俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
クローディアとシルヴィアがヒロインしてる…
泡沫の夢の中、少年が今自分の目の前で刃が心臓目掛け食い込む。
「ごほっ…!!」
突き刺された胸部分から夥しい血液が流れ出ているのが今自分の目の前で写し出されている。
倒れてきた人物を慌てて抱き止めるがその体の熱さが急速に失われていくのが感じ取れた。
四肢の力が失われ少女の全身で支えなければならないのだがそれが出来ずに一緒に倒れ込みそうになる。
『…………』
刺してきた人物の顔は分からない。
顔には薄靄のようなモザイクが掛かっているように見えて男なのか女なのかは判別できない。無表情なのか怒りなのか笑っているのかの判別がつかない。
気がつくとその下手人はいなくなり雨が降り注ぐ。
全身の体温を奪うように冷たい雨が二人を濡らすがそれよりも少女は今は自分の腕の中にいる刺された少年を揺する。
『………』
『あ、あぁ…!!~~~~~~~ッ!!!!」
弱々しい呼吸も血を吐く音も聞こえずに瞳孔が開かれたその眼を見て少女は声にならない嘆き、天へ慟哭する。
もう何度目かも分からない自分が殺されるのではなく”大切な人”が目の前で殺されるという夢を見るようになった。
視界が闇に落ちて暗闇を落下していく、絶望の縁に叩き落とされるようだと。
◆ー◆ー◆
そして唐突にクローディアは目が覚めた。
「ッ!?…はぁッ…はぁッ……ん……やはり…何度見ても馴れない、ものですね。」
ソファーから起き上がると自分の手が震え額に大汗を掻いているに気がついてらしからぬ溜め息を吐いた。
今までの自分が何者かに殺される記憶というのは朧気であったが《パン=ドラ》が告げるのは最近になって”大切な人が目の前で殺される”という悪趣味なものに変わっていた。
先の光景を思い出し震える体を抱き締める。
「…教えてくれるのは良いのですが…もう少し手心を加えて欲しいものです…」
決まって夢を見るのは隣に蜂也がいない時、または忙しく寝落ちをしてしまうときに見てしまう困ったものであったがその結果が《確定した未来を見せる》ならば尚更だ。
「……あら」
ふとデスクの方を見ると仕事の途中で眠りこけてしまっていたのか書類とワークステーションの空間ウィンドウが展開されたままになっておりそれに着信が一件来ていた。
時刻は深夜三時であったがその直前に寄越しているため今返信しても問題ないと判断しクローディアは連絡を返すことにした。
「夜分にすみません会長…ってなんか疲れてる顔してますけど…」
通信用のウインドウを開くと深夜に関わらず笑みを元気そうな笑みを浮かべる英士郎が現れた。
「少し根を詰めすぎまして…お気になさらず。それでどうしました?」
「いや、例の件でご報告を、と思いまして。どうにかなりそうですんで。」
「流石は夜吹くんですね。仕事が早い。」
そうクローディアが褒め称えるとわざとらしく照れて見せる。
「いやーそれほどでもないっすよ会長の頼みとありましたらこのくらいは」
「ですが、それなら私と距離をそろそろ置いた方が良さそうですね。」
「おっと…そりゃどういう意味です?」
英士郎の顔に一瞬陰りが出たがそれをわざわざ指摘するほどでもないクローディアは告げた。
「”上”からも通達が来ているのでしょう?断ってくれても構わなかったのですが…」
星導館学園の諜報機関である《影星》は生徒会長権限で動かすことは出来るものの母体となる《銀河》の直轄である。殊更クローディアは自分の目的の為《銀河》と事を構えようとしている立場では自由に動かすことは出来ない。
私的な利用で英士郎を動かした、となればクローディアだけでなく引き受けた英士郎もただではすまないだろう。
それとなく探りをいれると英士郎は笑顔のまま両手を振った。
『会長も知ってるでしょう?俺は《影星》でも日陰の身なんすよ。これくらいなんて事無いっす。』
そして少し乾いた笑みを浮かべて遠い目に変わった。
『でもまぁ…副会長から『会長をサポートしてやれ』って言われてるので暇してると俺が会長にぶっ殺されるというか…』
