俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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願う者(ユリス)/護りたい者(綾斗)

数日空いて日曜日。

俺は天霧にそれとなく聞き出すとリースフェルトと週末に市街地を案内されるということを聞いたので天霧達には悪いと思うが追跡させて貰うことにする。

 

目の前の正門前にはおしゃれをした二人の姿があった。

ちょうど天霧が先に到着する形となりリースフェルトが数分遅れて(時間内だったが)やってくる。

 

「済まない綾斗、待たせてしまったか?」

 

「ううん、俺も今さっきついたところっ…!」

 

ぽかんと口を空けて間抜け面を晒し固まっている天霧だったがそうなってしまうのも分かるような気がした。

目の前のリースフェルトの格好が新鮮、というよりもまさにお嬢様といった様相だったからだ。

 

「どうしたのだ綾斗?」

 

天霧の目の前にいるリースフェルトの格好は黒とピンクのガーリーなワンピースは少し丈が短く、そこからすらりと伸びた足の太ももまでフリルのついたオーバーニーソックスが覆う。手には短めの日傘を持っており普段の制服姿とは想像がつかない。良い意味でだが。

 

普段は姫騎士のような勇ましい言動が目立つがこういう格好が似合うのは元の素材が良いからだろう。

しかし、天霧はリースフェルトに見惚れていたからか頭に疑問符を浮かべていた。

 

そこからの会話はお前らもう付き合えよ、「くそっ、じれってぇな…ちょっと良い雰囲気にしてきます!」と言うか「抱け!抱けー!」と応援すべきなのかと謎の電波が受信したが目の前でリア充が出来上がりそうだったので《虚無》を叩き込みたかったが自重した。

 

二人が動き出したが俺のもう一人の同行者が現れない。

このままでは見失ってしまう事になるのだが流石に同行者を置いていってしまうとここにはいない小町に怒られてしまいそうなので我慢する。

 

「爆発しねぇかな…。」

 

物騒なことを呟き後ろ姿を見ているとようやく待ち人から背後から声を掛けられた。

 

「ごめんなさい蜂也。お待たせしてしまいました。」

 

「いや、今さっき来たばかり…?」

 

後ろを振り返るとそこには今日の追跡に同行するクローディアの姿に思わず注視してしまった。

淡い色のカーディガンを羽織り、その下には七分丈のブラウスを着用しプリーツスカートを履いている。

先程のリースフェルトがガーリーな美少女だとしたらクローディアはシックな大人の雰囲気を漂わせる美少女だろう。

 

「?どうしました蜂也。」

 

「わるい、なんでも…」

 

ない、といいかけたがここで女性の服装を褒めないのは小町教育的にはポイント低い!と言われてしまうこと請け負いなので褒めることにする。

 

「似合ってるな。その衣装。思わず見惚れちまったよ。」

 

「ふふっ、ありがとうございます蜂也。」

 

褒めてやるとクローディアは満面の笑みを浮かべている。

どうやら成功だったらしい。

 

「それでは蜂也。デートに参りましょうか?」

 

「いや、だから尾行な?」

 

そういって何時ものように腕を絡ませてきて空いている腕で日傘を開き尾行を開始した。

 

◆ ◆ ◆

 

「蜂也、ここは外縁居住区と中央区で分かれているんですよ?」

 

「そうなのか。てかなんで中央区に居住区があるんだ?」

 

「アスタリスクの生徒同士の試合を見たいという資産家達がこぞってそちらに住んでいるのですよ」

 

「金持ち達の道楽か…って説明しなくても良いぞ?それよりあいつらを見失ってしまう。」

 

「そうですわね、つい。…どうやら昼食を取るみたいですね。」

 

丁度視線を向けると天霧達も昼食を取ろうとリースフェルトに促しているようだった。

そろそろ良い時間だったので此方も昼食取ろうと言う流れになった。

遠目で天霧達を見ているとリースフェルトが差し出した端末を見て驚いているようで恐らくは金銭感覚が違うのだから高級料理店の検索サイトを提示したのだろう。

恐らくは桁が違う筈だ。

 

