俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
キョウダイノカタチ
第四回戦が終わり一日の休み、そして試合の調整日含め2日お暇が与えられた【鳳凰星武祭】の戦いで疲れた体を休めるため蜂也と綺凛はある場所を訪れていた。
「《六花》に家族連れっているんだな…それも結構な人数。」
「はい。《六花》には家族で移住してきているのも結構いるんですよ?本島では住みづらい、とかの理由で都市部にお住みになる方もいらっしゃるそうです。」
「へぇ…」
二人は都市部にある大型のレジャー施設に訪れ時期的に夏に差し掛かっている時節柄多くの人で賑わっていた。
様々なアクティビティを楽しむことが出来るこの施設はこの《六花》においてもテーマパークと化している程だ。
そして二人はその施設に併設されている所に用があった。
二人はそれぞれ着替えを手提げバックに納め綺凛は大きなトートバックを反対側の肩に掛けていた。
「しかし、綺凛ちゃん本当に良いのか?休みなのに俺と出掛けるなんて…」
「はいっ!お義兄さんと来ないと意味が無いんですっ」
「そ、そうなの…?」
「あの試合の後にお義兄さん仰ったじゃないですか。『泳ぎの練習を付き合う』って」
隣に立つ綺凛が蜂也に顔をズイっと近づける。
その本気度合いが伺えるがそのあまりの気迫に周囲を歩いている通行人と利用客に「なんだなんだ?」と言う視線を向けられていることに気がついた綺凛は俯き黙ってしまった。
「は、はぅ…!」
まるで熟したリンゴのように顔を真っ赤にしている義妹を見た蜂也は頭を撫でて謝罪した。
「ごめんね綺凛ちゃん。…決して俺が一緒に行きたくないとかそんな理由じゃないんだ。…さぁ泳ぎの練習に行こっか」
「あっ……はいっお義兄さん」
先程までの視線を無視して蜂也は話しかけ蜂也は綺凛の手を引いてレジャー施設に入っていく。
「兄」と言う単語を聞いて微笑ましそうに見ていた利用客もいたが…その「兄」という言葉が「義兄」と言うものを知るものは誰もいなかった。
◆ ◆ ◆
更衣室の前の通路で分かれ先に着替えが終わり会場内にあるヤシの木の下で綺凛を待っていた。
「遅いな…」
分かれてから十分ほど時間が経過していたが女の着替えは時間が掛かるものなの!と妹から教えられたことを復唱し気長に待っていた。
「しかし…すごい盛況」
初夏、未だ涼しいとは言え暑さが本格的になる前に涼を求めに来た家族連れに学生達…そしてリア充という名のカップル達がキャッキャウフフと楽しんでいるのを見た蜂也
「ギルティ…リア充爆発しねぇかな」
『すごく物騒なことを言っていると思うのだが…?』
そんな相棒のツッコミを受けてもその淀んだ発想を抱えたまま視界に入るリア充達へ怨詐の念をぶつけていたのだがそれはふと消え去った。
「…………」
「綺凛ちゃん?」
「ぴっ…!」ガタガタ…
ふと同じくヤシの木の後ろから視線を感じ取った蜂也はそちらへ目を向けると木陰に隠れ此方を見る義妹が顔を出していた。
「綺凛ちゃん?」
「は、はい…」
「なんでそこに隠れてるの…?」
「ええとその…」
「…?」
「えいっ…!」
しどろもどろの様子に怪訝な表情を浮かべている蜂也を見た綺凛は意を決して木陰から現れる。
「うぅ…恥ずかしぃ…です…」
前を隠しながら姿を表した綺凛は腕と羽織ったパーカーで体を隠していたが開かれた衣服の正面から見える白のビキニがその年齢に見合わぬ豊満なバストを包み込み整った四肢と顔を赤くするそんなあどけない見た目の中に”色香”が漂っていた。
もじもじする度に押さえた腕が胸を押し上げ強調されており視線が誘導されてしまう。
