俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

45 / 52
狂騒の序章

チーム・ルサールカがチーム・トリスタンに勝利した。

その事で次に当たるのは俺たちチーム・エンフィールドとぶつかることになる。

先のチームの試合が終了したので今日のトーナメント表は終了した。

俺は自室へ戻る道中に端末が振るえその相手を確認し電話に出る。

 

『あ、お疲れさま。今日の試合も凄かったね。』

 

「凄かった…って俺たちの試合はソコまで派手じゃなかったろ?それを言うならお前のところのチームが派手だったろ。シルヴィア」

 

電話口は世界の歌姫こと【戦律の魔女(シグルドリーヴァ)】のシルヴィア・リューネハイムと会話をしていた。

 

『そうかなー?まぁでも蜂くん達とルサールカがぶつかることになっちゃったね。』

 

「まぁな。ルサールカが勝ち上がってくるとは思っていたけど」

 

『へぇ…意外。てっきりチーム・トリスタンが勝ち抜いてくるーって予測してるのかと』

 

シルヴィア的に俺がトリスタンの勝利を信じていたらしい。

 

「意外でもないだろ。”純星煌式武装の効果を一切使ってないのに勝ち抜いてきてる”ことに自力はあるんだ。それに」

 

『それに?』

 

シルヴィアが疑問をぶつけてきたので言葉に出そうとしたがあいつらの思いを勝手に俺が口に出すわけにはいかないので濁した。

 

「見てる奴、越えるべき存在がすぐ近くにいるんだからその覚悟ってのは強いからな。それが勝負の明暗を分けたってだけだろ」

 

『ふぅ~ん…そっか。流石は蜂くん《戦士王》って言われてるだけあるね。』

 

面白いのか知らないが茶化すように俺の二つ名を呼ばれてしまったので思わず不機嫌になってしまう。

 

「もう切って良いか?てか切る…」

 

『わー!ちょっと待ってよっごめんなさいっ!謝るから切らないでっ』

 

慌てて切るのを止めようとするシルヴィアに思わず見えない笑みを浮かべそうになったが気持ち悪いと一蹴されそうなので普通の声色で返す。これがファン特権か…。

 

『もう意地悪だな蜂くんは…そう言えばこの間騒動に巻き込んでごめんねうちの後輩たちが。それにご飯までごちそうになったみたいで…ってなんか羨ましい…』

 

え、そこに行き着くのか…

 

「…良ければ今度作るよ……ああ。その事か。気にしてない。それに飯おごったのは…すこしアドバイス。いやお節介だったかもしれないが。」

 

『ううん。あの子達なんかやる気に満ち溢れてるみたいだから逆にありがとうだよ。あ、そう言えばお弁当どうだった?美味しかった?』

 

「言うまでもなく旨かった。…ただまぁクローディアにバレてそれどころじゃなかったんだが今度は違うタイミングで食いたい…」

 

『あのタイミングで渡すのは不味かったか…でも美味しく食べてくれたんだね。ありがと。また作って持っていくよ』

 

え、マジ?チョー嬉しいあ、ヤバイくしゃみ出そう。

 

「そりゃありがたいが…ファンに殺されそうだな。」

 

『…大丈夫。蜂くんは特『ふえっくしっ!!』ファンだから……』

 

「あ~風邪かな…ってなんか言ったか?」

 

『……な・ん・に・も・な・い・よ~!…はぁもう…蜂くんってば肝心なときに…』

 

なんか端末越しにシルヴィアの機嫌が悪くなったのだが…俺何かしちゃいました?

 

『まぁ蜂くんだから仕方ないか…それより明日はルサールカとの試合でしょ?応援してるから。』

 

なんだと思ってるんですかねシルヴィアさん…

 

「応援してる…ってお前のところの後輩たちだろ?応援しなくて良いのか?」

 

疑問も尤もなことを聞き返す。

 

『もちろんどっちも応援するよ。ルサールカは大切な後輩だもん』

 

どうやら本心らしい。生徒会長レベルになると両方の応援をしなくてはいけなくてはいけないらしくその心労は計り知れない。てか俺の応援は別にしなくても良いのでは?一ファンだからな?

