俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
控え室に戻る前にシルヴィアからもらった弁当を【次元解放】のポータルへぶちこみ急いで全員分の飲み物を購入し戻った。
「随分と遅い帰りでしたね蜂………?」
「ああ、ちょっとな…って近くない?」
控え室に入り出迎えたのはクローディアであったが俺を見て匂いを嗅ぐような仕草をして近づいてきていたのだ。
匂いを嗅いだ後に離れこう言い放りやがった、
「あらあら…別の女性の匂いがしますが…どこで道草を食っていたのですか?」
耳元で囁かれ思わずゾクリ、となってしまったがおれは普段通りに返答する。
「道草は食ってねぇよ…ロビーが混んでてなかなか買えなかっただけだ。それに他の女の匂いがするってのは人混みでぶつかったとかだろ。」
そういうとクローディアは考えたらような素振りを見せたがふと何かに気がつくと再び近づいてきていたそれは素晴らしい笑みを浮かべて尋問、いや質問を受けた。
「では…どうして制服の襟元にトマトソースのようなものがついているのでしょうか?」
「それは朝飯を食ったときに」
「おや?今日の朝食は「軽いのがいいな…」とおっしゃって天玉うどんを食べていらっしゃいましたよね?」
くっ…めざとい奴め…まるで詰め将棋のように逃げ場を潰してくるクローディアに俺はリザインを選択する。
「参った、参った…。実は飲み物を買いにいくときにシルヴィアとあってその時に出場する自分の学園の生徒に振る舞う手料理の味見をしてくれって言われて食ったんだよ。満足か?」
お弁当を貰った、といってしまえば更に面倒なことになること明白だからな。そう告げると笑ってはいるが面白くなさそうな顔をしているのがわかった。そんなにシルヴィアの手料理が食べたかったのだろうか?
『誰かこの主に聞くクソボケ薬はないだろうか!誰が医者を呼んでくれ!今すぐ!』
(頭の中で騒ぐんじゃねぇ!うるせーんだよ!!)
唐突なディスに頭を悩ませているとチームメンバー…リースフェルトと天霧がそれぞれ呆れ顔と苦笑いを浮かべていていた。綺凛ちゃんにいたっては
「あ、あのぅ…皆さんテレビを見ませんか?ちょ、ちょうどチーム紹介が始まるようですし…あっお義兄さんっ」
健気に部屋の空気を掛けようと率先して控え室に備え付けられた空間ウィンドウを開く。
率先的に動くようになった綺凛ちゃんを見て思わず頭を撫でる。義妹が成長してお義兄さんは嬉しいぞ。
『成る程な。此が”自作自演”…”逆源氏物語”と言う奴か…策士だな主よ。』
《グラム》にバカにされた気がしたが無視した。
結果として綺凛ちゃんが介入したことでクローディアは「全く…仕方ありませんね」と納得?してくれたようであったが控え室のソファに座ると左右を陣取るようにクローディアと綺凛ちゃんが当然のように座った。
まぁ良いんだけどさ…近くない?
空間ウィンドウを開くと丁度各チームの紹介が始まっており星武祭ですっかり顔馴染みになってしまった女性アナウンサーが出ており隣には黒髪を切り揃えた眠そうな目の女性が隣にいた。今年はこの人がコメンテーターなのだろうと思って聞いていると注目チーム!ということで真っ先に上がったのはやはりと言うか聖ガラードワース学園のフェアクロフさん率いる銀翼騎士団のチームランスロットとトリスタンが取り上げられた。
「…しかし、なんで通り名があるのに二つ名なんて着けるんだろうな。恥ずかしくね?」
「聖ガラードワースはそれが伝統なのですよ蜂也。」
「ほーん…」
もし俺が仮に聖ガラードワースに入学していたらどうなるのだろうかと興味が涌かないわけではないが恐らくきっと適合する武装がないため序列外になっていただろう…それはそれで目立たなくて良いか。
コメンテーターの解説を聞くとオッズ表で一番高いのはフェアクロフさん率いるチームランスロットのようだ。
それも当然と言えるだろう理由が四色の魔剣が一振、【
実際にコメンテーターも文句のつけようがない、コメントするレベルだ。
…とそんな話を聞いているとまさに寝耳に水な言葉が飛んできた。
『対抗馬として真っ先に名前が上げられるべきは星導館学園のチーム・エンフィールドでありましょうな。』
「わわっ、わたしたちの名前が挙がっちゃいましたよ?」
「それはそうでしょう。客観的に見ても私たちが優勝候補の一角であることは間違い有りませんからね。」
その自信はどっからくるんだお前はとクローディアを見ると少し困ったような笑みを浮かべられたが全く検討がつかんのだが?
