俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
正午前の星導館学園のチーム・エンフィールドが使用…というかほぼ専用ルームと化しているトレーニング室で衝撃のあまり目を見開くユリスと綺凛を前にして紗夜は平然と頷いて見せていた。
目を見開いて驚いているのは紗夜が綾斗に想いを告げた、とのことだった。
「つ、つまりは紗夜…お前は綾斗に想いを告げた、ということか…?」
「だからそうだと言っている。」
「う、うむそうだったか…そうだったな…」
既にこのやり取りを三度目にしてユリスは自覚したと同時にえもいわれぬ焦燥感に胸を支配されていた。
紗夜に訪ねたいことは無数にあったのだが考えが纏まらない状態でありなにしろ”告白”である。
その事に対して思考が袋小路に入り込みネズミのように頭の中をぐるぐると回転し続けていたのだがもうひとりのチームメンバーの一人が切り出した。
「そ、それで天霧先輩のお返事は…?」
先ほどまで石像のように固まっていた綺凛だったが此処でハッと我に返り少し恥ずかしそうに、興味深そうに問い掛けた。
(そうだ!ナイスだぞ綺凛!)
まさしく聞きたかったことをと問いただしてくれた綺凛に感謝と共に我に返ったユリスだったがその目はグルグルで足元がおぼついていないのは端から見ても重症だろう。
「返事は未だ聞いていない」
「え?」
「返事はいつでも良い、とそう伝えた。あくまで私が想いを伝えたかった。それだけ。」
「そ、そうか…」
その言葉にユリスはホッと胸を撫で下ろすがその途端に霧消に自分に対して苛立ちが沸き上がる。
(な、なぜ私が綾斗のことで一喜一憂しなくてはならんのだ……わ、私と学園祭を回ったというのに他の女の…ましてや紗夜にこ、告白を受けるなどと……と思ったが別段告白を”承諾した”というわけではないのだが…ううむ…!)
ある意味でそれが嫉妬ということに気がついていないユリスを見て綺凛は苦笑いを浮かべ紗夜は少しどや顔をしているのは面白い。
またしても思考の袋小路に迷い混もうとしていた頃から自分で復帰し咳払いを掛けた。
「んんッ!…い、いやまぁそれは個人の…個人的な事情があるからどうしようもないのだが今は獅鷲星武祭の最中にどうしてそんな真似を?下手を打てばチーム内のトラブルに発展する可能性もある。…いや、告白をするな、と言っているわけではないのであしからず、だが」
「うん、それについてはごめんなさい」
意外なことに紗夜は素直に頭を下げて謝罪をする。
「今回綾斗に告白したのは私の勝手だから。それについては謝る。でもー」
紗夜はユリスの目を真っ直ぐ見て答えた。
「こう言ってはなんだけど…試合になれば皆この程度のことで連携が崩れるとは思えないし緩くない。故に大丈夫だと判断した。」
実際にその通りだと二人は思った。
本気の試合となれば目先の問題に目が眩んでいる余裕はなく集中できると確信がある。
ユリスはともかくとしてクローディアも綾斗には叶えなければならない”夢”があるのだから。
「ただ…」
「「ただ?」」
紗夜の声にユリスと綺凛の声が綺麗にハモった。
「エンフィールドと綺凛は心配。」
「ど、どうして私とクローディアさんが?」
真面目な顔で大真面目に発言した。
「蜂也を慕う生徒は多い。だから二人はうかうかしているとシルヴィアやオーフェリアに持っていかれる。頑張れ」
「そ、そんな、別に、わ、わたしは…」
綺凛は座ったままその場をピョンと飛びはね顔を真っ赤にしてアワアワしている様子が見られバレバレだった。
「ん。無理しなくて良い綺凛は蜂也がが好きなのが端から見ていてもバレバレだから」
「身も蓋もない…それならクローディアはどうなる?」
「はぅ…っ!」
「あれは猫被っているけど妹ポジで兄の初めてを奪おうとする悪女であり初な生娘だ。」
「ひ、酷い言われようだな…」
「違う。初めてあった時、直ぐわかった。エンフィールドは蜂也に本気で惚れている。それこそ自分の全てを捧げても良い、と思えるくらいに副会長にぞっこんだ。」
「…それは何かの確固たる理由があってか?」
「勘、というかあれほどベタベタにくっついて好き好き言っているのを見たら誰でもそう思う。だから綺凛頑張れ」
「うう…」
完全に怯えモードに入ってしまった綺凛を見て少しかわいそうになってしまった綺凛を宥めていると綾斗が入室した。
「ごめん時間ギリギリになっちゃったかな…?」
「いや、大丈夫。慌てなくとも全員揃っていない。はい、タオル。」