そんなことを思っていると端末越しの遠いところからシルヴィアを呼ぶ声が聞こえたのは恐らくマネージャーのペトラさんだろう。

 

『あ、ごめん!そろそろ時間みたい。もう少し話していたかったんだけどなぁ…』

 

「あまりペトラさんに迷惑を掛けるなよ…んじゃ試合頑張ってくるわ。」

 

『うん、頑張ってね!』

 

元気良く後押しされて通話が終了した。

道中自販機近くベンチに座り購入したマッ缶をちびちびと飲みながら考える。

 

(さて…ルサールカへの対抗手段をどうするか、だな…)

 

先の戦闘でルサールカの面々は下馬評でチーム・トリスタンを下したその実力は純星煌式武装込みとは言え確かなもの…まぁその純星煌式武装が曲者ではあるのだが。

 

(こっちの能力を下げるモニカの《ライアポロス=メルポーネ》の【阻害弱体化】とマフレナが持ってる《ライアポロス=タレイア》の《活性強化》は厄介だ。それらを得て強化された二人ミルシェとトゥーリアの戦闘力は昨日の試合を視る限り天霧と綺凛ちゃんに匹敵するだろう…其れはクローディアにも当てはまる…な)

 

実際にエリオットと互角以上に渡り合っているところをみるに自力はある。其れを強化されこっちは弱体化を受ければその力の均衡は崩れるだろう。

俺は夜吹に命じて手に入れさせた情報を端末に表示させる。昨日は能力を発揮させていないドラムを使用していたパイヴィと呼ばれた少女も厄介だった。

 

(其れにその要である二人を守る《ライアポロス=エラード》…音圧防壁はさほどの強度はないらしいが”数”を用意できるのは厄介だな……楽器の特性上”音”を通じての能力発揮だろうなのは予測できる。それならその”音”の振動を同じ波形で相殺するかそれか”音”自体を遮断してしまえば効果は発揮されない…と思いたいが純星煌式武装だからな…通常の楽器ならまだしも本当に其れが人間の耳で認識できる”音”なのか怪しい…)

 

手にしているのが通常楽器でなく純星煌式武装、ある種のオーパーツであり既存の技術では対抗は出来ない。

ただの楽器なら破壊してしまえば済む話だがそう簡単には話は進まない。

 

マッ缶を口に含み飲み干し考える。

 

(”音”を消す…となると使える魔法は振動系統…音波減衰魔法【サイレントヴェール】と遮音フィールドか…後者は使ったら放送事故になるな…)

 

らしくもない気遣いをしていると苦笑いした。

 

(そもそもあの純星煌式武装から出ている音色が”音”なのか怪しいもんだな。一体何を媒介にして…っ…!)

 

マッ缶の最後の一口を飲み干したその瞬間に俺の脳裏に電撃が走った。

 

(シルヴィアはあの時歌っていた…その時”何を媒介としていた?”)

 

思い出す。

去年の鳳凰星武祭でフローラが拐われ探し出すためにシルヴィアは”唄った”。

 

(何を媒体として?)

 

歓楽街の外れ、再開発エリアに程近い場所にてシルヴィアは”唄”をあるものを通して発揮していたことを。

 

(そうか)

 

シルヴィアは唄うことで自身の能力を発揮させる。

ルサールカは《純星煌式武装》を奏でる事で自身達と相手を能力の制御下に置く。

”音”を出す媒体が違うだけでその原理が同じであるのならば?

 

(そういうことだったのか…!)

 

俺は立ち上がり急ぎ寮の自室へ戻る。

彼女達ルサールカへの対抗手段を思い付きそのアイディアを失わないために。

 

◆ ◆ ◆

 

通信を切って理事長室へ戻る。

 

「ペトラ用事は終わったよ…ってあ、みんなお疲れ様」

 

「っ!シルヴィア…さん」

 

理事長室へ戻ると珍しいことに今日は来客が来ていたらしくその客と言うのは先ほど蜂也と会話にも出てきていたルサールカの面々が並んで揃っていた。それがペトラの執務机の前に直立不動で。

 

「どうしたのペトラさん。またお説教?」

 

そう告げるとサングラスを掛けたシルヴィアのマネージャーと理事長を兼任しているペトラが笑みを浮かべる。

 

「そうじゃないわ。まぁ半分はそうだけど今日の試合の健闘を労っていたのよ。」

 

「まぁ半分は当たっていたのか」

 

「うぐっ…!」

 

ルサールカのリーダーミルシェは露骨に表情を変えた。

事の経緯は本人と蜂也から聞いているので多くは語らない。

 

「…でもまぁ君たちにはお礼を言っておかないと。心配してこんなことをしでかしたんでしょ?で、君たちが見た名護蜂也くんはどう映ったのかな?」

 

「え?」

 

感謝を告げられると思っておらずミルシェがすっとんきょうな声を上げる

 

「人を誑かすような悪い男の子だった?」

 

「いえ…」

 

シルヴィアの問いかけに真っ先に応えたのは喧嘩っ早いとトゥーリアだった。

続くように全員が首を横に振る。

 

