俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
「しっかし…そろそろ
襲撃?を受けた日にその事をクローディアに報告すると心配されたが問題はない、と言うと安心はしていた。
しかし一緒に綺凛ちゃんといた事を告げると途端に機嫌が悪くなっていた。
お前はあれなのか?山の天気並みに変わっちゃうの?
こうして日常をクローディアと綺凛ちゃん達と数日を過ごしていると
今は食堂に来ており俺の両隣には何時もながらクローディアと綺凛ちゃんが陣取っておりそして何時もながら天霧達のグループが合流し食堂の一角を占領している。
数ヵ月前にこの序列と二つ名を拝命…というか付けられて以来の問題についてボソッと呟く。
「しっかし…なんでこう…俺にサインとかねだってくるんだろうな?価値なんかないだろうに。インクと紙の無駄やぞ。」
序列入りしてからというものサインをねだられたりするのだが俺は一切行わない。
「勘違いしてんじゃねーよ」や「お前の書いた字だろ?これで契約書作成するからな」と悪用されたりするに違いない。
実際に俺以外の序列入りしている奴らのサインはネットオークションで高値で取引されているらしい。
嫌な小遣い稼ぎだとは思う。
「お義兄さんはその…自分の実力と人気を把握しておいた方が良いと思います。わ、私のお義兄さんですからっ」
「流石は私の蜂也です。」
二人してそんなことを言うものだから俺はばつが悪かった。
「…それに俺より天霧とかユリスの方がサインを貰った方が嬉しいだろ。イケメンで美少女だろ?主に前者は爆ぜろ。」
「えぇ!?俺にだけ扱い酷くないですか…」
「まぁ…蜂也に言われるのは悪い気はしないが…そもそも私も自分のサインを安売りなどしない。」
天霧が反応しリースフェルトが満更でもない表情を浮かべていた。
それより此処にいる英士郎や沙々宮を除く全員が序列入りしており天霧は十一位に入り込んでいた。
普通に凄いと思う。
しかし、俺の言葉に反論するようにこのテーブルにいる奴らが答えた。
まずは夜吹。
「いやいや大将…序列外、尚且
「決して傲ってる訳じゃないんですがお義兄さんの剣、わたし数ヵ月でもう追い抜かれちゃいそうです…。だからお義兄さんは凄いんです。」
綺凛ちゃんにそう煽て上げられ。
「確かに蜂也の戦闘スタイルはわたしが目指すものだからな。普段の言動は目に余るが戦闘力で言ったらアスタリスクの十指に入る、そう思ってる。」
ユリスの追撃が入り。
「確かに副会長は完全適合者、ってことで噂の人ですけどなにかこう…まだ実力を隠しているというか。そんな感じがするんですよね。」
天霧からのフィニッシュー…俺の感情がどうにかなっちまいそうだった。
「あのな…公式試合もしてやいないのにそれで持て囃されるのはちがくないか?」
コメントに俺は否定的な反応を返すと全員…というかクローディアに一番呆れられた。
何でだよ。
「蜂也はもう少し自己肯定感を上げていただきませんと。」
「自己肯定感もなにも俺じゃなくて《
「確かに《グラム》は凄いですが一番に凄いのは蜂也なので。流石はわたしの蜂也です。」
「そうですよお義兄さん。もっと自信を持ってください!わたしの…お義兄さんなんですから。」
ちょっと、というか綺凛ちゃんから「わたしのお義兄さん」といわれるのはちょっとグッと来たがここで反応をするとクローディアが拗ねると俺の直感が告げていたので喜ぶのはやめた。
微妙な空気が流れていたのでそれを察した天霧が話題転換をしてくれた。バッチグーよ!(古い。)
「クローディア。星武祭のトーナメント抽選ってもう終わったの?」
「ええ。ここに来る前ですがつい先程
その言葉に一同が空間ウィンドウに釘付けになった。
ズラリと並んだ名前、名前…覚えるほど億劫な数で俺は数えるのをやめた。
細かい文字で形成された城のようなトーナメント表がそこにはあった。
実際にクローディアの
天霧も同じような反応をしていたが当然だろう。
「えーとえーと…あ、ありました!Cブロックみたいですねお義兄さん。」
「ああ。そうみたいだな。」
