俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
『序列三位程には上がってくださいね?』
昨日クローディアにいわれたことが脳内でリフレインする。
そんな直ぐに見つかるわけないだろ…と思ったが直ぐに見つかった。
翌日、俺はクローディアの命令でたまたま見つけた病的なまでに細い男、星導館学園序列三位の《
どうやらこの男、クローディアが序列外の人間を自分のお付きとして置いているのが気になったらしいのと封じられていた《
持っている純星煌式武装からは危険な雰囲気を漂わせている。
そして所有者は明らかにヤベー奴だと断定できるだろう。(大事なことなので二回言った。)
勝負する流れになりオニールは「《彼女》に相応しい舞台で勝負をしよう」と言い出し、いつのまにかクローディアが手配した毎月行われる序列戦で使用されるアリーナで勝負をすることになった。
学園内のネットワークで広まったのかいつのまにかアリーナには大勢の星導館の生徒が詰めかけており俺はため息をついた。
◆
《蛇剣オルルムント》、それは現在星導館学園が所有する純星煌式武装の中でも一際危険な『呪いの剣』と呼ばれているらしい。(クローディアに聞いただけだが。)
牙状の光刃が無限伸縮するその蛇腹剣はかすり傷でも負えば相手を幻惑へと誘う神経毒を持つ強力な武装だがやはりと言うべきか『代償』があるそうだ。
起動、所持することで麻薬のような中毒性の多幸感が現れてこの武装の所有者は常時起動しているようになり星辰力を吸われ続け中毒者患者のように心身を蝕まれて廃人となるのだ。
じゃ手を離せばいいんじゃね?となり手放して一定は回復はするものの再び禁断症状が現れて現所有者を殺してでも奪い取ろうとする殿下もビックリな事をし始めるのだ。
そんな危険な蛇腹剣を四年にも渡り所持しているのだから伊達や酔狂で危ないものを所持しているわけではなさそうなので実力者ともとれるだろう。
「今回の相手は生徒会長のお気に入りか…それに封じられていた魔剣を相手に出来るとは《彼女》も喜んでいるようだねぇ…。」
「(うわぁ…気色悪ぃ…。)」
今俺の目の前にいる男は病的なまでに痩せこけ目を爛々と輝かせキチキチと縛り付ける蛇腹剣に「彼女」と呼び目を細めていた。
頬擦りしそうな勢いだったが流石に自重したのだろう、理性が働いているのかどっちかにして欲しい。
まぁ大抵こういう奴は戦いが始まるとアッパーなテンションになり狂戦士(バーサーカー)になるのが関の山だろうが高を括るとこういうときこそ足元を掬われやすくなる。
「はぁ…」
俺は溜め息をつきながら腰にぶら下げた発動体を握り星辰力を込めると柄が展開、禍々しくも美しい金黄色の大剣《
起動させた瞬間、俺の在り方が変わった気がした。
その姿に観客席がざわつく。
「おい、なんだあの煌式武装…」
「あれって純星煌式武装じゃない?」
「うっそ!?でも序列外なんでしょ?」
「何でも特待生らしいぜ…。」
「特待生じゃあろうとなかろうと関係ねぇ、実力を見せてもらうぜ。」
様々な反応が観客席から飛び出していたが俺はさっさと視線を切りたかった。
お互いの獲物を出して準備が完了したことを確認した審判は火蓋を切った。
『試合開始!』
真っ先に動いたのはファードルハだった。
腕を振るいその命令を受けた《蛇剣オルルムント》は蛇のごとくしなやかに素早く動き光刃を蜂也に突き立てようと襲いかかる。並みの相手であればこの一撃で全てが終わっていた。
そう『並みの相手であれば』だ。
「ん…?」
しかし、俺を襲うはずだった光刃は接近十センチ以上離れ空中で停滞していた。
「…。」
蜂也は黙ったまま左手を前方に掲げる。
まるで見えない壁が《蛇剣オルルムント》の進行を阻害していた。
それにファードルハが自分の相棒から悲鳴が漏れ聞こえているような錯覚を覚えた。
引こうにも見えない《魔法》のようなものに固定されてこのまま力任せに引き抜けば《蛇剣オルルムント》が折れてしまいそうな錯覚すら覚えた。
両者動かない選手の姿を見て戸惑いの声がアリーナの観客席から聞こえてくる。
「え?どういうこと?ファードルハの攻撃が止まったまま動かない…」
観客席にいた少女の独り言に意図したわけではないが特徴的な髪色をした少女が反応した。
「違うあれは…!」
ファードルハと相対している蜂也の身体から膨大な星辰力が溢れだしている。その量は一般生徒を遥かに越えている。…通常の星脈世代では出せない特別な存在と同じであった。それこそ《
「まさか《
魔術師ではなく魔法師だと訂正を聞こえていたらしたかっただろうが蜂也には聞こえていない。
観客席は騒然としており相対するファードルハも同じ様子だった。
「な、んだそれは…?」
「貴殿の実力は把握した。」
蜂也は止めていた《蛇剣オルルムント》をあっさりと拘束を解除すると返す刃で光刃が襲いかかる。
