改造スライムと転生スライム   作:黒井政人

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活動を再開します‼
書籍版の新巻が10月30日に発売!楽しみです。




アナザーとドワルゴン入国

 

 

「あれっ?どこだ……ここ……」

 

 

 ドワルゴンへと向かう旅の途中、ゴブリン達や牙狼族を休ませるために休息を取らせているなかで、俺は色々と自分のスキルを試し終わって、川に映る自分の姿を見ながらボーっとしていた。うん、ちゃんと覚えている。

 それなのに、川を眺めていたはずの俺は、気がつくとゴブリン村の中央にポツンと佇んでいた。

 なんで俺は村に戻ってんだ?

 

 

《解、過去を模した疑似空間に閉じ込められた模様。現在解析中です》

 

 

 過去を模した亜空間? 

 異世界の異世界とか意味わからんし、キョウムもユメもいないし、困ったことになったぞ。

 そんなことを考えていると、見覚えのある二人の魔物が現れた。

 

 

「ゴブタ? ランガ? 大丈夫か?」

 

 

 俺は二人に呼びかけたがすぐに答えは返って来なかった。というよりこいつら大丈夫か?

 ゴブリンの肌色は緑なのだが目の前に立つゴブタの肌は紫色に変色しており、髪の色は金髪に変わっている。目には雷のマークがあって、俺を見る目は獲物を狙う狼のようだった。

 ランガの方もゴブタ程じゃないが姿が少し変わっていて、真っ黒の毛皮にところどころ白い線の模様が追加されている。それ以外は俺が知ってるランガと変わりなく、額に星のマーク、金色の瞳がある。まあ、目付きは少し凶暴になっている気がするけど……

 やがて二人は口を開いた。

 

 

「ゴブタ? 誰っすかそれ? つーか誰っすかこのスライム」

「知らぬ名だ」

 

 

 二人の言葉に俺は思わず驚いてしまった。二人の表情や言葉からは冗談の色が見えず、本当に俺の事を知らないようだった。俺割とそういう言葉は傷つくからそういう冗談やめて欲しいんだけど……

 

 

「はあ? なに言ってんだよお前たち」

「オイラは雷鬼族(ヴォルガ)。牙狼族の力を宿した、最強のゴブリンっす!」

「我は名もなき弦牙狼族(ギターウルフ)。親父殿を阻んだあの忌まわしき糸を糧に進化した、新たな牙狼族の長なり‼」

 

 

 念のために再度声を掛ける俺だったが、そんな俺の言葉を二人は無視して名乗りを挙げた。

 雷鬼族(ヴォルガ)? 弦牙狼族(ギターウルフ)? 何だその新種族? 俺が名付けした影響でゴブリン達は人鬼族(ホブゴブリン)やゴブリナに、牙狼族は嵐牙狼族(テンペストウルフ)となったはずだし、そんな聞き覚えのない種族になったなんて報告、俺はユメから受けてないぞ?

 

 

「おいおい本当に俺のこと分からないのか? 俺だよ俺、リムル」

「スライム如きがネームドとは片腹痛いわ」

「……ネームドってことはそれなりの力を持ってるっすよね、だったら……」

 

 

 俺の言葉に対して、ランガは鼻で笑い、ゴブタからは不穏な気配が漂う。

 ……本当にこいつら、ゴブタとランガじゃあないのか? 他人の空似にしては再現度が高すぎると思うんだけど……

 

 

「あんたの力ももらうぜ? スライム!」

 

 

 ゴブタが宣言すると同時に、『黒稲妻』が激しい音を立てながら俺めがけて襲ってきたので、俺はその場から飛び跳ねてその攻撃を回避した。

 

 

 って……黒稲妻?

 …………ゴブタが!?

 

 

『黒稲妻』はさっきの探索中、俺が牙狼族に擬態しようと思った時に、何の手違いかは分からないが黒嵐星族(テンペストスターウルフ)になった時に獲得したスキルだ。威力が高すぎるため、封印決定にしたスキルなのだが何でゴブタが使えてるんだ‼ そういえば牙狼族の力を宿したって言ってたな。あの言葉本当だったのか!

