俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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《鳳凰星武祭》ももう数話で終わりそう…。



悪辣の代償

『ー七番、状況を報告しろ。』

 

何時もの如く苛立ちを含んだ声が、短く用件を問いかけてくる。

 

「問題ない。」

 

通信の主、黒猫機関金目の七番は答えた。

 

『ならいい。』

 

「そちらは?」

 

『表向きは従順だな。警備隊には連絡が行ってないようだし《影星》が動いている様子はねぇ。だが小僧はともかく星導館には女狐とあの男が居る。このまま大人しくしているとも思えねぇ。』

 

空間ウィンドウは開かれておらず音声のみの通話となっている。

 

『実際にその辺りで妙な三人組が辺りを嗅ぎ回っている、っていう情報が上がってきているが知っての通り歓楽街は俺の管轄じゃねぇから噂の真相は定かじゃねぇが。』

 

「もし邪魔が入った場合は?」

 

『此方には人質が居る。それを使え。もしそれでも引き下がらねぇようなら…使い捨てても構わねぇ。』

 

男は部屋の片隅に座る少女へと目を遣る。

眠っているのか、時折微かに身動ぎする程度でそれ以外の動きはない。

 

『あの男は放っておけば後々の障害になる。此方が少し本気だということをわかってもらわねぇとな。』

 

「分かった。」

 

男は淡々と答えた。

どのような冷酷な命令でも男の心が動くことはなかった。

そもそもそんなものなど存在しないからだ。

 

「…っ!」

 

『どうした?』

 

空気が変わったのを察したのか訝しげに声を問う。

 

「どうやらその邪魔が入りそうだ。」

 

男はそう言うと通信を切って天井を見上げた。

 

◆ ◆ ◆

 

「ここか…。」

 

俺達はシルヴィアが見つけ出したビルの前に立っていた。

ビルの入り口付近に近づく。

そこは建物自体は新しいが人の反応はなく入り口には『改装工事』の張り紙がありよくよく内部を見てみるとむき出しの資材がおいてある無人のビルのようだ。

 

「人が居ない…工事が止まってるのか。」

 

隣にいるシルヴィアに問いかけると頷いた。

 

「ここのビル。名の通ったカジノだったんだけどお客さんが暴れて外は無事なんだけど中がしっちゃかめっちゃかになったらしいよ?」

 

俺の脳内に粗暴だが妹思いの姉の姿が思い浮かべたが振り払う。

その回答に綺凛ちゃんが所感を述べた。

 

「へぇ…怖いですね。」

 

「ここの辺りじゃテナントの入れ替わりは激しいし、改装工事は珍しくもないみたいなんだけど…その工事が数日止まっているみたいなの。」

 

「それまでは空き巣…って事か。」

 

「そう言うこと。」

 

シルヴィアが答えてくれたお陰で確信に近づきつつあった。

 

「それじゃ…中を調べてみるとするか。時間もないしな。」

 

「で、でもどうやってですか?」

 

「この建物に入るの?空き家、と言っても元々カジノだから警備システムが働いてると思うんだけど…」

 

「ちょっと待っててくれ。」

 

そう言って俺は二人から少し離れて自動ドアの隣にある恐らく警備システムの端末であろう部分まで移動し左手を翳し《魔法》を使用する。

その瞬間に翳した方の手から電撃が放たれた。

放出系統魔法《雷電波動》は高圧電流を広範囲に流すものだが副次的に規模は小さいが電子機器を機能不全にするEMPを発生させることも出きるのでこの程度の警備システムをクラッシュさせるのには造作もなかった。

端末からパチリ、と焦げ臭い匂いがしたが発火の恐れはないのでそのままにして警報を解除し自動ドアを隙間程度だが開けさせた。

開いたを確認し力ずくで自動ドアを開けて内部へと足を踏み入れようとした。

 

「よし。行くか。」

 

「ちょ、ちょっと蜂くん待ってよ!」

 

「ま、まってくださぃ~。」

 