「おや。商業エリアのメインストリートに移動するようですね。」

 

「俺たちも行こう。」

 

天霧達の後を追跡すると最も賑わいを見せているメインストリートに到着した。

綺麗に整備された路面は石畳になっている。当然ではあるが皆私服となっているが学生だと分かるように校章を身に付けている。

休日であっても校章を着けるのは義務化されておりそれは俺たちも例外ではない。

露店やショップが点在しており値段もそれなりにリーズナブルでこれならここで食事をしても問題はないだろう。

 

天霧と一緒に入れる店を探して歩いてたリースフェルトがとある店の看板を見てしゃがみこんで食い入るように見ていた。

どうやらバーガーのチェーン店だったようだ。

天霧とリースフェルトはその店へと入っていく。

 

「バーガー屋か。お姫様なのに珍し…いやだからか?クローディア。俺たちもあそこで良いか?」

 

「ええ。蜂也とならいいですよ?」

 

「はいはいありがとうな…行くか。」

 

「むぅ…。」

 

むくれるクローディアを連れてバーガー屋へ入店した。

 

 

席を二つ離して天霧達を見ているとハンバーガーのセットを購入し席に着いて食事を始めた。

リースフェルトは物珍しさからここに入ったのかと思ったが注文も支払いも堂々としていたようだった。

食事をしながら行儀の悪いことはせずに上品に食べている姿は絵になっている。

所々の会話が聞こえてきて話を突っ込まれバーガーが喉を詰まらせたのかリースフェルトが顔を青くしたり天霧の言葉で顔を紅くしたりと忙しそうにしていた。

 

「何の会話してんだあいつら…良く聞こえないな。」

 

「カップルのようですね。」

 

ふと、俺は気になったことがありクローディアに質問する。

 

「そういや…ユリスと知り合いなのか?随分仲が良い、というよりも腐れ縁か。」

 

「昔にウィーンであったオペラ座舞踏会で顔を会わせて以来…というよりも両親が『銀河』と企業統合財体の上役ですからユリスの故郷、リーゼルタニアに幼い頃から関わりがあるのですよ。」

 

「なるほどな。合点が行ったわ。」

 

そう言うことならばクローディアとリースフェルトが知り合いなのには説明がつく。

もともとこいつは高貴な血筋の家系なのだろう。

リーゼルタニアは今や傀儡国家となっているのは有名な話だ。

それに関する企業統合財体が関わるのは必然というわけだ。

 

そんな話を聞いていると天霧がリースフェルトに先日俺たちから伝えられた事の一部を言わないように改変して伝えてくれているようでその話を聞いたリースフェルトはやっぱりかと言うべきか反目していた。

 

「断る。なぜ私がその様な卑怯者のために自分の行動を曲げねばならぬのだ。」

 

その言葉を聞いて天霧は肩を落としていた。

 

「私の道は私が決める。私に意思は私だけのモノだ。」

 

まぁ、当然と言うべきだろうが。

次の瞬間に天霧達のテーブルに乱入者が現れた。

 

「ほぉ、相も変わらず勇ましいじゃねえか。」

 

ユリスの背後からレスターとその取り巻きが現れるとリースフェルトは切って捨てるような言葉を投げ掛ける。

 

「…レスターか立ち聞きとは良い趣味をしている。」

 

屋外のバーガー屋で今にも一触即発な雰囲気を感じ取った客達は足早にその場から離れていってしまう。

端から見れば営業妨害で警察に突き出されてもおかしくはないのだがそこはアスタリスクと言うことで納得して貰おう。

…俺のなかで容疑者からの『ある一言』を聞いていないのでここを動くわけには行かないし天霧達から気づかれるわけにも行かないので隣にいるクローディアを抱き寄せるように植木の影に身を隠すように様子を伺う。

 

「は、蜂也!?」

 

俺の行動に驚いたのか顔を紅くして抗議をしてくるが我慢してほしい。

もう少しで確証を得られる筈だからな。

クローディアの唇の前で人差し指で「シーっ」を作る。

 

「少し静かにしててくれ。もう少しでボロを出すだろうな」

 

