『底辺V-tuber』と『よく訓練されたリスナー達』VS『ステータスを持ち帰れるVRMMO』(再投稿) 作:不知火勇翔
流石に二人とも疲れていたため戦闘訓練はスキップし、ようやく僕と不知火リオンさん(年上だった)はチュートリアルを『ガチャ』まで進めることとなった。
ここでガチャを回せばチュートリアルは終わるらしいのだが、これだけ働いたのだから何か良い物が出てきて欲しい。
コメント欄
〈ほんそれ〉
〈まー強制チュートリアルじゃなかったらサヤは一生チュートリアルをやらなかっただろうが〉
〈それはある〉
〈始まった瞬間装備ナシで街から飛び出す男だもんな〉
〈解釈一致〉
〈なまじ何でもソツなくこなすからボス攻略も何とかなったりするんだよなー〉
〈んで俺らが実践してもできないというね〉
〈才能なんだろうな〉
『始まりの街』の外れにあるガチャ台は全体的に青色のカラーリングをしており、古き良き『コインを入れたらカプセルに入った景品が下の穴(エッチな意味ではない)から出てくるタイプ』のガチャである。妖怪○○ッチのガチャをイメージしてくれたら分かりやすいかもしれない。
そんな感じのガチャ台が横一列に20台並んでいるガチャスペースにやって来た僕は、チュートリアルで手に入れたコインをガチャ台の上の口にねじ込んだ。
するとコインがガチャ台の中へと入っていき、落ちたのを音で確認してから僕は中央にある摘まみを回した。
ガラガラガラという音とともに中のカプセルが動き、やがて下の口からカプセルが1つ出てきた。
「さて、何が出てくるのやら」
カプセルを両手で掴み、捻って開けると。
中から猛烈な光が溢れ出し、僕は思わずカプセルをガチャ台に向かって放り投げた。
また光かよ・・・。
コメント欄
〈ふぁあああああああああああ!?!?〉
〈!?!?〉
〈どうした名誉ニキ達!〉
〈金色に光ってんぞ〉
〈確定演出か?〉
〈来るぞ遊馬!〉
〈カットビングだあ!俺!〉
〈Legend rareだ〉
〈チュートリアルで出ていい代物じゃねーだろコレ(ドン引き)〉
光が収まっていくと、光の中から細い剣が姿を現した。
刀身が青白く光っており、ツカは不思議な(不気味な?)青白い宝石が多分に装飾されており、剣と同時に光から現れた鞘にもまた過分なくらいの青白い宝石が散りばめられていた。
なんとなく僕の今のアバターと同じ色調だなと思ったが、それよりもまず無駄に豪勢な演出の後に出てきたのが木の枝のように細い剣が一本だけということに僕は悪態は吐きそうになった。バスターソードじゃないのかい?ならいらないね!帰った帰った!
「・・・メル○リで売ったらいくらするんだろうね」
コメント欄
〈よし、売ろう〉
〈待て待て待てw〉
〈レジェンド武器ってゲーム内に一本しかないんだぞ?〉
〈サヤには不要だろ。サヤは骨とかでモンスターと殴り合いをして欲しい〉
〈分かる〉
〈レジェンド武器を知らない勢にはこの異常事態がどれくらいのことか伝わらないのかもな〉
〈切り抜けば10万は固いな〉
〈誰か切り抜け。今すぐに〉
〈神引きなんてレベルじゃない。何十万課金した配信者達でさえ誰も手に入れられなかったやつだからな?〉
〈これってハッカーの仕業じゃねーの?〉
〈あーなるね〉
〈それマ?もしかして垢BANとかされる?〉
〈知らね。まーBANされても俺はついて行くけどな!〉
〈俺も〉
ゆっくりと手元まで落ちてきて、すんなりと手に収まった棒きれにかける言葉を探していると、隣でガチャを回していた不知火リオンさんからも強烈な光が発せられた。
流石に三度目は慣れたもので、すぐに目を背けて光が収まるまで待ち、光が収まってから視線を不知火リオンさんの方へとやると、彼女の手元には二振りの豪奢な『赤い短剣』が収まっていた。
モチーフ武器というか、僕のためだけに作られたような『この棒きれ』もそうだが、不知火リオンさんをイメージして作ったようなその短剣を見て、僕はハッカーが何かしたのだと心の中で確信した。
「え、レジェンド!?レジェンド武器!?や、やった!やったやったやった!!!」
