俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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追憶/前夜

クローディアは物心ついた時から漠然ではあるが両親と同じ道を歩むものだと思っていた。

実際にクローディアは神童と呼ばれるだけの才能を持っていたし高い知能と身体能力…幼いながらに人の感情の機微を感じとることが出来る優れた少女であった。

 

両親も属している欧州系統合企業財体の一部に根強く残る家格主義からみても十分すぎる逸材であり将来的にもクローディアは統合企業財体の一員となって世界を動かす一握りの人間になる”筈”だった。

 

【星脈世代】でなければ、という言葉がつくが。

その事を知ったところで彼女は絶望はしたりしなかったし実の両親も彼女に対して落胆することもなく普通の子供だっただろう。

 

だが。

同年代の少女と比べると何かを強く望むこともひたすらに求めることもない。

渇望や情熱から遠くにはなれた場所に一人ポツンと佇む。

自らが優れていることも知っているので他人を羨むことも絶望することもない。

クローディア・エンフィールドという少女だった。

 

幼少時西欧諸国にて。

《星武祭》の下位カテゴリーに属する武闘大会は数多く存在するが西欧諸国にて開かれる《輪武会》と呼ばれる其れは参加資格が十三歳以下の子供に限られて安全面の配慮も上記で挙げた大会とは比べ物にならない。プロテクターの装着、威力を最低限に落とした煌式武装、星辰力を媒介とした能力の全面的な禁止…と様々な規制が施された子供版《星武祭》といえば良いだろう。

防御面に力を入れているのは”品定めの段階で彼・彼女達が傷物になってしまわぬように”という配慮が施されたアスタリスクの各学園が新たな才能を見出だすための”選別会”ということに他ならない。

 

(……見世物小屋に出荷されるにしても其れなりの質が求められると言うのですか世知辛いものです。)

 

自らもその立場に立つというのにまるで他人事のように思っているクローディア。

彼女にとってはどれも等しく”無意味”なものだと感じていた。

 

そんな最中その《輪武会》の決勝にて同じ金髪をした少女九歳の少女と手にした剣をぶつけ合う。

軽くあしらわれていると感じた少女は手にした細剣型の煌式武装を振るうがクローディアは両手に持った小剣型の煌式武装で華麗に捌いていく。

対戦相手の少女が持つ細剣の一撃がクローディアのプロテクターへ迫り避けられないその一撃を見舞い「勝った…」と笑みを浮かべるがクローディアは其れをみて状態を大きくそらし回避した。

 

あからさまに驚愕、といった表情を浮かべる対戦相手の隙を突いて足、胴、胸、腕を攻撃すると決着が突いたのか試合終了のブザーが鳴り響きクローディアは柔和な笑みを浮かべ剣を納めた。

 

「最後のは本気で危なかったですよ。惜しかったですね」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ…!」

 

その言葉に少女が悔しそうに顔を真っ赤にして悔し涙を堪えている。

この少女とは以前の大会からの”顔馴染み”であった。

打てば響く彼女の性格をクローディアは非常に好ましいとさえ思っていた。

言葉を交わし彼女の顔には歪ではあるが笑みが浮かび気位の高さと屈辱に耐えようとする強い意思。そしてクローディアに対する羨望と嫉妬、という複雑な感情が滲み出ておりその根底には称賛が感じられた。

 

クローディアはこの少女のことが嫌いではなかった。むしろ気に入っている、と言っても良いだろう。

少女に「あなたもアスタリスクに進むのでしょう?そこで決着をつけましょう!」といわれた時に良い淀む答えしか返すことが出来なかった。

 

何故なら未来に対してクローディア自身はっきりとした目標を持っていないからだ。

未来へ背伸びして覆しようのない現実へ挑むという少女らしからぬ愚かしい無垢な夢を欠片も持ち合わせていない。

今目の前で会話している少女が自分がアスタリスクに進むということを信じている。

そうなるかもしれないし、そうならないかもしれない。そのどちらでも彼女の心は揺り動かすことは出来ないのだから。

 

◆ ◆ ◆

 

チームルサールカとの試合を勝利にて幕引きしたその日の夕方。

星導館学園の女子寮と男子寮に程近い雑木林にて男女の逢い引きを目撃していた人物が一人いた。

 

「おやおや、沙々宮嬢も随分と乙女だねぇ」

 

