ヴェルドラの話し方これで合ってるかな・・・少し不安。
『聞こえるか小さきものどもよ』
この世界で思念と呼称するかは分からないけど、思念が聞こえてきた。
その声に釣られて見上げると、そこには黒曜石のような色の巨大なドラゴンがいた。
ワタシは興奮した。今まで様々な世界を旅してきたけれど、ワタシ達の格上と呼べる存在には出会ったことがなかったから。マスターの御友人であらせられる、魔界神様を除いて。
だから、ワタシ達を上回っているであろう存在に出会えたことに感動した。
恐らくさっき葬ったネメシスの数百……いや、数千倍は強いだろう。
『聞こえるよ。名前は?』
ワタシも同じように思念を放ち返答した。
戦ってみたい気持ちはあるものの、目の前のドラゴンは何らかの能力で封印されていて戦う事は出来そうになかった。その点は残念だけど、漏れ出ている魔素だけで弱い魔物は死にそうだから、本当に面白い!
だからこそ、まずは名前から聞いておこうと思ったのだ。
『我は暴風竜ヴェルドラ、この世に四体のみ存在する竜種が一体である』
答えてくれたら嬉しいな、とは思っていたけど律儀に自己紹介してくれた。ちゃんとコミュニケーションは出来るみたいだね。
それにしても、これほど強そうな存在があと三匹居るのか。どうやらこの世界はワタシ達を楽しませてくれそうだね。前回の世界では退屈だったし、今回は文句なしの大当たりだと思う。
ワタシ達の目的も達成出来ればいいけど……
『ご丁寧にどうも。オレはキョウム、こっちはユメ、よろしくなヴェルドラ』
『ほう、スライムが
先に話しかけたのはワタシなのにお兄ちゃんが勝手に紹介する。出番が取られたようで悔しい。
それはそれとして、
でも思い込みは危険だから念のために聞いておこう。
『ヴェルドラさん、聞きたいことがあるんだけどいい?』
『うむ、何でも聞くがよいぞ』
『さっき言っていた
『ほう、そのことか。よかろう! 寛大な心を持つ我が教えてやろうではないか! それと我のことはヴェルドラと呼ぶがいい』
『分かった! ありがと、ヴェルドラ!』
このドラゴン、威厳たっぷりの見た目と膨大な魔素量に反して意外と可愛いかも。
さっき葬った
それに比べてヴェルドラは、恐らくワタシの数倍のマ素量を誇っているにも関わらず、ワタシ達と対等に会話しようとしてくれている。
ワタシはそれが純粋に嬉しかった。
世の中の生物みんながこんな感じならワタシもイライラしないのに。
話を戻そうか。
ヴェルドラ曰く、この世界の魔物達も基本的に名前を持たず、意思疎通に関してもワタシ達の世界と同じく、魂や魔力の波形で個体識別ができるのでたいして困らないみたい。
そして名付けという行為が信頼できる配下に名付け主の力を分け、魂の繋がりを作る事。
ネームドというのはこの名付けを受け入れた者達のことを言うらしい。
ワタシ達の世界のシステムとは似て非なるような感じだね。
まあここまで聞いておいてなんだけど、名付けという行為自体、何故かマスターから止められているのでこっちの世界でもやるつもりはない。ごめんねヴェルドラ。
『ありがとなヴェルドラ。出来ればもっといろいろと教えてくれるか?』
『クアーハッハッハ。構わんぞキョウムよ。我も三百年ここに封印されておって暇を持て余していたのだ。我が答えられる事なら何でも聞くがよいぞ!』
お兄ちゃんの言葉にヴェルドラはとても嬉しそうだった。よっぽど寂しかったんだろうね。
ということでここからは質問タイム。
まずこの世界の概要について。
この世界にはマ素があって魔法も存在する。マ素があるなら、魔物も自然発生するのかなと思って聞いてみたら、ビンゴだった。本能のままに暴れる者もいれば、高い知能があって強大な力を持つ人型の魔物が魔人と呼ばれたりなど多種多様なんだって。
魔人と呼ばれる存在はワタシ達の世界にはいない。永い進化の歴史の中で人型になろうと考えた魔物がいなかったのだろう。だから、ワタシ達の世界で魔物と言えば、異形の者を指していた。
といっても、ワタシ達が魔人と会ったことがないという訳ではない。他の世界では魔人と呼ばれる存在と知り合いになったり、マスターの配下としてスカウトしたこともあったので、出来るだけ会ってみたい気持ちはある。と言っても身の程知らずは御免だけど。
