俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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再編しました。《2024/11/15》


『本編開始前』
異世界へ


「なんか行き詰まってきたなぁ…どうすっかなぁこれ…。」

 

一人の少年が研究室のような場所でうんうん、と唸っていた。

 

「うーん、人形に変形させるのは行けるんだがやっぱり人間の柔軟性を再現するのはキツイか…。」

 

目の前にあるのは大型機械…どうやら自動二輪のようだ。

 

「…んじゃまぁ取り合えず…『タイプシフト・グレイプニル』」

 

手首に着けた機器に音声コマンドを入力すると目の前の大型機械が変形し人の形へと変形した。

 

「戦闘ステータスへ移行、システムスタートアップ。シングルタスク1からマルチタスク55システム履行開始…」

 

「……。」

 

命令を下すがそれでは到底実践では使用できないぎこちない動きであった。

 

「……はぁ…やっぱり思い通りに行かないよなぁ…システムプログラムはいいんだが駆動各所が全然だ…」

 

その動きを見て少年はため息を溢す。

やはり某SFアニメのように機敏に動くロボットを作成するのは難易度が高いと思い知らされたのであった。

現実から目を背けたくなったが開発を諦めるわけに行かずに思考の海へ陥りそうになったが小難しいことを考えようとしたが体が糖分、即ち甘いものを求めていた。

 

「やっぱり無理かぁ…なんか甘いもの食いてぇな…しょうがねぇ、気分転換にアイス買いにいくか…。」

 

少年は制服のまま作業をしていたので上着を脱いで外へ出ようとしたが時刻は深夜と言ってもいい時間で、流石に外出するのは憚られたので八幡は《次元解放》を使用しコンビニへ向かった。

 

「よっしゃ、高いアイス買おう。ハー○ンダッツとマッ缶だな。」

 

起動式が展開し空間に裂け目が作成されてその隙間に入り込んだ少年は目的地を繋ぐ裂け目の色が普段と異なっていたことに気がつかなかった。

 

研究による脳への糖分が回っていなかったことによる意識の散漫によるものか、それとも早くコンビニに行きたいが為に注意深く見ていなかった為か。

 

今となっては後の祭りではあるが、その行動が少年が予期しない場所へと送り込んでしまったのだった。

 

◆ 

 

眠りに堕ちる度に死を向かえる。

 

私が(この子)を手にしたその日から私は死を視せられる。

 

使い手に求める代償は《自らの死を味わう》、『いつか来るはずの死の瞬間』をまるで本当に死ぬ間際の苦痛や恐怖を(この子)を手放さなければ文字通り死ぬまで味合わされるのだ。

 

だからといって(この子)を手放すつもりは毛頭無いし、叶えたい願いがあるのだからどうしても(この子)が必要なのだ。

 

ああ、今日もまた、悪夢を視る。

 

今日は見知らぬ男性に殺される夢ですか。

 

私は殺されぬように必死に抵抗するために手に持った(この子)を両手に握り襲撃者に襲いかかる。

その反抗の最中私の手にした武器を弾き飛ばされてしまう。

だが、今日の悪夢はなにかが可笑しかった。

 

(今日は武器を飛ばされて心臓を一刺し……え?)

 

私を殺しにきた男から割っては入るようにその少年は現れた。

 

(あっ…)

 

夢の中で”私を助けに来てくれる【黄金色に光る瞳】を持つ少年”が目の前に立ち此方に横顔を見せ背を向ける。その横顔の輪郭はボヤけてよく見えない。

 

(誰なの…?貴方はどうして私を助けてくれるんですか?)

