俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
俺と綺凛ちゃんはその枠を勝ち残ってきた界龍の生徒と争うことになった。
相手の順位は十七位と十八位でまたしても《万有天羅》の直弟子とのこと……いやあいつの弟子多くない?
ステージに立ち準備が整うと校章からお馴染みの文言が流れ違いに衝突した。
◆
「試合終了!勝者、名護蜂也&刀藤綺凛ペア!」
結果としてまぁ当然ながら俺たちが勝ちました。二人の校章を破壊しての勝利。
ステージに観客達の歓声が響き渡る中俺はスラックスのホルダーに武器をしまい綺凛ちゃんも獲物を鞘に納めた。
『決まったー!準々試合試合勝者は名護蜂也&刀藤綺凛選手だーっ!強い強すぎますっ!しかも名護選手が使用したのは《壊劫の魔剣》ではなく通常のハンドガン型の煌式武装二丁で相手選手を制圧してしまいましたっ!名護選手には苦手なものはないのでしょうかっ!?刀藤選手の剣技《連鶴》も相手の反撃を一切許さない連続技にお見事としか言いようがない程の素晴らしい戦いかたでした!この二人を止められるもの果たしているのでしょうかっ!』
『いやー名護選手の場合は器用貧乏ではなく其々にハイレベルな使い方で相手を圧倒しているのでまさに”武芸百般”と言う言葉が似合うッスねぇー。一方で刀藤選手の剣技につきましては追い付ける選手はいるんでしょうか?と逆に問い掛けてみたくなるッスねぇ。それこそ同じ学園の天霧選手が使う古流剣術である《天霧辰明流》と《刀藤流》の対戦を個人的にも叶うのなら是非見てみたいッスねぇ。』
「…戻るか綺凛ちゃん。」
「はいです、お義兄さん。」
実況席での解説が終わり観客席からは拍手が続いているがそろそろ捌けないと次は別の選手達の試合があるのでさっさと退場することにした。
途中で聖ガラードワースのペアとすれ違い小さい方が俺に挑発的なことを言ってきたが睨みを効かせると怯んだのでその隙に会見会場へ向かいやりたくもない勝利者インタビューを終わらせて控え室へ戻ることにした。
今日は天霧達の試合もあるからな。
俺の予想が外れてなければ勝ち残ってくるのは俺たちとアルディ達、聖ガラードワースの聖騎士コンビ、それに天霧達だ。
◆ ◆ ◆
蜂也の予想通りエルネスタとカミラの代理出場のアルディとリムシィがベスト4に入った。
未だに”一分間回避も攻撃もしない”という約束通り相手選手と対峙する2機はそれを破られずにいた。
しかしエルネスタが思うほど稼働率は芳しくない。
対戦相手の選手が序列外の選手が多いこともあるのか予想よりも数値が振るっていないようだ。
「んーアルディ達の稼働率があんまり芳しくないねー。相手の選手には悪いけどちょーとばかし実力が低すぎるのかなー。」
隣にいるカミラに話しかけると頷いた。
「仕方があるまい。悉く有力選手が別ブロックにいて当たることがなかったのだからな。…まぁ身も蓋もない言い方だが楽にベスト4まで勝ち残ることが出来たのだから御の字ではないのか?」
「まぁーそれもそうなんだけどね?」
「残ったのは聖ガラードワースの『
「うん。《戦士王》と《疾風迅雷》のペアだねー。しかもそれが準決勝で当たっちゃうかもねー。」
あちゃー、という表情を浮かべているがその表情は楽しそうであった。
「予選では使わなかったけど”あれ”を使わざる得ないよね?カミラ?」
”あれ”を使わなければならない、そう告げるとカミラ不承不承ではあるが認めていた。
「…仕方があるまい。《戦士王》の《壊劫の魔剣》に対するためには機体の出力を上げる必要がある。」
「うんうん、カミラならそういってくれると思っていたよー。目標はアルディとリムシィを生徒として認めてもらってうちの生徒にするんだー。」
楽しくなりくるりと回り躍りだした。
エルネスタの目標は感情を表すことが出来る自立型擬形体、人に等しい存在を作り出すことでまずその第一歩としてこの
その為には”あれ”の機能を出し惜しみするわけには行かないのだ。
「全くお前は…ん?」
そんな友人の姿を見て若干の呆れを滲ませていたカミラだったが不意に端末が震えた。