「ボ、ボロを?」

 

言い争っているマクフェイルからユリスを無意識に庇うように天霧が立ちはだかりわざと煽るような発言をしている。

あいつ顔に似合わず悪辣な戦法を使うのな。

次の瞬間にマクフェイルが拳を振り上げそうになった瞬間に取り巻きの生徒に止められた。

小太りな男子生徒に必死な顔で押し止めていたその瞬間に俺が聞きたい言葉を聞くことが出来た。

痩せぎすの男がその言葉を吐いた。

 

「そ、そうですよ!みんな分かっています!『決闘の隙を伺うような卑怯なマネ』を、レスターさんがする筈がありません!」

 

その言葉を聞いた瞬間俺は植木のそばで口角をつり上げた。「ビンゴ」だと。

 

「ボロを出したな。となると…。」

 

「なるほどその為にだったんですね。」

 

クローディアも俺の言いたいことが理解できたらしい。

流石の理解力だ。

 

「ああ。これで確定できたな。」

 

俺がそういいながら目の前の騒動が収束し天霧達が移動を始めた。

マクフェイル達はその場から立ち去り残りの場所を案内するのだろう。

俺たちも動き出す。

 

 

結局リースフェルト達の案内が終わったのは夕方になってからだった。

今日の案内が終了しそろそろ帰ろうかと地下鉄への道を行こうとした矢先に生徒同士の争いに巻き込まれてしまっていた。

十数人はおりその周囲を野次馬が見ているが関わりたくないのかそそくさと通りすぎていく。

 

「あれは?」

 

「レヴォルフの生徒達ですね。」

 

そんなこんなで言い争いをしていたリーダー格の人物が突き飛ばされるとそれを合図に武器を構えて戦闘に発展してしまったが近くにいた天霧達も示し会わせたかのように背後からの挟撃を受けている。

突っ込んできていた生徒は完全に通り魔のように天霧を狙っていたが乱戦の中へするりと入っていく。

 

「なるほど…当たり屋と同じだなその手口。でもまぁ、たいした実力は無いみたいだな。」

 

実際に目の前でリースフェルトが十数人もいたゴロツキ生徒達へお灸を据えていた。

一方で天霧は防戦一方…というよりも防御に意識を割いていたようでリースフェルトから叱責を受けて失望されているようだった。

まぁ、星辰力をおいそれと解放できないのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが。

 

リースフェルトがモヒカン男の髪を鷲掴み「燃やすぞ」と脅しをかけるとどうやら金で雇われたようだった。

その事を聞いて考え込んでいるリースフェルトの背後、つまり俺の前方にマントを着用した黒づくめの襲撃者が現れる。

 

「あ、あいつ、あいつだ!あいつに頼まれたっ…!?」

 

モヒカン男が気づくより先に認識阻害を解除する。

 

「クローディア。ここで待っててくれ。」

 

「分かりました。蜂也。」

 

頷くクローディアは俺より一歩後ろに下がる。

地面を踏み切ると《瞳》の力で対象物をスキャン、同時に壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)と詠唱破棄と二重詠唱による自己加速術式を発動、襲撃者に肉薄し行動不能にさせるために攻撃をする。

 

黒づくめの大男も俺が接近しているのにようやく気がついたのか振り向き発動体を起動させようとするが遅い。

 

『連鶴』

 

軽く振った純星煌式武装の一刀五閃が襲いかかり黄金色の大剣が大男の四肢と発動体をバラバラにして行動不能にした。

即座に《次元解放》を使い別空間に擬形体を格納する。

突如として現れた俺にモヒカン男も天霧やリースフェルトは驚いているようだった。

 

「やはり擬形体か。残りは…」

 

「は、蜂也!?い、いつからそこに?」

 

「ふ、副会長!?ってクローディアさんも?」

 

「星導館の生徒会長と副会長って…《千見の盟主》と《戦士王》じゃねぇか!?ひ、ヒィい!?」

 

そんな言葉を掛けられるが俺は恐らくリースフェルトと天霧を誘い出そうとした路地の方面を見ると此方を窺うような視線を感じたので返答してやった。

 