そして魔人の中でも他者とは一線を画す強者は魔王を名乗ったりすることもあって、魔王と対になる勇者とかもいるらしい。そのため、この世界では魔王が何人もいるらしい。
魔王か~。さっき葬った奴みたいな弱者だったら嫌だけど、魔王もピンキリなのだと思いたい。
実際、魔界を統べている元大魔王の魔界神様はとんでもない実力者だからね。あの方とネメシスが戦ったらネメシスが瞬殺されるだろうし、
『ねえ、ヴェルドラ。今は魔王って何人いるの?』
『我は小物には興味がない故、正確な人数は把握しておらんな。だが、二千年前、戯れに
ヴェルドラは平然とそう答えた。何やらかしてるんだろう、このドラゴン。
戯れって……その女王が今の発言を聞いたら、ヴェルドラ殺されるんじゃない? いや、こんな強そうなドラゴンが殺されるなんて想像できないから、杞憂かな。
まあでも『我の遊び相手になれる程度には強かった』と言っているので弱くはなさそうなので、強さと言う点では安心だね。
『強い魔王はいるのか?』
『ふむ、それならば
ヴェルドラは少しだけ考える素振りをして答えた。
これほど膨大なマ素量を誇るヴェルドラと喧嘩出来るって時点でかなり強そうだね。
続いて他の魔王達について聞いてみると。
『他の魔王は我は面識がないが、北方に居を構えておる
ふむふむ、今がどうなのかは分からないけど、少なくとも六名の魔王がいるんだ。
特にヴェルドラの姪か甥かは分からないけど、その人はヴェルドラと同じくらい強そうだから会ってみたいな。
魔王の話はここまでにして次はこの世界の生物たちについて。
まず初めに人間がたくさん居て、様々な国や村があるらしいが、ぶっちゃけワタシは人間に関しては興味がない。どんな世界においても人間は基本的に弱いから、国といった集団のことはどうでもいいのだ。恐らく、お兄ちゃんも似たようなものだろう。マスターの為にも情報だけは集めると思うけど。
けれど、勇者や英雄と呼ばれるような実力者にはそんな目で見ることはない。ワタシ達は強い人と高潔な魂を持つ者にはちゃんと敬意を払うのだ。
人類と敵対している魔物の総称を魔族という。これは別世界でも同じだね。ワタシ達の世界が特別なだけであって、本来人間と魔物は敵対するような関係なんだよね。
ただし、この世界では人間に近しい魔物は亜人と呼ばれ、人間達と共存しているとのこと。それならばそういった亜人を魔物と一括りに考えておくのはやめておこう。
魔物の強さについても聞いてみた。
この世界では魔物は“危険度”によって
それでいてAランクの最上位に位置するような者達が特A級と認定され、
だけど、Aランク以下は正直どうでも良かった。弱いからね。
ワタシ達が気になっているのは……Sランク相当の強者達だ。
この世界でのSランクは魔王と呼ばれる者達で
ちなみに特A級を超越していて魔王を名乗っていない者達はどうなるのか聞いてみると……
『ふむ、その者がどれ程の実力者であろうと特A級に区分されるであろうさ』
という答えが帰ってきた。
え? アバウトすぎじゃない? それだったらワタシ達も特A級ってことになるじゃん。
この世界での魔王の実力は知らないけど、ネメシスの実力やヴェルドラの話の内容から考えても、絶対に劣っていない自信がある。自意識過剰じゃないよ? 本当だよ?
けどまあ、この世界に来てまだ一日も経っていないから、勝手に推し量るのはやめておこう。ということでこの話はお終い……かと思ったのだけど。
『クックック、実はな、
…………え? 本当? 魔王を指すのがSランクなのに更に上位の存在がいるの? 神様かな?
というか、ヴェルドラが凄い自慢したくて仕方ない、みたいな感じだけど、もしかして……
『そう、それこそが
ヴェルドラは高笑いをしながらワタシ達に自慢をするかのようにそう言った。
あれ? でもそれだと気になることが…………
『……それじゃあヴェルドラがこの世の頂点のランクに該当されているとして、それだったら何で封印されているんだ?』
そう! それだよ! ワタシが気になっていたのは!!
