俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
《獅鷲星武祭》四回戦目。
「破ッ!」
界龍の生徒が俺目掛け掌打を繰り返してくるが俺に当たらない。
「…きゃあっ!!」
ポケットに手を突っ込みその一撃を回避をし続けていると三つ編みの少女が屈んで死角に入り肘を繰り出すが片手でおさえ投げ飛ばした。
が、しかし。上手い事着地してすぐさま青年と少女が此方を押さえ込もう息の合った連続で仕掛けてきている。
「《万有天羅》の門下だけが界龍でないと知れ!」
対峙しているチームは《冒頭の十二人》ではないが二十位以内に入っており猛者が集まっている。
いつぞや綺凛ちゃんが言っていた「星導館なら全員序列入りでしょう」と言っていたがそれは本当かもしれないな思っているとその場から飛び退く。
「ふはははっ!必ずしも界龍の《魔術師》が道士ではないぞ!」
虚空より獣の顎のようなものが出現し噛み砕くように出現する。
それ自体は星辰力の流れを感知すると予兆は分かるがその速度は面倒だし俺を狙う二人の連携は少々面倒くさい。
これが《鳳凰星武祭》であるなら更に厄介だろうが…
「俺を倒したいのならもう少し練度を上げてくるんだな」
再び拳が俺の身体に接触するタイミングを”視た”。それに合わせて身体を捻り体勢を崩した上で右手に魔法を発動させる。
「…なっ!?」
抜刀した《フラッシュエッジ》で青年の校章を切り裂き動作の隙を狙って少女が俺を仕留めようとするが分かっていたので屈んだ。
「…えっ!?……がッ!?…………」
飛び越えるタイミングで手を伸ばし襟首を掴んで地面へ叩きつけ三つ編みの少女は気絶して《意識消失》で敗北判定を受けるのを確認しその場から少し身体を動かしホルスターから《フェンリル》を抜き放ち襲ってくる獣の顎を吹き飛ばす。
そこからが起点となってチーム・エンフィールドの面々が其々の生徒の校章を手にした武装で割っていく。
隙を見せた残り二人を綺凛ちゃんとクローディアが校章を断ち切る。
そして、リースフェルトは煌式遠隔誘導武装でリーダー格の生徒を牽制しその隙に天霧が接近し《黒炉の魔剣》で切り裂いた。
『試合終了!勝者チーム・エンフィールド!』
ステージに立っているのは俺たち五人だけだった。
◆ ◆ ◆
「…ったく俺ばっかりに粘着してやがって。鬱陶しい…」
試合と勝者インタビューを終えて俺はソファーに沈む。
「副会長は一番の強敵ですからね。対策されるのは無理もないと思いますよ?」
天霧がそう告げるとリースフェルトがそれを補強するようにコメントした。
「お前が注目、対策されるのは自明の理だ。ならばそれを活用しないわけには行くまい。」
それはつまりお前は囮と言うわけだ、と言われているのと同時であり思わず溜め息を吐く。
「しかし、今回は蜂也に負担を掛けすぎましたね…と言いたいところでしたが序列入りしていない界龍の生徒では相手になりませんね。」
「過大評価してくれるなよ。あれでも手こずったんだからな…まぁ俺がいなくとも勝ち抜けるだろ。」
「どうしようもない場合は仕方ありませんが負傷での退場はやめてくださいね?出来れば校章破壊で負けてくださいね?」
「はいはい…」
冗談目かしたことをクローディアが告げたが実際その通りだろう。
校章を破壊されるだけならばまだしも大怪我をおっての試合に不出場となればチームに迷惑を掛けることになるので前者の方がましである。…でもまぁ俺の場合片手が吹き飛ばされようが死んでも復活できるんだがな。
その事を知られるわけには行かないので黙っていることにするが。
「蜂也や私たちが脱落するほどの実力者がいるとは思えないがな」
「そうですね…少なくともチームランスロットとぶつかることは無さそうですし。万全の状態で決勝まで勝ち残りたいものです。」
ユリスの言葉に綺凛ちゃんが頷いた。
昨日行われた抽選会で本選勝ち抜き三十二名はトーナメント表に割り振られ俺たちチームエンフィールドとチームランスロットは別エリアである。が、しかし。
「チーム・トリスタンとチームルサールカ、それにチーム・黄龍か…面倒なリーグにぶちこまれたもんだ。」
「蜂也の言う通り此方で注意すべきはチーム・黄龍…そのメンバーである序列二位【覇軍星君】はまるで底が見えません。」
「流石は万有天羅の一番弟子、と言ったところでしょうね。」
クローディアの言うことも確かだ。
二回戦目で見せた圧倒的な戦闘能力はその度肝を抜かれ底知れない”なにか”を隠しているように思え想像の遥か上を行っていると言って良い。