「そっか。それならよかった。」

 

「でもこれとそれとは話が別です!明日の試合、あたし達は遠慮なんかしませんしけちょんけちょんに負かしてやりますからね!」

 

「あははっその意気だよ。君たちはクインヴェールの代表選手なんだから……でも《戦士王》率いるチーム・エンフィールドは…強敵だよ?」

 

シルヴィアは冗談めかして言ったのだが今の彼女達に取ってそれは火に油を注ぐ行為でありムキになってミルシェが応えた。

 

「当然です!あたし達は優勝狙ってるんですからね!それかいつかあなたを追い抜いて…世界一のアーティストになるんですからっ!」

 

その言葉をシルヴィアにぶつけ肩で風を切るように理事長室から出ていくミルシェの大見得切ったその言葉にメンバーが賛同し続々と部屋から出ていく。

 

「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」

 

が、マフレナは顔を青くして頭をひたすらにペコペコしながら退出していったその様はまるで嵐が去った後のように思え思わず笑みを浮かべてしまう。

その光景見て溜め息を吐いて頭を押さえペトラが愚痴を溢す。

 

「あまり彼女達を焚き付けないでくださいシルヴィ。彼女達はただでさえ《ライア=ポロス》の影響で精神が不安定なのですから。」

 

ルサールカが使用する純星煌式武装《ライア=ポロス》は一つのコアを五等分してようやく稼働までこぎ着けることが出来た強力なものでありその代償は【精神汚染】。五分割される前の初期型は所有者の精神が狂喜に蝕まれて心を病むといういわく付きの武装だ。【壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)】とは異なる厄介な能力であるが初回で使いこなす蜂也が可笑しいのかもしれない。

それはともかく、現在の形に落ち着いて比較的落ち着いたといわれるものの適合率が高いとそれに飲み込まれ直情的になり感情の抑制が出来ないというものだ。だがそのなかでも適合率が低いマフレナは普段通りの状態だ。

 

「…それもあるけどあの子達って使い手に選ばれる前からあんな感じだったと思うけど?」

 

「コホン、それはさておいて…彼女達はあなたを陥れるために最初名護蜂也との関係を使っていたようですよ?」

 

「それはそれは…また相変わらずだね」

 

それは初耳だったので乾いた笑いしか出来ないシルヴィアを見てペトラはジト目で見る。

視線を逸らしたくなった。後輩たちが自分を心配して蜂也に突撃を仕掛けるのはかわいいものだ、と思ったが

 

「…はぁ。シルヴィあまりこういうことを言いたくはないですが貴方はクインヴェールの【偶像(アイドル)】なのです。あまり一人の少年に入れ込みすぎないように。」

 

「あはは…やだなぁペトラは心配性だよ。私が蜂くんに入れ込んでる訳無いじゃない」

 

「それは私の目を見て誓えますか?」

 

「……………」

 

無言になりそっぽを向くシルヴィア。その頬が赤く染まっているのを見逃さないペトラは大きな溜め息を吐いた。

 

「本当に困った娘ね…まぁ何かの間違いがあったらバックアップはして上げるわ。恩師を救って目の前で襲撃者を退ける光景、そして貴方を特別扱いしないその性格に惚れるのも仕方ないものね?シルヴィ?」

 

「うう…ペトラが苛める。」

 

「苛めてません。しっかりと節度を持って友好関係を築いてと言っているの。」

 

「はーい…」

 

見るものから見ればまるで姉妹のようだ、という感想を述べるだろうが二人の関係はそんな言葉では推し量れない。

次の瞬間にはペトラは真面目な表情になる。

 

「こほん、それは一先ず置いておきましょう。シルヴィア」

 

「どうしたの。」

 

「金枝編同盟、という言葉に聞き覚えはある?」

 

「うーん…無いかな。」

 

「そうですか、因みに私もありません。」

 

「…なにそれ?」

 

シルヴィアが責めるような視線をペトラに向けると立ち上がった。

 

「…わかりませんか?統合企業財体の幹部たる私が分からない、そう言っているんです。」

 

「…っ」

 

「最近になって、ごく稀に私たちの情報網にその名前が引っ掛かるようになったのです。……それは去年の3月ごろ。」

 

すなわちシルヴィアが《ヴァルダ=ヴォロス》と接触し蜂也に救われたタイミングでだ。

 

「一旦その名前は情報網に引っ掛からなくなっていたのに最近またその名前が浮上してきたのです。そして金枝編同盟が情報網に引っ掛かると出てくるのが…《戦士王》の名前が。」

