俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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魔竜撃滅

懐かしい夢を見ていた。

 

後天的に星脈世代…”魔女”されてからというもの昔の記憶は変色し色褪せ自分自身の過去の記憶ですら見ることすらなくなったというのにかつての友達…薔薇色の髪色の少女と共に花を育て愛でていたことを思い出した。

 

目蓋を開くと真っ暗な空間に浮いている。

 

『ここは…何処…?私は先程まで…戦士王と戦っていた筈……そう…死んだのかも知れないわね…それはそれで……?』

 

今、目の前に花畑が広がっている。

おもむろにその花に触れてから不味いと思い手を離すがいつまでたっても花が朽ちていかない。

 

『…。花が…朽ちない?』

 

手に取る花は色鮮やかなアネモネの花だ。

ふと気がついたことがある。

 

『匂いが…する。』

 

花の匂い、土の匂いがしっかり鼻を突いているのだ。

 

『生きている…。いや仮死状態なのかもしれないわね。』

 

今までは色彩を欠いた風景に匂いもしなかったのにこんなことはもう数年もなかった。

なぜこんな状態になっているのか一瞬分からなかったがハッとして花から視線を上げる。

 

『…きっと戦士王ね。』

 

胸の部分を擦るが痛みはなくそして穴もない。

先程までの戦闘を思いだし自分の心臓目掛け先程《壊劫の魔剣》を突き刺されたが不思議と痛みを感じなかった。

自らの”運命”を壊してくれた少年。

ディルクにその存在を聞かされ命令されたときは「それで?」ということだったが星武祭を優勝してから彼に興味が湧いた。

…彼ならば私の”運命”を壊してくれそうだったから。

今回は研究所を抜け出して久々に外に出掛けたらまさか《戦士王》に会うとは思ってみなかったけれど。

結果としては私は敗北して”運命”は砕かれた。

 

『…。』

 

妙な気分だ、といっても不快ではなく清々しい良い気分だ。

何故か戦士王…いや名護蜂也のことを思い出すと胸が温かくなるのは何故なのだろうか…?

 

『…これが…ユリスが以前に言っていた…”一目惚れ”と言う奴なのかしら…?』

 

いつぞやユリスが自分を迎えに来てくれる白馬の王子様とやらのお話をしていたのを思いだし自然に笑いが出た。

恋のことなどてんで分からないが今は”名護蜂也”のことを想うと鼓動が早くなる。

 

『……。』

 

『………あら?ウサギ…さん?』

 

花畑の開けた場所にペタりと座り込むと暗闇の奥から一羽の白ウサギが私の元に近づき見上げている。

こんな不思議な所にウサギがいるはずがないが…夢だからだろうと納得させた。

 

『…おいで。』

 

声を掛けて手招きをする。本来ならばそんなことをしてしまえばこの小さな命は朽ちてしまうだろう。

それよりも私の瘴気で生き物が近付いてこないはずなのでこんな手招きをしてしまうのだけれど。

 

『……』スリスリ。

 

『…ふふふ。かわいいウサギさんね。きゃっ。』

 

手招きすると白兎は近づき頬を私の手の甲へ当てている。

その感触に思わずくすぐったさを覚えて頬が緩んでしまうが仕方がないと自分に言い聞かせていると白兎がぴょん、と座っている膝の上に飛び乗ってきて「もっと撫でろ」と言わんばかりの態度を取っている。

花に触れることや動物の温もりを感じることが出来ることに喜びを感じつつ花畑に倒れ込み”匂い”を吸い込む。

 

『………。』

 

目蓋が重くなり次第にウサギを撫でる手付きも遅くなるがそれを察して白兎は移動し頬付近に近づきその小さな身体を擦り付ける。

その微睡みに身を任せ目蓋を閉じる。

 

…一先ず起きたのなら感謝の気持ちを伝えましょうか。

◆ ◆ ◆

 

「しかし…孤毒の魔女(エレンシュキーガル)に戦いを挑まれて勝利してしまうとか…本当に貴方は規格外ですね蜂也。」

 

「いやいや…そもそもこのバカ二人が勝負を仕掛けなきゃこんなことにはならんかっただろうが…」

 

「ば、バカとは何だ!蜂也!」

 

「格上の相手に挑むのがバカっていうんだよバカ……って漸く起きたな。」

 