 

私が夢の中で死にかけると必ず”貴方”が現れる、そう、助けてくれるのだ。

…結局はその少年の背後に守られていても”死”を迎えるのだが。

 

だが、今日は違った。

手にした”同じく【黄金色に輝く大剣】が襲撃者を切り裂いた。

 

攻撃の応酬、先程までのこの場所で響いていた剣撃が嘘のようにひっそり静まり返る。

初めてだ。この子()を手に入れてから”死ななかったのは”

 

「貴方は…誰?誰なの…?」

 

問いかける。

 

『……”はち”…。』

 

口を開き声を発しているのだがよく聞こえない。お願い、教えてください。

意識が遠のいていく。ダメだ、意識が保てない…。

最後に振り返った少年の見た目だけを私は記録するしか出来なかった。

 

「待って…!」

 

手を伸ばしたところで目が覚める。

 

「え?」

 

「…。」

 

目の前…というよりも私が馬乗りになりその眼前に困惑した表情を浮かべた少年がいた。

その姿は特徴的な瞳をしており日本人の平均としては高い身長となかなかに整った顔立ちで恐らくは同い年の少年なのだろう。

それに”夢に出てきた人物”とそっくりな少年が目の前にいた。

見たこと無いスラックスとワイシャツを着用していたのだ。

 

「えーと…。」

 

「……!?~ッ」

 

男の子が事情を説明しようとしていたのだが、私はこの状況を理解し悲鳴をあげそうになったが眼前の男の子から懇願された。

 

「お願いだから悲鳴あげないでくれませんかねぇ!?事情説明するから!!」

 

◆ ◆ ◆

 

光が弾ける。

 

しかしそこは大都会の煌々と照らされた文明の利器によって発達したコンビニエンスストアではなく、薄暗くどこかの高級ホテルの一室のような場所へと出たのだった。

 

 

「…ぅおとと………あ?此処…何処だ…?…おっかしいなぁ…家付近のコンビニに座標開いたはずなんだけどなぁ…………ん?」

 

周囲を見渡すと誰かが住んでいるような生活感が感じられた。

明かりは室内の空間ウィンドウのみでそれが数個ついたままの状態になっておりその机には一人の女性…というよりも少女が机に突っ伏すように眠っていた。

しかしその表情は穏やか…と言うには程遠くきつく眉間にシワを寄せてその整っている表情からは苦痛しか感じ取ることが出来なかった。

 

「おいおい、まさか他人の家に入り込んじまったのか…?」

 

不意に空間ウィンドウに浮かぶ文字の羅列や場所について記載されたものを確認して俺は目を疑った。

 

星脈世代(ジェネステラ)煌式武装(ルークス)?…獅鷲星武祭(グリプス)?なんだこれ…」

 

聞いたことのない単語に俺は疑問を覚えた。

 

「…っ!!」

 

その直後に俺は背後にイヤな物を感じ取って咄嗟に体を捻りその場で回避した。

 

「…おいおいずいぶんと物騒なホームセキュリティだなぁおい…!」

 

完全に俺が不法侵入…逮捕待った無しだが流石にその手にした獲物は物騒すぎる。

俺が興味本意で近づいたのが不味かったのだろう、机に突っ伏している少女が苦悶の喘ぎを漏れだしていることに気がついた。

その手には”二振りの目玉のような装飾がついた双剣”を手にしている。

 

考えている暇もなくそれは振るわれた。

 

「うぉッ!?」

 

二振りの双剣から繰り出される銀閃が俺を襲うが寸での所での回避が成功し距離を開けることになる。

 

「……。」

 

「こいつ…一体?」

 

ゆらりと立ち上がる少女は俺の問いには答えてくれずただだらりと両手に握った双剣を此方に構えている。明らかに様子が可笑しい…まるで夢遊病だ。

窓から差し込む月明かり…と言うよりも不気味なほどに朱い月が少女を姿を映し出し左右の瞳は生気がなく赤と緑の色に染まっていた。

 

俺は思わず後ずさるとその瞬間を待っていたかのようなタイミングで襲いかかってきた。

 

ゆっくりと歩を進めるような動きではあったが次の瞬間には俺の間合いに入ってきており、俺は咄嗟にホルスターから特化型CAD(ソードモード)抜き切り替え《フラッシュエッジ》を纏わせて切り結ぶと高級ホテルの一室に似付かない剣激音と火花が飛び散った。

 

数度刃を合わせると不気味な雰囲気が俺に伝わってきた。

 

(こいつ…強ぇ…!エリカほどの業がある訳じゃないがやりづらいッ!!)

