークが記されている。確か、今回依頼してきたアビドスの学校のロゴも三角だったような…

 

もしかしたら、彼女は生徒かもしれない。後で聞いてみることにしよう。

 

そうしていると、彼女は僕に対し、右手で水筒を突き出した。

 

「はい、これ。エナジードリンク。

ライディング用なんだけど…今はそれしか持ってなくて。でも、お腹の足しくらいにはなる。」

 

「おお…助かるよ!

じゃあさっそく。」

 

『おい、ちょっとま…』

 

「えっと、コップは…あ。」

 

先ほどまで黙っていたハイドとケモミミ少女の声が聞こえたが、多分どうでもいい事なので無視した。

 

それよりも、数日も飲まず食わずしていた僕は、彼女から渡された水筒のふたを開け思いっきり飲んだ。

 

『ちょ…オイ。』

 

『なんだよハイド』

 

『あのムスメが水筒に口付けてないか確認しなかったのか?』

 

…あ

 

いやな予感がしたので、おそるおそる彼女の方へ目を向ける。

 

すると

 

「…」

 

恥ずかしそうに頬を赤らめる少女がいた。

 

…僕に渡す予定だったろう、コップを手に持ちながら。

 

 

 

「…」

「…」

 

 

 

 

 

 

大ッ変!!!申し訳ございませんでした!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

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「本当ごめんね…知らない人と間接キスだなんて…」

 

「…ううん、大丈夫。…気にしないで」

 

 

あぁ、この子は女神なのだろうか。いくらハードボイルドな伊達男である僕だとしても、いきなり知らない人と間接キスとか絶対嫌がるはずなのに。この子は許してくれるのか…

 

 

「ありがとう、君の名前だけ教えていただいてもよろしいですか?」

 

「…なんで最後は敬語なの…?

…私はシロコ、砂狼(スナオオカミ) シロコ。」

 

名前まで教えていただけるなんて…慈悲深いお方だ。

 

「改めまして感謝を申し上げます、砂狼様。

どのくらい感謝しているかと言うと『人生で一番尊敬している人物は?』と質問された時、迷わず砂狼様というくらいにはです。」

 

「…嫌がらせ?

…そんな事よりも…もしかして、連邦生徒会から来た大人の人?」

 

「Exactly(その通りです)」

 

「…もっと普通に受け答えできない?」

 

砂狼様は酷な事を仰る。

 

こんなハードボイルドなセリフを淑女に囁くのが僕の仕事なのに。

 

『いや、別にハードボイルドじゃないだろ。』

 

オタクはダまらっしゃい!

 

「…それは難しい事です、僕の存在意義ですので。」

 

「へー…という事は、うちの学校「アビドス」に用があるの?」

 

「Exactly!!!(その通りです!!!)」

 

砂狼様は僕のハードボイルドさを理解してくれたようだ。

 

とても早く納得してくれて僕もうれしいよ。

 

「…そっか、久しぶりのお客様だ。

…それじゃあ、私が案内してあげる。すぐそこだから。」

 

「そうでございますか、ではさっそく出発しましょうか。わが主。」

 

「…そういうの恥ずかしいからやめて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 第六話

「Sに願いを/アビドス対策委員会」

               お楽しみに!
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