汗を滲ませていたその姿に紗夜がタオルを渡すと気まずそうにしている光景を見てユリスに緊張が走る。
タオルを受け渡す紗夜の距離が近づいていることに。
そこからユリスと紗夜の問答があったがやはり空気を変えたのは綾斗であった。
「ところで…まだ揃ってないってことだけど…時間だよね?」
綾斗は端末を取りだし時間を確認しながらトレーニングルームを見渡す。
今日は明日のチーム・黄龍への作戦会議を行う予定だった。
「そうなのですがクローディアさんとお義兄さんがまだ…」
「蜂也はまだしもクローディアが遅刻とは珍しいな。」
綺凛の言葉にユリスが頷いた。
ユリスの記憶のなかではクローディアが約束ごとや待ち合わせで遅刻をしたことなど無かった筈だ。
「っと、噂をすればなんとやらだ…っと?……うん?」
ユリスは自分の携帯端末を開いて眉をひそめたのは画面には登録されていない番号であった。
怪訝に思いつつも空間ウィンドウを開くと画面は暗転したままであり音声のみでの通信だ。
『………ッ!あ、ああ!ようやく繋がりましたわ!』
ノイズの酷い音声が飛び込み聞き取りづらいがそれでも聞いたことのある声にユリスは反応した。
「この声…レティシアか?」
知らない仲ではない、だがお互いに友人というには他人過ぎた。
『そうですわ。ですがあまり時間がないため単刀直入に申し上げます。そちらにクローディアはいらして?』
「なんだ藪から棒に…残念だがあいつままだこちらに姿を見せていない」
『ああ…ッ!何てこと…!』
悲痛に満ちた声が空間ウィンドウから聞こえてくる。
「一体どうしたというのだ?用事があるのならば直接クローディアに掛ければ良いだろうに」
『それが出来ないから貴女に連絡していますの!とにかく、今は彼女を探しだして身の安全を確保してくださいまし!』
「安全だと…!?待て。一体どう言うことだ!お前は何を言っている!?」
レティシアから伝わる緊迫感からそれがただ事ではないことを感じとり横でその話を聞いていた綾斗達も無言のまま真剣な眼差しに変わる。
『至聖公会議の対策で用意したこの回線でももって数十秒…手短に用件を話しますわ。”銀河”が動き出しました。』
「「「ッ!?」」」
その言葉に全員が理解した。
「わかった。どういう事情かはわからないが礼をいう。」
『それともう一つ。名護蜂也はその場にいますか?』
「此処にはいない。」
『わかりました。…であれば伝言をお願いしたします。』
「わかった。」
『はい、それはーーーー。』
◆ ◆ ◆
《王竜星武祭》を観戦してから暫くして。
「クローディア。貴女にプレゼントです。」
そう言って差し出したアタッシュケースをクローディアは珍しさからじっと見つめていた。
生まれてからというもの母親からプレゼントというものを貰ったことがなかったからだ。
クローディアは望むものを買い与えられていたし子供ながらに無尽蔵の資金を与えられてたが、それとも違うのは正真正銘”母親からの贈り物”ということだった。
「プレゼント?一体どういう風の吹き回しですか?」
クローディアは自分でも棘のある聞き方だと苦笑しながら母親へ問い掛けるとイザベラは優しく答えた。
「どうもこうもありませんよ。もうすぐ貴女の誕生日でしょう?」
「それはそうですが…」
「まぁとりあえずご覧なさい。」
イザベラは困惑するクローディアを尻目に目の前に鍵のついたアタッシュケースを置き鍵を解除した。
「これは…!?」
開かれたアタッシュケースの中に納められていた”それ”を見て驚愕の表情を浮かべ息を呑んだ。」
「ええ。『パン=ドラ』です。」
「……ッ!」
双生の胎児のように眠る二体一対の純星煌式武装がそこには納められておりこの間【王竜星武祭】の試合会場で見た時と同じような身体を突き抜ける衝動を感じ取った。
立ち上がり後ろへ後ずさるように『パン=ドラ』から距離を取るクローディアをみてイザベラは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「あらあら、どうしましたクローディア?」
「…いえ。」
「『王竜星武祭』の時と同じような感覚を覚えましたか?それは重畳。貴女はその『パン=ドラ』に選ばれた、と言うことに他ならないのですから。」
イザベラはさも嬉しいことだ、と言わんばかりに両手を広げて見せたのを見たクローディアは短くため息を吐いた。
「ですが、良く純星煌式武装を持ち出せたものですね。いくらお母様が銀河の幹部と言えど六花から持ち出すのにはかなり無理があるのでは?」