流石は企業V。レジェンド武器が何か分かんなくても取り敢えずハシャぐ精神は本当に凄いと思う。多分コメント欄は今、うぉおおおおお、とかで埋め尽くされているんだろうなー・・・はぁ。かたやウチのリスナーときたら。
コメント欄
〈ログアウトボタン戻ったか?〉
〈うんちしたい〉
〈行ってこーい!!!〉
〈この重要な時にこそ大をするその根性。やるではないか〉
〈やるじゃん〉
〈うんち、か。俺はすでに済ませたな(キラッ〉
〈うんちを3秒で終わらすの、結構余裕でした(キラッ〉
〈絶対出てないだろw〉
何故にうんちネタで盛り上がっているのでしょうかこの人達は。僕ってさっきまでガチャしてたよね?もっとそういう反応は無いの?と思ったら、数分前ぐらいに死滅してて草生えた。流石はウチのリスナー、話題に飽きるのが早いこと早いこと。
「あ、おめでとうございます」
〆が難しいハシャぎの演技を未だにやっていた不知火リオンさんに声をかけると、不知火リオンさんは僕の方に駆け寄ってきて手元にある短剣を見せつけてきた。
「ふふん。どう?お姉さんの短剣!私てきには凄くアリな造形なんだけど!」
・・・・・・つまり褒めろということらしい。
「はいはい凄いですねー。
というか不知火さんも出たんですねレジェンド武器?でしたっけ」
最大限の敬意(というか遠慮)をもって接すると、不知火リオンさんはムスッと頬を膨らませた。
「け い ご」
「・・・・・・・・・え?
いやだって不知火リオンさんって絶対年上「次また年上だとかヌかしたら私はこの短剣で君を刺すから」
っすーーー、えっと、リオンさんもレジェンド武器出たんだね(震え声)」
「ってことは、やっぱり君もなんだね。凄い偶然だ」
「あ、はい」
若作りってこういうことを言うんだね。
「何か言った?」
「いえ何も」
もし不知火リオンさんの実年齢が三十路以上だとしたら僕はもうこの人とは距離をとろうと思うのだが、実際どうなのだろうか。
コメント欄
〈不知火リオンとBBAを紐付けてコメントしたら流石に悪口だからな?お前たちー、ちゃんと控えろよー〉
〈僕は三十路でも全然アリなんだが〉
〈三十路、三十路?〉
〈我思うゆえに我あり。つまりそういうことだな〉
〈ソレそんなに万能な言葉じゃないからな?〉
〈サヤって確か15か16だろ?つまり倍じゃねーか〉
〈倍てw〉
〈親と子w〉
〈言ったそばからお前達!年齢のことは結構考えて喋らないと痛い目にあうんだぞ!(三敗)〉
〈まー流石に20代前半とかじゃね?不知火リオンってデビューしてまだ2年かそこらだろ?〉
〈え、じゃあ中1ぐらいから配信してるサヤの方が先輩じゃん〉
〈先輩には敬語を使ってもらわねーとなぁ!(腕組み反り返り)〉
20代後半の役者よりも子役からやってる10代の役者の方が先輩っていうアレが僕と不知火リオンさんの間でも発動しているらしい。ならまぁ、タメ口を使ってもいいのかもね(自己暗示)。
コメント欄
〈ログアウトボタンは?〉
〈そうじゃん。結局ログアウトってできるの?〉
〈できなきゃレジェンド武器?を売ってやろう〉
〈だから売るなw〉
っと、そういえばアレか。僕はログアウトのためにこんなことをしていたんだった。
視界の端を見ると、さっきまで無かったフキダシのようなアイコンがちゃんとあり、そこに意識を向けると手元に(コメント欄とタイプが同じ(半透明でタップ式の)メニュー画面が出現した。
よく見ればさっきその辺に放り捨てていた棒きれもちゃんとメニュー画面のアイテム欄に入ったらしくビックリマークが付いていたが、それよりもまず。
「あ、じゃあリオンさん。僕はチュートリアルが終わったのでログアウトしますね。それでは!」
僕は不知火リオンさんの返事も聞かずにログアウトボタンを押し、現実世界にへと帰還した。
ウチのチャンネルのリスナーにも挨拶していなかったため少しだけ後ろ髪が引かれるような思いだったが、ヤバい。本当にヤバい。
「・・・うぇ」
吐き気をもよおしながらベットギアを外してベットから起き上がると、時計の短い針は3の数字を指していた。
