俺が《六花》で二つ名で呼ばれるのは間違っている。 作:萩月輝夜
とある都市部にあるこじんまりとした喫茶店にて。
ロマンスグレーが良く似合う長髪を後ろで結びコップを拭いている壮年の店主を背景にレコードから流れる古めかしい名曲がBGMでかかりコーヒーの苦く香ばしい香りがただよっていた。
「用件はなんだ。」
清掃が行き届いた喫茶店には今現在二人の利用客しかいない。
室内奥にある間仕切りで区切られた四人掛けのテーブル2ヵ所には一人ずつ掛けておりそのテーブルにはマスターがいれたコーヒーと紅茶のティーカップが置かれている。
今現在貸し切り状態であり一人の女性が注文した飲み物が優雅にティーカップを持ち口に運んでいた。
「本当に粗暴な殿方ですのね貴方は…」
「お嬢様と話す機会なんて無かったもんでな…」
ボソボソと喋っているのは聖ガラードワース学園の副会長であるレティシア・ブランシャールだ。
優雅に紅茶を呑む姿は優雅だったが今はそれどころではない、と言いたかったが店を貸し切りにしている手前騒ぐことは出来ずに注文したブレンドを呑む。
仄かに味わうことが出来る豆の甘さに舌鼓を打ちつつ呼び出したクローディアの友人の話を聞くことにした。
「それにしても貴方がこのような場所を知っているとは意外でしたわ。密談には最適な場所でマスターは口が固そうですが…淑女がティータイムを楽しむには些か場違いでありますわね。」
レティシアは俺が指定した場所に誉めるような声を乗せつつどこかで責めるような声色も混ざっている。
「クローディアと出掛けたときに偶々見つけた場所だ。雑談や会談するには持ってこいだから結構気に入っているんだが…」
そう、俺がレティシアを呼び出したのは行きつけの喫茶店であり集合場所を指定したのは目の前にいるこの少女なのだが今はその突っ込みをいれている暇は無い。それに今彼女は彼女が所属する学園の情報機関にマークされているのもあり目立つ場所では話すことは出来ないので此処は知る人ぞ知る、という場所だ。
「確かに貴方が此処を指定してくれたお陰でこうやって話すことが出来るので感謝をしていますが…店の雰囲気については追求しません。お紅茶も美味しいですしね」
「そうかよ…」
いちいち癇に触るようなことをいってくる奴だと思っていると未だお小言が続くようだ。
「ですが、あまり如何わしい所へ出入りするのは関心いたしませんわ?聞くところによると歓楽街や再開発エリアへ足を踏み入れているようではないですか。クローディアと懇意になるのでしたらもう少し品性というものを磨いていなだきませんと」
「悪いがそんな品性を磨けるような家庭環境に無かったもんでね…つか今それ関係ある?」
「まぁ!良いですか?エンフィールド家といえば欧州で我がブランシャール家と並ぶ名家。もし貴方が相応しくない振る舞いをなさったのなら、貴方だけでなくクローディアが笑われるのですよ。そんなこと許しませんわ…!」
んな事知るか、と声を大にして言いたかったが義憤に駆られている彼女を見て本当にクローディアの事を案じていっているんだな…と少し微笑ましくなった。
(典型的なお嬢様…それもライバルポジの素直になれないツンデレタイプと来たか…一応俺も日本の名家の養子なんだが…まぁ今は良いか。)
家格を比べるということなら七草も負けていないと思うが此処で出したところで無意味であるので素直に話を聞いているとこちらをチラリ、一瞥し咳払いをした。
「んんっ…良いですか名護蜂也。私は貴方を認めたわけではありませんからね?今回貴方を頼るのはあくまでも仕方の無い緊急事態…その事を肝に銘じて置いてくださいまし」
「はいはい…それで俺に話ってのはなんだ?茶を呑みながらしなきゃならない話か?」
何時まで経っても進まない話に若干、というかかなりの苛立ちを含み催促をするとレティシアは軽く咳払いをして説明をしてくれた。
「…そのクローディアを助けるのに必要になるお話ですわ。」
ほんの少し躊躇うような言葉がレティシアの口から溢れた。
一拍置いて話を続ける。