俺の後に続いてシルヴィアと綺凛ちゃんがついてくる。

 

「まさに廃墟…だな。」

 

足を踏み入れたビルの内部はすっからかんのがらんどう、カジノの設備は運び出された後なのかなにも残っておらず天井に大きな穴が数個開いている状態でこれは改修工事の必要があるのは見て分かった。

 

「とりあえず此処には誰もいないようですね…。」

 

辺りを見渡し警戒している綺凛ちゃんがそう告げた。

俺は『賢者の瞳(ワイズマンサイト)』を起動させこの建物内部ある生体反応を確認する。

今いる場所を除いて階層二階から五階までは誰もいない…が地下一階に生体反応が二つあった。

間違いなく一人はフローラでもう一人は男…恐らくこいつが下手人だろう。

心身の異常は見られず手荒い扱いを受けた、と言うわけでもないようだ。

男は床で寝ているフローラに視線を投げているが本当に必要最低限の見張りをしている…だけのようだ。

 

「上か下…どっちかな?」

 

「下だな。フローラと男がいる。」

 

シルヴィアにそう問いかけられ反射的に答えてしまった。

 

「え?どうして分かるの?」

 

此処で俺の技能を知られるわけには行かないので苦しいが誤魔化した。

 

「勘…だな。そもそも上層階だと外から通行人に見られる可能性がある。」

 

「なるほど…それじゃあ早速。」

 

俺とシルヴィアが動き出そうとした。

 

「待ってください…!あれは…人?」

 

綺凛ちゃんが俺達を止めて《千羽切》の鯉口を切りながら訝しげに呟く。

それに気が付き俺達もその方向へ視線を向ける。

そこには影が集まり人の形を作り出していた。

 

「万応素が集まってる…こういうのを作り出すってことはビンゴか。」

 

綺凛が行った通り人、ではあるが人ではない。ぼやけた輪郭の影が集まっているだけだ。両腕は角材のように尖っておりどういう目的を持っているのかを察することができた。

観察していると突如人影が武器を持っていた綺凛へ襲いかかる。

が、綺凛は慌てること無く一刀で切り伏せた。

胴体を真っ二つにしたが当然ながら血や臓物が出るわけでなく切った断面から集合した影が霧散していく。

動きは素早かったが綺凛ちゃんには到底及ばないスピードだった。

此処にいる俺やシルヴィアには到底及ばない。

 

「これは…っ」

 

綺凛ちゃんが《千羽切》を納刀しようとしたが室内の柱の影から先ほどの影が現れる。

それは一体、二体ではない。

 

「これ、どのくらいいるんでしょうか…。」

 

「…さぁ?…って多くない?」

 

シルヴィアが返答するがその数は増え続けざっと見る限り”100”はくだらないだろう。

人影は俺達に襲いかかってきた。

 

「おっと!」

 

襲いかかる人影にシルヴィアも銃剣型の煌式武装《フォールクファング》を取りだした。

その剣捌きは彼女が《魔女》と言う事を差し引いても近接戦闘を挑むのは相手にとっては無謀、という言葉が似合うほど襲いかかる人影を一瞬で切り裂いて行く。

 

「幾らなんでも数が多すぎますっ。一体一体の強さは弱いですがこれじゃ…」

 

《千羽切》の返す刃に連続して影が打ち倒されるが確かに綺凛ちゃんの言う通り”人海戦術”を相手は駆使しており二人が切っても切っても影が涌き出てくるのだ。

幾ら二人の実力があったとしても物量戦に持ち込まれればジリ貧になってしまう。

 

(影の能力の発生点…そこか。)

 

影達の単純な攻撃を回避しつつこの術式が発生している起点を探していると…見つけた俺はジャケットのホルスターから煌式武装…ではなく特化型CAD《ガルム》を二丁抜いて魔法を選択し影に対して発動した。

 

「消えろ。」

 

引き金を引いたその瞬間。

 

大勢の人影がまるで砂の城のように崩れ落ちていく。

先程まで戦闘をしていた二人の目の前にいた人影も崩れ落ちていく。

 

