読者のみんなの寛大な心で許して☆
大決戦ビナーくん、砂かけるのホントやめて。
「…」
アビドスの夜は、孤独な漢を優しく包む静寂だ。街の電気は全て都心部へ集中している。なのでそこから離れれば酔っ払いのジジイさえいない、まさに「もぬけの殻」と言うのがふさわしい場所になる。砂漠の砂が風と共にワルツの如く、ひゅうひゅうと舞う。こんな道を通れるのは、孤独を楽しめる僕のような男か、気が狂った奴だけだろう。
ポケットに手を入れ、つい最近見た洋画の主人公をトレースする。自身の感情を押し殺し、ただただ依頼を果たす。正に「漢の中の漢」である。
やはり妄想は素晴らしい。頭の中の空想上の存在だというのに、まるで荒野に一人佇んでいる気分になる。その気分は身体にも伝染した。頭を俯き、男の冷たい目を隠し、コツコツと鳴る心地の良い革靴の音。そして、背筋に現れた自信。これこそ「背中で語る」男だろう。
だが、この自信も長くは続かなかった。
『ごめんね~先生。セリカちゃんは悪い子じゃないんだけど…少しだけ時間を作ってあげてくれないかな。』
今日起きた事を思い出し、舞い上がった心を落ち着かせた。あの後、小鳥遊が借金についての事を話してくれた。彼女たちの学校が持っている負債は、なんと9億6235万円。とても学生が背負うべき金額ではなく、最初は脳が拒絶反応を起こしたが、やはり僕たちの予想は的中した。そしてその借金のほとんどが、砂嵐による自然災害の復興に使われている。借金を返済しようにも、その事実を知った生徒のほとんどが退学。おまけにまともな融資会社から門前払いをくらってしまい、残った手段は闇金のみになってしまったという。最初は対処出来ていたのだが、砂嵐が何度も起きてしまい、そのたびにお金を借りてしまったのだという。そうこうしているうちに、9億円余りの借金を抱えてしまったと、彼女は言った。
『借金がある以上、弾薬などの補給品を購入することもできないからな。』
「ああ、それにあれだけ借りているのなら、利息も相当ひどいだろうね。」
ハイドがため息をつくかのように語ったので、それに呼応して僕も自分の予想を述べる。というか予想と言うより、事実と考えたほうが良いだろう。どうやら、あの学校が抱えてている問題は、僕らが予想していた事態の遥か上を行っていた。確かに、いくら土下座したとしても黒見の怒りと困惑は正しい反応だろう。彼女からすれば「今まで散々無視してきた癖に、なんで今更仲間になるなんて言い出したのよ。」と僕ら大人をそう思うはずだ。
「…」
右手の血管を千切る勢いで握りしめ、自分自身への怒りをぶつける。僕の土下座一つでは抱えきれないほどの想いを持った彼女の気持ち、それを汲めない自分がたまらなくダサかった。師匠に「四分の一人前」と言われるのは当然だ。人の心を傷つけることは、探偵や先生として以上に一人の人間としてやってはいけない。人の心を傷つける行為の重さは、すでに自分の心に刻んだはずなのに。
今でも脳裏に潜む幻影。自分の幼い心が生み出す
『…過ぎ去ったことは、もう変えられない。』
「…」
『…だが、未来は変えられる。陳腐だが、中々悪くないセリフだろ?』
「…!」
『それに、お前があの子たちにしたことは、何も全てが悪いってわけじゃない。』
ハイドは僕の中に溢れる洪水を受け止めた上で、親父風を吹かせたセリフを僕に言い放った。
その言葉は僕の心を軽くしたと同時に、決して消えない十字架を押し付けられたような気がした。それは戦うべきものとしての責任を押し付ける「呪い」なのか、それとも守るために立ち上がる理由である「祝福」かは、未来の僕に委ねるとしよう。
…さて、反省会はここで終了。
次はアビドスの借金、約9億円という途方もない返済期間をどう対策するべきか。こういう時は独りよがりではいけない。相談相手としてアロナを呼び出すため「シッテムの箱」を取り出し、接続を試みようとしたその時
「…!」
「「「…」」」
突如、どこからともなく男たちが現れた。彼らは僕を瞬く間に囲い、完全に逃げ場を潰した。黒ずくめのスーツ、サングラスと「X」と書かれた銀のケース。「X」と書かれているケースから察するに、奴らと踏んで間違いない。