「予め、言っておきますがこれは誰にも口外しないと言う約束で、クローディア本人から聞いた話です。私は自分自身の矜持に掛けて、その約束を破るつもりはありませんでしたが…この状況では仕方ありません。」
「…?どう言うことだ?」
「貴方。クローディアからこの《獅鷲星武祭》で叶えたい本当の願いをお聞きになりました?」
「…《翡翠の黄昏》に関する重要人物、ラディスラフ・バルトシーク教授と面談しその事を聞き出す、ってことぐらいしか知らないが」
蜂也がこの
「そうですわね。私も彼女が会見でそのようなことを言っていたのを覚えていますわ。…ですがそれは私が嘗てクローディアから聞いた望みとは全く違っていました。」
「は…?」
後ろを振り向かずに蜂也は疑問を口に出す。
その後レティシアはクローディアからその本当の”望み”を聞き出すまでに武闘大会で凌ぎを削ったことを説明したが興味無さそうにそっけない態度をとると少し不満げにしていたが自分が余計なことを言うとしていたのに気がついて本題を切り出す。
「彼女は言ったのです。珍しく浮かれて『私にも漸く叶えたい願いが、望みが生まれた』と。」
「クローディアが浮かれていた…」
今のクローディアと想像つかない…いや、俺と居るときはめちゃくちゃ甘えてくるんだが?と此処で言うと恐らくレティシアから脳天ぶち抜かれそうと思った蜂也は黙った。
「ええ。私は驚いて話を伺おうとしましたが彼女中々話してくれませんでしたわ。だから『この試合に勝ったらその願いを教えてください』と持ちかけました…ですが結果は引き分け。でしたが彼女は『この願いを口外しない変わりに半分教えましょう』と言って私に耳打ちしたのです。」
そこでレティシアは言葉を一旦切って小さく溜め息を吐いて、続けた。
その言葉に蜂也は少ない動揺を感じることになったのだ。
「彼女の…クローディアの望み。それは『運命の相手に、自分の身を捧げる』ということでしたわ」
「………は?運命の相手?その身を捧げる?」
その言葉がクローディアのいつもの発言と結び付かず思わず反復してしまった蜂也は疑問を浮かべる。
「まぁ、そういう反応になるのは分かる気がしますわ。私も最初はからかわれているのだと思っていましたし、聞いても『未だあったことがない』と言う始末でしたから」
「………」
どうして俺なのだ、と問いかけようとしたがレティシアがその理由を答えてくれた。
「ですが、彼女が星導館に入学し、生徒会長になり…その行動を見ていると気がつきましたわ。名護蜂也。貴方がクローディアが言っていた”運命の相手”なのだと」
「はぁ?…一体どうしてそんなことになる。俺はこっちに来てから数年しか経ってない。そもそも俺はアイツの過去すら知らないんだぞ?そもそも俺は…」
蜂也は思った。『果たして俺はクローディアの事をどう思っているのだろうか?』と自問自答する。
が、その短い時間では答えは当然出ることはない。
「正直…貴方を見たときはクローディアを誑かしているのではないのか、と思いましたが貴方にクローディアに進んで関わろうとしていないのとこれまでの行動が貴方が悪人ではない、と言うことを物語っております…少々口惜しいですが!」
「んな理不尽な…」
「ともかく過去の素性も分からない貴方を特待生権限で入学させてあまつさえ副会長権限と《壊劫の魔剣》の使用許可を出したのはなんの実績もない貴方を推挙したのは今まででこれが初めてだと報告で聞いています。…貴方本当に何者なんですの?」
「…普通の一般市民だ。特筆する能力もない、な」
大嘘ではあるがそう答えるとレティシアは不満げな雰囲気を醸し出し未だ暖かい紅茶に手を伸ばし呑む。
「…これはあくまでも推測、私はクローディアが《パン=ドラ》の代償…悪夢を見せるその中に貴方の姿を見たのだと思います。」
「夢の中、ねぇ…」
そう言われ蜂也は思い出した。
数年前に初めて遭遇したときに《パン=ドラ》を修理した際に”異物”が紛れ込んでおりそれを確認するために代償の能力を確認していた。
そしてこうも言っていた筈だ”断片的な記憶は残る”と。