予想外のコメントにクローディアは思わず目を少し見開いてしまったがすぐさま笑みが溢れる。
「流石の夜吹くんも蜂也には勝てませんか…なるほど、それならばその忠義に感謝するとしましょう。お休みなさい夜吹くん。ご苦労様です。」
そう言って空間ウィンドウを閉じる。
全部が全部を信じるわけには行かないが先ほどの蜂也が自分を労っているということに先程のショッキングな光景から立ち直れそうになったクローディアは思案する。
銀河の最高幹部と他学園の誰かが繋がっている…おおよそはあの悪名高いレヴォルフのディルク・エーベルヴァインだろうと自分の推理に書き加えていく。
だが、それもどうでもいいことかもしれない。
「だからこそ…私は望みを叶えなければなりません。」
そう呟いてクローディアはソファーに腰掛け呟く。
勝ち進める準備、手札、最強の切り札も今手の内にある。準備は万端だ。
結局眠らずに一夜を過ごした。
…結局その日の朝生徒会室で蜂也の太股を枕にしてすやすやと眠りにつくクローディアがいたとか。
◆ ◆ ◆
獅鷲星武祭開催日当日。
試合会場に到着した俺たちは大会運営から会場を見て回ることを許可されたのだが余りの変わりように「やり過ぎじゃね?」と言うくらい形が変わっていた。
それに開場前ということもあり観客席には清掃員や点検員がいるだけで数十万収容できる会場は薄ら寒さを覚える。
その場にクローディア率いる星導館学園の面々は見学しておりリースフェルトと天霧が並んで会話をしているようだ。
「本当に改築工事したんだな…てか変わりすぎて面影ねぇじゃん。観客の安全確保の名目だけど流石にやり過ぎじゃないのか?」
「随分と様変わりしていますね…。」
綺凛ちゃんは感嘆の声を漏らす最中、隣にいるクローディアが俺の腕に絡めて説明してくれた…って離れろや。
「ふふっ、仕方ありませんよ。なにしろ次の【
それを聞いて正直どうでも良いな、と思った。
「なんでもマディウス・メサ委員長が次の”大会談”をこのアスタリスクで開催させるのに成功したとか。その流れで決勝戦の観戦と式典参加が検討されているみたいですよ」
統合企業財体の最高幹部、と言えば実質的に世界を牛耳る最高権力者と言っても良いだろう。
でもまぁ俺には関係の無いことだしな。
だが、現運営委員長であるマディウス・メサ…これがどうにもきな臭いと思うのは俺だけだろうか?あの人当たりの良い笑み、というのは俺にとっては疑惑の対象になる。
まぁ、実害が出てないから関係するもないんだがな…。
と、考えていると後ろから涼しげな声色が聞こえてきた。
「ご歓談中申し訳ないが、少し良いかなチームエンフィールドの諸君。」
振り返ってみてみればそこには「清廉潔白」が服を着ている人物たち…聖ガラードワース学園の生徒達が整然とした佇まいで立っている。それをみた二人は驚き戻ってきていた。
「元気そうだね蜂也くん。」
そう告げてクローディアのように完璧な笑みを張り付かせ此方へ手を差し出してきたので俺は一旬しながらも手を握り返す。
手汗でぐちゃぐちゃになってなきゃ良いがな。
「お久しぶりっすねフェアクロフさん。お元気そうで。」
ふと背後に視線を向けると誰もかも指定制服をちゃんと着ている奴はおらず自身のカスタマイズを施しているのかすごい格好の奴もいる…のだが一人の少女の視線が気になった。
「………」
「(なんだろう…めちゃ睨まれているような…?)…?」
なぜ睨まれるような事になっているのか分からないがクローディアが口を開いたことで打ち消された。
「ごきげんよう
そう言われて嫌味らしくない動作で頷く。
「なに、是非とも君たちに挨拶をしておきたいと言って聞かない者達が居てね。」
フェアクロフさんがそう告げると華やかな金色の髪を巻いた少女がスッと前に出てきた。
…さっき睨み付けるような視線を向けていたのはこの少女らしい。その姿を見てクローディアはわざとらしい声を上げる。
「あらあら…これはお久しぶりですね、レティシア。」
そう言われてレティシアと呼ばれた少女は万感の思いで言葉を告げる。
「ええ、本当に……長かったですわ……!あの屈辱の
挑むような視線をクローディアは飄々とした態度で受け流す。