 

このまま相手にしていれば近い内に傷を負う。当然相手にはしていられないし何時警備員ないし警官が呼ばれるかわからない。

 

ならば、と此処で取る行動はただ一つだ。

 

(出口は…後ろか!)

 

斬り結び反対側の緑色の目玉のような装飾が付いた双剣が此方に切りかかるが一旦引いて体制を崩したところに俺は少女が手にした双剣を弾き飛ばした上で体制を崩させて本棚へ激突させると雪崩のように本が少女に降り注ぐ。

 

(今だ…ッ!)

 

身動きを取れないのを横目でチラリ見やり自己加速を併用しながらこの部屋からの脱出…一番近い部屋のドアへ脱出を図るために移動した

 

「なっ!?」

 

だが、それは叶わなかった。

 

弾き飛ばしたはずの双剣が少女の手の中に戻ってきており脱出の進路方向に既にいるのだ。

まるで俺がこの部屋からの脱出を予期していたかのように。

少女が刺突による攻撃を仕掛けてくるが既に自己加速術式が発動してしまっているのでキャンセルは出来ず腹部に双剣が突き刺さりそうになるが障壁魔法をピンポイントで発動し弾いた。

 

「っ…!!」

 

少女の表情が俺の《瞳》に飛び込んでくるがその表情は左右が赤と緑に彩られ、所謂オッドアイとなり表情に狂喜に歪み笑みを浮かべていた。

 

「…。」

 

衝突した結果二人はバランスを崩し少女諸とも倒れ込み襲いかかってきた少女が俺の上に覆い被さるような体勢になり双剣を俺の頭蓋へ振り下ろす。

 

少女の持つ双剣を《瞳》で確認すると無邪気な悪意を感じた。

 

(出会い頭にご挨拶だな!てか、俺だけじゃなくてこの女もこのままだとヤバイ気がする…!使いたくなかったが…!!)

 

頭蓋へ勢いよく刺突する少女の持つ剣の刃を掴むと同時に、手首に装着したブレスレッド型CADが起動し詠唱破棄による《虚空霧消》を発動すると掴まれた剣先に黒球が発生し膨大な局所的エネルギーによって消滅を引き起こし、刀身部分が消滅していく。

その勢いのまま目玉のような部分にまで到達すると柄とコア?のようなものを半分残し消滅した。

 

「…………」

 

ガクリ、とまるで糸が切れてしまった操り人形のように力を失った少女が俺へ覆い被さったのだが意識がないので非常に重い、あと柔らかいのが当たって俺の理性のゲージをごりごりと削られていく。

…つかなんで倒れたのに俺抱きつかれてんだ!可笑しいだろ!?

 

少女が持つ双剣が破壊されたことにより俺の上に馬乗り…というよりも端から見れば少女が情熱的に俺に迫っているような状態で非常に不味い…見られたら完全に変態のレッテルを張られて刑務所行きだよこれ!

 

必死に抜け出そうともがくが少女がガッチリと俺に抱きついてしまっているので抜け出せない

 

「ううん…。」

 

上に乗っている少女に数度声を掛けると色めかしい声をあげて少女は気がついたらしい。

あ、終わった。

 

「……!?」

 

驚いた表情を浮かべている。

…そりゃ当然目の前には見知らぬ男で自分が眼前におりなおかつ自分が情熱的な姿勢をしているのだから。

…あと俺から見ても分かるが短いスカートが捲れ上がっている…非常に不味い、あぁ本当に不味い…!

