俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
イレーネ・ウルサイスは苛立っていた。
自分の雇い主であるディルク・エーベルヴァインが契約を履行していないお陰で
妹を自宅のマンションに送り届けてから凄まじいスピードでレヴォルフの生徒会長室へ殴り込みを掛けていた。
事の真相を知るためである。
門番のように立っていた生徒達を一蹴しドアを蹴破り中へ侵入するイレーネを出迎えたのは不機嫌そうな表情を浮かべるディルク本人と驚いた表情を浮かべる腰巾着の女生徒一人だ。
会話を挟み怒りの沸点がピークに達していたイレーネは『
「ちっ…!ここにも《猫》を潜ませてやがったか!」
「俺はお前と違ってか弱い一般人だぞ?そのくらいの備えはしていて当然だろうが。」
「え?猫?ど、何処ですか?」
ディルクとイレーネは《猫》という意味合いを理解して会話をしているのだがころなは”猫”という意味合いで周囲をキョロキョロと見渡すが当然ながらそんなものはここにはいない。
そんな様子を見て呆れているディルクは武器を構えたイレーネに語る。
「んで?どうして、何を、もってそんな言いがかりをつけにわざわざここに来たんだ?聞かせてもらおうじゃねーか。」
「…知らねぇとは言わせねぇぞ。今日、プリシラが襲われた。」
「ああ。その件か。歓楽街の連中が引き起こしたようだな。」
指して問題じゃねーだろ、と言わんばかりの軽い口調で言い放ちさらにイレーネの怒りのボルテージが上がっていく。
「そもそもお前や妹が襲われたのはテメーの撒いた種だろうが。」
「そいつは承知してる。…だがな!あんたとの契約の内容にプリシラの保護があったはずだろうが!」
「無論、覚えてるさ。お前ら姉妹に手を出さねぇ様に通達はしてあるしお前の妹に護衛を付けている。先日お前を襲った連中にもお灸を据えてやったしな。ただ、
「ちっ…まぁいい。だがな。ディルク。あたしがプリシラの傍に居ない時は《猫》が付いてるんじゃなかったのか?そいつは今回何をしてやがった!」
「《猫》は付けてやってる。少し出遅れたみたいだがな。」
「少し…出遅れただと?」
再びイレーネの瞳に剣呑な光が宿る。
「…どうせ
「ークタバレ。」
抑揚のない無機質な声と感情が映っていない表情。
しかしその様子とは裏腹に命を刈り取る死神の鎌はディルクの台詞が言い切る前に喉元を切り裂く為に振るわれた。
だが。
「……っ!!」
喉元を切り裂こうとした紫色の刃は寸前で軌道を変えられてしまったように逸れてディルクの頬を薄く切り裂くだけでとどまった。
その様子を見たイレーネは再び妹を侮辱したこの男の喉元を切り裂くために間合いを図りゆらり、と
ディルクは不快感を露にするように鼻で笑った。
「ふっ…そこまで浸食が進んでいやがるとはな…おい。イレーネ。」
「あ゛ぁ?」
「テメーを拾ってやったときから変わらねぇな。…目先のことしか考えてねぇ阿呆め。そんなんだから余計な敵を作るんだ。それにな…”俺が居なくなって困るのは一体何処のどいつだ”?」
「…っ!」
ディルクの無慈悲に放ったその一言にイレーネははっとして顔を見上げる。
「大体今回の出遅れた、と言っても現場には居たんだ。…星導館の男が余計なことをしなきゃ《猫》は間に合ってやがったんだ。…それにあの男《猫》の視線に気が付いて探るような仕草をしてやがってったと言うしな…ちっ。」
イレーネに最後のディルクが呟いた言葉は聞こえなかったがそんなことは問題ではないということだった。
「…だがあの野郎に救われたのも確かだ。」
敵である男に妹が救われた、という事実がそこにはあるのだから。
「わかったわかった…どうして欲しいってんだ?」
ディルクは不機嫌そうにそう言った。