「私だ…うん、なんだと?」
応答の途中で声色が変わりエルネスタは何事か?といった表情で見ていたがその表情で見ていたエルネスタをカミラは怪訝な表情で見た。
「お前に通信が入っているそうだ。………ディルク・エーベルヴァインから。」
「へぇ……それはそれは。うん、いいよ。回してもらって。」
エルネスタが承認しカミラが端末を操作し新たな空間ウィンドウが出現しそこに小太りの青年が映し出される。
「…よぉ、お前がエルネスタ・キューネか」
「あはは、初対面でおまえ呼びするとはさすがだねー。うんそうあたしが《彫刻派》代表のエルネスタ・キューネだよん。初めまして
『ふん、噂通りふざけた女だ。』
「そっちこそ噂以上に嫌な男だねー。それで?わたしに一体どんなご用なのかしら?君たちは『
『思ったより情報に詳しいみたいだな。だが訂正してやる。俺はあのイカれ女とは相互不干渉のスタンスを取ってるだけで手を打っているだけだ』
「ふぅん?それは知らなかったなー。…でもまぁ君がやったことを考えると当然かなー?だって君が『
その事を言われたディルクの不機嫌さは天元突破しそうな勢いで対してエルネスタは何処吹く風で平常運転の対応だった。
『…んなこったぁどうでも良い。単刀直入に言う。”俺たちと手を組め”』
「ふんっ、何を言い出すかと思えば馬鹿馬鹿しい…。」
カミラが嫌悪感を丸出しにして画面を睨み付けるが画面の向こうの赤毛の青年は歯牙にも掛けていない。
「交際の申し出にしては些か不躾じゃないかしらー?第一あたしたちは君達の事を全く知らないんだけどこう言うのってまずお互いを知ってから始めるもんでしょ?」
『その必要はねぇ。手を組むと言ったが必要なときに必要な形で協力してくれさえすればそれで良い。後でそれに応じた実利で返してやる。』
「実利?なんじゃいそれは?」
『一応こっちも筋を通すために、分かりやすい手土産を用意しておいた。そいつを見てから判断してくれりゃ良い。』
そう言って画面の向こうの青年はアタッシュケースを手元に寄せて番号を打って解除する。
「!?…へぇ」
「なんだと…!」
両名は驚いた。
そこにはエルネスタが願いを叶えるために必要なパーツが鎮座していた。
◆ ◆ ◆
ちなみに俺たちは既に準決勝進出が確定しており今の時間は最後の試合、天霧達と黎兄妹の準々決勝戦になる。
控え室にてその試合をみているのだが実況席に座る解説役のアナウンサーの声が聞こえると観客席は大きく盛り上がっていた。
『さぁさぁ皆様お待ちかね!いよいよこのシリウスドームでも準々決勝の試合が始まろうとしています!まずは東ゲートから現れましたのは星導館の天霧綾斗選手とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトペアそしてそして反対側!西ゲートから界龍第七学院の黎沈雲と黎沈華ペアの登場です!』
『奇しくも第五回戦と同じ星導館対界龍のカードと成ったッスねー。』
『そうなんですよ!なお他ステージでは既に全ての試合が終了しベスト4のうち3枠が確定しております!果たして果たして、その最後の一をこの試合の誰が射止めるのか!注目の一戦です!』
前述した通り既にベスト4の3枠が確定しておりその中には既に俺と綺凛ちゃんが入っている。
これで一安心…というわけには行かない。
今期シーズン優勝を目指すなら天霧達もその枠に入らなければならないのだから。
と、それよりもなんだが…。
「どうして君たちは俺の左右に陣取ってるんですかね…?」
「どうしてって…ここは私の定位置なのですから可笑しくは無いでしょう?」
とクローディアがそう言うと
「だって離れていたら映像がよく見えないじゃない。真ん中に座っているのが蜂くんなんだから仕方ないよね?」
シルヴィアがそういう。
「あう…」
困ったように立ち尽くしてしまう綺凛ちゃん。
「おい、綺凛ちゃんも困ってんじゃ…って離れやがりなさいよっ…!」
引き剥がそうとするがクローディアは得意気な顔をしてシルヴィアは恥ずかしそうに俺に身体を寄せてくる。
てか恥ずかしがるぐらいなら俺に寄ってくるなよ!スキャンダルとか怖くないんですかねぇ!?