「・・・やばい。あたま痛い」
・・・・・・何故こんなぶつ切りをしたのかというと、初めてのVRMMOで配信開始から5時間ぶっ通しで動き回っていたため、流石に僕の脳が悲鳴をあげていたからである。
正直もう少しくらいなら保つと思ったのだが、ログアウトボタンがあると分かった瞬間には衝動的に押していたから、自覚していなかっただけで相当ヤバかったのかもしれない。
そんなフラフラの脳のまま、あらかじめ貯めていた風呂に入った僕は、歯磨きをした後すぐにベッドへと倒れ込んだ。
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
心なしかいつもと違う目覚めだった。
何と言うのだろうか。色々と引っかかるというか。
身体を弄るとどうやら僕はブレザーを着たまま寝ていたようで、そりゃあ引っかかるわな、と思いながら上体を起こした。
そしてまた違和感。身体が異様に軽いのである。
開かない目を無理やり開いて自分の腕を見ると、ふと視界の端に青白い髪の毛が見えた。
・・・・・・・・・・・・・・・えっ。
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
目が覚めたらゲーム内のアバターに成っていた件。
『なろう』に出しても多分売れないであろうタイトルを思い浮かべて現実逃避していた僕だったが、やがて再起動すると今の現状の全てをパソコンで検索にかけた。分からないことはグー○ー先生に聞く。Z世代共通の理念である。
2時間かけて散々調べ回り、やがて何も分からないことが分かったところで僕は諦め、急遽枠をとって配信を開始した。
「おはよ、皆」
コメント欄
〈どうした?珍しい〉
〈朝の10時だぞ?〉
「いやさ、見てよ」
いつものカメラを僕に向ける。すると画面にも僕の青髪美少女姿が映し出された。
コメント欄
〈???〉
〈?〉
〈どういうこと?〉
〈鎖骨エッッッッ〉
「朝起きたらこうなってたんだけど」
コメント欄
〈はぁ?〉
〈寝言は寝て言え〉
〈また企画?〉
〈ってかサヤの自室ってそんなかんじなんだな。もう少し片付けろよ〉
「いや企画とかじゃなく、大マジで言ってるんだけど、誰か何か知らない」
コメント欄
〈・・・・・・〉
〈・・・・・・〉
〈・・・・・・とりあえずハッカーに聞いたら?〉
「それだ。じゃあ一旦配信切るね」
僕は2秒で配信を切ると、パソコンをVRMMO用のベットギアに接続。ソレを頭に被ってベットに寝転がると、ベットギアの電源を入れた。
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
来たくもなかった『V戦』に再びリスポーンした僕は、手元に浮かぶ半透明の板(コメント欄)に目をやりながらハッカー(仮称)を呼んだ。
「ハッカー、いる?ログアウトしても姿が戻らないんだけど」
『始まりの街』の路地裏でハッカーを呼ぶが、しかし奴からの応答は一切無かった。
「??今日は休みとかかな?」
首を傾げていると、突然大通りの方で大きな騒ぎが起きた。悲鳴やら何やらが『始まりの街』を反響し、その声が結構『ヤバいタイプの悲鳴』に聞こえたため僕は誘われるようにして路地裏から出た。
声の発生源は僕がいた路地裏から少し歩いた所にある街の城壁の上だったらしく、ココじゃ何が起こったかパットミ分からないため近づいてみると、やがて遠くの空に煙が上がっているのが見えてきた。
煙?と首を傾げながら歩いていくと、近くのカフェで店番をしていたNPCやら通行人NPCやらが血相を変えて何かを話し合い始め、どこかへと走り去って行った。NPCの数人はいきなり戸締まりを始め、また煙を見上げたまま怯えるような表情をして尻餅をついていたNPCは頭を抱えると泣き始めた。どこからか赤子の泣き声も聞こえてきて、完全に昨日の『始まりの街』とは別物の場所に変容していた。
端的に言うなら、緊張感が昨日とは段違いとなっていて、明らかに『戦争』の準備をしているようだった。
「・・・(事前予告無しの)『侵攻イベント』とか、もしかしてあるかんじ?」