「このままじゃ遣りづらくてしょうがねぇんだよ。こっちはこっちで筋を通すからあんたは茶々を入れんな。」
「ー好きにしろ。」
「ふん…邪魔したな。」
ディルクはまるで野良犬を追い払うように手を振った。
イレーネが居なくなった後にころなに占うように指示を出した。
当の本人は「部屋を片付けた方が良いのでは?」と意見を出すがディルクに一蹴されていそいそと占いの準備を進める。
普段はどうでも良い占いを行うがちょうど
ころなを中心に莫大な万応素が終結していたがころなは気が付かない。
ただ占いをしているだけなのだから。
複数のカードを選ぶ所謂”星占術”と呼ばれる方法に似ていた。
カードを五枚選び終えるところなの周りに展開していた魔方陣は消滅した。
結果としては”ウルサイス達が優勝する”という良い結果が出て顔を輝かせていた。
その結果を見たディルクは小さく手を振ってころなに指示を出して帰らせた。
一人半壊している生徒会長室に残ったディルクは腕を組んで考えを巡らせた。
ころなの占いの結果が”ああなるのならば”手を打たねばならないと。
「金目の七番へ繋げ。」
レヴォルフ黒学院の生徒会長が使用を許可される携帯端末を手に取りそう短く告げた。
◆ ◆ ◆
「どうしてこうなった…。」
午前中に沙々宮の捜索をしていたはずが対戦相手である妹がガラの悪いチンピラに絡まれているところに遭遇し助け出したのは良いものの勘違いされて危うく戦闘に突入しそうになったが事なきを得た後に探し主が無事に見つかると言う骨折り損なのか結果オーライか分からないことになってしまいその場を後にしようとしたのだが…。
『わたしを助けでくださったお礼とおね、姉がご迷惑をお掛けいたしましたので食事でもどうでしょうか?』
『お、おいプリシラ…!』
『お姉ちゃんは黙ってて!』
『…っぐ…はい…。』
と言うようなやり取りがあり俺は今現在プリシラさんに教えてもらった居住区に程近いマンションにやって来ていた。
高級マンション…と言うわけでないが小綺麗で洒落たマンションだ。
その一室の扉の前に俺は立っている。
「え?てか店じゃないのか?普通その日に会った男を家に呼び…なるほど。」
プリシラさんは戦闘力は皆無そうだったが策謀担当だったのかと納得した。
”お礼”はお礼でも”お礼参りの”方だったかと納得し警戒をすることにした俺は警戒しつつインターホンを鳴らすと部屋の奥から人が駆け足で近づいてきていたのが分かった。
…武器を突きつけるべきか迷ったが俺は今招かれている状態だ。
そんなことをしてしまえば姉のウルサイスにそれこそ日中の時のような印象を持たれてしまい戦闘に発展してしまうだろう。
それに招かれている以上は”郷に入っては郷に従え”と言う言葉があるのだから素直にご相伴に預かる他ないだろう。
「あ、いらっしゃいませ!お待ちしてました名護さん!」
扉が開かれエプロン姿のプリシラさんが出迎えてくれた。
その表情は満面の笑みでありなにかを企んでいる、と言うのも感じ取れない。
《瞳》の力を用いても邪気は感じられず只々”歓迎”だけ。
その様子に毒気抜かれて何とも言えない反応をしてしまう。
「あ、ああ。今日はお招きいただきありがとう?でいいのか。」
「?さぁ遠慮せずに上がってください。すぐにお料理をお持ちしますので。」
そう言われ部屋の奥へ案内をされリビングは小綺麗に片付いておりテーブルセットが用意されており一つの椅子には先程までのすごい格好をしていたウルサイスの格好はジーンズにTシャツ…いやストライプのTシャツにデニムのホットパンツというラフな格好だ。
ウルサイスはどうもパンクな格好が好みらしい。
俺がリビングに入ってきたことに気が付いたようだ。
「…よぉ」