俺は寝ている天霧とリースフェルトに視線を向けてそう言い放つ。

 

ここはリーゼルタニアの離宮。

天霧達が使用している部屋におり先程まで話していたのだが目を醒ましたらしい。

 

「あの…えーと…。」

 

「起きたか綾斗。」

 

起き上がった天霧に駆け寄るリースフェルトと沙々宮の姿があり呆然としている。

俺は事情を説明し既に天霧は襲撃されてから3日経過していることを説明すると呆然とした表情を浮かべていた。

 

「3日間も!?」

 

「ああ。お前がオーフェリアに食らったタイプの毒は星辰力に直接作用させて星辰力アウト…つまりはバッテリーを強制放電させられたような状態になって車が動かなくなった…みたいな状態になってたわけだ。ことさらお前禁獄の力を解放してたから最大量が多いほどそのダメージはでかいから起きるのが遅くなった、って訳だ。」

 

「そうだったんですね…。」

 

「ああ。リースフェルトに至っては泣きそうな表情でお前の看病してたからな。」

 

「は、蜂也!!」

 

顔を真っ赤にして俺に怒るリースフェルトは本当に分かりやすいと全員が笑い不利と感じ取った彼女は咳払いしておとなしく天霧のベッドにある椅子におとなしく座っていた。

…沙々宮はリースフェルトをジトーと見ていたがまぁお前らの戦争に巻き込まれたくないんでよそでやってください。

 

「……っ!…どうしてこの人がこの場所に?」

 

天霧が横を見て声を上げていた。

まぁ驚くのも無理はないだろう。何故なら。

 

「………。」

 

「オーフェリア…。」

 

ベッドに健やかな寝息を立てている白髪の美少女…オーフェリア・ランドルーフェンがそこにいたのだから。

俺は立ち上がりその健やかな寝顔を覗き込む。

本当にこいつが《孤毒の魔女》の二つ名を持っている魔女なのか疑いたくなる。

…うん、普通の女の子だな。

 

「教えてくれ蜂也。」

 

「んあ?……ってどうしたよ皆。」

 

リースフェルトの問いかけに全員の視線が俺へ突き刺さる。

 

「オーフェリアを助けてくれたのは…感謝している…でもどうやっ」

 

「悪いが答えられない。そもそもにおいてお前達が知る必要は無い。」

 

俺は食い気味に遮るように視線をオーフェリアに向けながら思わず魔法師しての対応をしてしまい不味い、と思ったが。

 

「まぁ…強いて言うなら俺固有の…固有技能…だと思ってくれれば。」

 

「そ、そうか…済まなかったな。」

 

と全員が素直…と言うか事情を知っているクローディアと綺凛ちゃんとシルヴィアぐらいなものだから…まぁいいか。

その後にさっきのおっさん…ギュスターブが現れたこと知らせると驚いていた。

それから俺達はリースフェルトの口からベッドで寝ている少女…オーフェリアについて説明を受けることになった。

 

どうも元々オーフェリアは此処にある孤児院にいた一人の少女で借金のかたにアルルカント…運営母体であるフラウエンロープに連れていかれ後天的な星脈世代…魔女にさせられたと。

そして先程の廃墟は彼女を研究するための施設だったらしく実験は成功…したのではなく暴走した結果であのような廃墟に出来上がったらしい。

だからこそ俺が彼女を抱き抱えていられたことにリースフェルト他全員が驚いていた。

まぁ…俺もあのタイプの毒素…系統が変わっていたので重ね掛けの《物質構成》しないと危なかったが。

話しはずれたが暴走した結果研究所は壊滅し一人残されたオーフェリアはフラウエンロープからソルネージュ…つまりはあいつが纏っていた制服の”双剣”の校章…レヴォルフ黒学院に引き取られ…いや火事場泥棒されたといった方が正しいのかもしれないな。

それから彼女は”研究物…つまり物扱い”され所有権利書…つまりは金でアルルカントからレヴォルフ学院…ではなく個人…まぁたあのクソデブの所有物としてアスタリスクに移り《王竜星武祭》にて《孤毒の魔女》の異名を轟かせリースフェルトはその変わった…いや変化させられた親友をその気配で感じ取り親友に挑むが敗北…その力は当代最強の”魔女”になっていた…と言うことだったらしい。

