改造スライムと転生スライム   作:黒井政人

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 月に一回投稿できればいいかなくらいの気持ちになっている今日この頃。
 失踪するつもりはありません。



王の懸念

 

 リムルがカイジンに恩を売って三日が経ち、なんでこんなことに……という考えが頭に浮かぶ。

 

 今、ワタシが居るのはこの国の王宮で、そこでは裁判が開廷されていた。

 眼の前に広がる景色にはドワーフ軍の精鋭に取り囲まれているリムルやカイジン達。リムルから見て右側に弁護士がおり、もう一方には検察官のような役目を担っている文官と、至る所に包帯や湿布を貼っているベスターという大臣が居た。ついでに後方には今回の裁判と無関係な者達が興味本位で見に来ている。その人達の様子を見てみれば、この国では滅多に裁判が起きないことが一目瞭然だった。

 

 そして、リムルから見て正面少し上、玉座に座しているのが武装国家ドワルゴンの国家元首、ガゼル・ドワルゴ。この男はワタシから見てもそこそこの強者で、実際のところ、ワタシが殺してきた下手な魔王よりも格段に強いだろう。残念ながら、リムルでも勝てそうにない……

 

 それにしてもリムルときたら、運が良いのか悪いのか分からないね。

 折角カイジンに協力を取り付けることができたのに、この裁判の判決次第じゃあ無事に戻ることさえ出来なくなっちゃう。しかも今リムルを擁護する側の弁護士に裏切られてる……

 

 一応手は打ってあるし、最悪の場合はこの国の民全員を皆殺しにすれば解決だけど、ワタシに出来ることは少ないから、大人しく裁判の結果を見届けよう。

 

 そんな感じで裁判を見守っているワタシは、突然右肩をガシッと掴まれた。

 

 人間からすれば一種の恐怖体験かもしれないけど、ワタシは元からどんな事態にもあまり動じることはないので、今回も特に驚いてはいない。

 ただ、その肩を掴んだ相手から凄く疑いの眼差しを向けられていることは少し不本意だけど。

 

 

「おい、ユメ」

「あれ? お兄ちゃんも来たんだ?」

「ああ、野暮用が済んだからな」

 

 

 ワタシの肩を掴み、声をかけてきたのは人型のお兄ちゃんだ。相変わらず隠密行動がうまいね。

 それにしても、この三日間お兄ちゃんがコソコソ何かしているのは知っていたけど、野暮用って一体なんだろう? 後で聞いてみよう。

 

 

「それで? オレが居ない三日間に、何があってどうしてこんな事になってんだ?」

 

 

 肩に乗せられた手に力が加わり、説明しろ、と言わんばかりの圧をお兄ちゃんからひしひしと感じる。間違いなく妹相手にする行動じゃないと思う。

 だけど、そんな圧と行動にも慣れっこなので、ガゼル王への視線を外すことなく、お兄ちゃんの手を片手で払いのける。それから特に怯えることもなく口を開く。

 

 

「なんか、リムル達が打ち上げに行った店にあのベスターっていう侯爵が乱入してきて、リムル達に罵詈雑言を浴びせたみたいでね。それでその行動にカイジンが怒って、あのベスターを殴ったみたいだよ?」

 

 

 あの時のことを思い出す。

 魔鋼の長剣(ロングソード)二十本の納入を済ませてきたカイジンが、リムルに感謝の言葉を述べた後、飲みに誘っていた。リムルは最初こそ「味覚がないから」と言って断っていたけど……

 

 

「綺麗なお姉ちゃんがたくさん居るぜ!」

「そうそう、若い子から熟女まで!」

「…………」

 

 

 ……ドワーフ三兄弟の言葉を聞いてすぐに手のひら返しをしていた。

 ゴブタも行く気満々だったけどお前にはまだ早いとリムルが言って、『粘糸』でグルグル巻きになっていた。牢屋にいた時も殆ど寝ていたので、罰としてはちょうどいいのかもしれない、とその時は密かに思った。そういえばまだ助けてないけど……まあ大丈夫かな。ゴブタだし。

 

 ちなみにワタシ達はリムルよりも先にその提案を辞退していた。ワタシ達はなにもしていないし、何よりワタシ自身この国でやりたいことがあったからね。

 そういう訳でそこからはリムル達やお兄ちゃんとも別行動を取っていた。といっても、この国の文化レベルには興味が湧いてこないので、この三日間で行った場所はギルドといろんな物が売られている雑貨屋くらいだけど。

 

 そんな感じで好きに行動していたんだけど……流石に三日経ってもリムル達から連絡がなかったから、不思議に思って探してみたらこんな事になっていたという経緯だ。

 

 

「なるほど、またお前がなにかやらかしたのかと思ったが、どうやら違うみたいだな」

「あのさあ、ワタシを疫病神がなにかだと勘違いしてない?」

「実際そうだろ」

「ひどい!」

 

 

