稗田阿求の怪奇話   作:東側Production

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皆様、こんばんは。私は稗田家当主にして九代目阿礼乙女、稗田阿求と申します。
私は最近、「怪談」という物について研究して参りました。「怪談」は、恨みと悲しみを持った「怨霊」が人々に危害を加えたり、「祟り」として人々に不幸を齎すというものらしく、これと同時に「人間の本質」について学ぶこともできました…
そして今晩、私はその怪談の中から1つを選び、皆様にお話します…今日のお話は「八尺様」という存在に魅入られてしまった男性「田中 康生」という男性の物語です。どうぞ、聞いて下さい…


稗田阿求の怪奇話 その壱 「八尺様」

序章 「今でも頭に残るあの声」

 

「あの日からもう10年以上経つのか…」

 

俺は自室の壁に貼ってあるカレンダーに目を向ける…そこには18歳の俺が身の毛もよだつを思いをした、もう二度と出会いたくない物に会ってしまった日から10年以上経っていることが伺える…

 

「…っぽ」

「ッ……!」

 

俺は小さく、小さく、そして今にも掠れそうな声のする方向を向いた。そこには…

 

「……何も、居ないか…」

 

俺は安心して窓から目を背ける。でも、声は聞こえ続ける…まさか、奴が戻ってきているなんて…

 

_____

 

第1章 「すべての始まり」

 

高校生である俺は、春の連休を使って田舎にある祖父母の家に1人で遊びにきていた。

俺は縁側で寝そべ眠ろうとしていると、不意に生垣の方から「ぽぽぽ」と奇妙な声が聞こえてきた。俺はその声のする方向に視線を向けると、つばの広い白い帽子が見えた。その帽子には濃い紫色のリボンが巻き付いていて、そのすぐ下には黒く艶のある髪の毛が見えた。暫くすると、生垣の切れ目に白いワンピースを着用した血色のない青色の肌をした痩せこけた女が姿を現し、気づくと俺の視界から消え去っていた…

 

 

その日の夕食時、俺は昼頃に見た不思議な女性について祖父母に伝えた。

 

「そうしたらさ、生垣の方にすっごく高い女が見えてさ…」

「待て! それは本当の話か!?」

「そいつを見て、他に特徴はあったの!?」

 

祖父母は目を丸くして、凄まじい目力で俺を見ながら問い詰める。その圧倒的な雰囲気に打ち負けてしまい、俺が見た女の特徴について話し始めた。

俺が見た女の見た目は白い帽子に非常に長いワンピースを着用していて、血色のない青白い肌を持ち、そして生垣をも超える長身と「ぽぽぽ」という声を出すこと…それ以外には特に分からなかったが、祖父母はとても深刻そうな顔をしている…

少し間を置いて、祖父母は真剣な面持ちで俺に事情を話し始める。

 

「康生…お前、大変なものを見ちまったな…」

「じいちゃん、何がそんなに大変なんだい?」

「私から話すわ、康生。あんたが見たのは『八尺様』と言う怨霊だよ。奴はその名の通り身長が八尺、つまり約240cmもあるんだ。そして奴の最も恐ろしい所は気に入った若い男の前に現れては取り殺してしまう所なんだ…」

「えっ……??」

 

俺は一瞬理解する事ができなかった。まさか見ただけで死んでしまうというのか…

そう言葉を失っていると、祖父が俺の肩を掴んで話を続ける。

 

「だが、助かる方法がないと言うわけではない。少し待っておれ!」

「あ、うん…」

 

そう言うと、祖父はまるで興奮した馬のように駆け出し家の玄関のドアを荒く開けどこかに走って行ってしまった…

 

ポカンとしている俺に、全身を震わせて怯えている祖母は話を続ける…

 

「八尺様はこの周辺に取り憑く厄介なもので、喪服の女や留袖の老婆…見る人によって姿が変わる怨霊なんだ…」

 

祖母は話を続けたが、俺は何も返せない…

 

_____

 

第2章 「恐怖の来襲」

 