「えっ?」

 

「これって…。」

 

綺凛ちゃんとシルヴィアが呆然とするのも無理はない。

これはこの世に存在しない俺が作り出した”魔法”なのだから。

 

対抗魔法《闘技解体(アーツデモリッション)》が炸裂し会場を埋め尽くそうとしていた人影を一掃した。

 

「お二人さん、安心するにはまだ早いようだぜ。」

 

「「!?」」

 

フロアに一瞬の静寂が戻ったがそう簡単には行かないようで柱の影からまた人影が現れていた。

 

「もーっフローラちゃんを助けてさっさと準決勝に行かなきゃなんないのにっ…へ?」

 

「お義兄さん強行突破します!…ってえ?」

 

武器を構える二人より先に俺が持っている《ガルム》の引き金の方が先に押し込まれていた。

 

「時間がねぇんだ。さっさと通らせて貰う。」

 

俺は再度出現した無数の人影に対して片方の特化型で加重系統魔法《重力爆散》を連続で叩き込み蹴散らす。

もう片方は設置型の能力だろうと見抜いた俺は起点となる部分に《闘技解体》を叩き込むと人影はついぞ現れなくなった。

 

本格的にフロアに静寂が満ちる。

 

「…さて地下に向かうとするか。」

 

時間が迫っているのでさっさとフローラを助けて会場に向かわなければならないからだ。

犯人とやらに遭遇したらどうしてやろうかを考えつつ三人で地下へと降りていく。

階段を下った場所にあったのは自動ドアではなく手押しの大きな扉だ。

俺達が侵入しているのは上での騒ぎを当然聞いているはずなので今さら隠れて投入するのも無駄なので勢いよく扉をぶち破り突入する…前に一応役割分担を決める。

 

「俺が突っ込むから二人はフォロー宜しく。複数人かもしれんしな。それと…これを着けてくれ。」

 

「これは?」

 

「突入と同時に目眩ましをするから保護だよ。」

 

俺の手に二人分のサングラスがある。

そう俺が提案すると二人は頷いて手に取り装着した。

それを合図に特化型CAD(ガルム)のストレージを汎用に変更し目の前にある扉を開けると同時に起動させた。

 

目映い光が地下の空洞を埋め尽くしていく。

今俺が掛けている眼鏡は対閃光対策にもなっているので見た目はメガネだが《瞳》の力をそのまま発動できる。

範囲内に踏む込むと同時に《縮地》を用いて広い地下を駆け抜ける。

あちこちにランタンが設置されているが閃光魔法によってその明かりは意味を無くしている。

だがその一つのランタンの下柱部分に両腕を掲げるように拘束されぐったりとしているが健康には問題なさそうだが早く助け出さないと不味いだろう。

 

「……っ!んんんんー!」

 

物音に気がついたのかこちらを見て猿轡をされたままのフローラはブンブンと大きく頭を振っているが何を伝えたいのかはわからない。

恐らくは「此方にこないでください!」と伝えたいのだろうが無視する。

フローラに接近しようとすると俺の背後の影から明確な殺気が来ているのを感じて攻撃が来る場所へ《闘技解体》を乱れ撃ち影による巨大な刺を無力化していく。

この空間が敵のテリトリーだということがわかったのでこの場からさっさと撤収したいものだがそうは問屋が卸さないらしい。

 

フローラまで後数メートル、と言ったところで柱の影から一人の男が現れた。

 

「貴様は…誰だ?」

 

影より出でた男はフローラの喉元に鋭い刺が突き立てられるが表情の変化がない黒づくめの男は目の前にいる俺を誰か、ということを認識できていないらしく微かにだが動揺しているのを感じ取れた。

俺に《偽装工作》を教えてくれたシルヴィアに感謝せざるを得ないな。

見た目は変わってるから声だけは《グラム》のままで喋る。

 

「…悪党に名乗る名前は無い。それよりも貴殿が実行犯か?」

 