まぁ実際にオーフェリアはレヴォルフの序列一位だからな…仕方がないが。

 

《王竜星武祭》…前年の話をされて少し悔しそうな顔を浮かべているシルヴィアだったが俺と戦ったときに実力を見るに苦戦するのも無理はないなーと納得してしまった。

実際にこいつが魔法師の世界にいたら…BS魔法師で拠点攻撃の基地制圧できるのとしてめちゃくちゃ有用な人材になるだろう。

まぁ3日前の戦いで魔女としての完全体…外に出さずに制御できる形に同期させたからな。

…目が覚めて「バカめ!」といって攻撃してきてほしくはないなぁ。

ちなみにこの件について(オーフェリアが魔女にされた件)は箝口令が敷かれているらしいので黙らないといけないらしいが俺は関係ないので無視することにした。

 

「………ん。」

 

ふと後ろから声が聞こえたので振り返るとベッドから白髪が揺れておりどうやら渦中の人物が起きたらしい。

 

「お目覚めか?」

 

俺が声を掛けると他の皆が気がつき警戒をしていた。

いや、毒素は完全制御できるようにしてるから大丈夫だっつーの…あ、言っても無理か。

 

俺は天霧のベッドから離れて片方のベッドのそばに立つ。

リースフェルトが近づきたいようだがクローディアが止めていた。

顔が此方向いてオーフェリアの赤い双眸が俺を見る。

 

「…ここは?」

 

「リーゼルタニアの王宮…の離れだ。」

 

「私は…どうしてここにいるのかしら…?」

 

「雪山のなかにおいてくのは流石にな。」

 

「ベッドで寝ていただなんて…何年ぶりかしらね…ふふふ…温かい。」

 

そう言って羽毛100%の布団を手にもって温かそうにしているのはこう見ていると可愛らしく思う。

俺は突っ込んだ内容を聞いてみた。

 

「お前魔女にされてからどうやって生きてきたんだ?てかずっと立って寝てたのか…?」

 

「睡眠が必要なかったもの。私は触れるもの全てを朽ちさせてしまうから。栄養をとると身体を拒絶…と言うか味覚がないから分からなかったわ。…久々にアネモネの花の匂いとぴょん子のもふもふを楽しんだわ。」

 

楽しそうにしているのは何故なのか分からなかったが楽しそうだ。

 

「アネモネ…?ぴょん子…?」

 

それと随分と重症だったらしい。

 

「ねぇ…名護蜂也。」

 

「なんだ?」

 

「どうして…私が今…ものをさわれていたり…匂いを感じることが出来ているの?…それに、どうして私を殺さなかったの?」

 

少女のような無垢さで答えづらいことを聞いてきたので答えるのに困ったが…。

 

「さぁな。俺の個人的な精神保護の為だ。他意はない。」

 

何故か助けなければ、とそう思ったのだ。

理由はそれ以上でもそれ以下でもない。

ただただ、俺の精神衛生上の安寧を保つための行為で自己満足でしかない。

 

そんなことを思いつつ柄にもない苦い笑みを浮かべていたのかベッドの直ぐ側にいた俺の手にオーフェリアの白すぎる手が重ねられていた。

 

「そう…」

 

オーフェリアは俺の目をその血の色より真っ赤な瞳で見ながら告げてきた。

 

「ありがとう戦士王…。……私、貴方の事好きよ?」

 

俺の思考がフリーズした。

その氷のように冷たい表情しか浮かべなかった女が俺に自然な微笑を浮かべていることに。

 

「「「「「「!?!?!?!?!?!?」」」」」」

 

『主よ…また誑かしたのか?』

 

(知らねぇよ!)

 

『…はぁ。』

 

脳内に呆れた《グラム》の声が響くが抗議するが…いや本当にわかんねぇンだけど?

なんか後ろですごい悲鳴やら物が倒れる音が響いてるんですけど…?