財団X、今もなお師匠たちが追っている組織。奴らは、表向きは科学研究財団と装っているものの、実態は「有益な兵器」を生み出す会社や組織に莫大な援助をする代わり、その技術を財団に取り入れる。師匠風に言うなれば「死の商人」だ。実際、彼らはガイアメモリの生成の他にも様々な技術を取り込んでおり、師匠たちを大いに苦しめたという。だがそのたび、大勢のライダーと協力しこの世界を守っている…らしい。あきちゃんこと「鳴海探偵事務所の所長」に聞いたっきりで詳しく語ることはできないが。
閑話休題、とりあえず今わかることが一つある。それはこの町に財団Xが根付いている可能性が高く、さらに言えば「ガイアメモリ」の製造と流出もここでやっている、と。それならば辻褄が合う、例のヘルメット団が変身した「アノマロカリス・ドーパント」が使用したメモリも、おそらく彼らから受けとったのだろう。
そんな奴らが僕に何の用があるのか、こちらとしてはさっさとシバきたい所なのだが。
「こんな夜遅くに何のようだい、生憎僕はただの先生だよ。」
「ええ、それは勿論ご存じですよ」
囲まれた円が開く。幹部クラスがよく来ている白スーツをびっしり構え、男は僕の方へ向かってきた。コツコツと革靴の音を目立たせるような歩き方は、余裕を見せつけるという下心が見え透いている。ボンドでくっつけたのか、不自然なくらいの完成された笑顔。誠実そうに見えながらも、誰よりも人間らしい欲深く浅ましい姿に反吐を吐きたくなった。
「では先ず、自己紹介から。
私は
男、木内は僕にそう告げた後。流れるように平信低頭のような雰囲気で頭を下げた。彼のガワだけ見れば「誠意を感じる謝罪」に思える、しかし一度疑った心は止まる事を知らない。いくら僕を囲ったからと言っても、言葉の表現があまりに誇大である。それはまるで「相手に許させる」という状態を作りだそうとしているような感じで、コイツを好きになれそうな気がしない。
「こちらこそ、私は「シャーレ探偵事務所」の所長をやらせてもらっている先生です。今後ともよろしくお願いします。」
だが、この手の輩に本音と言動を混同しては相手の思うまま。冷静に対処すべく、フィリップさんに教わった敬語をフルに活かす。すると、相手も僕をバカとは思わなくなったのか、ほんのちょっとの温さが消え本性である冷たい瞳を一瞬見せた。
「…今日は貴方に一つ、お願いがあり参ったのですよ。」
「…そのお願いと言うのは?」
「今すぐアビドス高等学校の件から手を引いていただきたいのですよ、あなたに。」
木内は笑みを保ったまま、拳銃を突き付けるかの如く僕に願った。余裕を崩すことなく僕に喧嘩を売る感じ、奴にとっては手慣れた会話なのだと思考が告げる。
きっと、この余裕と言う名の威圧によって多くの人間を屈服させてきたのだろう。奴の周りにいる男たちは、どこか敗北感を匂わせた表情になっているのが、サングラス越しに伝わった。だが、この場に例外がいる。
「断る。僕の仕事だ。」
思いっきりボディブローをするように、奴へ敵意を孕ませた言葉を食らわせる。飲まれてしまってはいけない、己の意思を保つために強気な姿勢を崩さず戦う。これも師匠に学んだことだ。やはりあの町での下積みが今に生きていることに、改めて彼らに感謝しようと思った。…今度高いお菓子持っていこ
「それは困りましたね…私としても、今あなたが死ぬのはかなり困るのですが…」
「は?」
何を言っているんだコイツは。
何故僕が死ぬことがまずいのだろうか。財団側からすれば、敵が一人消えても何も問題ないはずなのに。脳内にノイズが走る、なぜ奴はこんな事を言ったのだろうか。冷静な思考は剥がれ落ちたように消え、混乱が脳内で渦巻く。
「…わかりました、良いでしょう。
こちらはあなたの介入を見過ごすことにしましょう。」
僕が混乱している間、木内は思考をまとめたのか、そう返してきた。あまりにもあっさりした返答に、拍子抜けしてしまった。だが、これまでのやり取りの中で、たった一つの確信は持てた。奴は何かを企んでいる、その目的は理解できないがこのまま返すわけにもいかない。
「なぁ、木内さんよ。
…生徒に手を出そうって魂胆なら、こっちも容赦しない。」
僕は木内の目を睨み、奴の脳裏に言葉を焼き付けた。すると、奴は完璧な笑顔で告げた。
「私たちは手を出しませんよ、私たちはね。」
「…ッ!」
どうやっても中身の黒さを目立たせるように、奴は僕に堂々と言った。
「では、私たちはこれで失礼します。精々、飼い猫をさらわれないようお気をつけて。」
立つ鳥後を濁さず、その場から瞬時に消えた奴ら。先ほどまで脅しの現場だったとは思えないほど、静かな夜が訪れた。
次回
「Sに願いを/追跡!入店!いずれも日常!」