俺の問いには答えない、そう言わんばかりにフローラに突きつけた刺をさらに押し込み柔肌に食い込ませていく。

後数ミリ押し込めば血が吹き出すだろう。

そうなってしまえば俺が取れる方法は一つしかないわけで。

 

「貴様が武器を捨てろ。この小娘がどうなっても良いならそのままで良いが。」

 

「…。」

 

実行犯の男は本気らしい。

このまま俺が武器を持ったままであればこの男はフローラの喉元を突き刺しその命を葬るだろう。

それが分かった以上俺がはね除ける、という選択肢は無くなる。

仕方なく両手にもった特化型CAD(ガルム)を地面に置いた。

その瞬間に男が警戒を解いたのが感じられた。

しかし俺の武器は一つではない。

 

「コード…虚偽閃光(ルクスフェイク)!」

 

利き腕に付けられた音声入力式のブレスレットタイプのCADに音声コマンド入力を下その瞬間に薄暗かったフロアは一瞬にして”白”と”爆音”で埋め尽くす。

 

「っ!」

 

それは影すら飲み込んだ。

 

《瞳》で今どんな状態のなのかを知ることが出来る俺は地面に置いた二丁を素早く回収し突然の閃光だったが咄嗟に腕で顔を覆ったが聴覚をやられているらしく辺りを見渡しながらフローラに危害を加えようとしていた。

 

「二人ともフローラを頼む!あとフローラ!舌噛むなよ!」

 

CADを起動させ『重力弾(グラビティ・バレット)』と単一の移動魔法を二射する。

一発は一瞬の隙を見つけ下手人の近くにいるフローラの拘束を解く。

二発目はフローラを対象として単一の移動魔法…引き寄せつまりはフローラの前方に吹っ飛んで行く。

 

「んんんんー!!?」

 

突然なにもないところに前方に物凄い勢いで吹っ飛んで行くフローラ。

 

「おっと!こっちは大丈夫…っ!」

 

シルヴィアに無事キャッチされたフローラだったが《虚偽閃光》の効果時間が消えてフロアは元の薄暗い空間へと戻った。すなわち相手のホームに変わると言うことだ。

フローラの影から再び鋭い刺が現れ刺し貫こうとする。

 

「させません!」

 

フローラとシルヴィアに襲いかかろうとする攻撃を綺凛ちゃんの刀が切り裂いた。

ナイスアシストである。

さて、目標は達したので作戦通りに…と行きたかったがそうは行かないようで…

 

「うわっ!またでた!」

 

シルヴィアのいう通り上の階で遭遇した人影がこれまた沢山現れ退路を塞ぐ。

俺も俺で今下手人の攻撃を捌いている所だが口だけ無く中々の手練れだった。

後ろにいる二人に指示を出す。

 

「二人はフローラを守りつつ退路へ向かえ!こっちは片付ける。」

 

綺凛ちゃんは頷きながら襲いかかる人影を切り裂いてシルヴィアも手にした銃剣で弾丸を放ち近づいてくる人影をフローラを庇いつつ撃ち抜いていく。

だが俺達が入ってきた入り口は無数の人影の壁によって阻まれ強行突破しようにも簡単には行かなさそうだ。

あの二人ならばフローラを守りながらでも大丈夫だろう。

俺は死角から来た影の刺を《重力弾》のクイックショットで破壊して向き直る。

 

「さて…どうするよ。あんたが守ってたフローラは此方の手の中にある。」

 

「知れたこと…お前達を排除し、小娘を取り戻す。」

 

それは正義の味方がいう台詞なんすよねぇ…。

まぁ当然というか仕事を請け負っている以上は”退路”というものは存在しないだろう。

失敗すれば”死”かもしれんしな…それをあの《悪辣の王》が実行するとは思えないが。

と、男の腕からナニかがスライドして出てきた…短剣、煌式武装ではなく実体剣のようだ。

手に持つのではなく腕に装着している。

 

「悪いが此方も急いでるんでね…フローラを連れて帰らせて貰うぜ。」

 

