俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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めっちゃお気に入り登録されてる…こわ…。

調子にのって新作投下です。



小さな来訪者

鳳凰星武祭(フェニクス)は十一日目に突入しベスト16まで絞られた。

ちなみに今星導館で残っているのは俺と綺凛ちゃんペアと天霧&リースフェルトペアでありどちらも好調に勝ち進めており特に天霧は《禁獄の力》のリミットがバレていない。

そこにはリースフェルトが俺の編み出した特訓の成果で近接戦闘もある程度こなせるようになり界龍の生徒で序列入りしていない生徒であれば楽々にあしらえるくらいに強くなっていた。

 

飛ぶ鳥を落とす勢いで鳳凰星武祭(フェニクス)で『疾風刃雷』と『戦士王』のペアと『華焔の魔女』と『叢雲』の星導館学園のペアが大暴れしている。

 

場所は変わってシリウスドームにある俺たちの控え室…なのだがいつも通り敵である筈の天霧達も俺たちの控え室に集まっていた。

そのなかには沙々宮の姿もあった。

 

クローディアが賛辞を述べる。

 

「おめでとうございます蜂也に皆さん。よくぞベスト16まで勝ち残りましたね。まぁ当校指折りの実力者なのですから当然といえば当然なのでしょうね。」

 

その賛辞を受けて俺達はなんとも言えないむず痒い気持ちになっていた。

特に天霧と綺凛ちゃんは照れておりどう反応したら良いものかと考えを巡らせているようだ。

 

「まぁ、あと最低でもあと三、四回は戦わなくちゃいけないしゆっくりしている暇は無いだろうな。ここまで勝ち残ってるってことは苦戦は免れんだろ。」

 

まぁ負けるつもりは毛頭無いが。

 

俺がそういうと全員の表情が引き締まった感じだ。

当然だがこれからベスト8、ベスト4…から準決勝に決勝まで戦わなければならない。

それに今日は1日明けての試合にあるため体感的には毎日だろうな。

と思っているところに沙々宮に声を掛けられる。

 

「蜂也、わたしの武器を使ってくれてありがとう。」

 

「ん?ああ。ピーキーで威力のある武器…良い銃だ。」

 

「やはり蜂也は見る目がある。アルルカントの連中にわたし、いや…お父さんの銃で目にもの見せて。」

 

「任せろ。」

 

「うん。」

 

さて、先の試合で見せたパフォーマンスについて天霧達に質問されたが特段隠すことでもないので包み隠さずに話したら少し引かれた。

む、失敬な。

 

「いや、副会長が第四試合で使ったあの技は本当に『流星闘技』じゃないんですか?」

 

「ああ。只の星辰力の余剰エネルギーを収束して放っただけだぞ?あんなもんは《流星闘技》とは言わない。只の小手先の応用だっつーの。それ言うなら天霧の剣術だって似たようなもんだろ。普通の奴はリースフェルトの技を切れねぇんだよ。」

 

「それを言うならお義兄さんの剣も…大概です…?」

 

オーマイ、なんと綺凛ちゃんは向こう側だったとは…ショック。

それよりその事を突っ込むとリースフェルトがうんうんと頷いていたのでどうやら男性陣には味方は居ないようだ。

それよりも今日ある試合について相談をし始める。

 

「えーとそういや次の試合の相手って誰だっけ綺凛ちゃん。」

 

「次の対戦相手は界龍の序列二十二位と二十三位のペアですね。三回戦でも界龍の生徒とは当たりましたが今回のペアは別格と言っても良いでしょうね。対戦相手のお二人はあの《万有天羅》の直系のお弟子さんだそうです。」

 

「へぇ~…《万有天羅》の直弟子か。楽しみだな。たしか情報があまり出てなかったんだっけ?」

 

この手はクローディアに振ってみると頷いた。

 

「ええ。《万有天羅》については詳しい情報があまり無いのです。界龍は生徒数が多いので比較的外部に情報が漏れやすいのですが何故かその辺りの情報は固くて流れてこないのです。」

 

「なるほどな…外見は分かるのか?」

 

「はい。六花園会議で顔を合わせていますからその身体的特徴は分かりますよ。一言で言うなら」

 

「いうなら?」

 

クローディアは1拍置いて説明した。簡潔に。

 

「童女ですね。」

 

「は?……えそれだけ?」

 

「はい。」

 

「マジ?…なんかスッゴい屈強な老け面のおっさんがいるものだと…。」

 