「ふふっ、私を誰だと思っているのですクローディア。私にかかれば簡単なことです。」
「………。」
「まぁ少し事情があるのですがね。…先の【王竜星武祭】の件で危うく封印指定されるところを私が貰い受けたのです。向こうももう少し情報収集を行いたいということで向こうからしてみれば大歓迎、ということです。」
「そんな危険なものをいただけるとは娘冥利につきますね。」
冷ややかな笑みと皮肉を返すとイザベラはどこ吹く風といった感じだ。
「無論、貴女が要らないといえばそれまでですから無理に受けとる必要はありませんしそこで終わりです。ただ、純星煌式武装”から”選ばれるということ事態が稀でありますし能力だけをみれば『パン=ドラ』は非常に強力な武器です。いずれアスタリスクへ向かう貴女の力になってくれると思いますよ?」
「………。」
クローディアはイザベラの思惑がわからなかった。
イザベラが適合者の出ていない『パン=ドラ』の情報収集をするために自分を利用し星導館学園での利益に繋がることだがたかだがその運用データが自身が所属する銀河の利益に大きく直接繋がるか?と問われれば正直微妙なところがある。
では言葉通りに”プレゼント”なのか、言葉通りに受けとるのは正直難しいだろう。
だが、イザベラの言う通り『パン=ドラ』は強力な能力を持つ純星煌式武装である今後の将来に迷っているクローディアには良い指針となる可能性があった。
だが『パン=ドラ』が危険なものであることには変わりないものであるし贈り物というには物騒で不適切な品物であることは分かりきっていた。
イザベラが娘の才能を見込んで大丈夫と判断したのかもしれない。その評価を受ける程度にはクローディアは実績を残していたし周知もされていた。
(恐らくお母様は…その両方でしょうね)
そう考えて結論付けた。全ては自分自身のために私を利用しているのだ、と。
「わかりました。ありがたくお借りいたします。」
打算、陰謀それらが全て重なっていたとしてもクローディア自体は母イザベラから素直に”贈り物”をされたと言うことが嬉しかったのだ。
……しかし、それが《パン=ドラ》を受け取ってしまったこの選択がクローディアの運命を大きく変えることになる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!」
翌朝、日も登りきらぬ頃に屋敷にクローディアの絶叫が木霊する。
使用人達は何事かとクローディアの寝室へ大急ぎで向かうとそこには指が白くなるまでシーツを強く握りしめ目を見開いたまま横たわり荒く息を吐く姿が見つかった。
既に夢に見た内容は泡沫の夢のように朧気で正確な内容は覚えていないが《パン=ドラ》が見せた持ち主に代償を要求する”死の体験”という耐えがたい苦痛と圧倒的な恐怖は幼いながらに既に達観していた精神を悉く破壊するには差程の時間は必要なかったようで高すぎる自意識を叩きのめすのは十分だった。
「おや…やはり貴女には厳しかったようですね?」
何時の間にか部屋に訪れていたイザベラがベッドの側に立ちこちらを残念そうに見下ろしている。
「はぁ…はぁ…ッ!!」
その姿を視界に捉えながら荒く呼吸する息を整える。
「さて…クローディア。《パン=ドラ》を手放しますか?」
その問いかけは娘を思っての心配か、それとも十全に扱うことが出来ないことへの落胆の色を滲ませた失望の声か。
クローディアはその後者で聞こえたため弱々しく、ではあるが首を横に振る。
「ほう?」
娘が見せた反応に意外に思ったのかイザベラの眉が動く。
「……折角のお母様が下さったプレゼントです。もう少し堪能させて貰いますよ」
手放さないことへの否定。それは母親へ対する”反抗心”の現れであった。
自分の心にそんな子供らしい心が残っていたことに驚きつつもベッドから力を振り絞って身体を起こして母親を睨み付けた。
これは意趣返しだ。母親に対する反抗期の心がクローディアの中に芽生えていた。
それからというものクローディアは《パン=ドラ》の見せる”死の体験”を1ヶ月堪え忍び意思を保っていた。
今までの使用者が三日と持たなかったそれを耐えきったクローディアの精神力は強靭なものである、と証明されたが夜毎に繰り返される死の恐怖と痛みの悪夢は確実にクローディアの精神と身体を蝕んでいき、確実に衰弱死させようとしていた。
ベッドの上でやつれていき次第に夢と現実の境界が曖昧になり限界を感じていたその晩の事……。