それと二人の柔らかくて大きいものと金髪と紫髪の美少女の華やかな香りが俺の脳をバグらせようとしている。
そんなことを思っているとクローディアが爆弾発言をしやがった。
「綺凛さんもそこに立っていないで此方にいらしてください。…”そこ”が空いていますよ?」
「ふぇ?……っ!!!」
クローディアが一部を指差すと綺凛ちゃんの表情が赤く染まるのをみて俺とシルヴィアその指差した場所をみて顔を赤くしてしまった。
「なっ!?」
「ええっ!?」
指差した場所は俺の股の間であり赤面する三人を尻目にクローディアはちょいちょいと手招きをする。
俺の顔と地面を行ったり来たりしてついに覚悟を決めたのか俺の前に立った。
「お義兄さん…し、しつれいしましゅ!」
噛みながら背を向けてちょうど良い間合いにいた綺凛ちゃんは俺の空いている空間にすっぽりと腰を下ろすが小動物のようにプルプルと震えている。
「あの、お義兄さん背中を預けても…良いですか?」
「え、あ、う、うんいいけど」
「で、では失礼して…え、えいっ」
そういっておれの胸部分に綺凛ちゃんは背面を預けその温もりが俺に伝わり大変なことになってしまった。
その光景をみて大人な二人は赤面する綺凛ちゃんをみてそれぞれ反応していた。
「ふふふっ。」
「わぁ、綺凛ちゃんってば大胆…」
「はぅ……。」
「他人事のように言ってるがお前らもじゃい」と言っても聞き入れられないんだろうなと諦めた。
仕方がないのでこの状態で天霧達の試合を見ることにした。
因にだが今ここにはフローラは居ない。
”一緒にここで見ないか?”と提案をしたが『実際で生の試合を見たいので大丈夫です!お心遣いありがとう御座います!』と俺がこのくらいの年ならそんな言葉は出てこないだろうと思うぐらいにしっかりしていたな。
というわけなのでフローラは今一般の立ち見席にいる。
俺は画面を注視していると人影がステージに入場するのが見えた。
ボルテージが高まったステージに天霧達が足を踏み入れるとその歓声はさらに大きくなる。
選手を迎え入れたステージは歓声に支配されていた。
「観客は全員テンション最高潮、って感じだな。」
「はい。
少し困ったような表情を浮かべている綺凛ちゃんだったがそう思うのも無理はないだろう。
「叶えたい願いがあってそれも叶えるために強敵と戦う…その行程は短ければ短いほど良いのですが観客の「もっと見せてくれ」は至極全うなものでエンターテイメントとしては仕方がないですね。もっとも腕試しや会場として使っている界龍とクインヴェールの選手達は思惑が違うようですが…。」
それにシルヴィアが反応する。
「まぁ、
「ええ。当学園の生徒達は強いものと戦いたいよりも”願い”の方が強いですから星武祭にかける思いは他校よりも強いと思います。」
ベスト4に入っているのはさっきも説明したが聖ガーラドワース学園の聖騎士コンビとアルルカントのアルディ・リ
ムシィペア、そして俺たちのペアだ。
画面をみて歓声を浴びている天霧達には悪いがさっさと決着をつけて欲しいものだ。
「観客達と天霧達には悪いがさっさと終わらせて綺凛ちゃんのお願いを叶えないとな。」
「お義兄さん……はいっ」
綺凛ちゃんが嬉しそうに頷いていた。
こんな良い子のお願い事をさっさと叶えられるようにしなければ、と心に強く誓い頭を撫でると嬉しそうに微笑む。
「…天霧くんもユリスも当校の中でも実力は上澄みも上澄みですがまぁ蜂也の実力ならば問題ないでしょう。」
「まぁ、天霧が万全の状態なら分からんがな。」
その事は一旦置いて置くと画面の向こうでは天霧達と黎兄妹が会話をしているが余りよい雰囲気とは言えないようだ。
『初めまして《叢雲》に《焔華の魔女》。僕は黎沈雲。』