 

「どうして蜂くんが…?」

 

「分かりません。ですが名護蜂也という少年の身辺調査を行いましたが不審な点はなにも。犯罪を行っている様子もなく模範的な市民でしょう…ただ一点を除いて。」

 

「一点を除いて?」

 

その時学園祭での会話を思い出した。

シルヴィアの問いかけを八幡はの声を聞いて応えていた。

 

『…人見知りで己の力を誇示するのが嫌いなガキだったんだよ俺は。それに俺は昔虐められてたからな。星脈世代の子供が非星脈世代の子供殴って怪我させたら親の監督責任になるから聞き分けの言い子供を演じてただけだ。』

 

「来歴があまりにも白すぎるんです。あれだけの星脈世代、何処かで何かしらの実績がある筈なんです。”それが不自然なほどに”真っ白すぎる。」

 

「…………。」

 

「名護くんとその金枝編同盟がどうか関わっているのか、結び付いているのか、それともただ名前が乗っているだけなのか分かりませんが…その組織詳細は一切不明。この組織相当に不明です。」

 

「つまり…私に蜂くんと会うのを止めなさい、って言いたいの?」

 

強めの口調でペトラに問いただすと困ったような笑みを浮かべた。

 

「そうではありませんよ。名護くんがいい人なのは分かっています。その強大な力をその組織に狙われているのではないか、そう言っているのです。」

 

「ペトラそれって…」

 

このタイミングでマネージャーの言いたいことを理解し笑みを浮かべた。

 

「名護くんが好きならば手助けをして上げましょう。ですが。無理の無い範囲でね。」

 

「分かった。」

 

◆ ◆ ◆

 

「ーっ!」

 

クローディアが部屋へ戻ると先客がいた。

薄明るい光に照らされた調度品が置かれた部屋には人間としての表情の機能が死んでいる、張り付いた作り物の笑みを浮かべている女性が一人ベッドに腰掛け寛いでいた。

 

「久しぶりですね。クローディア。」

 

「……これはこれはお母様。ご無沙汰しております。」

 

クローディアは完璧であるセキュリティを敷いている自室に実母、イザベラ・エンフィールドが自室にいることに面喰らったが同じように完璧な笑みを返す。

どうやって部屋に入った?と問いただしたかったがそれは無意味な質問であった。

イザベラは星導館学園の背後、統合企業材体『銀河』の最高幹部なのだから学生寮のセキュリティなど簡単に通れてしまう”権力”がある。

そもそもあのインタビューの後に発した内容に銀河の最高幹部達が動いたことを想像は固くない。その際に彼女達がクローディアを始末しようとすれば赤子の手を捻るより簡単だろう。

退学に投獄、命を奪うことすら簡単であるがそうしないのはクローディアが仕掛けた他の企業財体からの干渉がある程度功を奏しているからであり、”なによりそれは容易い手段”であるからだ。

 

クローディアを始末する方法は幾らでもある。

それを実行しないのは他の統合企業財体に付け入る隙を与えることは銀河の不利益に繋がることになる。

銀河はそれを避けたいためにギリギリまで先延ばしにされているに過ぎない。

 

が、それこそクローディアの狙い通りだったのだ。手出しをされにくい状況を作り出すことが。

 

「それで今日はどんなご用件で?」

 

「おや?母が娘に会いに来るのは可笑しな事ですか?」

 

「生憎と母親らしいことをしてくださった記憶はありませんね?ああ。誤解しないでください。それでも私はお母様を愛していますよ?お父様と同じように。」

 

淡々とクローディアは吐き捨てる。笑顔のままで。

 

「奇遇ですね。私もです。」

 

お互いの言葉に嘘は無かった。

そのやり取りに意味はないということを理解していたので会話を、本題を続ける。

 

「まさか今更私を説得しに来たわけではありませんよね?」

 

「当然です。貴女は私と良く似ていますからね。其れが無意味な事だと理解しているでしょう。」

 

その言葉にクローディアは顔を少ししかめた。

同じ血が流れる遺伝子が繋がった家族ではあるが実の母であるイザベラとは相容れないと幼少の頃からそう思っていたからだ。イザベラは統合企業財体という他人に全てを捧げてクローディアは自分のために全てを捧げてきたからだ。

 

「それでしたら…そろそろ用向きをお聞かせ願いますか?」

 

そう問いかけるとイザベラは目を細める。

 

「少し、話を聞きたいと思いましてね?」

 

「話?」

 

「ええ。貴女が今回の愚行に走った理由…その目的の動機を…我々には情報が足りません。であるならば直接聞くしかないでしょう?」

 