(あれを綺凛ちゃんと天霧にぶつけるのは不味い気がする。ましてやリースフェルトやクローディアは太刀打ち出来ない。…それに”あれ”の使用を踏みきるしかないか…)
この世界の人間は丈夫だろうが”あれ”を使うには星武憲章に抵触する恐れがある為だ。
おいそれとそれを観客がある星武祭の場で使うことは躊躇われる…だがクローディアの願いを叶えるために、横やりが入らないように勝ち抜けるにはその方法も視野に入れねばならない。
「お義兄さん?」
考え込んでいたせいで綺凛ちゃんが不思議そうな顔をして此方を覗き込んでいるのに気がついて俺は薄く笑ってごまかす。
「…いや、なんでもない。とりあえずそろそろ次の試合が始まるだろうし。天霧。モニターをつけてくれ。」
「分かりました。」
そう言って天霧は控え室のモニターをつける。
強敵はなにも覇軍星君だけではない。【白騎士】も多数だ。その対策は後にすることにして今は目の前の試合に集中することにした。
モニターに映るは白を基調とした制服、聖ガラードワース学園が最強の一翼を担うチーム・トリスタンが現れると歓声が鳴り響き地鳴りのようにスタジアムを揺らすが次に反対側から登場するチームが現れたその時共鳴しあうようにチームトリスタンよりも大きい歓声が巻き上がった。
「出てきましたね…」
「ああ。お手並み拝見といこうか」
反対ゲートより現れた【偶像】の校章を身に付けたクインヴェール女学園の生徒、及び人気ガールズバンド、チームルサールカはまるで会場があたかも自分達のメインステージの如く手を振って応えていて粛々とメイン中央まで歩みを進めるトリスタンの面々とは正反対のパフォーマンスをしている。
「さて、皆さんはどちらのチームが勝ち抜くと思いますか?」
唐突にクローディアが質問を始める。
「…チーム・トリスタンだ。」
「ほう?」
俺が興味深げに聞き返すとリースフェルトが返答する。
「こう言ってはなんだが基礎戦闘力が違いすぎる。確かにルサールカのメンバーは連携は凄まじいものだが…エリオット・フォースターに太刀打ちできるのは序列三位のミルシェ程度なものだろう。」
「私もそう思います。エリオットさんの剣技に対抗できるとは…」
言い淀んだのは素直に言いづらかったのと先の試合のデータを見ていたからだ。
俺も昨年までのデータでしか見たことがないがエリオットは天霧との敗北後確実に腕を上げている。それは直近の試合を見えれば一目瞭然だろう。あの”速さ”は天霧にも通用する速度だ。
剣技だけでなく他のつまりは身体能力も向上している筈だ。
一方でルサールカはこの試合、『チーム戦』に主眼をおいた戦闘スタイルでここまで勝ち抜いてきている。
その連携は俺たち以上のもので目を見張りこの大会期間中も成長していると感じ取れるほどだ。がそれはあくまでも成長の速度であり”経験値”の累積ではない。チーム・トリスタンとチームルサールカの実力差は目に見えていた。
しかし、それでは判断要員がひとつ残っているのだが…
「加えて《聖茨の魔女》の能力はチーム戦において有効だ」
「はい。あの能力は厄介だと思います。」
「天霧君はどう思いますか?」
「そうですね…僕は…」
「ルサールカだな」
「それは何故ですか蜂也。」
なにかが引っ掛かっているのだろう即答を出来ない天霧を見て俺が変わりに応える。
「勘だ。」
「…ってなんだそれはっ」
リースフェルトがずっこける。コントみたいに綺麗にスッ転んだな…とそれを無視して考察した理由を告げた。
「”未知数”の可能性だ。…あいつらはまだ”純星煌式武装”の能力の一端を解放しちゃいない。」
そう告げると戦端の火蓋が切って落とされた。
◆ ◆ ◆
ガラードワースに陣形は存在しない。
チームトリスタンを率いるエリオット・フォースターは試合開始のアラームと同時に先陣を切って走り出すとそれに追従する騎士達もそれぞれの武装を展開しチーム・ルサールカへ向かう。
向かってくるエリオット達をマフレナが空間投射型キーボードの純星煌式武装から放たれる光弾を難なく剣捌きで弾き返して見せた。
天霧に敗北したエリオットはあの日以降磨き続け速く鋭く研ぎ進めていた。
その実力が今発揮されておりルサールカの攻撃を次々と交わし受け止め捌いていく。今エリオットを止められるものはいないのかもしれない。
攻撃を捌き速度を緩めることで背後から追いすがる二名の騎士は前方にいたチームリーダーの近くにいた二人と切り結び血路を開く。
「……わざわざ出向いてくれ無くともこっちから出向くつもりだったんだけどなぁ」
「女性に足を運ばせる程無粋ではありませんよ」
ミルシェがギター型の純星武装武装を構えるとそれに応じるようにエリオットも剣型の煌式武装を構え直す。
