俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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断章:『懐国凱旋』
それぞれの序章


《鳳凰星武祭》が終わり数ヵ月…季節は秋へ変わっていた。

晩秋の月明かりが照らす部屋でクローディアはソファーに身を深く静めていた。

なぜか長い金髪はしっとりと濡れてベビードールの上から陶器のような白い肌が上気し豊かな双丘が溢れていた。

音声通信のみのウインドウが浮かび困惑した声で伝えていた。

 

「申し訳ありませんが、何度も言われようともそこは譲れません。」

 

電話口の人物の声は苛立った口調で何度も同じことを繰り返す。

 

「ええ。勿論です。全ては承知の上です。ご忠告には感謝いたしますよ。」

 

クローディアは薄い笑みを浮かべて無造作に空間ウィンドウを閉じた。

そしてゆっくりと息を吐き出した。

 

「ようやくここまで辿り着けました…あとは…。」

 

クローディアはそういって立ち上がり窓際に向かった。

深夜の遅い時間帯のため窓辺に立ってもベビードール…ほとんど下着だけに近い姿になっていても分からない。

薄いレースに降り注ぐ月光を浴びながら自らの体を抱き締める。

 

「ふふっ…これでもう後戻りは出来ませんね…。」

 

自嘲気味に笑い、自分自身に言い聞かせるように呟いた。

あの日から抱いてきたクローディアの願い。

毎夜続いてきた悪夢は”一人の少年(名護蜂也)”の出会いによって打ち砕かれはした。

…がそれは未だにクローディアが見る”悪夢(パン=ドラ)”を打ち直したに過ぎない。

”悪夢”は効力を発揮している。

悪夢と言っても彼女を害する夢でなく、彼女が見る夢の狭間で”警鐘(未来予知)”として主のために伝えているのだ。

 

「……っ~~~!」

 

(未来予知)で見た悲惨な結末を思い出しクローディアは自らの抱き締め震える体を抱き締める。

言っても誰にも理解されない。

明かしたところで愚かしいと嘲笑われくだらないと切り捨てられ本気で取り合う者などいない。

なにしろ当のクローディアがそう思っているのだから。

 

「蜂也…私の運命の人…だからこそ私は…貴方を…○○○○○…。」

 

最後の言葉を呟くがそれを聞けるものは誰もいない…いや聞こえない、といった方が正しいか。

 

「……。」

 

クローディアは窓際から踵を返しベッドへ歩きだして覗き込む。

 

「………。」

 

…何故かその隣には背を向けるように寝ている蜂也の姿があった。

なぜその格好でクローディアが蜂也の隣に居るのか。

 

そう、ここはクローディアの部屋ではなく蜂也の個人部屋の男子寮だ。

何時もの如くクローディアが蜂也の部屋へ押し掛けてきていたのだ。「眠れない」という理由で。

呆れていた蜂也だったが何時もの妹ムーブを決められ陥落…承諾せざる得ない、という状況だったのだ。

 

ガチ寝している蜂也に対して少し不満そうな表情を浮かべていたが頬を愛おしそうに前髪を掻き上げて頬を撫でる。

 

「もう…私のような美少女が隣に居るのに襲わないないなんて…魅力がないのかそれとも蜂也は殿方にしか興味がないのかしら?」

 

少し自分の魅力に自信を無くしてしまいそうになったが密着されたときはしっかりと顔を赤らめていたのを思いだしホッとした。

 

「ふふっ…。」

 

クローディアは笑みを浮かべ蜂也が眠っているセミダブルベッドへ潜り込み蜂也へ抱きついて眠りに着いた。

 

「ううん…暑い…んだけど…。」

 

寝言を呟く蜂也にムスっとするクローディアだったが楽しそうに笑う。

心からの笑みだ。

 

「もう…蜂也ったら…。」

 

その名前を噛み締めるように。今日は蜂也と楽しい夢が見られるようにと願い眠りについた。

 

「お休みなさい…蜂也…。貴方は私が…………。守ります。」

 

呟いた言葉は現実になるように祈り続け行動するしかなかった。

未来を変えるためには。

 

◆ ◆ ◆

 

「…というわけで来年に行われる獅鷲星武祭(グリプス)の優勝へ向けて蜂也を主軸として私、綺凛さんにユリス、天霧くんをメンバーとしたチームを結成したいと思うのです。そのためには蜂也は来年度の学内序列戦で綺凛さんに挑んで勝利してくださいね?」

 

え、お前俺に序列一位に挑めとか死ねって言ってる?相手はあの綺凛ちゃんだぞ?死ぞ?