『俺の知り合いに危害を加えるようなら覚悟しておけ。お前もこの擬形体のようになるぞ』と。

 

気配が消えたので近い内にリースフェルトと今度は天霧を狙いに来るだろうがまぁ大丈夫だろうとは践んでいる。

土壇場になれば天霧は自身の封印を解いて戦闘するだろうしな。

 

尻餅を着いて驚いているモヒカン男の場所まで行き問い詰める。

 

「おい。」

 

「は、はい!」

 

「依頼主の顔を見てはいないんだな?」

 

「み、見てないです!」

 

全力で肯定するモヒカン男。

こいつに言ったところで無駄だとは思うが一応レヴォルフの生徒に釘を指しておく。

 

「そうか…だが今度ウチの生徒に手を出そうもんなら…分かってるよな?」

 

モヒカン男の視線の先にあるのは俺でありその姿を確認して顔を真っ青にして全力で答えた。

 

「は、はい兄貴!金輪際星導館へは手出ししません!てかさせませんのお、お許しを!!」

 

「…なら良い。さっさと消えろ。」

 

「す、スミマセンでしたぁ~!!」

 

ギャク漫画のように取り巻きを引き連れて開発エリアへと消えていくレヴォルフの生徒に俺は苦笑した。

そのやり取りが終了しクローディアが近づいてくる。

 

「お疲れさまです。」

 

さらに近付き小声で聞いてくる。

 

「先程の襲撃者は…魔法で仕舞ってしまいましたか?」

 

クローディアの疑問は最もだ。

 

「ああ、仕舞っちまった。其れに、今リースフェルトに見られるわけにはいかん。」

 

「そうですね…。」

 

突如として現れモヒカン男も逃げ出してしまったのでハッとなったリースフェルトが此方に近づき問いかけてきた。

 

「…どうして私たちのすぐ近くにいたのだ?まさか尾行をしていたのではあるまいな?」

 

疑惑の表情を浮かべるがいつも通りの表情のクローディアが其れに答えてくれた。

 

「たまたまですよエリス。蜂也と私は今日デートをしていただけですよ?」

 

俺に視線を向けてくるクローディアに「え、合わせんの?」となったが仕方がない。

ここで合わせないと怪しまれるからな。

 

「ああ、今日はクローディアと買い物に付き合っていただけでお前達を尾行していた訳じゃないんだけどな。」

 

変わらない表情を見てリースフェルトは二の句を告げずに「むぅ…」となっていたのは記憶に新しい。

納得が言っていないようだったがこの場にとどまるのはよくないだろう。

星猟警備隊が来てしまうかもしれないからな。

 

「お前達もここから離れた方が良いぞ?それじゃ俺たちはもう行くからお前達もあまり遅くならないようにな。」

 

「それではユリス、天霧君、其れではまた。」

 

「あ、ああまたな。」

 

それだけを告げて俺たちは帰路に着いた。

 

 

「どう思います蜂也。」

 

「どうもなにも十中八九犯人はサイラス・ノーマンだろうな。今さっき回収した擬形体はほぼ全体が残ってたからな…調べたら最初の襲撃の際の擬形体を動かしてた万応素の流れが似てた…と言うよりも同一だったしあの言動といい今回使ってた擬形体の背格好も同じだ。…明日にもリースフェルトを襲撃を仕掛けてくるだろうな。」

 

「どうされるのです?」

 

俺のとなりにいるクローディアが問いかけて来る。

 

「まぁ、天霧がなんとかするだろうから俺達は後詰だな。『影星』に借りを作らせるのはお前にとってもいい結果では無いだろう。」

 

「そうですね…私は蜂也の作戦に従います。」

 

「…お前俺の言動に対して基本全部イエスウーマンだよな?」

 

「当然です。私の蜂也なのですから。」

 

満面の笑みで俺の問いに回答してくれるクローディアに苦笑した。

 

「だからお前の蜂也じゃないんだけど…。」

 

「ふふっ、いいじゃないですか。それより先程の魔法は?」

 