『私は黎沈華。以後お見知りおきを。』
「ああ。《幻映創起》に《幻映霧散》…しかし本当にそっくりだな。」
画面に映り喋る双子の姿はマ○カ○もビックリなほどににている男女の兄妹は妹の頭についたシニョンを外せば兄の方の見た目になるだろう。
しかし一体試合直前にどうして此方に声を掛けた来たのか。それは直ぐ様わかった。
音声は聞こえないが読唇術で何を言っているのかは大体理解できる。
あれは誰かをバカにしているときの表情もしているからだ。
『いや、一応お詫びをしておこうと思いまして。』
天霧が頭に?を浮かべていたが直ぐ様それが誰に告げているものかを理解していた。
『ええ、僕らの同輩が《戦士王》達に対し不甲斐のない試合をしてしまったようで』
『同じ師を持つものとしては恥ずかしいばかりです。』
兄の言葉を継ぐようにすんなりと話す双子。
確実に天霧達を挑発しに来ているのがバレバレだったがそれを今天霧達に言うのか?とその場面を見て鼻で笑った。
ユリスは不快だと踵を返すが天霧が何を思ったのかコメントをすると双子の表情が変わった。
意趣返しと牽制を込めた視線とコメントは案の定聞いたようで黎兄妹の表情は不機嫌と怒りに染まっていた。
最後の最後にそう言って踵を返すとユリスが苦笑を浮かべていた。
定位置に戻り天霧は《黒炉の魔剣》の発動体を握りお馴染みになった解放の言葉を告げる。
『ー内なる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放す!』
このパフォーマンスに観客席と実況席が大いに盛り上がる。
逆にそれは天霧のリミットを告げるものである。
それをBGMにして《黒炉の魔剣》が唸りを上げる。
「
試合開始と同時に天霧が沈華へ接近し《黒炉の魔剣》を上段から振り下ろす。
予測をされてはいたのか後方へ回避されてしまう。
回避された天霧の表情に苦い顔を浮かべていた。
『っ!流石に疾い!でも予測してれば回避できない攻撃じゃないわねっ!』
流石に準々決勝まで勝ち残っているところを見るに実力は上澄みだろう。
今の一刀で切り伏せる予定だったが回避されてしまい天霧のブーストと身体能力をもっても絶対的なアドバンデージにはならないようだ。
とその映像をみていた隣にいるクローディアが話しかける。
「蜂也ならばどう対応していました?」
「そうだな…俺なら《自己加速術式》で一気に間合いを詰めて上段から《壊劫の魔剣》を振り下ろして一撃で伸すかな。」
「エンターテイメントの欠片もない…。」
呆れるシルヴィアに君らしいと、言わんばかりの表情を向けられたが観客を楽しませてやるほど俺は暇じゃ無いので仕方がないと言えば仕方がないのだが。
そんなことを思いつつ画面に注視するとそこではユリスが炎燐のチャクラムを展開し沈華へ目掛け攻撃するがそれよりも早く沈雲が割って入る。
『急急律如令、勅!』
複雑な印を結ぶとステージはゆらり、と揺らめき空間に煙が満ち溢れていく。
しかしこれは本物の煙ではなく”幻術”だ。
「まさか…これは煙幕ですか?」
綺凛ちゃんがステージに突如として現れた煙に疑問を浮かべている。
「本物じゃなくて星仙術の幻術だろうな。故意に見えなくするのは星武憲章違反だからすぐに消えるだろうな。…仕掛けの時間稼ぎだろう。」
「なるほど…!」
案の定足止めは成功し天霧は一旦下がりリースフェルトも《九輪の舞焔花》を解除せざるを得なかった。
俺の場合だと相手が目眩ましの戦法を取ってきた時間髪入れずに無系統魔法
やはり目論見は達成できていたのかステージの端まで移動していた黎兄妹は不適な笑みを浮かべている。
『せっかちなことだ…それならば次の手を披露しようか。』