セクシーダイナマッ!でプロテインを採掘している的なのを想像していたが違うらしい。

そんなのが界龍の序列一位なのかと驚いた反面こういう手合いは割りとちっさいのがラスボスのパターンがあるからな。まぁそんなに強いなら俺みたいな奴とは会うこともないだろうと自分で解決し一先ずは試合に向けて控え室から綺凛ちゃんを連れだってステージへ向かうことにした。

ちなみに天霧達は俺たちより先に試合があったので先に出ている。

 

◆ ◆ ◆

 

『さぁーてさてさて!本日の一番の注目カード!五回戦最終試合!昨日の四回戦ではレヴォルフ黒学院序列三位『吸血暴姫(ラミレクシア)』ことイレーネ・ウルサイスと熱い戦いを繰り広げた星導館序列三位の名護蜂也選手と、同じく序列一位刀藤綺凛選手の入場です!』

 

ステージに上がると相も変わらず熱量の高い応援と実況席に座る解説者の実況の盛り上りが半端無くつかれねぇか?と疑問に思い隣にいる綺凛ちゃんへ視線を向ける。

 

「???」

 

キョトンとして少し首を傾げ此方を見つめていた。

うん綺凛ちゃんが可愛いのは何時もの事なのでこの盛り上りが通常なのだと納得させた。

解説役が実況をしている最中で今日はどうやって戦おうかと考えを巡らせ《壊劫の魔剣》はしまって沙々宮が用意してくれた銃型の煌式武装でやろうか…と考えたがあれは《アルディ・リムシィ》ペアの戦いの際に使うことにした。

そんなことを思っていると対戦相手の選手が目にはいった。

両名共に鍛え上げられており一人は拳…星仙術の使い手だろう。もう一人は武器を使う戦い方を得意とする生徒のようだ。しかし手に持つ棍は煌式武装ではなく金属製…綺凛ちゃんと同じだ。

その手の武装を持つということは余程星辰力の扱いが上手いのか気になった。

 

隣にいるパートナーへ声を掛けた。

 

「綺凛ちゃんはどっち行く?」

 

「そうですね私は棍を持つ生徒さんをお相手します。」

 

「ん。わかったそれじゃ決まりだね。俺は素手の方を相手させて貰う。気をつけてね。」

 

「はい。お義兄さんもお気をつけて。」

 

俺が拳の生徒で綺凛ちゃんは武器を持つ生徒を相手することにした。

作戦が決まると同時に互いの校章が光輝き試合開始の機械音声が流れる。

 

鳳凰星武祭(フェニクス)五回戦第八試合、試合開始(バトルスタート)!」

 

試合開始と同時に界龍の選手は分かれて走り出した。

向こうも同じことを思っていたのか俺の方に拳の生徒が向かい綺凛ちゃんの方に武器を持った選手が走り出す。

 

俺と綺凛ちゃんは互いに獲物を抜いた。

 

「行くぞ。」

 

「刀藤綺凛、参ります!」

 

俺は軽めのジャブだと言わんばかりに軽く動きだしながら《詠唱破棄》した《フラッシュエッジ》を多数展開し宋へ投げつける。

高速で回転する光輪は極力まで威力を落としているが触れることあれば皮膚を切り裂く程度の威力がある。

しかし。

宋に接近した《フラッシュエッジ》は簡単に素早く振り抜いた拳に粉砕された。

いくら強度を弱めたと言っても簡単に砕かれるものではないんですけどねぇ…。

そんなことを思いつつ俺のクロスレンジ内に入ってきた宋を迎え撃つべく構える。

 

「参るっ!」

 

一気に間合いを詰めて右の拳を振るう。

当たる瞬間に片手でバスターソード型の煌式武装を展開し俺は大剣の腹でその一撃を防ぐ。

大剣越しでも伝わる一撃は前前試合で当たった界龍の選手達とは確かに比べ物にならない。

が、それだけである。

 

更に身体事ぶつかるように押し込もうとして踏み込み、肘鉄を俺の脇腹目掛け突っ込ませてきたが俺は空いている片手で肘鉄を防ぐ。

 

「なっ…!?」

 

まさか片手で止められるとは思っていなかったのだろう思わず驚いた声をあげたが気にせずバスターソードを地面へ突き刺し支柱代わりにして脚部に星辰力を少し集め蹴り技を叩き込むと宋は大きく後方へ吹き飛ぶ。