「ん?ああ、あれはこっちの世界に流れ込んできたときに使用していた魔法の応用だよ。まぁ次元の壁を越えることはまだ出来ないけどな。四次元ポケットみたいになってるから便利なんだよな。」

 

「そうだったんですね…ぷふふっ!」

 

上品に笑いだしたクローディアに怪訝な顔になるが直ぐ様理解した。

 

「?お前俺の魔法を見て猫型ロボット想像したろ。」

 

「其れなら可愛いですね。ずっとそばに居てほしいです。私がメガネの男の子になるのですかね?」

 

クローディアが某メガネの男の子なら猫型ロボットである俺は必要無いだろう。

 

「いや、其れ俺要らないよね?」

 

「…蜂也には側に居てほしいですけどね。」

 

「はいはい…。」

 

「蜂也は私の運命の人ですから…。」

 

「なんか言ったか?」

 

なにかをクローディアが呟いたようだがよく聞こえなかった。

 

「なんにも。さぁ帰りましょう。」

 

クローディアに腕を絡ませられて星導館の学生寮のエリアへと向かった。

 

◆ ◆ ◆

 

「よう天霧。どうした。」

 

「ごきげんよう天霧君。どうかされました?」

 

生徒会室で作業をしていると天霧が入室してきた。

どうやら昨日の事を説明しに来てくれたようだがまぁ、近くで一部始終を見ていたのだが天霧達は知らないことだろうし。

 

話を聞く限りではどうやらこいつもリースフェルトも犯人の目星は既に着いているらしい。

どうやら昨日のノーマンの発言が決め手になったらしいな。

 

件の話になったときにリースフェルトがどこにいるのかを俺が確認すると「用事があってどこかに行ってしまった」と言う発言に俺は頭を抱えた。

 

「其れ絶対に下手人に呼び出されたな…。」

 

「これは少々不味いかも知れませんね。」

 

「でもまさか直接問い詰めるつもりなのかな…向こうだって証拠が無ければ白を切るだろうし…。」

 

「いや、口封じをしてくるかも知れないな。もうそんな悠長なことを言っている時間はないんだろうな。」

 

「っ!じゃあ今朝の手紙はもしかして…!」

 

「「手紙?」」

 

俺とクローディアはハモって聞き返した。

 

「今朝、ユリスが見てたんだ。隠すようにしていたからおかしいとは思ったんだけど…。」

 

その事を聞かされて俺はそのまま、クローディアの顔色が変わった。

 

「なにはともあれユリスを探しましょう。」

 

「探すと言ってもどこを…。」

 

人工島といっても広大な敷地面積を有するアスタリスクを確証なしで探すのは砂漠からネジを探すのと同じくらい至難の技だ。

だが、行きそうな場所はある程度把握は出来る。

 

「恐らくは未開発エリアの廃ビル辺りだろうな。だが其れだけでは絞りきれん。なにかヒントがあればな。」

 

そんなことを呟いていると天霧の端末が震える。

その画面に写っているのは沙々宮だった。どうやら道に迷ってしまっているらしく天霧に助けを求めてきたようだった。

「ちょっと今取り込んでいるからごめん、ユリスのことで、」

 

「リースフェルト?ならさっき見た、」

 

「本当か沙々宮。」

 

「おや副会長?うん確かに見た。」

 

これは使えると思い沙々宮にお願いをする。

 

「悪いが今いる場所の景色を写してくれないか?」

 

「景色を?うん分かった。」

 

素直に景色を写してくれた。どうやら再開発エリアの外れの方にいるようだ。

 

「助かったよ沙々宮。天霧は手が離せないから俺が迎えに行く。後単位もやるからな。」

 

「まさに棚からぼた餅…。副会長はいい人。」

 

そんな会話をしながらクローディアが場所を絞り混んでくれたらしいのでその場所を天霧に伝えるともどかしそうにしていた。

余裕がない証拠だ。

 

「どうしてユリスは何も言ってくれなかったんだろう…信頼されていないのかな?」

 

「逆だろ。」

 

「逆ですよ?」

 