そう言うことをしているから噛みつかれるんだぞお前…と思ったが口ぶりからして旧知の仲…所謂”腐れ縁”という奴だろうか。
「あら、雪辱だなんて。あのとき勝利したのは貴女のチームでしょうに」
そう告げると金髪ドリルの少女は少女漫画の人物のような分かりやすい悔しがり方をしている。
「チームではなくわたくし個人のプライドですわ!」
クローディアはコロコロと笑いプンスコしているブランシャールをいなす姿を見てリースフェルトは少し頭を抱えて天霧は「あはは…」と苦笑いを浮かべて綺凛ちゃんは目を黒くして驚いている。
今はクローディアと戯れている?ブランシャールだがアスタリスクの《魔女》の中でも五指に入る実力者であることは疑い様の無い事実…ではある。
あのクローディアに張り合おうとするのは中々の気概があるな、とは思う。
わちゃわちゃと会話をしているそのときに気になる言葉が聞こえて俺は思わず耳を疑った。
「それになにより、わたくしは友じ…ごほん!いえ、古くからの知り合いとして貴女が馬鹿馬鹿しくも愚かしい夢を叶えようとするのを黙っているわけにはいきませんの。必ずや木っ端微塵に打ち砕いて差し上げますから、覚悟なさいませ!」
ビシリ!と指先をクローディアに突きつけるブランシャールの一言に俺は引っ掛かった。
(ブランシャールはクローディアの”願い”を知っている…だが”そいつ”に会うことを『馬鹿馬鹿しい』というのは少し違う気がする…なら俺たちに告げたのは本当の”願い”じゃない…?)
実は今年の年明けに《獅鷲星武祭》の話になった際にクローディアが優勝することで望む願い…それは《翡翠の黄昏》の関係者…より正確にはその犯行グループの思想的指導者…ラディスラフ・バルトシークと呼ばれる人物に会うことだった筈だ。
…まぁなんで会いたいのかは迄は流石に理由は教えてくれる筈もないのだが思わず俺はブランシャールに声を掛けた。
「おい、その夢ってのは一体…」
なんなんだ、という前に遮られてしまった。
「《戦士王》、淑女同士の会話に割入るのは紳士らしからぬ事でしてよ?…それに貴方に話す義理などありませんわ。言っておきますが貴方のような殿方がクローディアの隣に居るなんて……!」
先程よりも強く睨み付けられて掛けようとした言葉が吹っ飛んでしまう。
どうやら俺はいつのまにかブランシャールに嫌われてしまっているようで苦笑するしかない。
「その二つ名で呼ぶな…それに随分と俺嫌われてるけど…なんかしましたかね?」
「わたくしは貴方のような殿方が嫌いなだけです。どうして貴方のような男が…!」
露骨に嫌悪感…というかなんだが子供のようなふて腐れ感を感じて特段不快ではない。逆に可愛らしく思えてきたがそれを表情に出すと本当に嫌われる可能性があるのでやめておくが…。
そう問うと「ふん」と言わんばかりの反応で無視され視線はクローディアに移る。
「…いずれにせよ
その最後の一言を遮るようにクローディアの一言が遮り言い放った。
「レティシア。後ろにいらっしゃる学生もお話をしたいみたいですので変わった方がよろしいのでは?」
「え、ええ」
先程までのきゃいきゃいとした雰囲気は何処へやらと言った感じになり言葉を告げられて黙ってしまうブランシャール。
明らかに俺達に対しての侮辱?で他の人が見ても分からないだろうが少しご機嫌は斜めだろう。
遮ったそれはただそれはブランシャールが知っている”願い”を聞かれたくなかったのでは…と勘ぐってしまう。
しかし、クローディアが助け船を出したお陰で天霧に話したいと言う人物がスッと出てこれたのは怪我の功名かもしれない。
ふわふわな巻き髪が特徴的な線が幾分か細い少年が会話している。
どうやら鳳凰星武祭で因縁深い相手らしい、何故かこっちもみて不敵な笑みを浮かべているが…厄介は勘弁してほしい。
綺凛ちゃんがその挑戦的な視線を俺へ向けているのに気がついて身構えようとしたのを手で制した。
言いたいことも言い終わったのかフォースターは下がる、同時にフェアクロフさんが一歩前へ出る。
「敗北は人を成長させると言うけれど…今のエリオットは別人だ。その点では君に感謝をしなければならないかな天霧くん。もっともエリオットのように天霧くんと剣を交えたい、と思っているよ名護くん。」