手に構えた《ガルム》を無造作に突きつける。

動いたのは黒づくめの男の方からだった。

 

「……っ!」

 

男の斬撃に対し硬化魔法を瞬時に掛けて短剣を受け止めて見せた。重い一撃だ。

さらに連続して攻撃を仕掛けてくるがどれも人体の急所を狙ってきていた。

しかしその攻撃は俺にとっては”遅い”。

 

「…っ!?」

 

急所を狙った攻撃を全て捌ききり膝部分を軽く蹴って体勢を崩したところに胴体目掛け弾丸を発射するが寸でのところで回避されてしまい肩に当たった程度で倒すまでに至らない。

咄嗟に反応できるのはこの男が強いからだろう。

 

「おっと!」

 

反撃と言わんばかりに影から飛び出した刺が俺に襲いかかるが体を捻り回避する。

決して侮っていたわけでないが中々の手練れだろう。

俺を壁際に追い込もうと急所を狙ってきている。

一撃で止めを刺すつもりなのはこの男の戦闘スタイルだろう。

 

「ー終わりだ。」

 

突如として男がいうと同時に目の前から消えた。

その光景を戦いながら見ていたであろう遠くにいる綺凛ちゃんの声が俺の耳に届く。

 

「お義兄さん!」

 

俺の前方には壁があり俺の影が背後の照明に照らされて写し出されている。

俺は罠に掛けられたのだと気がつく。

綺凛ちゃんの声に反応するようにその場から弾けるように退避するが遅い。

影から伸びた刺が俺のダメージを与えようとした。

 

「《不落・玄武乃型》」

 

俺が持つ《四獣拳》の一つ、防御の型。難攻不落、要塞が如きその守りは重機関砲の一斉射を受けてもびくともしない鉄壁の守りを持つ。

 

直ぐ様独特な防御の構えとそのフレーズを呟いた瞬間に俺を貫く筈だった刺はまるで重金属を擦るような不快な音をかき鳴らしながらパキリ、と折れていた。

 

「なんだと…!?」

 

「暗殺者がその程度で驚くたぁ…失格だな。」

 

その驚く様は俺を前にするには隙だらけに等しい反応だった。

手に持った《ガルム》の延長グリップ部分に重粒子を纏わせたビームソードを振るう。

 

「俺が許せないのは年端も行かない子供を巻き込んだことだ。」

 

逆手二刀による素早い連続攻撃、果ての無い剣撃は男の両手両足の腱を断ち切り鮮血は飛び散らず蒸発し傷口は焼かれ余りの痛みに崩れた。

 

「………っ!!!!!」

 

地に伏せた男は悲鳴は上げないが苦悶の吐息が漏れており抵抗を見せようとしたがそれよりも先に俺が発動した魔法の刀身を喉元に突き立て反抗できないように拘束魔法《キャッチリング》で身動きを取れなくさせる。

 

「素直に正面切って俺に襲いかかってくれば良いものを…そうすればあんたもこんな目に合わなくてすんだのにな?ディルクって野郎はとことん自分が有利になるように動く奴のようだ…おおっと逃げても良いぜ?…今より酷いことになっても良いのなら、な?」

 

そう問いかけるともう自分に勝ち目が無いことを悟ったのか男は動けないなりに”無抵抗のポーズ”を取って見せた。

 

「それなら後ろで二人と戦ってる影の能力を止めて貰おうか。」

 

刃を突きつけると直ぐ様解除を行ったようで後ろで行われていた剣撃と銃撃音が静まった。

それと同時にフローラをそばに置いたシルヴィアと綺凛ちゃんが近寄ってくる。

 

「お義兄さん!ご無事ですか?」

 

「ああ。こっちは問題なく…そっちもよく無事だったなフローラを守りながらなんて。」

 

そう言うとシルヴィアは得意気に胸を張った。

 

「当然だよ。この程度なら片手間で…ってね。」

 

「あのう…あなた様達は一体…。」

 