それだけ短く告げて再びそっぽを向いてしまった。
…おかしい俺の予測だとここで
『よぉ、良くもまぁノコノコと家に来たもんだ…ここがてめぇの墓場だぜ!』
と鎌を持ったウルサイスとエンカウント…だと思ったがその素振りも見せずにどちらかというと
『え、マジで家に来たのかよ…お前社交辞令って知ってっか?』
というプリシラさんが提案した家に招く、という行為に対して否定的なスタンスを取っていた。
まぁそれも当然だろう。明日には
それを気にしないプリシラさんがすごいのかウルサイスが正しいのか分からなくなってきた。
絶対的に後者なんだろうけどここでツッコムと面倒なことになりそうなのでしない。
俺がそんなことを考えて突っ立っているとそれに気が付いたのかそっぽを向けていたウルサイス姉は促してきた。
「…なんで突っ立ってんだよ。そこに座ったらどうだ?」
指差しして座席の場所を教えてくれたウルサイスの許しも得たことだし座ることにしよう。
当然ながら嫌がらせでそいつの前に座るんだが。
「ちょ、てめぇ!なんであたしの真ん前に座るんだ。」
「お前が指差したんだろうが。それに俺がプリシラさんの前に座ったら絶対嫌な顔するだろ。」
「…勝手にしろよ。」
図星だったのかそっぽを向かれた。
俺はこの瞬間に気が付いた。
こいつを弄れば鐘を打てば響くような存在だと。
「随分と心配性なんだなウルサイス。お前もしかしてシスコンって言われる類いか?」
「だ、誰がシスコンだ!殺すぞ!」
図星だったのか顔を真っ赤にして反応していた。
HAHAHA!その程度の怒りは子猫がシャー!しているのと同じだぞ。
と、まぁ弄りすぎるのも良くないのでここにプリシラさんが居ないことを良いことに褒めると満更でもない表情を浮かべていた。
こいつは俺と同じくシスコンであったか。
「恥じることはねぇよ。俺も妹がいるからな…気持ちは分かるぞ。」
「お待たせしました!」
軽く打ち解けているとプリシラさんが両手に一品づつ料理を運んできた。
背後にあるカウンターテーブルにはまだ結構な品数の乗った皿があったので手伝おうと席から立ち上がったが
阻止された。
「名護さんはお客さんなんですから座っててください!お姉ちゃん、手伝って?」
「うぇ!?めんどくせーな。」
「そういうお姉ちゃんにはご飯あげないよ?」
「うぐっ!そりゃねーよプリシラ!」
プリシラさんから手伝うように指示を受けていたが明らかに面倒くさそうな態度を取ったことで必殺「ご飯あげない」がクリーンヒット。
渋々ながら料理を運ぶのを手伝っていた。
何だかんだ口では言うものの素直に従っている辺り姉妹仲はかなり良好のようだ。
手伝っている一方で俺は手持ちぶさたになりなんと言えない感じになってしまったがそんなこんなでテーブルの上にはプリシラさんの手作りの温かな料理が並ぶ。
どれもこれも美味しそうな匂いを放ち食欲が刺激される。
「おおーこれこれ!」
「ってお姉ちゃんお行儀が悪いでしょ!」
料理を運び終え席に着いたウルサイスは先程までの仏頂面は何処へ行ったのか満面の笑みを浮かべプリシラさんが手作りした料理に素手で手を伸ばそうとしたがパシッっと叩かれて阻止された。
「ええー?ちょっとくらい良いじゃねーか。」
「良くない!大体今日は名護さんにお礼ってことなのにお姉ちゃんが先に手を付けちゃ…ってああっ」
「へへっ、いっただっきまーす。」
「もー!お姉ちゃんってばー!…あ、ごめんなさい名護さん。先にお姉ちゃんが手を付けてしまって…名護さんもどうぞ食べてください。」
「…ああ。それじゃあ遠慮なく…いただきます。」
「おう食え食え。プリシラの料理は絶品だからな。」
せっかく提供された出来立てホヤホヤの料理を冷まさせるわけには行かないので小皿に料理を数点、海老のにんにく唐辛子炒めを頂いた。
