俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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迷子捜索網

試合が終わり控え室…(やっぱり俺たちの使用している控え室)に戻ってきた天霧たちに声を掛けた。

 

「おめっとさん天霧にリースフェルト。黎の兄貴をぶん殴った際は最高にスッとしたぜ。」

 

「あはは…ありがとうございます副会長。」

 

「おめでとうございますお二人とも!」

 

「ありがとう綺凛に蜂也。クローディアも。」

 

「ええ。無事に勝ち抜いてくれてありがとう御座いますお二人とも。」

 

クローディアは感謝の意を込めて軽くお辞儀をして見せると天霧は慌てていたがリースフェルトは「自らのためだ」と突っぱねていた…が嬉しそうだが指摘すると怒られるので自重した。

 

「にしても…いやはや凄かったな黎沈雲の爆雷球をぶったぎったあれは”流星闘技”…それと《禁獄の力》を無理矢理じゃなくて解放したのか。」

 

今の二人は流石に試合の直後に勝利者インタビューを受ける前に治療を受け学園指定の体操着に着替えている。

制服はボロボロになってしまったので特にリースフェルトの制服はアンダーが見えそうになっていたからだ。

試合についての事を指摘すると苦笑いを浮かべる。

 

「あはは…副会長はソコもお見通しなんですね…。ええ。無事に第二段階まで解放できて星辰力を内に留めておくことが出来るようになりました。前みたいに直ぐに制御が掛かる…事は無くなりました。」

 

「んで時間は?」

 

「一時間…弱ですね。」

 

「……何その”0”か”100”みたいな出鱈目な時間は」

 

「あはは…。」

 

「ユリスたちも試合の後で小腹が空いているでしょうから私と蜂也からの差し入れです。どうぞ召し上がってください。」

 

リースフェルトの視線にあるテーブルの先には布が掛けられており外すとソコには焼き菓子や具だくさんのサンドイッチが用意されていた。

焼き菓子はクローディアがサンドイッチは俺が控え室の冷蔵庫に入れておいた食材で天霧達が戻ってくる前に作っておいたのだ。

因みにシルヴィアは仕事が入ってしまったらしくここには今はおらず明日の試合の時にまた顔を出すと言っていたが世界の歌姫がそう簡単に男にあって良いものなのかと考えたが分からなかった。

 

俺たちから催促を受けて手に取る天霧達。

 

「うん、美味しい!」

 

「これは…その旨いな…というより料理が出来たんだな蜂也。」

 

「ふふっ、お口に合うようで何よりです。」

 

「まぁな。」

 

全員が席に着き軽食を取っているとクローディアが真面目な表情になり向き直る。

俺を含めて四人の視線はクローディアに注がれる。

 

「さて…改めて四人とも。副会長を含めてですが準決勝進出おめでとうございます。星導館学園生徒会長として、喜びと感謝を申し上げます。」

 

そういって深々と頭を下げるクローディアに狼狽する天霧に自分のことなのだから当然と言わんばかりのリースフェルトにあたふたする綺凛ちゃん。

 

「…。」

 

そして何も言わない俺の四人がそれぞれの反応を見せていた。

 

「個々の反応それぞれでしょうが、今シーズンの総合成績構想からするとベスト4に残っているのが我が星導館の選手ですから想定以上のポイントが得ることが出来ています。なにせベスト4に入っているのはあなた方が数年振りですからね。」

 

「お前から素直に誉められることは悪い気はせんが…。」

 

「出来ればこのまま当学園で優勝争いをして頂きたいものです。」

 

クローディアの言葉に俺含め全員が頷いた。

全員がそう願っていたからだ。

 

「ところでクローディア。フローラを見なかったか?私たちの控え室で試合を見るように言っていたんだが居なくてな。」

 

「いいえ。生憎姿は見ていませんね。ここで一緒に見ませんか?と提案したんですが実際にドームで見たいと言って観客席の方へ向かったようですが…にしては戻ってくるのが遅いですね。」

 

「そういや試合が終わって既に一時間以上経過してるが…遅いな。」

 

この控え室に合流をする筈なのだがフローラの姿は見えない。

今日は俺と天霧達の試合が終わっているのでクローディアの提案で全員で夕食にでも…ということだったのだがこうも遅いと心配になるのは彼女は星脈世代ではあるが幼いからか。