 

「はっ!」

 

 

その隙を逃がすまいと着地と同時に地面に刺さった《壊劫の魔剣》を抜いて《縮地》で距離を詰めてその勢いのまま上段から一気に振り下ろす。

 

「……っ!」

 

防御の姿勢を取らざるを得ない宋はバスターソードの一撃を防ぐ。

しかし、そのあまりの威力で防御は意味を成さずステージに叩きつけられてしまった。

 

「かはっ…!」

 

ステージ上で大きな物音が響き瓦礫の粉が舞う。

粉塵が収まった瞬間に機械音声が流れた。

 

宋然(ソウ・ラン)意識消失(コモンアンシャスネス)

 

意識が落ちたことを確認し綺凛ちゃんの元へ向かおうかと思ったが必要ないようだった。

 

なぜなら(ルオ)の猛攻を綺凛は涼しい顔を浮かべながら捌いていく姿があったからだ。

 

(この実力で序列外ですか…星導館であれば序列入りは間違いないでしょうね…ですがっ!)

 

蜂也との模擬戦と比べればかなり優しい方だと綺凛は思っていた。

連続で繰り出される棍を《千羽切》で防ぎきり今度は此方が攻める番だと言わんばかりの斬撃を見舞う。

逆に今度は防戦一方に追い込まれる羅だったがそこは《万有天羅》の直弟子であるのか気合いを見せた。

長物を器用に扱い自身に有利な間合いを作り出そうとしたが既に綺凛の領域、そこには序列一位との壁が確実に存在していた。

 

流れるような棍撃を綺凛を襲うが全てが届かず叩き落とされていく。

 

「…!…ぐふあっ!!」

 

流れるような連撃が羅に叩き込まれその地に伏した。

意識が消失したことにより胸の校章の光を失う。

 

次の瞬間には機械音声が勝者を告げた。

 

「試合終了!勝者名護蜂也&刀藤綺凛!」

 

小細工など無い”力”と”技巧”が界龍の生徒を打ち破り会場は大きく沸き上がった。

観客達の歓声をバックに控え室へ続く通路を進む。

とりあえずは勝利者インタビューをどうにか切り抜けようと考えていたのだった。

 

 

「次で準々決勝か…たしか次の対戦相手って…」

 

「はい。先程の界龍の選手と同じ学院の方々ですね…先程の宋選手達と同じく《万有天羅》の直弟子らしいですね。」

 

「天霧達の相手も界龍の生徒か…というかどんだけ枠使ってんだよあいつらは…」

 

「界龍の生徒さん達は願いよりも”腕試し”の側面が強いらしいですから。」

 

「生粋な戦闘狂(バトルジャンキー)って訳ね…恐ろしいねぇ…。」

 

「そこが界龍の特色らしいのでらしいと言いますか…。」

 

「それで天霧達の相手は優勝候補の黎沈雲と黎沈華…双子の兄妹ペアか。」

 

「はい。《幻映創起》と《幻映霧散》の二つ名を持つ強敵ですね。」

 

今日の分は終わっているので次の対戦相手は黎沈雲(リーシェンユン)黎沈華(リーシェンファ)の双子の兄妹であり界龍序列九位と十位に名を連ねている《幻映想起》と《幻映霧散》の二つ名を持つ今大会の優勝候補の一角らしい。

が、俺は彼らの戦いが正直に言おう嫌いだ。

 

「あんまり連中のファイトスタイル好きじゃねーんだよな。策を練って相手の有利を打ち消す…まぁ理にはかなってるんだがなんかこう…武道を囓ってるものとしては…ねぇ?」

 

俺がそう告げると綺凛ちゃんも頷いていた。

 

「はい…確かに見ていて気持ちの良い試合…とは言いきれないです。その姿勢は恐らく自らの力に絶対的な自信を持っているからこそ相手を見下してしまう。絶対的な有利な状況を作り出していますね…そこには相手への敬意…リスペクトは存在せず…そんな戦い方だと想います。わたしも剣の道にいるのでその…。」

 

なんとも言いづらそうだったが言いたいことは分かった。

 

「まぁ”大会”っていうレギュレーションに則ってやるわけだからその反応は正しいぞ綺凛ちゃん。」

 

「えへへ…お義兄さんの手気持ちいいです。」

 

「俺も綺凛ちゃんの頭を撫でると落ち着くんだよな…なんか出てる?」

 