「へ?」

 

俺たちに小さく苦笑されて困惑の声をあげる天霧。

クローディアに言われたことでハッとなったようだ。

 

「ああ、そうか…。」

 

「出来ましたよ天霧君。」

 

「ありがとうございますクローディアさん、副会長。」

 

データのマッピングが終わり端末に地図データが転送されると同時に弾丸のごとく生徒会室を飛び出した。

 

「…さて。俺たちも行きますかね。その前に沙々宮の救出だな。」

 

「ええ、犯人の顔を拝みに行きましょうか。」

 

そういって立ち上がり再開発の外れのエリアへと天霧の後を追ってクローディアを抱き抱え重力操作を行い向かう。

 

 

 

ユリス達がいるであろう廃ビルへ天霧より先に到着してしまったが既に戦闘…と言うよりも既に犯人達と戦闘が始まっていた。

やはりというべきか、リースフェルトと会話をしているのはサイラス・ノーマンその人でありマクフェイルの取り巻きとして背後にいたときは雰囲気が違っている。これが本当の本性なのだろう。

その会話を認識阻害と光学迷彩の魔法を発動しその様子を窺う。

ノーマンを中心としてその数百二十八体の擬形体がマクフェイルとリースフェルトに襲いかかっていた。

 

マクフェイルの方は多勢無勢に成す術もなくくぐもった悲鳴が聞こえてくるがリースフェルトも耐火性能を上げている擬形体に囲まれており近付くことが出来ていない。

 

ノーマンがマクフェイルに対して何かを言い掛けようとした瞬間にユリスの星辰力が爆発する。

 

「咲き誇れっ!!ー『呑竜の狡焔華(アンテナリム・マジェス)』!!」

 

猛烈な熱波が広がったかと思えば魔方陣を破るように炎の竜が取り囲んでいた人形とその他諸々を焼き尽くす。

耐火性能を上げていた人形も消し炭になった。

その行動にさすがにノーマンも驚いたのか距離を取ってパチン、と指を鳴らす。

新たに出現させた五体の人形をリースフェルトを取り囲むように展開し遠距離攻撃を封じようとした。

接近戦を苦手とするリースフェルトにとっては接近されることは致命的であることをノーマンは知っていた。

 

だが、其れは過去の話だ。

 

《アスペラ・スピーナ》に灼熱の炎を纏わし押さえ込もうとした人形達を切り裂いていく。

 

「切り咲け!『翼刃の焔孔雀(イースターカクタス)』!!」

 

孔雀の羽のように焔の刃がレイピアを通じて解き放たれた。

 

「バカな…技を使っている最中に接近戦の別の技を…!?」

 

ノーマンが驚いた表情を浮かべるが焔の刃と炎の竜を展開しながらリースフェルトが近付く。

 

「お得意の分析とやらもアップデートはされていなかったようだな!」

 

ノーマンへあと一歩…!と確信したリースフェルトであったが慢心していた。

全てを焼き払ったわけではないと。

特攻を仕掛けてきた人形をレイピアで仕留めるが動きを止めずに一瞬身動きが封じられてしまう。

銃を構えた人形達への防御を張ろうとしたが一歩遅く光弾を太ももに受けて負傷してしまう。

 

「くぅっ!?」

 

負傷して動けないリースフェルトを痛め付けるように負傷した太もも部分をノーマンが蹴り付ける。

悲痛な悲鳴が鳴り響き止めを刺そうと背を向けて人形が持つ斧型の煌式武装で振りかざそうとしていた。

思わず目を閉じてしまうリースフェルト。

 

その光景を見てもう見ていられないと、クローディアは動き出そうとしたが俺は制した。

 

『蜂也!?なにを!?』

 

『いや、間に合ったみたいだぞ。』

 

『え?』

 

俺たちの視線の先にあった、其れはー。

 

「ごめん、遅くなった。」

 

白い刀身の黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)を片手に持ってリースフェルトを抱き抱える天霧の姿があった。

 

「綾斗っ!?」

 