てか驚くのお前たちかよ?いや《孤毒の魔女》って言うぐらいで冷徹な女なのだと思っていたらこんな面白女だと思わないだろう…

 

「…?どうしてそんな驚いたような表情をするの?…おかしいわね。素直な方が気持ちが伝わるとユリスの持っていた本に書いてあったのだけど…」

 

いやいや…リースフェルトの過去の読書履歴をバラシてやるなよ…つかその履歴ならなぜ天霧にツンデレな行動を取っているのか分からない。

 

「ど、どうして私を見るのだ蜂也!」

 

狼狽するリースフェルトを一旦無視する。

 

「いやいや…お前のその冷徹な女設定どこ行ったんだよ…」

 

「…設定?というのは分からないけど…助けてくれたのだからお礼を言うのは当たり前でしょう?」

 

「まぁそれはそうなんだが…」

 

さも「当たり前だろう」的なことを解かれるとは思っていなかった。

 

背筋に悪寒を感じて振り返ると三人の美少女がこっちをそれぞれの表情を浮かべている。

 

「お、お義兄さん…」

 

「蜂くぅ~ん?」

 

「うふふふ…蜂也…浮気ですか?本当にいい加減にしませんと…怒りますよ?」

 

「いや、ちょっと待て!なんでそうなるんだよ!?俺だって聞きたいんだが?」

 

それは俺だけでなくそんなことをするオーフェリアに戸惑いを隠せないリースフェルトが問いかけていた。

 

「オーフェリア…どうしていきなりそんなことを言い始めたんだ?」

 

「あらユリス。それは昔貴方が見せてくれた漫画を参考にしただけよ?」

 

「ば、馬鹿者!このタイミングで何を言い出すのだ!?」

 

一体何を見せたと言うのか気になったが

 

「貴方で言うところの私の運命を壊してくれたのが戦士王だった、それだけの事なのに何故そんなに狼狽しているのか…分からないわ。」

 

「お前はお前で火種になりそうなことを言うんじゃねぇ!」

 

「お義兄さん…?」「蜂くぅ~ん?」「蜂也?」

 

「いや、俺悪くなくないが!?」

 

まるで鬼の形相の三人が此方を見て必死に弁明しようと思ったがそれは部屋に入ってきたフローラによって中断された。

 

「たたたた大変です!姫様!皆様!」

 

扉を破壊しようかという勢いでフローラが慌てふためきながら声を張り上げた。

 

「どうしたんだフローラ。孤児院に戻ったのではなかったのか?」

 

乱入してきたフローラに全員が視線を向けるがただの慌てて…というのでは無いことに気がついて先程までの慌ただしい雰囲気から一変しリースフェルトは何時ものように視線を合わせて落ち着くように諭した。

 

「あ、あい!…それで街の方が凄い事になってて…。」

 

「凄いこと?」

 

「なんか、このくらいのでっかいトカゲみたいなのが飛び回って…怖くなって戻ってきたんです。」

 

フローラはピョコピョコと飛んで再現して見せたが…うん可愛いが大きさ的には人形ぐらいというSAN値減りそうだなと思いながら必死に再現してくれたフローラの頭を撫でると気持ち良さそうにしていた。

 

「街はパニック状態で、車とか全然動かない状態で…。」

 

「まさかそいつらは人々を襲っているのか?」

 

「い、いえそこまででは…。」

 

「ふむ…よしフローラはここで待っていろ。ここなら安全だ。兄上に状況を確認して来るために王宮へ向かう。お前たちもついて来てくれないか?」

 

そう言われ俺達は立ち上がって部屋を出ていこうとしようとすると俺の手を引っ張られオーフェリアに抗議の視線を向けられたが「病み上がりだからおとなしくしていろ」と視線を向けると素直に手を引っ込めて発言してきた。

 

「まぁ…友人の忠告を聞き入れるのものも友達の甲斐性というものだもね。分かったわ。」

 

なんでこうも聞き分けが良いのか…あと誤解を招く発言をやめろ…!