「で、出てないです!」

 

綺凛ちゃんの頭を撫でて控え室へ向かおうとすると気絶から復帰したばかりの宋羅ペアが此方に近づき先の試合の健闘を称えてくれた。

「敵ながら天晴れであると」まぁ、要約するとそんな感じのことを言われた。

俺と綺凛ちゃんはその世辞をむず痒くなりながら素直に受けとった。

話題は天霧達がぶつかる黎兄妹についてになりどうやら同じ学院の生徒からもそう言われるってことはよっぽどなのだろうと俺は綺凛ちゃんと顔を見合わせて苦笑をせざるを得なかった。

 

「名護くん。」

 

「はい?」

 

宋…いや宋さんが俺に話しかけてきた。

 

「先程の試合は第四試合で見せたような全力だったのか?」

 

本気ではあったが全力ではない。

そもそも俺が全力を出すと『相手の認識出来ない距離へ《次元解放》を使って移動し特化型CAD(フェンリル)の二丁持ちで認識外からの『虚空霧消(ボイドディスパーション)』乱射』とかになるのでそもそもにおいて俺の魔法は殺傷力が有りすぎるため試合にならない。

 

「いや全力じゃなかったっすよ?本気ではありましたが。」

 

そう答えると苦笑を浮かべられてしまったが次には笑みに変わっていた。

 

「…君の全力を見てみたいものだが我々ではまだそれを引き出すにはほど遠かったようだな…また手合わせをお願い出来るかな?」

 

そう言われ俺は短く「もちろん」とだけ答えると満足して帰っていった。

うん。武人然とした気持ちの良い奴らだったな。

会話が終わり俺と綺凛ちゃんは控え室に戻り一時休憩をすることにした…のだがまたしても天霧達が既に到着しており寛いでいた。

が、そこには見たこともない少女、小学高学年ぐらいの年の少女がなぜかメイド服を着用しリースフェルトと仲睦まじく交流していた。

疑問を口に天霧へぶつける。

 

「天霧…この子どっかから拾ってきたの?」

 

俺が冗談でそう言うと天霧は大慌てで反応していた。

こう打てば響く感じの弄りやすい天霧は本当に良い奴だなとは思うが止めない(鋼の意思)。

 

「ち、違いますよ!この子はユリスの関係者で…」

 

「お母さん言ったでしょ?なんでもかんでも拾ってくるなって。しかもメイド服着せてご奉仕ごっこかよ。」

 

「ち、違いますって…ああもうユリス、副会長に説明を…」

 

わたわたする天霧を尻目に俺のジョークが伝わったのかユリスは苦笑いを浮かべて割って入った。

 

「蜂也。あまりうちのパートナーを苛めないでくれ。」

 

「わーってるっつーの。冗談に決まってんだろ。まぁだいたいの察しは付くがその子はリースフェルトの関係者だろ?と、なると侍女か孤児院の子か。」

 

俺がそう告げると全員がぎょっとしていたがそこまで驚くことだろうか?状況と服装から判断をしただけなんだけどな。

 

そうするとそのメイド服を着用した少女が此方の前に一歩出て深々と挨拶をしてきた。

 

「あい!フローラと申します!名護さま、刀藤さまよろしくお願いします。」

 

「宜しくねフローラちゃん。」

 

「宜しくなフローラ。」

 

若干な舌足らず感があるが元気っ子…愛らしい印象を与えている。

室内には入りちょうどリースフェルトも近くのタイミングで控え室に戻ってきたようで会話は進んでいなかったようで会話が進む。

 

その中で天霧がフローラに「王宮でのユリスの感じってどんなものなの?」と質問を投げてフローラが「今とおんなじです!」と自信満々に答えるものだからリースフェルトが赤面していたのが印象深いか。

そしてフローラはポシェットの中に入っていた携帯端末を取りだし孤児院で取った写真を見せる。

リースフェルトは乗り気では無かったが全員がその写真に興味を示したが俺はなぜか無性に嫌な予感が少し離れソファーに腰掛けジャケットの前を開けてホルスターから特化型CAD(ガルム)のトリガーガードに指を引っ掛けて回転させながら遊んでいた。

 

端末のスライドをしている最中でフローラが入った「姫様に髪を洗って貰っているところ」と言った瞬間にリースフェルトは大慌てで取り上げウィンドウを閉じ近くにいた天霧に「見たか!?」と問い詰めていたがあの様子じゃ男に見せたくないものがチラッと見たな、と確信したが俺は深く追求しないことにした。