「でも…それもそうかもしれませんねクローディアさん」
「そうでしょう。まぁ一人それが分かっていないようですけど?」
「?」
二人して「分かっています」的な雰囲気を醸し出されても困るのだがそれは直ぐに理解させられた。
『なにしろ【
そこで一旦区切りそのつぎに出たコメントを聞いて俺は「またかよ…」とうげぇ…、となった。
『皆さんも知っているでしょうが…《壊劫の魔剣》を使いこなす剣士でありながら《魔術師》としての実力を発揮し《戦士王》の二つ名を持つ名護蜂也くんがこのチームにいることが非常に高い総合力を示すことになりガラードワースの二チームに対抗できる数少ないチームです。』
そう説明されて俺は頭を抱えた。
それ即ち俺への攻撃が集中する可能性が有ると言うわけだ。
『我と主が評価されて鼻高々であるな』
(全力でお前を酷使してやるから覚悟しとけよお前…)
そう脳内で告げると《グラム》は前向きに自信満々に言い放った。
『望むところ、と言わせて貰う。主が我を手にしている間に”敗北”と言う二文字が無いと言うことを知るが良い。』
(そーかい…)
妙なところで自信満々であるがこいつの声も相まって不思議とそうなってしまうと思うのが妙なところではあるが実際に俺もそこいらの生徒に負ける気はない。
顔を上げるとウインドウに映るコメンテーターはクインヴェールの出場チームを紹介しているときに先ほど自販機で通りすぎた子達を見つけてなんとも言えない感情になったが彼女達が使用する純星煌式武装は警戒しておこうと思った。次に界龍はあの星露の一番弟子という《覇軍星君》の序列二位の武暁彗、そして学園祭で話をした《天苛武葬》の趙虎峰、そして《鳳凰星武祭》で残虐ファイトを繰り広げ天霧にぶっ倒された双子の黎兄妹…と相手するには面倒なチームがいた。
そしてレヴォルフ…はどうでも良いか、なんかPMCとか単語が出ていたがそれほどまでに集団戦というのが得意でないレヴォルフは外部組織から力を借りねばならぬほどらしい、と頭の片隅に追いやった。
その紹介をしていたがウインドウをクローディアが閉じて真面目な顔をした。
「さて、それでは私達の初戦の相手をおさらいしましょう。」
◆ ◆ ◆
場面は変わって同時刻、カノープスドームにクインヴェール女学園所属のチーム・ルサールカの控え室で開口一番にミルシェが元気よく、唐突にそう宣言した。
「緊急開催!『シルヴィア・リューネハイムを蹴落とすためにはどうすれば良いのか会議』ー!!」
「…あの、突然なにを」
もう何回目か…いや累計今回含め七十四回目の対シルヴィア対抗会議が今この場で行われたことに記録係であるマフレナは飽きれと「またですか…」?の諦めが含まれる。
チームメンバーの一人、クインヴェール序列三位であり人気グループ『ルサールカ』のリーダーであるミルシェにマフレナが恐る恐る問いかけると待ってました!といわんばかりに胸を張る。
「ふっふっふー聞いて驚け~?なんとなんとー」
「シルヴィアが男と逢い引きしていたのを目撃しちまったんだー!!」
勿体ぶってためていたミルシェに割り込むように緑髪のトゥーリエが先んじた。
「「「えええーっ!?」」」
残りのメンバーである三名、パイヴィ、モニカ、マフレナが驚愕の声を上げていたがそれを発表した二人はその重大発表を取られて追いかけ回していた。
「ねーねー!じゃれあってないで確りと説明してよぉ!そ、それって本当なの?」
モニカは説明を要求すると自慢げに”録画していた端末”を開いて見せる。