不意にフローラの声が聞こえてきた。

その声は困惑していたが当然だろう、見たことも会ったことの無い人物三人が捕らわれている自分を助け出してくれたのだから。

 

「もしかしてユリス様から聞いてここに…?」

 

そう問いかけるフローラの目の前にいる青年と女性が俺や綺凛ちゃんやシルヴィアだと気づいていない…というか当然か。

俺達は視線を合わせ頷いた後に変装と変化を解く。

俺の髪色は元の黒一色へ戻り綺凛ちゃんとシルヴィアも美しい元の色へ戻った。

その姿にフローラは開いた口が塞がらない、といった表情だったが安心したのかわんわん泣いて俺の胸に飛び込んできた。

 

「うわぁぁん!蜂也しゃまぁ~!怖かった…こわかったよぉ~!」

 

って俺に来るのかよ。ソコは普通綺凛ちゃんじゃねーの?とは思ったが流石にこの年頃の…というか女の子を突き飛ばす趣味はないのでひとまず好きにさせた。

一頻り泣かせた後に元に戻ったのかいつもの明るいフローラになったが捕まってしまったことに罪悪感を覚えているようだが結果として助かっているので問題ないだろう。

結果よければすべて良し…と言いたいところだったがそうも行かなくなってしまった。

 

「……そうか、名護蜂也か。随分と大物が現れたようだ」

 

「はぁ…って、てめっ!勝手に動くな!」

 

手足の腱を切った黒づくめの男が最後の最後で人影を動かし地上へ出る扉付近で影に仕込んだ爆弾を振り絞った星辰力で起動させ大爆発を起こし柱が倒れ瓦礫が散乱し俺達この黒づくめの男含めて五人で生き埋め状態になってしまったのだ。

 

「おいおい…。」

 

「ごめん蜂くん、警戒はしてたんだけど止められなかった…。」

 

「いや、この男がこんな攻撃を仕掛けて来るとは思わなかった俺が悪、ってかこの野郎…」

 

攻撃を仕掛けた瞬間に鳩尾に一撃を加え更に星辰力切れを起こしたようで死んだように眠っている。

下手人の男に対し俺は逃げられないように《キャッチリング》と併用した加重魔法で浮かせて立たせた。

瓦礫の前に移動しシルヴィアが瓦礫を撤去しようとする《歌》による事象の書き換え…瓦礫の撤去を行うがその重量と数に上手く行っていないようだ。

それは綺凛ちゃんも同じことが言えるのでいくら星脈世代といえどもこの瓦礫の量は数時間で撤去できる量ではなかった。

 

「お義兄さん時間が…」

 

「ん………っ!……うげぇ…マジかよ。」

 

綺凛ちゃんに声を掛けられ腕時計を見るともうすぐ時刻は正午…俺達の試合の時刻が近づいてきていた。

ここから走っても30分以上は掛かってしまうだろう。

俺達の反応を見てフローラは察したのか涙目になっている。

 

「ごめんなさい蜂也さまに刀藤さま…!フローラの…フローラのせいで…ぐすっ。」

 

「フローラちゃんのせいじゃないから大丈夫…でもこの瓦礫じゃ…。」

 

正に八方塞がりだと綺凛ちゃん達は困ったような表情を浮かべていたがその当事者である俺は案外冷静だった。

 

この状況を打破できる魔法があるからだ。

 

(サイオンは…うん大丈夫だな。これなら”次元解放”を常時使用しても問題はないが…世界の壁を越えるのはまだ無理…か。流石にここで『空想虚無(マーブルボイド)』や射撃タイプの『結合崩壊(ネクサスコラプス)』を使うには威力が有りすぎる。)

 

俺はCADのストレージを《超特化型》に変更し三人に声を掛けた。

 

「ここから出るぞ。時間もない。」

 

「で、でもどうやって…。」

 

「ここから脱出するの?」

 

怪訝な表情を浮かべるのは当然のことだろうが説明している時間はないので指示する。

 

「全員俺のところに集まってくれ…そうだ。」

 