「ふむ…我々はBブロックか。取り敢えず本戦までお前達と当たることはないな。」
ユリスは綺凛ちゃんと顔を見合わせて一先ず…と言ったように安堵していた。
しかし俺が注目していたのは別のペアだった。
「クローディア。アルルカントのペア…自、じゃなかったエルネスタとカミラのペアは?」
「ええ。あの二人は…Hブロックですね。」
「絶対何か仕掛けてくんだろあの科学者達。」
別のブロックにいることが分かり本戦でぶつかることになるだろうと、避けて通ることは出来ずに俺自身の研究の開発のために少し力を貸して貰うことになる、その未来が見えた。予感だけど。
その後は全員にクローディアが選手のデータを送信し対策に当ててください、と付け足した。
「因みにですが蜂也と綺凛さんのペアは今大会の優勝候補筆頭ですので頑張ってくださいね?二人だけでなく天霧くんもユリスも我が学園の代表なのですから警戒されるのは当然と言えば当然ですがね。」
「無論だ。」
「あはは…頑張るよ。」
その一言で綺凛ちゃんがあわわ…となって俺は心底面倒くさそうな表情を浮かべざる得なかった。
正直エルネスタ達にしか興味がないのでサクッと終わらせようと思う。
そんなことを思っているとリースフェルトから声を掛けられた。
「蜂也。」
「あ?」
「我々は必ず決勝まで進む。だからこそお前達のペアを私たちのペアで打ち倒し
宣戦布告をされ俺は一瞬呆けてしまったがその言葉を理解し鼻で笑った。
「ふっ…それはこっちの台詞だ。戦い方を教えてやったんだ。無様に予選で負けたら只じゃおかねぇ。まぁ、決勝でぶつかったとしても俺と綺凛ちゃんペアに勝てるとは思わないけどな。」
売り言葉に買い言葉ではないがそれにリースフェルトと天霧は笑みを浮かべながら力強く頷いた。
トーナメントをみていて俺たちのブロックで当たるであろう選手で面倒だなと思ったのはレヴォルフ黒学院に所属する
◆
不機嫌そうな表情を浮かべ手をポケットに突っ込む小太りの青年が薄暗い中を歩く。
隣には眼鏡を掛けた大人しそうな少女が随伴している。
場所は変わってレヴォルフ黒学院の懲罰教室と呼ばれる所謂”監獄”のような場所にその学院の生徒会長ディルク・エーベルヴァインと秘書のような少女樫丸ころなが一つの牢屋の前にたっていた。
牢屋のロックを解除して中に入っている人物に声を掛けた。
「よう、阿婆擦れ女。生きてるか?」
「ほう…誰かと思えばあんたか。こんな陰鬱な場所に何の用だい?」
その室内には手首に壁から繋がった枷を嵌められて制服姿のまま胡座を掻いている。
夏場だと言うのに長い赤いマフラーを着用し上着は着崩しており下着とその豊満なバストが顔を出す。
牢に繋がれているのは目付きが狼のように鋭い少女だった。
「お前に頼みたいことがある。」
「はっ。」
ディルクの言葉に女子生徒は鼻で笑った。
「”頼み事”だぁ?命令の間違いだろう?あんたが本気で言ってるならあたしに拒否権はない筈だ。」
「聞いてくれりゃぁ今すぐその牢屋から出してやる。」
その言葉と同時に彼女の足元になにかが投げ入れられた。
「頼み事があるってならその前に差し入れの一つでも…っち栄養バーかよ。」
投げ入れられたのは栄養バーで女子生徒は悪態を尽きながら繋がれていない空いている片手で包装を破りむしゃぶりついて食した。
まさに野獣と言えるだろう。
「ごちそうさま…水が欲しいな…って何をすりゃいいのさ?」
栄養バーの空を握りつぶし喉の乾きを訴えるがディルクは話を続ける。
「大したことじゃねえ。星導館の生徒を一人叩き潰してくれれば良い。再起不能になるくらいにな。決闘じゃダメだ。しかしちょうど良いところに
ディルクが視線を飛ばすと持っていた端末を牢にいる女子生徒に見せる。
そこには自身の名前ともう一人のペアの名前が書かれおりその表情は少し歪んだ。
「
「お前なら本選に楽に出場できるだろう?それに向こうも一緒だ。そこら辺の雑魚とは一戦を画す。お前のような実力者に出張って貰う必要があるんだ…潰せ。”勝つ必要はない”。」
無意識にその言葉に従ってしまうかのような言葉に思わずディルクの隣にいたころなは恐怖した。