「へっへっ~マジマジ。大スクープだろ?「確り映像に納めたもんねー」「ん?………ってなんで皆して変な顔してんだ?」
有る意味で世紀の大スクープかもしれない映像を見せているのに怪訝な表情しか浮かべていないチームメンバーに二人は頭に疑問符を浮かべているとマフレナがおずおずと返した。
「あの…本当にそれって見て録画したんですか…?」
「は?なに言ってんだよ。ちゃんと撮れてるだろ?」
「あんた達…そう言う願望を見てたんじゃ」
「…少なくとも今私たちが見えているのは真っ暗な画面ね」
「「は?」」
三人の反応が可笑しいと気がついたミルシェとトゥーリアは自分達が差し出した端末の液晶を見返す。
「なっ…!?」「ええっ…!?」
「な、なんで映ってないのよぉ~~~~!?」「な、なんで映ってないんだよぉ~~!?」
そこには映像再生をしているであろうあの逢い引きの場面が削除されてしまっていた。
「う、うそ!?確り録画して…あ、バックアップがある…っ!」
ミルシェは端末を操作しバックアップを探しだし見つけて復旧させるが…
「で、データが消えてる…な、なんでぇ~~~!?」
黒髪のパイヴィが溜め息をついた。
「二人とも…本当に見たの?見間違いなんじゃない?」
疑惑の眼差しを向けるパイヴィに二人は反論した。
「いや、確かに見たんだって!」
「シルヴィアが男にランチボックスを渡して楽しそうに会話してその…「あーん」をしてたのを!」
「「「!?」」」
その発言に思わず三名も目を見開いてしまう情報だったがそれを信憑性を上げる動画は手元に無い。
信じようにも信じられない状態になっていた。
「うう…せっかくシルヴィアを蹴落とすチャンスだと思ったのに…くやしい~~!!」
それが事実であったのならどこに売り込んでもガセネタ、とは言われないだろう。
学園のメディアクラブやアスタリスクや一般のネットニュースに売り込んだら一大スキャンダル間違いなしだったがそれは叶わず。
まさに砂上の楼閣だった。
あまりの落ち込みように三名はどう声を掛けたらよいものか、と思案しているとパイヴィが質問する。
「まぁ何かの手違いで消えちゃったんだから仕方ないわよ…それで相手の男とかの見た目は分かる?」
落ち込んでいるミルシェ思い出すように告げる。
「…そう言えば擦れ違った男性は星導館の制服を着ていたような気がする。それとちょっと特徴的な目をしてたかなぁ…それとはねっ毛があった。」
「星導館の?特徴的な目?はねっ毛?」
「うん。」
ミルシェがそう言うとトゥーリアが思い出したかのように告げた。
「あ、その男自販機であのなんだっけ…黄色と黒の缶コーヒーを買っていたな」
「それってマックスコーヒーって奴ですか?」
「星導館の生徒でそんな身体にわるそうな缶飲料を愛飲している生徒…」
それに反応したのはマフレナでありその言葉から関連付けてモニカがハッとした。
「それって星導館の名護蜂也じゃない?」
「「「「あ」」」」
全員の声がはもって控え室に声が響くと大急ぎで各学園の生徒ファイルをスライドするミルシェ達。
マフレナを中心として展開した生徒名簿を注視した。
「ほ、本当だ!星導館の名護蜂也さんですよ!」
星導館学園の序列三位《戦士王》の二つ名を持つ名護蜂也と言えば今やアスタリスクでは知らないものはいないほどの有名人だ。去年の【
しかし、なぜ映像もないのに言い当てたのかというと彼が愛飲している飲み物に有った。
そう、マックスコーヒーを愛飲していると公表しているのは彼しかいない。