夕暮れが近づき、もうすぐ日が落ち始める頃に祖父が神主と巫女を連れてきた。若い巫女は俺を見るなりすぐさま駆け寄り…

 

「君が八尺様を見た子かい!? 大変なものを見てしまったな! 取り敢えず、2階に上がるぞ!」

「えぇ…あ、はい…」

 

俺は年下とも言えるくらいに小柄な巫女の不思議でもどこか恐ろしい雰囲気に気圧されながら、急いで2階へ続く階段を登って行った。巫女は俺の腕を掴み、もう片方の手で古びた押し戸を押し開けると、俺は言葉を失った…

なんとその部屋にある2つの窓には一面びっしりとお札が貼り付けてあったのだ。しかも、部屋の四方の角には盛り塩が乗っている小さな皿が配置され、小さな木箱の上に仏像が乗っていた。それ以外には最も大きな窓とは逆の方向、つまりドアの方向には少し古いアナログ時計がt利つけられていた…

もう言葉で表せないような、ものすごい雰囲気を纏う部屋に言葉を失っていると祖父母と神主が2階に上がってくる…神主が懐から封筒サイズの和紙でできた紙を取り出し、俺に手渡す。

 

「これは強力なお札だ。この部屋にいる間は、これを絶対に手放さないように」

「いいか康生、明日の7時までこの部屋から絶対に出るんじゃない。冗談とかじゃあない、真剣に言っている。絶対にこの部屋から出るんじゃないぞ」

「康生、私たちは絶対にあんたを呼ばないからね。たとえ誰かから呼ばれても絶対にドアを開けちゃダメだよ?」

 

俺は3人の剣幕に気圧されつつ、声が出せない代わりに頷いて返事をした…

 

 

日が完全に沈み、俺は祖父母達によって例の部屋に押し込まれた。幸い、部屋には非常トイレがあって飲料水もあるので空腹と便意に困ることはない。ただ、一つ気になるのは窓の方からする奇妙な音。外側から弱い力でガラスを叩くような音で、とても不自然で不気味な音だ…

 

「まさかだけど…いいやそんなことはない! きっと風なんだろう…」

「ぽぽっ…ぽぽぽ…」

 

俺はその声を聞いた瞬間、背筋が完全に凍結した…

俺は布団に潜り込みながら、仏像に向かって「南無阿弥陀仏」と唱え続けた…でも、その不気味な音と声は止む様子がない…俺は必死に祈った。でも全く音は止まないどころかどんどん大きくなっている。それに加えて「ぽぽぽ」という声はどんどん大きくなっていき、更に怒ったような速度や抑揚に変化していく。俺はこの恐怖に耐えきれず部屋を飛び出そうとする…勿論、外に出ることはとても不安、でも俺の気持ちを加速させてしまう要因が一つあった…それは部屋の外から聞こえてくる家族の声…それは全て俺を外に誘き出そうとする物だった…

俺はそれに誘惑されるかの様に、低い気温によって冷たくなったドアノブに手をかける…でも、ここで祖父母の言葉を思い出す。

 

『いいか康生、明日の7時までこの部屋から絶対に出るんじゃない。冗談とかじゃあない』

『康生、私たちは絶対にあんたを呼ばないからね、たとえ誰かから呼ばれても絶対にドアを開けちゃダメだよ?』

 

俺はその言葉を思い出し、直ぐにドアノブから手を離し3歩ほど後ずさった。その拍子に部屋の隅が視界に映ると、そこに置かれた盛り塩はなんと先が真っ黒に変色していたのだ。俺は戦慄し、お札が破れるかと思う程の強い力で握りしめ布団に鷹から逃げるネズミの様に潜り込んだ。布団の中では何度も何度も祈り続けた。もう既に恐怖で舌も歯も唇も震えに震え、まるで着信を受け取ったスマートフォンの様に振動した。お陰で「南無阿弥陀仏」さえも発音できないため、俺は心の中で必死に必死に祈り続けた…

 

 