 ほんと、お兄ちゃんはワタシに対して遠慮がない。

 まあ確かに? 売られた喧嘩は必ず買うし、ちょこっと調節をミスって被害を拡大させちゃう時もあるけど、それはそれ。決してワタシが問題を呼び寄せている訳ではないのだ。

 

 こんな風にお兄ちゃんと談笑していたけれど……王が口を開いたので、ワタシ達も口を閉じた。

 さてさて……ここからどんな展開になるかな。ワクワクしてきた。

 

 

「……カイジンよ」

 

 

 王の言葉によってこの空間が静寂に包まれた。

 あの王様が何かした訳ではない。ただ、その言葉に他者を圧倒せんばかりの重さがあるだけの、純粋なもの。王の圧倒的なカリスマ性によるものだ。

 

 

「久しいな、息災か?」

「……は、王におかれましてもご健勝そうで何よりでございます」

 

 

 王の言葉にカイジンは恐縮しながらも奏上する。

 その返答に王は満足そうに頷き、続けて「こちらに戻る気はあるか?」と問いかける。

 本来であればここでその提案を断る者はいない。しかしながら、カイジンは臆することなく意見を述べた。

 

 

「恐れながら王よ、私は既に主を得ました。王の命令であれど、主を裏切ることは出来ません」

 

 

 カイジンのその言葉に、周りにいた兵士や貴族は憤りを感じたようだが、王の許しなしで口を開くことはできない。

 そして、王はカイジンの決意を聞き、短いため息をつくと共に判決を下す。

 

 

「カイジン及びその仲間は国外追放とする。今宵日付が変わって以後、この国に滞在する事を許さん。以上だ。余の前より消えるがいい」

 

 

 その言葉を皮切りにリムル達はそそくさとこの場を後にした。

 ……妥協点かな。流石に無罪にはならなかったけど、本来の目的は達成することはできたし、ワタシたちがやりたいことも終わったからね。あの王様には敬意を表するとしよう。

 

 

「終わったようだな。帰るぞユメ」

「そうだね~」

 

 

 …………本当に、この国の者を皆殺しにせずに済んでよかった。さすがだね、王様。

 

  

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 危 な か っ た !

 この世界に来て、初めてといっても過言じゃないほどの危機感を脱した俺は、カイジンの店に戻るなり、すぐさまぐったりと溶ける。

 

 俺達を弁護するはずだった――いやまあ裁判が始まる前から怪しいなとは思っていたんだけど――弁護人の裏切りがあったが、あの場では伯爵以上の貴族でなければ、自由に発言することが出来なかったため、俺達には弁明の余地もなかったのだ。

 

 唯一救いだったのは、あの王様が読心系スキルの所持者だったことだろう。俺がそれに気付いたのは本当に偶然だったのだが……

 

 

《告、個体名:ガゼル・ドワルゴによる『思考読破』への抵抗(レジスト)……成功しました》

 

 

 ついこの前、読心系のスキルに対しては妨害するように『大賢者』に命令していたからこそ、王のスキルに気づけたのだ。まあ、過ぎたことだから気にしなくていいか。

 

 ところで、蓑虫にしていたはずのゴブタが、『粘糸』から脱出していたことにはすごく驚いた。すぐ近くに嵐牙狼族(テンペストウルフ)がいたので召喚に成功したのだろう。だが今のところホブゴブリン達は誰一人として召喚に成功していないはずなのだが……こいつひょっとして天才か? とも思ったがゴブタに限ってそれはないはずだ。

 

 カイジン達は嵐牙狼族(テンペストウルフ)を見てすごく驚いていたが「ただのペットだぞ」と言ったら絶句された。何故そこまで驚くのだろうか。キョウムが召喚する奴らに比べれば、ただの大きなワンコにしか見えないのに。

 

 

 そして旅支度を済ませてさっさと国外に出ると、待ってましたと言わんばかりにランガが突撃してきて、俺へと頬をスリスリしてくる。こういうところがペットっぽいんだよな。

 

 

「お疲れ様」

「大変だったみたいだね~」

 

 

 人型のキョウムとスライム形態のユメが俺に労いの言葉をかけてきたので、それに応じる。

 そう言えば、こいつらは夜の店に行くのを提案された時に、ドワルゴンでやりたいことがあるから却下と言った感じで断っていたが、それは終わったのだろうか?

 俺がそう考えたのを察したのか、二人はまるで報告するかのような口調で言葉を発する。

 

 

「この国の中にあった様々な蔵書から、かなりの量の興味深い情報や魔法を収集することが出来た。目的も達成できそうだしオレは満足したぜ」

「ワタシも、ギルドの方で冒険者登録なんかも出来たし、色々面白い物が見れたから満足したよ~」

「そうか。楽しい旅になったみたいで何よりだ」

「リムルもそれなりに満足できたんじゃない?」

「まあ……そうだな」

 

 

 俺も、ユメが問題を起こしたせいで牢獄にぶち込まれたり裁判に掛けられたりもしたけど、当初の狙いだった技術者達……カイジン達を連れて帰ることが出来そうだし、夜の店に行くことが出来たので、かなり充実した旅だったように感じる。運命の人など、気になる事も出来たけど……それは追々分かることだ。