 

ハッと我に返った少女が悲鳴をあげそうになった瞬間、俺は情けもなく懇願した。

 

「お願いだから悲鳴をあげないでくれませんかねぇ!事情説明するから!!」

 

◆ ◆ ◆

 

「つまり貴方は魔法師であり…その魔法を使ってコンビニに向かおうとしていたらこの部屋に来たと…はぁ…つくならもう少しまともな嘘をついてくれます?警備隊に連絡しますか…。」

 

「ちょっ、まてよ…本当なんだけど!!」

 

思わず某キ○タクのような台詞が出てしまったが俺はいたって真面目だ。

ここが何処かは分からないのに捕まるわけにはいかない…と言うよりも小町達の兄として婦女暴行で前科持ちになりたくない。

 

目の前にいる金髪の美少女は手に持った端末に番号を呼び出そうとするが俺はそれを阻止した。

真実を語ったはずなのにどうやらこの目の前の少女には信じて貰えなかったようだ。

 

呆れた口調で俺に語り掛ける。

 

「それで?貴方何処の所属の学生ですか?レヴォルフ?界龍?それともアルルカント?それに名前は?」

 

「あ?レヴォルフ?ジェロン?アルル…なんて?所属、所属か…所属と言えば魔法大学付属魔法第一高校一年になるのか?あー…。」

 

俺の自己紹介に疑問符を少女は付けていた。

 

「第一高校…?……………貴方は六花(アスタリスク)と言う場所は知っていますか?」

 

六花(アスタリスク)…場所?どう言うことだ?意味は知らないので素直に『知らない』と答えた。

 

「知らない。初めて聞いた言葉なんだが…」

 

嘘偽りなく本当の事を答えると少女は考え込む仕草を取った。

俺もこの隙に《次元解放》で逃げればいいのに律儀に付き合ってしまっている。

まぁ、ここで逃げるを選択すると後々に大変なことになると俺の直感が告げていた。

 

「…一先ず貴方が仮に別世界からきた人間だとしても、それを証明できるものが有りますか?」

 

そう問われて俺は困った。この世界に来たときに身分を証明できるものを殆ど持ってきていない。財布に携帯端末、あー学生証IDカードは…さっきので割れてらぁ…ははは

 

「有るか?と言われれば有るかもしれないが…あ、君が持ってるソイツをこの場で修復出来たら信じてくれるか?」

 

「あ…」

 

少女が自分の握っている柄だけになっている双剣の惨状を見て美しい表情が曇っていった。

どうやら大事な装備だったらしいが襲われた拍子に破壊してしまったからなぁ…修復するので勘弁してほしいモノだが。

 

「無理ですね…そもそも『ウルム=マナダイト』は砕くことすら不可能なのにここまで破壊された純星煌式武装(オーガルクス)を修復することなんて…。」

 

純星煌式武装(オーガルクス)?」

 

またしても聞きなれない単語を耳にして疑問を浮かべると目の前の少女は律儀に答えてくれた。

 

純星煌式武装(オーガルクス)は…そうですね。この世界は一度壊滅に至りそうになる程の隕石郡が飛来してその隕石郡から万応素(マナ)と呼ばれる…大気中に満ちる未知の元素が検知されました。その際万応素(マナ)が結晶化したのがマナダイトでそれを使用した武装が煌式武装(ルークス)と呼ばれた武装…周囲の万応素(マナ)を集約することによって刃や光弾を形成することができます。煌式武装(ルークス)の核に使用されているマナダイトよりも純度の高いモノがウルム=マナダイトと呼ばれる鉱石を核に使用した武装が純星煌式武装(オーガルクス)。威力は比ではありません」

 

その事を説明されて俺は脳内である程度に理解はした。

 

万応素(マナ)…つまりはサイオンみたいなもんか…それを結晶したコアを中心に万応素(マナ)を流して武装を形成する…。魔法師が武装一体型のCADにサイオンを流して硬化と切断力を引き上げる、似たようなもんか。)

 

純度の高い…未知の物質からなる鉱石ということもあり非常に高価なのだろう。

それなら目の前にいる彼女が落ち込むのも分かる気がした。

 

「分かった。これが直せたら俺が異世界から来た”魔法師”だって信じてくれよ?」

 

「出来たらの話でしょう?」

 

俺は無理矢理に近い形で呆れた表情を浮かべる少女から奪い取り柄だけになった双剣を机の上に置いてホルスターから特化型CADを引き抜き《物質構成(マテリアライザー)》を発動させる。

 