 

「端末に連絡は掛けたのか?」

 

「ああ。何度も掛けているのだが…。」

 

不安そうな表情を浮かべるリースフェルトに俺と天霧、遅れて綺凛ちゃんが立ち上がった。

 

「俺も観客席を見てくるわ。天霧達の試合を見て興奮して放心状態になってるのかもしれんし。」

 

「僕も見てきます。合流場所を間違っているのかもしれないので。」

 

「わ、わたしもさがしに行ってきます。もしかしたらロビーの方にいるのかも…。」

 

「ではわたしは迷子の届けが出ていないか確認をしてこよう。」

 

「入れ違いになると行けないので私は此処で待っていますね。」

 

「ああ。そうして…」

 

リースフェルトがそう言い掛けたとき見計らったように端末が震えた。

その主を見るとアドレス帳に登録された「フローラ」の文字が浮かびリースフェルトはホッと一息付いたがその表情は直ぐ様真剣な表情へ変わった。

 

「音声着信だと…?」

 

訝しみならが応答すると真っ暗なウィンドウが表示され低い男の声が聞こえた。

 

『…ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだな?』

 

「誰だ貴様!なぜフローラの端末で通信している!」

 

リースフェルトの顔に怒りと動揺が浮かび天霧が嗜めるが当然ながら収まらず怒鳴るように問いただすが相手は意に関せず淡々と言葉を連ねる。

 

『この端末の持ち主は預かった』

 

その会話をスピーカー状態にしているので当然ならがその会話を俺も聞いているので相手の目的はフローラの関係者であるリースフェルトかペアである天霧に要求を突きつけるのか、と思っていたが予想外の変化球が投げられた。

 

『ソコに名護蜂也はいるか?』

 

二人ではなく”俺”だったのだ。突然の事に困惑したものの応答する。

 

「…名護蜂也とやらは俺だが…何処かの誰かさんかは知らないが恨みを買った覚えはないぞ。…いや、それよりフローラは無事か?」

 

沈黙の後フローラの声が聞こえて来て俺と天霧、リースフェルトの呼んでいた。

…間違いない声の質からして”フローラ”本人の声だ。合成でもフェイクでもない。

正真正銘フローラは誘拐された、と言うことを示していた。

 

『貴様が此方の要求を飲むのなら、以後の安全を保証する。』

 

なぜ俺なのだ?と疑問を頭に過ったが余計なことを言って人質に危害を加えられるわけには行かなかった。

 

「…その要件は?」

 

『貴様の持つ『壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)』に対して緊急凍結処理をしろ。その受諾が確認され次第彼女は解放する。』

 

その言葉に天霧は疑問を頭に浮かべリースフェルトははっとした表情で綺凛ちゃんは呆然としクローディアは真面目な表情を浮かべていた。

 

「緊急凍結処置…か。なぁ素人で申し訳ないんだが”何故俺にそれを指示するんだ”?」

 

「「「!?ちょっ!」」」

 

要求を突きつけられてるのに対し此方から好敵に話しかけているのにクローディアを除く三名は驚いて声を上げた。

手で三人を制する。

 

「ちょ!副会長!」

 

「蜂也!」

 

「お義兄さんっ!」

 

『…貴様が知る必要はない。要求が実行されなかったと判断された場合、及び警備隊及び星導館学園の特務機関に連絡が確認された場合は人質の身の保証は出来ない。また、おまえ達が星武祭(フェスタ)を棄権することも同義だ。』

 

俺たち以外の人間に知らせたくないのは分かる。だが武器を使わせたくないのに星武祭は出ろ?その相反する指示に俺は頭に疑問を浮かべた。

 

しかし、そう問いかける前にリースフェルトの持つ端末の通話が終了し天霧と綺凛ちゃんは慌てているがリースフェルトは血の気が引いたように顔色が蒼白になり今にも倒れそうだ。

…ふむ、此処は一言言っておくことにしようか。

 

「落ち着けリースフェルト。相手の狙いはどうやら”俺らしい”。関係者である天霧やおまえには触れていない。お前が狼狽えてたら思う壷だぞ。」

 

「蜂也の言う通りです。ユリス。落ち着いてください。貴女が狼狽えては話しになりません。」

 