まぁこいつがそう言うのは「手抜きで負けないでくださいね?」という脅しだろう。

別に手を抜いて序列三位になったわけじゃない。目立ちたくないからである。

 

「星武祭を初登場で制覇してる時点で貴方の名前は学外に轟いていますので…。」

 

人の心を読むな……マジか。面倒くさい。

 

「急に言うじゃんお前。…まぁそのチームメンツで負けるのか逆に聞いてみたいんだが…」

 

それよりも昨日の事について一言物申した。

 

「ってそれよりなんで俺のベッドに入ってんの?年頃の女の子がそんなことをするんじゃありません。」

 

「あら?では蜂也はこの秋口の寒い部屋で薄着のまま寝ろと…くすん…ひどい人…。」

 

昼飯を喰うにいたって何時ものメンバー…というか俺達が先に場所取りをしており頼んだ料理が先に出ていたので先に食べながら雑談…というか他には聞かせられない内容なので《遮音魔法》を使いこの内容が外へ漏れないようにしていた。

うん。これ聞かれたらヤバイわ。

隣で泣き真似をするクローディアが若干鬱陶しく思えてきたがその仕草が似合っているのが拍車を掛けて頭を押さえたくなったがこういうことをしてくるのは”構って欲しい”の合図だとこいつの付き合いで理解した。

 

「んじゃ今度ソファー買っとくからそっちで寝ろよ…。」

 

「あら。私と同衾するのはお嫌ですか?」

 

同衾…ってお前なぁ…。

 

「いや、お前入れて寝る…ってそういう問題じゃねーだろ…年頃の青少年の性欲舐めんなよ?襲うぞマジで…。」

 

最後の「襲うぞマジで…」の部分を少し威圧感を込めて耳元で囁く。

 

「えっ…」

 

クローディアは急に黙り込んでしまった。

あれーおかしいねぇ…さっきまでメスガキムーブしてたのに頬を朱色に染めると恥ずかしそうに生娘ムーブしてきやがったぞこいつ…本当にどうしたいんだろうな?

 

「え、…そ、その…蜂也がそうしたいのならわたしは受け入れますが…ですけど…少し心の準備が必要と言いますか…sの…///」

 

「…おーいクローディアさん?」

 

顔に手を当ててると更に頬をリンゴのように赤く染めて恥ずかしそうに妄想のなかに沈んでいくクローディア。

正気に戻すために肩を揺らそうかと思ったそのときだった。

 

「何をしているのだお前達は…頼んでいる麺類のメニューが伸びてしまうぞ?」

 

「副会長…ラーメンが…。」

 

「お、お義兄…わたしのおにぎり食べますか?」

 

「あ?……oh。」

 

寸前でリースフェルト達が現れ我に返ったクローディア。

直前で俺の頼んだラーメンは伸びてしまったがせっかく食堂のおばさま達が作ってくれたものを残すわけにはいかないので全部食べきった。

うーん。若干冷めてたので豚骨ラーメンの美味しくないこと。綺凛ちゃんがくれたおにぎりが一番美味しかったです。

 

ひとまずの食事を終えて食後のお茶を飲んでいるとリースフェルトが口を開く。

 

「ところでお前達冬季休暇の予定は決まっているか?」

 

「冬季休暇?…いや特に用事は無いな。」

 

「未だ先の話ですし、特に決まっていないですけど。」

 