 

 

「こっちも忘れられては困るな!」

 

 

 黒稲妻の回避に専念していた俺にそんな声を投げられた。

 そちらの方に意識を向けて見ると、ランガの周りには多くの『鋼糸』が張り巡らされていた。さっきの発言からなんとなく分かっていたが、こっちは『鋼糸』を使えるのか。恐らく、『粘糸』も使えるのだろう。

 それにしても『鋼糸』を使って一体何を……?

 

 

「震えて眠れ! 振動砲(ハードロックカノン)‼」

 

 

 ランガが叫び、『鋼糸』が揺れたと思った次の瞬間。

 俺の体は突然吹き飛ばされるような感覚に陥る。

 

 

「ギャアアアアー、体が揺れる~」

 

 

 このままでは不味いと思い、洞窟内で溜めこんだ水をぶっ放して『水圧増進』を発動し、振動砲の範囲外まで逃げ込んだ。思いっきり墜落するような勢いで落下したが『痛覚無効』がある俺に痛みはない。それにしてもさっきのはどういう技なんだ?

 

 

《解、『鋼糸』の弦を高速振動させることで対象物にのみ指向性がある爆音を響かせる技のようです》

 

 

 そういや、防犯グッズにあったな。相手を傷つけることなく、音だけで相手を無力化するものが。これじゃあ『痛覚無効』も無意味に等しい……考えたな。

 

 ……しかし、俺の知っているあいつらがこんな殺意のある攻撃を仕掛けてくるか?

 

 

「待てよ、そいつはオイラの獲物だぜ」

「譲ってやる道理はないな」

 

 

 挙句の果てにはこんな事まで言う始末。

 まだあいつらとは日が浅いが俺の事を慕っているあいつらは絶対にこんな事は口にしない。そう思うと、仲間の姿をしながら、俺の命を狙ってきたこいつらにイライラしてきた。

 

 

「よくわからんが、ゴブタとランガじゃないってことなら」

 

 

 この際、何で目の前の奴らがゴブタやランガにそっくりなのかは気にしない。何処の誰かなんてこともどうでもいい。重要なのはこの世界から抜け出して元の世界に戻ること。

 

 

「本気でやっても大丈夫だよな。お前らを捕食してこの妙な世界から脱出してやる!」

「お! やる気になったか。いいぜどっからでも……」

「……」

 

 

 ヴォルガとギターウルフが戦闘態勢になった瞬間。

 

 

「逃げなさい、ヴォルガ、ギターウルフ。今のあなた達じゃあ勝てないわ。それどころか無駄に力を与えるだけよ」

 

 

 女性の声がこの世界に響いた。

『魔力感知』で探してもそれらしき人物はこの場にいない。

 

 

「……ッチ、仕方ないっすね」

 

 

 ヴォルガとギターウルフは渋々といった感じで俺の前から姿を消した。

 誰かがあの二人に命令してきたってことはあいつらよりもっとヤバい奴がいるってことか。これは……結構面倒な奴に目をつけられたかもしれないな。

 そう思いながら、俺は元の世界に返されたのであった……

 

 

 

  

 

 

「……あれ? 俺こんなところで何してたんだ?」

 

 

 気付いた時には俺は川の前でボーっとしていた。

 というか、俺マジでさっきまで何していたんだ? 確か自分のスキルを色々試していて……それが終わったからみんなの所に戻ろうとして……ダメだ、そこから先が思い出せない。

 なんか記憶に靄がかかった感じだな。起きて夢の内容を思い出せないあの感じに似ている。

 

 

「リムル様! こんなところにいたんすね」

「我が主よ、ご無事で何よりです」

 

 

 ゴブタとランガが俺に向かってそう言ってきた。その言葉には心の奥底から安心したような安堵の気持ちが込められていたと思う。なんだろう? 何故かは分からないが、この二人を見るとすごく安心した。いつも通りのはずなのに違和感がある。

 俺の無事を確認し終えた二人が戻った後も色々と考えてみたが、違和感の正体は分からなかった。そのまま頭を悩ませていると、空間に歪みが発生し、そこからスライム形態のキョウムが姿を現した。