「お義兄さん。」

 

不安そうに俺を見つめる綺凛ちゃんの頭に手を置いて撫でて落ち着かせる。

こっちも気が気じゃないようだ。

一方でリースフェルトは俺とクローディアの言葉を聞いて何時もの調子に戻ったようだ。

全快、と言うわけではないが。

まだ瞳には怒りが宿っては居るが動転した様子は見られない。

 

「しかし、緊急凍結処理と来たか…なんで俺なんだ?俺じゃなくてフローラの関係者は天霧とリースフェルトだろ?それなら俺じゃなくて天霧の”黒炉の魔剣”の方が効果的だと思うんだが?指名する相手が間違ってるだろ。俺が拒否すると思わなかったのか?」

 

そう言って天霧達に向き直るとクローディアは苦笑を浮かべてリースフェルトは今すぐにでも俺に食って掛かりそうだがこのくらいの悪態は許して欲しいもんだが。

 

人の命が掛かっている、といっても”俺に関係のない”話だ。

素直に相手の言う事に素直に聞いてやるほど俺は人間が出来ていない。

しかし、”リースフェルトは俺の知り合い”である。

 

「クローディア。」

 

「はい。」

 

「緊急凍結処理を頼む。」

 

その事をクローディアに指示するとリースフェルトが申し訳なさそうな顔を浮かべる。

 

「蜂也!本当に良いのか?」

 

「副会長…。」

 

「だがな?例え俺の武装を緊急凍結したところでフローラは解放されないだろう。こう言うのは追加の脅迫がされるもんだ。…だが素直に聞いてやるほど俺はお人好しじゃないんだよ。」

 

ぶっちゃけると《グラム》が無ければ徒手空拳の《四獣拳》と魔法を使用する羽目になり大会のレギュレーション違反になりかねないので《壊劫の魔剣》がないのは非常に厳しい。

其に犯人はこう言っていた。”他人には知らせるな”と。

 

「ど、どう言うことです?」

 

綺凛ちゃんが俺に問いかけるのでニヤリと笑い答えた。

 

「野郎は言ってたな?”他人には知らせるな”ってよ。つまりは”脅されてる本人”は捜索に出ても良いってことだ。」

 

「「「!?!?!!?」」」

 

三人は驚いているが隣に居るクローディアは微笑んでいた。

 

「まぁ蜂也らしい対応…らしいですね。」

 

「そ、そんな屁理屈が犯人に通じるとは…。」

 

「そんなことをしてもしフローラに何かあったりでもしたら…。」

 

「違うな天霧とリースフェルト…偉い人は言っただろ?”バレなきゃ犯罪じゃないって”な?」

 

何て事を言い出すんだこの男は、という表情が浮かんでいるが一旦それは置いておくことにしよう。

一先ずは…。

 

「クローディアは此処に居なくて聞かなかった事にしてくれ。俺が申請を出すから”受けた”事にすれば問題はないだろ?」

 

その事に天霧達はハッとしていた。

そうだ。一応俺が生徒会長であるクローディアに”申請を出した”事にはなる。

認可が降りるかはその生徒会長次第になるからな。

 

「ですが…そうなりますと蜂也が持っている《壊劫の魔剣》を一旦装備局で預かることになりますがソコは誤魔化しが効くので万が一に備えて蜂也が持っていてください。」

 

クローディアの発言に《グラム》が反応する。

 

『ふむ、『緊急凍結処理』とやらは気に食わんがそう言うことならば受け入れよう。あの狭苦しい箱に押し込められたら我は暴れるぞ?』

 

『悪いが知り合いの命が掛かっている。我慢しろ。』

 

『…しかし、主にこのような事を仕掛けてくるとは…命知らずか?』

 

恐らくシルヴィアの時の事を言っているだろうが。

 

『…それを言ったらお前もだろう。』

 

『当然である。』

 

脳内で会議をしていると《グラム(こいつ)》も一応は納得を見せてくれているようだ。

さて、方針を決めるか。

 

「…その間に俺自身が犯人とフローラを探し出して見せれば良いから…時刻は明日の準決勝までざっと”半日”ってところか。試合前には戻らないと行けないし。」

 

「目星は付いているのですか?」

 