俺の《瞳》が金色に輝き情報の本流が俺の脳内と魔法演算領域に殺到した。

 

俺が元々持つBS魔法であるが…《物質構成》の理屈と原理は俺にも分かっていない。

 

この魔法を使用することで俺の意識はこの世全ての物質、人物の情報が記された物質記憶表(マテリアル・タイムレコード)と呼ばれる?呼んだ?どっちか定かじゃないがデータベースへ転送される。

正直これが異世界で使えるかは怪しいもんだが…。

 

これを使えばあら不思議、どんな壊れたものでも一発修復。

まるで映像の巻き戻し画面を見ているような状態になる。

 

(ログイン開始…物質記憶表(マテリアル・タイムレコード)起動…平行同位物質検索…検索完了…名称検索確定、『ウルム=マナダイト』及び外装部分を平行同位体と同期開始…完了までコンマ0,1…修復開始…異常検索検知…『未来予知の代償として《夢の中で死を視せる》』能力を確認…同位体再検索…検索完了『未来予知』のみへ変更する…外装、コア部分修復終了…物質記憶表(マテリアル・タイムレコード)からのログアウトを確認。)っと…出来たぜ。」

 

そういって机の上に置かれていた柄だけになっていた双剣は元通りの姿へとなっていた。

 

その姿を確認した少女は驚いていた。

まるでタネの分からない手品を見せられている様だった。

 

「え…?嘘………!」

 

「嘘じゃねぇよ。新品同然に直してやったし、中身を視たときに異物があったから取り除いたんだけど。」

 

「異物…ですか?」

 

「ああ、ソイツの『未来予知』の代償に死の夢を見せ続ける』っていうなんとも意地らしい能力があったみたいだが直すついでに削除して『未来予知』だけが発動するようにしたから。」

 

「え?」

 

修復した武器を手にした少女は俺を見て往復している。

 

「これで信じてくれたか?」

 

俺がそういうと少女は「信じられない…」表情をしていたが突然俺の《瞳》を覗き込むと涙を流し始めたので俺は困惑した。

 

「ちょっ…!な、なんで泣くんだよ。まさか、余計なことしちまったか?」

 

「……!」

 

首を振って否定する

 

涙ぐむ少女にハンカチを差し出すと少女は受けとり涙を拭っていた。

目の前に有る完璧な状態の武器を確認して目蓋を閉じて息を吐いた後に呟いた。

 

「ここまで完璧に修復されたら信じないわけには行かないじゃない…。」

 

その呟きは注意深く聞かなければ聞こえなかったがしっかりと俺の耳へ入ってきた。どうやら呆れているのだろう。失礼な…。

 

「信じてくれたか?」

 

俺が少女に話しかけると「仕方がない」と言った風だった。

 

「ええ、信じましょう…それで貴方のことは何とお呼びすれば良いのでしょうか?」

 

先ほどまでの警戒心は何処へやらといった感じで今は笑みを浮かべている。

こっちに心を許しているような…まぁ、それは置いておくとして。

名前…名前か…

 

「…そうだな、名護蜂也(なごはちや)とでも呼んでくれ。」

 

なぜか咄嗟に偽名を名乗ってしまってしまったが彼女はなぜか嬉しそうだ。

 

「分かりました、それでは蜂也とお呼びしますね?」

 

初対面で尚且つ、部屋に侵入し大事な武器を壊した人間に対して笑みを見せた少女に対して俺は「無理してるんだな…」と言う感想を抱いた。

というかお前も初対面で名前で呼ぶのな。異世界でも流行ってるの?

 

「まぁ何でもいいけど…勝手に部屋に入っちまって悪かったな。帰るよ。」

 

「あ…。」

 

と、言うようなやり取りをしてと自宅へ帰宅しようと思いCADを起動させて《次元解放》を発動させ空間に歪みが生じ…ることは無かった。

 

おいおい…冗談だよな?