 

 

「オレたちの方向で邪魔してきそうな魔物は全て始末した。後は突っ走るだけだぜ」

「サンキューキョウム」

 

 

 うん、休憩を取り始めてまだ二時間も経っていないはずなのに、すべて排除したって怖すぎだろ。

 その報告を受けた直後、上空からとんでもないスピードで人型のユメが落ちてきて、スタッと着地した。スカートの中身も少し見えてしまったが、それを言うと殺されそうなので黙っておこう。

 

 

「こっちはぜーんぜん魔物がいなくて退屈だった~」

「ちゃんと護衛してたんだろうな?」

「勿論だよ。リムルのすぐ近くはホブゴブリンやテンペストウルフのみんながいたから見てないけど、かなりの範囲を見渡しても魔物が数匹しかいなかった」

 

 

 戦い足りないみたいな顔をしているユメだったがまあまあと宥めておく。やがてユメの表情から不満っぽい感情はなくなった。

 

 

「二人ともありがとな。ただ、休息は大事だから今日はもう寝て明日に備えるぞ」

「ワタシ、寝る必要ないんだけど」

「オレも同じく」

「だったら俺の話し相手になってくれ。どうせ俺も寝れないからな」

「いいよ~」

「それくらいならお安い御用だ」

 

 

 ユメが嬉しそうに笑い、キョウムも賛同してくれた。

 多少違和感を残していたが、俺はその違和感を忘れ、夜通しキョウム達と語り合うのだった。

 

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 

 

「やっぱりゴブリンや牙狼族の変異種程度じゃあ、あのスライムには敵わないわね……。あのスライムを捕らえるためにも、次はもう少し強力な魔物を造ろうかしらね……」

 

 

 誰にも聞かれないのをいいことに、鏡の魔女イジスはブツブツと独り言をもらす。

 そして思考する。己の願いを叶えるために。

 

 

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 旅を始めて二日目の夜。以前ドワーフ王国に行ったことがあるらしいゴブタの言葉によると、既にドワーフ王国があるカナート大山脈が大きく見えるので明日には着きそう、とのこと。昨日の休憩時には山の姿は見えなかったので、改めて嵐牙狼族のスピードにはビックリだ。

 しかし、そんなに急いでドワーフ王国に到着する必要もないので、昨日と同様に野宿の準備を始めていた。ユメも人型になってその手伝いをしている。

 そんな時、薪を集めていたゴブタが俺にこんなことを尋ねてきた。

 

 

「そういえば、リムル様は魔人になることができるんすか?」

 

 

 何言ってんだこいつと思ったが、その疑問を投げかけてきた理由は分かった。

 ユメが今人型になっているので、俺も人型に変身できるんじゃないかと考えたのだろう。

 ゴブタの質問に周りのホブゴブリンや嵐牙狼族も興味津々に俺の返答を待っている。期待されているところ申し訳ないが……

 

 

「いや、俺は人型になることは出来ないんだ。俺も人型になりたいんだけどな」

「あ、そうなんすね。なんか申し訳ないっす」

 

 

 ゴブタは俺の答えに対して気まずそうにそう言った。

 正直に言うなら、俺は元人間だったので人間形態は喉から手が出る程欲しい。キョウムとユメが明確に羨ましいとさえ思ってしまうくらいだ。

 一応、『捕食者』で人間を喰えば恐らく人間形態になることは出来るだろうけど……流石に人殺しをするつもりはない。罪もない人間を私利私欲で殺したら、邪悪な魔物の仲間入りだろう。

 

 そんなことを考えていると、そういえばと思い、ジェスターの上で寝そべるキョウムに言う。

 

 

「キョウム、お前の人間形態を見たことがなかったから、良ければ見せてくれないか?」

 

 

 そう、ユメの人間形態は既に洞窟内やゴブリン村で何度も見たことがあるが、キョウムの変身後の姿を見たことはなかったのだ。本人はスライム形態の方が楽だと言っていたし、変身する理由がなかったから、人間形態にならずに過ごしていたのだろう。

 だが、折角の機会なので、キョウムの人間形態も見ておこうと思ったのだ。

 