お互いはチームリーダー、であればこの勝負先に制したほうがチーム戦で勝利することになることは理解していた。
先に動いたのはミルシェ。がこれはエリオットにとって好都合である試合運び。
彼の戦術は後の先、カウンターでの一撃でミルシェの校章を破壊するために剣先が揺らめき冗談から振り下ろされその【偶像】を破壊する…
「っ!」
筈だった。
その寸前にエリオットは咄嗟に身を翻して回避を選択せざるを無かった。
直後にミルシェの持つギターから甲高い音が響き渡ると波のような振動が大気を震わせ先ほどまでエリオットが立っていた地面がボロボロに崩れ去る。
「ぐぬー!回避されたか!でもまだまだ!!」
悔しそうに顔を歪ませながら追撃を選択したミルシェだったが先んじて攻撃を仕掛けるエリオットによって阻止された。
「うわわっ!?」
ミルシェはギリギリのところで防いだがエリオットは手首を返して円を描くような斬撃を繰り出しそれに対応してギター型純星煌式武装から出力された光刃で危なげに防いでいた。
事実上六学園最弱と名高いクインヴェール女学園ではあるが腐ってもミルシェはその学園の序列三位であり短期決戦でどうにか出来るほど甘くはない。
しかし、エリオットは勝ちを確信していた。現にチームメンバーの準備が整いフィールドには【茨】が広がり絡み付く【
その範囲は絶大で一度発動してしまえば壊すことは不可能に近い。
迫り来る茨を払い除けようとチーム・ルサールカの面目は手にした武装を振るうが切られた茨はそれを上回る再生能力で復活してくる。まさに焼け石に水だ。
やがて茨は彼女達を覆い隠すように絡み付きステージの一角へ閉じ込めてしまった。
「さて降伏していただけると僕も手間が省けて助かるのですが?」
茨に閉じ込められて脱出は不可能。剣の切っ先を突きつけるエリオットにそれぞれが反応を示すがミルシェだけは大人しい。まるで嵐のような静けさだと感じたエリオット。それが間違いでないことを自分の性格が仇になったことを知るのは試合終了後だった。
「…くっそー…やっぱりこのままじゃ無理だよなぁ……っとぉ!!」
次の瞬間。
耳をつんざくようなギターの音と共に周囲を囲っていた茨とエリオット達は吹き飛ばされた。
まるで音の嵐が彼らを襲うのだ。
「ぐあああああっ!?」
吹き飛ばされ辛うじて自らは着地に成功し地面とキスをするのだけは免れたエリオットが面を上げると瞳に不気味な紺碧の輝きを秘めた瞳を爛々と輝かせ手には《ライア=ポロス》を手にしてセッション開始を始めようとするガールズバンド《ルサールカ》の姿があった。
「それじゃ、セッション開始といこうか?」
ソコからは一気に形勢が逆転していた。
押されていたルサールカの面々は先ほどとは別人と言って良いほど機敏になり逆にチーム・トリスタンは動きが鈍い。先ほどのダメージ…ではなく純粋にその速度が低下しているのだ。
奮戦するチーム・トリスタンの面々であったが一人が撃ち取られまた一人と次々に倒され最後に残ったエリオットも孤今奮戦するが検討虚しく校章が破壊された。
『試合終了!勝者、チーム・ルサールカ!』
◆ ◆ ◆
「今のは一体…」
「チームトリスタンがあれほどまで容易く…」
「彼女達の持つあれは能力の向上…?」
「あいつらの持っている純星煌式武装の能力だろう。自身の能力強化…そして相手へのデバフ付与、か。」
「やはり、あれが《ライア=ポロス》の本当の力のようですね」
それぞれに反応を見せるとクローディアは然したる驚きは見せずに淡々としている。
「その様子だとなにか知ってるみたいだな。」
「いえ、対策するようなことはなにも。ただ彼女達が持っている純星煌式武装に関するバックボーンでしたら」
「…【
(当然だろう。いわく付きでないものは我らの中に存在しない。)
《グラム》からの副音声が入ったがまぁそうだろうな、と納得した。
クローディアはホルスターに入っている《パン=ドラ》の発動体を掲げる。
「《ライア=ポロス》はこの《パン=ドラ》と同じ制作者…つまりバルトシーク教授によって作られたものなのです。だからその程度のものではないと予測をしていました。…元々《ライア=ポロス》は”一つのウルム=マナダイトで運用されていましたが”その力がひとつでは強大すぎる為と扱えるものが存在しなかったためにそのコアを五つに分割し担い手の負担を軽減させたのでしょうが…」
クローディアが歓声に包まれているルサールカに視線を移す。それは困ったような表情を浮かべていた。
「恐らく前回の大会ではその力を引き出すことが出来なかったのでしょうが…」
「開花した、って訳か…」
「ええ。…困ったものです。」