 

数度起動式を展開するが歪みは生じるがゲートが開きはしなかった。

CADは異常なく動作しているのだが起動式が反応せず《次元解放》はいくらやっても発動しなかったのだ。

 

「…マジかよ。」

 

つまりは行き着く先はここに留まらないと行けないと言うことだ。

魔法が不発した姿を見て少女が笑っている。

 

「ふふっ、まさか事故でここにたどり着いたのに戻れなくなってしまうとは…貴方ジョークのセンスがあるのでは?」

 

俺が研究室に戻れないのは大体察しがついた。

此処が俺が居た別世界だとすると戻ろうとするサイオン量が足りなく枯渇している状態なのだろう。

さっき《物質構成》も使ったしな…恐らくこの世界ではサイオンの含有量が空気中に少ないのだろう。《瞳》で視る限りサイオンに近しい別系統の魔力…つまりは万応素(マナ)が大気中に満ちているのでそれをどうにか出来れば回復するまで多少の時間が掛かるだろうが問題なく使用できるだろう。

 

しっかし、どうするかな…突然迷子になったような気分だ。

ストリートでファイトして稼ぐか?それが許される世界かどうかは知らんけど。

 

俺が思案しひとしきり上品な笑い声をあげていた少女が俺の前に立った。

 

ふと、目の前の少女へ視線を向けると暗がりで良く見えなかったが腰まで有る豊かで煌びやかな金髪と整った顔立ちに均整の取れた四肢に制服の上からでもはっきりと分かるぐらいに育った豊かな果実が実なっていた。

 

「蜂也?」

 

名前を呼ばれた音色が一瞬昔の知り合いと被って反応が遅れてしまい、微妙な対応になったが怪訝な表情はされなかった。

 

「取り合えず此処から出ていくわ。君の迷惑になりそうだし。」

 

「クローディア。」

 

「あ?」

 

「君、ではなくクローディア・エンフィールド。クローディアと呼んで戴けますか?」

 

何故唐突に自己紹介と名前呼びを強要されたのかは分からないが名字で呼ぶと恐らく蒟蒻問答的なことになることは想像に難くないので多少の抵抗感はあったが名前で呼ぶことになった。

 

「わーったよ…クローディア。」

 

俺がぶっきらぼうにそう言うと意外なコメントが帰ってきた。

 

「もし宜しければ貴方の世界について話してくださいませんか?少し興味が湧いてきましたので。貴方の使うその魔法にも。元の世界には帰れないのでしょう?何でしたら私の部屋を使っていただいてもよろしいですが…。それとも此方のお礼の方がよろしいでしょうか?」

 

そう言ってきて俺のとなりに立って腕を取って体を密着させる。

その瞬間に女子特有の甘い香りと二つの柔らかいものが腕に伝わってきた。

 

どうやらクローディアはこうやって男を弄ぶ(もてあそぶ)のが好きのようだ。

初対面の男子に対して何をぶっこんでいるのか思わず顔をみてしまったがこう言う手合いはそれに乗ると喜ぶからな、過去の体験談だが。

 

「アホか。年頃の男子生徒の性欲甘く見すぎだろ、そもそもお前みたいな美少女が一緒の空間に居たら緊張しすぎて眠れなくなるわ。それに俺は施しを受けても与えられたくないから。」

 

俺がそう言うと顔を少し紅くして美しい顔に笑みを浮かべ反応した。

 

「それ言っていることは同じなのでは…?それにこんな時間にいく宛もないでしょうし、此処は女子寮ですよ?異世界から来た男子生徒といってもこの時間に見つかったら警備隊に逮捕されちゃいますよ?」

 

後々の事を考えれば今此処で彼女の部屋から出るのは得策ではない。夜も深夜と言って良い時間帯だ。

先程の騒動も咄嗟に消音魔法を使っていなければ今ごろ騒動になっていただろうがそれがある意味怪我の巧妙と言えるだろうが…。

それに、こいつと話すことでこの世界について知ることができるだろう。

 

「俺の話を聞いても楽しくないと思うが…。」

 

目の前にいる少女

 

「決まりですね?それでは…」

 

クローディアの部屋で色々な事を聞かれた。

俺が誰なのか、何処に住んでいたのか、どういう魔法が使用できるのか、何て質問を受けたが実際に魔法を使用して見せると年相応の笑顔や喜びを見せていた。

 