 俺の言葉に周りのホブゴブリン達や嵐牙狼族(テンペストウルフ)の目に再び期待の色が浮かぶ。最も今回の対象は俺ではなくキョウムだが。

 

 

「別にいいぜ」

 

 

 キョウムはそれだけ言い、ジェスターから飛び降りると共に人型へと変化した。

 

 切れ長の目の中に浮かぶ、大海を彷彿とさせる深青(ブルーダイヤモンド)色の瞳。

 顔立ちはかなり整っており、ユメと同じような綺麗な紺碧色の髪は短く切り揃えられている。

 背丈もユメと同じく高校生くらいだが、身につけている装束によって高校生らしさは全くない。

 キョウムの衣装は一言で言ってしまえば軍服だった。紫色の星のマークが携えられた黄金の帽子を被り、青に染められている軍服をピシッと着こなしている。また、青色のケープコートを羽織っていた。

 左耳には二人が前に話していたリアクターが装着されており、異質な雰囲気を纏っていた。

 そして腰に二振りの剣が備えられていた。最もキョウムの場合は軍服なので、魔女っ娘の姿で帯剣しているユメと比べれば、全然違和感はない。

 

 初めて見るキョウムの人型の姿に、リグルやゴブタ等ホブゴブリン達は皆一様に目を丸くして、ランガ達も目を奪われていた。

 

 

「これが、キョウム様の魔人としての御姿……」

「うひゃー、すごいっすね」

「やっぱりユメ様と兄妹なだけあって、顔も似ていますね」

 

 

 そんな感想が周りのホブゴブリン達から次々と漏れる。

 その様子にユメは満足そうにうんうんと頷きながら、キョウムへと近づいて話しかける。

 

 

「それにしてもお兄ちゃんのその姿久しぶりに見たよ」

「久しぶりって言っても一ヶ月くらいじゃねーか。それに前に旅していた場所(世界)ではずっとこの状態で過ごしていただろうが」

「ワタシの中では久しぶりなの」

「はあ~。やっぱり、お前とは時間の感覚が全然違うからそこらへんは共感できないな」

「まあ、お兄ちゃんはワタシよりもかなり永く生きてるもんね!」

「お前も結構長生きじゃねえか。一般常識で言えばババアだぞ」

「ひどい! ワタシは若いよ! お兄ちゃんやお兄ちゃんが従えてる子が異常なだけだもん」

 

 

 ユメはキョウムの言葉にプンプンと怒りながらそっぽを向く。といってもユメは本気で怒っているわけではなく、恒例のじゃれあいといった感じだ。

 そんな中、ゴブタがユメへと問いかける。

 

 

「ユメ様とキョウム様って何歳くらいなんすか?」

 

 

 お前、殺されるぞ……

 確かに、気にならないのかと言われれば気になると答えるが、女性に年齢を尋ねるのはアウトだろう。それも遥か格上の相手に尋ねるなんて自殺行為と言っても過言ではない。

 案の定、ユメは質問をしたゴブタの方に笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。

 

 

「ねえゴブタ。ワタシは若いからいいけど、世の中には、知っちゃいけないことだってあるんだよ」

「は、はいっす」

 

 

 ユメの口調にただならぬ気配を察したのか、ゴブタは姿勢を正すと共に、カチコチとぎこちない動きでその場を後にしようとする。

 しかし、ゴブタがその場を去り終わる前に、キョウムが肩をすくめながら周りに聞こえるような声量でボソッと呟く。

 

 

「五百年以上生きてる癖に若いだなんて、相変わらずユメの冗談はセンスがねえな」

 

 

 そのキョウムの呟きは周りの者達を愕然とさせ、思考を停止させた。俺もその一人だ。

 というか、え? 五百年以上? それって長生きのレベルじゃない気がするんだが、それなのにユメは自分は若いって言ってたのか……永遠の十七歳とか言う女性も前世にいた気がするが、百年以上生きてて若いは無理があるぞ……

 ユメの方に意識を向けると、ゴブタに向けていた以上の満面の笑みでキョウムの方を向いていた。ただし、先程と同じく目は笑っていないし、なんならブチギレている気配も感じる。少し怖い。