「…これは旨いな。」
率直な感想を述べるとウルサイスが自慢げに反応した。
「ふふん、そうだろうそうだろう。」
自慢げに胸を張ると少し揺れていた。
「別にお前を褒めたわけじゃねーんだが…まぁいいか。」
プリシラさんが褒められたことに大層ご満悦で先ほどの仏頂面と不機嫌は何処へやら、といった感じだが機嫌がいいのは此方としても会話をしやすい。
”料理”という潤滑油で会話を成立させていくことにした。
どうやらこのマンションは
学院の寮もあることあるらしいがウルサイス姉は戻っていないらしい。
どうしてこんな場所にすんでいるのか?こいつの発言から推理して理由はすぐ分かった。
「……ここからだと
「成る程な。だから日中にプリシラさんが再開発エリアの男達に襲われていたわけか。概ね金稼ぎか。」
「…!…どうしてそんなことを知ってんだ。」
俺の発言に驚いた、というような表情を浮かべていた。
「状況とお前の口ぶりから察しただけだ。…どうしてそんな危ない橋を渡ろうとした?お前の実力なら
「はん…流石はあの
嫌みったらしく言われて俺の表情は少しだが苦虫を潰したような表情になる。
「その名前で呼ぶんじゃねーよ…俺には過ぎた名前だからな。」
「そうかい…あんたはなんで
俺に出場の意味を問いかけてくるウルサイス姉の表情は真剣だった。
特段黙っていても知られても問題ないので告げた。
「理由ね……。強いて言うなら…いや特にない。」
「…はぁ?」
「…俺も少し事情があってな。世話してくれた知り合いの為に力を貸してる、それが
「くふっ…ふはははっ!」
「?」
突如として笑いだしたウルサイスに怪訝な表情を向けるが笑っている。
一頻り笑って満足したのか此方を見据えた。
「ああ…いや、悪かったな《戦士王》。自分の為と言い張りやがるがその実”他人の為に”動いてるってその魂胆に脱帽だよ。」
「…言っている意味が良く分からんがとにかくバカにされてることだけは分かったわ。」
「あんたは他人の為に闘ってるのがあたしは自分とこいつのためにな。それにあたしが
そういってプリシラさんの方を見るとその表情は少し先ほどの笑みが薄くなっているような感じが見て取れた。
「あ、わたしオーブンの方を見てきますね…」
そういって立ち上がりキッチンの方へ歩いて行ってしまった。
その姿を見届けてから告げた。
「簡単に言えばあたしはレヴォルフ黒学院の生徒会長、ディルク・エーベルヴァインの手駒…昔野郎に莫大な額の金を借りて既に望みを叶えてもらってる。そしての野郎の望みを叶えることでその借金を清算してるって訳だ。」
「それがどうして
率直な疑問をウルサイスにぶつけると答えた。
「言ったろ《契約》だってな。そのお陰であたしは
ウルサイス姉はそういって肩を竦めた。心からの心外なのだろう。
「…とはいえいつまでもあの男の元で働くのは御免だね。だから少しでも早く金を返すために夜な夜な涙ぐましい努力を続けてるって訳だ。」
ギャンブルで返しているのかそれとも夜の店の”例のアレ”的な仕事で返済しているのか気になったがそこまで突っ込むレベルのことを聞くには流石に躊躇われた。
ウルサイスは言動はアレだがアスタリスクにいる女生徒の中での見た目は上澄みに位置するだろう。
日中のあの姿がちらつき男受けも良さそうだ…と一瞬頭を過ったがここでそんなことを口にしてしまえば鎌で首をハネられる、と察知し自重した。
「それならなんで
誰かを始末する、優勝を阻止したいという理由なら天霧達を阻止する可能性が高いだろう。俺が対戦したくない相手ナンバーワンだしペアのリースフェルトも確実に実力を付けてきている。
俺がそういうとウルサイスは驚いた表情を浮かべ次の瞬間に不敵な笑みに切り替わっていた。
