俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。   作:萩月輝夜

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疾風刃雷(銀髪小動物系美少女)

「咲き誇れ!《九輪の舞焔花(プリムローズ)》!!」

 

エリスが発言すると前方に火炎球が九つ生み出されランダムに蜂也に射出された。

 

「ふっ!!」

 

踏み込むと同時に襲いかかる火球を切り裂き接近する。

距離にして50m、蜂也ならば一瞬で詰め寄れる言わばユリスにとっての最終ラインだ。

 

「これならば…!咲き誇れ《鋭槍の白炎花(ロンギフローリム)》!!」

 

炎の槍がミサイルのように突貫する。

蜂也が火球に隙をとられている間に《鋭槍の白炎花(ロンギフローリム)》を純星煌式武装で切り裂くと炎が飛び散る。

 

(先日よりも威力が大きい…特訓の効果が出てるみたいだな。)

 

しかし先日に使用していたものよりも威力があり蜂也が一歩下がった瞬間にユリスが設置していた技が煙に覆われている蜂也に炸裂する。

 

「これでっ!!」

 

地面から炎の爪が五爪飛び出し防御に回っていた蜂也が飲み込まれる。

しかし。

追撃を仕掛けようとするがそこで止まってしまったのが間違いだった。

 

「なっ…!?」

 

煙と爆炎のなかから無造作に一閃すると自然体で衣服には煤ひとつもついていない蜂也が姿を現した。

 

「いくぞ。」

 

純星煌式武装を持っていない方の片腕を掲げるとエリスの体に負荷が掛かった。

まさに立ってはいられない程の重力で片手を着いてしまう。

 

「くうっ…どうして蜂也がこの能力を……!!」

 

「無駄口を叩く暇があるなら打開策を見つけろ。さもなくば……」

 

突きつける《壊劫の魔剣》の切っ先がバチり、と紫電を放つ。

 

「ふん!しかし、お前いつもと口癖が違わないかっ…?どこか戦士然としていて…」

 

そういって自らの星辰力を過剰活性させて重力による移動低下を軽減し《アスペラ・スピーナ》を構えて此方に向けて来る。

 

「それだけ軽口が叩けるなら大丈夫だな。いくぞ。」

 

踏み込むとエリスの目の前に《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》を突きつけてくる蜂也の姿があり応戦する

が純然なパワーでは押されてしまっていた。

 

必死に接近戦をしながら防御と速度を星辰力を同時に振り分けながら抵抗するが…

 

「そこだな。」

 

「なっ!」

 

エリスは持っていた筈のレイピアが衝撃によって弾き飛ばされるのに意識が割かれているといつのまにか接近されていた蜂也の《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》の切っ先が喉元に突きつけられていた。

 

「くっ…」

 

「目が良すぎるのも考えものだなリースフェルト。」

 

この練習試合を見ていたクローディアが合図を出した。

 

「勝負ありですわね。蜂也の勝ちです。」

 

◆ ◆ ◆

 

「咄嗟の事に弱すぎだろリースフェルトよ。」

 

「ぐぬぬ…。」

 

「まぁ、設置型の戦法は悪くなかったがな。」

 

実際にリースフェルトの《栄裂の炎爪華(グロリオーサ)》という技はタイミングとしては悪くなかった。

俺も危うく丸焦げになりそうだったがそこは経験の差と言うことで一つ。

 

リースフェルトは不満げにしていた。

 

「それより私に接近戦を教えてくれるんじゃなかったのか?」

 

「俺が教えられるのは星辰力を防御や接近戦に同時に振り分けながら戦わせる方法だけだ。俺は剣術なんて素人だしレイピアの使い方なんて知らねぇよ。(愛梨だったら教えられたかもな…。)ほら、正座して…ってお前正座苦手だったな。そこの座席に座って手に煌式武装もって星辰力を出し入れしろ。三十分一定の間隔を空けながらな。」

 

「うぐっ…またその訓練か。」

 

「強くなりたいんだろ?やりたくねぇなら無理強いはしないが…。」

 

そう、これはおれがリースフェルト用に作成した特訓メニューの『応集方』だ。

意識と無意識の境界を訓練によって探すことで魔女としての星辰力を持つリースフェルトの攻撃と防御を分配率を変更させる訓練だ。

さっきはリースフェルトが俺との特訓で敗北こそはしたがしっかりと効果が現れていた。

刺すつもりで《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》を突き立てたのだが星辰力による障壁が張られていたので突き通すことが出来なかったのだ。

まぁ、まだまだ小さいものなのでもう少し力をいれれば突き破って切っ先が突き立てられていたことには違いないが。

 

それと質量差がある《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》と《アスペラ・スピーナ》を完全ではなかったが受け流して対応できていたのは星辰力を防御に回せていた証拠だ。

 

効果はある。

しかし、この訓練三十分やるだけでも非常に疲れるのだ。

もう汗びっしょりになる程の疲労感を覚えるドSメニューだ。

まぁ、年頃の女の子、と言うかお姫様にやらせるメニューではないと思うが強くなるためには致し方ない犠牲ということで。

 

「誰が投げ出すものか。ふーっ…。」

 

そういってリースフェルトは学園指定のトレーニングウェアを着用したまま瞑想に入った。

 