「…ああ。勿論優勝して貰っても構わねえが。」
「簡単に言ってくれやがる。…そもそもそんなにつえーならうちの序列一位を使えば良いだろ。」
そう女子生徒が言うとディルクが面倒くさそうではあるが説明してくれた。
「オーフェリアは今何処にいるのか分からん。あの女何処ほっつき歩いてやがるのやら…」
「はん、ざまぁねえなディルク。お前さんがそんな性格だからだろうな。…それよりあたし達を使うよりだったら”猫”を使った方が良いんじゃないか?」
女子生徒が指摘すると苛立つようにディルクが説明する。
「ふん…
「それだけか?」
「…奴は星導館序列三位の男だ。」
「序列三位?強敵に入る部類だが何とも微妙な采配だな。」
この少女にしてみれば他校の序列三位など歯牙に掛けないほどの実力を持っているからこその発言だったがディルクは訂正しなかった。
「出来もしない仕事、仕事の割り振りを間違ったことがあるか?」
ディルクにそういわれ考え込んだ少女は口を開く。
「そもそもなんでその男を狙う?理由は?」
これにはディルクも面を食らったのか、舌打ちが廊下に響く。
彼がストレスが溜まったときにやる一種の防衛本能だ。
「教えてやる義理はねぇが…知っていた方が何かと便利かもな。…お前『
その武器の名前に女子生徒は頭に?を付けた。
「はぁ?なんじゃそりゃ。」
「知らねぇのも無理はないか。星導館学所有の…封印指定処理がされていた
「封印されていた
「お前が知る必要はない。…誰だってあの事を聞かされたらそう思うだろうぜ。」
「???…まぁ良いか。それより最後の質問良いか?」
「ああ。」
「…手出しはさせてねぇだろうな?」
「当然だ。備品を完品で保管するのは俺の流儀だし。契約は絶対だ。」
二人は無言のまま睨みあっているとやがて少女のほうから視線を外す。
「ちっ…モノ扱いは気に入らねぇが…まぁカジノで暴れたぐらいでこんなところに閉じ込められるのもつまらねぇと思ってたからな。仕事なら有り難く頂戴するさ。ディルク・エーベルヴァイン。」
「さっさとそう言いやがれ。イレーネ・ウルサイス。」
ディルクと契約したイレーネは檻から解放された。
イレーネは体を鳴らしニヤリと笑い2本の鋭い牙が覗かせる。
さながら美しき肉食獣が野に放たれたのだった。
◆ ◆ ◆
「すげぇ人だな…これ。」
「ふふっ、お義兄さんそれは出場者達の事ですか?それとも…」
俺の口先から漏れた呟きを隣に立っているペアの綺凛ちゃんが聞き付けたのか少し悪戯っぽい表情を浮かべながらそう言うと視線をぐるりと巡らせた。
「この観客席の人達の事ですか?」
「両方だな。本当にうんざりするぞこの視線、視線、視線…」
人がまるでゴミのようだ、と言いたくなったが自重した。
ふと後ろを見ると天霧とユリスも同じ内容の会話をしているようだった。
六角形の壇上にそれぞれの生徒会長が立っておりその場にはクローディアや恐らくツアーが終わり戻ってきていたシルヴィもお客さんへの笑みを見せている。
流石はプロだな…ってなんで俺を見て笑顔なのかが分からないが。
「諸君、おはよう。こうして今年もまた君達の勇壮な姿を見ることが出来て嬉しく思う。」
先程まで市長が演説をしていた登壇場に壮年の男性が現れ演説を始める。
男は良く通る落ち着いた声でそう挨拶すると人懐っこい笑みを浮かべる…が俺にはどうも腹に一物抱えてるようなそんな気配を感じ取った。
「あれは?」
隣にいる綺凛ちゃんに声を掛けると少し驚いたような表情を浮かべている。
本当にころころと表情が変わる子だ。
「あれって…お義兄さんあの人は大会運営本部委員長のマディアス・メサさんです。星導館学園のOBですよ?」
「随分と若いが…四十代行ってないだろあれは。」
「はい。確か四十代には届いていなかった筈です。学生時代には
「……。」
なるほどな…道理で静かでどっしりとした星辰力は抑えられていてもその強大さが伝わってくる。
同時に”きな臭さ”も抑えられているみたいだがな。
壇上に上がっているマティアスを観察していると俺ときな臭い男の視線がぶつかった。
(どうして俺の視線を感じて”警戒”の表情を浮かべたんだ?)