嬉しそうにフォースターの肩に手を置いて視線は俺へ向けられた。
目を細め此方を見つめる姿は女であれば落ちていただろうが俺は面倒でしかない。
適当に返答をしようとしたその際に《グラム》に主導権を乗っ取られた。
目の黒が蒼窮へ変わる。
『当方に迎撃する用意有りだ、
突然の変わりようにうちのメンバー以外。怪訝な表情を浮かべる聖ガラードワースの面々であったが俺が発する気配が変化したのをフェアクロフさんが気付いたらしく興味深そうにしている。
「ほう…それが
『今の当方は主の身体を借りているに過ぎない。これは《壊劫の魔剣》…その意識だと思ってくれれば良い。肉体を通してでなければアーネスト殿と会話もできないものだから困ったものだが……なるほど。実に良い”性格”をしている…これならば【
その一言にフェアクロクさんは一瞬だが驚いたような表情になったが直ぐに含みがある笑み浮かべる。
「えっ…?」
「おやおや…」
次の瞬間に俺たちのホルダーに納められた”魔剣”達が共鳴を始めるように震えたのだ。
『貴君達の持つ《魔剣》共も何か思うところがあるようだな。何しろ五つある内の三つの魔剣がこの場に揃っているからな。』
「そうか、君たちは皆、同じラボで作られたと聞く…再開に喜び打ち震えているのか…それとも」
その先を敢えて言葉を紡ぐことはなく、話題を変えるようにポンと手を叩く。
やはりこう言った仕草もやはりクローディアに似ているのは同質の人間なんだろうなと思った…ってそうじゃねぇ!!
俺は《グラム》を引っ込ませて身体の主導権を握る。
「……っ!はぁ…っはぁ…っすいませんうちの
そう告げるとフェアクロフさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが次には品のある笑い方で感情を表した。
「はははっ…いや…失礼した《戦士王》、君が《壊劫の魔剣》に選ばれた理由が少し分かった気がするよ。さて、時間を取らせてしまってすまなかった。お互い、正々堂々頑張ろうじゃないか。ではーー。願わくば決勝の場で会い見えることを」
そう告げて踵を返しゲートへ向かう白の一団は一糸乱れぬ歩調で去っていく。
残された俺たちは少し肩の力が抜けた…まぁ俺だけかもしれないが。
少し気疲れした俺にリースフェルトが声を掛ける。
「蜂也今のは…」
「ああ。こいつの代償…『精神汚染』って言ったところだ。」
ホルダーから発動体を少し掲げて見せる。
(たくっ…急に出てきて俺の意識乗っ取りやがって…フェアクロフさんの
握る発動体を見ながらそう内心で呟くと今度は水を打ったように静かになりやがった。
◆ ◆ ◆
【
何時もながら委員長であるマディウス・メサが言葉を告げて相も変わらずの落ち着いた声色とそれでいて快活なトークは聞くものを惹き付ける魅力があるのだろうが俺は一度『怪しい』と思った人物の声色がそうは聞こえない。
全てが仕込みの前段階…という風に聞こえるのは俺の性格が問題なのかもしれない…いや、爽やかな奴が嫌いなだけだなうん。俺がもしあそこにたっていたなら噛みまくりの台詞はわすれるわで悲惨も悲惨な結果になることだろう…あ、考えたら気が参ってきたぞ…。
マディウスが今回のステージ改修の話になり要約すると『更に派手になりますよ!』と告げると観客側は歓声を挙げた学生の中にはその歓声に当てられて鼻息荒い者もいるが既に学園の上層部、遠目に見える星露やフェアクロフさんは冷ややかな視線を向けているしクローディアにいたっては一見感動しているように見えるが興味が無いようだ…まぁ正直俺もどうでも良いと思っている。
『それに関しては我が力を解放しても問題ないということで大丈夫だな。』
全くもって大丈夫、ではないんだわ。
会場のお膳立てをしてくれているというのなら存分に暴れさせてもらうとしようか?
「なん…だと…?」
開会式が終わり俺たちは程なくして第一戦が始まる訳なのだが俺の生命線…というかマッ缶が控え室の冷蔵庫に入っていないことに気がついた。ここの備品係は不備があるな。選手の好みを把握して補充しておくべきだろうが…指摘要項に書いてやる…!