異世界ラノベにありがちな展開として『モンスターの一斉侵攻』や『敵国からの侵攻』イベントがあるが、このゲームでもソレがあるのだとしたら。
リリースして日が浅い今のプレイヤー達では少し厳しいのではないだろうか。
コメント欄
〈え、あんの?そういうイベント〉
〈街全体の緊張感が凄いんだが〉
〈遠くで兵士(NPC)数人が走り回ってるけど、あれ完全に戦争の備えだよな?〉
〈起きたら配信始まってて草〉
〈社会人組はもう仕事へ行ったんやな。やけにコメントが少ない〉
〈当たり前だろ。今何時だと思ってんだよ〉
城壁の傍まで来たが、どうやら城壁の外で何かが燃えているらしく、プレイヤーの多くが城壁を登っていた。
付近を見れば兵士らしきNPCは跳ね橋を上げ始めており、全員が鬼気迫る表情をしていた。
とりあえず城壁の中じゃ何も分からないので僕も城壁を登ると、見えた光景の中の、『煙の正体』に絶句してしまった。
「・・・村が」
チュートリアルで行った村を皆は覚えているだろうか。あの長話をしてくれやがった村長がいた村だ。あそこの村の建物が、周囲の草原ごと全部燃え上がっていた。
「・・・・・・ここまでするのかよ」
近くにいた人の呟きで気づいたが、よく見れば村に残されていた人が炎の中でもがき苦しんでいた。
「え、はぁ!?どうして皆助けないの!?」
僕は脊髄反射のように周りを責め、自分は城壁から飛び降りて救助を始めようとしたのだが、後ろにいたプレイヤーに腕を掴まれて強制的に引き止められた。
「無駄だバカ」
急制動によって全運動エネルギーが腕にかかったため凄く痛かったがそうも言ってられない。腕を掴んできたバカタレを僕が睨みつけると、その掴んできた『黒ずくめの男』は冷めたような口調で諭してきた。
「演出なのか設定なのか、村人はゴキブリ並みに死ににくく成っているみたいだがアレはもうムリだ。ゲームクリエイターが『奴らはそこで死ぬ』と決めた以上ソレは変えられない。それ以降のシステムを作るなんてムダだし作っているハズがない。だろ?」
言いたいことは分かるのだが。
「でも!」
「それよりお前。人が焼け死ぬのを見て助けに入ろうとするとか、見た目よりは度胸があるんだな」
「今その話はいいから、さっさと手を離して」
怒声を織り交ぜながら睨むと、フッと笑った全身黒ずくめの男は城壁の外、僕のように城壁から飛び出して助けに入ったプレイヤーを(掴んでいない方の手で)指差して言った。
「介錯というのなら手伝ってやらなくもないが、見ろ。もう時間切れだ」
血走った目をしながら村へと走って行った1人のプレイヤーは、炎の元まで行くとそこで炎の津波に飲み込まれて呆気なく消滅した。
「えっ、」
「村が燃える前から見てたんだけどよ、あの炎ってどこから来たものだと思う?」
「どこって」
「奴らの体皮からさ」
彼の言葉と同時に、プレイヤーを飲み込んだ炎の塊が移動を始めた。
ゆっくりと、ゆっくりと『始まりの街』へと。
足元の草原を燃やし尽くしながら迫って来た。
「今は炎にしか見えないだろうがな、あの炎は猪の炎だ」
「猪?」
「そう。猪。奴らの一匹一匹が炎を出し続ける性質をしているみたいでな、群で固まって動くとご覧の有り様ってワケさ」
「やぁ君達!これからゲームの時間だよ!」
唖然としていると、昨日ぶりの天の声が聞こえてきた。ただし今回はどこか遠く、始まりの街の上空辺りから声が聞こえてきた。
ってか、君達?
「すでに気づいている人もいるみたいだけどね!皆はログアウトボタンが消えているのは気づいているかな?」
言われて視界の端に意識をやると、確かに昨日あったメニュー画面を表情するためのマークが消えていた。
「つまり君達はこのゲームに閉じ込められたってことだよ!良かったね、これで一生このクソみたいなゲームができるよ!
・・・・・・うんうん!不満を言う人もいるみたいだね。僕も鬼じゃないし、ならこうしよっか。
今村を焼いていた『炎の群れ』、そのボスを倒すことができたらココから解放してあげる。
どう?ちょっとは戦う気も起きたかな?