ほんの一瞬だったがその視線に含まれた意味合いを見逃すほど俺は間抜けではなかったが本当に一瞬だったためその真意は分からない。
俺は壇上にいる人当たりの良さそうな男に警戒される覚えはなかったが現にその視線を受けているので警戒をせざるを得なかった。
退屈そうにしていたのがバレたのかと、真面目に話を聞く振りをすることに徹した。
◆ ◆ ◆
マディアスは視線が合った少年に無意識に心の奥底を見透かされたような感じがした。
これも何時も通りの事だ。
壇上の眼前にはこの祭りを盛り上げてくれる”駒達”がいる。
その中には遥の弟もいてこの祭りを盛り上げてくれるだろうと内心でほくそ笑んでいた。
その前方にいる気だるげな青年に目を向けると視線が合ってしまった。
(…!!?)
得体の知れない、いや”まるで見透かされているような視線”を受けて思わすマティアスはそれこそ表情には出すことはなかったが内心で冷や汗を掻く羽目になったのだった。
同盟者であったヴァルダの腕が青年が持つ武装によって切り落とされディルクが蜂也に警戒をしていたその片鱗をこの距離から感じ取った。
しかし、マディアスは同盟者である人物が動き出すことが折り込み済みであるので対処は彼に任せ今は運営としてこの”ゲーム”を盛り上げるべきだと思考を切り変える。
(彼が一番少年とその武器について警戒をしていたからね…私が動かずとも既に指示を部下に出しているのだろう。何…今は動く必要はない。)
遥の弟ではなく、今尚不敵な笑みを浮かべている《戦士王》と呼ばれた名護蜂也の動向を静観しようと決めた。
その諸々が勘違いだったと気がつくのがいつになるのか、それは分からない。
手遅れであったことも。
◆ ◆ ◆
壇上のマディアスがレギュレーションの変更を告げた瞬間に会場は騒然となった。
”自立稼働兵器の代理出場を認める”と言うものだったからだ。
さらに続く言葉を重ねる。
「賢明なる諸君には、これが特定の学園を有利にさせるためのものではなく、むしろ近い将来平等性を確保するためのものであることと分かって貰えると思う。我々は常に、諸君にとって最善の道を用意するため、全力を尽くしていることを信じて貰いたい。」
ざわめきが収まると同時に大きく手を広げて宣言し観客は大盛り上がりを見せていた。
一方では選手達は反対の反応を見せている。
当然だろう。どう考えても面倒事が増えるのだから、と言いたいところだが俺はさっさとその自立稼働兵器の姿を見たかった。
マディアスが壇上から降壇すると別の人物と入れ替わり退屈な式典が続いていた。
…どうして偉い人ってのは長話をしたくなるんだろうなぁ。貧血が起こる原因はこれだと思うんだが。
こうして解放されたのは正午近くになっており選手達はステージから引き上げる。
俺たちの試合はまさかの初戦。試合開始まで時間はあるが食べに行くのは少し気が引けると言った時間だったし綺凛ちゃんは天霧達を呼びに奥へ行ってしまったので俺一人で待つことになった。
「俺たちの試合会場はここで良いんだっけか……移動をしなくても良いけど昼飯どうするかな…試合前に少し腹ごしらえしておきたいんだが…出店は人が多そうだしなぁ…出店の焼きそばがあんなに美味しそうなのは何故なのか。」
昼飯を食べるのには賛成だ。腹が減っているからな。
しかし買い出しに行くというのもなかなかにエネルギーを使うのだ。
あの人の波に飲まれるというのは好きじゃない。
だが時間は有限で先に昼食を買いに行こうと動くか動くまいか。
どうしたもんかと思案していると肩を叩かれた。誰じゃい。…ってそこには大スターが満面の笑みで立っていた。
「それは祭りの雰囲気と火力じゃないかな…。久しぶりっ!蜂くん。」
紫色の長髪を靡かせる美少女、シルヴィア・リューネハイムがそこにいた。
「…何してるんですかシルヴィアさん?てかこんなところにいて良いのかよ…?」
「わたしはクインヴェール女学院の生徒会長なんだから
全くもっての正論だった。
が、シルヴィアはもっと自分の存在の大きさを知っていてほしい。
通路にいる連中がこっちを凄い目で見ているのだか…特に男の視線がヤバイ。人を殺せるんじゃないかっていうレベルだ。
「それにね?…はいこれ。」
シルヴィアが後ろ手に隠し持っていた大きな木編みのバスケットが俺の目の前に出された。
「…これなに?」
「開けてみて?」