全員疑うことなく俺の周りに集まってくれたので手早くCADを操作し俺が持つ最強の汎用性を持つ魔法『次元解放(ディメンジョンオーバー)』のポータルが地面に開かれる。

次元の裂け目が現れ通常の赤色景色が広がっている。

 

「これは…?」

 

「端的に言えば…”空間跳躍”の魔法だ。」

 

「「「空間跳躍」???」」

 

首を傾げる二人となんのことだろうと首をかしげるフローラは疑問に思った。

 

「まぁ…簡単に言うのなら…”行ったことの有る場所ならワープ出来る”…俺のまぁ《魔術師》としての能力?的な?」

 

まぁ俺の《次元解放》は加重系統魔法の延長に有る俺だけが使える移動魔法ではあるので間違いではないのかもしれない。

 

「「!?」」 「??」

 

その事を告げるとフローラを除く二人は驚いていた。

こっちの世界でも”空間跳躍”というのは珍しいのかもしれない。

まぁ極力俺もこの力を不特定多数に知られたくないのだが…状況が状況なので使わざる得ないが念のために依頼をしておく。

 

「今俺がここで使った能力を…出来れば内緒にしていてくれないか?」

 

そうお願いすると三人は快く頷いた。

 

「…うん。わかった。個々だけの秘密にしておくね。でもいつか聞かせてね。」

 

「はい。わたしもですお義兄さん。」

 

「フローラも…ないしょにします!」

 

心からの約束に俺は思わず笑みを浮かべそうになったが直ぐ様切り替える。

捕まえた下手人は別のポータルへ放り込み身軽になる。

 

「皆俺に掴まってくれ…行くぞ!」

 

俺に綺凛ちゃん達がしがみつき空間に開かれたポータルへ飛び込んだ。

 

◆ ◆ ◆

 

不安な気持ちを抱えたまま先程まで準決勝、聖ガラードワース学園の序列十一位と十二位の選手と熾烈な戦いを繰り広げ勝利した二人は準決勝が行われたメインドームの自分達の控え室に戻り着信がないか確認していたがそれはなかった。

時間が経過しそろそろ蜂也達の試合の順番が近づいてきていたのだった。

 

「くっ…蜂也達と連絡が取れない…ナニをしているんだアイツ等は…。」

 

「ユリス落ち着いて…副会長達を信じようよ。」

 

ユリスはパートナーである綾斗にたしなめられはっとして勢いで立ち上がったソファーへゆっくりと腰を下ろす。

 

「そう…だな。我々がそのような態度であれば蜂也からの呆れが飛んできそうだ…。」

 

「そうですユリス。蜂也が”任せろ”といったのですからドンと構えておけばよいのです。」

 

自笑するような笑みを浮かべたユリスに優しげな表情を浮かべるクローディアに苦笑した。

 

「お前は本当に蜂也を信頼しているな…。」

 

「もちろんです。”私の蜂也”なのですから。」

 

自信満々にそう告げるクローディアにユリスは少しの憧れを抱きつつも不安が拭えなかった。

学園内屈指の実力者ではあるが巻き込んでしまった形に良心の塊であるユリスは蜂也に対して申し訳ない気持ちで一杯だった。

もしこの件で蜂也が準決勝進出を逃してしまえば…と考えると罪悪感に潰されそうだった。

 

「そうだぞ?”俺に任せろ”って言ったんだからドンと構えておけば良いのよ。」

 

その言葉をまるで蜂也が言ってくれたようで幾分か肩の荷が軽くなった。まるで本当にそう言ってくれているようで…。

 

そう思い呟きふと、可笑しい事に気がついた。

”どうして声が聞こえる”のだろうか?と。

直ぐ様隣を振り返ると気だるげな雰囲気を漂わせスラックスのポケットに片手を突っ込んだ蜂也がいた。

 

「ああ。そうだな…………っ!?!?」

 

その事にユリスは思わず二度見していた。

 

「え、ええ?!ふ、副会長!?」

 

それに気がついた綾斗も同時に驚くがそれよりも室内いるのが蜂也以外にもいたからだ。

 