頑張る姿をみて俺とクローディアは顔を見合わせて苦笑していた。

 

◆ ◆ ◆

 

「つーか訓練してて思ったんだがいるか?リースフェルトは十分強いだろ。」

 

素朴な疑問を口にするとクローディアが苦笑していた。

 

「蜂也が当校の生徒を評価していただけるのは嬉しいのですが…それは間違いです。」

 

「どういうことよ?」

 

「正直に申しますとユリスよりも強い生徒はたくさん…というわけでは有りませんが一定の人数はいるんですよ?それこそ両方の指では数えきれないほどには。」

 

「そうなのか…」

 

俺からしてみれば此処の住人、というよりもユリスは普通に《向こうの世界(魔法科がある世界)》でも十分に通用できる魔法師…A~Bライセンス魔法師としてもやっていけそうなのだが。

まぁ、俺たちの世界は魔法が戦力として認知されているので近接も出来なければ厳しいところが有るが敵を殲滅するだけなら随一だろう。

 

「有名なところを挙げるとすれば聖ガラードワースの生徒会長や界龍の生徒会長、それにクインヴェールの生徒会長、それにレヴォルフの《孤毒の魔女(エレシュキーガル)》オーフェリア・ランドルーフェン。」

 

「『魔女』ねぇ…。他校ばっかだがウチにはいないのか?最終兵器が。」

 

魔女と聞いて俺はどこぞの《触れてはならない者達(アンタッチャブル)》を思い出し少し面倒くさくなった。

まぁ出会うことがないだろうと思うが。

話を聞いていたが他校の生徒ばかりだったので気になって聞いてみると自信満々に答えてくれた。

 

「ええ、当校にも強者は多いですよ?ユリスをはじめとして…序列一位 《疾風刃雷(しっぷうじんらい)》刀藤綺凛、彼女は最年少の序列一位ですよ。」

 

「すごいな。」

 

顔を見たことがないのでゴリマッチョな男を想像したが女の子らしい。

てか、そんな肩書き肩が疲れてしまいそうなものだが…。

 

「そして『戦士王』私の蜂也ですよ。」

 

「だからお前のじゃないんだわ…てか俺は含めなくても良いだろ…まだ公式戦にも出てないのに。お前はどうなんだよ。え?《千見の盟主(パルカ・モルタ)》さんよ。」

 

「私の事は良いんですよ?蜂也。いずれは《鳳凰星武祭(フェニクス)》で蜂也の実力がお披露目されますし。」

 

大会に出ると言うことは見世物にされるということだ。

その事を考えると非常に憂鬱になった。

 

「そもそも蜂也は《鳳凰星武祭(フェニクス)》のエントリーはどうするんです?あの大会はタッグマッチでの参加になるんですがお相手はいないのですか?」

 

「クローディア?お前俺に喧嘩売ってるの?売ってんだな?そうなんだな?てか、お前は出ないの?」

 

そうクローディアに言うと苦笑していた。

 

「私の《純星煌式武装(パン=ドラ)》の弱点は分かっているでしょう?まぁ、蜂也が《パン=ドラ(この子)》を矯正してくれたお陰で悪夢を見なくても良くなりましたけど…」

 

「能力を使うもう一つの代償を失くせなかったのは…すまんかった。」

 

「ううん。謝らないでください蜂也。私が悪夢を見なくなれたのも、私の『望み』に近づけたのも貴方のお陰なんですから。」

 

「…そうかよ。」

 

クローディアの本心からの笑顔を向けられて俺は少し恥ずかしくなった。

 

「お前達…私がいることを忘れていないか…?」

 

その様子をいつの間にか修練を終わらせていたリースフェルトにジト目で見られていたのに気がついていなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

リースフェルトとの修練を終えてマンションへの帰路へ着いているときに独り言を呟いた。

 

「《鳳凰星武祭(フェニクス)》か…タッグで出ろ、とか人見知りには辛すぎるな。」

 

どのくらい辛いと言うと、体育の授業で先生から「ペア組め」と言われるくらい辛い。

そんなハードルが高いことをさせないでもらっても良いですかね?と言いたくなったがクローディアに『私以外と組んで優勝してくださいね?』と釘を刺されてしまった。

じゃあ無視すれば良いじゃん、と思うが何故かクローディアのお願いは無下にはしたくないのだ。何故かだが。

学園を最短で抜けるには学園の中庭を抜けた方が良いので進む。

アスタリスクは、というよりも星導館は中等部、高等部、大学部の三つが分かれており廊下の結び目を横切ろうとしたときに目の前に少女が現れた。

 

「…っ!?」

 

少女も一拍遅れて気がついたようでどうやっても今からでは正面衝突は避けられない状態になってしまっており俺のとる行動は一つしかなかった。

 

魔法を使い体を地面に平行になるように固定し無理くり進路変更をして関節から嫌な音が聞こえた。

妹の小町に言われたことが脳内で再生される。

 

『いい?お兄ちゃん。女の子とぶつかりそうになったら自分が怪我をしても衝突は回避しなきゃダメだよ?』

 

軋む関節音と激痛が俺の表情を苦悶のものにしたが女の子との衝突は回避された、かに思えたが。

何故か、少女が目の前にいたのだった。

 