ヴェルドラは封印された状態なので『解析鑑定』は通じず、本当の実力は計り知れないが、これほど膨大なマ素を持つ奴を封印するなんてワタシ達には到底できない。できたとしても数秒かな。
常に高みを目指しているけど、もしもそんな存在がたくさんいるのならワタシ達が強くなることも本気で検討しないといけないからね。と言っても魔王を超えるのが
お兄ちゃんの質問に、ヴェルドラはハッキリとこう答えた。
『三百年程前に勇者に封印されてしまったのだよ。勇者は強かったぞ。見た目は可憐な少女といった感じだったが、ユニークスキル『絶対切断』と『無限牢獄』を駆使して我を封印せしめたのだ』
………………
思わず絶句しちゃったよね。
え? この世界の勇者ってそんなに強いの? いやまあ勇者もピンキリかもしれないけど、凄すぎない? 出来る事なら一度その人に会ってみたいと密かに思う。
あ~けど勇者である以上人間でもある。魔法が存在しているから絶対ではないものの、寿命は尽きちゃっているかもな~。それでも、もし生きているならば戦ってみたい。
魔物の強さについては理解した。そしてこの世界の実情も理解した。
この世界は弱肉強食であること。魔王や勇者がいて思った以上戦闘の質が高そうなこと。
ついでに異世界から人が召喚されたり迷い込んだりすることもあるそうだ。
そのことについてはふーんとしか感じないけど、異世界人達は界渡りをする上で、強力なユニークスキルを発現することがあるらしい。もし異世界人と会う機会があったら探ってみようかな。
ある程度この世界の話を聞き終えたら、ヴェルドラはワタシ達にこんな事を尋ねてきた。
『ところで、お前達は本当にスライムなのか?』
『どうしたの急に? どっからどう見てもスライムにしか見えないでしょ』
『いや、我の知っているスライムの姿とはかなり異なっておるぞ。少なくとも、スライムに目や口などついていない』
『……』
先に言ってほしかった情報だよね、それ。
どうやら、この世界のスライムは全然違う姿をしているみたいだ。世界を渡る上で、たまにそういうことがあるから困る。
といっても、今の所目撃者はヴェルドラしかいないからそこまで問題じゃないけど。スライムの姿なんて、後からいくらでも変えられるし。
流石のヴェルドラでも、ワタシ達が別世界の魔物だということには気づかな――
『それと、気になっておったのだが、お前達が纏っている魔素はかなり異様であるな。触れるだけで環境や周りの者の精神に及ぼすような、そんな気配を感じるぞ』
あれ? ヴェルドラってもしかしてかなり察しが良かったりする? 君のような察しのいいドラゴンは嫌いだね。
まあそんな冗談は置いといて、ヴェルドラの言葉は事実だからこそ、反応に困った。
ワタシ達のマ素はブレイクワールドの性質上、様々な『汚染』の効果が備わっている。そのため、ブレイクワールドで自然発生する魔物達は、マスターの配下になってマ素を御しきれるようにならなければ、自然死してしまうのだ。
ワタシ達のマ素のコントロール技術は完璧だけど、ブレイクワールドでマスター配下の魔物とたくさん戦って、次元の狭間で大量のマ素を浴びたままだったのだ。
今更過去を悔やんでも仕方ないから、現実のことに目を向けるけど、どうしようかな……ワタシ達が他の世界から来たことはあまり知られたくないんだよね。
この難局をどう突破しようかな……
『ついでに、本来スライムは思考も行わぬような低位のモンスターなのだ。そんなスライムが我の濃密な魔素を意に介さず、我と当たり前のように会話し、その上、名前まで持っているのだから、お前達がスライムか疑うのは当然であろう?』
ヴェルドラの言葉は全て図星だった。かなり
いろんな別世界を旅していたけど、基本的にスライムは最弱の存在だった。まして、思考するスライムなんて、ワタシ達の居た世界以外ではほとんど見たことがなかった。きっとこの世界でも同じだと思う。
だからこそ、ヴェルドラが疑問に思ってしまうのも当然のことだと理解してしまった。
こんなことなら、人型になっておくべきだったかな……マ素濃度は滅茶苦茶高かったけど『無限牢獄』のせいで生命反応は感じなかったから、人型になる必要ないと思ってたんだよね……
ワタシがそう考えていた時、お兄ちゃんから声がかかった。
『ユメ、覚悟を決めろ』
『お兄ちゃん? もしかして話すつもり?』
『お前の気持ちは分からなくはないが、ここまで言われたら流石に明かした方がいいだろ。ヴェルドラにはこの世界のことを教えてくれた恩があるんだし。それにヴェルドラはあまり気にしないと思うぞ?』
『……そうだね』
ワタシはお兄ちゃんの言葉に渋々納得した。
『ヴェルドラ、実はオレ達はな……』
お兄ちゃんはそう言って、目的等は伏せて、ワタシ達が別世界の魔物であることを明かした。
別世界の魔物であることは基本的に隠しておきたかった。
知られたらどんな反応をされるか分からないから。生きとし生ける生物は自分達が理解できない者を遠ざけようとする性質があるから。気味悪がられたりされたら嫌だったから。
お兄ちゃんや他の魔物達はあんまり気にしないみたいだけど、ワタシは他の魔物よりも喜怒哀楽が激しいので、そういうのに敏感になってしまうのだ。
……だから、ヴェルドラの反応には思いっきり肩透かしを食らってしまった。
『かなり異質な存在だとは思っていたが、まさか別世界の魔物だとは思わなかったぞ! クアーッハッハッハ!!』
ヴェルドラのその言葉と笑い声を聞いた瞬間、張り詰めていた力が抜けた気がした。
『あの、ヴェルドラ? ワタシ達が別世界の魔物っていう点は、そんなに驚かないの?』
『驚きはしたが、それよりも好奇心の方が勝ってしまうな。それに我にとってはお前達がどのような存在であろうと、たいして気にならんのだ。クアーッハッハッハ!!』
『良かったな、ユメ。オレの言った通りだっただろ』
『うん!』
『この際だ。我がこの世界のことを話したのだから、お前達の世界の話をするがよい』
『いいぜ。たいして面白い話はないけどな』
お兄ちゃんはそう言って、ワタシ達の世界のことを語り始める傍らで、ワタシはこう思った。
この世界に来てまだ一日も経っていないけど、ワタシ達の理解者が出来て良かったな。
魔物のランク分けってかなり最近定められたはずだけど、ヴェルドラって『無限牢獄』の中からでも外の情報を集められましたよね。