でないと俺もとばっちりを受けるからな。

 

俺はこのゆるーい空間で英気を養って少し休憩した後に選手専用の通路を使い退出することにした。

 

◆ ◆ ◆

 

「あ、やっべ…買い出ししてなかった。」

 

時刻は夕方、暑さも大分落ち着く時間帯になったがまだ暑い。

俺は夕飯の準備をしようと冷蔵庫を開けるとそこにはなにも入っていなかった。

すっからかんのがらんどうである。

クローディアを誘って飯でも行こうかと思ったが連絡を取っても出ないようで忙しそうだし綺凛ちゃんも試合が終わったあとも一緒にいるのは可笑しいのでやめた。

天霧を食事に誘おうとしたのだが今はリースフェルトと一緒に俺に聞いてきて勧めたカフェでフローラと一緒に食事に向かったはずだからな。

…というかそもそもに置いて俺は天霧の連絡先を知らん。

自分で言ってて悲しくなってきたのでこの話は止めよう。終わり、閉廷!

 

「予備の食材も…無い…か。」

 

戸棚を見ても食料と言う食料が無い。てか海苔しかねぇ。

飯を取らないという選択肢はないだろう今日は矢鱈と腹が空いた気がする。

明日は一応試合だし何か腹には入れておきたかった。

 

「仕方ない…市街地まで行ってラーメンでも食いに行くか。」

 

私服に着替え一応ホルダーに《壊劫の魔剣》を差し俺に割り当てられた個室の男子寮から学園の外へ出掛ける。

外はすっかり茜色に染まっており刺すような暑さも今は抑えられている。

夏季休暇中のため通りすぎる生徒も疎らだ。

 

「こんな風に一人で出歩くのは久々だったな…そういや春先にシルヴィアを助けたとき以来か。」

 

まさかあの時世界の歌姫を助けてまさか《翡翠の黄昏》の張本人と相対するとは思わなかったが…。

そういやクローディアの願いって何なんだろうな?全く聞いてなかった…と言うか教えてくれなかった。

そんなことを思いつつ腹が減っているので目的地へと歩みを進めた。

 

…だが俺はこの時気がついていなかった。

背後にピンク色のチャイナドレスを着た童女がいたことに。

 

「ふぅ…やれやれ虎峰にも困ったものじゃ。只『名護蜂也』に会いに行く、それだけなのに血相変えて止めてきおって…む?……おおっ見つけたぞ!では早速ちょっかいをかけるとしようかのう♪」

 

その表情はまるでお気に入りの玩具を見つけた子供のように無垢で無邪気であった。

 

◆ ◆ ◆

 

「この公園を横切った方が近道なんだよな…」

 

市街地にある目的のラーメン屋に向かうためにはこの公園を横切った方が早いので園内に足を踏み入れ直線距離で突っ走る。

 

「…妙に静かだな。こんなもんだったか?」

 

ここは普通の都市ではないので子供と言う子供がいないので夕焼け小焼けまで遊んでいる光景は見たことは無いがそれでも公園の周りの騒音と言うものは聞こえてくる筈なのだがそれが聞こえない。

まるで何かを遮られているようでーーー。

次の瞬間、背後で地面を踏みしめる音が俺の耳に届いた。

 

「っ!!………って子供?」

 

今まで無音だった空間に地を踏みしめる足音が聞こえ瞬間的に振り返るがさすがに《壊劫の魔剣》は抜かないが。

 

「まさか儂の気配に気がつくとはやるのう」

 

そこにはにこにこと笑みを浮かべる天女のような羽衣を身に付けピンクのチャイナ服着た小学中学年ぐらいの可愛らしい女の子が居た。

だがその見た目とは裏腹に古風な喋り方でちぐはぐだに感じた。

 

「えーっと…俺に何か用かな。」

 

にこにことしている童女に対し一応は丁寧な言葉を掛けたが次の瞬間には目の前に来ていた。

 

「っ!?」

 

手刀を此方に差し向けていた。

 

「突然ですまぬが試させてもうらうぞ!」

 

めちゃくちゃに素早い手刀…俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。………ってそうじゃねぇ!!