クローディアが問いかけてくるので頷いた。

 

「まぁ、俺の目立てだと再開発エリアか歓楽街の辺りが一番怪しいな。あの辺りは隠れるには持ってこいだからな。…十中八九今回の事件の裏に居るのは悪辣の王(タイラント)だろう。」

 

ウルサイスの家に行ったときに”俺が狙われている”と言うことを聞かされていたので間違いない。

ディルクはかなりの狡猾な男、というのを聞いていたので俺にバレるようなことをするのか?と疑問が頭に浮かんだが直接的な証拠をその男が残すわけがないので奴が関連有る施設…となるとその二つになる。

 

「『悪辣の王(タイラント)』…!?」

 

綺凛ちゃんも知っていたようで驚いておりクローディアは少し考えた後俺に向き直る。

 

「…彼が動いているのであればレヴォルフの特務機関が動いているでしょう…『黒猫機関(グルマルキン)』が根城にしている再開発エリア…ですね。ですが何故歓楽街に?」

 

「そっちは勘だ。今は色々な人間が外から来てるからな。木の葉を隠すなら森の中って奴だ。」

 

「ふぅ…本当に貴方の洞察力には驚かされますね。私の二つ名を返上したいぐらいです。」

 

「勘は良いって昔から言われてるからな。とりあえず今から探し回る…と言いたいところだがこの状態で探し回るのはよくないから変装…となるとあいつの力を貸してもらう。」

 

「「「あいつの力?」」」

 

天霧、リースフェルト、綺凛ちゃんの声がユニゾンして思わず吹き出しそうになるが今はそれどころじゃない。

端末を取りだしこの作戦に必要なキーパーソンを呼び出そうとするが控え室の訪問を告げるウィンドウが表示された。

 

『やっほー!蜂くん。準決勝進出のお祝いを…ってどうしたの?』

 

部屋内部の空気を感じ取ったのか怪訝な表情を浮かべるシルヴィアに苦笑を浮かべて事情を説明する前に中に入って貰いその事を告げると「許せない!」と言わんばかりの反応を見せてくれた。

 

「うん、蜂くんわたしも手伝うよ!小さな子を人質に取るなんて許せない!」

 

「その前にお前のあの術を教えてくれ。」

 

その事を告げると快く承諾してくれてた。

フローラの捜索を天霧・リースフェルト達が再開発エリアへ。俺と綺凛ちゃん、シルヴィアは歓楽街へ向かう。

そして俺が教えて貰い”とある術”を使用できるようになったので俺を含め四人は変装?し『フローラ救出作戦』が開始された。

 

「誰に喧嘩を売ったのか理解(わから)せてやるとするか。」

 

俺は少し苛立っていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「ん…ぅ…」

 

フローラが目を覚ますとまず目に入った光景は光に照らされた自分の影だった。

辺りを見渡すと薄暗い空間を点在するランプで照らされており屋内であることは間違いなくかなり室内は広い。

床も壁も工事中なのか資材が置かれたままになっている。

 

「ー動くな。」

 

「…っ!」

 

と、地の底から聞こえるような冷たい声にびくりとするフローラ。

今まで暮らしてきて聞いたことが無いような無機質で冷淡な声に思わず身を縮こませるが自分が拘束されて居ることにこの時はじめて気が付いた。

手足は縛られ口には猿轡がされて壁に縫い付けられている。

体が動かないので顔だけをどの声の方向を動かすと柱の側にもたれ掛かるように立つ男の姿があった。

 

「そこで大人しくしていろ。」

 

視線を向けるとそこには全身が黒づくめで肌の色が見えるのは目元だけだ。

その目元も健康、とは言いづらく不気味な雰囲気を漂わせておりその佇まいは隙がない。

そう言われ黙るしかなく此処に連れてこられた経緯を脳内で再現すると直ぐ様その状況に行き着いた。

 

(確か…鳳凰星武祭(フェネクス)天霧様達の試合を見ていたときに後ろから声を掛けられて…。)

 

記憶は途切れているがそのときに声を掛けられた時の声色が今喋っていた男と同じものだったと一致した。

だとすればこの男はあの会場で幼女を連れ去ってきた、ということになるだろう。

人目の有るところで大胆不敵に拐うのは…と思うのだがあの熱狂に包まれた会場で人一人居なくなるのは案外気が付かないのかもしれない納得していた。

 