「は?」

 

何故でしょうか小町ちゃん。お兄ちゃんは正しく実践した筈なのですがぶつかりそうです。てかぶつかる。

 

「きゃっ!?」

 

結果としてラブコメよろしく女の子とぶつかってしまった。

俺が動かずにいたお陰で衝撃は軽微だろうが相手は女の子だ。しかも結構小柄な女の子だったので俺は慌てて衝撃で尻餅を突いてしまった被害者に駆け寄り声を掛ける。

不審者扱いされてブザーを鳴らされないか心配だがそれどころではない。

 

「怪我はないか?す、すまん、少し考え事をしていたもんでな。」

 

「あ、はい大丈夫、です。」

 

「本当にごめんな…。」

 

片ひざを突いて少女と同じ目線になって謝罪すると同時に怪我がないか《瞳》を通して観察する。

 

怪我は外傷、及び内傷も無いようでほっと胸を撫で下ろした。

怪我があった場合は問答無用で《物質構成》を使うつもりだったが…。

 

しかし、それと同時に少女の格好が大変なことになっているのに気がついて思わず顔を反らしてしまった。

少女が立ち上がろうと片足を立てているのだが、思いきりスカートが捲れ上がってしまっていた。

可愛らしいデザインの下着がストッキング越しに目に焼き付き思わず凝視してしまう。

 

「はぅ…!」

 

俺の視線に気がついてしまったのか女の子はわたわたと焦った様子でスカートを押さえ膝を地面に着けて所謂女の子座りになって縮こまるように体を抱いてプルプルと震えていた。

涙目になって震えている姿は小動物を想起させて、今度は豊かな果実がより強調されてしまっていることに女の子は気がついていなかった。

 

目を離すべきなのだが…目を離せなかった。

ふと、気がつくが件の女の子は小等部の制服を着用しており、俺よりは年下なのだろうくりくりとした大きな瞳と、ツンとした鼻が可愛らしい。いかにもひ弱そうな雰囲気を全身から醸し出しているがかなりの、というかめちゃくちゃ美少女だ。

銀色の髪を二つで結び背中に流している。

この世界の住人は《星脈世代》の影響もあるのだろうがラノベのような不思議な髪色が多い。

服の上からでもしっかりと分かるくらいにはスタイルが良く所謂『トランジスタグラマー』といわれるやつなのだろうか?

腰には恐らく武器である鞘が差されていた。

 

…こうしてみると中条先輩とほのかの要素をいいどこ取り掛け合わせた女の子だと思ってしまった。

 

って俺はいつまでこの子を凝視しているのだと、気がつきハッとなった。

 

少女の瞳を見つめながら手を差し伸べ弁明をする。

 

「考え事をしていたとはいえ不注意だったよ。ごめんな。立てるか?」

 

女の子は最初は戸惑っていたが頬を朱くして差し伸べた俺の手を取って立ち上がった。

腕だけで立ち上がれるのはこの女の子の体幹が良く鍛えられているのだろう証拠だ。

 

立ち上がった女の子はスカートの埃をはらうと、礼儀正しくペコリとお辞儀をしていた。

 

「こ、此方の方こそごめんなさいです。音を立てずに歩く癖が抜けなくて、いつも伯父様に注意されるんですけど…。」

 

音を立てず、という発言に確かにとは思った。

いくら俺が考え事をしていたとしても曲がりなりにも拳法を嗜んでいる俺が他人の気配に気がつかなかったのは婆ちゃんと小町ぐらいのものなのだったのが目の前にいる少女がはじめてだった。

避けた筈の衝撃をあのタイミングでかち合うことになったということはこの目の前の女の子はかなりの実力者なのだろう。

 

「あのぉ…な、なにか…///」

 

彼女を金色の《瞳》でメガネ越しから注意深く射貫く…もとい目を見て観察してしまっていたので色白の頬が朱く染まってしまっていた。

突然黙って此方を目を見て来る自分よりも年上の少年から見られたら恥ずかしいだろうと後悔した。

 

「あ、ああ。ごめんな…ん、すまん、ちょーっと動かないでくれ。髪になにかついてるな。」

 

「ふぇっ?ど、どこですか?」

 

俺が指摘すると少女の綺麗な銀髪にぶつかったときに小指ほどの大きさの小枝が引っ付いていた。

慌てた様子で自分の髪に手を伸ばすが届かない場所に有るので見当違い、反対側を触ったりしておろおろしている。

 

先程の実力を見せないようにしているのがこの気弱さを敢えて出しているのだろうかと思ったがそんなことはなかった。どうやら素らしい。

 

目の前にいる女の子に対して無性に頭を撫でたくなる妹力が発揮しており思わず手を伸ばし掛けるが通報されるので流石に自重した。

しかし腕を伸ばしてしまっているので小枝を取ってやることにした。

 

「動かないでくれ。」

 

「え…」

 

思わず頭を撫でようと伸ばしていた右手は少女の銀髪を傷つけないように小枝を取り除く為に使われた。

 

「あ…ありがとうです。」

 