咄嗟に《瞳》の力が発動しこの攻撃が回避できないことを予知し回避するために手段として《四獣拳・麒麟乃型》を発動しヒラリと回避せざる得なかった。

一つ二つ三つ…と繰り出さされる攻撃にはフェイントが混ぜられており腹部を狙った攻撃を拳で受け止めると驚いたような表情を浮かべる童女。

 

「おおっ!流石は儂の見る目に間違いはなかったようじゃのう!フェイントを避けられる者は数人おっても儂の手刀を受け止めるとは弟子の中でも二人だけじゃ!」

 

突然攻撃してきてなんで誉められているんだろうか俺は…?ってそうじゃない。

そんなことを思っていると童女は俺が受け止めていた拳をヒラリと外して再び俺へ手刀を伸ばしてくる。

ここまでしてくるってことは俺を倒しに来た刺客…そんなやつはいないと思っていたが当てが外れてしまった。

再びフェイントを混ぜ入れた拳打が俺を狙う。

 

「ちっ…!」

 

その一撃は星辰力を纏わせている為か一撃が重い。とても童女が振るっていい拳の威力では無かった。

いなして一撃を入れて中断させるために速度重視の《四獣拳・朱雀乃型》に切り替えて応戦する。

 

残像が出来る程の速度がある拳と拳のいなし合いが発生し童女は嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「むっ?先ほどに比べると速度が上がっておるな?」

 

え…?…何この幼女怖っ…数発交えただけでこの《朱雀乃型》の特徴見抜いてるんですけど?

俺の直感が「このままだとジリ貧になる」と告げているので速度を上げて腹部を狙った童女の拳打をいなし顔面に此方が今度は人差し指を眉間へ突き立てる。

対する俺は童女の拳を片手で受け止めている状況だ。

 

 

その瞬間に空気が止まった。

 

「…」

 

空気が動き出した合図は童女の笑い声だった。

 

「……っ。……あっはっはっは!!!」

 

「…?な、なんだ?」

 

流石に幼女を殴り飛ばす趣味はないので眉間に人差し指を突き立てる(触れてはいない)ポーズを取ると「参った」と言わんばかりに笑い出した。

 

「いやはや…虎峰の目を盗んでお主に会いに来た甲斐があったというものだったのう。」

 

一人で笑って満足しているこの幼女はいったい何者なのだろうか弟子だとか俺の《四獣拳》の一端を見破り俺と拳を合わせられるこの幼女は一体何者なのだろうかとそんな疑問を持った視線を感じ取ったのか童女は此方に気がつき少し離れた。

 

「おお!すまんの!儂一人で楽しんでしまって。…さてそろそろ儂の戯れに付き合ってくれたお礼に自己紹介でもしようかのう。」

 

その名前を聞いて俺は驚いた。

 

「儂の名前は茫星露という。」

 

その名を告げる幼女に俺は一瞬だが誰だ?と思ったが記憶の片隅…というか今日聞いた名前に思わず二度見した。

 

「は…?界龍の《万有天羅》…………マジで?」

 

「大マジじゃよ《戦士王》」

 

かんらかんらと笑う目の前の童女が界龍の序列一位《万有天羅》だと先程の事とクローディアから事前情報が無ければ”偽物”だろうと判断していたが”本物”だと判断せざる得なかった。

 

「ほっほっほっ!まさか儂の攻撃を防いだだけでなく指を突きつける事が出来たのはお主が初めてでのう…儂はうれしい!それにお主、見たこともない型を使っておったのう?独学か?」

 

こいつ、俺の《四獣拳》に気がついたのか…!?

 

「…あーすまん企業秘密ってことで…それに…お眼鏡にかなって…いいのかこれ?」

 

はしゃいでいる星露に対して俺は対極なテンションになっているが構わず話を進めていた。

 

「むー…仕方がないのう…《戦士王》や、お主界龍には転校せぬか?お主ほどの実力なら儂と対等に遊べそうじゃのう!」

 

「いやいや六花の決まりで転校はダメだろ…なに言ってるんだお前は…。」

 

そう言うと年相応のふて腐れ方…というか言葉遣いと見た目が合ってない。中身に誰か入ってるんじゃないかと錯覚をしてしまう。しかしそういう表情もするのな。

…んてか今”対等”って言ったか?