「私が素直に話すとでも?」

 

クローディアはが牽制するとイザベラは意に介さぬ様子で語り掛ける。

 

「話しますとも。貴女は私たちにその理由を知らせた方が都合が良い、違いますか?」

 

クローディアは苦虫を潰す。やりづらい相手だとそう再認識した。

イザベラが当たり前のように心を見通すのは彼女が自分の母親だからなのかもしれないと嫌な繋がりを見出だしていた。血は誤魔化せないと。

 

「貴女の目的は分かりません。ですが、貴女は我々の行動を煽り、抑制し思うように誘導をしていることは理解できます。ですがその目的のために我々に貴女の目的の情報を知らせる必要がある。違いますか?そうならさっさと説明をしなさい。」

 

「…分かりました。ですが目的も動機も教えるわけには行きませんが多少の手の内を晒して上げましょう。そうですね、まずは…あなた方銀河が私の目的を絶対に阻止しなくてはならない理由、などは如何ですか?」

 

「…それは興味深いですね。」

 

イザベラが食いついたように眉をピクリ、と動かした。

 

「私が面会を希望しているバルトシーク教授は今現在貴女方が拘束をしています。まぁその事はどうでも良いのです。貴女方が隠したがっているのは教授ではなく彼が作り出した純星煌式武装…偶然の産物で産み出した強力で自我を持ち…《星脈世代》すらを操るほどの能力を持つ《ヴァルダ=ヴォロス》の存在こそ、闇に葬らねばならない。違いますか?」

 

「……なぜ其れを?」

 

表情に動揺は浮かんでいない、がそのイザベラの声が震えているのをクローディアは見逃さなかった。

 

「《翡翠の黄昏》は《ヴァルダ=ヴォロス》の能力で《星脈世代》優生思想を植え付け引き起こされた事件…其れは銀河にとって””外部へ漏らしたくない”事実であり致命傷になりかねないものです。当然ですね?銀河の傘下である星導館の関係者が作り出した純星煌式武装…未だにその所在を掴むことが出来ず人間を洗脳すれば思想犯テロリストを量産できる…世界中で起きている事件がその《ヴァルダ=ヴォロス》によって引き起こされたものだと結びつけられているのかもしれないのですから。こんな美味しいネタを他の統合企業財体が見逃すわけがありません。」

 

「………」

 

イザベラは黙ったままだがクローディアは説明を続ける。

 

「理由はそれまでにして。お母様が何故?とお聞きした理由をお答えしましょう。それはお母様貴女が教えてくださったからですよ?」

 

「…私が?」

 

イザベラが目を開く。

その見たこともない表情に不必要な愉悦心が浮かび上がり口角が上がりそうになったが圧し殺す。今は笑うときではないとそう自分に言い聞かせた。

 

「正確に言えば…貴女が私に与えてくれた【純星煌式武装(この子)】のお陰、です。」

 

そう言ってクローディアは《パン=ドラ》を掲げる。

 

「……!いや、そんな…まさか…!」

 

それだけでイザベラは察してくれたらしい。流石だ。

《パン=ドラ》はその代償として使用者の夢の中で己のあらゆる死の可能性を体験させる。

目覚めればその記憶は泡沫の夢のようにぼんやりと”断片的”に覚えているだけである…。

 

が、それは裏を返せば”確定している”過去の情報と結びつけて逆算することは可能なのだ。

 

「…なるほど」

 

イザベラは深く息を吐いてソファーから立ち上がる。

 

「分かりました。貴女はどうやら我々が想像していたよりもずっと危険な存在のようです。」

 

イザベラは「我が娘ならが恐ろしいですね」と他人事のように思っていた。

 

「ふふっ、ようやくお気づきですか?」

 

立ち上がったイザベラとクローディアの視線がぶつかり合い目に見えない火花を散らす。

そしてお互いが視線を同じタイミングで逸らした。

 

「銀河が私にとって望ましい結論を提示してくださることを期待していますよ」

 

扉へ手を掛けるイザベラのそう声を掛けると振り返らずに応えた。

 

「そうならば私は貴女達が明日にでも敗退してくれることを願いましょう」

 

パタリ、と寮の扉が閉まる。

一人佇むクローディアはしゃがみこみ沸き上がる哄笑と身体の震えを押さえ込む。

 

「ふっ、ふふふ…っ!そうはいきませんお母様…ようやく…ようやく長年の願いが実を結びそうなのです…ここで躓くわけには行かないのですよ」

 

震える身体を抱いてクローディアは呟く。

漸く、漸く自分の願いが叶う所まで来ているのだと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。