女の子は此方を見て瞬間顔を真っ赤にして今にも湯気が出そうなぐらいの勢いだったがお礼を言ってくれた。

いやこっちが俺を言わせて欲しいくらいだ。

何が、とは言わないけれど。

 

女の子はもじもじ、と俯いたままそれっきり黙ってしまう。

俺と視線が合うとバッとすぐに目を伏せてしまう。

 

彼女も目的があって移動していた筈なので此方に留まるのは良くないだろう。

適当に言葉を掛けてこの場から立ち去ろうとした瞬間。

 

「綺凛、そんなところで何をやっている!」

 

中等部渡り廊下から男性のやたらといい声が聞こえた。どなり声に近いが。

 

「…は、はいっ!御免なさいです!伯父様!今すぐに参ります!」

 

名前を呼ばれビクッとした少女、綺凛という名前だったのだろう慌てた様子で俺に一礼し声を掛けてきた男性の方向へ小走りに向かっていった。

 

俺はその怒鳴った様子を見て嘗ての妹が虐待を受けていた比企谷の家での出来事を思い出し思わず表情が歪みそうになった。

女の子が立ち去った後、なんともいえない気持ちになるがふと思い出した。

 

「俺、名前言ってない…まぁ会うこともないだろうし、いいか。」

 

もう出会うことがないだろうと思ったがそれは間違いだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「…ってぶつかっちまって名前を聞きそびれたんだよなぁ…俺も名前を言ってなかったけど。誰だったんだろう。」

 

「…その娘が当校の序列一位刀藤綺凛(疾風刃雷)ですよ。お会いしてどんな印象を受けました?」

 

「そうだな…印象…。」

 

そう言われると気弱で可愛らしい小動物の印象が強い。ただ一言で言うのならば…。

 

「『妹』だな。」

 

「『妹』ですか?」

 

「ああ。」

 

「蜂也ってシスコンと呼ばれる方です?」

 

です?って…あの子の口癖みたいに言うのなクローディアよ。

 

「否定はしないな。まぁ、向こうの世界で妹が三人いたし。あとはまぁ…」

 

昔の虐待されてた妹を見ているようで辛かった、といいかけたがそんなことをクローディアに言っても空気が悪くなるだけだからな。

 

「?どうしました。」

 

途中で言葉が止まったので不審に思ったクローディアが此方を見てくるが薄く笑って誤魔化した。

 

「…いや、何でもない。飯に行くか。」

 

「そうですか?では行きましょう。時間は有限です。」

 

なんてことは無い会話をしつつ、クローディアと一緒に食堂…というよりたまにはそとで取ろうと考えていたのだがまたしても先日衝突してしまった少女を見かけた。

最悪の状況でだが。

 

パァン、という乾いた音が響き渡る。

 

「…あ?」

 

男が、その少女の頬を平手で叩いていたのだ。

 

「…それはお前が考えることではないといった筈だぞ。綺凛。」

 

「で、ですが伯父様、わたしは…。」

 

「口答えを許した覚えもないぞ!」

 

再び男の腕が振り下ろされ、女の子はビクリ、と反応する。

その反応が俺の忌々しい記憶を呼び覚ます。

元肉親の過剰なまでの妹への教育。出来るまで殴り続け血が出て泣いてもやめない、例えテストで基準の合格ラインを達成したとしても『満点でなければならぬ』と躾をしていた行動と重なった。

 

「…。」

 

「蜂也。行ってください。」

 

「クローディア?」

 

立ち止まり俺の表情を見てなにかを察したのか俺に「止めに行ってください」と促してきた。

今はそれがありがたかった。

 

「当校の生徒があのような目に合うのは生徒会長として見過ごせませんから。会長命令です、副会長。」

 

「了解…!」

 

大義名分を得た俺は駆け出した。

 

 

再び乾いた音が響く、かと思われたが。

 

「そこまでにしておけよ、おっさん。」

 

それが振り下ろされる寸前に俺は『縮地』を用いて二人の間に割って入る。

威圧感を少女に暴力を振るおうとした男性のぶつける腕を握る。

 

「え…?」

 

綺凛が驚いたように目を見開く。

 

「…なんだ貴様は。」

 

一方の男は目の前に現れた俺に対し不快感を露にしていた。

身長は俺の方がでかいので男を見下ろす形になるのだがその目には侮蔑と若干の動揺が現れていた。

さらに追い討ちを掛ける。

 

「どんな理由か知らないが大の大人が年端も行かない少女に手を挙げるのはどうかと思うが?」

 

俺の言葉に嘲笑を浮かべていた。

 

「くくっ、笑わせるな。自らの欲のために争い合っている貴様らが、どの口で綺麗事をほざく?」

 

「大人が子供を道具として扱うのも同じ穴の狢だと思うがな?おっさん。統合企業財体の人間だろ?」

 

殴られるのを阻止したときに握った拳からは星辰力を感じられず、先程の会話と襟首につけているバッチで予想していた回答だったがどうやら的を射ていた言葉だったらしく激しく反論してきた。

 

「身内の躾に部外者が、小僧ごときが分かった口をほざくな!」

 

今度は俺が握った腕を振り払い俺を殴り付けてくる。

しかし普通の人間ならば今ごろ顔面に一発貰っていただろうがそうは行かなかった。

その拳は当たらず空振りに終わったことで男は此方を睨み付けてくる。

 