「よぉ。」

 

「ええと…ただいま…です。」

 

「あ、わたしもいるよ?」

 

「姫さま…綾斗さま…」

 

いつの間かユリス達の控え室のソファーに座っている綺凛にシルヴィア、そして救出されたフローラの姿が有った。

 

「フローラっ」

 

声を掛けられたフローラは素早く立ち上がり申し訳なさそうな表情を浮かべていたが構わず、といった感じにユリスから抱き締められていた。

 

「あ、あの!み、皆様にはこの度はフローラのせいでご迷惑を…。」

 

抱き締められていたフローラは今にも泣き出しそうだったが蜂也が補足を入れた。

 

「んなもんフローラが悪い訳じゃないだろ。悪いのは《悪辣の王》であって気負う必要はねぇよ。現に俺達は試合に間に合ってこうして休憩してるしな。」

 

蜂也はどこから取り出した黄色と黒の缶を取り出し口を付けて飲んでいた。

 

スカートを握りしめ今にも泣き出しそうなフローラにすかさずフォローする綾斗に綺凛にシルヴィアが声を掛けるがその目元には大粒の涙が溜まっている。

その感情の堤防を破壊したのは抱き締めているユリスだった。

フローラに対しあやすような優しい口調で語り掛ける。

 

「いい加減に力を抜けフローラ。お前は良くできた良い子だが、それでもまだ十歳なのだ。蜂也も言っていたがお前に責任はない。だから泣きたいときは泣いて良い。」

 

そう言って優しく頭を撫でるユリス。

撫でられたフローラは大声で泣き出した。

ユリスはフローラが落ち着くまで、その小さな背中を優しく撫で続けていた。

 

その光景をみながら蜂也の視線はクローディアへと向けられた。

 

「ただいま。」

 

「…ふふっやはり私の蜂也です。流石です。」

 

クローディアにそう声を掛けるといつものような笑みを浮かべ俺を出迎えた。

座標の指定にしていたのがいつも使っていた控え室…ソコから隣に有る天霧達の控え室に飛んできた、ということだ。

突然現れたのに動揺していないのは俺の能力を伝えているからだ。

多少時間は余っているとは言えすぐにでも準備を進めてステージへと向かわなければならなかった。

 

「蜂也これを。」

 

「…サンキュ。」

 

そう言ってクローディアに渡されたのは『緊急凍結処理:否決』の電子決済文章が俺の端末へ送られていたのを確認しホルダーにしまった《壊劫の魔剣》の発動体を握る。

脳内に《グラム》が語り掛ける。

 

『我、復活である。…さて少々我も鬱憤が溜まっておるので暴れさせて貰うぞ主よ。』

 

『…程程にな。』

 

ヤル気満々の純星煌式武装に若干引きながらクローディアの顔を見て頷き多く語ることもないがその表情を見たクローディアは短く告げる。

 

「ご存分に。」

 

「行ってくる。綺凛ちゃん。」

 

「はいです。」

 

連れだって控え室から出ようとした俺達に気がついたリースフェルトが声を掛ける。

 

「すまない蜂也達…わたしたちの問題に巻き込んでしまって…。」

 

その声色は申し訳なさそうだったが軽く頭をそっちの方へ向けて「問題ねぇよ」とだけ呟き控え室の扉を通りステージへ向かう通路を歩み始めた。

その道中で今回の試合で行う作戦を決めていたのだが俺の発言に綺凛ちゃんは驚いてはいたが何処かで納得をしていたようだ。

 

「やっぱりお義兄さんは規格外だとおもうのです…。」

 

心外な。

 

さて、ここを越えれば次は決勝戦。

 

先に決勝へ進んだ天霧とリースフェルト達との戦いとなる。

そして綺凛ちゃんの”願い”の為に負けてやる気はさらさら無い。

此方で出来た義妹の為にも頑張るとしますかね…。

 

それに準決勝が終わったら”お礼参り”にでも行こうとしようかね。




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