あ、そうだ。僕は別にデスゲームをする気は無いから、ココで死んでもリアルで死ぬことはないし、ここから逃げたいなら勝手に自殺してくれて構わないよ。
まぁそんな『無能』には用なんて無いからねー。せいぜい無様に情けなく、面白おかしく死んで逝ってよ。面白かったら笑ってあげるからさ」
隣にいた黒ずくめの男は、天の声を聞いていたかのような態度で何も無い空間で指をフリックし、「・・・確かに、ログアウトボタンが消えているな」と呟いた。
「え、今の声が聞こえたの?」
僕が黒ずくめの男に確認をとると、黒ずくめの男は『コイツは何を言ってんだ』というような表情で僕を見てきた。
「はぁ?」
「あ、うん。ごめん。何でも無い」
正直、状況が読めなさすぎて黒ずくめから視線を外した僕は、外した先にある『炎の群』?が街の城壁に張り付き始めていることに気づいた。
「総員、放水開始ぃ!!!」
さっき走り回っていたNPCの兵士達が水の入ったバケツを持ってやって来ると、僕らを押しのけ、バケツに入っていた水を城壁に寄ってきた炎へとかけ始めた。
流れるようなバケツリレーが開始され、凄まじい水量が炎の波にかかっていくのだが、炎の勢いは一切弱まることがなく、険しい表情をした兵士達の隊長らしきNPCは固まったままの僕達プレイヤーに対して叫んだ。
「長くは保ちません!今の内に冒険者の方々で奴らのボスを!奴らのボスを討ち取ってください!!!」
プレイヤーの多くが眼下に見える炎に顔を青ざめる中、隣にいた黒ずくめの男はさっきと変わらない冷めた表情をしながら近くのプレイヤー達に提案した。
「お前ら、一旦プレイヤー全員に集合をかけないか?
このままじゃあ街も燃えて俺達は皆仲良くゲームオーバーだ。
あの炎に立ち向かうも逃げるも自由だが、意見交換ぐらいはお前らもしたいだろ?」
彼の提案に、プレイヤーの多くが顔を見合わせながらも頷いた。
「なら手分けして人を集めるぞ!お前達は街の端を頼む!そっちの奴らは街の中心部だ!俺とコイツで残りをやる!集合場所はここの下、城壁の内側だ!以上!解散!」
『黒ずくめの男』は僕の腕を再び掴み、今度は走り出した。あまりに急な展開の中で、強制的に伝令係にされた僕は眉をひそめながら彼に小言を言った。
「・・・・・・無理矢理巻き込むとか、お前って友達少ないだろ」
すると『黒ずくめの男』は走りながら振り返り、ニヤッと笑うと信じられないことを言い放った。
「もうお前は俺の友達だろうが」
「・・・はぁ?」
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
20分して『始まりの街』のプレイヤーのほとんどが城壁の近くにある広間へと集まり、僕と『黒ずくめの男』が到着するとプレイヤー同士の本格的な会議が始まった。
「・・・現状を整理しよう。まず何者かによってログアウトボタンが消えた。そしてログアウトするには、あの炎の群れのボスを倒す必要がある」
「簡単じゃねーか」
「勝てる確証は無いぞ?」
「今の時点で準備もクソも無いと思うけどな」
金髪の美少年とホッカムリをした盗賊系の男が喋り始めると、見るからに魔法専門な奴やら軍師ぶった奴などが次々と口を開いた。
「実際問題、勝てるのか?」
「勝つ勝てないを議論するには僕らはお互いを知らなすぎる」
「お前ら!一緒に自殺しないかぁ?」
「逃げたきゃ1人で死ね」
「お前、あんな奴から逃げるとか恥ずかしくねーのか?」
「皆が皆、お前らみたいに強くはねーんだよ」
「・・・俺は、自殺します」
「俺も!あんなの勝てないだろ!」
「言っておくけど、ボスがどこにいるかも分からない状況なんだからな!」
逃げる理由を必死に探す『流れ』はかなり見苦しいものであるのだが、だいたいが正鵠を射ているため地味に厄介だったりする。ここでエルヴィン団長とかがいたら多分詐欺師まがいの口八丁(本人談)で全員が無謀な突撃に繰り出すのだろうが、生憎とこの場にエルヴィン団長はいないし彼に変わる人もこの場にはいない。
民主主義という見方によってはぬるま湯ともとれる情操教育は現代日本でもしっかりと機能しているらしく、グダグダと議論する暇があったら突撃すれば良いものを、それが分かっている人間の多くが黙ったまま周囲の顔色を窺い、また少数の意見が声の大きい弱者に掻き消され、ただひたすらに無為な時間だけが過ぎていく。
決めないというのも民主主義というものの美徳と誰かが言っていたが、有事の際にソレでは本当に困る。
コメント欄
〈いけ!サヤ!〉