それからどれ程経ったのだろうか、既に雨は止んでいて雨の音も止んでいた。俺がいる部屋には窓があったが、全てお札で敷き詰められているため生憎外の様子を確認する手段は無い…

俺はまず外の様子を確認するために、天井付近の壁に取り付けられている時計を眺める。寝起きなのかは分からないが、視界がぼやけて分針がどこを指しているかは分からない。でも、辛うじて時針は確認することができるため、現在の時刻が7時であることを認めることができた。

時刻を確認して一安心していると、巫女らしき女性の声と共に数人の大人が慌ただしく階段を登る様な騒がしい音が聞こえてくる…

 

「大人(うし)は無事か!?」

 

その数秒後、部屋のドアが勢い良く開けられる。その非常に大きく喧しい音で目が覚め、周辺の様子が段々と鮮明に映し出される様になる。なんと、俺がずっと握りしめていたであろうお札は完全に黒く変色しており、非常に劣化していた。更に、部屋の4隅に置かれる盛り塩はもう完全に黒色に変色していて、もう既に塩では無く粉末化した木炭の様になっていた…

 

「先ずはよかった! さぁ直ぐに外へ!」

「康生、外にはあんたの両親と親戚が集まっておる。いろいろ説明したことは山々だがまずは外に出なさい!」

 

階段を降りて神主と祖父に腕を掴まれながら、荒々しく靴を履き外へでると、そこには1台のバンと2台の軽トラックが到着していた。バンの前には両親が立っていて、俺の姿を見るなり母は涙を流しながら、父は全身汗だくになりながら駆け寄ってきた。

 

「康生! 良かった…生きていて良かった…」

「大丈夫だったか康生! 無事だったか! 親父から話は聞いている、大変だったのは分かるが直ぐに車に乗ってくれ!」

 

父は乱雑に俺の服の袖を掴むと、放り込むかのようにバンの2列目に俺を乗せた。

その後、バンには続々と親戚や近所の人たちが乗り込んでくる。助手席にはどうやら祭具で重装備になっている神主が、俺の直ぐ後ろには同じく祭具で重武装の巫女さんが、そしてその周辺には汗が吹き出し落ち着きがない屈強な親戚達が乗り込んでいる。異様な雰囲気に喉を詰まらせていると、直ぐ後ろに座っている巫女さんが強張ったような勇ましくとても女性とは思えない声で俺に話しかけてくる。

 

「いいか大人! 車では移動中絶対に目を開けてはいけない! 例え誰かに話しかけられてもだ!」

「今、私たちがこの様に君をとり囲む様に座っているのは、君を八尺様から守るためだ。大勢の男で八尺様を撹乱する」

 

巫女さんと神主は恐ろしい形相で睨みつけるかの様な表情をしながら早口で喋る。俺はその言葉で恐怖が更に加速し、彼らに逆らえずそのまま目を閉じて屈んでしまう…

 

_____

 

第3章 「魔の手からの決死の逃走」

 

「そろそろだな…ここからが難関だ」

「いいか康生、絶対に目を開けるんじゃあないぞ…」

 

何やら耳から声が聞こえてくる、でも俺の脳みそには全く入ってこない…恐怖でもう何もかも認識できなくなってしまっているのだ…

ただ、唯一の救いはまだ八尺様らしき不気味な女の声が聞こえてこないと言うことだ。目を閉じ始めてから既に10分以上経っているが、そうやら諦めたのだろう…そう思った刹那、バンの後部座席から『ドンドンッ』という大きな鈍い音が聞こえてきた。

 

「クソッタレ…もう来やがったか」

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

叔父の野次と同時、祖母がお経を唱え始める…それに続くように、神主と巫女は謎の呪文の様な言葉を言い始める。直ぐ近くからは鈴の様な紙を擦る様な音が聞こえ始める…

段々と鈍い音がバンの右側面に動いていき、ついに俺のすぐ隣まで来た。そして、またあの声が…

 

「ぽぽっ…ぽぽぽぽぽぽぽっ!」

「……ッ!」

 