 そして始まる兄妹間の口喧嘩(じゃれあい)

 

 

「ねえお兄ちゃん? もうちょっとさ、デリカシーってものを身に着けたら方がいいんじゃない?」

「いや、人間しかいない場所ならオレだって気を付けるが、ここではお前に対して配慮とかする必要ねえだろ。それにこれでも少しはオブラートに包んだつもりなんだぜ」

「全然オブラートに包めてないよ?! オブラートに包むならせめて百年くらいって言ってよ! そうすれば、ワタシ達の故郷では若い括りに入るから、ワタシもこんなに怒らないのに!」

「百年でも一般的には年寄りに入るぞ。それにお前、人間でも亜人でもねえのにこんなことで怒らなくていいだろ」

「ワタシはお兄ちゃん達とは価値観が全然違うんです~! これも何百年前から言ってる気がするけど!」

 

 

 これはどっちもどっちだな……

 俺の『大賢者』のように誰しもばらされたくない秘密は抱えているもんだから、それをただの価値観の違いで簡単に暴露されたら誰でも怒るだろう。だが、キョウムの言う通り、百年以上生きてて若いと言い張るのはちょっとヤバイだろう。

 そして長い口論の果てに、ユメの堪忍袋の緒が切れたのか、

 

 

「もうお兄ちゃんのことなんて知らない!」

 

 

 と、感情の赴くままに、ユメはキョウムに向かってそう言い放ち、キョウムから顔をそむける。

 そして、ズンズンと俺の方に近づいてきて(?)片手で俺の体をヒョイと持ち上げると(?)胸の前で思いっきり抱きしめて(?!)、ランガの上に寝っ転がった。心臓があったら間違いなく跳ね上がっているだろう。

 

 

「ちょ、ユメ?!」

「ユメ様?!」

「ごめんねリムル、ランガ。こうしてるとストレスが和らぐからしばらくこうさせて。後、リムルは夜通しワタシとお話しよ?」

 

 

 ユメは少し申し訳なさそうに、しかしこちらの事情はお構いなしでそう言った。

 その様子をキョウムは呆れたように眺めた後、ユメと同じような感じでジェスターの上に寝そべると、まだ起きているホブゴブリン達に声をかける。

 

 

「ほら、進化の影響で体力は上がっているだろうが、明日もあるんだからお前らもとっとと寝ろ」

 

 

 この口ぶりだと、キョウムは全く反省していないな。

 そんなことを考えながら、眠る必要のない俺は俺を抱きしめるユメと談笑するのだった。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 旅を開始しておよそ丸三日でドワーフの王国、武装国家ドワルゴンに到着した。

 二週間かかるところを丸三日とは驚きだな。

 

 武装国家ドワルゴンについては旅の途中にゴブタから聞いていた。

 リムルが探しているドワーフ以外にもエルフ等がいることや、武装国家と呼ばれるだけあってその武力はすさまじく千年無敗を貫いていること。魔物であっても差別することなく受け入れられるため、交易が盛んであること。他にも国内での争いは国王の名の下に禁止されているので、国の中に入ってしまえば安心ということも聞けたが、裏を返せばそれは国に入る前は危ないってことじゃね? というオレの予感は見事に的中した。

 入国するための長蛇の列に並ぶこと数分。

 

 

「おいおい! こんなところに魔物がいるぜ! まだ中じゃないし、ここなら殺してもいいんじゃね?」

 

 

 早速リムル達が絡まれていた。ついでに言うと、魔物の集団だと悪目立ちしてしまうというリムルの考えで、リグル達はすぐそばの森で留守番してもらっている。また、オレは昨日の夜にユメと喧嘩したので、リムル達の少し後ろに人型になって並んでいた。

 あんなのに絡まれるなんて可哀想に、とオレが他人事のように思っていると三人はひそひそ話を始めていた。

 

 

「ゴブタ君、前来た時もこんな感じに絡まれたのかね?」

「当然っす! ボコボコにされてコボルトの商人に拾われたっす」

「いるよね~こういうズルしようとするやつら~」

「おい雑魚三匹、こっちを無視してんじゃねーよ!」

 