後ろで綺麗が俺を殴られそうなのを見てハッとなり、声を掛けようとしていたがグッと飲み込んだ。

 

俺は無意識に能力が発動している金色の《瞳》が目の前の男をメガネ越しに射貫く。

そこには《嘲笑》と《蔑み》しかない。

 

「満足かおっさん?」

 

そう俺が告げると明らかに不機嫌そうに訂正してきた。

 

「私はおっさんではない…私は刀藤鋼一郎、綺凛の伯父だ。」

 

「なるほどな…。」

 

言われてみれば確かに、とは思ったがが血縁関係が有るとは。

 

「たかだが学生風情が一端の口を聞くものだ…小僧、名前は?」

 

「名護蜂也だ。」

 

鋼一郎は胸元から端末を取りだし、手慣れた手付きで操作して空間ウィンドウを展開させた。

 

「名護蜂也…ほう、《在名祭祀書(ネームド・カルツ)》入りしているようだな…。《冒頭の十二人(ページ・ワン)》で《蛇輪王(クエレベレ)》を倒して序列三位…。」

 

初めは侮るような表情を浮かべていたが現在の序列を確認すると真面目な顔になりその後のファイルを見て表情は驚愕していた。

 

「貴様があの《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》所有者で完全適合者だと…!?」

 

『あの』って言われてもな…特段《壊劫の魔剣(こいつ)》がすごいとは思えない…。

てかこいつの利点って何なんだろうな?

 

その事に気がついた鋼一郎は此方に向き直り不敵な笑みを浮かべた。

 

「良いだろう小僧。貴様が私を気に食わぬというのなら、どうして欲しいのか言ってみろ。」

 

「…。」

 

「聞いてやろうと言うのだ。言ってみるがいい。」

 

尊大な態度で腕を組む鋼一郎。

俺は迷うことなく宣言した。

 

「あ?…二度とこの子に暴力を振るわないと誓え。」

 

「ああ構わん。」

 

「その子を戦わせるとか言わないよなおっさん?」

 

鋼一郎は頷こうとして固まった。え、自信満々にしてたのに他人任せかよこのおっさん。

 

「但し、貴様が決闘に勝ったらの話…な、なに?」

 

「まじかよ…ダサすぎる。」

 

「や、やかましいわ!」

 

鋼一郎との会話で察していたがまさは的中だったとは。

こいつは星脈世代ではない。必然的に結果は出ていた。

 

「伯父様!待ってください!」

 

綺凛が声をあげるが男は意も介せず話を続ける。

 

「そうだ、それこそがこの都市のルールだろう?貴様の相手は『これ』だ」

 

決闘のルールが適用されるのは『星脈世代』の学生だけだ。

 

そしてこいつは人間としてクズ野郎なのだと確定した。

子供は自分の所有物だと、道具としか見えてない嘗てのクソ親どもと同じと言うことが分かった。

今すぐにでも《魔法》を叩き込んでやりたかったが法律で非星脈世代を星脈世代が攻撃すれば俺が捕まってしまうからな。

 

「安心しろ。貴様が負けたところで此方から要求するものはない。」

 

「伯父様!わたしは…!」

 

「黙れ、おまえは私の言う通りに動いていればいい。」

 

「で、ですけど!」

 

「綺凛、まさか私に逆らうつもりか?」

 

有無を言わせない威圧感、大人から発せられる低い声は子供の恐怖心を増幅させてしまうものだ。一目見ても綺凛の心と体が萎縮していくのが分かる。

 

「…いいえ、そんなことは…。」

 

「ならばいい。完全適合者…序列は低いが下したとなれば箔が着く。期待しているぞ。」

 

鋼一郎はそれだけいって綺凛から距離をとって後ろで高みの見物を決めた。

 

「…。」

 

「はぁ…。」

 

呆れたと、その言葉しか出てこない。自分は矢面に立たず子供を前線に立たせるとは…

当然、その場に残された綺凛は唇を噛んだまま俯いている。

しかし、意を決したのか俺に宣言する。

 

「名護先輩、ごめんなさいです。わたしは刀藤綺凛は名護先輩に決闘を申し込みます。」

 

綺凛が言葉を紡ぎ宣言した。

その声に答えるように両名の校章が紅く輝く。

 

「…まぁこうなるよな。」

 

綺凛は悲しそうな表情を此方に向けた。

だが俺は聞きたいことがあった。まぁ最終確認のようなものだ。

 

「なぁ、刀藤。どうしてお前は抵抗しないんだ?」

 

「へ?」

 

「あのおっさんの良いなりになってお前…この学校の序列一位なんだろ?願いがあるなら腕っぷしで星武祭を勝ち抜いて自分で勝ち取って行けば良い。」

 

「そ、それは…。」

 

動揺している綺凛を見て疑惑が確信に変わりそうだったがまだ弱い。

何故あの鋼一郎というおっさんの言いなりになっているのかをだ。

考察だけだが星武祭の望みで叶えられないものは無いと聞くが…いや何個か例外があったな。

その事を思い付き綺凛に問いかける。

 

「それとも優勝だけでは成し遂げられない他人の力を借りなければ成し遂げられない事があるとかか?例えば…」

 