とまぁアホなことはさておいて俺の生命線であるマッ缶がないので断りを入れて急いで自販機に買いに行く事にした。
俺は優しいのでチームメンバーの注文を受けてロビーにある自販機へ足早で向かう。
「ん?………うげぇ…」
ふとエントランスを見ると先ほどまで開会式に詰めていた参加学生達でエントランスがごった返していたことに思わず声を出してしまう。あの中に放り込まれたら俺は流砂のように飲み込まれたら戻ってこれそうにないな、と。
俺たちはシリウスドームで試合が行われるがここ以外の学生は移動しなければならないだろうし今日でないのも当然いるだろうな。
「おっとそうしていられん…マッ缶を……って「はーちくんっ」……ん?」
突然俺を呼ぶ声が聞こえ振り替えるとそこには柱からちょいと顔を出しているクインヴェール女学園の制服を着用したシルヴィアの姿があり此方へ笑みを浮かべて手招きをしているのが見えた。
あのさぁ…?思わず小言を言ってしまった。
「お前自分が世界の歌姫だってことを忘れちゃいないかい?どうして自分でスキャンダラスな事を引き起こそうとするのか…コレガワカラナイ。」
世界の歌姫が子供っぽいことをしているのを見て可愛さもありの行動に呆れながら近づくとシルヴィアは嬉しそうに笑っている…本当に美少女だよなぁ。
「あははっ久しぶり蜂くん。端末で連絡は取り合ってたけど顔を合わせるのは学園祭以来、かな?」
「ああ。…つか生徒会長ってのも大変なんだな。自分が出場するわけでもないのにわざわざ自分の学園の式典に付き合わされるとか俺なら絶対嫌だわ。」
そう言うと少し困ったような笑みを浮かべるシルヴィア。
「まぁ…でもそれがお仕事、って言っちゃえばそれまでなんだけどさ?予定が空いていれば式典には出席しますとも今回は星露が代理じゃなくて本人が出てたしね。」
初耳だった。
「え、あいつ【
「居たけどあれは閉会式の時だけだよ。開会式の時は別の人物が代理。まぁその子もその筋じゃ有名人なんだけど…」
「有名人?」
「うん。界龍の特殊情報機関の事、その一員らしいよ?」
俺はその言葉に首を傾げた。
「特務情報機関のエージェントの一人なのに有名なのか?○ム・ク○ーズが聞いたら激おこ案件だろ…」
それは仕事に差し支えるだろうに…と思ったが俺の例えがわかったようで笑っている。本当にシルヴィアはあれだな存在するんだな…オタクに優しい美少女が。
「あははっ懐かしいね、○ッション○○ポッ○ブル。とにかく彼女は星露の門下生じゃないけどお気に入り見たいけどなんでも性格が良く似ているらしいよ?」
その言葉を聞いて俺は察した。
「ああ…
笑っているシルヴィア。
「そう言うこと。多分、というか絶対見つかると星露みたいに絡まれちゃうよ」
うん、絶対界龍に近づかんとこ。とそう心に決めた。
…にしても今のシルヴィアの格好はクインヴェール女学園の制服、ではあるがカスタムが入っているのか少し肩とかの露出が多い寒くないのだろうか?イヤ今夏だし丁度良いのかとじっとみているのが行けなかったのかシルヴィアは肩を抱いて少し恥ずかしそうにしていた。
「蜂くんちょっと見すぎだよ?流石の私も少し…恥ずかしいかな///」
その反応に思わず噎せそうになった。
シルヴィアの制服姿がある意味で新鮮だったから見とれていた、何て口が裂けても言えない」
「も、もう…///蜂くんって思ったことが直ぐに口に出ちゃう感じなんだ…そ、そっか似合ってる…ありがと♪」
世界の歌姫のそんなレアな表情を見れるとかファンとしては感涙ものだが他のファンにバレたら殺されるだろうな…と思っているとシルヴィアから現実に引き戻される。
「ねぇ、蜂くん。聞いても良い?」
「…なんだ?」
真面目な表情でこう言った。
「あの時…あの裏路地で私とウルスラに割って入って止めてくれたけど…あの時のウルスラは操られていたの?」
「……ああ。」
「一体誰に…?」
そう問われて俺はどう答えようかと思案した。
ウルスラの体を乗っ取っていたのは《ヴァルダ=ヴォロス》…を馬鹿正直に伝えればシルヴィアに何者かに危害が加わる可能性があった。ここで知らない、とシラを切ってもシルヴィアの事なので…自分の恩師をこんなことにした相手を許さない可能性がある。余計なことに首を突っ込ませないように俺は”半分だけ真実を伝えること”にする。
「……
「…ッ!?そんな…星脈世代の意識を乗っ取るような強力な純星煌式武装があるなんて聞いたことがないよ?そもそもコアは統合企業財体で管理されてる筈…そんなの聞いたこともないよ」
「だろうな。それも一種の線だと思ってくれ。まぁ実際に持ち主の人格を乗っ取るような存在を知ってるけど」
そう言って俺はホルダーにぶら下げている《壊劫の魔剣》の発動体を見せるとシルヴィアは納得したような表情を見せる。