 

 絡んできた冒険者風の男達は三人に罵声を浴びせた。この冒険者達、間違いなく死んだな。

 リムルは温厚だから多分大丈夫だと思うし、ゴブタも荒っぽい行動には出ないと思うが……ここには売られた喧嘩を必ず買うトラブルメーカーがいるからな。

 

 

「ふ~ん、雑魚ね~。そこまで言うなら君たちの力を見せてみなよ」

 

 

 売られた喧嘩を必ず買うトラブルメーカー……ユメが宙に浮かびながらそう言うと二人組互いに顔を見合わせて、やがて大笑いを始めた。周りの人達はスライムが空を飛んでることに驚いていたりしているが、冒険者達はノータッチらしい。いや、まずスライムが喋る時点で何かおかしいって思うはずなんだがな。

 

 

「スライムの分際で一丁前なこというじゃねーか!」

「こいつは傑作だぜ。野郎ども来やがれ! 全員でボコボコにしてやろうぜ」

 

 

 ユメをバカにするように二人組は言いながら、後ろに控えていた三人組を呼び一斉に攻撃してきた。リムルやゴブタはユメの近くに居るが結界で守られているため、影響はない。まあリムルならあんな人間達の攻撃なんて効かなそうだが。

 オレやドワルゴンに入国しようとしていた他の人達はユメ達と距離を空けてこの騒動の観客になっていた。

 

 先程冒険者達を挑発するように煽ったユメに、火炎球(ファイヤーボール)や『身体強化』の魔法を受けた戦士の斧での攻撃が浴びせられたが、一切ダメージになっていない。まあ、素の能力の差が天と地、いや、それ以上に離れているからな。一生懸命に攻撃しているのに全く微動だにしないユメに冒険者達は困惑している。

 

 

「いまなにかした?」

「ハッ! どうせやせ我慢だろ。スライムにしては耐え――」

「もういいや。ワタシを馬鹿にした分、圧倒的な実力差を感じて絶望してもらおうと思ってたけど、君たちのような下等な人間にそれを期待するのは無理そうだから、こうさせてもらうよ」

 

 

 あ、ヤバッ、と思った時には時すでに遅し。

 

 ユメは自分を中心に『威圧』を発動して強制的に冒険者達だけを気絶…………させるのならよかったのだが、その被害は冒険者だけにとどまらず、ギャラリーと化していた人達にも影響を及ぼしていた。あのバカ妹が……

 気絶をするのはまだいい方で発狂や恐慌、とにかくなにかしらの精神異常に陥ったりと症状は様々だがとにかく大惨事となった。石化みたいな死に直結しそうな状態異常がないのが唯一の救いだろう。手加減が下手くそなアホ妹が……

 そして、やってしまった張本人は、冒険者だけを気絶させるつもりだったようで、この事態に青ざめている(スライム形態だからあまり分からないけど)。リムルやゴブタからはどうすんだよ……みたいな視線を注がれている。オレも同様にアホの子を見るような目でユメを見ていた。

 

 その後ドワーフの警備隊がやってきてリムルとユメ、ついでにゴブタも連行されてしまった。助けて欲しい、みたいな雰囲気をユメから感じたが絶賛喧嘩中だし、百パーセントユメが悪いので華麗にスルーする。まあ、何かあってもユメがいるので、最悪の場合、この国の者を皆殺しにしてでもリムルを守ってくれるだろう。

 なので、オレは何も心配せずに三人の背中を見送ったのだった。

 

 

 

 

 周囲の者達が阿鼻叫喚の地獄絵図となったが、オレにはどうでもいいことだ。

 そして当然、オレは連行されてないし、『威圧』の影響も全くないので活動する上で何の問題もない。

 牢獄にぶち込まれるだろう三人の代わりに、ドワルゴンを自由に観光するとしようか!

 

 

 





 なんだかんだで一番観光に乗り気だった男。

 ヴァジュラって書籍版18巻である人物の武器の名前になっているんですよね。
 ですので少しだけ変えさせてもらいました。
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