「わぁ…すごい…!」

 

魔法を使用し台所にあるポットに茶葉をいれてお湯を沸かせ、ティーカップに注ぎ入れた。

しかしそこには人がいなくポットとティーカップだけが浮いている状態だ。

 

単一の系統の魔法を数種使用しているだけだが《魔法》という異能を見せるには充分だろう。

 

「お気に召してくれてよかったよ。クローディア、この世界について聞かせてくれないか?」

 

魔法を行使しながら目の前にいる先程魔法で淹れた紅茶を手渡すと答えてくれた。

 

此処は水上学園都市『六花』。

場所的には千葉の沖合いにある人工島、六角形からギガフロートからなる七つの島の見た目が氷の結晶のような見た目からそう言われているそうだ。

 

その形から通称アスタリスクと呼ばれるこの場所は旧世紀、無数の隕石が降り注ぐ未曾有の大災害「落星雨(インベルティア)」によって世界が一変し既存の国家は衰退し、一方で無数の企業が融合して形成された統合企業財体が台頭しまた落星雨は万応素(マナ)が結晶化したマナダイトという鉱石と、生まれながらに驚異的な身体能力を持つ新人類《星脈世代(ジェネステラ)》の誕生という、言うなれば特殊な能力を持つ新人類が誕生し言い方が悪いが隔離させるために創られた都市であるということ。

 

聞いた話じゃ星脈世代(ジェネステラ)は普通の人間に対して身体能力の差があるために例え正当防衛であったとしても星脈世代(ジェネステラ)が罰せられることになるらしい。

向こうの世界と同じで魔法師が力を持つために罪が重くなるのと同じか…。

 

「こっちじゃ星脈世代(ジェネステラ)は人種的な差別はされてないのか?」

 

「ある種の新人類のようなものですので…そうですね、差別的なものはあります。だから星脈世代(ジェネステラ) となった少年少女達は暴れたいという人や自分の力を示したいという人がこの《アスタリスク》へやってくるんですよ。そこで行われる《星武祭(フェスタ)》に参加するんです。」

 

星武祭(フェスタ)?」

 

クローディアに教えて貰ったがテレビ中継される力を持った生徒同士で行われる武闘大会らしい。

 

優勝者は好きな望みを叶えてもらえるというバトルエンターテインメント《星武祭(フェスタ)》、そこでの優勝を目指して《星脈世代》の少年少女たちは水上学園都市《アスタリスク》で研鑽を続けているらしい。

そして学内の序列を決める十二まである《冒頭の十二人(ページワン)》に載ると強力な《純星煌式武装(オーガルクス)》の使用権が与えられて《星武祭(フェスタ)》を勝ちやすくなる、まぁそれだけで勝ち抜ける程甘くは無いそうなので勝率が上げる為には必要なことらしい。

 

それに《在名祭祀書(ネームドカルツ)》に成れば優遇対応されるようなのでそれもあるだろう。

 

これを運営…《アスタリスク》を運営している統合企業財体は《星脈世代(ジェネステラ)》を管理し《アスタリスク》を管理し財源の一つとして学生達の決闘を見世物としてテレビ放映し莫大な興業収入を得ている。《星武祭(フェスタ)》は多数の消費者が望む方向にへ運用される。

だからこそこの《星武祭(フェスタ)》は学生だけが参加を許されており、だからこそ見映えの良い《星脈世代(ジェネステラ)》の少年少女が多く在籍しているのもそのためらしい。

 

確かに今目の前にいるクローディアも類を見ない程美少女だろう。

…姉さんと深雪達に匹敵するだろうな。此処では言わないが。

 

ジーッとクローディアの顔を見ているとこっちの視線に気がついたのか顔を紅くして恥ずかしそうにしていた。

しまった、女の子の顔をじろじろ見るもんじゃないよ?と小町に言われたのを忘れてた。

 

「…こほん。改めて蜂也、《星武祭(フェスタ)》に参加しません?」

 