…これ以上この《アスタリスク》に広がりつつある闇に触れさせるわけには行かない。
そう思っているとシルヴィアはある意味で勘違いをしてくれたらしい。
「そっか…《壊劫の魔剣》は対純星煌式武装だもんね…あのとき乗っ取られてたウルスラを解放することも可能か…でも一体誰がウルスラを乗っ取るような真似を………そうすると余計に蜂くんは私の恩人になるね?」
「恩人…って別に俺は…」
話の方向性が若干変化してきていることに雲行きが怪しくなってきたな。
否定してもシルヴィアは首を横に振り否定してきた。
「ううん。蜂くんは私と私の恩師の恩人だよ。改めてありがとう蜂くん。あの人はここに居るってわかったから」
「…まだそっちのウルスラさんは見つかってないんだ。手が必要なら貸すから言ってくれ。」
「うん、ありがとう。」
笑みを向けられて浄化されそうになる俺に追撃を仕掛けてくるシルヴィア。
「と…流石にそっちの控え室に行って応援、はできないからこれを渡しに来たんだ。」
といってシルヴィアは肩に掛けていたトートバックから両手で持つほどに大きい包みを渡してきた。
これは?
「はい、お弁当」
「はい?」
「この間の学園祭のときに言ったでしょう?お弁当つくって上げようか、って。」
まさか学園祭で言ったことを本当に実行してくると思わなくて少しフリーズする。
よくよく考えてみるとくっそ忙しい世界の歌姫が一ファンの為に時間を割いてお弁当を作ってくれると言う全ファンが嫉妬で嫉妬玉を作れそうなほどの嫉妬の念が集まりそうなこの玉手箱を俺に渡すのか?
綺凛ちゃん、どうやらお義兄ちゃんは今日が命日らしいです。
『まぁ主の場合は女性関係が毎日命日みたいなものだろう』
(うるせぇ…好かれなくて人生毎日ひとりぼっちだって言いたいのかてめーは…!?)
『このクソボケ主をなんとかせねば…』
唐突な《グラム》に横から差されたが大丈夫、致命傷だった。
俺は差し出されたお弁当を恐る恐る受け取ろうとしたが受け取るのが遅かったのかシルヴィアは少し不満げだ。
「これでも一応お料理に自信が有るんだけど…それとも一応とは言えライバル校の人間が作った料理は食べられ」
「いただきます。俺が全部。」
そう言って丁寧にランチボックスを受け取るとシルヴィアは満足そうに頷いた。
「ん。よろしい♪(蜂くんの周りには可愛い女の子が多いから胃袋から攻略しないと…)緊張したぁ…」
シルヴィアがなにかぼそり、と呟いた気がして思わず聞き返してしまう。
「…?なんか言ったか?」
「う、ううん?な、なんでもないよ?それよりも直ぐにでもお料理の感想を聞きたいなーなんて」
「料理の感想…?あ、ちょっと待ってくれ。」
俺は一旦ランチボックスを地面に置いて指を鳴らす。
フィンガースナップによって認識阻害と空間排除の魔法が発動し俺とシルヴィアを第三者からは認識することはできなくなり視線が此方を通り抜けるようなものになった。
「え、ここで食べちゃうの?ここロビー…ってあれ?みんな私たちに気がついてないみたい」
「ああ。ちょっとした手品で俺たちを認識できないようにしたからな。んじゃ早速…」
ランチボックスを開くとそこにあるのは色彩のバランスがとれた惣菜。
小ぶりなミートボールとハーブとジャカイモのサラダ、スモークサーモンとアボカドのサンドイッチ…とこれ店で食べたら&《戦律の魔女》が作ったと言う事実で価値が爆上がりしてインフレを起こすレベルだろうが渡されたのは俺なので俺が独り占めさせて貰うことにした。
その瞬間、俺に電流走る。
「んぐ……んぐ………………ッ!………………う…旨すぎる…………………犯罪的に…ッ!」
思わず某賭博漫画のような台詞が出てしまったがそれほどまでに美味しい。
料理が得意、というのも事実だったようでこの歌姫、何が出来ないのか逆に聞きたいレベルである。
勢い良く、まぁお行儀は良くないがそれ程までに旨い手料理に大きめに作られたサンドイッチを三口ほどで食べきってしまった…なんか勿体無いことをしたかもしれん、そう思っているとシルヴィアはこっちをみてニコニコしていている。
「あ。すまん夢中で食べちまった…えーとめちゃくちゃ旨いです」
「そ、そっか…それなら作った甲斐があったよ…(すごく美味しそうに食べてくれて…嬉しくなっちゃった)ね、ねぇ蜂くん」
「どうした?」
「わ、私も少し味見したいなーって…」
「?ああ。作ったのはシルヴィアだから食べる権利はあるだろうし。はい」
そうってランチボックスを差し出すと少し…というかかなり不満そうにしている。
俺の対応はなにか間違っているだろうか…?と思っていると《グラム》が脳内に語り掛ける。
『主よ。ご婦人にそのまま手渡して食べて貰うというのはいささか失礼だと思うぞ?ここは定番の”食べさせて上げる”をするのだ』
(いや、それは流石に…それやった俺シルヴィアに『キモッ』って言われねぇ?)