バスケットの中身を確認してみるとサンドイッチが入っていた。…む、トマトかあるのか。
「お弁当。お昼まだだと思って作ってきちゃった。」
「は?マジで?」
歌姫が手作りお弁当を持ってくるとは思わないので変な声が出た。
あ、シルヴィア笑いやがったな今。
「わ、笑ってないよ?…ふぷっ。」
全国のシルヴィアのファンがここに居たら俺は今ごろ死んでいるだろうな。
嫉妬で。
と言うか今この状況で血涙をながしているような奴もいる。
考えても見てほしいんだが世界的な歌姫が只の一ファンにお弁当を作ってくる光景を想像したらそのファンを八つ裂きにしたいだろう?俺ならそうする。
そのくらいにこのバスケットの中身は貴重なのだ。
そんなことに意も介せずに更にシルヴィは追撃を仕掛ける。
「…それに、ね?蜂也くんの応援に行くって約束したじゃない。」
少し頬を赤らめていうその姿はそれだけで一枚の絵画のようだったがこれ以上燃料を投下するのは不味いと考えた俺は素早くシルヴィアの空いている手を取って移動しようとするが遅かった。
「蜂也~?ここにいたんですね…ってどうしてリューネハイムさんがここにいるのかしら?」
星導館学園の生徒会長クローディア・エンフィールドが何時ものような笑みを浮かべているが俺には分かる。
これは”機嫌が悪くなってるヤツ”だと。
言い争いになる。そう確信した俺は問答無用で二人の手を取ろうとしたが向こうから聞き覚えのある声がして振り返る。
そこには綺凛ちゃん達がいた。
まさに九死に一生を得て天霧達と共に控え室へ向かった。
◆ ◆ ◆
「胃が破壊されるかと思ったわ…ストレスでな。」
「お義兄さん…大丈夫ですか?」
Cブロックの第一試合。そのステージに進むための通路で待機していた。
昼食を取った…のだが何故かにこやかな笑顔のままクローディアとシルヴィアがバチバチしておりその光景をユリスと天霧が苦笑いしてみており綺凛ちゃんはあわあわしながらその状況を見ていた。
トマト?それは残し…はできずシルヴィアが作ってくれた手前無理に口に突っ込み咀嚼したが吐きそうだった。
正直疲れたから帰りたいのだが今から試合が始まるのでそうも行かない。
さっさと終わらせることに決めた。
先ほどのバチギスしていた空間で唯一俺を心配してくれていたマイシスター綺凛ちゃんの頭を無意識に撫でていた。
「はぅ…お、お義兄さん?」
「本当に可愛いなぁ…綺凛ちゃんは癒しすぎる。」
「…………えへへっ。お義兄さんの撫で方気持ちいいです。」
恥ずかしそうではあるが嬉しそうにしているこの少女の願いのために頑張ろうとそう思えた。
「綺凛ちゃん。お願いがあるんだけどさ。」
「はい?なんでしょう。」
「この試合なんだけど俺に任せてくれないかな。」
「えっと…どうしてでしょうか?」
「俺が単体で二人討ち取ればこれ以降の試合で相手は下手に動けなくなるでしょ?ほら俺って戦闘データ殆ど無いくせに何か警戒されてるっぽいし。誤解して貰おうかと思ってさ。それに手札は隠せるなら隠した方がいい。連携パターンとかね。」
「成る程…!」
綺凛ちゃんが納得してくれたのを確認してチョッとした”作戦”を提案しこれからの試合に備えることにした。
打ち合わせが終わると会場からのアナウンスと実況が流れ始めた。
『それでは本日の第一試合、Cブロック第一回戦一組の試合を始めまーす!』
広大なステージに実況アナウンスが響き渡る。
…この元気っ娘の声は小町に酷似していてめっちゃ焦った。
通路にいても分かる程の大歓声が会場を揺るがして無数のライトがステージを照らし出した。
俺と綺凛ちゃんは顔を見合わせて互いに頷いて入場ゲートからステージへ足を踏み入れる。
…柄じゃないがこういうのは勢いとハッタリが大切だからな。
『まず姿を現したのは星導館序列一位である刀藤綺凛選手と序列三位の名護蜂也選手!!両選手は共に新旧の序列一位と三位を入れ違いで経験している星導館の猛者です!それに情報によれば刀藤選手と名護選手は同じ剣術流派の師弟という話です!名護選手は刀藤選手との試合を除いて今までに行われた公式戦が一刀一撃!殆どデータがないという異例中の異例で今回もっとも注目されている選手ではないでしょうか!あ、ちなみに名護選手の二つ名《戦士王》は同学園の生徒会長であるエンフィールド女史によって名付けられたそうです!格好いいですね!』
バカにされてないかこれ…?