正面に座る俺と綺凛ちゃんが返答する。

今は10月で冬季休暇までは2ヶ月もある。

アスタリスクの学園のカリキュラムは通常の教育機関とは違うようでセメスター制、つまりは一年を前期と後期で単位取得する…というあり後期には入学式が行われ新入生もちらほら見られた。

 

「出来れば今度こそわたしはゆっくりしたい…。」

 

同じテーブルで食事を取り昼寝をしていた紗夜がむくり、と起き上がり反応した。

 

「はは…紗夜は秋季休暇中はずっと補習だったからね…。」

 

「むぅ…。」

 

どうも言い返せないのか反論はない。

 

「ま、その点冬季休暇中には補習はねぇのは安心だな。」

 

「それは自分の事を言っているのか夜吹?」

 

「うぐっ…!」

 

リースフェルトの言葉にわざとらしく視線を逸らした夜吹。

沙々宮は得意不得意教科の落差が激しいが夜吹の場合はほとんどの教科が赤点ギリギリでありよほど勉強が嫌いらしい。

この場にいるメインメンバーの成績で言えばリースフェルトが成績上位で中等部ではあるが綺凛ちゃんもそれなりの成績を残してた。

天霧も平均より上と言ったところか。

因みに俺はクローディアと並んでワンツーでフィニッシュ…三位以下を大きく離す結果となった。

テストの内容は向こうにいたときの高校生のまぁ普通の学習内容と同じだったのが救いだったが。

ちなみにだが学業も《星武祭》の成績に関係するらしい…いやはや面倒。

 

「んで…冬季休業で何か催し物でもあんのか?」

 

「…実はだな。フローラの一件で兄上達がどうしても国に招待したいと言い出してな。」

 

「国に…ってそうかお前お姫様だったな。」

 

俺がリースフェルトにそういうとムッとされてしまった。

いや、本当に忘れてたんだよ。いい意味でお前お姫様感無いんだよな。

咳払いして気を取り直すリースフェルト

 

「んんっ!…まぁ私が帰省するに当たって、誘ってみろとのことだ。」

 

「それは…大変光栄ではありますけど…。」

 

「ユリスのお兄さん…ってことはリーゼルタニア国王からの招待って事?」

 

綺凛ちゃんが反応し天霧が問いかけるとリースフェルトが頷いた。

国王からの招待、ということで二人とも恐縮していた。

俺の気分的には「めんどくさ…」と思っていたが。

 

「蜂也…今『国王の偉い人からの招待かーめんどくさ。』とでも思ったのだろう?」

 

「ばっきゃ…んにゃわきゃあるか。」

 

「かみかみですお義兄さん…。」

 

「かみかみです蜂也…。」

 

「あはは…。」

 

全員から苦笑いを浮かべられたりしたがおかしい…顔に出ていなかったはずなのだが。

 

「んんっ!ともかく…そんなに気後れする必要はない。形式張ったものはやめてくれ、と兄上に伝えてある。あくまでも礼を伝えたい、とのことだそうだ。それに…個人的にも皆に礼をしたい、というのが本音だ。」

 

しかしそう言うリースフェルトだったが口では「来て欲しい」と言っている割には乗り気でないように見える。

それにしても「礼」か…フローラの件はリースフェルトの知り合いであるから助けただけであって言い方は悪いがリースフェルトが危害を加えられた、ということでなくその侍女が誘拐されたということであって直接的な被害はないはずだ。

”孤児院の身寄りの無い子供が出稼ぎで王宮で働いている”という関係で一人いなくなったところで関心を持たなさそうなものだが、と思ったがかなり変わり者の王さまなのだろう…それともなにかを企んでいるのかもしれない。

疑う理由としてはリーゼルタニアは模範解答的な統合企業財体の傀儡国家だからだ。

まぁ…しかしリースフェルトがこんな性格(いい意味でだぞ?)なので罠に嵌めようだなんて事はあり得ないだろう。

あったとしてもなんとかなるだろうし。

 

「ただ、フローラを助けてくれたことに関しては兄上だけでなく孤児院のシスター達も是非直接に礼が言いたい、という声が届いているのだ。」

 