「…此は思わぬ大物が出てきたもんだ。ってことは学園祭でデ、デ、デ、デートしてた相手も、もももも、もしかして…!?」
「此なら本当に一大スキャンダルになっちゃうね…映像が残っていれば、だけど…」
「ぐはっ!?」
「うわぁあぁっ!」
苦しむ振りをするミルシェとトゥーリア。
実際にその映像が有れば本当に一大スキャンダルになるだろうが無いものは仕方がない。
と思っているとモニカが端末を取り出して何やら操作をしている。
「…ん?ほら、これ見て?」
端末を操作してモニカはウインドウが可愛らしくデザインされている…所謂ゴシップサイトを開く。
手慣れた手付きで気になる記事をピックアップしていく。
『「戦士王」熱愛か!?お相手は星導館生徒会長の【
「これって…信用できるとは到底思えないんですけどモニカ…。」
「さぁねぇ…でもこれってあからさまにウソ、ともいえない情報とかがあるんだよね…実際に《戦士王》って普段から星導館の生徒会長と一緒にいるって話だし…序列一位の子が”お兄さん”って呼んで距離近く満更でもなく頭撫でたり甘やかしたりしてるみたいだし…本当かもよ~?そ・れ・に・ぃ…」
字が違う、と突っ込まれそうだがそんなことを指摘する人物はおらず。モニカはソコまで口にだして言うと口元に手を当ててクスクスと笑った。
「ここにも書いてあるけどもう既に”男女の関係”…って事があるかもしれないよ?」
そう言うとマフレナとパイヴィは顔を赤くしていた。
「??」「??」
一方で「なんの事?」と疑問の表情を浮かべている今回の件で騒ぎはじめたミルシェとトゥーリアは分かっていない様子で有った。
「…本当に初ねこの二人は…」
パイヴィが呆れたような、安心したような表情を浮かべるとマフレナが説明をする。
「ええとですから…つまりは名護蜂也さんが既に他の女性と…その愛し合う為の”行為”に及んでいるんじゃないか、それに相手は一人じゃないかもしれない、ということですね…」
マフレナがかなり…というかぼかしたが直球ストレートで豪速球を投げるとミルシェとトゥーリアは瞬間湯沸し器のように直ぐ様赤くなり沸騰した。
「つ、つまりシルヴィアは《戦士王》に…?!…ってダメダメっ!アイドルがそんな…エッチなのはダメっ○刑!!」
「な、何て野郎だ《戦士王》め…おい皆!シルヴィアが《戦士王》の毒牙に掛かる前に目を覚まさせてやらないと!」
恐らく二人の脳内ではクインヴェールの制服を着たシルヴィアが蜂也の目の前で有られもない姿に変わり✕✕的な✕✕をしている光景が広がっているだろう。
恐らく、というか確定的に蜂也がいたら「なに考えてんだこのピンク頭ども…」と呆れられただろうがストッパーはいない。いたとしてもこのメンバーでは止められない。
結局この会議は一時中止になり議題が『シルヴィア・リューネハイムをどうやって《戦士王》の毒牙から守るか』というものに変わった。
指針としては名護蜂也を調べることにしてこの【
その後に正々堂々とシルヴィアを蹴落とすことにしたチームメンバーにマフレナは溜め息を吐いた。
(シルヴィアが好く人がわるい人とは思えないんだけどなぁ…)
その前に負ける可能性が有るって考えないんですね、と喉元までで掛かったが野暮なことは言わない。というか聞き入れてくれないだろうしな。と
今さらそんなことを言ったところで無駄だろうと、それに名護蜂也のチームは先ほどの下馬表で優勝候補の一角だ。本選に苦労すること無く勝ち進んでくるだろう。
チームメンバーの無茶振りにマフレナは再び溜め息を吐いたのだった。