沈雲が再び印を結び影がステージ上に伸びて人影を形成しそれはやがて沈雲そっくりの不敵な笑みを浮かべたモノへと変化する。
本人そっくりなその”分身”は星辰力の流れや身体の動かし方も同じで見破ることは不可能だ。
『それじゃ、私も…』
沈華の方も複雑な印を組んでその姿が消えるように溶けていく。
此方は沈華が得意とする幻影…《隠行》でただ単に姿を隠すだけでなく兄の沈雲同様に姿と星辰力を隠蔽してしまう技能だ。
どちらも姿を隠し相手の背後からサクッと一撃与えるには有効だろう。
「さて?此方の準備は整ったわけだけど」
「そっちの出方を待つというのは少々芸がないかな?」
「うんそれでは観客の皆様は退屈してしまうだろうしね」
「多少は盛り上げないとブーイングを貰ってしまいそうだし」
「と、言うわけで…」
五人の沈雲が其々に違う言葉を発することが出来るようだ。
本物含めた五人の沈雲がチャイナ服の袖裾から紙切れ…ではなく『呪符』を取りだし此方へ向かってきた。
分身に翻弄される天霧は気を取られた隙に分身体が投げつけてきた本物に混じった呪符が爆発してしまうが持ち前の星辰力を防御に回し耐えた。
しかし対するリースフェルトは相対している沈雲が仕掛けた”透明になる呪符”の攻撃をくらってしまい宙を舞ってダメージを負ってしまう。
反射的に天霧がリースフェルトの元へ駆け出だし受け止めるとどこからか沈雲の声が響き渡っている。
天霧とリースフェルトがなにか相談をしているようだが恐らく天霧の《リミット》について話しているのだろう。
黎兄妹と試合開始をしてそれなりの時間が経過している。
「少々不味いか?」
「ええ。不味いかも知れません。」
《リミット》について知っている俺たちは画面の向こうにいる天霧の心配をしていた。
攻撃を開始した天霧達。
リースフェルトは焔燐の戦輪を複数突っ込む天霧に随伴するように従い第一目標である沈雲に向かうが突如として武厚い壁が行く手を遮ってしまい攻撃に移れない。
それはリースフェルトの攻撃も同じであった。
回り込もうとする天霧の対応を予測していたのか突如としてその場が爆発しまともなダメージを受けてしまう。
”見えない呪符”はステージ全体に設置されておりまるで機雷のようだ。
リースフェルトが天霧に声を掛けて全てを焔で薙ぎ払おうとしていたが背後より現れた沈華の雷撃によって膝を着いてしまう。
既に三分が経過しており一刻の猶予もなかった。
再び沈雲へ攻撃を仕掛ける天霧だったが間合いに入ろうとした瞬間にブレーキを掛け隣へ飛ぶとその瞬間に空間が爆発した。
見えない機雷だが天霧にとっては気配を感じる取ることが出来れば回避を行うことが出来てしまうが時間の猶予はない。
爆風に曝され続けるが分身の二人、三人と着実に数を減らしているが陽炎のように本体にたどり着けない。
奥を狙うも外した、がその返す刃でもう一人を切り裂く。
『ー天霧辰明流剣術初伝、”貳蛟龍”!!』
しかし反応はなくついに膝を着いてしまう天霧に対する沈雲はほっとした表情を浮かべているのを天霧の口角が少し上向きになっているのを俺は気がついた。
しかし一方でリースフェルトは沈華に直接攻撃に持ち込まれ拳打を叩き込まれている。
当たり所が悪かったのか胸部分を抑えている。非常に苦しそうな顔を浮かべている反面でサディスティックな表情を浮かべる沈華は対照的だ。
その映像を俺の股の間に座る綺凛ちゃんは辛いものをみるような表情だった。
俺も同じような感情だったが心配はしていない。
天霧は間近で爆破された呪符を利用し相手の懐へ近づき校章を切り裂く。
全てが終わった。
筈だった。