リースフェルトはそう告げて肩をすくめた。

 

「まぁ、お前達にも都合があるだろうし無理に、とは言わないが…。」

 

言われて綺凛ちゃん達は考え始めた。

まぁ…俺の場合は次元跳躍が出来るならこの世界からとっとと帰りたいのだが未だ次元の壁を突破できるほどの魔力が溜まっていないのもあるし《自立稼働変形CAD》も開発が途中なので今のところは予定はない。

因みに夜吹は報道部の仕事が忙しいらしく辞退している。

考えていると一足先に天霧が返答した。

 

「それじゃ僕は招待を受けようかな。」

 

「そうか。フローラも喜ぶ。」

 

隣にいる綺凛ちゃんも手をおずおずと上げた。

 

「あのう…わたしもご迷惑でなければ…いいでしょうか?」

 

「無論だ。しかし…いいのか?父君は釈放されてご実家に戻られているのだろう?」

 

綺凛ちゃんは《鳳凰星武祭》の優勝者権限で再審を行って貰い《幼い綺凛ちゃんを守るために強盗を手に掛けてしまった罪》で逮捕されていた当時は刑務所にて服役中だったのが優勝を期に願いとして再審が行われ”過剰防衛”ではなく”正当防衛”であると再審結果が出て当然ながら前科無しでの釈放をされることになったのだ。

もう少し手続きがあるため…冬休みが始まる前には綺凛ちゃんの元へ戻れるようになるそうだ。

これは俺も頑張った…というか綺凛ちゃんが頑張ったお陰な訳なのだが…まぁそこはいいだろう。

 

しかし、これからが問題だった。

俺は綺凛ちゃんの実家…つまりは刀藤流剣術道場へ行かなくてはならなくなった。

というか今目の前にいる師匠《お義妹》から「来てください」と言われたり俺の事を綺凛ちゃんがお父さんに話した際に「鳳凰星武祭を勝ち抜けるほど研鑽された刀藤流剣術…君がどれ程の使い手になったのか見せて欲しい」と事実上の「お前私の娘に手を出したな?ギルティ!」と新手の死刑宣告を受けてしまった。

この場合父親だけじゃなく恐らく…というか確実に刀藤流のアイドルであろう綺凛ちゃん親衛隊の門弟達からフルボッコにされる未来が見えたが当の本人である綺凛ちゃんからも「是非!」と嬉しそうな表情を浮かべるものだから断れなくなってしまった。

うーん…困るなこれ。

と、まぁ秋季休暇中に色々あったんだがまた語るとしよう。

 

「未だ父は戻っていないんです。戻るのはお正月が過ぎた頃になります。この間の秋季休暇に会いに行った時に父からは…「自分の事を気にかけるのなら修行をしたり…”親しい人”…達と楽しい思い出を作ってきなさい。」と言われまして」

 

”親しい人”の部分で上目使いでこちらを見る綺凛ちゃんだったが俺と目をあわせた瞬間に瞬間湯沸し器のように真っ赤になってしまった…体調でも悪いのだろうか?

 

「ですから…わたしは大丈夫です。」

 

「そうか…なら蜂也はどうだ?」

 

と、今度は俺にその話が振られ着いていくことにしたのだが告げた言葉に全員が全員困惑したり悲しんだりしていた。

 

「…そうだな。俺には別に帰る家(別世界にある。)も待ってる家族(此方も別世界にいる。)も居ないしな。お邪魔させて貰うわ。」

 

何故そんな悲しそうだったりしているのだろうか

 

「…っ!」

 

「「「……。」」」

 

「どうしたよ?」

 

「うむ…蜂也は是非我が国に来て楽しんでくれ。必ず来てくれ。」

 

「お、おう…。(な、なんだ…?)」

 