木陰のその上。その場面を盗み見ていた夜吹英士郎は肩をすくませて頬を緩ませた。

無論距離は離れており声は聞こえておらず英士郎の声も二人には聞こえていないのは唇を読んだからだ。

 

「しっかしこれまた面白いことになったんじゃねーの?天霧のやろうはポカンとした表情をしやがって…」

 

視線を綾斗へ向けると告白の衝撃から抜けきれていないようで呆然としている。

そう綾斗は紗夜からの告白を受けていたのだ。

 

「はぁ…其れにしても沙々宮のやつも返事はいつでも良いから…って悠長なことしてる場合じゃねーだろっああもう焦らしやがって」

 

英士郎はなっとらん!と言わんばかりに手をこまねく。

其れはともかくとして今注目チームの要である天霧綾斗の女性関係が大きくざわついたというのは大きなスキャンダルだった。

 

とは言え。

 

「新聞部とかに持っていけばネタとしても面白いだろうが部長はこの手の記事はあんまり好きじゃねーだろうしなぁ…其れに一応会長、副会長にお伺い立てしないとだしなぁ…まぁ大将なら『好きにしろよ…』って言ってきそうだが」

 

そういって英士郎はポケットに手を突っ込んで端末を手に取ろうとしたその時だった。

 

「……やれやれ。遠見の術を出歯亀に使いよるか。少しは成長しておるとは思ったが変わっておらぬのう。”影四郎”」

 

唐突に背後からしわがれた低い声が響く。

 

「…っ!!」

 

咄嗟に身を翻し短剣型の煌式武装を取りだし構える英士郎だったがその周囲を音もなく複数人の”影”が周囲を取り囲んだ。

黒づくめの人物達は性別も年齢も分からない状態になっており不気味…ではあるが先ほどのしわがれた老人の声は嫌というほどに覚えがあるものだった。

 

「…これはこれは親父殿。まさかここにお出でになるとは思わず。お元気そうでなによりです。」

 

英士郎は自分の額に汗が流れているのを感じとる。皮肉を浮かべ近くの木ノ上へ視線を向ける。

自らを取り囲む黒装束の人物達と同じような服装をしてはいるものの頭部が露出しており中肉中背、壮年も老年に差し掛かろうとしている見た目でシワが刻まれた皮膚に髪や眉は既に真っ白に染まっている。

 

「…ふん、心にもない世辞を抜かすでないわ」

 

その老人は吐き捨てるように告げた。

老人…夜吹英士郎の実父である夜吹撫塵斎が呆れ顔であり木上で胡座を掻いてわざとらしい溜め息を吐いた。

 

「聞いておるぞ。相も変わらずフラフラとしておるようじゃな。」

 

「はて…?なんのことやら?」

 

惚けたような返答をする英士郎であったがその手に持つ短剣を構えたままで周囲の警戒を怠ることはしなかった。

 

「惚けるでないわ。影星に身を置きながら仕事を選び、あまつされ他の組織と関係を持ち繋がっておるそうではないか。」

 

「いやいや。其れは言いがかりってなもんです親父殿。そりゃまぁ色々と付き合っちゃいますが其れもこれも皆仕事のため。この世界幾らでも顔が効くに越したことはないでしょう?」

 

「仕事を語るか青二才め。全く情けないわい…我らは決して二君に仕えずにやってきたからこそ血を繋いできたというのに。」

 

(…其れが嫌だから里を出たんだっつーの…!)

 

見下ろす実父を見上げながらにへらと媚びへつらいを見せる英士郎だったが何故今自分の目の前に”一族”が姿を表したのかを聞いておく必要があった。

 

「其れで?わざわざ出来損ないの息子の顔を身に遙々星導館に親父殿が出向いたわけではないでしょう?…”親父殿がわざわざ出向くほどの任務”ですか?」

 

周囲に意識を凝らすと十名ほどが今取り囲んでいるのが分かりここからの脱出は難しい。”一族”の中でも指折りの実力者『甲影』の精鋭だ。

そう問いかけると撫塵斎は撫で付けた眉を少し挙げる。

 

「其れを今からお伺いするところよ。一度我が一族は仕事を請け負えば私情を挟まん。こうして仕事にはいる前にお主の面を拝みに来た、というわけよ。」

 