しかし今天霧が切ったのは分身であり本体は沈華の『隠行』で隠され行動していた。
仕留めるために沈雲が呪符を起爆させようとするが交戦していたリースフェルトが炎の翼をはためかさせ低空飛行で突っ込み天霧を回収して距離を取る。
距離を取って何かを会話しているのだろうがそれはみているこっちが恥ずかしくなるような内容を喋っておりその場面を隣にいるシルヴィアが。
「二人はどんな会話をしてるのかな?」
と聞いてきたので現在進行形で伝えるとシルヴィアと綺凛ちゃんは顔を赤くして「男の子だねぇ~」と感想を告げていた。
画面に意識を向けるとリースフェルトに告げられた言葉にはっとした天霧の表情が変わった気がした。
しかし相手は待ってくれず攻撃を仕掛けてくる黎兄妹との打ち合いは激しさを増していく。
天霧が何かの作戦を思い付いたのか前衛はリースフェルト一人。
炎の魔法を駆使し黎兄妹へ挑む。
燃え盛る攻撃が隠れていた呪符を燃やし尽くし攻勢へ転ずる、としたが足元を水が覆う。
これも幻術なのだろうが《魔女》も魔法師と同じで”イメージを現実のものとする”ので”水は炎に掻き消される”とイメージしてしまえばその威力は落ちる。
それを狙ってのリースフェルトへのイメージの攻撃だろうが意識を集中する。
掻き乱すために沈雲がリースフェルトへ氷の弓矢を号令一陣で放つが所詮幻影と無視し瞳を閉じて意識を集中する。
「リースフェルト、それは悪手だぞ…!」
案の定リースフェルトは目を開かせ意識をぶれさせるために言葉で天霧への攻撃をそそのかすと意識は乱れしまいには沈華の攻撃を先ほど怪我した部分に直撃してしまい苦悶の絶叫が響く。
「そんな!今のはわざとですよ!」
綺凛ちゃんが抗議の声を挙げるが校章が違反行為だと判定していないのでいくら声高に叫んでも無意味だろう。
「ちっ、双子め。分かってて攻撃したな。」
「そんな…。」
落ち込む綺凛ちゃんをあやすに頭を撫でて落ち着かせる。
「大丈夫だ。…どうやら天霧はなにか策があってリースフェルトを一人で戦わせてるみたいだしな。」
「お義兄さん。」
「まぁこれでなにもないなら俺が天霧を叩っ斬るけどな。(天霧、リースフェルトの思いを無駄にすんじゃねーぞ…。)」
膝を着きそうになるリースフェルトだったが自爆に近い大技を使い相手を吹き飛ばすだけ無く自分に炎を重ね掛け…所謂レジストを発生させ能力の底上げをおこない攻撃を中断させた。
それにはさすがの双子も驚いていたがコンビネーションによる合わせ技でリースフェルトの攻撃を防ぎきっていた。
遊びは終わりだ、と言わんばかりに沈雲の瞳に真剣な光が宿り呪符を取り出す。
それに応じてリースフェルトも後方へ下がろうと足を下がらせるがその瞬間にどちらかが仕掛けた呪符が発動し鎖が巻き付き身動きが取れなくなってしまっていた。
当然ながら逃げることは出来ず呪符が爆発しまともに受け身も取れずに大きく吹き飛ばされる。
逃げようとするリースフェルトを逃がすまいと鎖で空中に縛り上げ気絶しない程度の呪符が襲いかかりとてつもない爆発がリースフェルトに襲いかかる。
『うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
この攻撃には実況者席も校章を狙わないことにコメントを述べるが別の実況者がその事について補足を入れるが校章が意識消失のジャッジを下していない。
観客たちも困惑の表情を浮かべているようだ。
攻撃は絶え間なく続いて傷つき、力無く宙に浮かぶリースフェルトの表情を見てにやついた表情と声を浮かべ呪符を展開する沈雲に対して諦めたような表情を浮かべるリースフェルト。
その光景に思わず顔をしかめるクローディアとシルヴィア。そして顔を背ける綺凛ちゃん。