「御明瞭。今回あたしがディルクから依頼を受けた命令は」
その目的に思わず耳を疑った。
「ー名護蜂也、あんたを潰すことだ。」
率直な疑問が口から出てしまった。
「……なんで俺?そのディルクとやらに会ったこともなければ恨みを買った覚えもないんだけどな。てかその事を正直に俺にいうのか?」
「あたしにもあたしなりの仁義があるってことさ。日中はプリシラを助けてくれたしその恩がある。…このままじゃ遣りづらくてしょうがねーんだよ。」
見た目に反して…というか見たまんまの義理堅い性格の持ち主らしい。
理由を問いかけると俺と
「よし、これで義理は通したぜ。」
スッキリした顔で此方への用件を伝えたウルサイス姉。
会話の途切れたのを見計らってキッチンからプリシラさんが鍋つかみを装着して平たい大きな鉄鍋を持って此方に歩いてきた。
「お待たせしましたー。シーフードとキノコのパエリアです。」
じゅうじゅうと熱せられた鉄鍋から漂う芳しい匂いは空きっ腹に攻撃を仕掛けてくるほどに美味しそうだ。
料理を持ってきたプリシラさんとその料理を褒めるウルサイス姉はいい笑顔で笑っていた。
その光景を見て思わず俺も微笑を浮かべる。
「んだよ…急にこっち見て微笑みやがって気持ち悪い…あたし達のやり取りを見て羨ましくなったか?」
「あ、もうお姉ちゃんったら…ごめんなさい名護さん。」
プリシラさんを引き寄せるウルサイス姉を見て本当に仲が良いんだなと関心し
「ああ…いや気にしないでくれ。…妹ってのはかけがえの無い存在だからな。」
「それってどういう…」
ウルサイス姉が此方へ質問をしようとしたが俺が別次元から来た人間だということはバレてはいけないので急な話題の方向転換をさせてもらった。
「さて…このパエリアマジで旨そうだな…取り分けてもいいかな?」
「え、あ、はい…わ、わたしが取り分けますので名護さんは待っててくださいね!」
「ありがとうプリシラさん。」
何とも言えない表情で此方を見るウルサイス姉の視線を受けながら食事を頂いた。
プリシラさんの作ったパエリアは確かに絶品だった。
◆ ◆ ◆
食後のコーヒーを貰い一服を終えて俺は立ち上がった。
「ごちそうさん…さてそろそろお暇させて貰うわ。」
「えっ、もうですか?もう少しゆっくりしていっても…」
そう俺を引き留める素振りを見せるプリシラにウルサイス姉が制した。
「やめとけ。プリシラ。下手に馴れ合って闘えませんーじゃ格好が付かねえし明日にはやりあうんだ。互いに用件は済んだし十分だ。」
「でも…。」
「確かにウルサイスの言う通りだ。相手を知れば闘いづらくなるしな。…現にすげー闘いづらい。」
妹思いの姉と優しい妹…この二人は互いで互いを守りあってこの学園で過ごしているのだ。
その一端を知れば揺らぎそうになる。現に俺もそうなっている。
しかし俺も勝ち抜かなければならない理由がある。
だからこそ突き放さなければならない。
「しかし、これは闘争である。…ウルサイス姉妹。明日の試合は当方は一切の容赦なくお相手しよう。」
俺《グラム》を憑依させてメガネの奥に有る《瞳》を黒目から《蒼窮色》へと変化させ敢えて冷たい言葉を投げ掛ける。
「…それがお前の本性か?《戦士王》」
「名護…さん?」
雰囲気とその言葉に発せられるモノを感じ取ったのか表情が強張った。
ウルサイスは構えるような仕草と困惑した表情を浮かべている。
「ふっ…棄権をしてくれるなら当方もこのような事を告げずに済むのだがな。」
「そいつはできねぇ相談だ。それがあたしとディルクの《契約》だ。」
「そうであろうな…安心してくれ。明日の試合でプリシラ殿を狙わぬ、と約束をしておこう。旨い御膳の礼もある。」
「ちっ…てめぇはやっぱり遣りづれぇよ…!」