「その見た夢はほとんど記憶から消えてしまう、と言うのを彼女の口から聞いたことがありますが私に告げた『やっと私にも、叶えたい望みと言うものが出来ました』というそれは《パン=ドラ》が見せる悪夢…その中にある強烈なものだったのではないか、そう思います。」
初めて遭遇したときの事を思い出した。
クローディアの武器を砕いたためそれを修復させるために《賢者の瞳》を発動し【物質構成】を行使したときに驚いていた彼女を見ていたその《瞳》を見て何やら驚いた表情を浮かべた後に感極まって涙を流していたの思い出した。
今になって何故あれ程に自分に”分かりやすいまでの好意を抱いていた”のかを彼自身今まで拒絶をしていた。
その《瞳》に映る本人の”本心”を偽ることが出来ないことを知っているというのに。
「つまり彼女は夢の中で貴方に出会い、そして惹かれた…そして貴方に出会い貴方にその身を捧げるためにこのアスタリスクにやって来た。其が彼女がこのアスタリスクで叶えたい夢。正直言って馬鹿馬鹿しくも愚かしい望みだと思います」
「そうだな。たしかに馬鹿馬鹿しい。夢でしかあったことの無い人間に全てを捧げたい、だなんて頭の可笑しい奴の狂言だ。」
「貴方…ッ…………!!?」
レティシアは蜂也の発言にその背後で振り返り憤慨していたが蜂也の表情を見てその怒りは引っ込んでいた。
「………」
蜂也のその表情と《瞳》から伝わる感情を見て黙るしかなかった。
すぐさま背中合わせで話し始める。
「だとしたらだ、俺と会うことが目的なら今回の《獅鷲星武祭》に出場する必要はないだろ。」
「そう、そこなのです。私が聞いた望みというのは半分…ですから残りの半分がこの件に関わっていると考えていますの」
「残りの半分…其がバルトシーク教授と《翡翠の黄昏》に関連するものだと?」
次の質問に思わず蜂也は茶を濁したくなった。
「そこでお聞きしたいのですけど…名護蜂也。貴方その辺りに心当たりはあったりしませんの?」
「(正直去年シルヴィアの助けに割って入ったときにその”張本人”と遭遇してたのと【
「本当に?隠しているわけではなく?」
背合わせに話していたのが幸いした今表情を見られたら見破られていただろうが。
「ああ。」
「…そうですか。仕方がありませんわね。ただ、いずれにせよクローディアにとって貴方は重要な要素の一つであることには違いませんわ。貴方はクローディアを探しだしなんとしてもその願いを諦めさせるように説得してくださいませ。その説得をすることが出来るのは貴方だけですから」
「………」
レティシアに言われたことに即答できなかった蜂也は考えていた。
クローディアが此処までして叶えたい願いを他人の意思が介在して良いのか、蜂也自分自身がそれを妨害するのを躊躇いを覚えていた。
「仮に今回は切り抜けられるとしても、一度動き出した統合企業財体が手を引くことはありませんわ。貴方だってお分かりでしょう?この世界で統合企業財体を相手にして生き長らえることは不可能です。どのような願いでも命あってのものだね…命と引き換えに叶える願いでは無い筈です。」
レティシアの言葉は真っ直ぐで心からクローディアの事を案じているのだと感じ取った。
だからこそ蜂也は決意した。
「分かった。」
蜂也は頷いた。
世の中には命を掛けてでも叶えなければならない願いがあるのは理解している。
だからこそ、そんな人間が簡単に夢を諦められないことを知っているからだ。
命を掛けるほどの願いがあるのならこっちに来て右も左も分からない自分の世話をしてくれた少女への恩返しもある”命を落としそうなら命がけで守ってやれば良い”という結論に到達した。
「ならば…貴方を信じてこれを託します。」
そうってレティシアは背後の席からそっと忍ばれた小袋を受けとり中身を確認するとそこには銀色のお守りが入っていた。
「こいつは?」
「昔、クローディアから誕生日にプレゼントされたお守りです。なんでも”幸運が巡ってくる”のだとか…はぁ、全く最高に嫌みな誕生日プレゼントですわ」