〈マフティーダンスだ!〉
〈この会議を混沌へと突き落とせ!〉
〈やってみせろよサヤ!〉
〈なんとでもなるはずさ!〉
「やるかバカ」
今マフティーダンスとかしたら、多分自殺派が勝つ。そして自殺を尻込みする人が変な動きをして更なる地獄が幕を開く。
僕の考えとして『自殺をするのなら自分に打ち勝つか考えることを放棄しないとできない』というのがあるが、自殺を指示している彼らは自分の首に刃を突き立てる『覚悟』が本当にあるのか疑わしい。というか、どうせ無い。本物は創作よりも恐ろしいのを多分彼らは知らない。自殺できる顔をしていない。
ただまぁ、炎に向かって突撃するとなるとやはり抵抗を覚える人も多いというね。・・・・どうしようか。
「死にたいなら勝手に死ね!俺は残るぞ!」
「残ってどうする!NPCの話だと半日も保たないらしいぞ!」
「突撃なんて無駄なんだよ!他に代案は無いのかぁ!?」
「そうだ!突撃してどうする!」
「またその議論かよ・・・」
日本人なので、誰もが『全体が動かないと突撃しない』というのが一番のネックなのかもしれないのだが。果たして今ことタイミングで『僕1人でも行く』と言って流れを起こせるだろうか?いや、今は無理だ。容姿で舐められるし。
「お前はどうすんだ?」
討議の輪の外で悩んでいると、いつぞやの黒ずくめ男が話しかけてきた。
「そっちは?」
「もちろん突撃派だ」
「僕もなんだけど、今のかんじだと何も起きないよね」
討議の輪を見ると、自殺派は現段階で多数決をとろうとしており、しかも憎たらしいことに先に『突撃したい奴』から聞いて突撃派の数人だけの手を挙げさせていた。
「サヤ。この『流れ』を動かすには何が必要か分かるか?」
「?」
「『お笑い』というエッセンスだ」
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
「あんなチンケな小火にヒヨってる奴いるー?」
近くにあった噴水に登った僕は、討議していた連中を見下ろしながら言った。
「死なねーのに自爆特攻にヒヨってる奴いるー?
男なのにダセー面して自殺しようとしてた奴いるー?」
不思議と、こういったことは初めてではない気がした。
「いねーよなぁ!!!」
誰かが僕の背中を押している気がした。誰かが声援を僕に送っている気がした。誰かが僕を引っ張っている気がした。誰かが僕の言葉を望んでいる気がした。
よく分からないが、僕は変に緊張することなく、普段通りに言いたいことを言い放った。
「見てみろあのカスみたいな煙を!
言っとくけど本物の消防隊員なら防具着るだけで突っ込んで行くような火だからな?
言っとくけど火で一番怖いのは煙であって野原の火事なんてあって無いようなものだからな?」
いつの間にかお笑いなんて忘れて叫んでいた。
「あんな線香レベルの火にビビって戦えませんでしたーってご先祖様に言うのか?オ○ニーばっかり見せてご先祖を幻滅させて、惨めにクソみたいな生産性の無い生活を延々と続けるようなクズ野郎にお前達は成りたいのかぁ!?
学校教育で『痛いことや暴力は全部悪いこと』と教えられてお利口に育ったのは仕方ないのかもしれないけどさ、牙を抜かれたままウンコして食って寝て働くだけの『意志も無ければ勇気も無い。妬み嫉妬ばかりで想像力も足りず、本物の痛みも知らずにカスリ傷で泣くようなどうしようもない雑魚』のままでお前達は本当に良いのかぁ!
根性見せるなら今この瞬間しかないんだよ!
お前達に日本人としての誇りが、侍レベルとまでは言わないが『ちょっとした侍魂』があるのならできるハズだ!というかできないとおかしい!日本人だろお前ら!
敵はたかが猪が数頭だ!コッチは戦える野郎どもが約100人!できないことなんて何もねーんだよ!!!」
この時の僕は、最高にアガっていた。
「もう一度聞くけどさぁ、あんな小火にヒヨってる奴いるー?いねぇーよなぁ!猪狩るぞぉおおお!!!」
「「「っ・・・・・・・・うぉおおおおお!!!!」」」
コメント欄
〈うぉおおおおおおお!!!!〉
〈うぉおおおおおおお!!!!〉
〈うぉおおおおおおお!!!!〉
☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆
過ぎた『力』は、民主主義の時代では無条件で『悪』と言われ、平和な時代においては不要とされるもの。数多の議論において民主主義の敵とされ、しかし社会人に成れば一定程度必要とされるその『力』。
人はソレを『カリスマ性』と呼ぶ。