その言葉を聞いて微笑し踵を返しマンションを後にしようとしたのだがプリシラさんが動いた。
「あっ…せめてお見送りを…。」
そう言い出したプリシラをウルサイスは止めようともせずに送り出した。
マンションのロビーまで結局見送りを受けることになってしまいロビー付近まで近づいたところで後ろにいたプリシラさんに声を掛けられた。
さて、そろそろいいか。
「えっとその…お姉ちゃんが色々とすいませんでしたっ」
「いんや、気にしないでくれ。あいつも色々と有るんだろうし…それより夕御飯御馳走様。美味しかったです。」
「あ、あれ?」
「どうかした?」
「あ、いや…そのさっきまでと雰囲気が違う…と思ったので。」
「ああ。さっきのは
そう言ってプリシラさんの前に
その事を確認し俺に質問してきた。
「人格?…その…名護さんにお聞きするのは少し…違うと思うんですが…。」
「ん?」
「『
とそこではっとなったプリシラさんは顔を上げた。
「す、すみません!わたしったら変なことを聞いてしまって…。」
わたわたと手を振るプリシラさんに微笑を浮かべて俺は答えた。
「まぁ、『
「そうなんですね…あの名護さん…お願いがあります。」
俺はそのお願いとやらを黙って聞くことにしたが脳内の《グラム》が溜め息をついていたが無視をした。
「もし、明日の試合で姉が…お姉ちゃんが暴走した場合は止めてくれますか?」
その言葉に俺は少しだけ思案し答えた。
「俺が対戦相手のお願いを聞くと思うのか?」
拒絶。
その答えを聞いたプリシラさんは明らかに落ち込んでいた。
「そう…ですよね。明日闘うことになる名護さんにお願いする事じゃないですよね…。」
「ああ。そうだな。明日は敵同士だ。…なんかの間違いでウルサイスの持っている”純星煌式武装を俺が間違って壊してしまっても試合だから仕方がない”よな?試合なんだから。」
「……っ!そ、それって…」
俯き元気のなかった表情に明るさが戻って上がる。
「それじゃあねプリシラさん。ウルサイスによろしく。」
そう言って踵を返し発動体をホルダーへ戻しいつものように片手をポケットに突っ込み歩き出す。
ロックされていたロビーの自動ドアを潜ると背後から大きな声が聞こえた来た。
「…ありがとうございます名護さん!」
俺は声を発さず振り向くことはしないで空いている片手を軽く挙げて振る。
背後は見ていなかったがプリシラさんが頭を下げているような感覚に襲われた。
早く部屋に戻って欲しいが戻るのもどうかと思ったがそのままにしておくのもアレなので直ぐ様Uターンして「早く部屋に戻ってくれ」と伝えプリシラさんがマンションの中に戻っていくのを確認し帰宅した。
『主よ…またしてもか…本当に刺されるぞ…?』
急に何を言い出してんのこいつ?
◆ ◆ ◆
(名護さん…どうしてわたしたちに優しくしてくれるんだろう…すごく格好いい人だな…///お兄ちゃんみたい…もしわたしにお兄ちゃんがいれば名護さんみたいなんだろうな…えへへっ)
名護を見送りにいったのだが逆に部屋に帰るまで見送られるという謎現象が起こりマンションの通路を通り部屋に戻る最中に蜂也について思い出した。
姉のように少しぶっきらぼうだが思いやりの有る男子生徒であるが包容力がある。
…レヴォルフというある種の男子校の環境と比較をするのが間違っているのだが。
蜂也が兄だったらな、と妄想していたが明日はその蜂也との試合であることを思い出し少ししょんぼりしたが先程告げた心配事を彼ならば何とかしてしまう、と根拠のない自信が奮い立たせる。
明日の試合の前に姉の洗濯物を回そうと決意し自室のドアを開けて帰路に付いたのだった。
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