 

「と、言いたいところだけど貴方に助けて貰った恩があるしそれを返すために着いていくわ。」

 

「オーフェリア…」

 

オーフェリアがそういうとリースフェルトが懐かしそうな表情を浮かべているのを見て俺は此処で休んでいろ、とは言えなくなってしまった。

 

「分かった…無理はするなよ。病み上がりなんだから」

 

「分かったわ。」

 

楽しそうな笑顔とその発言に俺は頭を抱えクローディア含む三人は俺をバッチリ見ていたが視線を無視して陛下のいる部屋へ移動すると説明してくれた。

 

陛下より話を聞いたところ街には数十匹のトカゲが跋扈しており幸い人を襲うことはないらしい。

それに対応するために企業財体に連絡しソルネージュとフラウエンロープに呼び掛けたが反応が鈍く軍を動かしてくれるのか微妙らしい。

それに人を襲っていない、ということもあるらしいので今あるリーゼルタニアの警察隊で対応するしかないだろう。

 

「…。」

 

俺はその話を聞いてギュスターブ・マルローが仕掛けた陽動であることに気がつきまんまと動かされていることを指摘するとリースフェルトは怒りの顔を浮かべていた。

つまりは陽動に踊らされ”主要部以外には人員が無くなっている、という状況に気がついてしまったのだ。

あのおっさんは俺達をクローディアのチームに入って欲しくない…つまりは俺達のアキレス腱…貧民街…つまりは孤児院の警備を手薄にしたかったということになる。

 

陛下の言葉の意図を理解したリースフェルトは部屋から出ていく。

その光景を見た陛下は肩をすくませていたが陛下も大事な妹をもっての発言だったのだろうと俺は残っていた綺凛ちゃんと共に一礼して俺達は部屋を出る。

天霧たちの後を追った。

 

◆ ◆ ◆

 

孤児院までの最短距離…俺達は重力制御を用いて湖上を飛行して突っ切るという荒業に出たので本来とおる道の半分以下の時間で貧民街へ到着するとその付近のコンクリートの朽ちた建物の屋上に人影が見えその手前で着陸し見上げるような形で見つめる。

 

「これはこれは…思ったよりもお早い到着ですな。」

 

「こんなところで悠長に構えてていいのかおっさん?」

 

「孤児院には手を出していないだろうな?」

 

射るような鋭いリースフェルトの視線にギュスターブは平然と受け止め薄く笑う。

 

「ご安心を。正直に申し上げますとその手を考えていないわけではありませんでしたが…あちらのシスターは少々手強そうなお方が混じっておりましたのでな…片手間に片付ける、というのはいきますまい。」

 

「ふん。ならばいい。」

 

俺達は再び舞い上がりギュスターブがいるビルの屋上へ立つ。

向こうは一人でこっちは俺含めの四人、俺はホルダーから《壊劫の魔剣》の切っ先をギュスターブへ向ける。

 

「私としてはあなた方に出ていただければそれだけで十分です。中心街の方で遊ばせているドラ=キルコスたちもむやみやたらと攻撃を仕掛けなければ無害ですよ?あちらには統合企業財体の関係者もおられるでしょうし怪我をさせるのは後々面倒になりそうですからな。」

 

「…とりあえずお前に俺達を襲えと命令した雇い主の事を聞き出すとしますかね。(《グラム…俺はつかれたからお前で頼む。》)」

 

『心得た。ゆっくりと休むといい。』

 

俺は人格を《グラム》に変更させて綺凛ちゃんは刀を抜きリースフェルトは周囲に万応素が渦巻き天霧は《黒炉の魔剣》を起動させ腰をおとした。

これだけの強者に囲まれていれば動揺の一つを見せるのだろうがそれに応じずに大仰な動作で腕を広げる。

と同時に湖の中に巨大な魔方陣が浮かび上がりそれを潜り湖面から木の幹のような太さの触手…ではなく蛇のような首が全部で”九つ”。

 

「おいおい…。」

 

「どういうことです…?」

 

「これは…!」

 

「なっ…!?」

 

ゆっくりと水中から上がってきた姿にそれぞれが反応を示している。

四足歩行でありながら今は地球上に存在していない恐竜のような体躯に比喩ではなく小山のような体積はまだまだ水の中に有るが軽く二十メートルは越している全部出ればその倍…四十メートルは越えているかもしれない。

大昔に見た東宝怪獣の3本首の怪獣に見えた…いや日本的にいうならあれは…。

 

「八又大蛇ですか…!?」

 

「いや。あれはどっちかと言うと…。」

 

「こいつは…ヒュドラか!」

 

絞り出したリースフェルトの声に嬉しそうな声をあげるギュスターブ。

こいつあれか。自分の作品見て驚いて欲しい…子供おじさんじゃねーかよ。

 

「神話に書かれた通りの…いやそれ以上に雄々しい姿でしょう?三年かかって再現した私の最高傑作…究極の魔獣です!」

 

「ーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

大気を震わせるような声が九つの頭部の口より発せられ大気を振るわせた。めっちゃうるせぇなこいつの鳴き声…!