「……(って俺はバカか!相手は中学生で…妹だぞ…!しっかりしろ俺!)」
そんな色香を漂わせる義妹に見惚れていると更に顔を朱くしているのを感じ取り視線を逸らそうとしたが離せないのは魅力的だからかは分からない。
「…む……とりあえず綺凛ちゃん此処から移動しよう」
「え?」
見つめているのを中断し綺凛へ近づいて綺凛の手を取りその場を離れる。
下心が含まれていた視線が含まれていたのに気がついて蜂也は男達に威圧感をだすと先ほどまで此方を見ていた男どもはばつが悪そうに視線を逸らしたりその場から蜘蛛の子を散らすように逃げ出していたが当然綺凛は知る由も無かった。
◆ ◆ ◆
家族連れが多い比較的に深度の浅いプールエリアにやって来た二人は準備運動を終わらせプールサイドに足を踏み入れると心地よい水の冷たさを感じ取り隣にいる綺凛ちゃんが声を漏らしてたが踏み入れ少し進むと腰ぐらいまでの水に浸かった。
「それじゃ泳ぐ練習しようか」
「は、はいっお願いしますお義兄さんっ」
蜂也は手を引いて歩き始めそれに続いて綺凛は水に顔を近づけばた足をした。
「出来てるよ。ゆっくり、息継ぎも忘れずに」
「はあっ……ぷはっ……はぁっ…ぷはっ…」
手を引っ張りながら息継ぎのタイミングを指示して水に慣れさせる。
単純に金づち、なのだろう水への恐怖心は無さそうで息継ぎのスパンも上手い。
二十五メートルプールよりも長い幅を綺凛の手を引きながら往復をして一時休憩を挟んだ。
「一旦休憩しようか。」
「はぁ…はぁ…ごめんなさいです…上手く行かないですね…。」
「そんなこと無いよ。途中から俺、手を離してたんだけど?」
「えっ、そ、そうだったんですか…?むぅ…」
「うん……ってなんでちょっと不機嫌に?」
「な、なんでもありませんっ(せ、せっかくお義兄さんと一緒にプールで遊んでいるのに…手を離すなんてヒドイですっ)」プイッ
頬を赤らめてそっぽを向いてしまった綺凛を見て困ったような表情を浮かべる蜂也。
「ごめんって綺凛ちゃん……あ。」
「どうしました?」
「あそこで飲み物奢ってあげるからさ。行こう」
「あっお義兄さん……えへへっ…ってちょっと待って貰って良いですか?」
「?どうしたの?」
「お飲み物はお義兄さんにおまかせしても?少し用意がありますので此処に戻ってきてください」
「?分かったよ。俺の選択で良い?」
「はい!おまかせします」
そういって二人は分かれそれぞれに用事を済ませることにした。
プールから上がると視界にはプールサイド付近にキッチンカーが置かれており美味しそうな匂いが漂っていた。
丁度練習で時間が過ぎており昼時であった。キッチンカーへ近づこうと思ったが綺凛がなにか「準備がある」ということで此処で一旦分かれることにした。
蜂也は家族連れの列に若干の苦痛に揉まれながらオレンジジュースとマッ缶…は流石に置いていなかったのでコークを購入し先ほど分かれた場所へ戻ったのだが…
「ねぇお嬢ちゃん一緒にお茶しない?」
「待ち合わせの人がいるので…」
「えぇ!?君みたいに可愛い子がいるのに彼氏は待ちぼうけさせてるの?そんな彼氏君何て放っておいてさぁ~俺たちと楽しもうよ」
「直ぐに戻ってくるので大丈夫です…」
「良いから俺たちと楽しいことしようよ~このレジャー施設の最上階で部屋とってるからさぁ」
「こ、困ります…」
(あんな典型的なナンパ野郎っていたんだな…つか此処家族連れのエリアだぞ?)
戻ってくると綺凛が困った表情でナンパ集団三人組に囲まれて困った表情をしている。
綺凛もあまり人に強く言えないのが災いしてナンパ男達は調子に乗っているようだ。
(まぁ確かに綺凛ちゃんが可愛くて魅力的だけどさぁ…お前ら中学生にナンパしてるって自覚してるのか?)