 

 その後、カイジンとドワーフ三兄弟の長男であるガルムを黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)に擬態した俺の背中に乗せ、次男のドルドと三男のミルドをランガに乗せて俺たちは出発するのであった。

ちなみに、カイジン達はランガ達や擬態した俺の姿を見るなり気絶した。そして、そんなドワーフ達とは対照的に、ランガやユメは俺の擬態した姿に感動したのか、楽しそうに俺に話しかける。

 

 

「素晴らしい! 流石は我が主!!」

「いや~やっぱりすごいねリムルって」

「ふはは! そうだろうとも。ランガもこの姿に進化出来るように、励めよ!」

「はは! その期待に応えて見せましょう!」

 

 

 そんな会話を繰り広げながら、村に向かうのであった。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 王は冷や汗が流れるような気持ちを味わいながら、それを表に出すことなく裁判を終わらせ、ホッと胸をなでおろす。その後、目の前にいるベスターにも王宮への立ち入り禁止の刑を下し、自身の執務室に戻るとドカッと椅子に身を預ける。

 

 誰もいない事を確認すると、深々とため息をつき、頭を抱える。

 その様は普段の彼を知っている者からすれば有り得ないことだが、今回ばかりは仕方ない。何故なら、裁判中に終始感じていた圧倒的な死の気配から解放されたのだから。

 

 

(あれは一体なんだ? 魔王に匹敵しうる存在感。この俺でさえ恐怖を禁じえぬというのに、他の者共は一切気づいていない様子であった。あれは一種の化け物だ)

 

 

 ガゼル・ドワルゴはユニークスキル『独裁者(ウエニタツモノ)』を獲得している。

 その権能を用いれば他者の思考を読み解ける上、相手の実力も読み解けるのだが……今回はそれが仇となった。

 

 ガゼルは裁判が始まってすぐに、眼下にいる者達に『思考読破』を施した。相手の考えを読み解ける力は、裁判においてはこの上なく有用であるからだ。

 裁判にかけられていたスライムには『思考読破』が通用せず、それについては、脅かされたが別に問題はなかった。他の者の思考は視えたので、既に真実を把握していたため、カイジンの返答次第で判決を決めるつもりだったからだ。

 

 

 だが、そんなガゼルの余裕は長く続かない。

 

 

 何故なら、直後に感じた『威圧』によって、ガゼルは心臓を鷲掴みにされるような、そんな感覚に陥ったからだ。その感覚に驚愕しながらも感情を外に出さず、堂々と威圧を感じた方向に視線のみを動かしてみると…………そこには魔女が居た。

 

 水色の髪を肩の辺りまで伸ばし、明るい表情を浮かべて、腰辺りに手を置いたユメの姿。

 一見ただの人間にしか見えないが、ガゼルの目は誤魔化せない。ガゼルの目には、それが魔王をも凌駕する存在に見えたのだ。

 明るい表情の中に浮かんでいる笑みは、戦闘の欲求の現れ。

 少女のような綺麗な瞳は冷たくガゼルの事を見据えていた。

 加えて、ローブによって見えづらいのだが、腰には剣が携えられており、その剣から感じる力も不気味なものであった。

 

 何だあれは……と思いながら、恐る恐る『思考読破』を発動するもノイズが発生しているかのような、途切れ途切れの情報しか視ることが出来なかった。そして、その断片的な情報でさえもガゼルを戦慄させることになる。

 

 

 ――ガゼル・ドワルゴ…………リムルでも勝てそう………けど……まあ、最…の場合……ワタシ…………皆殺しに……解決だよね。だって、問題……がなく……だから。

 

 

 ガゼルは強い。

 英雄王と呼ばれる実力は伊達ではなく、相手がただの上位魔人程度の実力ならば間違いなく勝てるし、現存する魔王の何名かには勝利を収められるだろう。

 

 そんなガゼルを前にして、このような事を考えるなど有り得ない。

 だが、ガゼルはそれを相手の慢心だとは思わなかったし、思えなかった。

 何故なら、ガゼルが権能を使い、ユメの力を図ろうとしてみても底が一切見えなかったからだ。それも、権能によって抵抗(レジスト)をされた訳でもなく。

 自身のユニークスキルで相手の実力が分からないということは、相手の実力が自身を超えているという証明。あの存在が善か悪か。それを把握しなければならない。

 

 

「暗部よ、あのスライム達の動向を監視しろ。……命を落とすことは許さん」

「は!」

 

 

 密かに呼び出した暗部を前に。王はそう告げる。

 あの化け物を相手では、暗部でさえも危ういかもしない……そう考え、ガゼルは死ぬなと命じたのだ。そしてその王の御言葉により最大限の備えで臨む事を暗部は決意する。

 

 

 これからの情勢は、慎重に見極めなければ破滅するのは自分達だ……王はそう考え、この後の展開に向けて思案に耽るのだった。

 

 





 今年最後の投稿。来年もよろしくお願いします。
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