綺凛は冷や水を掛けられたような錯覚を覚えた。

 

「『親族の星脈世代が自分を救うために非星脈世代の人間に危害を加えて冤罪によって重罪にされたのを助けたい』とかか?」

 

「!?」

 

分かりやすい反応をしてくれた。どうやらビンゴだったらしい。

確かにこのアスタリスクにおける星武祭の『願い』は何でも叶えてくれる。

しかし例外はあった、というよりも鋼一郎がこう唆したのだろう。

 

『お前が勝ち続ければ犯罪を犯した者への減刑、親族の解放を手伝おう』。

 

これに関しては予想でしかないがほぼ確定だろう。

鋼一郎は親族を助けたい綺凛の心に付け入り自分が得をしようと画策しているのだろうが…

となれば鋼一郎が綺凛を…言い方は悪いが『商品』として見ているのならば綺凛の『無敗』という価値を落としてしまえば計画は破綻するだろう。

 

そうなればやることは一つ、と言いたいところだがあくまでも『二度と暴力を振るわせない』ということが最大条件になるし相手は序列一位の生徒だ。

救うべき女の子を倒して救うというなんとも不本意な話だが仕方がない。

これは俺の精神衛生上を保つべき大切なことなのだから。

 

覚悟を決めて綺凛に目をやると悲しそうな表情を浮かべていた。

その表情は嘗ての幼い小町と重なって見えた。

 

◆ ◆ ◆

 

綺凛は今までに感じたことの無い威圧感を全身で感じ取ってしまった。

先ほどまで優しげな表情を浮かべていた蜂也の表情は良く見えない。

しかし、そこに有るのは「怒り」。

だがそれは綺凛に向けられているのではなく自らに向けているようにも感じられた。

目の前の少女を理不尽から救うために妹と重ねたその少女を傷つけることが蜂也、いや八幡にとって苦痛でしかない。

そのことを感じ取った綺凛。

 

「名護先輩は…お優しいんですね。」

 

「バカなこと言っちゃいかんよ。これは俺のための行動…そう精神衛生上の問題なんでな。」

 

「…仕方がありません。わたしも負けるわけには行かないのです。」

 

綺凛が腰に差している獲物に手を掛けた瞬間その場所は異様な威圧感で支配された。

彼女の持つ獲物は煌式武装ではなく拵こそ近代的な見た目をしているが純然たる日本刀であった。

 

「決闘、受けて立つぜ。刀藤綺凛(疾風刃雷)

 

そういって綺凛は胸の校章に触れて決闘が受諾された。

それと同時にホルダーの発動体を握り《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》を無造作に構える。

いつもより紫電の弾け飛び方が派手な気がした。

 

互いに獲物を準備が終わり戦いの火蓋は綺凛から切って落とされた。

 

「ー参ります。」

 

綺凛が短く呟いた瞬間には白刃が俺の喉元まで迫ってきていた。

 

「っ!」

 

反射的にバックステップを踏んで黄金色の大剣を背面に回す。

すると間髪入れずに攻撃がやってきた。それなりに剣術は研究してきたが依然我流。

目の前の少女は純然たる剣術を習得している少女はまるで斬る瞬間に自己加速術式でも掛けているのかと錯覚する速度であったがまだ目で追える速度だった。

二撃目は俺の大剣を持つ利き手を切り裂こうとしているようだったが俺は少しだけ持っていた大剣を後ろに引くと剣の背に辺りに白刃がガキンッとぶつかり合うような音が聞こえその刃を質量差を使い綺凛の方へ押し込んだ。

 

その行動にビックリしているのか押し出された勢いを使って後方へジャンプした綺凛は距離を取った。

 

綺凛と刀を上段に俺は肩に背負って左手を突き出しながら構えた。

 

「お強いんですね、名護先輩。」

 

純粋に此方を評価してくれる綺凛にはありがたいのだが…。

 

「いやはや…まいったなこれはよ…。」

 

本格的に魔法を使わざる得ないと感じてしまった。

仕切り直し今度は俺から攻める番だ。

 

「行くぞ。」

 

瞬間、綺凛の目の前から蜂也が消えた。

比喩ではなく物理的に。

 

「(消えたっ!?)…っ!」

 

気配を感じ取ろうとした瞬間に殺気を綺凛が感じ取り回避する。

そこには綺凛が先ほどまでいた地面を《壊劫の魔剣(ベルヴェルク=グラム)》で粉々に砕く姿があった。

 

「(あれだけの質量を持つ純星煌式武装を片手で尚且つ棒のように軽々と扱うなんて…)」

 

剣術ではない型の決まっていない斬撃に予測が付かずに逆にやりづらさを感じていたが綺凛は楽しくなっていた。

先輩は剣術を覚えれば強くなると。

 

何十、何百という剣戟の打ち合いにギャラリーも引き込まれていた。

 

美しさで言えば《疾風刃雷》、荒々しさで言えば《戦士王》。

異なる二人の戦いかたはまさしくショーと言えた。

 

しかしそれは終わりを告げる。

 

勝負を決めに行った蜂也の縦一文字を寸での所で回避し背後に回る。

 

「(これでとどめです!!名護先輩!!)…っ!!」

 