「どう言うことだ?」
「良いんですの。とにかくそれを彼女に返してあげてください。せめてもの意趣返しですわ」
「…分かった。俺はクローディアを探す。見つけたら連絡する。」
「そう…貴方に頼るのは癪に触りますが手段を選んではいられません。頼みますよ名護蜂也」
「ああ。」
そう言って蜂也は立ち上がり喫茶店を出ていった。
一人残されたレティシアは残った紅茶を飲み干して立ち上がるが座席に置いてあった伝票がないことに気がついた。
「あら…マスターこちらのお会計の伝票が…」
「それなら名護の旦那に支払って貰っていますから大丈夫です。お客様。またどうぞ」
いつのまにか自分の分まで支払われていたことに複雑な気持ちを持ったレティシア。
「……こ、こういうときには甲斐性を見せるんですのね」
喫茶店の外へ出ると湿った空気が纏わり付き今にも雨へ変化しそうな天候を見て呟いた。
「クローディア…無事に見つかりませんでしたら本当に…怒りますわよ…」
◆ ◆ ◆
「ああ。レティシアに合流して話を聞いた。そっちは……そうか。お前達の方でも捜索を続けてくれこっちは情報収集とアイツを見つけるために怪しいところを回ってみるつもりだ。」
喫茶店を出ると体に纏わり付く湿った空気に思わず顔をしかめそうになるがそれを無視して星導館の仲間へ連絡をとりレティシアと会ったことを報告しその場から移動する。
怪しいのは再開発か歓楽街の街中だろうか。そんなことを考えていると一通の連絡が入る。
「シルヴィア?」
空間ウィンドウを開くとそこには顔見知りの歌姫の姿映っていた。
「どうしたんだ?」
『蜂くん大変なことに巻き込まれちゃったね』
「ああ…ってなんでその事を知ってやがんだ?昨日の今日の話じゃねーのに…」
『私はこれでも生徒会長だしね。それにクインヴェールには優秀な諜報機関があるからさ』
「………」
なるほど、と思うと同時に面倒だな、というのが第一感想に来る。
つまりはどこの学園もこの情報が既に行き渡っているということに他ならなかったが銀河が情報漏洩を押さえたかったのに押さえきれなかったという構図は中々に痛快なものではある。
「(各学園は恐らく静観を決め込む筈…であるならばクローディアがどこにいるのかを聞き出すのは時間の無駄、って訳だな)一応聞いときたいんだがそっちでクローディアの居場所を知ってるか?」
そう問いかけるとシルヴィアは申し訳なさそうな表情で謝罪した。
『ごめん蜂くん。流石の私もそこまでの情報を掴んでいないよ。それにベトナーシュが掴んでいたとしても私にまで情報が降りてこないし教えて貰えないと思う。』
当然だ。各統合企業財体が静観を決め込んでいるのに統治学園の生徒会長に情報を流すわけがない。
そして蜂也はシルヴィアと懇意にしている仲でありクローディアとの繋がりが深い人物に情報が回ってくる筈がないのだ。
一歩踏み出したその時だった。
『ーーーーーーー。』
「おい、シルヴィア?……ッ!?」
その場から一歩踏み出そうとした途端に周辺の視界が一変していたのに気がついて見渡す。
いつの間にか再開発エリアに訪れていたが先程まで喫茶店の前で”立ち止まって電話に出ていた”筈で今一歩地面を踏みしめただけだった。
「隠遁術…まさか鬼門遁甲…?」
明らかに誰かに攻撃を受けていると感づいた蜂也はその場から移動しようとするが動き出したその瞬間に目の前に黒い霧のようなものが立ち込め人の形を形成しその中から亡霊のように人影が出てくるそれを見て蜂也は視線を鋭くした。
「…こいつは隠遁術の一種でさ。対象の方向を狂わせるんだがこれが中々対処できない術でさ。俺の得意技なんだわ。」
「その声…夜吹か。俺が頼んだ仕事を達してないようだが?」
「そりゃ耳が痛い話だが…なぁ大将。黙って俺に足止めされてくれないか?」
影から出てきたのはフードを目深に被り両手を制服のポケットに突っ込み不敵な笑みを浮かべる英士郎だった。
彼が所属している部署の事を考えれば”敵対することは想定内”であったため蜂也は特に驚きもせずに構えた。