リースフェルトに両手を握られて万感の思いで告げられた。…そんなに俺に来て欲しいのか。

妙な気迫に圧されながら俺が承諾した。

沙々宮も誘われており一度ドイツのミュンヘンへ立ち寄る事になった。

理由としては俺が借りた煌式武装が俺の星辰力に耐えきれず壊れたので修理のために実家にいる沙々宮の父親に送ったそうなのだがようやっと修理が完了したらしい。

本当にすまん。

謝罪はほどほどにしてリースフェルトの招待に夜吹を除く全員がリーゼルタニアに向かうことになった。

さて、どうなることやら。

 

◆ ◆ ◆

 

やーっぱりだが《次元解放(ディメンジョンオーバー)》で向こうの世界に帰れる程の次元を越えられるサイオン量は貯まっていなかった。

とりあえず今年中に向こうの世界へ帰ることは不可能になったわけだが…一応この世界で自由に行き来が出来るようには機能は戻っていた。

今は一応《自動二輪型自立稼働可変型CAD》の研究も今途中だからな…。

それにまだ動力部分が複数個のマナダイト

そもそも俺が向こうの世界に戻ったときにどれだけ時間が経過しているのかが分からないので次元の壁が越えられるようになるまで待つしかないか…一先ずはリースフェルトの故郷へと向かうとしよう。

 

テッテッテ-キーン…USSR…!でなくインディア…。

…じゃなく、向かうは北欧にあるリーゼルタニア王国…の前にドイツのミュンヘンへ向かう俺達。

技術進歩しているのかアスタリスクに併設されている北関東クレーター湖上のフローターエアポートから数時間程度のフライトで到着できる。

まさか国用機に乗ることになるとは。

時間がありそのなかで雑談に興じていたのだが…。

 

上空を飛行する国用機の中にて。

 

「大会が終わってすぐにツアーが始まっちゃったから蜂くん達に言えてなかったけど大会優勝おめでとう!必ず優勝できると思っていたよ!」

 

俺の正面に座り少女が満面の笑みで《鳳凰星武祭》の結果を称賛してくれている。

してくれているのだが…。

 

「………。」

 

頭を抱える俺に目の前の少女は「どうしたの?」と首を傾げる。

いや、こっちが首を傾げたいんだが…。

 

「どうしたの?」

 

「どうしたの…ってあのなぁ…。」

 

目の前の少女は俺が困惑しているのが分からないらしい。

くっそ…可愛いからあんまり強く言えないのがキツい…!

仕方がないと、俺がどうして頭を抱えているのか説明した。

 

「どうして世界の歌姫がこのリーゼルタニア王族の専用機に乗ってるんですかねぇ…。」

 

俺の目の前には”世界の歌姫”ことシルヴィア・リューネハイムがいたのだから。

 

「どうしてってせっかくのオフで…。」

 

「そう言うことじゃねーんだけど?…ええとだな。」

 

「シルヴィアがここにいるのはお前たちと同じようにフローラを救ってくれた礼を兼ねて誘ったのだ。話をしたら丁度ツアーが終わる時期だったらしいのでな。」

 

通路を挟んで反対側にいるリースフェルトが説明をしてくれた。

 

「…なるほどな。っていいのかよ世界の歌姫が忙しく世界を飛び回ってるってのに俺達と一緒で折角の休暇が勿体なくないか?というか新年とかの歌番組とかに出るんじゃねぇの?」

 

某局の白赤歌合戦的なあれだ。生放送なんだよな?

 

「あの番組は私でないことにしてるから。プロデューサーがちょっとね…マネージャーのペトラ…ああうちの理事長なんだけどそれ経由で学園の統括してる上の方…つまりW&Wが局にクレーム入れちゃってね。それ以降はその局の番組に出ないことになってるの。」

 

「マジか…。」

 

世界的な歌姫が「もうあなたの局の番組に出ません!」って言われた日にゃプロデューサーや社長は青い顔をしてたに想像に固くないな…セクハラでもしたのだろうかプロデューサーは。

シルヴィアは可愛いといってもひ弱ではない。星脈世代の女の子だからな…非星脈世代の男性なら指1本でダウンさせるだろう(世紀末覇者並感)いや、俺もされるかもしれないが…。

 

「だから今回は長いツアーも無いし丁度良いと思って長いおやすみを貰ってどうしようかな、って思っていたところにリースフェルトさんからのお誘いがあったから着いてきちゃった♪」

 

着いてきちゃった…って可愛く言われてもなぁ。

 

「……。」

 

「んんっ!…(ぷいっ)」

 

リースフェルトを見ると咳払いをしてそっぽを向かれた。

にゃろう…大会で負けたのがそんなに悔しいかお前…!