 

「ユリス殿。早々に片付けなければ孤児院が被害を受ける。そうなれば我々の敗北だ。」

 

「だが!此程までに巨大な化け物が暴れているとなれば軍も動かすしか…!」

 

「ギュスターブが動いているにも関わらずフラウエンロープとソルネージュが動いていないのがいい証拠で連中は後ろで”ギュスターブ”が動くことに黙認しているということになる。」

 

「…っ!」

 

「流石は《戦士王》素晴らしい考察ですね!その通りです。彼らとしても貴殿方の存在は厄介なものでしょう…流石に中心街が被害を受けたとならば軍も思い腰を上げるでしょうが…被害に有るのは切り捨てられた貧民街…統合企業財体の腰は重いですよ?」

 

「……っ!」

 

俺の言葉とギュスターブの言葉に唇をきつく結び拳を握り締めるリースフェルト。

それが真実なのだと。

 

「とは言え…あまり時間を掛けるとどうか分かりません。早々終わらせることにいたしましょう。」

 

ギュスターブがそう言うとヒュドラの九つ有る内の一つの口が開き膨大な万応素が渦巻いているのが分かったため鋭い声を飛ばし指示を出す。

 

「…!?全員避けろっ!!!!」

 

「「「!?」」」

 

俺が指示を出すと全員がその場から飛び退くと光の奔流がコンクリートの護岸をえぐり吹き飛ばす。

その威力に思わず天霧が感想を溢す。

 

「まるで紗夜の煌式武装並みの威力だ…!」

 

確かにまともに食らえば戦闘不能になるほどの威力だろう。

 

「それでは私は此にて失礼いたします。存分にお楽しみください。」

 

ギュスターブはそう言って大きく跳躍し闇の中に姿を消しリースフェルトがそれを追おうとしようが天霧が引き留める。

その間にもそれぞれの口からレーザーのような光線を連発する。

到達する光線を俺と天霧は純星煌式武装を使って弾くがじりじりと追い詰められていく。

状況の打開に一つの策を提案した。

 

「皆。少しいいか?」

 

「はい?」

 

「時間稼ぎを頼んでもいいか?神話の再現通りならば奴は再生能力を持っているはずだ。」

 

「策があるんですか!?」

 

「ああ。皆で動きを止めていただきたい。少々時間が掛かる技なのでね。それにユリス殿は街の皆の避難を頼む。」

 

「しかし…!」

 

「知ってるものでなければ不信感を与えるだろうが君はこの国の女王だ。影響力はあるだろう。そう言うのはこう言った時に使うものだろう?…急げ!」

 

「…分かった!」

 

炎の翼を顕現し貧民街へ飛び去るリースフェルトにヒュドラの首を叩きつけようとした首の根本を《壊劫の魔剣》で一閃するが切り口から泡立ちすぐさま同じものが再生した。

 

「やはりか…!」

 

一撃で仕留める、という点においてはあの技は”必殺技”と相違無い威力があるのだが発動までに時間が掛かる。

今ここには実力者が多いので稼げるだろう。

 

襲いかかる攻撃を捌きつつ俺が指示した通りに他二人が散開する。

遠方からは沙々宮が煌式武装で正確な援護射撃を繰り広げ頭部と胴体を攻撃し天霧は《黒炉の魔剣》を振るって首を落とし綺凛ちゃんは”連鶴”で首を落とすがどうやっても再生を繰り返されてしまう。

端から見ても”火力が足りておらず”じり貧だというのは明白だった。

 

『《グラム》!一撃で消し飛ばすぞ。』

 

(心得た!)