「?さっきの話を聞いた限りだと《アスタリスク》の生徒じゃなきゃ参加できないんだろ?そもそも俺の実力じゃその《星武祭(フェスタ)》で勝ち抜けないぞ?」

 

「そんなこと言われてしまうと私自信を無くしてしまいそうです…。」

 

と、言って泣き真似をしようとしていたのであきれた表情をしているとその反応がつまらなかったのか普通の様子に戻りその件について説明してくれた。

 

「貴方の話を聞いた限りなのだと学内で指折りの実力者…それに《九校戦》では模擬実戦の試合は優勝をしているのでしょう?先程見せてくれた魔法は強力すぎます。」

 

「たまたまだっつーの…。」

 

「それに一応私は星導館学園の序列2位なのですよ?いくら《パン=ドラ(この子)》のせいで貴方に襲いかかったとしてもそう簡単に負けたりしないですわ。」

 

「お前序列二位だったのか…すごいな。」

 

実際本当にクローディアの戦闘技能は凄いものであった。

咄嗟に俺が《虚無》を使用しなければ危ない状況だったのもあるがそれはクローディアの手に持っている武装と本人のポテンシャルもあるだろうからな。

それは素直に関心していた。

 

「蜂也、私は叶えたい願いがある。私のお手伝いをしていただけませんか?」

 

柔らかな笑みを浮かべていたクローディアは真面目な表情になり俺に懇願してきていた。

 

「…。」

 

俺は頭を抱えた。

この異世界で俺が関わって良いものなのだろうか、と思ったが既にこの状況に巻き込まれて《次元解放》のエネルギーも充分に貯まっていない。

 

それに俺はこの世界について興味を持っていた。

 

それならば答えは一つだろう。

 

クローディアが不安そうに俺を見ているのが目に入ってしまったので思わず苦笑してしまった。

 

「クローディア、お前のパソコンを貸してくれ。」

 

「え?ええ…一体何を?」

 

「まぁ見てろって。」

 

そう言ってクローディアの部屋に備え付けられている一般的なデスクトップを借りて高速でキーボードを二枚使いネットを経由してとある情報を偽造作成しあたかもそれが本物であるかのように。

 

その姿を見ていたクローディアが頭に?を浮かべていた。何をしているのか分からないだろうが。

パチン、とキーボードのエンターを勢いよく叩くと偽造データの作成を完了させた。

 

「一応、俺はこの世界に居る 《星脈世代(ジェネステラ)》の『名護蜂也』としての偽造データをデータバンクに潜り込ませた。これで俺もこの世界に存在する人間になる。それに俺は星導館学園一年《名護蜂也》だ。」

 

その事を告げるとキョトンとした表情を浮かべていた後に突如として笑い始めた。

 

「へ…?…ぷっ、あははっ!…はぁ~、貴方本当に規格外ですわね…それも《魔法》ですか?」

 

改竄したデータの履歴が残らないようにハッキングしただけで《魔法》ではなく《技能》だけどな…。

その事を伝えるのは少々手間なので勘違いして貰うことにしよう。

 

「まぁ《魔法》みたいなもんだな。」

 

「今度その魔法も教えてくださいね?」

 

「ああ。」

 

今度はクローディアが改めて俺に向き直り告げた。

 

「改めてようこそ、星導館学園へ。名護蜂也さん。私は貴方に望むことは《勝つ》事です。」

 

「(暇潰しには最適か…それに願いが叶うってんなら開発途中の《アレ》もどうにかできそうだな。)随分と期待されてるが…まぁ失望されない程度には頑張りますか。」

 

「よろしくお願いしますね。蜂也。」

 

そう言って右手を差し出してきたクローディアに困惑した。

躊躇しているとクローディアが俺の手を握ってきた。

柔らかいおおよそ戦う者の手ではないことが俺に伝わってきた。

 

「…よろしくな、クローディア。」

 

異世界から来訪した男と、願いを叶える為に戦う少女の奇妙な物語が始まる。




連載させるかは…未定です。

当作品をご覧いただきありがとうございます。

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