その様子を見る天霧は苦笑し沙々宮は寝てやがる。

特に天霧お前がこのお嬢様を何とかしろや…お前の嫁だろうが…!

 

◆ 

 

リースフェルトの用意した国用機は内装もさることながらサービスも凄かった。

機内食でステーキとか出るんだな。あとやたらと名前の長く横文字使ってる料理が出てきたときは「なんかスゲーの出た」と小学生並みの感想しかでなかった。

全員が豪華な内装の国用機に備え付けられているテーブルを囲んで全員が和やかに寛いでいた。

まぁ…そもそも魔法師は国外に出ることが出来ないから今回は異世界だが初の海外旅行?になるので割りと今回は楽しいかもしれん。

 

いや、正確には”数名を除いて寛いでいた”が正しい文章かもしれん。

 

「………。」

 

「………。」

 

 

何故か俺の目の前で二人の生徒会長(クローディアとシルヴィア)が両者にらみ合いのバチバチをしてなきゃな。

 

「はぅ…。」

 

そして俺のとなりに座る綺凛ちゃんは顔を青くしている。足まで震えている始末である。

俺は近くでバチバチにやりあっている二人を一旦無視して明らかに体調の悪い綺凛ちゃんへ声を掛ける。

 

「大丈夫か…って見れば明らかだな大丈夫じゃないなこれ…横になってた方がいいんじゃない?」

 

「あ、はい…ご心配ありがとうございますお義兄さん…綺凛は大丈夫…です。」

 

「無理せず座席で横になっていた方がいいのではないか?」

 

リースフェルトの発言の通り通常座席はふっかふかのリクライニングソファーになっているので横になった方がいいのだが…。

 

「い、いえ…皆さんと一緒にいた方が落ち着きますので…。だから大丈夫です。」

 

うーんなんと言う健気な義妹なのだろうかと少し涙ぐみそうになったが明らかに大丈夫じゃないのは明白だったがこの子は意外にも頑固者であるので「こうします」と言ったら曲げない子なのだ。

かといってこの状態を維持させるのは俺としても不本意なので横になって貰うと考えたのだが。

 

「きゃっ!…ご、ごめんなさいです…ってふぇ?!お、お義兄さんっ…!?」

 

「うおっ!…大丈夫…ってまぁ丁度良いか。…よっと。こうしてれば俺に寄っ掛かれるでしょ。」

 

突如として飛行機が気流にぶつかったのか揺れて綺凛ちゃんが俺にもたれ掛かった。

そう、丁度綺凛ちゃんが俺にもたれ掛かるように胸の辺りで抱き止める形になり丁度綺凛ちゃんが俺の腕のなかにすっぽり収まっている。

 

退こうとしているのだろうが体調がすぐれないのか力が入らなく直ぐ様諦め俺に体を預けた。

綺凛ちゃんは軽いので抱き抱えていると小町も昔はこんなんだったなーと懐かしんだ。

 

「凄いですね副会長は…。」

 

天霧が驚いたように告げた。

 

「あ?可愛い義妹のためにベッドになるのはやぶさかではない。」

 

「そう言うことではないと思うのだが…はぁ…クローディアもシルヴィアも大変だな。」

 

「よっ、色男…さすがは蜂也。綾斗も見習うべき。」

 

「はぁ…?」

 

天霧たちは何を言っている…ってクローディアとシルヴィアがなにか羨ましそうなそれでいて恥ずかしそうな表情を浮かべているのは何で?