確かに綺凛は魅力的ではあるが今年中学一年生に上がったばかりの少女…とは思えぬほどの成長具合で釣られるのは如何なものかと蜂也は思ったのと。
(…なんかムカついてきたな。)
自分でも予想だにしていない綺凛への想いが蜂也を動かした。
「良いじゃん?そんなツレなんて放っておいていこうぜ」
男が手を綺凛の手首を掴み無理矢理釣れていこうとしたその瞬間
「おい、俺の妹に何か用か?」
「いでででっ!?」
「お義兄さんっ」
「な、なんだお前!?」
いつの間にか移動しナンパ男と綺凛の間に割って入った蜂也は腕を捻り上げていた。
「この子の義兄だよ。せっかく二人でプールに来てるってのに…最悪だわ。」
ギロリ、とメガネ越しの鋭い眼光がナンパ男達を射貫く。
殺気は押さえているがその威圧感に先ほどまでの陽気な雰囲気は消え去っており怯えが見える。
「公衆の面前でみっともない姿を見られたくねぇなら…さっさと消えろ」
視線から光線が出ているのかと錯覚するほどの可視化された”恐怖”がナンパ男達を貫き向こう側へ間抜けな悲鳴を上げて消え去った。途中で男の一人がプールに墜落していたが気にしない。
「たっく…相手を選んで声を掛けろってんだよ……ん?」
気がつくと家族連れやカップルが蜂也を遠巻きに見ていたのだが誰かが拍手をして閑静が巻き上がった。
その行動に呆気にとられた。
「え、え…?なに?」
「お兄ちゃん格好いい!」
「イケメンで強いのねぇ~嫌いじゃないわ!」
「おう少年!妹の危機に割って入るなんざ今時の男じゃ出来ない行為だ!男前だぜあんた!」
「そ、そうっすか…?」
「お、お義兄さん…」
「あ、ちょっと綺凛ちゃん…?」
蜂也が称賛?を受けて困惑した表情を浮かべていると綺凛ちゃんが手を引いてくる。
顔を朱くしているの視線を集中して受けたのが恥ずかしいのかこの場から荷物を持って離れた。
称賛の声を受けて二人は慌ててプールサイドから離れた。
◆ ◆ ◆
「ひどい目に遭った…」
「大丈夫ですかお義兄さん?」
「俺は大丈夫。綺凛ちゃんの方こそ大丈夫だった?」
「はい…少し困っちゃいましたけど…お義兄さんが助けてくれたので心配はしてませんでした」
「そっか…綺凛ちゃんは可愛いから男に言い寄られるのも分かる気がするけど」
「ぴっ…!?」
蜂也は頭を撫でながらそんなことを呟くと聞こえていたらしく綺凛は顔を真っ赤にして俯いた。
「あ…本当に俺もそう思ってるからさ…」
「………///」
本当に噴火寸前の火山のように頭から湯気をだす綺凛に対して蜂也は行動を起こす。
ぴとり。
買ってきた飲み物を綺凛の頬へ押し当てると悲鳴が上がったがそのお陰でゆで上がりそうな頭を冷まし呆気にとられていたが笑みを浮かべ近くにおいていたトートバッグを引き寄せた。
「これを…」
「これは…」
トートバックから取り出したのは保冷剤が敷き詰められた大きめの三段のお重だ。
蓋を開くとそこには俵おにぎりが一杯に敷き詰められ二段目にはウインナーや卵焼きに唐揚げの定番オカズ…三段目はサンドイッチにミートボール、スパゲティ…という子供が好きなものが敷き詰められていた。
「全部綺凛ちゃんが…?」
「はいっ…この間お義兄さんが昼食を作ってくれたのと今日私の泳ぎの練習に付き合っていただいたお礼です」
問いかけると恥ずかしそうに頷く。
「…気にしなくても良かったのに。でも…ありがとう。美味しくいただくよ。いただきます」
手を合わせて綺凛の手作りのお弁当に舌鼓を打つ。
「うん!旨い旨い!」
プールで練習と遊んだ疲労が吹き飛ぶほどの味の良さに蜂也は両手におにぎりを持って頬張っていると頬に米がついていたのかそれに気がついて米粒を取った。
(あんなに格好いいのに子供っぽい…ふふっ)
笑みを浮かべながら二人で手作りのお弁当を味わった。