 

「むー…虎峰にも同じことを《戦士王》にもいわれてしもうたのう…むむむ…やっぱりどうしても駄目か?」

 

「いやいや…俺ならまだしもうちの生徒会長が首を縦に振るとは思えないんだけどな。」

 

「《千見の盟主》か…確かにあれはお主を大層に気に入っているらしいからのう…むむむ…こうなったら…」

 

なんか大事(おおごと)になってきたので取り敢えず落ち着かせることにした。

…そうじゃないとこいつがなんかやりかねないと思ったからだ。

 

「ちょ、ちょっと落ち着け…えーと…」

 

どう呼ぼうか迷っていると《万有天羅》が察したのか。

 

「親しいものは皆”星露”と呼んでおるぞ。」

 

他校の序列一位を名前で呼び捨てにするのは気が引けるが仕方がないと受け入れる事にした。

強引に物事を進めようとしていた星露に対して嗜めると不承不承といった感じだったが一旦は落ち着いてくれたようで助かったがこのままでは引き下がってくれそうにない。

どうしたものかと思案していると

 

ぐぅ~う。

 

腹の虫が鳴った。

 

そういや俺夕飯を食いに市街地に出てきてたんだよな…まずは腹ごしらえを…って今の腹の虫の音は俺ではない。

 

それは目の前から聞こえた。

目の前を向くと頬を掻いて糸目になっている星露の姿が。

 

「取り敢えず…俺夕飯を食いに市街地のラーメン屋に向かってたんだが…行くか?」

 

俺がそう言うと照れくさそうに浅く頷いたので俺はまさかの《万有天羅》と共に行きつけのラーメン屋へと足を運ぶのだった。

結果として暴れだしそうな星露を止めることに成功したのでラーメンは偉大であると感じた。

 

◆ ◆ ◆

 

「うむ!《戦士王》行きつけのラーメン屋は大変美味であったのう…また来たいぞ。」

 

「気に入ってくれたなら何よりだ…ってお前そろそろ帰らなくていいのか?学院の連中が心配してんじゃねーの?」

 

いくら序列一位といってもこいつが夜遅くまで外にいるのはさっき言ってたお付きの虎峰…とか言う人も心配してるんじゃないかと指摘したが星露は「問題ないぞ?」と切り返してきたので俺は「そうかい…」としか返せなかったが出きればさっさと帰ってほしいのだがラーメン屋を出た後でも俺とならんで歩いている。

しばらく一緒に歩いていると星露が突然走りだし俺を追い抜き振り返った。

その表情は笑みで何かを思い付いたらしい。

 

「そうじゃ!お主を此方に転校させられないのなら界龍に遊びに来て貰えばよいのじゃよ。」

 

「はぁ?」

 

突拍子のないことをいう奴だと思わず疑問符を浮かべるが星露には関係がないらしい。

 

「端末を貸しておくれ。」

 

「ああ。…ほい。」

 

端末を手渡すと少し怪訝な表情を浮かべられた。

 

「お主…結構油断しておる、といわれんか?」

 

しまった。いつもの癖で手渡してしまったが別に中身を見られて問題があるということでもないのでそのままにしておくと慣れた手付きで端末を操作してそれが終わったようで手渡す。

渡された端末のアドレス帳には”茫星露”の名前があり登録した人物と文字を行き来して二度見してしまう。

俺の反応に星露は楽しそうに笑っている。

 

「お主はこれで儂と”友達”だからのう!…それとこれを渡しておくぞ。」

 

友達って…まだあって数時間しか経過してないんですけどね…。

そう言って渡されたのは『黄龍』の校章が書かれた六角形のブローチのようなものだった。

 

「これがあれば界龍の門の前で止められることはないぞ?すんなりと通されるまぁ通行許可書みたいなものだのう。」

 

受けとるか迷っている星露は少し悲しそうな表情を浮かべていた。

 

「受け取っては貰えぬか…?お主と喋ったり遊んだり(修練)したいのじゃよ。」

 

いや、お前その”遊び”って絶対《修練》とかだろうが…騙されんぞ。って他校の生徒が勝手に行っていいのだろうか?