(これは…もしかしなくても”誘拐”ということですかね…。)

 

自分が連れ去られた、ということに対して本来ならば叫んだり泣き出したりするのだがフローラは育ちが育ちなのでそう言った非常事態への知識があるのでそう言った反応はないがまさか自分が巻き込まれてしまうとは思ってもいなかったので若干困惑している。しかしその態度を表面に出さないのはフローラの性格ゆえか。

 

(どうしてわたしを誘拐されたのでしょうか…。)

 

そもそもにおいて何故自分が誘拐されたのか検討も付かなかった。

孤児院出身の自分が金品の目的でというのは限りなく低いしフローラ目的であるのなら話が変わってくる。

一部の殿方が小児性愛者という嗜好を持っているのならフローラはどストライクの見た目だろうが今見張っているこの黒づくめの男からその視線は…無関心な視線を見るにその線はないだろうとフローラは行き着いた。

とはいえ偶発的に事件に巻き込まれたとも考えづらい。

 

フローラは《星脈世代》であるので並みの成人男性なら殴り殺せてしまうくらいにはリスキーでありわざわざそんなことをするのかと疑問に思った。

 

(となれば…狙いは姫様に関連することでしょうか…?)

 

自分が目的でなければその関係性…リースフェルトのとの関連を見つけ試合に負けるように脅迫を掛けているのではないかとその思いに達したフローラは今すぐにでもユリスとの連絡、もしくは此処からの脱出を目指そうと体を動かした。

 

「ふぐっ…!?」

 

「動くなといった筈だ。」

 

身をよじったその瞬間だった。

フローラの頭は男によって鷲掴みにされて床に押し付けられてしまった。

同時に喉元に冷たく鋭利なモノが押し付けられる。

声のする方に再び顔を向けるとその男は先程の柱から一歩も動いていないことが分かる。

ならばこの今押さえつけているのは誰なのか?味方がいるのかと考えを巡らせるがフローラは気が付く。

”わたしの後ろはすぐ壁だったはず”だと。

そして《星辰力》の流動が発生していることに気が付き心の中で呟いた。

 

(《魔術師》…!)

 

「次動いたらお前の命はないと思え。」

 

地面に倒れ込んだまま安堵の吐息を漏らすフローラ。

起き上がれずに動くことも許されないのならこの状態を維持するしかない。

普通の成人男性であれば自分でも伸して此処から脱出を図ろうと考えたが相手が《魔術師》ならばその選択は消滅したといっていい。

 

(申し訳ございません…姫様。)

 

今はまだ大人しくしているしかなかった。今は。

 

◆ ◆ ◆

 

場所は歓楽街(ロートリヒト)時刻は夕方…というよりもネオンが色鮮やかになっているのでもう夜と言ってもいいだろう。

隣に居るシルヴィアが声を掛けた。

 

「うんうん。これだと蜂くんだって分からないね。まさかわたしの《変化》を一発で習得出来ちゃうなんて。」

 

「シル…っ、リューネさんの言う通りこれだとお義兄さんだと分かりませんね…すごいです。」

 

「ああ。シルヴィ様々だわ…。」

 

雑踏の中を歩く三名の男女。

男の方は短髪で真ん中部分が黒髪でサイドは白髪と言う本来ならあり得ない髪色ではあるが人種は北欧系の青年で目付きは鋭くメガネを掛け格好はラフな上下黒一色のワイシャツを腕捲りしスラックスでパッと見社会人に見えなくもない。

女性は大きめな帽子をかぶり栗色の長髪を無造作に束ねて服装はブラウスにジーパンというラフな格好だが何処と無く人目を引く雰囲気を纏っている。

もう一人は身長は低いが背筋をピンと伸ばし明るい瞳に柔らかな目元、黒髪をポニーテールにしており服装は水色のワンピースを着用し随分とガーリッシュな格好をしているが肩に掛けた竹刀袋が特徴的だ。

 

…と説明したがこの三人が俺とシルヴィアと綺凛ちゃんであり絶対に分からないだろう。

綺凛ちゃんに関してはシルヴィアが持ってきてくれた道具で変装しているので知ってる人から見ても別人だろう。

俺とシルヴィアに関しては星辰力を応用した《変化》を使っている。

 