しかし俺は違った。
駄目かと思われたその瞬間。
「ようやく来たか…。」
呪符が到達する直前に膨大な量の星辰力があふれでて双子とリースフェルトはそちらの方向に目を取られてしまう。
気がついたときには双子の前から倒れていたリースフェルトがいなくなり膨大な星辰力を吹き出す天霧の姿があるならばそういう表情なろう。
何故ならそれよりも先程まで弱まっていた天霧の星辰力が爆発的に飛躍しているのだから。
『あとは…任せて良いか?…少々疲れてしまった…』
『うん。任せて……よし…』
リースフェルトを後方の地面へ座らせると天霧は《黒炉の魔剣》を携え踏み出す。
姿容が見えない沈華に対しての天霧は臆すること無く突き進む。
それは俺が特異な《瞳》を持つのと同じように天霧もまた特異な能力を持っているのかも知れない。
踏み込み進んだ瞬間に《黒炉の魔剣》を横へ一閃すると隠れていた呪符がまっぷたつになる。
同様に機雷のように仕掛けられた呪符を切り裂いていく。
『まさか…見えているのか?』
沈雲が呟く。
その問いかけに答えるように空間に仕掛けられた透明化させた呪符と沈華を炙り出し破壊していく為ステージ上ではけたたましい爆発音が響き渡り煙が舞い上がる。
「沈華!」
「くっ…!まさか今の攻撃で仕掛けていた呪符を全部吹き飛ばしたのっ!?」
天霧は《黒炉の魔剣》を構え歩き出し体勢を整えるために再び双子は霧と『隠行』を発動し仕切り直すが先ほども言った通り”タネ”は割れているのだ。
だが同じ技を繰り出しても今と同じような対応を取られてしまうのでこの一撃で沈華を仕留めることにした。
『(右後方か…)』
天霧の今の状態は隠された《呪符》や《人の場所》をはっきりと気配が浮かび上がり隠れることなど不可能であった。
踏み込むと同時に地面が砕け散り煙を巻き上げるがお構いなしに突っ込んでいく。
その光景に双子は恐怖しているようだ。
「まさか」
「見えているっているの!?」
沈雲もペアを落とされるのは不味い、と思ったのか分身の数を増やし呪符を天霧目掛け放ち取り囲む。
その総数は”二十”以上を越えており設置型の機雷ではなく近接信管のような爆弾が展開された。
当然ながらそれらは一つが爆発すれば連鎖するような仕組みになっており爆発を起こす…筈だったが起爆前の状態の呪符を全て切り捨て無効にした。
「ばかな…!」
背後に迫っていたのは分かっていたかのようにその攻撃を回避して突っ込んできた沈華の型を軽く押してその軸をずらしていた。
『『ー天霧辰明流剣術奥伝、”逆羅刹”』』
次の瞬間には此方の校章を破壊するために突っ込んできた沈華の攻撃を誘導し自らが仕掛けた呪符に突っ込み自爆する。
「えっ……きゃああああああっ!!」
完全に意識外からの攻撃だっただろうが動揺するよりも先に自らが仕掛けた呪符に吹き飛ばされた。その影響で術が解除され姿を現した沈華はすれ違いざまに校章を切り落とされ地面に激突し気を失うと同時に機械音声が戦闘不能をコールする。
「黎沈華、
「ぐっ…!」
沈華の校章が敗北を告げると流石の沈雲も焦っていた。
相手取るのは分が悪いのか天霧との打ち合いの最中だったが呪符による爆雷札で体勢を崩し体術を当てて弾き飛ばし距離を取っている。
駆け寄ろうとするが沈雲が大量の呪符を袖から雪崩のように現し竜巻のように巻き上がり一つの大きな球体を作っていく。
それが先ほどの爆雷球と同じものならば集合している分相当な威力だろう。
「さて…《叢雲》僕の手持ちの呪符を全て使って作り出した爆雷球だ。存分に味わってくれ。」
そう言うと沈雲はその場で複雑な印を結びその球体を八つに分身させ天霧へ向けて降下させる。