 

「うむ。儂が良いといったのじゃから問題はないぞ?」

 

なんつー独裁政治…と思ったが《万有天羅》の名前は只の称号ではなく別の意味合いが強いようだしな。

それは界龍第七学院に対しても例外、というかこっちが一番影響としては強いんだろうな。

俺は観念し頷くと星露は大層嬉しそうな表情になり頷いたが何かを思い出したかのように星導館と界龍の其々に向かう分かれ道で立ち止まった。

話の内容は今日行った宋と羅の試合の内容だったが俺の総評としては「良い鍛え方をされてる。」と言うと星露は「そうかそうか」と嬉しそうだった。

そして黎兄妹の話になり。

 

「…だけど、俺はあんまり連中の戦い方は好きじゃないんだよな…。実戦ならまだしも。」

 

「ほう?実際に戦を経験したような口ぶりじゃのう?」

 

俺が口にだした言葉に星露はニヤリと口元を緩めるがその事に対して俺が特段反応をしなかったので深くは言及をしてこなかった。

 

「…まぁな。それよりもアイツ等はお前の直弟子なのか?」

 

「まぁのう。それがどうかしたのか?」

 

星露に言っても仕方がない事だとは思うがこればっかりは良い機会だからと忠告しておこうと思う。

まぁほとんど意味ないと思うんだけどな。

 

「俺の師匠…まぁ俺の婆ちゃんが言っていたことなんだが…『道無き力は獣。道あり力は人。道徳を失った力は只の暴力でありそれを疎かにするのは只の畜生の所業也』ってな。お前も人に力を授けるのが仕事なんだろうが…まぁそれだけだ。参考程度に聞いておいてくれ。明日試合で当たる双子がムカついて天霧達がボコボコにしても許してくれよ?」

 

そう俺が告げると目をぱちくりしていたが直ぐ様かんらかんらと笑いだし界龍の方面の路を歩き出す。

少し歩いて振り返った。

 

「ふふっ、では明日の試合楽しみにしておるぞ”蜂也”?ではの。」

 

そう言って星露はいつのまにか俺の視界から消え去っていた。

 

「”蜂也”ねぇ…ただラーメン食いに行って奢ってちょっと喋っただけでもう名前呼びとか…これが陽キャか。」

 

幻だったのでは?と疑いたくなるほどに煙のように消えた星露だったが手にした端末には茫星露の名前と連絡先が登録されているのを見てこれは現実なのだと教えられていたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

蜂也の背後を追跡するように星露が追いかけているのを《猫》から知らされたディルクは不機嫌な顔をした。

 

「ちっ…やはり界龍のチビがちょっかいを掛けてきたか…。」

 

レヴォルフ黒学院の生徒会長室で何時ものように無愛想に不機嫌そうな顔をして短い足を机に乗せていた。

 

《猫》に指示を出して蜂也を見張っていたのだが想定外、というよりも想定内で出来れば遭遇してほしくない大物が接触したことに更にその表情が不機嫌になっていく。

思考の海に沈みそうになった瞬間に生徒会長室の扉が開かれた。

 

「只今戻りましたぁ~。」

 

ころなが入ってきたことに反射的に不機嫌な反応を取った。

別段ここに来るように時間の指定があったわけではないが何気なしにだろう。

 

「…遅ぇぞ。」

 

「は、はぃすいませぇん!ちょっと会長がお疲れ気味でしたので市街のカフェに寄ってまして…あ、これです。」

 

「ちっ…寄越せ。」

 

手渡された紙袋から甘味を取りだし口をつけころながお茶の準備をしつつ思い出したかのように報告をした。

 

「あ、そう言えば今日寄ったカフェで天霧さんとリースフェルトさんが見たことのない凄い可愛い女の子がいたんですよー…誰だったんだろうなあの子。」

 

「……。」

 

ころなに淹れられたコーヒーに手をつけようとしたその瞬間に気になることを言われたディルクはその手を止めた。

 

「会長からもらった名護さんと天霧さん周りの資料にも乗ってなくて…でもまだちっちゃかったし、校章も付けてなかったからきっとアスタリスクの学生じゃないんじゃないかと思います。あ、そうそう!しかもメイド服だったんですよ!その子!メイドさんですよメイドさん!すっごく似合ってて可愛かったなあ…。」

 

締まりのないにやけた表情にディルクが睨みを効かせた。

 

「その話詳しく聞かせろ。」

 

「え、もしかして会長はメイドさんがお好き…ってああごめんなさいごめんなさい!嘘です冗談です!」

 

「ちっ…。」

 

的はずれなことをきょとんとした顔にでディルクは舌打ちしてその苛立ちを隠そうともせず睨み付けそのときの状況を簡潔に伝え少し考えたあと机上の端末を操作し暫くしてその結果を見てぼそりと呟く。

 

「ふん…連中の関係者か。なるほどな。…奴を牽制するには”使えそうか”」

 

呟くディルクを見るころなはその瞳に暗く鋭いものを見てしまい背筋に冷たいものを感じるのだった。




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