(そもそもシルヴィアが使ってるのってこれ九島閣下の『仮装行列(パレード)』だよなこれ…)

 

そうまさに偽装魔法…仮装行列(パレード)なのだ。

星辰力…想子と雰囲気も偽装できていたのが驚いた。

星辰力とサイオンの違いにはなるが九島家の秘術を俺が使っていいものなのか小一時間迷ったが背に腹は代えられないのでありがたく使わせてもらうことにした。

…さすがに仮装行列は失礼なので偽装工作(フェイントオペレーション)と名付けて使用させてもらうことにしよう。

そんなことを思いつつ端から見れば俺が歓楽街に女性二人を侍らせ歩いているように見えるだろう…というか見えてるなこれ。

 

「~~~♪」

 

「……///」

 

俺の両サイドにいる美少女が俺の腕をホールド…もとい腕に腕を絡み付かせて歩いているので通りすぎる人達の視線が俺に突き刺さるが気にしないことにした。

歩いている歓楽街は再開発エリアと比べればかなり小さいが現在開催中の《星武祭》の開催中ということも差し引いても一等地に有る市街地に有る商業施設と比べても物凄い賑わいを見せているがその雰囲気と景観は異なる。

店も酒を提供する飲食店やクラブやバーなどが有るが奥へ進むと風俗や地下カジノなど違法店舗まで様々だ。

道行くものに学生らしいものは多いが校章を一切付けていないのもいて星猟隊に見つかると軽微ではあるが完全に星武憲章違反になるがそこまで締め付けはキツくないのだろう。

 

アスタリスクの歓楽街と都市議会はズブズブだと聞くし此処はアスタリスクの暗い部分なのだろう。

幸いに今俺の両隣には女性がいるのでキャッチになど声を掛けられていない。俺の放つ…というか《グラム》の雰囲気が出ているのか声を掛けられていない。

 

「しかし天霧達と分かれた後に『場所が分からねぇ』な事を言ったらまさかシルヴィアが探し出せる『感知魔法』が使えるとは…。」

 

「まぁでもあの場では探せないからイメージ…近い場所でないとね。」

 

隣にいるシルヴィアがまさかの知覚捜査の魔法が使えると思わずその場で両手を握りクローディアからすごい目で見られたが一旦おいておこう。

そのために今俺たちは歓楽街に有る高いビルの上に向かっていたのだが…。

 

「おい、そこの兄ちゃん、姉ちゃん達。」

 

その道中でこの辺りを仕切っているマフィア?達に遭遇してしまったので二人に聞こえるように軽く耳打ちした。

 

(俺が何とかするから俺から離れるな。)

 

(うん。)

 

(はい。)

 

極力相手に気取られないように今は《グラム》が人格となっているので淡々と返答した。

 

「当方になにか用か?」

 

「てめぇだな?この辺りでこそこそ嗅ぎ回ってるってやつぁ…。」

 

「警備隊の犬…って訳でもなさそうだが…ちょいと面貸してもらおうか?聞きたい話もあるんでな。」

 

どうやら面倒なことにこの男達はこのエリア一帯を仕切っているマフィアの一味らしく警戒していたせいか俺達がこの辺りで探っているのがバレたらしい。

俺達の素性は変装しているためバレはしないだろうが事務所にでも連れていかれたら厄介だと男達の力量を《瞳》で確認すると対したことは無くそこらのチンピラと同じらしいので精神干渉系で追い払うことにした。

 

「ふむ…当方達は店を探しているだけであってな…”そこを退いてもらえるかな”?」

 

俺がそう言い放つと男達の瞳から光が失った。

 

「…ああ。引き留めちまって悪かったな。」

 

「…行ってくれ。」

 

「感謝する。」

 

そう言い残し俺達を連れていこうとした男達を無力化して歓楽街近くの廃棄ビル近くまで移動していた。

一旦腰を落ち着けて俺はシルヴィア達に振り向く。

 

「この辺りか?」

 

「うん。この付近のビルが一番高いかもね。それにしても…」

 

「さっきの男の人達をどうやってお義兄さんは退けたんですか?」

 

「うん、どうやって退けたの?」

 