リースフェルトに近付く際に取り囲んでいた人形と戦斧を振り下ろそうとしていた人形達全てが両断されていく。

そこからは天霧の独壇場であった。

 

「ー内なる剣を以て星牢を破獄し、我が虎威を示す!」

 

禁獄の力が解放されて片手には黒く染まった黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)に片手には抱き抱えたままのリースフェルトを持ってノーマンの操る精鋭達を切り裂いていく。

その姿は正に一騎当千、人形などでは相手にならなかった。

 

全ての駒を失ったノーマンは奥の手を使いゴリラのような人形が現れたが今の天霧の前では力不足であった。

 

「五臓を裂きて、四肢を断つ!天霧辰明流中伝『九牙太刀(くがたち)』!!」

 

一瞬で巨体を誇る人形は破壊されてノーマンは破壊された残骸にしがみつきその場から逃げ出そうとする。

 

その後を天霧は追うとするが苦悶の表情を浮かべその足を止めてしまう。

が、リースフェルトが炎の翼を展開し外へ逃げ出そうとするノーマンへ追い付き、一刀を浴びせしがみついていた人形を破壊し廃ビルの谷へ落ちていくのを見て俺とクローディアはその後を追いかけた。

 

天霧とリースフェルトがよろしくやるだろうから俺たちはケジメを取らせるべく姿を消したまま俺はクローディアを抱き抱えて廃ビルから飛び降りた。

 

(ゆっくり休んでいろ天霧。あとの処理は俺たちがやるからよ。)

 

裁きの時は近付いていた。

 

◆ ◆ ◆

 

サイラス・ノーマンは足を引きずりながら廃ビルの裏路地を疾走…いや必死に逃げていた。

 

人形達の残骸をかき集め地上数十メートルからの衝撃を殺すことには成功したが決して無事、というわけではなかった。

骨も数本折れているに違いないし、身体中を激痛が走る。

だが此処で足を止めるわけにはいかなかった。

 

統合企業財体の『影星』が動いている以上何があっても捕まるわけにはいかなかった。

捕まってしまえば最後、どんな手を使っても自分が知っている情報の全てを引き出そうとするだろう、そしてその後は…考えたくもなかったが其れ以上に星導館学園副会長《戦士王》にも見つかるわけにはいかなかった。

 

はじめてあったあの場で本能的に察してしまった。

 

『敵対すれば容赦なく殺される』と。

 

「くそっ!なぜだ…なぜでない…!」

 

一刻も早く依頼主、アルルカントヘ保護して貰わねばならぬというのに連絡用の端末は繋がらなかった。

 

「僕が捕まって困るのはあっちも同じだろうに…」

 

「其れは少々自分を買い被りではありませんか?ノーマン君。」

 

「組織ってのは末端がヘマしたら容赦なく切り捨てるからなぁ…そもそもお前は目も掛けられてなかった、ってヲチだわな?」

 

「ひっ!?」

 

闇の中から現れたのは金色の髪を持つ少女とノーマンが今一番に会いたくない人物であった。

 

「生徒会長に…副会長!」

 

少女の手には1本づつ不気味な剣が握られており、鍔飾りはまるで目玉のようであり、一対二振りの双剣はまさしく化け物の瞳のようであった。

 

少年の手に握られて肩に担がれている大剣は突起物が付き更に荒々しい印象を与え迸る紫電がその者の今の感情を表しているような錯覚すら覚える。

 

純星煌式武装(オーガルクス)《パン=ドラ》と《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》。

最恐最悪の武装を持った二人が立ちはだかった。

 

「副会長の言うとおりあなたは向こう側にとっても捨て駒ということだったのでしょう。可哀想に。」

 

「と、取引をしませんか生徒会長!」

 

「取引を?私と?」

 

「…」

 

「全て僕の知っていることを話します!ですから僕の身の安全を保証していただきたい!《影星》ではなく、正規の風紀委員に身柄を委ねたいのです。」

 

クローディアは首を短く傾げ問いを返す。

俺は黙って其れを聞いている。

 

「その場合私にどんなメリットが?」

 