がら空きになった背中を切り裂こうと白刃が迫るがそれは蜂也の想定通りであった。

 

「(まぁ、それが狙いなんだが。)」

 

詠唱破棄で発動された魔法が体を覆い白刃をまるで金属を切り付けたかのように弾いてしまった。

その光景に思わず綺凛は間の抜けた声が出た。

 

「えっ…?」

 

体勢が崩され戻るまでに時間がかかることを想定し蜂也は発動体を手放して振り返ると同時に魔法を『二重展開』して発動し左手に光の丸鋸が生成されて左胸に付いた校章目掛け振り抜いた。

 

しかし、日本刀を崩れた体勢から持ち手を変えて蜂也の攻撃を防ぎ逆に蜂也の校章を切り裂こうと攻撃を仕掛けるー

 

決闘決着(エンドオブデュエル)!!勝者(ウィナー) 名護蜂也(なごはちや)!!」

 

パキン、となにかが割れ落下する音が鳴り響くと同時に機械音声が綺凛の表情をキョトンとさせた。

どうやら何が起きたのか理解できていないらしい。

此方を見る綺凛の胸部分を指差してやり目を向けていた。

 

「あ…」

 

そこには真っ二つに割られ片方の校章しか残っていない。

 

「そっか…わたし負けちゃったんですね…。」

 

綺凛からは悔しいという感情は伝わってこなかった。どちらかと言えば解放されたと言った方がいいだろうか。

そんな言葉が合うような気がした。

蜂也は優しい表情で一瞥したあと此方に向かってくる人物から綺凛を守るべく立ちふさがる。

 

やはりというべきか鋼一郎は綺凛に向かって怒鳴り始めた。

 

「綺凛!おまえはなんという愚か者なのだ!序列三位程度の男に遅れを取るとは!よりにもよってあんな無様な負け方をしおって!」

 

「ひうっ!!」

 

そして短い悲鳴をあげて蜂也の背中に隠れる綺凛に対して腕を掴もうと手を伸ばすが立ち塞がった男から払い飛ばされる。

再び殴りかかろうとすると動きが止まった。いや凍りついたというべきか

鋼一郎を蜂也の視線が射貫く。

 

「大の大人がみっともねぇな…自分の企みが潰えたから八つ当たりするとはな…終わりだ。」

 

「な、なんだと…きさ…!!」

 

心臓を鷲掴みにされているような殺気が鋼一郎にのみぶつけられて発した言葉は泡のように砕け散った。

メガネ越しであるのに関わらず黒い瞳が一瞬金色に見えて本能で察したのだろう「綺凛にこれ以上手をあげれば分かっているよな?」と。

鋼一郎は後ずさった。

 

しかしそこでハッとなにかを気がつき視線を背後の綺凛に向ける。

 

「そ、そうだ!いいのか綺凛!おまえの父親の所業を隠蔽してやったのは私なのだぞ!おまえが私の元に戻らぬというのならば全てをぶちまけて台無しにしてやろう!そうなれば刀藤流もお前もどうなるか…!」

 

「ーあら、面白いことをおっしゃるのですね?」

 

鋼一郎の言葉を遮ったのは俺たちの試合を背後からギャラリーと共に見守っていたクローディアだった。

 

「なっ!おまえはエンフィールドの…!」

 

ようやくクローディアの存在に気がついたのか目を見開き驚愕している。

 

「刀藤綺凛さんとあなたとのご関係に口を挟むつもりはありませんが、あなたがお作りになったと思われている『刀藤綺凛というブランド』をあなたお一人で作り上げたものではありませんよ?」

 

クローディアは微笑むような表情を向けてはいるがその瞳は笑ってはいなかった。

 

「そう、この星導館学園の財産であり、引いては統合企業材体の財産です。それを私情で汚そうと言うのなら…私も見逃すわけにはいきませんわ」

 

鋼一郎は黙るしかない。

 

「恐らく私の母も同じ決断をなされると思いますが…どう思われますか?」

 

「そ、それは…」

 

クローディアが実母を引き合いに出すと表情は恐怖に歪んだ。

さらに俺が追撃を掛ける。

 

「元よりあんたのプランは『刀藤綺凛を無敗のまま星武祭を制する』だったはずだ。それが今俺に破れたことでその計画は破綻した。姪に構うより自分の保身を考えた方がいいんじゃないか?鋼一郎さんよ。」

 

蜂也の一言が止めとなったのか顔面は蒼白となりふらふらと力無い足取りで広場から立ち去ろうとした。

その時に蜂也の背後に隠れていた綺凛が前に出てきて虐げられていたとしても持ち前の真摯さを発揮して伯父へと別れを告げる。

『伯父様に感謝しております、今までありがとうございました』とぺこり、と頭を下げる。

 

彼女にとっては実の父親を救うために打算的に使われていたのは薄々気がついていたのだろうがそれでも彼女は伯父を非難することはしなかった。

 

それが彼女の強さなのだろうと蜂也は感じた。

 

鋼一郎はその綺凛の行動に立ち止まりはしたが振り返ること無く力無い足取りで広場を去っていった。

 

「伯父様…。」

 

悲しそうな表情を浮かべ俯く綺凛の頭を蜂也は無意識にそっと手を乗せてしまった。

 