本物が分かっている天霧へその攻撃は悪手であったが狙いがすぐに分かり駆け出す。
その狙いが分かったリースフェルトが「来るな!」と釘を指すが沈雲が冷たい目で印を結び雷撃を仕掛けるが天霧は素早くリースフェルトの前にたち雷撃を防ぎきる。
沈雲は天霧が負傷したリースフェルトを見放せないと踏んでの作戦だったらしくその思惑は成功していた。
『あなたらしいな、黎沈雲。』
爆雷球は既に眼前に迫っており回避は出来ない。
その様子を嘲笑う沈雲。
『あははは!そう、そうでなければね《叢雲》!君は《焔華の魔女》を見捨てることは出来ない!諸共に吹き飛んでしまえば良いよ!』
確かにこの状態では回避は出来ないしリースフェルトを抱えて逃げることも出来ないだろう。
しかし、そんなものは必要ない。
”斬り捨てて”しまえば良いだけの事だ。
今の天霧にならばそれが出来る。
こう告げた。
『避ける必要なんて無いさ。』
そういって《黒炉の魔剣》の束を握る天霧の星辰力が吹き上がる。”流星闘技”だ。
次の瞬間には《黒炉の魔剣》の刀身が一瞬にして10m近く伸び”本物”の爆雷球を切り捨てると連鎖するように爆風が発生するが一撃で”爆風を切り裂いた”。
「な、なんだと…!…はっ…!」
爆雷球を切り裂き《黒炉の魔剣》をホルダーに仕舞い《縮地》を用いて呆然と立ち尽くす沈雲の前に天霧が立っていた。
目の前にいるのが頭で理解できていないのか無防備なままで少し天霧は笑ってしまったが大切なパートナーが傷つけられたことに無性に腹が立っていたように見えた。
『ー今回ばかりは流石に腹が立ったよ。』
その場面をみて俺は一言。
「やっちまえ、天霧。」
『ぐほっっ!?』
「うわー…痛そう。」
「まぁ、自業自得とも言えなくもないですね。」
「い、痛そうです…。」
俺を除く三者が様々な反応を見せていた。
てか綺凛ちゃんは相手のムカつく選手の心配をしてくれるのははっきり言って天使なのでは?
画面の向こうには有言実行と言わんばかりに想いを込めた一撃を端正な顔立ちの沈雲へ叩き込むと身体ごと後ろのステージの壁へ叩きつけられピクリとも動かなくなったが死んではいないので問題無かろう。
気絶したことを校章が確認し音声が流れる。
「黎沈雲
「試合終了!勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!」
嵐のような歓声と大喝采がステージを埋め尽くし吹き荒れる。
『決まったーっ!準々決勝を制したのは星導館の天霧&リースフェルトペアだーっ!』
その後に何やら解説達が言っているようだが天霧とリースフェルトは互いに疲れきった表情を浮かべていたが嬉しそうな表情を浮かべ互いに親指を立てて勝利を噛み締めているようだ。
◆ ◆ ◆
「ユリス様ーっ!天霧様ーっ!」
ステージに注がれる歓声にまぎれ立ち見していたフローラも一緒になって勝利した天霧達へ喜びの声を掛けていた。
純粋な熱意と憧れ、それはいつか自分もああなりたいという感情の発露が現れているように手に汗握り手を振っている。
それは客席に座っている観客席も同じ…というよりも黎兄弟の戦い方に対して心残りがあったのか全員が「スカッとした!」と言わんばかりに総立ち状態で背の低いフローラは埋もれてしまいピョンピョンと跳び跳ねている。
「…おい。」
男の声がフローラの耳に入り自分が跳び跳ねているのが邪魔になっているのだと、そう思ったので跳び跳ねるのを止めて謝罪しようと振り返ろうとした。
「え、あ、はい!ご、ごめんなさ、」
フローラが振り返ろうとしたその瞬間に首筋に鋭い痛みが走った。
熱狂に支配された会場で一人の少女が忽然と消えたことに気が付くものは誰一人としていなかった。