「なるほどなるほど…つまりは本格的に星導館の生徒会長の始末を本腰を入れてきたということですか?」

 

「さて、まだ依頼内容を聞いたわけではないからのう。」

 

嘘だ。このタイミングで裏家業を担当する一族を動かすとは”そういう意味”に他ならない。

 

「ーただ、仮にそうだったとして、だ。」

 

次の瞬間に撫塵斎の瞳に剣呑な光が宿り悪寒がする程の殺気が広がり本能的に英士郎はその放たれる殺気の刃で心臓を貫かれるイメージをして本能的にその場を離れるが『甲影』の一団が取り押さえようとしてくる。

取り押さえようとする数名を英士郎は体術で払い除けるが地面へ押さえ込まれてしまう。

息子の咄嗟の反応に先ほどまでの殺気が嘘のように霧散した。顎を撫で付けながら称賛する。

 

「ほう、今ので三名を打ち倒したか。体術は昔より磨きが掛かっていると見える。」

 

すると押さえ込んでいた甲影の面々は立ち上がり何事もなかったかのように離れた。

手段を選ばない一族であれば今の動きで殺されていた、そう判断できるほどには英士郎は自分の”一族”に嫌悪感を示していた。

 

「よいか愚息よ。お前が星導館学園の小娘を気に入っておるのは知っておる。が、余計な真似をするでないぞ?これは父親からの”忠告”よ。」

 

「そりゃどうも…」

 

力づくで押さえつけられ身動きが取れない状態で顔だけを木の上に向け睨み付ける。

 

(ご丁寧なことに人避けの結界…こりゃ水入りも期待できない、か…)

 

英士郎は諦め体の力を抜く。これ以上は無駄な抵抗にしかならないと判断したのだ。

 

「わしもこれでもお主の才能をそれなりに買っておる。其れをこんなつまらぬ問答で失うにはちと惜しい。分かってくれるかのう?」

 

「其れなり、ね…」

 

顔を見上げると撫塵斎の瞳に光が宿る。英士郎はその光景をみて溜め息を吐いた。

 

「確かに俺は会長を気に入っていますがね…その程度で自分の命を失うのは惜しいですよ」

 

「良い心掛けだ」

 

その瞬間に自分を押さえつけていた力がふっと消えた。

英士郎が地面から立ち上がり服に付いた誇りを払い除けるとそこには既に甲影や撫塵斎の姿はなく林のなかには英士郎ただ一人だ。

 

「…ちっ」

 

苛立ちを隠すこと無く舌打ちをする。

暫くして英士郎は端末を取り出す。

 

「…とは言え義理くらいは通させてもらうぜ親父殿。」

 

そう呟き端末に登録されている蜂也の番号へ指を伸ばす。

 

「…確かにあんた達は優秀かもしれないが大将はさらに”厄介”だぜ?親父殿。」

 

目を細め蜂也へ通話を開始するのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「何とか勝つには勝ったがもっとスマートな戦いかたで良かったかもしれんな…」

 

同日、試合終了後に綺凛ちゃんの治療を終えて二人で食事を取った後一人部屋である寮の自室にてシャワーを浴びて一息吐いてワークステーションに《壊劫の魔剣》と《フェンリル》をセットしメンテナンスを行っていた。

 

デスクトップを開いて魔法のチェック、ならびに《壊劫の魔剣》の清掃を行っていると声が響く。

 

(全く…あの場面は我を使用して一騎当千する場面であろう)

 

「チーム戦だっつったろ!一人でスタンドプレーしたら点数下げられるってきいてなかったのかオメー…」

 

俺は呆れながら《グラム》の声に反応しながら束部分をクロスで拭いていた。

が、《グラム》の言うことも尤もではある。

 

「…正直チーム戦って余り俺の性格に合わないんだよな」

 

(確かに主は単騎で集団戦…どちらかと言えば【鳳凰星武祭】、【王竜星武祭】…それと)

 

次に《グラム》が放った単語は聞き馴染みの無い大会名だった。

 

(【蝕月祭(エクリプス)】だな。)

 

「なんじゃそりゃ…聞いたことの無い大会名だな…」

 

(其れもそうだろう。”公にされていない大会”なのだからな。)

 

「非公式、ってことか?」

 

その言葉に引っ掛かり問いかけると《グラム》は説明してた。

 