『ーーーーーーッ!!』
黒い影がクローディアに襲いかかる。
しかし、突如として現れたもう一つの影が割って入り逆袈裟で切り裂いた。
「あ、貴方は…誰ですか…?」
『…名護蜂也。』
《パン=ドラ》が見せる”死の体験”の悪夢の中で襲いかかる刺客を黄金色に輝く大剣で切り裂き弱々しくなった幼いクローディアは肩を抱かれ黄金色の瞳を持つ”名護蜂也”を知った。
一目惚れだった。とクローディアは後に語るだろう。
彼と出逢い恋することがクローディアが初めて持った”夢”だった。
それからというもの彼を探すために六花に向かい星導館学園へ入学し中等部の生徒会長へ就き中学三年生のあの夜は特別だっただろう。
少女はその日”運命”に出逢ったのだから。
◆ ◆ ◆
「クローディアッ!!」
時間は少し遡り夜吹からの情報を得た俺は【次元解放】の能力を使い直ぐ様クローディアの部屋に転移した俺は到着したその部屋の惨状に思わず舌打ちをかました。
「遅かったかッ……!」
部屋を見渡すと強盗が押し入ったのかという程荒らされていた。
ベッドはひっくり返り敷物はズタズタに引き裂かれ壁には亀裂が入っており明らかに”襲撃”を受けた、ということは誰でも分かることだった。
「クソッ…!!迂闊だった……!」
床をみると土足で侵入、それも複数名が押し入り武器での戦闘を行ったのか床には真新しい血痕の後と血溜まりが出来ているのを見てしゃがみこみ近づき《瞳》で観察する。
大きな血の溜まりはクローディアではないが点々と続いている血痕はクローディアのものであることを理解すると再び大きな舌打ちをする。
「襲撃犯に襲われて負傷した、か…傷は深そうじゃないが…急がねぇと…ッ!?」
点々と続く血痕を追い続けるとテラスへ出る道へ続いているのに気がついて後を追うとテラスの手摺で止まっていることに気がついてクローディアは此処から逃げおうせたと考えるのが妥当だ。
一先ず負傷したクローディアの救出を最優先にしてその場から離れようとしたが次の瞬間に室内に爆音と爆風が広がった。
破壊されたドアの方向から土煙が上がり姿が見えないが人影が四名あることに気がついた。
「…お前らどうして?」
思わずホルダーから《壊劫の魔剣》を手早く抜いて起動させそちらのほうに切っ先を向けると聞き馴染みのある声が聞こえた。
「なんだこれは…!?って蜂也?」
「これは…やはりレティシアさんの言う通り……って副会長?」
「お義兄さん!?」
「ん、どうして蜂也が此処に…?」
星導館のいつものメンバーがクローディアの女子寮の部屋のドアをぶち破って入ってきたのを確認し《壊劫の魔剣》を解除し仕舞い後ろへ振り返るとリースフェルトが捲し立てる。
「どうして、はこっちの台詞だ!レティシアから”クローディアの命が危ない”と聞いてやってきたらこの惨状…どう言うことなんだ!?」
正直説明するのも面倒くさいが…。
「…クローディアが”銀河”の刺客に襲撃された。それを聞き付けて俺も此処に来たんだが…遅かったようだ。」
「やはりレティシアさんの言うことは正しかった、ということですね…。」
綺凛は室内に入り切りつけられた壁や床を確認している。
が、今その事を説明しているほどの時間に余裕はなかった蜂也は踵を返してバルコニーから飛び立とうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください副会長!」
「時間がない。このままだとクローディアは銀河に始末される。」
「え…?」
蜂也の言葉に綾斗が戸惑うが二の句を告げずにバルコニーの手摺へ足を掛けようとするがユリスから引き留められる。
「待て!名護。お前の言う通り時間が惜しい…レティシアからの伝言でお前に会いたい、とのことだ。」
「…なんだと?」
「…これが彼女の連絡先だ。渡したいものがあると、クローディアの件に関しての話だそうだ。」
「分かった。わざわざすまん。」
「すまんと思うなら携帯の電源を入れておけ…」
そう言われ端末を開くとリースフェルトからの着信が数十件来ており思わず苦笑いするしかない。
手摺から足をどけてつかつかとユリスへ近づく蜂也の威圧感は通常とは比べ物になら無いほどに重くひりつくものだった。誰から見ても蜂也は今余裕がない、ということが示されているが誰もそれを指摘できるものはいなかった。
差し出された用紙を受けとり一瞥して踵を返し告げた。
「…お前達は星導館で待っていろ。俺はクローディアを助けにいってくる。」