「っ…!シッ!!」
「…」
しかし、その刃は蜂也には届かず『ただの回避』で全てを避けられていた。
それは数回、何十回とやってもダメージを与えられない。
ファードルハは次第に焦りと苛立ちが顔に出ていた。
「そろそろ『当方』から攻めよう。」
動きが次第に鈍くなる隙を突いて蜂也は片手を振り上げるとまるで銃弾を打ち込まれたように大きくのけぞり手に持っていた《蛇剣オルルムント》を手放して後方へ離れていってしまった。
「ぐおっ!?」
その光景をスタンドのようなところで見ていたクローディアはボソり、と疑問を呟く。
「あれが蜂也が言っていた《エア・ブリット》ですか…星脈世代を怯ませるほどの威力があるとは向こうの魔法は怖いですね…。まぁ蜂也が使っているからあの威力なのでしょうけど…それより蜂也、貴方は一人称が「俺」だった筈では?」
ファードルハは直ぐ様に後方へ《蛇剣オルルムント》の元へ駆け出そうとするが蜂也はそうはさせないと手を翳すと炎の壁が立ちはだかり遮ってしまった。
観客席から歓声が届く。
《蛇剣オルルムント》との会合を邪魔されての怒りか、序列外の生徒から良いようにされていることからのプライドが傷つけられたことへの怒りなのかは知らないが
「俺と《彼女》を舐めるなぁっ!!」
「…。」
「散!」
ファードルハがそう号令すると炎の壁の向こう側にいた筈の《蛇剣オルルムント》が空中に浮かび上がり光刃が一斉に蜂也に襲いかかる。
空中で指向性の爆弾が爆発したような行動に蜂也は驚いているのかその場から動かない。
とてもその全てを回避できるものではない。
観客席の悲鳴がスタンド側まで聞こえてきたがそれはクローディアにとっては杞憂でしかなかった。
「これで終わり…なっ!?」
光刃が直撃して爆発し煙が晴れるとそこには無傷で立っている蜂也の姿があったからだ。
「終わりか?では当方から攻めるとしよう。」
「…」
問いかけられて唖然とするファードルハを尻目に淡々と蜂也は今まで使用していなかった右手の《
その感情の乗っていない台詞はまさに死刑宣告だった。
「そうか…。」
そう言葉を呟き足を踏み込んだ瞬間、一陣の風がアリーナ内を駆け抜けた。
次の瞬間にはファードルハは地に伏して胸に着けた校章と共に《蛇剣オルルムント》は粉々に砕け散ってしまっていた。
突然の事に反応が出来ずにいた審判と観客席は静まりかえっていた空間に「パチパチ」と蜂也を称賛する拍手が勝者側のスタンドから聞こえてきた。
「お見事です蜂也。」
クローディアが発した一言でアリーナ全員がハッとなり真っ先に審判が動きだし勝者の名前を告げる。
『
その瞬間静寂がアリーナは割れんばかりの歓声が支配した。
◆ ◆ ◆
「流石です、蜂也。貴方が勝つと信じていました。」
アリーナの控え室で一戦が終わった後にクローディアから渡されたスポーツドリングに口をつけているとそんな言葉を掛けられた俺はこの事の発端を作った少女に視線を向ける。
感謝の視線ではなく「よくも焚き付けたなこの女…」と言った視線だったが。
「よく言うぜ…お前があのヒョロガリを焚き付けたんだろ?『私の選んだこの少年を倒せば貴方の《蛇剣オルルムント》は更なる価値を見出だすでしょう。それに彼は封じられていた《
俺がそういうと面食らったような表情を浮かべていた。
どうやら当たっていたらしい。
「どうしてそれを…。」
「考えれば分かる話だ。序列外の人間に序列入りしている人間が決闘をするメリットがない…そうなると自然に自分が持っている価値を上げるために別の要因で勝負を仕掛けてくる…ってな。」
「流石は私の蜂也ですね。」
「誰がお前のだ…まぁ、これで約束は果たしたしたぞ?満足か?」
「ええ。花丸を上げちゃいましょう蜂也。それにおめでとうございます。これにて貴方は《
『二つ名』と聞いてうげぇ…となる俺を尻目にクローディアは楽しそうだ。
俺はゲンナリしながら反応する。
「うげぇ…ガッツリ目立っちまったよ。二つ名いらねぇ…てかつけんな。」
「もう既に蜂也の『二つ名』は考えています。」
「クローディアが考えるのか…。」
そういうと「当然です!」と言わんばかりにズイっと顔を近づけてくる。
「私の蜂也なのですから私が決めて差し上げます。」
「勝手にしてくれ…あ、やたら長い横文字だけはやめてね?」
「貴方の『二つ名』…それは…。」
先程の試合で勝利したときからクローディアの中で候補が一つに絞られていた。
『封印されていた筈の《
『《魔法》というおとぎ話のような力を使いこなし自由自在、様々に使いこなし敵を圧倒した。』
『《
太古から蛇は西洋では竜にも形容されている。
その姿は神話の時代、かつてのヨーロッパと呼ばれた地域に伝わる『北欧神話』に登場する《
古き神々より呼ばれしその男の名はシグルド、ーまたの名をー
「『戦士王』」
クローディアが名付けた蜂也の『二つ名』は此処に決定した。