とクローディアが聞き返す。

あ、こいつ楽しんでるな。ノーマンがかわいそうになるが自業自得だからなぁ…擁護はしてやらん。

そもそもにおいてこいつに命乞いをするのが間違っている。

ノーマンは交渉の余地があると思っているのだろうが…残念すぎる。

 

「『影星』は内々に僕を処理してしまうでしょうが風紀委員に担当させれば事件を公表せざるを得なくなる。そうなったら僕を外交カードに使えるはずだ…!」

 

「ふむ…。」

 

クローディアは考え込むような仕草をした。

あ、ダメだこいつこっち見て笑ってやがる。

しかし、ノーマンはこれを好機と考えたのか畳み掛けてきた。

 

「僕とあなたは似た者同士な筈です。他人をゲームの駒としか考えていない。馬鹿共は其れを批判するが、使えるカードを適切に運用することがゲームに勝つ鉄則です。あなたなら其れがお分かりでしょう!?」

 

「なるほど…其れは一理あります…。」

 

その言葉にノーマンが表情を明るくするがそれは一瞬であった。

次の語られる言葉には侮蔑が込められていた。

 

「ですが、私とあなたでは違うところがありますよ。」

 

「え?」

 

「あなたは自らをプレイヤーだと思っているようですが私は自分自身を駒の一つだと考えています。だって、そうでなければ面白くないでしょう?其れに…。」

 

クローディアは俺を見てこう答えた。

 

「私は副会長を駒だとは思ったことは一度もありませんよ?彼は私たちを動かす盤面を進める唯一のGM(ゲームマスター)だと思っていますから。」

 

さも楽しそうに笑みを浮かべてそう答えた。

 

「其れに、この件を公表して外交カードとして使うよりも内々に処理してアルルカントへの貸しを作っておいた方が私としてはお得なのですよ。」

 

無慈悲な否定に、サイラスの顔がひきつり足がガクガクと震える。

サイラスは絶叫と共に最後の奥の手を解放した。

服の裏側に隠していたナイフを操りクローディアへと投擲した。

この距離では回避しようがない、絶対の自信を持った最高のタイミングだった。

 

しかし、

 

「俺がいることを忘れていないか?」

 

気がつけないスピードだったのにも関わらず『クローディアが襲われることを初めから予測していた』様だった。

ナイフが軽く武装で弾かれてしまう。

まるで通じない。後ずさりするノーマンを俺が金色の《瞳》が射貫く。

 

「ひっ…。」

 

「殺しはしねぇよ。後処理が面倒くさいからな…お前にはまだ教えて貰わなきゃならないからな。」

 

そういって武装を振るうと四肢の健を断ち全身から血を吹き出し校章が真っ二つにされた。

 

「かはっ…!」

 

ドサリ、と冷たい地面に倒れ込み意識が飛んでいないことを確認して俺はノーマンへ近付く。

 

「さぁて…知ってること全部教えて貰うぜ。」

 

そういってノーマンの頭蓋を掴み精神干渉系統魔法『消失』を発動する。

記憶を遡り、こいつがどんな奴と出会いどんなことを依頼されたのかを突き止める。

 

その記憶の中にいたのは一人の少女。アルルカントの制服を着用し自由奔放な美少女の姿が写し出された。

その名前はー。

 

「エルネスタ・キューネ、か。」

 

俺は何故だか長い付き合いになりそうだと俺の直感が告げていた。

 

 

「まー潮時かしらねー。十分なデータは取れたし、おまけでやらせてた有力学生の闇討ちも思いの外頑張ってくれたみたいだし。」

 

周囲には無数の空間ウィンドウや計測値やグラフを刻々と変わるものを目で追いながら独り言を呟く。

 

「いやー、其れでもわたしちゃんの人形が優秀だったってことかなーあっはっは。」

 

蜂也に名前を知られているとは思わないエルネスタは上機嫌に笑いながらキーボードを呼び出す。

 

「謎の転入生二名…特に《戦士王》のデータは欲しいかなぁー」

 

口元に不適な笑みを浮かべたまま正面を見据える。

その視線の先には二体の人形が静かに眠っていた。

 

 

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