そう告げると何を根拠に《グラム》は自信満々に告げた。
『大丈夫だ。決して主はリューネハイム嬢に嫌われてはおらぬ。…というよりランチボックスを貰っている上でそんなことを言うのか?主も大概だぞ?』
(やかましいわっ)
《壊劫の魔剣》にそう言われるのは癪であるがしないとしないでいると不機嫌なままだろうなと感じた俺はランチボックスに入っている可愛い装飾ピンがミートボールに刺さっている一つ詰まんでシルヴィアの口へ持っていく。
その行動にさっきまでの不機嫌さは何処へ消えたのかと言わんばかりの表情に困惑したがその小さな口でミートボールを咀嚼した。
「んぐ…んぐ……うん、美味しいね」
「そ、それなら何より…って作ったのシルヴィアでしょうが…」
そう言うとシルヴィアは口元を押さえて笑っていた。
「ご馳走さまっ。あ、ちゃんと全部食べてね?それじゃあそろそろ私も戻らなくちゃ行けないから試合頑張ってね!」
「お、おうありがとう…」
そう告げて足早にクインヴェールの生徒会使用ルームへ駆けていくのを見つめるしかなかった。
俺はこちらへ視線を向ける二人の存在に気がついた。
「尾行するならもうちょい上手くやるべきだな…っと。あ、マッ缶を買わなくては」
試合開始まで時間があるが時間を掛けすぎた。
俺は急ぎ足で目的のものを買いに自販機へ向かった。
その途中で二人の少女とすれ違い様に放出魔法《スパーク》を発動させておく。
《瞳》で確認し録画メモリーを破壊したのを確認した。
通りすぎた後に喜んでいるようだが…空振りに終わるだろう。
…少なくとも今回は俺に原因があるんじゃなくてシルヴィアにあるが昼飯を貰った手前しっかりとアフターケアはさせて貰うことにしよう。
…それとトップアイドルを目指すならそんな裏工作しねぇで自力で目指せ。
蹴落として手に入れた席は居心地が良いだろうがその席の主に相応しいかはまた別だぞ。
◆ ◆ ◆
同時刻、シリウスドームのエントランス…から少し離れたところにある自販機の影。
二人の少女が目を丸くして固まっていたがしばらくして片方の少女が口を開く。
「…ねぇ、トゥーリア?」
「…なんだよ、ミルシェ?」
「…今の、見た?」
「…ああ、見た。」
「…今のって、シルヴィアだったよね??」
「…間違いなくシルヴィアだった」
「………」「………」
二人は押し黙ってしまったが次の瞬間に顔を見合わせて驚愕と歓喜が入り交じった笑顔でハイタッチを交わす。
先ほどまで佇んでいた男性がこちらに向かってきてなにか言われるのでは、と身構えたが違った。
「ちょっと失礼飲み物を買いたいんだが…」
「あ、すみません」「わるい」
自販機に用があった男性に声を掛けられてその場から移動する少女達は少し離れた所でガッツポーズをしていた。
「………。」
持ち物中にあった記録媒体が壊れていることに気づいたのは控え室に戻ったときだった。