 

意識が此方に割かれぬように保険として認識阻害の魔法を展開しつつ手に持った《壊劫の魔剣》に星辰力を注ぎ込むと刃が励起し更に攻撃的なフォルムへと変化した。

《壊劫の魔剣》を手に取り認識阻害を解除し魔竜へ突撃する。

 

「完了した!後は当方に任せるがよい!」

 

詠唱破棄した自己加速術式を二重詠唱し懐へ飛び込み第一の頭を切り落とし返す刃で二つ目の頭部を切り落とす。

俺は限定的な《次元解放》を発動し座標として”頭部が設置される場所”に飛ぶように跳躍をするようにして空いての反応速度よりも早く頭部を切り落としてしまおうと考えた。

その考えは正しかったようで既に五つ目の頭部を切り落とされているのにも関わらずこのヒュドラは悶えるだけで再生できていない。

まぁ例え気づいて反撃しようがこいつを構成する万応素に対して再生を阻害させる魔法を《物質構成》を発動しているので生えてくることはない。

そのうちに六つ、七つ、八つ…と最後の頭部を切り落とし正面に降り立ち”必殺技”を発動する。

こう言ったときの連鶴は本当に便利だからな…習得できてラッキーとしかいいようがない。

 

『絶技用意…。』

 

宙に固定された壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)に纏わり付く紫電バチりと音を立てて一層励起した。

 

『四色を統べる魔剣よ……!』

 

踏みしめる利き足がコンクリートを踏み砕き身体から星辰力が漲り《瞳》が黄金色に身体から黄金色のオーラが吹き出す。

 

『その身で破壊を巻き起こせ…っ!!』

 

迫る悪あがきのヒュドラ最後に残った頭部からの光の奔流が迫るが意味はない。

それに動じず破滅の一撃を発動させる為引いた利き腕を宙に浮いた『壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)』を前方にいる対象に向けて射出するようにぶち当てながら詠唱一節が小さく木霊した。

 

壊劫の天撃(ベルヴェルク=グラム)……ッ!!!』

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」

 

黄金色の破壊剣旋が再生を許さず竜を円環の理へと還していく。

肉体を剥がされ骨となったが直ぐ様その膨大な熱量によって火葬された。

ヒュドラだったものは塵になり風に消えた。

 

「竜退治は当方の得意分野なのでな…種族が悪かったな。」

 

《壊劫の魔剣》をホルダーにしまい身体を《俺》に戻すと天霧たちが駆け寄り避難活動していたリースフェルトも帰ってきた。

一応此にてギュスターブの目論みは潰えたことになった。

 

◆ ◆ ◆

 

「やれやれ…此は参りましたな。」

 

高台から蜂也たちの戦闘を見学していたギュスターブは大きく肩を落とした。

最高傑作であるヒュドラがあのように容易く、たった一人の少年に敗北したことだ。

こう言う稼業を続けていれば計画通りにいかないときもあることを理解はしていた。

 

「仕方がありません…又次の機会を…ど、どうして貴女方がここに…!?」

 

そう言って立ち去ろうとしたギュスターブだったが背後にたつ人影を察知し振り返るとそこには敵対するとは思っても見なかった少女たちがいたからだ。

 

「いやーやっぱり蜂くんの言う通りだったね…。ここにいる筈だ、って。」

 

「やはり戦士王の言うところだったわね…。」

 

そこにはアスタリスク最強の魔女の名を関する二人の美少女が月明かりに照らされている。

見るものは全てを魅了する美しさが有るが今のギュスターブには”死の女神”にしか見えない。

 

星辰力を使い果たそうとしているギュスターブには勝ち目など無かった。

 

銃剣煌式武装を構えるシルヴィアと片手を上げるオーフェリアに対しギュスターブはこのままでは死ぬ、と自覚した

 

「ま、待ってくださいませんかお嬢さん方!私と取引を…………かはっ…!!」

 

取引というなの命乞いをしようとしたが毒素が回り地に伏し意識がなくなるギュスターブ。

 

「…貴方の魂胆は分かっているわ?そうやって命乞いする振りをしてここから逃げ出そうとしようとする、そうするだろうから二人は問答無用で叩き潰せ、そう蜂也にお願いされているから…聞けない相談ね。」

 

「あの…オーフェリア。おじさんもう倒れちゃってるから聞こえないと思うけど…。」

 

「あら…堪え性がないのね…。」

 

シルヴィアはオーフェリアの攻撃に少し引いていたが当の本人は耐えきれない本人が悪いと言った風な感じを醸し出している。

 

地に伏せ気絶しているギュスターブを拘束したことを遠くにいる蜂也に伝えるオーフェリアの表情は大層嬉しそうでシルヴィアは少し不満げだったらしい。

 

 

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