その後少しの昼休憩を挟み練習を再開、練習の成果が出て蜂也の補助なしで泳げるようになり少し深めのプールエリアにあるウォータースライダーへ移動したのだが問題が発生した。
「はーい彼氏さんは彼女さんの腰をしっかり持っていてくださいね~彼女さんは彼氏さんの腕の中でおとなしくしてください~」
「へっ?」
「はぅ…!」
ウォータースライダーに並び順番が巡ってきて係員のお姉さんにそういわれ二人はそれぞれの意味で驚いたがその二人の表情を気にせずに説明を続けて押し出した。
「は~いそれじゃあ行ってらっしゃい~」
「うぉっ!?」
「ひゃあっ!?」
水の流れるスライダーの順路に沿って流れていく二人はそれぞれに係員の言うことを聞いていた。
蜂也は股の間にいる義妹をしっかりと放り出されないようガッチリとホールドし綺凛は抱き抱えられた腕にしがみついている。
勢い良くスライダーを滑り起きていき全身を流れる水を被るが二人は振り落とされないように互いが互いを抱き合うとゴールが見えてきた。
大きな水飛沫を上げてゴール地点へ着水した。
「ぷはっ…はぁはぁ…綺凛ちゃん大丈夫?」
「ふはっ…は、はい大丈夫…っ!!?」
「どうしたの?」
「こ、こっちを見ないでくださいっ…は、はぅ…っ!」
「え?」
近くにいて蜂也に近付いて水から上がろうとした綺凛だったが何かに気がついて直ぐ様水の中に顔を沈め体を背中に密着し隠すような仕草をする。
その仕草の理由を気がついてしまった。
「(…この背中に当たっている突起と柔らかさはまさか…!)き、綺凛ちゃん…?」
「……はぅ///」
「あ、お母さん水着落ちてた~」
「こらっ、あのお姉ちゃんの水着だから返してきなさい!」
少し離れた場所で小学生ぐらいの男の子が白い布を持ち上げているのを親御さんがしかりつけているのを見つけた。
その手にしているのは胸を覆う下着…綺凛の身に付けていた白のビキニがそこに合った。
母親らしい人物が此方に指差している。
「………ちょっと待っててね」
「は、はい…」
蜂也は顔を出して沈んでいく綺凛をその場に置いて蜂也が回収に向かった。
綺凛は自分が尊敬している少年が自分の水着を回収し手に取っているその姿を見て恥ずかしすぎて水底へ消え去りたい、と思った。
◆ ◆ ◆
「…今日は楽しかったよ。綺凛ちゃん」
「えっ?」
レジャー施設からの帰り道夏の日差しが二人の影を地面に写し伸ばしていた。
何気ない一言に振り返るといつもの横顔に影が出来ていた。日差しでなく心に影を落とす暗いものを。
「実は俺…こうやって楽しい、って思えるような外出ってしたこと無いんだよね…新鮮だった。」
「………」
「自分が楽しむより妹が楽しんでいる姿を間近で見るのが好きだったんだなって事を今日綺凛ちゃんと一緒に温室プールに行って気がついた。だから…誘ってくれてありがとう」
優しい笑顔で微笑むその姿を見て綺凛は俯いて意を決した。
「…ダメです」
この人は自分に関しての機微が疎すぎる。
どうしてそんなに”悲しそうな表情を浮かべている”のか。
「えっ?」
「お義兄さんがもっと自分の事で”楽しい”って思えるようになるまでいろんな所に行きましょう」
つまり今日だけのことではない、と言うことを言われた。
綺凛は蜂也へ向かい合い微笑み掛ける。
その表情に呆気にとられたが蜂也は少し恥ずかしそうに頬を掻いた。
「……ありがとう」
「…帰りましょうお義兄さん。明日は身体を休めて明後日の試合に備えましょう」
「そうだな」
綺凛は蜂也の手に手を伸ばすと握り返してきた暖かい掌を握り返す。
夕日に照らされ伸びる影は途切れずに日が落ちるまで続いてその二人の並ぶ後ろ姿は本当の兄妹のように見えたという。
大会期間中のとある休日の一日。