 

「お義兄さん…さすがにこれは…恥ずかしい…ですぅ…!」

 

「立てないくらい体調悪いならこの状態で休んでた方がいいって。」

 

艶やかな銀髪を撫でると気持ち良さそうに目を細める。

体調が悪いのは俺の《瞳》でも見て分かるので頭を撫でて心音を聞かせるように胸元へ近づける。

 

「えへへ…お義兄さん…それじゃあ…失礼します。」

 

「リーゼルタニアに着くまで寝てていいからね。」

 

「はい、ありがとうございますお義兄さん……すぅ…すぅ…。」

 

そう言って俺に寄りかかるように全身を預ける綺凛ちゃんは次第に口数が少なくなった。

赤ん坊も親の心音を聞いて落ち着いたり眠ったりするのでその効果があったのか寝てしまった。

 

「私も妹キャラで攻めた方がよろしいのかしら?」

「綺凛ちゃん良いなぁ…わたしも…ってこれはスキャンダルになっちゃうかなぁ…羨ましい。」

 

「…。(聞かなかったことにしよう。)」

 

さらっと不吉なことが聞こえたが聞こえない振りを決めてミュウヘンに到着する数時間俺は綺凛ちゃんのベッドになり時間を潰した。

 

「えへへ…お義兄さん…。」

 

楽しい夢でも見ているのか綺凛ちゃんはニコニコとしており顔色も良くなっていた。

しばらく空の旅を楽しみ腕のなかには綺凛ちゃんの温もりを感じつつテーブルの上に何故かおかれた蜜柑を片手で揉んでいるとリースフェルトから声を掛けられた。

 

「そう言えばなのだが蜂也。」

 

「どうした?」

 

「《鳳凰星武祭》で優勝した際に金銭を要求した、という話だったが…時に蜂也、」

 

次にリースフェルトが告げた名前に俺はぎょっとした。

 

「『比企谷八幡』という名前に心当たりはないだろうか?」

 

「………さぁ?はじめて聞く名前だけど…それがどうかしたか?」

 

「どうして間が空いたのだ?」

 

「いや、聞き覚えの無い名前だったから思い返してただけだ。…『比企谷八幡』ね…。」

 

…まさかの『比企谷八幡』の名前を聞くとは思わなかったので少し間が空いてしまったが思い当たる節があった。

 

実は大会優勝の際にウルム=マナダイトか金銭かで迷ったのだが後者を取り折角だからとどっかの国の国家予算ほどの金額を吹っ掛けたのだがなんとそれが通ってしまい「やべぇ…」と思いどうしようかと思っていた所にリースフェルトが言っていた孤児院の改装的なことを思いだし偽名で送金した際に何でか「比企谷八幡」で行っていたのだ。

…なんで「比企谷八幡」の名前で送ったんだろうか俺は?

まぁ……ある意味『比企谷』への当て付けなのかもしれんが。

 

リースフェルトが俺を見て少し訝しむが直ぐ様気を取り直し説明してくれた。

 

「そうか…いやその『比企谷八幡』なる人物が想像もつかない金額が送金されてたと孤児院のシスターが腰を抜かしていてな…無事に老朽化していた孤児院と教会が新築同様になって喜んでいたんだ。」

 

「へぇ…良かったな。あ、でもお前も準優勝での賞金を送金したんだろ?」

 

準優勝ともなれば優勝には劣るもののそこいらの大会優勝の賞金よりも出ていた筈だ。

 

「ああ。私も寄付をして孤児院の運営資金にさせて貰ったが…寄付された金額では到底及ぶものでは無くてな…。しかし、本当に誰なのだろうか…。」

 

「まぁ…奇特な奴もいるもんだな。」

 

本当に気がついていないのかリースフェルトは不思議そうな顔をして「本当に誰なんだろうか…」と首を傾げている

意外にもこう言うところは素直で可愛いんだよなこいつは…。

ひとまず俺達は雑談をしながら俺は綺凛ちゃんの頭を撫でながら蜜柑を頬張っていた。

うーん今度乗るときはこの国用機にこたつが欲しいな。

 

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