「だが相手は…」
「分かってる。だからこそ明日は星露の愛弟子が率いるチーム・黄龍との戦いだ。下手に負傷者を出すわけにはいかない俺一人の方が動きやすい。」
「ッ…足手まといと言うことか?」
「お義兄さん…」
ユリスは明らかな怒りを滲ませて綺凛は不安そうに見ていたがそれは蜂也の怒気を前にして掻き消されていた。
一瞬だけ元の蜂也に戻る。
「違う。相手は銀河の暗部だ。目立たないように情報収集と聞き込み、クローディアの奴がどこにか隠れているのか探ってほしいんだ。動くのがバレれば失格も裏で手を回しかねないからな。動くのは俺だけで目立たないだろう?それに、全員で迎えに行ったらビックリするだろアイツ…だからこそお前らは待っててくれ。副会長命令だ。それに…まぁいいか」
「…分かった」
「分かりましたお義兄さん」
「うん」
「分かりました副会長」
「……頼むな。こっちも分かったら連絡する。」
一人で動くには限界がある。癪ではあるが力を借りる他無いだろう。
踵を返しバルコニーへ向かう。
続く言葉は小さく呟く。
「さて………誰の知り合いに手を出したのか思い知らせてやるよ…”銀河”さんよ」
薄い笑みはスッと感情を殺した能面に覆われた表情のまま手摺を乗り越え飛び立ち蜂也は都市部へと飛行魔法で空を駆けるのだった。
◆ ◆ ◆
レヴォルフ黒学院の生徒会長室。
「夜吹の一族が動いているだと?」
『とうとう銀河も堪忍袋の緒が切れたというところかな?』
「ふん、知ったことかよ。」
何時ものように不機嫌そうに眉間に皺を寄せて吐き捨てる。
空間ウィンドウに映されたマディウス・メサがディルクの様子を見てわざとらしく肩を竦めた。
『おやおや…』
「むしろあの女が消えてくれれば星導館学園が与し易くなって助かるってものだがアイツ以上の逸材がいるとも考えられない…ちっ、あの男も消えてくれれば良いんだが」
『成る程。君は彼女の能力を高く買っているようだね。』
「そんな下らねぇ話をするために掛けてきたんなら切るぞ。俺は忙しいんだ。」
からかうような響きを見せたマディアスにじろり、と睨みを利かせるディルクはよりその不機嫌さが一層強くなったがそれを気にせずに話を続ける。
『まぁまぁ落ち着きたまえよディルク。君は本当に短気だね。』
マディアスは宥めるように言って本題に入る。
『実は小耳の挟んだ程度の情報なのだがあのエンフィールドのお嬢さんは、ヴァルダの事をご存じだったようだ』
「なんだと…!?」
これにはさすがのディルクも顔色が変わった。
マディアスが名付けた《金枝編同盟》の一員である純星煌式武装でありその存在を知っているのは同盟の一員達と銀河の最高幹部の一握りしかいない。
それを知るものは闇に葬られたかもしくはヴァルダの自身の能力で記憶を消されたかだ。
『彼女が銀河から追われているのはそれを使って交渉したか…或いは脅迫のどちらかだと思うけどけどね』
「やっぱり正気じゃねえな。」
『うん、そこだよ問題は。君が認めるほどの実力を持った人間がこんな馬鹿げた行動を起こすのかということさ。』
「…どう言うことだ?」
『つまりは彼女の筋書き通りだったのかもしれない、という意味さ。』
マディアスは一拍置いて続けた。
『考えても見ればたかだが一学園の生徒会長を処理するために夜吹の一族を使って処理しようというのはあまりにもリスクが高すぎる。それこそ適当な罪をでっち上げて表舞台から引きずり下ろして内々に処理をしてしまえばすむ話だろう?』
「だからこそ連中は下手に動けない。《星武祭》の最中に自分の運営している学園の生徒会長をを殺す、なんてリスクとリターンが釣り合わない。あの記者会見で暴露し他五つの統合企業財体が牽制し会うようにした…」
『そうなれば銀河にとっては彼女を最善手で消すには”暗殺”しか方法がない…』
「だがそれこそ分からねぇ。なぜあの女が”そんなことをするのか”ということだ」
『さぁてね…案外お嬢さんも我々と同じ人間で望みを叶えるために手段を選ばない、そう思ったからこそ今回の強行手段に手を伸ばした…周りが犠牲になっても構わない、と思えるほどにそれに固執している…いやはや我々と同じ穴の狢、というわけだね。』
「…ふん、死んでしまえば意味ねぇだろうが。」
『ははは…それもそうだ。人間生きてこそ自分の望みを叶えられるというものだからね。…いや存外どうにかなるかもしれないよ?』
マディアスは胡散臭い笑みを浮かべ通信のディスプレイを落とし部屋には難しい顔を浮かべるディルクだけが残っていた。