(【蝕月祭】は何処かの場所…ここアスタリスクで行われていた非合法の武闘大会だ。非合法・ルール無用の武闘大会で、バラストエリアの(水中)で行われる。ギブアップは不可能で、試合の決着はどちらかが意識を失うか、もしくは命を失うかによって決まる。正に命を掛けた殺し合いだ。)

 

「…大昔に剣闘士って言う職業があったぐらいだから不思議じゃないな。通常の星武祭では得られない…スリルを求める金持ちが。金儲けするために、って感じだな。」

 

(が、其れは捜査を担当した星猟警備隊によって潰された。主も知っているだろうが星猟警備隊隊長であるヘルガ・リンドヴァルによってな。)

 

「あの人相当強いんだろうな…俺でも勝てるかどうか。」

 

(良い勝負をするであろう…周囲の被害は甚大だろうがな。)

 

人を戦略兵器かなにかと勘違いしている《グラム》の柄を殴り付けると「ぐおっ!?」と反応していた。

その会話で気になることが一点。

 

「つかなんてお前其れ知ってるんだ?お前あの装備局に封印処理されていた筈だろ?」

 

(ああ。その事か。其れについては同じく担い手が久しく存在していなかった《黒炉の魔剣》より聞いた。先の担い手の事は知っているな?)

 

「ああ。天霧の姉だとかいう話だったが…まさか」

 

(主の想像通りだ。天霧殿の姉上…天霧遥は【蝕月祭】に参加していた。その際にそこで戦い破れた、という話をな)

 

「どうして天霧の姉がそんな戦いに参加してたんだ?」

 

(其れは分からぬ。【黒炉の魔剣《セレスタ》】もそこまで詳しくは語らなかったからな。)

 

これ以上追求したところで今ある以上の情報は聞くことは出来なさそうだ。…まぁ知識として覚えておく程度にしておくか…そういえば天霧って姉を探してるって話だけどこれって重要なのでは?

 

(一応天霧に伝えておくか…少々酷かもしれんがな)

 

そう思い立ち端末に登録してある天霧の番号に掛けようとしたその矢先に別の番号から連絡が来た。

 

(…誰だ?)

 

その宛先は【夜吹英士郎】の名が示されていた。俺は通話ボタンを押して受け答えをする。

 

「俺だ。」

 

「よぉ大将。今時間大丈夫か?」

 

普段と変わらない軽薄そうな声色であったが一部、変わっている変化が見られた。

 

「ああ。大丈夫だ。なにか情報でも仕入れたか?」

 

「ああ。そのまさかさ。さっき学園の男女寮の間の林で天霧と沙々宮が告白してる場面を見ちまいましてね?」

 

「あの天霧がか…まぁ幼馴染みとは聞いていたがそこまでの関係…こりゃリースフェルトとトライアングラーになっちまいかねないな…」

 

君は誰とキスする?になっちまうかカナシミノーされてしまう可能性がある…どっちを選ぶのかでルート分岐しそうだが…

 

「一応ネタにして新聞部になげちまおうかなって思ってるんですけど…良いですかね?」

 

「止めはしないが…さすがに獅鷲星武祭が終わってからにしろ。チーム戦なのにギスギスするのは正直勘弁してほしい。」

 

「ははは、大将。そこまで俺もバカじゃないっスよ。まぁお墨付きを貰ったってことで…」

 

「好きにしろよ…」

 

人の恋愛事情の何が面白いのか全くもって理解できない…あーあれか『他人の不幸は蜜の味』って奴と同じなのかもしれんなにそれ美味しいの?って感じだが。

 

「それと大将もうひとつ。”明日は雨が降るかもしれないから”要注意だ。明日は休みだろ?出掛けるなら”傘を持って”いけよ?」

 

「ッ……そうか。気を付けるよ。」

 

「んじゃな大将。次の試合も頑張ってくれよ?」

 

そういって通話を切る。

俺は夜吹との会話であることを伝えるときにとある決め事をしていたのだ。

 

『明日は雨が来るかもしれないから』は六花に侵入者、つまりはクローディアを狙う刺客が現れたこと。

『傘をもって歩け』は今すぐ迎え、という意味の隠語だ。

 

俺は制服に着替え直し調整し終わった装備類をホルダーやホルスターに突っ込み部屋を出た。

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