「退け。今そこから退くのなら痛い目に会わずに済む。」
脅しを駆けると英士郎は困ったような表情を浮かべている。
「ははっ…流石に大将には知られてるよなぁ…でもおれも影星の下っぱだけど仕事はしなくちゃならんのよ」
「………」
殺気の籠った冷ややかな眼光を英士郎へ向けると周囲の空気がバチリ、と爆ぜる。
「おいおいおっかねーな大将は」
がしかし、英士郎はそんな空気も気にせずにさらりと受け流す。
「まぁそんな大将をすんなりと通しちまっても良いんだけどよ…」
「……」
「俺にも俺なりの事情があってさ…正直ぶっちゃけると今回の仕事あんまり気が乗らないだわこの仕事さ…」
「だったらお前のところは組織はクローディアの居場所を知ってるってことだな?その居場所をさっさと吐いて通らせてくれないか?そのポケットに忍ばせてる物騒なブツを捨ててな。」
「ありゃ気づかれてたか…つか俺が素直に話すと思うか?」
「そうか……ッ!!」
「ッ!?あっぶねぇ…!」
蜂也は体の星辰力を活性化させて【四獣拳】の型を発動し拳を振り抜いた。
振り抜いた拳は英士郎を捉えることは出来なかったが頬に一筋の赤い雫が走った。
「時間がないと言っているだろう?」
「おいおい穏やかじゃねーッ!?」
殺気を感じ取りその場から飛び退く英士郎は先程まで自分がいた場所を見て愕然とする。
”先程まで立っていた場所が大きな陥没を産み出していた”からだ。
「穏やかじゃないのにさせたのはお前らのせいだ」
軽く振るった拳でこれほどの威力を星辰力込みとは言え異常な光景であり英士郎は自分の頬に冷たい汗が流れていることに気がついた。このままやりあえば蜂也は俺を殺す、そう感じてしまった。一切の躊躇いをせずにだ。
「分かった、分かったよ大将…だがただじゃ教えられない。こっちにも仕事があるそれは分かってくれるよな?」
蜂也は構えを解いて頷いた。
「…ああ。」
「だから大将が俺に勝ったら教える。場所はそうだな…あの廃ビルなんてどうだい?それにあんたは《純星煌式武装》の使用は禁止…素手での勝負をしようぜ?」
「ハンデか…良いぜ。それで負けても言い訳するなよ?」
「言ってくれるじゃねーの…」
苦笑いをする英士郎は指差した廃ビルへ逃げるように霧に紛れて移動したのを確認し溜め息を吐いた。
(普段の俺なら問答無用で殺しにかかって死体からでも意識を読み取って居場所を割り出すんだが…普通に世話になってるしな…それにあの飄々とした感じは”クローディアが未だ連中の毒牙に掛かっていない”ってことの裏返しだ。…仕方がない乗ってやるとするか。)
自分でも甘いな、と思いつつ。
蜂也は飛行魔法で廃ビル内部へ突入した。
◆ ◆ ◆
当然のように廃ビル内部は薄暗く英士郎が発動させたとされる黒い霧が充満しており視界不良が発生していたが発動する《瞳》の能力で”丸見え”になっていた。
(霧の視界不良に咄嗟に飛び出る仕掛けたトラップ…面倒だな。)
メガネ越しに黄金色に輝く《瞳》を通して奥へ迷うこと無く足を踏み入れていき瓦礫が散乱したホールへ階段を使って上がり足を踏み入れた瞬間に棒状の鉄塊…棒手裏剣が飛来しそれをなんなく受け止め地面へ落とすとカランと音を広い空間に広がる。
「おいおい…拳で決めるんじゃなかったのか?」
「もちろんそうだども。だが不思議なことにこの廃ビルどうやらあちこちに罠が仕掛けられてるみたいで何処のどいつの仕業か知らないが大将、気を付けて進んだ方が良いぜ?」
「知ってるよ」
会話を切り奥へと勢いを緩めずに進んでいき飛来する手裏剣に丸太、そして霧で見えなくなっていた地面に突如として現れたトラハサミを回避しながら進みホール中央まで来たところで背後からの殺気を感じ取り裏拳でその攻撃を弾き飛ばすと霧から出てきた英士郎が手刀を此方へ向け切り裂こうとしていた。
「おっと!…流石にやるな大将…伊達に《鳳凰星武祭》優勝者は伊達じゃねーな」
「そりゃこっちの台詞だ。攻撃に移行するまで気がつかなかったが…お前《冒頭の十二人》には入れるぞ?」
「そりゃどうも」
そう言って再び黒い霧の中に紛れ込んでしまうが…