『今回の
『あ、そうそう!名護選手の持つ
やはりというか解説役が俺の持つ武装について説明を始める。
『いや、この武装の詳細はわたしも知らないっすねー。『四色の魔剣』の一振にも該当しないこの武装は『封印されていた魔剣』と呼ばれるに相応しく使い手はこのアスタリスクが始まって以来現れたことがないみたいっすね。噂だと『四色の魔剣』を束ねる頂点にある武器らしいっすよ?』
それは初めて聞いたな。そうなのか?と
(我はその認識は無いのだが……うむ。確かに何故かセレスタ達は我の言うことを聞いていた、様な気がするな。)
(マジじゃねーかよお前…。)
(うむ、細かいことだからな。気にするな。)
しかし…中々に有力な情報を聞き出せたものだと俺は思った。
頭の片隅に記憶しておこうとするぐらいにはな。
『なるほどなるほど~!その担い手の《戦士王》のパートナーは《疾風刃雷》こと刀藤選手ですからね優勝候補の一角…というか筆頭でしょうね~。』
『このペアが
『それでは続いて対戦相手であるガラードワスのタッグですが…』
実況者達は先ほどの俺たち解説と同じようなテンションで解説を行っておりそのやり取りを聞いていると隣にいる綺凛ちゃんに声を掛ける。
「緊張してる?」
「はい…です。こんなにも人が一杯なのはその…。」
「まぁ俺もあんまり目立つのは好きじゃないからな。見世物にされてるみたいであんまりなぁ…」
「でもお義兄さんは普段と変わらないような顔色だと思うのですが…。」
「まぁ、衆目にさらされながら戦うのは…まぁ。」
「??」
俺の煮えきらない回答に綺凛ちゃんは頭に(?)を付けていたがこの間の序列戦のことを思っているのかもしれないがそれは向こうであった九校戦の事なんだが…ややこしくなるので訂正はしない。
「さて…そろそろ始まるか。」
話を切り上げ正面を見据えると対戦相手であるガーラドワースの少年達が既に
どちらも剣型の
…そういえばクローディアに「聖ガラードワース学園」は所謂”騎士道精神”的な校風なのだから剣型を使う奴が多いとは聞いてたな。
一番偉い奴が「○クスカリバー!」とか言ってくれるんだろうか…?マッシュポテトしか出てこない学園とか嫌だぞ俺は。
俺もホルダーから『
同時に綺凛ちゃんも《千羽切》を鞘から抜き放ち正眼の構え…まぁ何時も通りの構えをする。
準備を終えた俺たちを確認しアナウンス席から実況解説の二人の声が会場に響く。
実況者の声に反応するように校章が自動で発光した。
『
機械音声が鳴り響くと同時に向こうの選手が剣を構えて突っ込んできた。
恐らく一気に接近し勝負を決める腹積もりなのだろうが”相手が悪すぎた”のだ。
『おおっと!?名護選手自らの純星煌式武装を抜いていません!通常の煌式武装です!』
実況席が囃し立てるように解説する。
それを聞いた相手選手が驚いていたのは当然だろう。
だが、”これで十分”なのは当たり前だ。
「綺凛ちゃんは下がってて。」
「はい。分かりましたお義兄さん。」
素直に下がってくれた綺凛ちゃんに感謝しつつ発動体を握り星辰力を込める。
武器を抜いてくれたのに戦わせない、というのは中々に失礼だとは思いあとで一つ綺凛ちゃんのやりたいことを叶えてあげようと思った。
言葉には出さずに《グラム》に告げた。
(取り敢えずお前に所有権渡すわ。適当にやってくれ。)
『…いい加減だな主よ。我を使わずに他の武装を使うとは』
明らかに不機嫌で怒っているのが伝わってくるが此処はこいつを立てておかなければ。
(この程度にお前を使うのも勿体無いしな)