祖母が唱えるお経の声がどんどん大きく変化していく、更に八尺様の声は昨日とは違い俺を嘲笑うかの様に不思議な抑揚を持っている…

俺はその恐怖に耐える事ができず、遂に目を開けてしまった…

 

「……あぁ…あぁぁぁああ!」

「目を閉じろバカたれ!」

 

叔父がまるでゴリラのような凄まじい力で俺の首を押さえつけ、強制的に屈ませる。俺は涙をお札にこぼしながら、恐怖に必死に耐え続けた…

そして、いつの間にかに不思議な声は聞こえなくなっていた…

 

 

両親の家に着くと、俺は自分が失禁していたことに気づいた。自分が座っている場所はびしょびしょに濡れていて、シャツには涙がびっしりと付いていた。俺は命を奪いかねない怪異に追われていた恐怖から解放されたことを実感し、放心状態になったが叔父から今回の件について更なる話を聞かされた。

 

「今回、お前は運が良かったが、今までお前の様に逃げ切った奴は本当に珍しい。3年前にも若い男がお前と同じように八尺様を見てしまって、命を落としたんだ…今回、これだけの親戚を集めたのはお前を確実に逃すためだ。八尺様は村に建てられた地蔵様によって封印されているから村から出ることまではできまい」

「ただな康生、八尺様は気に入った男を殺すまでずっと諦めない。これだけは覚えておいてくれ。もしお地蔵様が機能しなくなったら…その時は覚えておいてくれ…」

 

その言葉で、俺の安心感は完全に消え去った…

 

_____

 

第4章 「追いかけてくる…」

 

あの逃走劇からもう既に10年以上…俺はあの時の記憶が夢にでも起きたかの様に現実味を忘れてしまっていた。ただ、1つ気になっていたのは祖母からの一言。「覚えておいて」と言うのはどう言うことなのだろう…

あの出来事から7年後、祖父は老衰で亡くなった。俺は自分を助けてくれた祖父の葬式に出たいと思い、両親や叔父、祖母に掛け合ってみたが全員頑なに「NO」としか言わなかった…結局、祖父の葬式は両親と祖母、俺以外の親戚でのみで執り行われた…俺はせめてとも思い、祖母のもとに祖父宛で手紙を送ることにした…

そう昔の思いに耽っていると、突然固定電話に着信がかかってきた。どうやら祖母からの電話らしい。

 

「康生? 康生かい?」

「あぁばあちゃん、久しぶりだね」

 

明るい声で返事をし、明るい内容を期待していた俺だったが、それはどうやら思い違いだったようだった…

 

「あのね、康生…気をしっかりして聞いてちょうだい……実はね、あんたをつけ狙っていた八尺様を封印していたお地蔵様がね、壊されていたんだよ…」

「……は?」

「これで封印が解けてしまったから、多分八尺様はあんたの方向に向かっているんだと思う……もうこうなったら私たちにはどうにもできないから、近くの神社を頼ってちょうだい……」

「えぇ!? ちょっと、待って!」

 

その直後、通話が切られてしまった……

なんだろう…さっきからまたあの奇妙な声が鮮明に蘇ってくるような……

 

 

 

 

 

_____

 

終わり




さて、今日のお話はこれで終わりです…
どうだったでしょうか?確かに怖かったかもしれません…でも、「この世には知らない方が良いこともある」と言うことについて考えることはできたでしょう?これをきっかけに、日常について深く考えることができるなら幸いです…
どうか、良い夢を…

_____

⭐︎作者より

今回参考にさせていただいた動画と記事はこちらです
エモル図書館〜時々、エビル〜様の動画→ https://m.youtube.com/watch?v=cIxYM9oNBHU&pp=ygUJ5YWr5bC65qeY
八尺様についてのWikipediaのページ→ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E5%B0%BA%E6%A7%98
八尺様についての2chスレッドをまとめた恐怖の泉のページ→ https://xn--u9jv84l7ea468b.com/kaidan/47wa.html

※この作品は2chのスレッドや記事の内容を元に、物語を再構築して投稿しております。本の内容と異なる場合がありますのでご了承ください。
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