(悪いが俺の《瞳》でどこに居るかは直ぐにわかっちまうんだよな…次で仕留めるか)
霧の中へ《瞳》を向けると同化しているが英士郎の星辰力の流れを完全に隠すことは出来ずに輪郭が写し出され次、どんな場所へ移行し攻撃を仕掛けるのか、そして殺気はないが”敵意”を感じ取ることが出来る蜂也に対して英士郎の特性と得意技は非常に相性が悪いのだ。
「……そこか」
次の瞬間に頭上から上の階上の地面が崩れ大小のコンクリート片が降り注ぐが蜂也は【不落・玄武乃型】を発動し受け止め弾き飛ばしその場から一足で元いたホールへ駆け出すと四方から棒手裏剣が飛来し地面を軽く踏むと突風が吹き荒れ棒手裏剣達はあらぬ方向へ飛来していたがそこで足が止まる。
「ー終わりだぜ、大将」
先程までの軽い感じの声色ではなく明確な殺気が乗ったその声が耳元で響く。
実際に蜂也の実力が足りていなければその通りになっていただろうがそうはならない。
彼が”戦士王【名護蜂也】”で有るが為に。
「お前がな」
「なッ…!?」
次の瞬間には蜂也は攻撃を仕掛ける英士郎より先んじて振り向き拳を向けていることに気が付いて中断しようとしたが既に遅く。
星辰力が込められた猛禽類のような鋭い爪の形をした握り拳がメガネの縁から見える黄金色の《瞳》の残像の軌跡を描きながら弾丸より素早く英士郎の体に無数に叩き込まれる。
ドドドッ、と肉体を穿つ強烈な音が響いた。頭部、心臓、肺、太股と確実に穿つ。
「かはッ…!?」
【四獣拳】の速度重視の拳が一つ、【朱雀乃型・瞬迅】が炸裂しまともに食らった英士郎が仰向けに倒れ込んだ。
◆ ◆ ◆
「起きろ夜吹。さっさとクローディアの居場所を吐け。」
「ぶはっ!?…あだだだ…おいおい大将もっと敗戦の将をいたわってくれよ…」
気絶していた英士郎に何処からか取り出した水入りのバケツをぶっかけて叩き起こす。
先程まで殺気を向けていた英士郎だったがそれは既に霧散しいつものようなあっけらかんとしてスッキリとした笑みを浮かべている。
「なぁ大将聞かせてほしいんだが…どうして俺の攻撃が分かったんだ?」
「…?ああ、お前が攻撃する前に殺気を出したからそれを読み取ってカウンターしただけだ」
そう告げると英士郎はポカンとした表情を浮かべていたがそれを聞いて大笑いする。
「ぷっ…ふははははっ!あー…本当にうちの大将は規格外だぜ…殺気を関知してカウンターを決めるとぁ…参ったねこりゃ」
「…ところで俺が勝ったんだクローディアの居場所教えろ。」
「?そんなこと…ちょちょちょ!?待った待った!!嘘だって!!言うから言うから威圧感を俺に向けるなって!」
「今度ふざけたらその口を二度と開けなくするからな?」
惚けようとする英士郎に殺気を飛ばし【四獣拳】を構えると顔色を変えて大慌てで説明する。
「はぁ…」
「溜め息はこっちの台詞だ阿呆。」
「容赦ねぇな大将は…っと会長の居場所は…学園の湾岸ブロックだ」
「湾岸ブロック…学園外周の倉庫か?」
「会長を襲ってる連中からしてみれば最悪なのは都市部に逃げられることだ。流石に銀河といえども証拠隠滅は難しい、それに他統合企業財体が嗅ぎ回っているし、今は星武祭が開催中で学園内も学園が休みとは言え人の目がつきすぎる。追い立てるには人の出入りが少ない倉庫街が一番都合が良いのさ」
「そうか…ありがとうよ」
「あ、ちょっと待った」
踵を返しその場から立ち去ろうとする蜂也を英士郎が呼び止める。
「気を付けろよ大将…会長を追っている連中は銀河の実働部隊【ナイトエミット】…昔は夜吹の一族と言われていた部隊だ。」
「夜吹…そうかお前の…親族か?」
「ああ。その部隊を率いているのは俺の親父殿だ。」
「…そうか。」
それだけ言って改めて踵を返す。
英士郎が瞬きするとその場から立ち去る砂ぼこりを上げずにその場から消え去った。
息を吐き出し張りつめていた空気が弛緩していくのが分かってその場に仰向けに倒れる。
「気を付けるのは親父殿の方かなぁ…」
英士郎は蜂也が発していた威圧感を見てそんなことを呟いていた。