そういうと《壊劫の魔剣》は気分を良くしたようだ。
『そういうことか…仕方があるまいよ。』
「当方に迎撃の用意有り…といいたいところではあるが…」
力を込めると同時に特殊な素材で作られたアリーナのステージを破片が飛び散るほどの脚力で踏み込み加速する。
「遅いな。」
「な、なに…?」「あ……!」
二人が俺めがけて剣を振るったり突き刺す動作をするが手応えはなく俺は既に”その選手達の後方”にいるのだから。
大剣を無造作に払うと同時にガラードワースの選手は二名とも自分に起きた状態に気がつきその場に崩れ落ちた。
地面には既に校章が二名分割れて転がっていたからだ。
発動体をホルダーにしまい綺凛ちゃんの元へ戻ると機械音声が静まり返った会場に響き渡る。
「
勝者を告げるアナウンスが終わると堰を切ったかのように割れんばかりの大歓声が観客席から轟いた。
笑顔で出迎えてくれた綺凛ちゃんがマジ天使だった。
『早い…早すぎます!まるで実況する暇もなかったまさに”神速”!これはもはや圧倒的といっても良いでしょう!』
『いやはや…本当にお見事でした。』
『名護選手が封印されていた
『まだまだ始まった予選ですが名護選手の試合の動向が気になりますねー。要注目の選手であることには変わりませんが期待が高まるばかりです。』
実況者席に座ってるお二人さん?少し言いたいことがある。
めちゃくちゃやりづれぇ…。
俺は軽く振るって背中に納めるようにして振り返る。
刀身を形成していた万応素が分解され発動体の柄だけになる。
瞬殺してしまった二人の選手には少しの申し訳なさと実況のこの状況のいたたまれなさで胃が痛くなったが共にステージ裏に捌けてきた綺凛ちゃんの笑みに癒された。
「お疲れさまですお義兄さんっ!」
「本当に綺凛ちゃんだけが癒しかもしれないわこれ。」
「?…はぅ?」
首を傾げる綺凛ちゃんが可愛すぎる。
「あ、そうだ綺凛ちゃん。なにか俺にしてほしいことある?」
「ふぇ?突然どうしたんですかお義兄さん?」
「ああ、いや俺の作戦に乗って貰ったのとせっかく刀を抜いて貰ったのに振るう機会がなくなったからお詫びにと…」
そう俺が提案すると慌て始めた。
「そ、そんな!わたしの方がお義兄さんにして貰ってることが多いのに…そんな…。」
なんと奥ゆかしいのだろうかうちの義妹は。
向こうにいる妹達にも見習ってほしいものだが今は置いておこう。
意地悪な言い方になってしまうが奥ゆかしい義妹をその気にさせるにはこれしかない。
「俺になにかして貰うのはイヤ?」
俺がそう言うと綺凛ちゃんは俺の袖口をつかんで呟いて俺にして欲しいことを告げてくれた。
「お義兄さんはズルいです…でしたらその…わたしとプールに出掛けてください…。」
「プール?」
「はい…その…この間の時にも言いましたけどわたし泳げないので…お義兄さんに見てほしいです。」
「分かった…けど俺で良いの?他の子と…」
時期的には今は夏だ。
海水浴のシーズンだからちょうど良いだろう。
しかし俺と一緒で良いのだろうか?
「い、いえ!お義兄さんと一緒が良いんです!…あっ…はぅ…。」
自分が大きい声を出してしまった事に恥ずかしがって顔を赤くしていたが綺凛ちゃんがそれを望むなら成し遂げよう。実際に剣術とかで世話になっているからな。
そのくらいの手伝いはさせて欲しい。
「分かった。予選が終わったら行こう。…んじゃ気が進まないけどインタビューを受けに行こうか。」
「はいっ!」
俺と綺凛ちゃんは連れだって勝者インタビューが待ち構えている通路へと足を運んだのだった。