「あ…」

 

その行動に泣き笑いの顔になった綺凛が此方を見上げてきた。

 

「頑張ったな刀藤。」

 

「はい…。」

 

朗らかな雰囲気が蜂也と綺凛の間でながれる。

綺凛の今までことを労っているとクローディアから声を掛けられた。

 

「おめでとうございます蜂也。まさか当校の序列一位に勝利してしまうとは…まぁ当然と言えば当然でしたかね?」

 

「バカ言え。『魔法』を使わなきゃ負けた。剣術じゃ俺はずぶの素人だしな。」

 

その発言を聞いた綺凛は驚いていた。

 

「名護先輩は剣を握ったことはなかったんですか?」

 

「ああ。元々接近戦を好んでやる質じゃなかったんでな。それに俺は『魔法使い』だしな。」

 

「?名護先輩は魔術師(ダンテ)なのですか?」

 

魔術師じゃなくて魔法師、と訂正したかったが意味はないだろうとそのままにしておいた。

 

「まぁ、似たようなもんだ。」

 

魔術師(ダンテ)と純星煌式武装は干渉して相性が悪いと聞いていましたが…先輩は規格外です…。」

 

「ええ。蜂也は色々な意味で規格外ですから。」

 

「…///」

 

綺凛は蜂也を見て頬を紅く染めた。

先日のぶつかり事故から今日まで会話も殆ど無かったはずなのに自分が伯父からの虐待まがいの事を受けていた場面に遭遇し他人である自分を助けてくれた上に自らの『望み』をあの会話から導き出した洞察力。

そして恐らくあの戦い方を見て蜂也はまだ本気を出していない。

全力で挑んだ綺凛はそう思った。

太刀筋は粗削りでおおよそ『剣術』とは言えないが『刀藤流』を習得したらどうなるのか綺凛は気になった。

…それに自分を見る視線が今は捕らわれている父と重なる、までとはいかないがまるで見守られているような錯覚を覚え心が暖かくなった。

頭を撫でられたときもその温もりは久しく感じていなかった他人ではあるが『愛情』を感じとる事ができたのだ。

 

私は先輩と仲良くしたい、なりたい。そう綺凛は思い意を決して声を掛ける決心をした。

 

 

何故クローディアが得意顔なのかが理解できなかったがそれはさておいておくことにして綺凛がもじもじして俺に話しかけてきた。

 

「あ、あの先輩…。」

 

「どうした?」

 

「一つ…い、いや三つほどお願いしたいことがあるのですが…というよりも提案があります…。」

 

耳の先まで紅くなりながら蜂也の耳元まで近づき小声でお願いしてきた。

 

「先輩をお、『お義兄さん』とお呼びしてもいい、ですか?」

 

その瞬間蜂也の中にあるお兄ちゃん力に対して電流が走る。

 

「!?別にいいけど…あ、俺も刀藤を名前で呼んでもいいか?『刀藤』ってカッコいいけど名前の方がほら、可愛いしさ。いいか?」

 

「は、はい…お義兄さん。えへ…。」

 

「よろしくな綺凛ちゃん。」

 

「『綺凛ちゃん』…えへへ。も、もう一つのお願いなんですけど…。」

 

まさか一気に二つのお願いが叶うとは思っておらず驚くが嬉しさが勝り上目使いでもじもじしながら意を決して最後のお願いを伝える。

 

「ん、いってごらん。」

 

優しくそのお願いを聞くのを待ってくれている蜂也に告げた。

 

「お義兄さん…剣術、『刀藤流』の門下生になりませんかっ!」

 

「え?ああ…つまり綺凛ちゃんが俺の先生になってくれて剣術を教えてくれるってこと?」

 

「は、はい!お義兄さんには剣の才で光るものが見えました!それで良ければ私と…一緒の練習相手になってくれると…嬉しい、と…。」

 

次第に尻すぼみになっていく言葉に苦笑した蜂也は再びそっと手を頭に置いて撫で始めた。

 

「綺凛ちゃんみたいな可愛い娘に教えて貰えるなら大歓迎だ。…まぁ俺も戦闘のバリエーション増やしたいと思ってたしな。」

 

「ほ、本当ですか!?か、可愛い…///」

 

喜んだと思ったら顔が真っ赤になった綺凛に不思議がっていたが蜂也は頭を撫でたままこれからの関係が始まった。

 

「ああ、これからよろしくな師匠。」

 

「は、はいよろしくです!お義兄さん!でも『師匠』じゃなくて『綺凛』と呼んでください。」

 

蜂也は微笑を浮かべて頷いた。

 

「わかった。『綺凛ちゃん』。」

 

「えへへ…お義兄さん…。」

 

その光景をみていたクローディアはボソリ、と呟いた。

 

「シスコン…。」

 

その呟きは絶賛相互甘え状態の偽兄妹達には聞こえていなかった。




小町と八幡の家族関係は『俺が七草の養子なのは間違ってる』を(ステマ)

綺凛の校章を割ったのは蜂也(八幡)が詠唱破棄によって二重展開していた手に持った『フラッシュエッジ』を遠隔操作して割っています。

本編主人公を何時出そうか…。
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