「ああ。まぁ俺の眼光にビビったんだろうが…」

 

「まぁ蜂くんの今の見た目ならビックリしちゃうかもね…それを抜きにしてもかっこいいけどね。」

 

「はい、シルヴィアさんと同じく綺凛も…そう思いますっ。」

 

シルヴィアには”魔法”ついて説明していないので適当な事を言ったら納得してくれた。

話が路線変更しそうな勢いだったので目的地であるビルの屋上へ向かおうとしたそのとき物音が聞こえ二人より先に振り向くとそこには男が此方に向かってきていた。

 

「やぁれやれ、こんなところにまで逃げてくるとはなぁ……追いかける方の身にもなれってんだよぉ…。」

 

暗闇から現れた男は月夜に照らされ気だるげそうにそう呟いた。

その見た目は明らかに堅気の人間ではなく学生ではない。

カーゴパンツにTシャツというラフな格好だが腰付近に煌式武装が大量につけられており一言で言うなら”チンピラ”だろう。

 

面をあげて此方を見やるがその瞳に覇気が感じられないがその動きは熟練者の動き特有の自然な体系だった。

 

「で、お前さんかい?こそこそここいらで探りを入れてたって野郎はぁ。なんでも人を探しているそうだがうちの連中が気にしててなぁ?ちょいと顔貸してもらうぜぇ?」

 

どうやら俺達がこの辺りで人探しをしているのを感づいたらしく追手を差し向けてきたらしい。

面倒だと思ったが此処で伸しておかないと邪魔に入られる可能性を感じた俺は徒手空拳で応戦することにした。

 

「ちょいと物入りでねぇ。少し頑張って稼がなきゃならんのよ。ま、そう言う意味じゃ仕事を作ってくれてありがとうよ。…んん?」

 

男は動きを止めて俺の背後にいる二人に視線が向けられると覇気の無かった瞳が見開かれた。

 

「なぁんだ…相手は男って話だったが、ちゃんと女もいるじゃねぇかしかも二人と来たもんだぁ!こいつは嬉しい誤算だねぇ…俄然やる気も出てくるもんだぁ。」

 

男はゲスな笑みを浮かべて腰につけたナイフ型の煌式武装の発動体を起動させ下なめずりした。

 

「さて、俺はお前さんを連れてこいって言われてるわけだが…思う存分抵抗してくれていいぜぇ。そうでないとつまらねぇからなぁ。」

 

迎え撃とうとした二人を左手で制して前にでないようにした。

《グラム》から俺に切り替わりため息をついて目の前の柄の悪い男を見据え構えた。

無型の形だ。

俺が構えたのを見て男の雰囲気が変わった。

 

狙いは、ーシルヴィアー、だった。

 

彼女を狙いナイフが迫っていたがその進路上に俺が素早く移動しその攻撃を素手でそれを握りしめた。

流石の行動に先ほどまで薄ら笑いを浮かべていた男は驚愕の表情を浮かべている。

 

「なぁーーー!?」

 

「蜂くんっ!」

 

「お義兄さんっ!」

 

それは後ろにいた二人を驚かせることに成功しておりその驚きは俺が攻撃を受けたことなのか避けきれなかったことなのかは分からないが今はそれでいい。

現に俺の手の平からは血が滴っていない。

当然だ。

握る瞬間に《虚無霧消》を発動させ刀身自体を極小のマイクロブラックホールで消し去っているからだ。

 

「時間がないんでな…じゃあなおっさん。」

 

ガッチリと手首を握られ動けなくなって驚いている男の額に空いている方の腕を持ってきて指を当てる。

所謂”デコピン”と呼ばれるものが額にぶつかった瞬間に背後に大きく吹き飛ばされ廃ビルの壁に激突し頭から突っ込み壁に上半身が突き刺さり壁から下半身が力無くぶら下がっている。

 

俺は後ろに向き直り歩みを進めて後ろで待機していた二人の元へ戻り目的の場所へ向かうことにした。

 

「まさか王竜星武祭の元セミファイナリストをデコピンで倒しちゃうなんて君本当に一体何者?」

 

連れだって歩き出すシルヴィアにそう言われたが適当に答えた。

 

「どこにでも居る一般的な六花の学生ですが…それよりも目的地はすぐそこだ。行くぞ。」

 

◆ ◆ ◆

 

「それじゃあ…行くよ。」

 

「ああ。頼む。」

 

目的のビルの屋上にてシルヴィアは変装を解いて何時もの鮮やかな空の夜明けのような紫髪になり”シルヴィア・リューネハイム”へと戻る。

端末のプロジェクションマッピング機能を使い屋上の地面へ投影するとシルヴィアが作り出した二対二色の羽が投影した地図の上で踊り出す。

 

「ー思考と記憶の二対の羽よ。巡れ巡れ疾く駆れ巡れ。囚われの愛し子の声を持て。」

 

凛とした力強い歌声が響き渡る。それはどこか物悲しい旋律が駆け抜ける。

 

「いい唄だな…。」

 

祈りの唄が迷い子を探し出す。

 

「暁の雲海を越え 黄昏の風に乗り 宵闇の果てより導きを開け」

 

嵐のように吹き上げる万応素をシルヴィアの歌声で巧みに操り制御し組み替える。

唄を媒体に複雑な魔法式…と言えばいいのだろうか。そう言うのは初めて目にしたが美しい、そう言った感想しか出てこない。

シルヴィアはこの世界における最も有名な歌姫であり《魔女》である。

知名度で言うのならば王竜星武祭を二度制している《孤毒の魔女》すら凌いで有名だろう。

 

その能力は ー万能ー。

 

その呼び名に俺は一瞬だが九校戦で《”万能”の黒魔法師》と二つ名を付けられ似たような所があるなとファンがアイドルに対して共通しているところを見つけて気持ちの悪い感想を述べていることを自覚して直ぐ様意識を切り替える。

 

「思考と記憶の黒き御使いよ 我が前に舞い降りて疾く示せ……。」

 

シルヴィアが歌い終えると産み出した二対の羽が写し出された地図に降下して範囲を回転しながら狭めていく。

それは緩やかだったがピタリと動きを止めていた。

 

「ふむふむ…歓楽街の外れ…北西の一角だね…ってどうしたの蜂くん?」

 

声を掛けられ術式が終わったことに気が付いてハッとなった。

 

「え、ああ。すまん見とれてて聞いてなかったわ。んでどこにフローラがいるって?…どうしたシルヴィア顔を赤くして…あ、もしかして無理させ過ぎたか…すまん。」

 

俺がそう言うとシルヴィアは俯き名にかを呟いたようだったが聞こえない。若干顔が赤いな…。

 

な、なんでそう言うことを素面で言うかなぁ…

 

俺の隣にいた綺凛ちゃんもナニかを呟いたようだったが聞こえなかった。

 

そう言うところですよお義兄さん…。

 

「シルヴィアも綺凛ちゃんもなんか言ったか?」

 

「ううん!なんでもない。それより今からフローラちゃんの救出に向かう?」

 

既に日は跨いで夜明け…朝日が登り始めていた。

今からその場所に向かった方が時間も短縮できるだろう。

 

「そうだな…もう既に日にち経過して既に準決勝当日…此処からじゃあいつらが間に合わないから俺達だけでやるとするか。」

 

天霧達は今再開発エリアか寮へ戻っているがシルヴィアが探し当ててくれた場所へ行って戻ってくるのは明らかに時間が足りないだろう。

 

「そうですね天霧先輩達には会場に…あ、でもわたしたちも…。」

 

綺凛ちゃんの言うことも最もだ。”俺達も間に合わない可能性”が有るわけだがそこは俺の魔法を使って何とかすることにする。

 

「一先ずとりあえず俺達は今から向かうことにして天霧達に連絡を入れることにしよう。」

 

俺の提案に二人は頷き端末を使い連絡をする。

案の定リースフェルトから「我々も行く!」と攻め立てられたが事情を説明すると不承不承ではあるがこっちに全部任せてくれるようになったらしい。

 

「お前達はさっさと休んで準決勝に備えとけ。フローラは此方で助け出すから。んじゃ。」

 

『お、おい!蜂な』

 

無理矢理切って目的地へ向かう。

さて…面倒事に巻き込んでくれた”お礼”をたっぷりくれてやらんとな。

寝てないんで若干”手荒いこと”になるかもしれんが…まぁいいか。

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